「学園長先生……」

「なんじゃ?」

目の前にいる妖怪ヘッ…ゲフン、ゲフン…麻帆良学園学園長へと、魔璃は声をかける。

「何故、私はこんな所に呼び出されているんでしょうか?」

眉間を押さえながら、魔璃は尋ねる。

魔璃の目の前には椅子に座った学園長、魔璃の後方には麻帆良学園広域指導員タカミチ・T・高畑。

更にその隣には、ガンドルフィーニ教諭も控えている。

「無論、キミに聞きたいことがあるからじゃよ」

少し笑いながら、学園長は言う。

「月村 魔璃くん、キミの母親は吸血鬼じゃな?」

「えぇ、分類学上はそうである、と母からも聞き及んでいます」

学園長の問いに、魔璃は答える。

「そして、父親は裏では有名な御神流を使う黒衣の剣士で間違いないかの?」

「態々調べている事を、私に尋ねられなくても宜しいのではないですか?」

無表情に、魔璃は答える。

その瞳は、僅かながらに冷たさを秘めていた。

「ほっほっほ、気分を悪くしたようじゃな、すまんかったの」

そんな魔璃を見て、学園長は苦笑しながら謝罪する。

「いえ、こちらこそ学園長に対して不遜な態度を取ってしまいました」

そう言って、魔璃は頭を下げる。

「実はの、キミに頼みごとがあるんじゃよ」

「頼み、ですか?」

学園長の言葉に、魔璃はたずね返す。

「うむ、キミに夜の学園警備をお願いしたいのじゃよ」

その言葉に、魔璃は驚く。

「最近学園に侵入してくる魔物の数が増えてきての…今いる魔法先生、魔法生徒だけでは少々厳しくなっておる」

「あの、学園長先生?」

「ん、なんじゃ?」

説明を続けようとする学園長に、魔璃は声をかける。

「つかぬ事をお伺いしますが……学園長先生は、私が魔法を一切使えない、と言うことをご存知ですか?」

魔璃の言葉に、一瞬沈黙が部屋に満ちる。

「魔璃くん、今何と?」

「ですから、学園長先生はもちろん、魔法先生の方々も私が魔法を一切使えない、と言うことをご存知ですか、と」

 

その日、学園長室から凄まじい驚愕の声が聞こえたのは言うまでも無い……

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、仮の、仮契約(パクティオー)

 

 

 

 

 

 

 

学園長室から出てきて、魔璃はとある場所へと歩みを進めていた。

そのとある場所と言うのも、エヴァの家なのだが……

(ふぅ、まさか学園長先生達が私が魔法を使えない事を知らなかったなんて)

内心ため息をついて、魔璃は歩く。

「おい、魔璃」

そんな魔璃に、呼び声が掛かる。

「エヴァ姉さん、どうかしましたか?」

声をかけて来たのは母の知り合いでもあるエヴァンジェリンである。

幼い頃から交友がある為、魔璃はエヴァと二人でいる時は姉と呼んでいる。

「なにやらじじぃに呼ばれたと聞いたんだが、何かあったのか?」

少し心配気味に尋ねるエヴァ。

「いえ、夜の警備をお願いしたい、とのことです」

そんなエヴァに、魔璃は苦笑しながら答える。

「ですけど、私は魔法なんて使えませんので、辞退したんですけど……」

「まぁ、お前の周りに魔法を教えてやれるようなやつはいないからな」

魔璃の言葉に、エヴァは納得する。

魔璃は夜の一族、と言う人外の一族の吸血鬼に分類はされてはいるが。

エヴァ達のような吸血鬼と違い、魔法は使えない。

精々傷の治りが早いや、運動神経などが発達しているぐらいである。

「だが、お前にはヤツラ譲りの強大な力がある事は確かだぞ?」

小さく笑いながら、エヴァは魔璃に言う。

「えぇ、ですから少しエヴァ姉さんにお話があったので、ちょうど会えてよかったです」

話しながら少し歩き、二人は森の中にあるエヴァの家にたどり着く。

「力があっても使い方を知らなければないも同然、ですがもし使い方が判るようになれたら」

突然、真剣な表情になって、魔璃はエヴァの前で片膝をつく。

「それは何よりも護る為の力にもなります……師事を、願えますか?

我らが吸血鬼の長たる真祖が一人、エヴァンジェリン・AK・マクダウエル」

しゃがんでいる為に、見上げるような形でエヴァに尋ねる魔璃。

「吸血鬼の長たる真祖が一人、エヴァンジェリン・AK・マクダウエルの名において」

その魔璃の頭に片手を置き、エヴァは言い出す。

「吸血鬼の血を受け継ぐ娘に、我が血の祝福を…闇に鳴り響く、福音を」

刹那、二人を包み込むように地面に魔法陣が形成され、光りを放つ。

「我が名において、その契約を結ぼう」

エヴァの言葉と共に光は一段と輝きを増し、そして一気に弾ける。

「これで取りあえず完了だ……どうだ、魔璃?」

「何となく、不思議な感じですね……別段変わった感じはありませんが」

エヴァの問いに、魔璃は立ち上がって答える。

「まぁ唯の確認の儀式みたいなものだからな。 だが、形だけとはいえ、お前は私の従者と言うことになる」

魔法使いの従者(ミニステル・マギ)、ですか」

「あぁ、不服か?」

「いえ、師事を仰ぐと言った時点で私はエヴァ姉さんの僕も同然ですから」

エヴァの問いかけに、魔璃は何も気にしていないと言う風に答える。

「むしろ、吸血鬼の従者になっていない分、待遇が良いと言うものです」

そして、魔璃は少しからかう様にエヴァに言う。

「勝手にお前を吸血鬼の従者などにしてみろ、お前の両親はおろか、夜の一族全てを敵に回しかねん」

そんな魔璃に、エヴァは苦虫を噛み潰したような表情で言い返す。

娘には激甘な月村夫妻、もとい恭也。

その恭也が、娘が勝手に吸血鬼の従者にされた、などと聞けば大事になりかねない。

月村が敵に回れば、自動的に友好関係にある綺堂も動き、挙句の果てに御三家最後の一つ、氷村も動きかねない。

「さしもの私も、国内の夜の一族を全て敵にまわす気はないさ」

「それは残念ですね…【闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)】の勇姿を見られると思ったのですが」

やれやれと言う風に言うエヴァに、魔璃は苦笑しながら言い返す。

「ふっ、何れお前には嫌と言うほど見せてやるさ……この私の完全な従者としてな」

勝気な表情で、エヴァは魔璃に言う。

「期待しておきます。 それはさておきエヴァ姉さん」

「なんだ?」

「私は、一様エヴァ姉さんの魔法使いとしての従者なんですよね?」

「あぁ、ちゃんとした仮契約(パクティオー)ではないがな」

魔璃の質問に、エヴァは答える。

「では、アーティファクトなどもないのですか?」

「残念だが、ないな…ちゃんとした仮契約なら契約の証のカードが現れるんだが……」

少し期待に満ちた表情で問う魔璃に、エヴァは少し気まずそうに答える。

「そうですか…少し気になったんですけど……まぁ、いいです」

そんなエヴァに気を使ったのか、魔璃は小さく笑って言い返す。

「私には、父さんから受け継いだこの小太刀と、母さんの実験の試作品のこの小太刀がありますから」

そう言って、魔璃は背中の少し前よりから一刀の小太刀と、右の腕の袖から小さいナイフを取り出す。

「それはなんだ?」

「私達の流派で使う武器ですよ、エヴァ姉さん」

それを見て問うエヴァに、魔璃は答える。

「この小太刀は八景といいまして、父さんの家に伝わる伝承刀です。 こちらのナイフは、母さんが作った試作品の小太刀なんですけど……」

「ん? ナイフじゃないのか?」

「実演してみた方が早いですね。 こうしますと……」

そう言って、魔璃がそのナイフを手首を軸に一回転させると……

「なっ!!?」

その変化に、エヴァが驚く。

エヴァの目の前で、ナイフの大きさだったものが、いきなり小太刀に切り替わる。

「更に回転させますと」

クルクルと、魔璃はその小太刀を回して見せる。

すると、その小太刀が普通の刀と同じ大きさになる。

「母さんが開発した特殊制御システムを内蔵した連装刀、私は焔と呼んでいます」

また回転させ、元のナイフの大きさに戻して魔璃は言う。

紅き刀身から、炎を連想してそう名づけられたものである。

「どんなつくりなんだ、それ?」

疑問が尽きない、と言った感じで尋ねるエヴァ。

「この柄の部分に、母さんご自慢の特殊制御システムが組み込まれているらしくてですね。 このシステムの中にあるセンサーが私の手首周りを認識して、回転数に応じて大きさを変化させるんです」

「凄まじいな……魔法使いには早々思いつかん発想だ」

魔璃の説明に、エヴァは心底感心する。

「これの原型は、夜の一族に伝わるオーバーテクノロジーだそうです。 力の弱い一族の者が、護身用にと作ったものだそうですから」

力が弱いといっても、夜の一族であるからして人よりは身体能力は高い。

本来の連装刀は、コンバットナイフの一号刀から、2mを超す巨大な六号刀まで変化するものなのだが。

さすがに忍が親戚であるさくらに持って来てもらった物は劣化していた。

そこで忍は娘の魔璃でも使える様にと、最大の大きさを普通の刀と同じ大きさまで小さくして、復活を試みたのだ。

「まぁ、さすがに中枢のシステムはかなり失われていたようなので、3段階の変化しか出来ませんが」

「それでも大した出来だ……持ち運びにはかなり便利じゃないか」

「代えが利かない、と言う点では結構不便ですけどね」

苦笑しながら、魔璃は説明を終える。

「では、これから魔法に関しての修行をお願いしますね、師匠(マスター)

小太刀をニ本とも仕舞い、魔璃はエヴァに言う。

「あぁ、任せておけ。 どこに出しても恥ずかしくないように鍛えてやるよ」

それに、エヴァもニヤリと笑いながら言い返した。

 

 

後に知られる、真祖に寵愛されたハーフの吸血鬼の娘の物語の一ページ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

やってしまったよ、新企画。

フィーア「随分前の雑記に送ったネタのやつね」

まぁ、基本の形は出来ていたから、後は話を作るだけだったんだけどね。

フィーア「これも、短編集?」

うむ、ボクの場合変に長編にしてしまうと長続きしないような気がしてね。

フィーア「まぁ、最後まで書ききったのって殆どないからねぇ」

だから、今回も短編集と言う形を取らせてもらおうと思います。

フィーア「そういえば、なんで忍はエヴァとかと知り合いなの?」

麻帆良大工学部に特別講師で呼ばれて、その時に茶々丸を見たのが切っ掛けかな。

フィーア「それで、同じ吸血鬼ってことで知り合いになったわけ?」

そんな感じ。 それで忍も恭也も何度か麻帆良には来ていて、魔璃も小さい頃からエヴァと仲が良かったってわけ」

フィーア「またその辺は書くつもりなの?」

難しいかなぁ、出来れば書いてみたいところでもあるけどね。

フィーア「じゃ、次回は?」

取りあえず、未定。

フィーア「……ふざけるなぁっ!!」

あぶはらぁぁっ!!

フィーア「毎回毎回ふざけた事ばっかり言ってくれちゃって」

ふっ、ふざけてはないよぅ……

フィーア「やれやれ…ではでは〜〜〜」





雑記のネタとしてやっていたものが、こうしてお披露目。
美姫 「いや〜、連載じゃないなんて〜」
確かに。だが、こちらも堕ち鴉みたいな感じで書かれるみたいだぞ。
美姫 「それは楽しみね♪」
うんうん。続きがどんな話になるのかというのも楽しみだが、忍や恭也との出会いもちょっと見てみたいかも。
美姫 「次回がどんなお話になるのか、楽しみにしてますね」
待ってます。



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