破滅のモンスターと、王国の兵達が戦いを繰り広げる大平原。
雄叫びが響き渡り、血飛沫が舞い散る。
そして、人の肉が焼ける臭いと、獣の焼ける臭い。
地獄絵図のような場所……
そんな中で、破滅のモンスター達を撃退しているのが、救世主候補達だった。
襲い来るモンスターたちを撃破して、先へと進んでいた。
「敵陣の中心まで後どれくらいだ?」
目の前のモンスターを一刀両断し、大河が尋ねる。
「半分はすぎています、マスター」
それにリコが答え、目の前のモンスターを魔法で吹き飛ばす。
「つーかよ、あの後ろの王国軍はなにやってんだ?」
小声で、大河は尋ねる。
「大方、戦闘は私達に任せて、良い所だけ持って行きたいと思う連中ね」
はき捨てるように、リリィが言った。
「王国軍にも、そんな人がいるのね……」
ベリオのその言葉に、全員は押し黙る。
先日の……ある青年の言葉が脳裏を掠める。
「やめやめ、こんな所で余計なこと考えてたら死んじまうぞ」
大河の言葉に、全員が頷く。
そうである、今は余計な事を考えている暇などない。
突き進まなければならない、それが平和のためと思って。
そう思い、大河達が突き進んでいると……
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
大河たちの後ろから、断末魔の悲鳴が木霊した。
それに驚き、大河達が後ろを見ると……
「屑どもが……」
血塗れの小太刀を持った……不破 恭也が立っていた。
周りには、大河たちの後ろに引っ付くように進軍していた王国軍の…死体。
生きている者など、一人もいない。
「不破ぁっ!!」
その光景を見た大河が、叫ぶ。
「大河か……」
目線だけを大河に向け、恭也は答える。
「俺は、邪魔なやつを掃除しに来ただけだ……白の主の命でな」
「っ!!?」
恭也のその言葉に、リコは驚く。
「見ろ……お出ましになった」
能面のような無表情で、恭也は小太刀を空の一点に差す。
そこには……
「なっ、なんだ……?」
空を覆う、巨大な黒い影……
「黒の魔道要塞ガルガンチュワ……そして、その座にいるのが……」
小太刀の血を拭き取り、恭也は小太刀を鞘に戻し、膝をついた。
「我らが白の主……当真 未亜だ」
ガルガンチュワの先端、そこには確かに……ジャスティを持った、未亜がいた……
白の堕ち鴉
「未…亜……?」
信じられないと言った風に、大河が呟く。
ありえない、ありえるはずがない。
大河の頭の中はその一言で一杯だった。
救世主の鎧を取りに行ったとき、地面の亀裂の狭間に、未亜は確かに落ちて行った……
誰でもない……自分が、見捨ててしまったのだ……
「白の主が誕生した今、大河……俺はお前を殺さなければならなくなった……が」
立ち上がり、恭也は大河を見る。
「白の主はお前を連れて来いと仰せだ……故に、一緒に来てもらうぞ」
「恭也さんっ!!」
近寄ろうとする恭也に向かって、リコは叫ぶ。
「何故、何故未亜さんがっ!?」
「断崖に落ちた白の主を、イムニティが救出した…元より彼女は白の主としての素養があった…だからこそ、ずっと監視をしていた」
未亜があそこにいる経緯を、恭也は話す。
「だが、白の主の精神は崩壊寸前だった…何故だか、判るな……大河」
「っ!!」
小太刀を大河に向けて突き出し、恭也は言った。
それに、大河は何も言い返すことはできない。
「だからこそ、イムニティと主幹はある策をとった」
「……まさかっ!?」
その策とやらに思い当たったのか、リコは叫ぶ。
「マスターを一度殺し、赤と白を両方統べて……世界を作り変えると言うのですか……」
リコの言葉に、恭也は何も言わない。
「未亜さんが作った新しい世界で、マスターと共に過ごせると……そう言ったんですねっ!!?」
「…………その通りだ」
苦虫を噛み潰したかのような表情で、恭也は言った。
「恭也さんは、それが正しいと思っているんですかっ!?」
リコは叫ぶ。
自分の知っている恭也なら、こんな事を許しはしない。
だからこそ、問いただす。
「どうであれ、その世界をロベリアとイムニティが望むのなら……俺は、手を貸すだけだ」
能面のような、無表情をして……恭也は言い切った。
刹那、王国軍の方から巨大な魔力の塊が、ガルガンチュワ目掛けて放たれた。
「あれは……レベリオンッ!?」
リコは再び驚く。
クレアが……レベリオンを使用した事に、驚いたのだ。
「さらばだ……クレア」
その時、恭也がポツリと呟いた。
そして、レベリオンの一撃が、ガルガンチュワに直撃する寸前……
レベリオンの一撃が、一瞬にして霧散していった。
「そ、んな……」
誰かが、呟く。
王国軍の切り札とも言える魔道兵器レベリオンの一撃が……効かないのだ。
そして次の瞬間……未亜が一瞬にして、先ほどのレベリオンと同じぐらいの魔力の塊を、撃ち放った。
それは瞬く間に……レベリオンのあった場所に直撃した。
「クレア様っ!!!?」
リコは叫ぶ。
思念で通じていたクレアと、一瞬にして会話ができなくなった。
それはつまり……
「クレア様が……死んだ……?」
「その通りだ、オルタラ」
リコの呟きに、恭也が答える。
「クレアは白の主の攻撃によって、レベリオンごと消えてなくなった」
恭也から発せられたその一言に……その場にいた全員が衝撃を受ける。
「大河、白の主がお待ちだ……」
そう言って大河に近づこうとする恭也の前に、リリィ、ベリオ、カエデが立ちふさがる。
「そうはさせないわよっ!」
「殺されると判っていて大河君をみすみす渡すわけにはいきません!」
「師匠は、必ず守るでござるよ!」
己が召喚器を、恭也に向けながら、3人は構える。
「白の主からは、救世主候補は殺しても構わないと言われているのだが……」
その言葉に、3人は息を呑む。
「できれば、そうさせて欲しくはない……」
「簡単に、殺されると思っているの!?」
恭也の言葉に、リリィが反発する。
「殺すのなら簡単だ、元より俺の技はそう言う事に特化しているからな」
暗殺を生業としてきた一族が生み出した剣技……当然、殺す事に特化した部分もある。
故に、恭也にとって殺す事にまわればその分楽になる。
「ただし、リリィ・シアフィールド……お前だけは、絶対に殺せとも命じられている」
「っ!!?」
リリィの肩が、震える。
「白の主は、お前の事を相当嫌っているそうだ……何があったかは聞かんが……」
小太刀を鞘から抜き出し、恭也は構える。
「行くぞ……」
刹那、恭也の姿がいくつにも分身する。
「なっ、分身したっ!!?」
驚いて、ベリオが叫ぶ。
「違うでござるよっ、高速で動いて分身したように見せているだけでござるっ!!」
そのベリオに向かって、カエデが叫ぶ。
「ほぅ、流石は忍者だ……もっとも、こんな芸当もイムニティの補助無しでは出来んがな」
言葉と共に、カエデが召喚器越しに吹き飛ぶ。
今、恭也はイムニティの補助を受け召喚器を持つ救世主候補並みの身体能力を発揮している。
マスターを得た今のイムニティだからこそ出来る事である。
「カエデさんっ!!」
ベリオがその攻撃に気付いた時、カエデはすでに吹き飛ばされた後だった。
そして、ベリオが恭也に向かって魔法を放とうとするが……
「遅いっ!!」
それよりも数瞬早く、恭也の一撃がベリオに決まる。
小太刀の柄でベリオのお腹を思いっきり殴りつける。
肺の中の空気を一瞬にして吐き出させ、ベリオの意識を刈り取る。
「ベリオッ」
リリィが叫びつつ、恭也目掛けて炎を放つ。
しかし、恭也は避けようともせずその炎に向かって突撃する。
恭也に当たる少し前で、その炎は霧散する。
恭也の特殊能力、魔法無力化の力である。
そのままの勢いで、恭也はリリィに向かって剣を振るう。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
しかし、そこに大河が割って入り、恭也の小太刀を受け止める。
「退け、大河」
冷徹な目で、恭也は大河に言う。
その言葉、瞳に……今までの恭也からは感じ取れた事のない冷たさが伝わる。
「大河、俺はお前を認めていた……戦うたびに強くなるお前を、仲間から信頼されているお前に……昔の自分を見た」
武器越しに、恭也は大河に言う。
「だがっ、貴様はしてはいけない事をしてしまったんだぞっ!!」
叫びと共に、大河がリリィと一緒に吹き飛ぶ。
「自分の妹を…崩れ行く崖に見捨てていくとは……」
「っ!!」
恭也のその言葉に、大河の脳裏にその時の光景が鮮明に甦る。
自分に向かって賢明に手を伸ばす妹。
そして、その手を掴んでやれないばかりか、その事実から逃げ出してしまった自分……
「俺が貴様を白の主の前まで突き出してやる……自分の行いを、悔い改めろよ……」
構えを取り、恭也は大河を見据える。
二本の小太刀を鞘に戻すその構えは、今まで何度も見たことのある恭也の奥義。
御神流 奥義之睦 薙旋。
イムニティの補助無しでも、見切りきれなかった奥義…それが、救世主候補並みの身体能力を得た今の状態で放たれるのだ。
大河には、防ぎきる自身がなかった。
だが、やらねばならない。
未亜に会いに行くために、ここでつかまるわけには行かない。
自力で、あの金の玉座に座する未亜に会いに行かなければならないのだ。
だから、ここで恭也を退けなければならない。
大河はそう決心し、トレイターを握る。
「行くぞ……」
言葉と共に、恭也は神速の領域に突入する。
普段の神速よりも、知的感覚の向上が飛躍的にアップする。
一瞬の間の後、大河の眼前に恭也が迫る。
そして、恭也が大河目掛けて奥義を繰り出すが……
(恭也っ、一旦退きなっ!!)
恭也の思考に、ロベリアの叫びが割り込んでくる。
一瞬、恭也の動きが止まる。
その隙を、大河は見逃さなかった。
トレイターによる渾身の一撃を、恭也目掛けて放つ。
「ぐぅぅぅっ!!」
しかし、恭也はその状態からでも体を捻る。
それでも、完全にかわす事が出来ず恭也の体に切り傷が出来る。
「ぐっ……」
斬られた場所を押さえつつ、恭也は大河を見る。
(どういうことだ、ロベリア……)
そのままの状態で、恭也はロベリアに尋ねる。
(イムニティからの連絡だよ、白の主の状態が拙いらしい。 だから、至急ガルガンチュワに帰還しろって)
(…………了解だ)
ロベリアにそう答え、恭也は小太刀の柄に置いていた手を放す。
「大河、ここは一旦退こう……」
突然の言葉に、大河は驚く。
「だが、覚えておけ……白の主の壊れかけた心を砕くのも、治してやるのも……お前しか出来ん事を」
「っ!!」
そう言って、恭也は足元に浮かび上がった魔法陣によって撤収した。
それと同時に、ガルガンチュワが移動を始める。
「未亜……」
そのガルガンチュワを見つめながら、大河が呟く。
「待ってろよ……っ」
己に言い聞かせるかのように、大河はそう言った。
今救世主戦争終結の……前日の話であった。
あとがき
堕ち鴉シリーズ第22弾〜〜〜
フィーア「今回は未亜ルートの白の主になった未亜との出会いのシーンね」
うん、ここは以前から書いてみようと思ってたんだけど、ようやく形になったよ。
フィーア「で、このあと大河が未亜を助けにガルガンチュワに乗り込むのよね」
そうだよ、まぁそこまで考えてないけど。
フィーア「でも確か、前回のあとがきでアルストロメリアがどうとか言ってなかったかしら?」
ギッ、ギクッ!!
フィーア「もしかして、忘れてたとか……?」
ハハ、ソンナワケナイジャナイデスカ、フィーアサン。
フィーア「そうよねぇ……なーんて言うとでも思ったのっ!!?」
ひぃぃぃ。
フィーア「このあほーーーーーーっ!!!」
ぎゃーーーーーすっ!!!
フィーア「ハァ、全く……では、皆さんまた次回で」
おおう!
美姫 「今回は未亜覚醒ヴァージョンね」
うーん、やっぱり面白いな、これ。
美姫 「うんうん。この後、未亜と大河がどんな会話をするのか、とかもね」
想像して楽しめ!
美姫 「はいはい。フィーア、お疲れさま〜」
アハトさん、本当に、本当にご苦労様(涙)
美姫 「次も楽しみにしてますね〜」
ではでは。