「つまり、仲間を増やそうってのかい?」

街へと続く道中、黒い服を着た女性が言い返す。

「えぇ、今のままで完全に破滅を抑えられるかはわからないわ」

それに対し、緑色の服を着た女性が答える。

「はん、臆したのかい……ルビナス?」

嘲るように、緑の女性は言う。

「相変わらず言葉に棘があるわね、ロベリア」

「口出しは無用だよ、アルストロメリア」

緑の服を着た女性、ロベリアを嗜めるように言うのは、アルストロメリアと言う白い服を着た女性である。

「でも、ルビナス……仲間をどうやって探すの?」

アルストロメリアの隣にいるのは、赤い服を着た女性、ミュリエル・アイスバーグ。

「そうですね、私達と連携の取れる人は早々いないでしょうし……」

そう言うのはオルタラ。

「そもそも、そんな人間がいたら間違いなく召喚器を持ってるわよ」

続けて言うようにして言ったのはイムニティ。

「別に今すぐに見つける必要はないわ……この先の街で、たしか大きな闘技場があるって聞いたの」

「なるほど、そこで強そうなのを見極めるってことね」

ルビナスの言葉に、アルストロメリアが言う。

「えぇ、もしいなくても現状はこの6人でも大丈夫だし……」

「ならとっとと行こう……私はもう疲れたよ」

ルビナスの言葉を遮りようにロベリアは言い、街へと歩いていく。

「そうね、ここの所歩きつめで、野宿も何回かあったから早く街に行くべきね」

ミュリエルの言葉に、全員が頷く。

「私もそろそろお風呂入りたいなー」

笑いながら、アルストロメリアが言う。

「ここの所水浴びだけだったからね……私も早く入りたいわね」

続けるように、ルビナスも苦笑しながら言う。

「後は、食料の買出しもしないといけませんね」

「今回は誰だっけ?」

「貴方とロベリアですが」

「ハァ……聞かなければ良かったわ」

オルタラの言葉に、イムニティは溜息をつく。

「イムニティ、溜息つくと幸せが逃げるわよ?」

笑いながら、アルストロメリアがイムニティに言う。

「逃げているからつくのよ」

そのイムニティの言葉に、全員で笑った。

そして、全員で道の向こうに見える街へと移動を開始する。

そこで出会う……これから生涯、忘れられない人と出会うことなど知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

始まりの出会い

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、中々活気のある街だな」

街に入って、ロベリアが辺りを見回しながら言う。

「それに人の往来も多いわね……これなら、仲間になれそうな人も見つけられるかもしれないわね」

ミュリエルも、街を見回しながら言う。

「まずは闘技場に行きましょうか……ちょうど、試合がやっているらしいわ」

ルビナスの言葉に、全員が頷く。

「しかし、本当にいるのかねぇ……」

「見てみないことには判らないでしょ」

「見ないでも、いないと思うんだけどね」

歩きながら、ロベリアとルビナスは言い合いを続ける。

それから、少し歩いていくと人だかりが増えていく。

「急に人が多くなったわね」

アルストロメリアが、周りを見回して言う。

「そうね……でも、女の人が多いのはなぜかしら……」

不思議そうに、ミュリエルが言う。

ミュリエルの言うとおり、闘技場の近くになるに連れて女性が多くなっていた。

「さぁ、闘技場に知り合いでもいるんじゃないかい」

つまらなさそうに、ロベリアが言う。

そして段々と、闘技場から聞こえてくる叫びのようなものが聞こえてきた。

「随分と、人気があるみたいね」

「このご時世でのん気なものね」

アルストロメリアの言葉に、イムニティが呆れ気味に続けた。

破滅との戦いはすでに始まっていると言うのに、いまだこのような道楽に興じているとは。

そう考えているのは、ロベリアとイムニティだ。

「良いじゃない、活気があるのは良い事よ」

苦笑しながらルビナスが言う。

「付き合ってられないわ」

一瞥して、イムニティは闘技場の中へと入って行った。

肩を竦めるルビナスに、アルストロメリアとミュリエルが背中を少し押して、闘技場の中へと入って行った。

「凄まじい熱気だな……」

闘技場の中の通路を歩きながら、ロベリアが少々感心気味に言う。

「凄い人だかりね」

「それだけ、見に来る人が多いのでしょう」

ルビナスの言葉に、オルタラが言い足す。

そして、6人は通路を抜け、闘技場の観客席へと出た。

そこに広がったのは……

「がぁぁぁぁぁぁっ!!!」

自分達の2倍はあろう大男が、宙を舞った。

その光景に、6人は少なからず驚いた。

自分達では造作もない芸当だが、それを一般人にやれと言うと少々厳しいものがあるからだ。

更に6人を驚かせたのは……吹き飛ばした方。

砂埃の中、立っていたのは……自分達と対して変わらぬ背丈の青年だった。

その片手には、剣より短い武器……小太刀。

実際に使っている者など見たことがなかった6人は驚きの連続だった。

「勝者っ、不破 恭也ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

解説者の叫びが闘技場に響く。

その声と共に、闘技場の一部にいた女性の集まりから黄色い声援が飛ぶ。

「なるほど……闘技場近くの女どもの目当ては、あの男か」

品定めするように、ロベリアは恭也を見ながら言う。

「そうみたいね……確かに、容姿はいいほうね」

苦笑しながら、アルストロメリアも恭也を見ながら言う。

「でも、あの腕でどうやってあんな男を宙に舞わせたのか……」

「そうね、それが気になるわ」

ミュリエルとルビナスも、先ほどの最後の戦闘を思い出しながら言う。

その間に、次の試合が始まった。

戦うのはまた恭也。

相手は先ほどの男までとはいかないが、それなりに大きな相手だ。

その体からは想像できない速さで、斧を振るう。

だが恭也は、まるでなんでもないようにくりだされる斧をよけていく。

「あの人、全然本気ではないですね」

「相手が弱すぎるわ」

オルタラとイムニティが、そう判断する。

そして次の瞬間、恭也の一撃で男は地に臥せった。

強烈な足蹴りが、男の横腹に決まったのだ。

恭也は、小太刀を抜いてはない。

「…………面白い」

不敵な笑みを浮かべ、ロベリアは観客席の前の方へと歩いていく。

(この男、私と同じ……裏の流派だろうね)

確信めいた予想を、ロベリアはしていた。

小太刀を使わなかったのは相手を確実に殺してしまうため……

相手が弱すぎて抜く必要もなかったと言う考えがあるが……ロベリアはそうは思わなかった。

恭也の、眼だ。

(あれは、一度でも人を殺した事があるやつの目だ……それなのに、堕ちてない)

内心少し沸いてでたイラツキを押さえながら、ロベリアは観客席の端に立った。

「それでは、今日の対戦はここまで……」

解説者がそう言うのと、ロベリアが闘技場内に降りたのは同時だった。

「次は私と戦ってもらうよ」

挑発的な眼で、ロベリアは言う。

「…………断る」

それを受け流すように、恭也はそう言った。

「はん、そうかい……なら」

次の瞬間、ロベリアの手に召喚器、ダークプリズンが現れる。

「力づくでもやる気にさせてあげるよぉっ!!」

そして、恭也に斬りかかった。

「ロベリアッ!!」

観客席から、ルビナスが叫ぶ。

一般人相手に召喚器を呼び出すとは、一体どう言うつもりか。

ルビナスは止めにはいろうとするが……

「えっ……」

その光景に、わが目を疑った。

「随分だな……」

振り下ろされたロベリアの剣を、恭也は小太刀を抜き出し受け止めていた。

「ふん、不意打ちにも反応できるかい……やっぱりあんた、裏の使い手だね」

「……さぁな」

ロベリアの言葉に恭也は曖昧に言い返し、ロベリアを弾く。

「さぁ、かかって来なよ」

剣を構え、ロベリアは言う。

「…………」

恭也も無言で小太刀を構える。

そして……

「疾っ!!」

走り出しと同時に、牽制の飛針を数本投げつける。

むろん、ロベリアはそれを簡単によける。

そのよける動作をしたときに、恭也はもう一度地面を蹴って加速する。

そのまま勢いで小太刀を振るい……

受け止めたロベリアだが、内部に強烈な衝撃が来て、後ろに下がった。

「ぐっ……なんだい、今のは……」

「教えると思うか?」

言葉と共に2度3度恭也は小太刀を振るう。

先ほどの徹を踏まないように、ロベリアは今度は受けずに避けていく。

防戦一方。

ルビナス達にはそれが信じられなかった。

あのロベリアが……剣技だけなら、このパーティーの中で最も優れているロベリアが。

召喚器も持たない一人の青年に、押されているのだ。

「ふむ、やるな」

一旦距離を置き、恭也はロベリアを見る。

服の所々が破れているが、体に傷は一つもない。

全て紙一重で、よけられているのだ。

「お前こそ、私をここまで追い詰めるとはね」

そう言ってロベリアは、召喚器のセーフティを解除する。

意識的なもので、ロベリアはいつもそうしていた。

よほどの敵ではない限り、ロベリアは召喚器からの力を抑えていた。

だが、目の前の敵にそうは言ってられない。

最近味わった事のない高揚感。

楽しいとさえ、思えてきている。

「私の名前はロベリア・リードだ……お前は?」

名前は先ほど解説者が叫んでいた時聞いたが、直接聞いてみたかった。

だからロベリアは、尋ねる。

「恭也だ……不破 恭也」

小太刀を構えながら、恭也は言った。

「そうかい……なら行くよ、恭也っ!!!」

先ほどより数段早く、ロベリアは恭也に斬りかかる。

恭也も内心焦ったが、それを表情には出さない。

確実に相手の動きを眼で追い……何とか受け止める。

「ぐっ!!」

しかし、先ほどより力も格段に上がっていたらしく、腕が少々しびれる。

殆ど吹き飛ばされる形で、恭也はロベリから距離をとる。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

その恭也に、追い討ちをかけるようにロベリアは駆け出す。

「おぉぉぉぉぉっ!!」

しかし、恭也は下がらず、ロベリアに向かっていく。

そして、左手で、背中に挿してあったもう一刀の小太刀を抜き取る。

「なっ!!」

ロベリアはそれに驚くが、このまま止まれば危ういと感じ、そのまま恭也目掛けて走る。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

ロベリアが剣を振るうよりも早く、恭也が小太刀を振るう。

それを受け止めようとして……小太刀が、ロベリアの剣をすり抜ける。

驚きが止まらなかったが、ロベリアは持前の反射神経と召喚器の力で何とか後ろに下がる。

正しく紙一重で、ロベリアは恭也の一撃をよけた。

「ハァ、ハァ……なんだい、本当に……恭也の技かい、それは?」

息を少々荒げながら、ロベリアは恭也に言う。

「技、といってさしちがいない……正確には、違うがな」

言って、恭也は右腕を突き出し、左手を鳥が羽をたたむ様に曲げる。

「ロベリア、お前との戦いは楽しい……だから、俺は全力を出しきる」

「はっ、それは私だって同じさ……恭也」

剣を振りかぶって、ロベリアは言う。

そして……

二人の技が、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それがおにいちゃんとロベリアさんの初めての出会いなんだ」

「今となっては懐かしい想い出さ」

なのはの言葉に、ロベリアは少々照れくさそうに言う。

破滅の将が普段いる屋敷の居間で、恭也となのは、ロベリアとイムニティが揃ってお茶をしていた。

そこで、茶菓の変わりになのはがロベリア達との出会いを聞いてきたので、それを話していたのだ。

「それで、どっちが勝ったの?」

「当然、ロベリアだ……召喚器を持つ相手に、生身の俺が勝てるはずもあるまい?」

なのはの問いに、恭也は苦笑しながら答えた。

「結構危なかったけどね……ネクロマティック最終奥義も崩されたんだ……実質、私の負けさ」

「あら、謙虚ねロベリア」

茶化すように、イムニティがロベリアに言う。

そして、なのはも恭也も笑う。

「それで、おにいちゃんはロベリアさんたちと一緒に行くことにしたんだ」

「あぁ、ロベリア達と一緒にいれば言っていて恥ずかしいが、金には困る事はあまりなかったな」

少々苦笑いをして、恭也は言う。

恭也が闘技場で戦っていたのは、生活資金を稼ぐためでもあったわけである。

「それに、恭也相手だと良い鍛錬にもなったもんさ」

「そんな事言って、いつも負けそうになったら召喚器を振り回してたくせに」

「なっ、イムニティ!!」

「あはははははは」

顔を真っ赤にして叫ぶロベリアと、そのやり取りを見て笑うなのは。

護りたいものが、今ここにある。

恭也はそれをかみ締めた。

ロベリアが、イムニティが、なのはが笑っている。

この光景がいつまでも続けば良いと、恭也は思う。

無理かもしれない、馬鹿な事と笑われるかもしれない。

それでも、恭也はその馬鹿な事を護る為に戦うのだ。

 

 

そして後日、不機嫌になったロベリアの機嫌取りに恭也が差し出されたのは言うまでもない。

そしてその余波で不機嫌になったイムニティとなのはにも付き合わされたことは公然の事実である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第17弾〜〜〜

フィーア「一応、恭也とロベリア達の出会い編ね」

最後はちょっと弄ったけどね。

フィーア「これが物語の始まりなのね」

最初は恭也がロベリアを倒す所まで考えていたんだが……

フィーア「けど?」

なのはが登場したから、こう言う過去を振り返るみたいな形式に変更した。

フィーア「あんた登場させた手前意地でもなのはを出したわね……」

なのはは期待されてるからなぁ……

フィーア「で、次回は?」

今度こそ、なのはとの日常……か。

フィーア「かぁ?」

こここ、怖い顔するなよ。 ちょっとキレた恭也の話。

フィーア「意味わかんないわよ」

まぁ、恭也がどういう状況になればキレるのか、察しの言い方は気付くと思うさ。

フィーア「今度こそ、ちゃんとやりなさいよ」

ヤー。

フィーア「ではでは〜〜〜」





おおう。今回は本当に初めての出会い編だ〜。
美姫 「こうして出会ったのね〜」
いやいや、過去のお話も面白いですな〜。
美姫 「本当に。次回はどんなお話なのかしら」
いやー、今からもう楽しみだよ。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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