「私は約束する、この世界が滅び去ってお前達だけは必ず生かしておくことを」

真っ黒な服装をした一人の女性が、目の前の赤い服を着た女性と白い服を着た女性、そして同じように真っ黒な服を着ている男に言う。

「ロベリア……あなたは、本当に白の主となることを選ぶの?」

赤い服を着た女性が、困惑気味に尋ねる。

「そうだ、ミュリエル。 私はこの世界を作り変えるのだ……神の力によって」

「でも、それじゃあ今生きている人々はどうなるの?」

ロベリアの言葉に、白い服を着た女性が言い返す。

「全て、滅ぼす。 アルストロメリア、今の世界はもう駄目だ……誰かが、この世界を作り変えない限り」

強い眼差しで、ロベリアはアルストロメリアを見る。

「ルビナスは、どうした?」

黒い服装の男が、ロベリア達に尋ねる。

「ルビナスは教会にいるわ……オルタラも一緒よ」

ロベリアの後ろから、紫の服を着た少女が現れ、男に答える。

「ありがとう、イムニティ」

男はそう言ってイムニティと呼んだ少女の頭を撫でる。

「子供扱いするな、と言っても、あなたはやめないでしょうね」

ため息をつきながら、でもどこか嬉しそうに言うイムニティ。

そして、それをみて面白くなさそうな顔をしている3人。

「では、俺は少しばかりルビナスとオルタラに会ってくる」

「お前まさかルビナスと一緒に赤につくつもりか?」

少しばかりの殺気を込め、ロベリアは言う。

「それはまだ決めていないさ。 支配因果律を司るイムニティとロベリアに付き従うか、世界を成長させる命の力を持つオルタラとルビナスに付き従うかは、な」

言って、男は教会へと歩き出して行った。

「では、私達もルビナスの所へ行ってみましょう」

アルストロメリアの言葉に、ミュリエルは頷き、男の後を追う。

「どうなさいますか、マスター?」

イムニティは隣に立つロベリアに尋ねる。

「アルストロメリアとミュリエルは多分、ルビナスにつくだろうね……でも」

「はい、私だって彼と戦いたくはありません」

ロベリアの言葉を引き継ぐように、イムニティは言う。

(私は、ルビナス達が敵になっても戦える……でも、お前が私の前に立つのならば…私は、戦えないかもしれないんだぞ…恭也)

もの悲しげに、ロベリアは3人が歩いていった方を見ていた。

いや、その視線は、唯一人の男へと注がれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

哀しみの戦争へと続く道

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィィィィ、と重い扉が軋みをあげながら開いていく。

「恭也……」

「恭也さん」

その音に気づいたのか、十字架の前で熱心に祈りを捧げていた褐色の肌の女性と、白い服装を着たイムニティとほぼ同じ顔をした少女が恭也の名を呼ぶ。

「ルビナス、オルタラ……お前達はミュリエルとアルストロメリアに何も言わないのか?」

恭也はそういいながら二人に向かって歩いていく。

「ええ……これは、私とロベリア……オルタラとイムニティの問題ですもの。 あの二人を巻き込むわけにはいかないわ」

「俺なら巻き込んでも構わないと?」

ルビナスの言葉に、自分の名前がなかったので、恭也はどこか意地悪な顔をしてルビナスに言う。

「もうっ、恭也だって巻き込みたくないに決まってるじゃない」

「当然です……」

少し頬を膨らませながら、ルビナスは言う。

そして、その隣でオルタラと呼ばれた少女も言う。

「わかっているさ。 ルビナスもオルタラも、ロベリアとイムニティだって根は優しい事を知っているからな」

対して、恭也は苦笑しながら答える。

「恭也……お願いです、私と一緒にロベリアを説得してください」

談笑の中で、ルビナスは真剣な瞳になって、恭也に言い出す。

「私は、ロベリアとは戦えません……きっと戦って勝った所で、私もあの娘も…きっと神の試練には耐えられないわ」

恭也から十字架に目線を移して、ルビナスは言い続ける。

「あの娘と戦わなければいけないかと思うと、心が痛い……」

「ルビナス……」

「マスター……」

ルビナスの言葉に、恭也もオルタラも言葉を放てない。

「でも、あなたが敵になると思うと……もう私は駄目です。 立っていられない……剣も、握れない……」

震える手を見ながら、ルビナスは言う。

「恭也……お願いです……私と一緒にいてください……」

震えながら、しかし真っ直ぐにルビナスは恭也を見て言う。

「こんな事を言うのは貴方にだけです……貴方にだけは、離れていて欲しくない……」

「ルビナス……」

震えるルビナスを見て、恭也はルビナスの手を握り締めてやる。

「きっと、お前ならロベリアを説得できるだろう……だから、お前は自分を強く持て。 アルストロメリアも、ミュリエルもお前に力を貸してくれる」

「恭也は……貸してくれないのですか……?」

ルビナスは、自分の名前を出さない恭也に聞き返す。

その答えに、恭也は曖昧に微笑むだけである。

「オルタラ、ルビナスを支えてやれよ。 お前達はマスターとその従者と言う関係ではないからな」

「わかっています、恭也さん」

「いい娘だ」

そう言って、恭也はオルタラの頭を撫でてあげる。

「俺は少し出かける……では、な」

恭也はそう言って教会を出て行った。

(ご武運を、マイマスター……)

オルタラは心の中で、そっと呟いた。

自分を書の精霊とは思わず、一人の少女として扱ってくれた、心優しい人。

でも、彼は召還器を呼べないために、マスターにするわけにはいかない。

だけど、オルタラの中では、彼もルビナスと同じ自分のマスターなのである。

恭也はミュリエルとアルストロメアリアとは行き違いに教会を出て行った。

 

 

(アルストロメリアとミュリエルは……ルビナスにつくだろうな……彼女達も優しいから、きっと理不尽の刃で罪無き人々が死んでいくのを見てはいられないんだろう)

教会から離れた所にある小高い丘に、恭也は来ていた。

そこからは王都が一望できる。

究極の魔道兵器(レベリオン)よ……そして、神を降臨させるべき“神の座”をもつ……黒の魔道要塞(ガルガンチュワ)……お前は、どちらを救世主にしたいんだ?)

そう思いつつ、恭也は王都を見下ろす。

その王都の下に眠っている……ある一つの、魔道兵器の事を思いながら。

(賢人会議の連中は、まだ安全と傍観を決めているだろうが……生きてはいられないだろうな)

賢人とは名ばかりの、自分の為に動く者達を思い出し、恭也は悪態をつく。

「マスター、ここにいたのですね」

「俺はお前のマスターではないぞ、オルタラ?」

そこに、オルタラがやってきた。

「いえ、もし貴方が召還器を呼べるのならば、きっと私は貴方をマスターに選んでいました」

「おいおい、ルビナスが聞いたら怒るぞ?」

「あら、私もそう思っていたけれど?」

恭也がオルタラに答えるのと同時に、イムニティもやってくる。

「イムニティまでそんな事を言うな。 お前達はそれぞれルビナスとロベリアの信念を理解したからこそ、そのマスターにしたのだろう」

恭也は苦笑しながら言う。

「お前達は二人を支えてやれ……唯の主従関係じゃないんだからな」

寝転がって、青空を見上げながら恭也は言った。

「マスター、失礼します」

「私もね、マスター」

しかし、オルタラもイムニティも全然聞いていない素振りで、恭也の承諾を得ずまま恭也の両隣に寝転ぶ。

そして、恭也の体に腕を置いて、恭也の腕を枕にする。

「おい……」

「いいじゃありませんか、マスター」

「早々、減るもんじゃないでしょ」

非難めいた声を恭也が上げるが、二人は気にしないといった風に言い返す。

「イムニティ、手をどけてください」

「貴女の方こそ、マスターから離れなさい、オルタラ」

恭也を挟んで、二人はにらみ合う。

仲が良さそうに見えて、この二人は激しく仲が悪いのだ。

赤と白の精としての使命により、お互いがわかりあう事が出来ないのだ。

「お前達、俺を挟んで殺気を増大させるな……腕を引き抜くぞ」

そんな二人に、恭也はそういった。

その言葉を聞いた後、腕枕から離れるのが惜しいのか、二人は殺気を霧散させて恭也に擦り寄った。

「それで、マスターはどちらにつくんですか?」

右側に寝転んでいるオルタラが、恭也に尋ねる。

「そんなのは聞くまでもないわ、オルタラ。 マスターは白よ」

その質問に、恭也ではなくイムニティが答える。

「イムニティ……貴女には聞いていません」

不満げな様子を隠さずに、オルタラは言う。

「それに、マスターは支配などを望まない方です。 故に、支配因果律を司る白にはならない……マスターは赤です」

「それを言うならマスターは女性ではないから無から有を創りあげる事は出来ない……よって白よ」

恭也を挟んでの、言い合いが再び始まる。

「あのな、今のところ俺はどちらにも付くつもりはない……悪いがな」

殺気が増大する前に、恭也は二人に言う。

「ルビナスにはオルタラがいるし、ロベリアにはイムニティがいる……今更、俺の出る幕ではない」

むしろ、自分がいた方が邪魔になるだけであるというのが恭也の考えである。

「いえ、少なくとも私達にはマスターが必要です」

オルタラが、恭也の考えを否定するように言う。

この場合の私達とは、勿論ルビナスとオルタラのことである。

「そうよ、私達もオルタラ達とは比べ物にならないぐらいマスターを必要としているわ」

同じように、イムニティも言う。

「はぁ……俺も確かにそれなりに戦闘能力には自信があるが、そこまで評価されるほどではないと思うぞ?」

付け加えて、召還器は呼び出せないしな、と恭也は言う。

「「それでも構いません」」

それに対して、2人は声をそろえて答えた。

(マスターは、始めて私が好きになった人……おそらくルビナスもマスターが好きでしょうが、こればかりは譲れません)

(マスターの側にいると、どこか安心できるものね……ロベリアも一緒だろうけど、マスターは譲らないわ……)

己のマスターに対しても対抗意識を燃やしながら、二人はそんな事を思う。

(二人ともそんなに俺の戦闘能力に期待しているのか? だが、俺はそこまでされるような覚えはないんだがな…)

と、恭也は恭也でまったく別の事を思っていた。

そんな事を考えていると、誰かが近寄ってくるのを感じた。

人数は二人だ……足音でわかるが、何だか殺気も少々混じっている。

そして、次の台詞を聞いた瞬間、誰が来たのかを恭也は瞬時に悟った。

それは、恭也の両隣にいるオルタラとイムニティも同じだったようだ。

 

「エルダーアークッ!!」

 

「ダークプリズンッ!!」

 

声がした瞬間、一瞬にしてその場を離れるために3人は飛び上がる。

そして、次の瞬間には、先ほどまでオルタラとイムニティがいた所に剣が突き刺さる。

金色の刀身をした大剣と、真紅の刀身をした剣が、突き刺さっているのだ。

「「マスター、何のつもりですか?」」

オルタラとイムニティは声をそろえて、マスターであるルビナスとロベリアに尋ねる。

「「自分の胸に聞いてみると良いわ」」

それに対して、ルビナスとロベリアも声をそろえて答えた。

「姿が見えないと思ったら……恭也と一緒にいたなんてね……あまつさえ、う、う、う、腕枕なんて……」

顔を真っ赤にして、最後の方を少しどもらせながらルビナスは言う。

「羨ましいんですか、マスター?」

軽く勝ち誇った表情で、オルタラは言い返す。

「イムニティ、マスターからの命令よ、恭也から離れろ」

ロベリアは軽くイムニティを睨みながら命令する。

「いくらマスターだからといっても、そんな命令は聞けないわね」

イムニティはそんな視線をどこ吹く風でロベリアに言う。

「「そう……なら……」」

ルビナスとロベリアは声を揃え、己の召還器を構える。

そして、徐にオルタラとイムニティに襲いかかろうとするが……

「お前達、仲間内で喧嘩などしてどうする気だ?」

少量の殺気を含んだ瞳で、恭也は4人に言う。

「「「「あうぅ……」」」」

その睨みを頂戴して、四人は少しへこむように黙る。

「俺は、お前達には何もしてやれない。 だからこそ、お前達は俺なんかに構わず自分の道を歩いていけ」

サクサクと、草の地面を音を立てて歩きながら恭也は言う。

「その結果が滅びであれ、救いであれ……俺は受け入れよう」

そういい残して、恭也は丘から去っていった。

 

 

それから数ヵ月後……ついに、救世主戦争が起こった。

赤の主となり、人々の為に戦う錬金術師 ルビナス・フローリアスとその従者であるオルタラ。

それに付き従う友として、アルストロメリア・バーンフリートとミュリエル・シアフィールドがその側にいた。

対する破滅の側には白の主となった暗黒騎士 ロベリア・リードとその従者であるイムニティがいた。

ルビナス達の活躍により破滅は徐々に撃退され、ついにルビナス達はロベリアを追い込んだのである。

魔道兵器の使用によって王都はもうすでに廃墟と化していた……

 

 

「ロベリア……投降して……今なら私達が貴女を封印刑に留めておく事を嘆願するわ」

エルダーアークを構えつつ、ルビナスがロベリアに言う。

「ふんっ!! またそうやって私を見下すのね、ルビナス!! 私は、絶対にあんた達の思い通りになんてならない!!」

ダークプリズンを構えたロベリアが、叫ぶ。

「そう……なら」

ルビナスがロベリアに向かおうとした瞬間……

「そこまでだ」

風に乗るように、男の声が響く。

その声は、ここにいる六人には聞き覚えがあり、忘れたくても忘れられない声でもあった。

「恭……也……?」

驚いた表情で、ルビナスは、その名前を呟く。

目の前にいる男は、嘗て自分達と苦楽を共にして、信頼できる仲間であった。

そして、ほのかな恋心を抱きつつも、叶わなかった相手……

不破・恭也……

「悪いがここでロベリアとイムニティを討たせるわけにはいかん」

「「「「っ!!!?」」」」

その恭也の言葉に、四人は驚きの声を上げる。

「恭也っ! あなたは破滅につくというのですかっ!?」

ライテウスを構えながら、ミュリエルが叫ぶ。

「現状では、そうだ……としかいえんな」

少しばかり笑って、恭也は答える。

「何故っ!!? 何故あなたが破滅につくのっ!!?」

ミュリエルに続き、アルストロメリアが叫ぶ。

「お前達と別れてから、俺も俺なりに世界を見てまわった……それの結果、とでも言おうか」

四人を見る恭也の瞳には、深い悲しみが漂っていた。

「世界は、生きたがっていた……人々も、必死に生きたがっていた……」

「だったらっ!!?」

恭也の言葉に、アルストロメリアは再度叫ぶ。

「だけど、俺は俺の想いの為に……破滅と共に戦う……いや、ロベリアとイムニティと一緒に戦うことを選ぶ」

その答えが……その言葉が……ここにいるすべての者に衝撃を与えた。

ルビナスとオルタラ、ミュリエルとアルストロメリアは衝撃に体が震えている。

対するロベリアとイムニティは、歓喜によって体が震えているのだ。

「恭也は……私達が…嫌い、なんです……か……?」

つたない言葉で、ルビナスは恭也に尋ねる。

しかし、恭也は答えない。

「決まっているだろう……恭也は私達と共にあることを望んだ! 私を選んだんだよっ!!」

立ち上がって、ロベリアはルビナスに向かって衝撃波を放つ。

とっさに我に返ったミュリエルが防御壁を張るが、ルビナスは呆然としたままだ。

「ルビナス、ここは退いておいてやるわ……でも、次に会った時は私と恭也が相手をするよ」

そういい残して、ロベリアは消えていった。

それに続くように、イムニティと恭也も去ろうとする。

「恭也ぁっ!!!」

叫びながら、ルビナスは精一杯手を伸ばすが……

その手は、虚しく空をきるだけだった……

「恭也ぁ……どうして…どうしてなの……恭也ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

ルビナスが涙を流しながら、煙が立ち昇る空へと叫ぶ。

まるで子供のように……大事な人に、見捨てられた……子供のように。

ルビナスは泣き続けた……その涙が、枯れ果てるまで……

それは、救世主戦争終結の……2ヶ月前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

う〜ん、なんじゃこりゃ?

フィーア「自分で書いといて何言ってんのよっ!!」

あべしっ!!

フィーア「またリクエストほっぽりだしてこんなもの書いて!!!」

だ、だって…ロベリアとかルビナスとか好きだったから、書いてみたかったんだよ。

フィーア「それでリクエストをほっぽりだしたと?」

うぅ、返す言葉もございません……

フィーア「全く、さっさと書きなさいよ?」

サー!!イエッサー!!

フィーア「で、これはどこら辺の時間なわけ?」

とりあえず、大河達の千年前の救世主戦争の時だね。

フィーア「また微妙な時間ね……」

とにかく、ここから物語は始まったようなものだからね。

フィーア「それで?」

もしかしたら、神鳴る刃、堕ちた鴉の前の話かもしれない。

フィーア「って、恭也それじゃあ千年も生きてる事になるじゃない!?」

恭也もミュリエルみたいに時空断層を超えたんだよ、神の力によってね。

フィーア「なるほど」

まぁ、厳密に言えば繋がってないけどね。

フィーア「あっそ」

ぐぅぅ、素っ気無い反応だなぁ……まぁ、では次回で。

フィーア「ではでは〜〜〜〜」

 




消えた恭也たちは何処へ?
美姫 「それは自分たちで想像するしかないわね」
うむむむ。これも一つの結末か…。
美姫 「アハトさん、ありがとうございます〜」
ありがと〜。とても面白かったですよ〜。
美姫 「全く、語彙が少ないわね、アンタ」
う、うぅぅぅ。
美姫 「さて、浩もいい感じにへ込んだことだし、今回はこの辺でね〜」
グシュグシュ…。



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