「お前を、救世主にさせるわけにはいかん……」

呟いて、黒い服に身を包んだ男は腰に差していた鞘から小太刀を抜き出す。

「なにをやっているのですかっ!!」

それをみた破滅の主幹であるダウニー・リードが叫ぶ。

「決まっている……この救世主の鎧を破壊するのだ」

当然のように言って、男は構える。

「あなたは、破滅側の人間ではないのですかっ!!?」

荒々しい形相で、ダウニーは叫ぶ。

「違うな、俺はロベリアとイムニティの味方なんだ……そして、護ると誓った以上、そいつを破壊する」

そうだ、護るべき者を護る為に、その為に単に破滅の側についたに過ぎない。

「イムニティを、その怨念の詰まったガラクタから救い出す」

言って、男は駆け出す。

「させませんよっ!!」

細剣を持ったダウニーが、その前に立ち塞がる。

「ロベリアはまだ我ら破滅の者、ならばあなたはここで救世主候補達を倒すべきなのではないですかっ」

男の後ろにいる救世主候補達を見て、ダウニーは言う。

「違うといっている、イムニティとロベリアがいるから俺は破滅側として戦っていたに過ぎん……そして、破滅がもしこの二人に害をなそうとしているのならば、俺はたとえ破滅といえども、潰す」

そうだ……この二人がいたからこそ破滅についていたに過ぎない……

「どけ、貴様では俺を止められん」

殺気を込めながら、男はダウニーを睨む。

「そうはいきません……どうやら、私はあなたを買いかぶりすぎていたようですね」

刹那、ダウニーの細剣が男目掛けて振るわれ、男はバックステップをして避ける。

「どう思われていようが結構だ……護ると誓った以上、たとえ神が相手だろうと、倒す」

言って、男は少しだけ後ろを見る。

「ミュリエル、力を貸してくれ……」

その言葉に、呼ばれたミュリエルも、一緒にいた未亜とリリィも驚きを隠せない。

「そこの赤い髪の女、そのライテウスをミュリエルに渡せ」

「なっ、何であんたの言う事を!」

男の言葉に、リリィが反発する。

「リリィ、ライテウスを貸しなさい」

しかし、そんなリリィにミュリエルは静かに言う。

「お母様っ!?」

そのミュリエルの行動に、リリィは驚く。

「今、彼は私達とほぼ同じ目的の為に戦っています……だから、ライテウスを私に貸しなさい」

ミュリエルの言葉に言い返せず、リリィはライテウスをミュリエルに渡す。

そして、ミュリエルはライテウスを右手にはめる。

それを見た男はステップでミュリエルの所まで下がる。

1000年ぶりだな、お前とこうして肩を並べ戦うのは」

苦笑して、男が言う。

「えぇ、もうないと思ってはいましたが……」

ミュリエルも、苦笑して言い返す。

「前衛は任せろ……後方からの援護魔法を頼む。 必要とあらば俺ごと魔法を放ってもらっても構わん」

「もとよりそのつもりです……あなたの体質、今だけは心強く思えます」

そして、二人は目の前の敵……ダウニーを見る。

「行くぞっ、ミュリエル!!!」

「えぇ、恭也っ!!」

叫び、恭也はダウニーへと目掛けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

赤の魔法使いと黒の剣士

(中編)

 

 

 

 

 

 

 

 

走りながら、牽制に恭也は飛針を幾つかダウニー目掛けて投げる。

しかし、ダウニーはそれを防がずに避ける。

「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

走っている途中にもう一度地面を蹴って、さらに加速してダウニーに詰め寄る。

そして、一閃。

恭也の振るう小太刀を、ダウニーは何とか受け止める……が。

もとより、細剣などで防げるものではない。

恭也の気迫により、ダウニーは吹き飛ぶ。

そして、そのダウニーが着地した所へとミュリエルの放った炎が降り注ぐ。

それを何とかダウニーは防御壁を展開し、防ぐ。

だがその隙に恭也は一気にダウニーに詰め寄る。

ダウニーは内心焦っていた。

降り注ぐ炎の中、自分でさえ止まって防御壁を展開しなければ防げない中を、恭也はまるで何ともないかのように、ダウニー目掛けて走っていく。

恭也の魔力によって自動的に生み出されるその魔法防御が、恭也全身を覆っているのだ。

1000年前にリコとイムニティによって施された、己が内の魔力の使い方。

魔法は使えないが、魔法使い何十人分もの魔力が体内には蓄積されていた。

その魔力に細工を加え、生まれた力だった。

そして、恭也はそのまま加速に乗ったまま、ダウニーに切りかかる。

ここでも、ダウニーは誤算をしていた。

恭也の力は、魔法防御だけではない。

もう一つ、施されたその力はあらゆる魔法を強制的に無効に(キャンセル)する能力である。

恭也の持つ武器に対し、自動的に施されるようになっている。

それを知らないダウニーは防御壁を築くが……

まるで何もそこにないかのように、恭也の剣はダウニーの体へと迫り、思いっきり吹き飛ばす。

「がぁぁぁぁぁっ!!」

血を吐きながら、ダウニーは吹き飛び、壁に激突する。

「破滅の主幹というわりには、ロベリア以下だな……いや、比べるのもロベリアに対し失礼というものか」

率直に、恭也は言う。

「ミュリエル、こいつは元はお前の学園の教師だったと聞いたが、見る目が落ちたか?」

ダウニーから視線は外さずに、恭也は言う。

「恭也……あなたと比べればどんな剣士も霞んでしまうわ……それほど、あなたの力は大きいのだけれど」

ミュリエルも、ライテウスを構えながら答える。

召還器なしに、救世主候補と同等……いや、経験というアドバンテージがある分恭也の方が断然上である。

それは、天才と呼ばれるだけの才能と……恭也自身の、高みへと上るその貪欲なまでの執念と、鍛錬に裏打ちされたものである。

秀才であり、天才でもある恭也……才能に慢心せず、貪欲に上を目指し続けた結果が、今の彼の強さなのだ。

 

 

(すごいわ……)

そして、この戦いを見ていたリリィはそう心で呟いた。

幾度となく、破滅として戦ってきた相手、恭也の戦いを見て、リリィはそう思った。

無駄のない動き、計算づくされたように見えて、大胆なその攻撃。

なにより……ミュリエルとの連携……とても急造には見えなかった。

リリィは知らないが、恭也もミュリエルやルビナス、ロベリアと同じ1000年前のメサイアパーティーの一人である。

そして、当時はよくこうやって組んで戦うことも少なくはなかった。

もっとも、それは恭也やロベリアが破滅につくまでのことだが……

しかしそんな事は知らないリリィはただ、その凄さに圧倒されていた。

 

 

「さて、後はあのガラクタをどうにかしないとな」

視線を救世主の鎧に向ける恭也。

不気味なまでに、動きを見せない救世主の鎧に、恭也も内心かなり警戒していた。

「恭也、あれは単に破壊すればいいというものではありません……あなたの目的は、イムニティの救出でしょう?」

ミュリエルが恭也に近づき、言う。

「そうだな、ついでにオルタラも、その主も助け出してやれればいいんだが……生憎、方法がな」

そう言って、恭也は視線を再びダウニーに向ける。

「あの男なら、何か知っているんじゃないか?」

「いえ、彼も神の僕のようなもの……知っているとは思いがたいですが……」

恭也の問いに、ミュリエルが難しい表情になる。

「ならば……」

何か考えが浮かんだのか、恭也は未亜やリリィの元へと歩いていく。

「そこの二人」

「なっ、なによ!?」

恭也の言葉に、リリィは恭也を睨みつけながら言い返す。

「何もしはしない……ただ、手伝って欲しいことがあるだけだ」

「手伝って欲しい事……ですか?」

手の中にあるジャスティを握って、未亜は言う。

「そうだ……お前達は、呼びかけろ……赤の主を呼び続けるんだ……呼びかけに赤の主の意思が応えれば、もしかすると助けられるかも知れんからな」

それだけ言って、恭也は再び鎧のほうへと歩いていく。

「っ、お兄ちゃんっ!!!」

「大河っ!!!」

そして、恭也の言った通り、二人は大河に届くように、その名を呼ぶ。

それから何度か二人が呼びかけると、救世主の鎧がわずかばかりか、動き始めた。

「よし……このまま行けば……っ!!」

しかし、動き出した救世主の鎧が、突然恭也に向かって攻撃を開始した。

恭也はそれを寸前で避け、距離をとる。

「どうやら、最悪な方向へと動き出したか……」

持っていた小太刀を救世主の鎧へと向ける恭也。

「恭也……もしかすると救世主の鎧の意思に、大河くんの意思が反発しあって、ああなったのかもしれませんよ」

ライテウスを構え、ミュリエルが言う。

「そうかも知れんな……確証のない博打になりそうだ」

言って、恭也はある構えに入る。

「そこの二人は、俺たちに構わず名前を呼び続けろっ!!!」

叫び、恭也は技を繰り出した。

 

 

―――――――御神流(みかみりゅう)(うら) 奥義之参(おうぎのさん) 射抜(いぬき)―――――――

 

 

御神流最速にして最高の射程を持つ技が、繰り出される。

しかし、救世主の鎧へと向かって走り出した恭也目掛けて、救世主の鎧の腕の部分がはずれ、飛んでくる。

「ちぃっ!!!」

舌打ちして、恭也はその腕に向かって射抜を放った。

しかし、普通の小太刀が特別な方法により生み出された救世主の鎧を切り裂けるわけもなく……

「ぐっ!」

恭也の小太刀はぶつかった瞬間に砕け散り、恭也はそれを見て何とか腕を避ける。

「ブレイズノンっ!!」

もう一方の腕に対し、ミュリエルが炎の魔法をぶつけるが……

「あぁぁぁぁぁっ」

魔法をものともせず、その腕がミュリエルを吹き飛ばす。

「ミュリエルッ!! がっ!!?」

恭也がミュリエルのほうへと向かおうとした瞬間、先ほど避けたはずの腕が恭也を吹き飛ばす。

そして、その二つの腕が再び鎧と合体し、そのまま鎧は未亜とリリィの方へと歩き出す。

「くっ!!!」

リリィは簡易な魔法を唱えるが、鎧は気にせずに向かってくる。

そして、鎧は二人の目の前に立ち、振りかぶる。

「やっ……お兄ちゃぁぁぁぁぁんっ!!!!!」

振り下ろそうとするのと同時に、未亜が叫ぶ。

刹那……

未亜の目の前で、拳がとまる。

「あ……あぁあ…」

未亜はその場にペタンと座りこんでしまう。

「未………亜……」

その鎧から、男らしき声が聞こえる。

「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ!!」

その声が聞こえ、未亜はその名を呼び続ける。

「がっ、がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

突然、鎧が雄叫びを上げながら後ろに下がっていく。

「どうなったのっ!?」

リリィが、判らないといった風に叫ぶ。

すると、鎧から二つの光が弾き飛ばされるように出てくる。

「リコッ!! イムニティッ!!」

それを見た未亜が叫ぶ。

それは正しく救世主の鎧へと取り込まれていたリコとイムニティの二人だった。

「マスター……」

「未亜さんっ、マスターがっ!!」

イムニティは安堵したように未亜を見るが、リコは焦ったように未亜に言う。

「判ってる……けど、どうしたら……」

「俺に………任せろ」

戸惑う未亜に、恭也が声を掛ける。

「恭也っ!」

そんな恭也を見て、イムニティが抱きつく。

「イムニティ……無事だったか……」

恭也も、優しくイムニティの頭を撫でてやる。

「だが、今はやる事があるんだ……まずは、あのガラクタを破壊する」

言って、恭也は目の前の救世主の鎧を見る。

「どうする気よっ!!? 武器もないんでしょっ!!?」

そんな恭也に、リリィが叫ぶ。

「……あることにはあるが、正直使いたくはなかった……しかし、今はそうも言ってられんからな」

静かに目を閉じて、恭也は言う。

「我が呼びかけに答えよ……」

紡ぐ言葉と共に、恭也の右腕に魔力が集まりだす。

「我が問いかけに応じよ……」

続けて紡ぐ言葉と共に、今度は恭也の左腕に魔力が集まりだす。

「我が前にその身を示せ……」

目を見開き、恭也が言葉を発すると同時に全身から魔力があふれ出す。

「これはっ!!?」

その魔力の放出量に、リコは驚いて恭也を見る。

イムニティも同じように、驚いて恭也を見ていた。

「応えろ……Pleiades(プレアデス)ッ!!」

叫び共に、恭也の両腕に突然小太刀が現れる。

「恭也……その小太刀は、一体……」

イムニティが、驚きながら恭也に尋ねる。

「俺の‘召還器’だ」

その恭也の言葉に、皆が驚く。

「時空断層の中に封印されていた7つの顔を持つ、最古参の召還器だ」

言って、恭也は構える。

「アステロペ・マイア……魔力を吸収してくれ……」

恭也の言葉に、まるで小太刀が応えるかのように、貪欲に魔力を吸収し始める。

「お前達には辛いかも知れんが、しばらくは耐えてくれ」

その言葉の後、リコとイムニティを強力な脱力感が襲う。

「これは……」

「恭也、一体どうなっているの?」

少しつらそうな表情をして、イムニティがたずねる。

「これは近場にある、もしくは存在している魔力を吸収しているのだ……この召還器は、俺一人の魔力では完璧に補いきれんからな」

その言葉にイムニティはおろか、リコも驚く。

恭也の魔力は魔法使い何十人分なのだ。

それをもってしても足りないという事は、尋常ではないほどの魔力が必要という事である。

「なっ、なに!!?」

次に、足場が急に揺れ始める。

「どうやら、ガルガンチュワの魔力コアの魔力さえも吸収し始めたか……」

言って、恭也は目を閉じ、息を整える。

「アルキュオネ・タユゲテ……いくぞっ」

刹那、小太刀から爆発的な魔力があふれ出す。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

気合と共に、恭也は救世主の鎧へと駆け出す。

(神速っ)

そして数歩走り出した後、神速の領域へと入り込む。

辺りの色が全て抜け落ち、モノクロの空間になる。

そのゼリーのような感触がまとわりつく中を、恭也は疾走して行く。

そして、鎧の数歩手前で神速状態から抜け出す。

 

 

―――――――御神流(みかみりゅう) 奥義之伍(おうぎのご) 雷徹(らいてつ)―――――――

 

 

御神流屈指の破壊力を誇る奥義が、鎧目掛けて放たれる。

徹を2回連続で、ピンポイントで同じ場所に打ち込む。

先ほどは折れた小太刀だったが……

「悪いな、大河よ……」

小太刀は折れずに、鎧の一部を完全に破壊していた……

その時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「きょっ、恭也ぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

今回は中篇をおおくりしました。

フィーア「ねぇ、終わり方が前編と一緒じゃない?」

まぁ、時間軸的には同時進行だからねぇ……

フィーア「それに、恭也が召還器を呼び出したわね」

まぁ、このシーンはずっと考えてたんだけど……召還器の名前を考えるのが一番時間をかけたね。

フィーア「変な名前ばっかり考えてたわね、あんたも」

で、結局このプレアデスになったわけだけど……

フィーア「プレヤデス星団ね……理由は?」

星々になった娘達だろ? それも嫌な男に追いかけられて……ある意味、召還器の一目ぼれかな。

フィーア「またそんなあり得ない設定考えて」

まぁ、本来の持ち主じゃなくても召還器が認めれば使えるって話もあったし、大丈夫かなと思って。

フィーア「でも、4人しか出てきてないわよ?」

残り3人は次回ぐらいにでも。

フィーア「次回はどういった展開なの?」

それは内緒。

フィーア「けち」

まぁまぁ、次回のお楽しみってことで。

フィーア「そういうことにしといてあげるわ……ではでは〜〜〜〜」





今回は恭也サイドのお話だね。
美姫 「本当ね。これで、前編と合わせて、次の話に繋がるのね」
おおー! なるほど。
美姫 「一体、この先には何が待っているの!?」
次回が非常に気になる、気になる。
美姫 「次回も首を長くして待ってますね〜」
待っています。
美姫 「それでは」



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ



          


inserted by FC2 system