王国と、破滅の軍勢の戦いが表面化し、進む中。

救世主候補達は王女の呼びかけにより、城へと集まっていた。

「諸君、わざわざ集まってもらってすまないな」

会議室のような所に集まった救世主候補達に、クレアが労いの言葉をかける。

「それでクレア、俺達を集めた理由は?」

椅子に座り、大河がクレアにたずねる。

他の救世主候補達も、用意されていた椅子に座っている。

「うむ。 破滅との戦いもついに表面化し、戦場は更に激化するであろう」

少し前に任務で行った街の惨状を、大河はクレアの言葉で思い出す。

それは他の救世主候補達も同じのようだ。

「そこでだ、少数精鋭をもって……敵本陣を攻撃すると言う意見が出た」

その言葉に、全員が息を呑む。

「ちょっと待ってください! 敵本陣はホワイトパーカスのほぼ中心……そこまでどうやって……」

ベリオが、クレアに向かって言う。

「そうだ、まず移動に問題が出てくる……あの周辺は結界により、移動魔法の類は使えん」

「だったら……」

クレアの言葉に、今度は未亜が言い出す。

「だからこそ、私はレベリオンの使用を決めた」

「っ!?」

クレアの言葉に驚きを見せたのは、リコだった。

「レベリオンで敵を一気に殲滅する……そして、相手が動揺している間に、お前達が敵本陣へと突き進む」

辺りに、沈黙が満ちる。

「…聞いてるだけじゃ、えらく簡単に聞こえるけどよ……そううまくいくのか?」

「いかん、だろうな……これでは絵空事と同じだ……だが、それに賭けねばならんような事態まで来ているのだ」

大河の言葉に、クレアは悲痛そうな顔で言う。

「この作戦はな、かなり前から発案されておったのだ」

「では、何故今まで……」

クレアの言葉に、カエデが聞き返す。

「この案は救世主候補が“8人”の時に出された案だからだ」

8人”……

その言葉を聞いて、全員は悲痛そうな表情になる。

自分達の目の前で、破滅へと堕ちて行った……8人目の救世主候補。

不破 なのは……

破滅の将であり、今立ち塞がっている最大の壁……不破 恭也の、妹。

自分達は仲間を呼ぶどころか、逆に敵を増やしてしまったのだ。

そのことについて、ミュリエルはかなり立場が弱くなってしまっている。

「皆、聞いてくれ」

暗い雰囲気を何とかしようとしてか、クレアが皆に向かって言う。

「これからの決戦の前に、出来るだけやれることはやらねばならん」

皆が頷く。

「だから、救世主候補には、救世主の鎧を取ってきてもらいたいのじゃ」

「救世主の……」

「鎧……?」

その言葉に、皆が不思議そうな顔をする。

「古より救世主が纏ったとされる鎧じゃ……それがあれば……」

「破滅を撃退できるかもってわけね」

クレアに引き継ぐように、リリィが言う。

「そうじゃ」

「なら話しははえぇじゃねぇか」

立ち上がり、大河が言う。

他の皆も、頷いて立ち上がる。

「救世主の鎧の安置されている場所は学園の地下から行けるそうじゃ」

「よっしゃ、なら……」

「行かせると、思うか?」

気合を込めようとした大河の後ろから、男の声が響いた。

全員が驚いて、そちらの方を見ると……

「貴様らを、行かせると思ったか?」

「てめぇは!!」

男に向かって、大河が叫ぶ。

「絶対に、行かせないよ」

そして、男の後ろから出てきた少女に、皆は再び息を飲んだ。

現れたのは……

「不破……っ!!」

「なのはちゃん!!」

大河と未亜が、相手の名前を叫ぶ。

現れたのは狂乱の兄妹……不破 恭也と不破 なのはだった。

 

 

 

 

 

 

 

赤を覆う鴉

 

 

 

 

 

 

 

「大河、俺達はお前達をそこに行かせるわけにはいかない」

恭也は小太刀の柄に手を置きながら、言う。

「恭也っ!!?」

そんな恭也に、クレアが叫ぶ。

「クレアか……どうやら元気なようだな」

苦笑しながら、恭也はクレアに答える。

それに、救世主候補達はおろか、なのはも驚いていた。

「恭也……何故、お前が……」

信じられないと言った風に、クレアが言う。

「俺は破滅の将である堕ち鴉 不破恭也だ……つまり、王国の敵、だな」

自傷気味に、恭也はクレアに向かって言う。

「不破っ、何でてめぇがクレアと……」

「ふむ、襲いかからないと言うなら話してやっても構わんぞ?」

大河の言葉に、恭也は苦笑しながら言い返す。

「おにいちゃん、帰ったらちゃんと説明してもらうよ」

その恭也の隣で、なのはが不機嫌そうに言う。

「? 構わんが……」

なのはの不機嫌さは感じ取れたが理由が判らない恭也。

「単に、昔一度あった事があるだけだ」

恭也は大河達の方を向いて、簡潔に言った。

「恭也っ!! お前は何故破滅などにっ!!?」

悲痛な表情で、クレアは叫ぶ。

「護りたいものが、あるからだ……そして、なさねばならん理想がある」

揺ぎ無い信念を持って、恭也はクレアに言い返す。

揺らぎなどない……自分の信念に、嘘はない。

「そして、その為に……俺達はお前達を救世主の鎧のある場所まで行かせるわけにはいかんのだ」

小太刀を抜き放ち、恭也は言った。

なのはも、召喚器を構える。

それを見た大河達も、己が召喚器を呼び出す。

「ところでクレア、衛兵の実力はもう少し底上げした方が良い……このままでは、役に立たんぞ」

不敵な笑みを浮かべ、恭也が言った瞬間……扉が開く。

そこから、何人もの衛兵が倒れているのが見えた。

「てめぇっ!!」

その光景を見た大河が、恭也に向かって怒りを露にする。

「殺してはない……なのはの前で、そんな事はせん」

肩をすくめるように、恭也は言った。

そもそも、恭也自身相手を殺す事はあまりない。

よほどの時以外は、気絶させるだけで終わらせる。

「さぁ、お前達の選択肢は二つある」

指を二本立てて、恭也は言う。

「一つ、俺達の言うことを聞いて救世主の鎧を諦める……」

「誰がっ!!」

噛み付かんほどの勢いで、リリィが叫ぶ。

「ならば、もう一つの選択肢……俺達と、戦うことだ」

言葉と共に、大河が恭也に向かって斬りかかる。

「いきなり斬りつけて来るとは、勇ましくなったな……大河よ」

苦笑しながら言って、恭也は大河を弾く。

「大河、お前は何の為に戦う?」

小太刀の切っ先を大河に突きつけながら、恭也は尋ねる。

「決まってんだろうが!! 破滅を倒すためだ!!」

「ならば、それは誰かのためか?」

大河の答えに、再び問い返す恭也。

「自分のため、皆のためだ!」

大河の答を聞き、恭也は小さく溜息をついた。

「青いな、大河」

軽く殺気を放ちながら、恭也が言う。

「皆のため……? ならば、そこにはホワイトパーカスの民は入っているか?」

「破滅の民が、何で関係あるのよっ!」

リリィがライテウスを構えながら叫ぶ。

「関係はある……彼らは、その一部以外は殆ど一般人と変わらん」

「なん、だと……?」

「例えばの話をしてやろう……お前の先祖は重罪人だったとしよう」

指を一つ立てて、恭也は言い出す。

「そのため、子孫であるお前にも世間の目は冷たく、迫害もされる……このことについてお前はどう考える?」

「んなもん、俺には関係はねぇ」

「だろう? 普通はみなそう言う」

大河の答えが、予想していた物だったのか、恭也は小さく頷く。

「ならば、何故今のホワイトパーカスの民が虐げられねばならん」

「あっ……」

恭也の言葉に、何か気付いたのだろう。

リコが、小さく声を発する。

「お前達が破滅の民と言うホワイトパーカスの民は、今は普通の人達となんら変わりはない……なのに」

「そうだよ、皆良い人達だったよ……優しくて、暖かくて」

恭也の言葉に、なのはが続けるように言う。

「王国の民はホワイトパーカスの民を破滅の民と言い、彼らから略奪の限りを尽くした……州境では、常に一方的な殺戮が行われていたんだぞ」

恭也から発せられた言葉に、全員が息を呑んだ。

クレアにいたっては震えている。

無理もなかろう……把握していたと思っていた自分の国の民が、そんな事をしているのだから……

「女子供など関係ない……やつらは破滅の民と言うだけで、無関係な者達をも殺してきた……これが、正しい姿か?」

その言葉は、まるでクレアに問いかけるかのような言葉だった。

「民を護る王国の騎士達が、民を殺すのだぞ……そんな事、黙ってみていられると思っているのか?」

胸に突き刺さる、恭也の言葉。

言い返せない……言い返すことが、出来ない。

「戦っているやつの殆どが護る為に戦っている……まぁ、一部例外はいるがな」

恭也の言葉に、カエデの脳裏にはムドウが、ベリオの脳裏にはシェザルが思い浮かぶ。

「千年前も、こんな状況だった……世界が滅ぶと言うのに、一方的に虐げられているのはいつもこちらの方だった」

「恭也さん、それはっ!」

リコが、悲痛な表情で叫ぶ。

「俺は、この時代にやって来た時…少しは、世界が良い方向へと変わっている事を望んだ……だが、現実はどうだ?」

状況は変わらない……いや、以前よりも酷くなっているといっても良かった。

「かつて、ルビナスにも言った……俺は、人々が失った尊き想いを想いだすその時まで、悪になると」

必要悪を、演じる事。

それが恭也の選んだ道……

護りたい者を護る為に、奪う者になる。

きっと、怨まれるだろう、罵られるだろう。

それでも、この道をいかねばならなかった。

「なら、ホワイトパーカスの民に対する行為を、禁ずればよいのか?」

クレアが、恭也に尋ねる。

「事はそんな簡単な物ではない…ホワイトパーカスの民に対する行為はもはや日常行為だ、言っても聞かんだろう」

小さく溜息をついて、恭也は小太刀を鞘に戻す。

「大河、お前達がこれから救世主の鎧を取りに来ると言うならば、その先で合間見えよう」

「……おう」

先ほどの話しの事があって、大河はすぐに返事が出来なかった。

「それに、クレア」

名前を呼ばれ、クレアはビクッと震える。

「お前がもし、ホワイトパーカス目掛けてレベリオンを撃つと言うのならば……」

刹那、クレアの被っていた帽子が壁へと突き刺さる。

恭也が一瞬にして飛針を投げ、帽子を壁へと突き刺したのだ。

「俺は、お前を殺すぞ……」

「あ、あぁぁぁ……」

ピンポイントで殺気を向けられ、クレアは恐怖のあまり、声が出なかった。

「クレア様っ」

そのクレアの様子を見たリコが、クレアに近づく。

「恭也…恭也ぁ!」

震えながらも、クレアは恭也に向かって手を伸ばす。

好きだから……愛してしまっていたから……

その光景と気持ちは、千年前のあのときに似ていた。

恭也が、ルビナス達の目の前で破滅へと身を投じたときと……

届かない思いに涙を流しながら、ルビナスは恭也の名前を呼びつつ手を伸ばしていた。

届く事は……ないと言うのに……

そして、恭也となのはは魔法によって消えて行った。

 

 

物語は、終局に向かって歩み続ける。

止まらない、歯車のように……

流す涙は、後どれくらいで……止まるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉シリーズ第17弾〜〜〜

フィーア「この馬鹿がぁぁぁぁっ!!!」

ごぶらっ!!

フィーア「はぁ、はぁ……」

なっ、何でいきなり殴られないといけないんだよぅ……

フィーア「あんた、前回のあとがきで何言ったか判ってるの?」

えっ、え〜と……なんだっけ?

フィーア「次回の堕ち鴉は、なのはとの日常って言ったわよねぇ?」

そっ、そうだっけ?

フィーア「で、今回のこれのどこが日常なわけ?」

あは、あはははは……

フィーア「まだリクエストのあった恭也達の出会いならまだしも……全然関係ない場面……」

まっ、待て! 話せば判る!!

フィーア「問答、無用!!」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

フィーア「やれやれ、タイトルの赤を覆う鴉と言うのは恭也の話によって迷いが生じる救世主候補達をイメージしているのよ」

そっ、それはボクのセリフ……

フィーア「ではでは〜〜〜」





いやいや、ちゃんと日常だぞ、フィーア。
美姫 「何処が?」
常に戦いの日々を過ごしているのなら、戦いが日常となっているだろう。
美姫 「いや、常に戦っている訳じゃないし、この場合フィーアが言っている日常ってそういう意味じゃないと思うわよ」
くっ。す、すまない、アハトさん。
フォローできませんでした。
美姫 「という訳で、アンタもぶっとべーー!」
ぶべらぁぁぁっ! ち、地球は丸かったーー!
美姫 「ふん、私とフィーアを騙そうなんて千年早いのよ!
     今回はクレアがちょっと可哀想かしらね。
     それにしても、あのバカとは違ってタイトルのつけ方が上手いわね。
     むむ、あのバカにも見習わせないと…」
いや、苦手なものは仕方ないだろう。
しかし、今回も面白いよな。
美姫 「あ、アンタ、さっきふっ飛ばしたでしょうがっ!」
うん、吹っ飛んだね〜。でも、地球は丸いんだよ。
一周すれば、ほら、この通り。
美姫 「はぁ〜」
ははは。さーて、次回も楽しみだな。
美姫 「ええ、そうね。次回も楽しみだわ」
どうしたんだ、疲れた声なんか出して。
美姫 「いえ、ちょっとね」
いかんな。早い夏バテか? すぐに横にならないと駄目だぞ。
それじゃあ、アハトさん、今回はこの辺で。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜。
     はぁ〜、本当に横になろうかしら」
(ああ、そうしろ、そうしろ)
そうすれば、少しはサボれる。
美姫 「アンタ、思ってる事と言っている事が逆だからね」
……で、ではでは(汗)



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