日曜日。

天気は、晴れで雲は殆どなし。

気温もすごしやすい温度で、ときおり吹く風が髪を撫でていく。

公園の待ち合わせ場所によく使われるところに、一人の男が立っていた。

恭一である。

大体30分ほど、恭一はそこから動いていない。

ときおり時計を見たり、空をぼっと眺めているぐらいである。

恭一は、黙ってみればそこそこに良い男なのである。

いや、美形といってもさし違いはない。

本人はいたって普通といっているが、恭一の義兄であり義弟でもあるKはこう言う。

「自覚がなさすぎ」

そして、そのKと付き合っている恭一の義姉のAも……

「その無自覚は直した方が良いよー」

とのことである。

それはさておき、恭一が何故こんな場所に立っているのかというと。

まぁぶっちゃけ、デートの待ち合わせである。

勿論相手は鳥羽莉、むしろそれ以外は考えられない(恭一談)

で、そんなこんなで恭一は待ち合わせの40分前からここに立っている。

早く着すぎたわけではなく、単に恭一が相手を待たせるのが嫌いなだけである。

それでいてデートなんだから待ち合わせは定番だろうとの意見により一緒の部屋に住んでいるにも拘らず、恭一が先に来ているのだ。

話を戻そう。

周りから見ればかなり美形の恭一が先ほどからずっとそこに立っているのだ。

相手にすっぽかされた、もしくはただ立っているだけと思った女子が出てくる。

出て、くるのだ。

「ねぇキミ、さっきからずっとここにいるけど、もしかして暇なの?」

いかにも軽そうな女性の二人組が、恭一に声をかけてくる。

「んにゃ、全然暇じゃねぇ」

キッパリと、恭一はそういう。

「じゃあもしかして約束すっぽかされたの?」

「それならさ、私達と一緒に行かない?」

しかし、二人とも引こうとはせず再度恭一を誘う。

「だからさ、俺暇じゃねぇって」

うんざりしたのか、恭一は溜息混じりに言う。

「恭一」

そこに、ちょうど鳥羽莉がやってくる。

いつもどおりの普段着だが、少々化粧をしているのだろう。

恭一にとって、眩しく見えた。

「連れが来たから、んじゃね」

恭一は二人の女性にそう言い、鳥羽莉のほうへと行く。

「何あの女」

「ちょっと可愛いからって」

「おい」

二人の女性のその言葉に、恭一は女性達の方を向く。

「あんたらに何を言われようが勝手だけどな、鳥羽莉の悪口はヤメレ。 消し飛ばすぞ」

少々殺気を込めて、恭一は言う。

その殺気に当てられて、女性達は震えながら走り去って行った。

「おとといきやがれってんだよ」

走り去って行った女性達の方を向いて、恭一はそう言う。

「鳥羽莉、気にすんなよ」

「してないわ」

恭一の言葉に、鳥羽莉はすぐに言い返す。

「だって、恭一が、庇ってくれたから」

少々顔を赤くして、鳥羽莉は言う。

「そうか……まぁ出だしは最悪だがよ、これから楽しもうぜ、鳥羽莉」

「うん、恭一」

そして二人は腕を組んで、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼達の優雅な休日

 

 

 

 

 

 

 

「言い忘れたんだけどよ」

歩きながら、恭一が言い出す。

「鳥羽莉見たときさ、マジで眩しかった……目茶苦茶、綺麗に見える」

少々顔を赤くして、恭一は言う。

「いつも綺麗なんだけどさ、今日は余計綺麗に見える」

「ありがとう……」

恭一の言葉に、鳥羽莉も顔を赤くして言い返す。

普段はそんな事はないが、お互いデートになるとこうやって初々しくなる。

「それが楽しみなんだけどねー」

と、恭一達を尾行しながら朱音が言う。

「朱音……やっぱり、止めたほうが良いんじゃない……」

その朱音の隣で、胡太郎が苦笑しながら朱音に言う。

「なんで? 可愛い妹と義弟のデートだもん、お姉ちゃんとして、ちゃんと見届けなくちゃ」

意気揚々に朱音はそう言って、恭一達の後をつける。

胡太郎も苦笑しながら、その後に続く。

「そういえば、恭一たちがどこに行くか知ってるのか?」

「うん、映画村だって」

朱音の答えに、胡太郎はらしいと笑った。

鳥羽莉はああ見えて時代劇などが好きで、特に隠密老中という一大政治変革ドラマがお気に入りである。

昔火乃香がうっかりこのドラマが録画されたDVDを破壊した時の鳥羽莉は凄かった。

火乃香の血を吸いに吸い尽くしかけたのである。

慌てて恭一が止めたが、その恭一も全治2週間の大怪我を負わされたほどである。

それほど時代劇が好きな鳥羽莉とのデートであるから、予想できるといえば予想できるデートコースである。

「あっ、電車に乗るみたいだよ」

朱音の言葉に胡太郎は前を見る。

ちょうど、恭一と鳥羽莉が切符を買って改札をくぐろうとしている所だった。

「私達も行くよ、こたろー」

「はいはい」

溜息交じりに胡太郎は返事をして、恭一たちを追いかけるように電車へと乗り込んで行った。

 

 

 

「結構混んでんだな……」

本日のデート場所、映画村に到着した恭一と鳥羽莉。

「今日はね、隠密老中の撮影があるのよ」

どこか楽しそうに、鳥羽莉が説明する。

「なるほど、それが目当てな訳ね」

苦笑しながら、恭一は言い返す。

「んじゃさ、着替えてくっか」

「そうね」

二人はそして、貸衣装のあるところに行って衣装を借りてくる。

恭一は昔の侍のような衣装を選んだ。

鳥羽莉は恭一の勧めもあり、お姫様の衣装を着ている。

「ちょっと、動きにくいわね」

「まぁ慣れてないもんな」

動きづらそうに歩きながら言う鳥羽莉に、恭一は笑いながら言い返す。

「まぁでも、似合いすぎてるぜ」

ニカっと笑ながら、恭一は言う。

「一様ありがとうといっておくわ」

鳥羽莉も、満更ではない様な笑顔を浮かべて言い返した。

「そういや、撮影まではまだ時間あるんだろ? 色々見てまわるか」

恭一の言葉に鳥羽莉は頷く。

そして、歩き出そうとした瞬間……目の前に洋風の馬車がいきなり突っ込んでくる。

それが恭一たちの前で止まる。

「なんだ?」

少し驚きながらも、恭一はその馬車を見る。

「はぁ〜い、そこの洋館の女主人ですよ〜〜〜」

「………………」

そして、馬車から出てきたのは、洋風の服を着た……朱音。

「剣士さん、今日こそお姫様借金のカタに貰い受けるよ〜〜」

始終笑顔で、扇子のような物を扇ぎながら朱音は言う。

「ちょっと姉さん、どういうつもり……」

「そうはさせんぞっ!!」

鳥羽莉の声を遮って、恭一が叫ぶ。

「鳥羽莉姫をお前達兎月の者達に渡しはしないっ!!」

恭一はそう叫び、腰に挿してあった剣を抜く。

「むっふっふ、良い度胸だね〜〜〜、じゃあこっちも」

朱音がそう言って指を鳴らすと、同じく洋風の服を着た胡太郎が現れる。

「むっ、貴様は兎月の騎士、胡太郎!!?」

胡太郎のほうに剣先を向けて、恭一は言う。

「今日こそ鳥羽莉姫を貰い受けるよ、姫の従者の恭一」

そう答え、胡太郎は中世の騎士が持っていたような剣を構える。

その様子に、周りにぞろぞろとギャラリーが集まってくる。

映画村ではこうやって行き成り街中でお芝居が始まることがよくあるそうで。

観客の殆どはそう思ってこれを見ている。

何より、恭一と胡太郎は演劇部でかなり演劇がうまい。

朱音も鳥羽莉の代役をこなせるほどなので、その実力は高い。

鳥羽莉は、いまだ少々状況が読み込めていないようだが……

「鳥羽莉姫、姫は必ず俺が守り抜いて見せます!!」

鳥羽莉の手を掴み、恭一は言う。

「うっ、うん……頼りにしているわ」

そして、やっと事情が読み込めた鳥羽莉も、役者として自分の役を理解して、恭一に言い返す。

「そのお言葉、万の味方を得たも同じ……行くぞっ!!!」

バッと、恭一は胡太郎に向かって走り出す。

もちろん、人と同じくらいの速さである。

そして、恭一と胡太郎の剣がぶつかり合う。

そこ、お芝居用の剣がぶつかり合ったらまずいとか言う意見は無視だ。

とにかく、恭一と胡太郎はお互いの剣で相手を押し合う。

「おい、こた」

小さく、恭一が胡太郎に話しかける。

「この企画自体はおもしれぇんだけどよ……鳥羽莉とのデートを邪魔したんだ、覚悟しろよ」

ニヤッと笑い、恭一は胡太郎を弾き飛ばす。

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

軽く助走をして、恭一は胡太郎に斬りかかる。

そして、何度目かの打ち合いをし……

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

恭一の剣が、胡太郎の剣を弾き飛ばす。

そして、擦れ違い様に胡太郎を斬る。

雄たけびを上げて、胡太郎は地に臥せった。

「こたろー!」

それを見た朱音が、胡太郎のほうへと走って行く。

「言ったはずだ、鳥羽莉姫は貴様達には渡さないと」

剣を構えながら、恭一は朱音に言う。

「うぅぅ、今日のところは退いておいてあげるよ〜〜〜」

朱音はそう言って胡太郎を馬車の中にほりこんで走り去って行った。

「鳥羽莉姫、無事でしたか?」

頭をたれて、恭一は鳥羽莉に尋ねる。

「えぇ、あなたのおかげよ」

笑いながら、鳥羽莉は恭一に答える。

「では、行きましょう」

そう言って恭一は鳥羽莉の手を持って歩き出す。

その姿にお芝居が終わったと思ったのか、観衆達が拍手を送る。

「どうも、どうも」

手を振って、笑顔を振りまきながら恭一は鳥羽莉を連れて歩いて行った。

 

 

 

その後、朱音たちとは一度も会わなかったが、二人は予定通り隠密老中の撮影を見学。

鳥羽莉は常に興奮のしっ放しで、たいそう喜んでいた。

恭一も、鳥羽莉のそんな嬉しそうな笑みを見て喜んでいた。

そして、夜二人は帰宅して……

「おかえり〜〜」

「おかえり」

玄関で、朱音と胡太郎が出迎える。

「よっ、義姉さん、こた、ただいま」

「ただいま」

片手を軽く挙げて、恭一は挨拶をし、鳥羽莉は普通に挨拶をする。

「それにしてもよ、いきなり演劇始めるとは……流石に驚いたね」

胡太郎の頭をくしゃくしゃに撫でながら、恭一が言う。

「本当よ、姉さん達行き成り現れるんだもの」

鳥羽莉も溜息をつきながら言う。

「でも、おもしろかったでしょ?」

悪びれず、朱音は言う。

「まぁな、あの場所にいた全員に、鳥羽莉は俺のものっつう事も知らしめてやったしな」

満足げに、恭一は言う。

あの時、もとより綺麗な鳥羽莉がお姫様の服装をしていたこともあってかなり人目を引いていた。

だが、あの劇の時に言った恭一の言葉に大体の人が鳥羽莉と恭一の関係を察したようだった。

まぁそれでも……恭一のいない間に鳥羽莉に言い寄ろうとした馬鹿な連中もいたが……

もちろん、鳥羽莉に一瞥され、強引に行こうとした時に恭一によって退場させられた。

「つーかよ、義姉さん達もデートすりゃ良いのに、俺達の後つけてくるんじゃなくてさ」

全員で居間に移動しながら、恭一が朱音に言う。

「私の場合、家でこたろーと一緒にいるほうが楽しいから良いの」

「うわっ、義姉さんその歳でプチひきこもりかよ……」

自信満々に言う朱音に、恭一は苦笑いを浮かべながら言い返す。

「ひきこもりじゃないよ、家でいるほうが楽しいだけ」

「それをひきこもりというんじゃないかしら……」

「鳥羽莉ちゃんまでー」

鳥羽莉にまで言われて、朱音はいじけ出す。

胡太郎の背中に乗っかかって、背中に胸を押し当てているのだが……

「なんで、僕に……」

胡太郎は背中に当たる胸の感触に戸惑いつつも朱音に言う。

「義姉さんの洗濯板押し当てられて嬉しそうだな、こた」

ニヤニヤと、意地の悪い笑を浮かべて恭一は言う。

「きょーいち! 洗濯板って言うのは酷いよっ!!」

ぶーと頬を膨らませて、朱音は恭一に言う。

「だって、義姉さん転化したその日から成長してないんだろ?」

「それは鳥羽莉ちゃんだって同じだもん!」

朱音が鳥羽莉を指差しながら叫ぶ。

「あっ、あの姉さん……姉さんには申し訳ないんだけど……」

その鳥羽莉が、どこか言いにくそうに朱音に言い出そうとする。

「鳥羽莉はな、俺に血を吸われてからちょっとずつだけど成長してるんだよ、義姉さん」

そんな鳥羽莉の心情を察したのか、恭一が朱音に言う。

「へっ?」

「……マジ?」

素っ頓狂な声を出す朱音と、呆けた顔をしてたずねる胡太郎。

「あぁ、俺らの種類の吸血鬼はちゃんと成長していくんだよ、まぁある一定の所で止める事もできるけどな」

笑いながら、恭一が言う。

「つまりだな、自分が一番良いと思えるプロポーションを維持できるわけだ……義姉さん達、成長が止まっちまった吸血鬼とは違ってね」

恭一の言葉に、朱音の体がワナワナと震える。

「ずっ、ずるいーーー!! 鳥羽莉ちゃんときょーいちだけずるいずるいずるいずるいずるい!!」

駄々っ子のように、朱音が言う。

「私だってもっと胸をバイーンとか、お尻をボンッってしたいのにーーー!」

「おいおい、少しは落ち着けよ」

暴れだす朱音に向かって、恭一は宥める様に言う。

「方法がないって訳じゃねぇんだぜ?」

「ほんとっ!?」

期待を込めた眼で、朱音は恭一を見る。

「でも、教えない」

最高に良い笑顔で、恭一は言った。

「…………きょーいちっ!!!!」

叫びと共に、朱音の眼が真紅に染まり、思いっきりパンチが飛び出す。

「おっとっ!」

それを難なく交わして、恭一も吸血鬼の力を解放し、アメジストの眼が真紅に染まる。

「待てーーーーーっ!!」

そして、その恭一を追いかける朱音。

「あははははははっ!!」

その朱音を、笑いながら何とか引き離す恭一。

笑いは耐えない。

幸せな日常に、きっと終わりはないから。

だから今日も、吸血鬼達は日々を過ごす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

吸血鬼シリーズ第5弾〜〜〜

フィーア「連続更新ね」

まぁ、途中違う物もはさんだけどね……

フィーア「あんたにしては珍しく毎日書いてるじゃない」

あれだけお仕置きされればね……

フィーア「うんうん、やっと私の愛の偉大さに気付いたのね」

…………ごめん、寒気がした。

フィーア「なんですってっ!!」

ごぶらっ!!

フィーア「こんな美少女にこんな事言わせて何言うのよっ!!」

いてっ! 痛いって!! 文脈がおかしいって!!

フィーア「塵芥一つ残すものか」

それはアーリィお姉様のセリフ……

フィーア「消えろぉっ!!」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

フィーア「ふぅ、全く……ではでは〜〜〜」





アハトさん、あいも変わらず(ホロリ)
美姫 「愛とは力よ!」
こらこら、そこ、物騒な事を口にしない。
美姫 「え〜」
え〜、じゃない。
ともあれ、連続更新おめでと〜。
美姫 「よく頑張ったわね、フィーア」
いやいやいや。頑張ったのはアハトさんだから!
美姫 「私も頑張らないとね」
いやいやいや、頑張るのは俺だから。
美姫 「さっきから、うるさいわよ!」
ぶべらっ!
美姫 「それじゃあ、まったね〜」



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