「なぁ…嘘だろ……嘘だって言ってくれよっ!!」

大きな、神々しい剣を持っていた青年は叫ぶ。

「なんで…なんであんたが立ち塞がるんだよ……なんで、あんたがあんな神の野郎を守るために戦うんだよっ!!?」

青年の悲痛な叫びに、目の前にいる……黒い服に身を包んだ男は答えない。

「あんただって知ってるんだろ!? あの神の野郎にどれだけの人や世界が踏みにじられてきたのかをっ!!」

「………………言いたい事はそれだけか」

目を細めて、黒い服の男は言う。

「お前に、お前達に……後世の人達に愚かだと、くだらないと言われても俺は構わん。 俺は、神を“護る”だけだ」

「っ!!?」

その言葉に、青年はショックを受けたかのように固まる。

「馬鹿な事を、と笑おうが構わん。 あいつの、俺の大事な“   ”の為ならば、俺は神の尖兵にだろうとなってみせる」

その言葉と、眼差しには揺ぎ無い信念が篭っていて……

「そして、そのために誰が立ち塞がろうとも倒すと決めた……これが俺の誓いだ」

いったん目を閉じ、男は言い放つ。

「この神の次元にまで足を踏み入れた事には素直に賞賛しておこう……だが、ここで、終わりだ」

両手を後ろに回し、身を屈める。

「このまま戻ってあいつらと平穏に過ごすなら見逃す……だが、押し通ると言うならば……」

言葉と共に男は背中に挿してあった二本の小太刀を抜き取る。

「この、神鳴る刃……堕ちた鴉の不破 恭也が、お相手しよう……真の救世主、当真 大河よ」

そう言って、恭也は大河へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

神鳴る刃、堕ちた鴉

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅっ!!」

一瞬の加速からの超速的な剣戟に、大河は剣から手甲に武器を変えることで防ぐ。

「ほぅ、今のを防ぐか……流石は異端の召還器……そして、異端の救世主よ」

言って、恭也は大河を弾き飛ばす。

「だが、迷いがあるな……それが召還器にも伝わっている。 迷いは己を殺すぞ、大河?」

構えて、恭也は言う。

(主よ、何を躊躇っている?)

大河の中で、召還器―――トレイターが尋ねる。

(迷いの剣では目の前の敵を倒す事は不可能だぞ?)

トレイターの言葉に、大河は唇をかみ締める。

判っている……判ってはいるんだ。

今の自分は破壊の力なら神と同等であり、目の前にいる敵を倒す事も簡単だと言う事は……

だけど、体が……心が、それを否定する。

一緒に破滅を倒すために戦ってきた、救世主候補と一般兵という違いはあっても、そこそこなチームワークを築いて戦ってきた。

そして、あいつの過去や思いも聞いてきた……だから、こそ……

「俺には…戦えない……」

迫り来る剣戟を何とか防ぎながら大河は思う。

なぜ、このような事になったのだろうか……と。

「どうした、大河……何故本気で戦わない?」

いったん距離を開け、恭也は尋ねる。

「俺が敵だからか……それとも、トレイターがお前の意思に反しているからか?」

「なぁ……なんで、あんたは破滅になんか加担するんだ?」

大河は手甲を剣に戻し、尋ねる。

「破滅になど加担した覚えはない……俺は、俺の大事な“   ”を護る為に神についたんだ」

恭也の言葉に、大河は息を呑む。

目の前の青年、恭也は確かに破滅に加担はしていなかった。

むしろ、カエデがムドウを倒す時も…ベリオがシェザルを倒す時も、あまつさえルビナスがロベリアを倒す時にも……

そして、自分を救世主の鎧から救ってくれた時も……側にいて、助けてくれたのに。

「じゃあ何で神につくんだ!! あいつは間接的に破滅を操ってるんだぞ!!?」

「俺は神の臨むままに動いてきただけだ……あの破滅の将とやらは神にとっては論外の存在らしいが、救世主を見出すにしては邪魔になってな」

一切の感情を排して、まるで機械的に言う恭也。

「だから、俺はお前達と共にあいつらを屠った……神の、望むままに」

それだけが、今の恭也を動かすもの。

大切なあの人の為に、神の尖兵となって、仲間をも倒す。

「俺の大事な人か世界と全ての人々……どちらかを選べと言われて、俺は前者を選んだ」

右手の小太刀を突き出し、左手の小太刀をまるで羽を畳むかのようにして曲げる。

「お前はどちらも選んで、それを可能にする力を得た……なら突き進め。 迷いは捨てろ……誰が立ち塞がろうとも、倒して行かなければならない時がある」

目を閉じて……静かに、状態を捻る。

「それが……今だっ!!!」

恭也が目を見開いた瞬間、一気に駆け出す。

爆発的なスピードが生み出され、恭也は真っ直ぐに大河に向かっていく。

 

――――――――――――御神流・裏 奥義之参 射抜――――――――――――

 

「恭也ぁぁぁぁぁっ!!!」

叫びと共に剣を突撃槍(ランス)に変化させ、大河は恭也が放つ小太刀と矛先をぶつけ合う。

「ふっ!」

ぶつかった刹那、恭也はすぐさま内側に体を捻り、大河の懐に入り込む。

そして、すれ違うように……一閃。

「ぐぅぅぅっ……」

大河の左腕から血が溢れ出す。

「真っ直ぐでいい剣筋だ……あいつを思い出す」

言葉の後、恭也の右腕からも血が流れ出す。

「それゆえに、殺すには惜しい……大河、本当に引き返す気はないのか?」

それは、まるで最終通告のようなもの。

冷たく、褪めた瞳が大河を捉える。

「引き返したいさ……お前と戦うぐらいだったら、いっそ引き返しちまいたいさ…でも、それは出来ない」

強い眼差しで、大河は恭也を見る。

「俺がここで引き返したら……俺をここまで送ってくれたやつらに申し訳がたたねぇからな!」

突撃槍を剣に戻し、大河は叫ぶ。

「神を生かしておけば、また千年後にこんな無意味な戦いが起きるんだ!! だから、俺は進む!!」

「そうか……」

大河の叫びに、恭也は短く答える。

「なら、俺もそれ相応で答えないと失礼と言うもの」

持っていた小太刀を鞘に戻し、そして体から外す。

「何のつもりだ……」

丸腰になった恭也に向かって、大河は尋ねる。

「召還器を持つ救世主に対抗するには……一つしかあるまい」

手を突き出し、恭也は薄く笑った。

「“   ”」

刹那、一瞬にして……まるで最初からそこにあったかのように、小太刀が現れる。

「それはっ……!?」

「俺の召還器“   ”だ」

大河の驚きの声に、恭也は静かに答える。

「驚きか? だがな、俺はもっと驚いた……俺の大事な“   ”が、こんな姿になっているのだからな」

神から手渡された二振りの小太刀……それは、恭也が愛した最愛の人の成れの果てだった。

「この小太刀を元の“   ”に戻すには神の力がどうしても必要だ……だから、俺はここでお前を止めるぞ」

その構え、殺気の量に大河は一歩後ろに下がる。

召還器を持っていないときですら、救世主候補と同等に戦えた恭也……その恭也が、世界の根源から力を汲み上げる召還器を持つと言う事は……

「今のあいつはかなり強いって事か……」

誰にでもなく、大河は呟く。

「さぁ、行くぞ大河……お前が俺を倒して神の元へ行くか……俺がお前を倒し“   ”を元に戻すか……」

「俺とお前が一緒に神を倒すって選択肢はないのかよ?」

恭也に向かって大河は言うが、恭也は曖昧に笑うだけで答えようとしない。

「なぁ、どうなんだよ……恭也」

縋るように、大河は言う。

「言ったはずだ……俺は神の尖兵たる神鳴る刃、堕ちた鴉だと。 神に叛く事は出来ない」

もう、引き返せない……

「大河、トレイターは神に反逆する者の剣…神断つ剣だ……その意味を、忘れるな」

言って、駆け出す。

先ほどの速さよりも速い速度で、恭也は大河へと向かっていく。

「くっ!!!」

防戦しきれないと判断した大河は剣を一瞬にして戦斧に変形させ、大地を砕く。

砕かれた時に舞い上がった地面の欠片が宙を舞い、大河を守る。

「“   ”…行くぞ」

しかし、そんな中を恭也はものともせずに走り込んで行く。

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

恭也の振るった小太刀を、大河は戦斧越しに受け止める。

「がはっ!!?」

しかし、急激に体に衝撃が走り、大河は血を吐き出す。

「ふっ!!」

そして、振り下ろした衝撃で恭也は宙で体を一回転させ、大河の背中に蹴りを喰らわせる。

「ぐっ!!」

何とか踏ん張って、大河は前を見る。

「徹を2発喰らって尚、まだ立ち続けるか……流石だな、大河」

「お褒めに預かり……どうも……」

口元の血をぬぐって、大河は言う。

「ならば、これは防げるかな……」

言って、恭也はまるで抜刀術のような構えを取る。

恭也が放つ技は、御神流最高の射程を誇る……

 

――――――――――――御神流 奥義之壱 虎切――――――――――――

 

恭也の手が、一瞬だけぶれる。

「ちぃぃっ!!!!?」

大河はすぐさま回避に移るが、右腕を斬られる。

「がぁぁぁぁぁっ!!!」

大河の手から、トレイターが落ちる。

傷ついた腕では、あの戦斧を持ち上げる事が出来ないのである。

「確実に斬りおとす覚悟で放ったんだが……まさか、避けられるとはな」

「へっ……伊達に……救世主をやってないんでね」

血があふれ出る右腕の傷口を押さえながら、大河は言う。

「その腕で、俺を倒すのは無理だぞ……そして、引き返すのも今が最後だ」

小太刀の切っ先を大河に向け、恭也は言う。

「何度も……言わせんなよ……俺は、神の野郎を倒すために、ここに来たんだぜ……引き返せるわけ、ないだろうが」

左手でトレイターを持ち、大河は恭也に言う。

「ならば、大河……ここで、俺の為に倒れろ……」

またもや抜刀のような構えで言う恭也。

2本の小太刀を後ろで交差させるようにして構える……

皆を、救ってやれ

「っ!!?」

恭也の唇が動き、それを見た大河は驚きの声を上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

それに構わず、恭也は神速の領域に踏み込み、技を放つ。

 

――――――――――――御神流 奥義之睦 薙旋――――――――――――

 

神速の中から、高速で繰り出される四連撃抜刀。

一撃目が大河の腕よりトレイターを弾き飛ばす。

二撃目が大河の右足を斬る。

三撃目が大河の左足を斬る。

最後の一撃は、柄で大河を強く押し出す。

刹那、後ろに急に穴のようなものが開き、そこに大河は入り込んで行った。

「これでいい……これで、いいのだろう」

静かに、恭也は呟いてこの次元に取り残される形になったトレイターを持ち上げる。

その際、恭也は己の召還器を送還する。

「わかっているさ……自分のやろうとしている事の間違いなど……だが、そう言ったとしてもお前は残ると言うだろう……愛する人達を、置いていって」

トレイターに語りかけるように言い続ける恭也。

「トレイター、都合のいい話だが……俺に力を貸してくれ。 神を、倒すために」

(お主は、初めからそのつもりで神についていたのか?)

体の内側から聞こえる、力強い男の声。

「はじめは、本当に“   ”を元に戻せると信じ神の為に戦っていた。 破滅の将を倒せと言われたのも、主幹であるダウニー・リードの殺害も、命じられたものだ」

(ではなぜ、今神に叛こうとする?)

「お前の過去を聞いて、気づいた……過去は戻らない。 死んだ人間を蘇らせようと考えた、俺が愚かだった事を」

恭也の言葉に、トレイターは何も返さない。

「“   ”が、何故こんな形になったのかは定かじゃない……もしかすると、神が俺を懐柔するためにこんな姿にあいつを変えたのかもしれない、そう思った」

(神ならば、唯の人をそのような姿に変えるのは造作もないこと……我のように)

「だから、大河がリコとイムニティ、そして未亜さんから白と赤の力を吸収した時、チャンスが来たと思った。

俺は、表向きはまだ神の尖兵として戦わなくてはいけなかった……神は用心深い。 俺ですら、自分の次元に連れて行こうとはしなかったのだからな」

(そして、我が主を元の世界に返し、神を倒そうとしたのか)

「そうだ、今のトレイターは真の救世主の召還器として機能している。 例えそれが……持ち主の手から離れたとしても」

言われて、トレイターは自分の力が大河といる時と変わっていない事に気づく。

「あいつには、愛する人達がいる……あいつの帰りを待ち続けている人もいる。 だから、神を倒す仕事は、俺がやらなくてはいけない、罪滅ぼしだ」

力強く、恭也はトレイターを握り締める。

「だから、トレイター。 俺に力を、お前の力を俺に貸してくれ!!」

(言うまでもない。 我が名はトレイター。 神に反逆する者の剣、神断つ剣なり!)

内側から、力強く肯定する声が響き渡る。

「“   ”ッ!!!!」

そして、左手に己が召還器である“   ”を呼び出す。

右手のトレイターを小太刀へと変化させ、恭也は握り締める。

右手には反逆者の剣を……左手には最愛の者の小太刀を。

「何年かかろうとも、神を必ず倒す……その時こそ“   ”が安らかに眠る時だ」

言って、恭也は駆け出す。

神の次元の奥……全ての元凶たる神がおわす、その場所へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

う〜ん、アンケート結果とは違うSS が出来てしまった……

フィーア「まぁ、アンケート結果のSSも書かせるから大丈夫よ」

それは判ってるんだけど、このSS結局最初と最後で恭也の言い分が180度変わっちゃってるような……

フィーア「最初の方は芝居だって、自分で書いてたじゃない」

まぁそうなんだけどさ。

フィーア「ちなみに、恭也の召還器の名前ってなんなの?」

未定、と言うか読者様の好きなとらハヒロインの名前です。

フィーア「10人いれば、10通りの召還器の名前と言うわけね」

まぁね、召還器は元は人だって言う設定だからそういうので行こうと思って。

フィーア「でも、違う人の召還器を使えるものなの?」

ダウニーが使ってたから大丈夫かと、あと恭也はトレイターと同じ考えなので、押さえ付けると言うより共闘だから使えるの。

フィーア「で、大河は元のアヴァターに戻ったって訳ね」

そそ。 で、大河の代わりに恭也が神と戦い続けるって訳。

フィーア「もし恭也が神を倒しちゃったらどうするのよ?」

そこのところは考えてないよ。

フィーア「いい加減」

とっ、とにかくこれで終わりです。

フィーア「ではでは〜〜〜また次回作で〜〜〜」




恭也と大河の対決〜。
美姫 「神を騙す為に、神の手下を演じていた恭也」
この後、神とどんな対話がされるのかも面白そうだな。
美姫 「よね。召還器に変えられた大切な人の為に…」
うーん、面白かったです〜。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で〜」
ではでは。



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