TEARS SAVIOR

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファ〜〜〜ァ、眠イワ……」

一人の女が、大きな欠伸をして、それを手で押さえながら歩いていた。

「夜遅くまで起きているからですよ」

その隣で、金の髪をしたシスターの服を着た少女が苦笑しながら言う。

「別ニ遅クマデ起キテイタ訳ジャナイワ、ベリオ」

女も少し笑いながら、ベリオと呼んだ少女に言い返す。

「隣デ嬌声ナンテ出サレテ眠レル訳ナイデショ」

女の言葉に、ベリオの顔は一瞬にして真っ赤になった。

「初々シイワネェ……デモ、逢瀬モ程々ニ、ネ」

「雫さんっ!!」

顔を真っ赤にしてベリオは女の名前を叫ぶ。

「アハハハハ、デモ本当ニ程々ニネ……流石ニ私モ毎晩毎晩隣カラ嬌声ガ聞コエテクルノハ遠慮シタイカラネ」

ヒラヒラと手を振って、雫は歩いていく。

「確か今日は試験がありますね」

そのシズクの隣を歩きながら、ベリオが思い出したように言う。

「ソウ言エバソウネ……一々順番ヲツケル理由ガ判ラナイワ」

興味がないように、雫は言う。

「順位をつけて、向上心を引き出すんですよ」

苦笑しながら、ベリオが雫に言う。

「ムシロコノ考エハ大河ガ嬉シイダケナンジャナイノ?」

呆れたように、雫は言う。

この実践試験……負けた者は勝った者に一日指導されると言う決まりがある。

今までは女性しかこの救世主候補はいなかったのでそれほど問題はなかったのだが……

今回は初の男性の救世主候補である当真 大河がいる。

そしてその大河は負けた相手に危ない指導をしているのである。

それによって救世主クラスは、ある意味大河のハーレムになっているのだが……

「でも、雫さんそんなことを言ってますけど、今だ負けなしじゃないですか」

そうである。

ベリオの言う通り、雫は今だ実践試験での負けは一切ない。

これまで他の救世主候補7人と戦っているが、その全てに勝ったのである。

だから、雫だけが唯一大河のハーレムに加わっていないと言える。

「マァ、私ハ規格外ノ強サダカラネ」

とぼけた様に、雫は言う。

救世主クラスの面々は、それぞれ武器を使用して前で戦う前衛系と魔法を唱え味方の援護をする後衛系にわかれる。

大河や忍術を使うカエデ、アンデットのナナシは前衛。

魔法を使い、大火力で敵を圧倒するリリィは中衛。

そして魔法補佐や、敵の動きの牽制などの後衛は大河の妹の未亜、ベリオ、そして召還師のリコである。

前衛系の大河やカエデは魔法は使えないし、中衛のリリィは勿論、後衛の3人も前に出て戦えは殆どしない。

だが、雫は違った。

接近戦武器としての召還器を持ちながらも、魔法も使えたのだ。

よって、雫は敵によってその攻撃自体を変える事が出来るのだ。

更に雫はその身体能力もかなり高く、ゆえにまだ負けがないのだ。

「デモ意外ネ……コノ学園ニ私ト同ジ魔法モ使エル剣士ガイナイナンテ」

雫の言葉に、ベリオは苦笑いを浮かべた。

ベリオも、記憶を辿るが魔法も使える剣士、と言うのは見たことがなかった。

「おぉ、ベリオに雫じゃないか」

そんな二人に、声がかかる。

「アァ、大河……オハヨウ」

「大河君、おはようございます」

雫は手を振って、ベリオは少し顔を赤くして大河に言い返す。

まぁ、ベリオの顔が赤いのは夜中に色々と男女の営みをやっていたからであるが……

「雫、眠そうだな」

「大河ガ夜中マデヤッテルカラヨ」

雫のその言葉に、大河は焦る。

「なっ、何で知ってるんだよっ!!?」

かなり焦りながら、大河は雫に尋ねる。

「サッキベリオニモ言ッタケド、夜中ニ隣デ嬌声ナンテ出サレテ、眠レル訳ナイデショ」

やれやれ、と言った風に雫は答える。

「ソレモ毎晩トッカエヒッカエ……寮長ニ言ッテ部屋ヲカエテモラエナイカシラ」

雫の言葉に、大河もベリオも顔は茹蛸状態だ。

「今日ノ模擬試験……勝ッタラ、負ケタ相手ト部屋ヲ交換シテモラウッテノモ、良イワヨネ」

ちなみに、大河の部屋はハーレムができて以来寮内へとかわった。

ただやっぱり風紀的なこともあり一番端の部屋なのだが……

運のない事に、雫がこの世界に来た時、救世主候補の寮で空いている部屋がその大河の部屋の隣だけだったのだ。

そこにすみだしてから最初のうちは何ともなかったのだが……

雫が模擬試験でまずはベリオを倒したその夜、大河の部屋から嬌声が聞こえてきたのだ。

むろん、大河とベリオの、である。

それ以来何度か大河の部屋からは嬌声が聞こえてきており、それが雫の睡眠不足の原因になっているのだ。

「キッ、キニセズニネタライイジャナイカ、シズクサン」

かなり焦りながら、そして棒読みに大河は雫に言う。

「アノネ、今更ナ事ヲ言ワナイデ。 大河ガヤッテルノハ前々カラ知ッテタシ私モソレナリニ気ヲツカッテキタノヨ」

やれやれと言った仕草で大河に言う雫。

「昨日ハベリオ、一昨日ハ未亜、三日前ハリリィダッタカシラ、四日前ハカエデ、五日前ハリコ、デ六日前ガナナシダッタワネ」

指折りに数えていく雫。

1日遡り、相手を言われていくたびに大河の顔は青くなっていく。

「一週間前ハ休憩カシラネ、ソシテマタ八日前ハ……」

「判った、判った!!」

雫の言葉を、大河は叫びながら止める。

「雫さぁ、お前絶対に根にもってるだろ?」

「何ヲ?」

「俺のハーレムに加わっていない事に「寝言ハ死ンデカラ言ウモノヨ」……はい……」

大河の言葉を遮って、雫は己が召喚器を大河の首筋に突きつけながら言う。

そして冷や汗を流しながら、大河は頷いた。

「私ハ、ソンナモノニ興味ハナイワ。 ソレニ……」

どこか憂いを帯びた目をして、雫は窓から空を見上げる。

「気ニナル人ナラ、モウイルモノ」

どこか嬉しそうに言う雫に、大河もベリオも呆けた顔をする。

そして……

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!?」

大河の叫びが、朝早くの寮に木霊する。

「五月蠅いわよっ!!」

そんな大河の後ろから、大河の後頭部目掛けて物が投げつけられる。

投げたのは自称救世主候補主席、だったリリィ・シアフィールドである。

「アァ、リリィ……オハヨウ」

そんな大河を無視して、雫はリリィに挨拶をする。

「雫に、ベリオも……こんな朝っぱらから何やってるのよ」

ため息をついて、リリィが尋ねる。

「大河くんが少しおかしくなっただけですよ」

「ひでぇ!!」

サラッと言うベリオに対し、大河は涙目になって言う。

「全く、朝ぐらいは静かにしてほしいものね」

「アラ、ソウ言ウリリィコソ、夜ハ静カニシテホシイワネ」

皮肉を込めたリリィの言葉に、雫は含み笑いをしながら言い返す。

「なっ!! なななな……」

その言葉に思い当たる節があったのだろう……一瞬にしてリリィは顔を真っ赤にする。

「私ニ口デ勝ツニハ、マダマダネ」

笑いながら、雫は闘技場へと歩いていった。

その後方では顔を赤くしたリリィと黄昏ている大河、そしてどうやってこの二人を連れて行こうか悩んでいるベリオの姿があった。

 

 

 

「じゃ、今日の試験をはじめるわよ〜〜」

気の抜けた言葉で、ダリアが言う。

「今日は一対一の戦闘ね」

言って、ダリアは10面ダイスを取り出し、徐にそれを投げる。

「最初は大河君とぉ……」

一瞬にして、皆の目線がもう一つのダイスに行く。

純粋に大河と戦いたい、と思うものではない。

大河との仕合の後……夜の事を思っているのだ。

現に、皆顔がにやけている。

もっとも、雫は別にそんな事も考えていないので空を見上げたままだが……

「雫ちゃんね」

「ムッ、私?」

ダリアに名前を呼ばれ、雫は視線を大河へと移す。

選ばれなかったリリィ達は一様にがっかりしていたが……

「ふふふふふ、雫……お前を倒してお前も俺のハーレムに加えてやるぜ」

よからぬ事を雫に向かって言う大河。

「寿命ヲ縮メル発言ハ止シタ方ガ良イト思ウワヨ、大河」

呆れ口調で言い返す雫。

当然の事ながら、女性陣は大河を冷たい眼で見ていたが……

「ネェ大河、アンタアンナニ女性ヲ侍ラセテ、コレ以上求メルツモリナノ?」

「男としては当然の欲求だ」

雫の問いに、大河は誇らしげに答えた。

「ハァ……余地ナシ、ネ」

溜息を一つついて、雫はリリィ達の方を見る。

「今カラ、死ナナイ一歩手前マデ……大河ヲ攻撃スルワ」

それは確認ではなく、宣言。

「大河、アンタハ一回女ノ気持チヲ理解シタ方ガ良イワ」

刹那、雫の全身から凄まじい魔力があふれ出す。

「くっ、トレイターッ!!」

その魔力の放出に大河は今までのおちゃらけた雰囲気を一変し、真剣な表情になって召喚器を呼び出す。

「……ティア」

そして、雫も己が召喚器を呼び出す。

一瞬にして雫の腰に、鞘に収められた刀が現れる。

「ん〜〜、はじめ♪」

そんな中、ダリアの緊張感の欠片もない声が響いた。

「サァ、覚悟ヲ決メナサイ……大河ァァァァァッ!!!」

今までの雫からは想像できない声を上げて、雫は大河目掛けて走り出した。

それは、さながら前回の救世主戦争……その最後の、赤の主と白の主の戦い似ていると、リコは思った。

     

     


あとがき

 

 

片言娘シリーズ第3弾〜〜

フィーア「今回はDUEL SAVIORね」

話的には、みんなが出てきていて、更には大河のハーレムが出来上がっているという設定です。

フィーア「時間軸もバラバラよねぇ」

まぁ、ありえない一つのお話、ということで。

フィーア「で、これもうたわれるものとオトボクの片言娘と同一人物なわけ?」

一様はね。

フィーア「これ以上登場作品増やさないわよね?」

とりあえず、浩さんのリクエストは出そうかと。

フィーア「とりあえず、それで最後ね」

うむ、そうなるな。

フィーア「そういうわけで皆さん、また次回をお楽しみに〜〜〜」

ではでは〜〜




ってことは、少なくとも後一つはこのシリーズはあるって事だな。
美姫 「嬉しそうね」
まあな。あり得ない話だけれど、面白いし。
美姫 「にしても、雫はやっぱり強いみたいね」
だな。さ〜て、次はどの作品かな〜。
美姫 「次回も楽しみね」
うんうん。次回も楽しみしてますね。
美姫 「待ってま〜す」



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ



          


inserted by FC2 system