それは、どこともわからない場所……

「なるほど……敵の中に、あいつがいたと」

漆黒のフード付のローブのようなものを着た男が言う。

「あぁ、忌々しいね……また、私達の邪魔をしようとしているんだからね」

それに対し、こちらは緑の服を着た女性が言い返す。

「――――、お前のマスターはもう見つけたのか?」

ローブを着た男が、その緑の服を着た女の後ろに向かって言う。

「えぇ、素質のありそうなのは見つけたわ……後は、此方に引き込めれば……」

そこから、紫の服を着た少女のような外見の女が現れる。

「そうか……ならば、そろそろ俺も挨拶に行かんとな」

苦笑しながら、男が言った。

「無論、わたしも一緒に行くからな」

「そうなれば、当然私も一緒に行きます」

その男の言葉に、二人は声をそろえて言う。

「――――、お前はここに残れ」

「あら、それだったら――――こそ、主幹の指示があるまで待機しているべきじゃない?」

そして同時に、相手に睨みをきかせながら言い合う。

「俺は一人で行くつもりなんだが……」

そこに、男が苦笑しながら言い出す。

「「駄目だ(です)!!」」

しかし、言い合っていた二人は同時に男に向かって言う。

「お前の実力の高さは知っているが、わざわざ一人で行く事もないだろう。 私がついて行ってやるから安心しろ」

「いいえ、――――よりも私のほうがお役に立てると思うわ」

そしてまた言い合いになる二人。

「はぁ……だったら3人で行くか?」

軽くため息をついて、男が言う。

「ふん、お前がついて来て欲しいというならしょうがないな」

「素直じゃないわねぇ……」

その言葉に言い合いをしていた女二人も軽く笑う。

「しかし、――――がいるのに――――がまだ目覚めていないというのが気にかかるな……」

「あいつが目覚める? 何を馬鹿なことを……あいつの、――――の体は私が手に入れたんだ」

少し殺気を込めて、緑の服の女が男を睨みつけながら言う。

「あぁ、気を悪くしたんならすまないな――――……1000年前にも言ったが、俺はお前達の側から離れはしない」

「ふっ、ふん……わかってるならいいんだ」

男の言葉に、少し顔を赤くして女はそっぽを向く。

「では、行くか……――――と――――は?」

「あの二人ならまた勝手にどこかに行ったわよ……主幹の命令がない以上、下手に動かれては困るのに」

紫の服の少女が答えながら溜息をつく。

「あいつらは戦うことに快楽を見出しているからな……大事にならなければ問題あるまい。 あいつらも、そこそこの実力者だからな」

「お前の足元には及ばんがな」

男の言葉に、緑の服の女は笑いながら言う。

「当然だろう?」

その男の言葉に、緑の服の女も紫の服の少女も、改めて実感した。

この男の側にいられる事が、こんなにも幸せだという事に……

それと同時に、これからこの男と敵対しなければならない救世主候補と呼ばれる者達に少し同情した。

実力差もさることながら、この男の戦術眼、卓越した体術……そして、この揺るぎない信念。

(この男に勝てるのは神か、それとも覚醒した救世主ぐらいだろうな……)

緑の服の女はそんな事を思いながら、目的の場所へと進みだした……

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の剣士、破滅の中の朱

 

 

 

 

 

これは私が書いた【哀しみの戦争へと続く道】の続編的扱いです。

言葉遣いなどの違いがあるかもしれませんが、お許しください。

時間軸は【DUEL SAVIOR】です。

では、どうぞ……

 

 

 

 

 

その日は、定期的に行われる救世主候補同士の模擬戦闘の日だった。

大河を始め、リリィ・未亜・リコ・ベリオ・ナナシ・カエデの7人の救世主候補。

そして試験官でもあるダリアと、特別に今日はミュリエル学園長も来ていた。

ミュリエルが来ているということでいつもよりやる気を出すリリィ。

「じゃぁ〜今日の一回目は〜〜」

懐から10面ダイス2つを取り出し、ダリアが言う。

「相変わらず気の抜けるしゃべり方だな……」

ボソッと、大河が言う。

「はい、大河君減点ね〜〜」

「うげっ!!」

それがどうやら聞こえていたらしく、大河は叫ぶ。

「ばっかみたい」

それに対し、ふふんとリリィが鼻で笑う。

「くっ、くそぉ……」

拳を握り締め、大河は震える。

この後大河に負けたらやましい事をされそうな気迫である……

そして、ダリアがダイスを投げようとした瞬間……

 

 

「その勝負、預からせてはもらえないかな」

 

 

透き通るような、男の声が響いた。

全員が驚き、闘技場の向こう側……大河達がいる反対側に視線を向ける。

そこには……

「ロベリアっ!!!」

「イムニティ……!」

大河とリコが、そこにいる二人の名を叫ぶ。

前回の戦闘で戦った相手である。

そして、その二人の真ん中には、黒いフード付のローブを着た男が立っていた。

顔はローブの影によって見えなかった。

「破滅の将の二人が単独でこんな所まで来るとはな……いい度胸じゃねぇか!!」

あらん限りの声で、大河は叫ぶ。

「ふん、いい気にならないほうがいいよ、坊や」

妖艶な笑みを浮かべ、ロベリアが言う。

「ほぅ……そこにいるのはミュリエルか……」

そして、そのロベリアの言葉に皆がミュリエルの方を見る。

「人違いではありませんか……」

しかし、当のミュリエルは驚いた節も、取り乱した感じもなく言い返す。

「まぁいいわ……今日はお前に用があったんだよ、赤の主」

ロベリアは持っていた剣を大河に向け、言う。

「俺は用なんてないね」

言って、大河もトレイターを呼び出す。

他の皆も己が召還器を呼び出し、構える。

「ふむ……中の、下……と言った所かな……」

その大河たちを見て、男はポツリともらす。

「なんですって……」

聞こえたのか、リリィが殺気を込めて男に言う。

「貴様らの実力では破滅を止める事など出来んと言ったのだ」

キッパリと、男はリリィに向かって言う。

「ふん、だったら出来るかどうかあんた自身で試してあげるわっ!!!」

言って、リリィは魔法を唱える。

「ヴォルテックスっ!!!」

強大な雷が、男目掛けて放たれる。

しかし、男は避けようともせず、その雷をまともに受ける。

「大口叩いた割にはあっけないわねっ!」

リリィはそういうが、その男の隣にいるロベリアもイムニティも少しも取り乱しはしない。

「さぁ、次はお前達の番だぜ!!」

トレイターをロベリアに向けて、大河が叫ぶ。

「めでたいやつらだ……こんな事で、本気でこいつを倒したつもりか」

馬鹿にするように、呆れたようにロベリアが言う。

「そうね……彼の実力を見くびっているわね……教えてあげたら、オルタラ?」

その言葉に、リコはハッとする。

先ほどから感じていた微量の魔力……いや、嘗て感じたことあるこの感じは……剣気……

「まさか……その人は……」

震えながら、リコはその燃えている男を指出す。

「そうだ、久しいな……オルタラ……いや、今はリコ・リスだったな」

バッと、男は来ていたローブを脱ぎ捨てた。

その瞬間、男を包んでいた炎は一瞬にして消え去る。

 

「「っ!!!?」」

 

その男の顔を見て……リコと、ミュリエルの表情が驚愕に変わる。

「お初に目にかかる……俺の名前は恭也……不破 恭也だ」

黒い髪に、黒い瞳をした男が、名を名乗った。

「恭也……さ……ん……」

驚きと、信じられないと言う考えで……リコは、震えながら、恭也の名を呟く。

「イムニティ、結界を張ってくれ……そうだな、赤の主とオルタラ、俺を同じ空間軸で固定。 後は好きにしろ……相手にもならん」

恭也の言葉に頷き、イムニティは呪文を唱えだす。

「私とイムニティも行こう……ギャラリーは多い方がいいだろう」

「ふっ、好きにすればいい」

言葉の後、恭也達の視界が変わった……

 

 

 

気が付くと、そこは先ほどまでの闘技場ではなかった。

見えるもの全てが歪んでいる……そんな場所だった。

「さぁ、ここなら邪魔されずに戦えるだろう……赤の主よ」

「さっきから赤の主赤の主ってなぁ、俺の名前は当真大河だっ!」

トレイターを構えて、大河は叫ぶ。

「ふっ、ならば当真大河よ……俺に、お前の実力を見せてもらおうか」

言って、恭也は腰に差してあった小太刀を一刀、抜き放つ。

「恭也さんっ!!!」

それを見たリコが、悲痛そうな表情で叫ぶ。

「なんのようだ、オルタラ……もう俺はお前達『赤』とは関わりはないぞ……俺は『白』だからな」

「っ!!!」

その言葉が、リコの胸に突き刺さる。

「おいリコ、あいつとは知り合いなのか?」

横目でリコを見ながら、大河はリコに尋ねる。

「彼は…恭也さんは…1000年前のメサイアパーティーの……一人です」

ポツポツと、リコが言った。

「なん……だって……」

呟いて、大河は目の前の恭也を見るがとても1000年をこえたようには見えなかった。

「時空断層を超えて俺はこの時代に来たのだ」

そこに、恭也が言う。

1000年前の救世主戦争……俺達は最初は破滅を倒すために、まぁ俺は当時の救世主候補達にその実力を見出されてついていた傭兵のような男だった」

1000年前のアヴァターで、彼らは出会った……

ルビナス・フローリアス、ロベリア・リード、ミュリエル・シアフィールド、アルストロメリア・バーンフリート。

そして、当時は名前を変えていたオルタラと、イムニティ。

途中立ち寄った街でであった……一人の剣士である、不破 恭也。

「ある日、この7人の内の二人が赤の主と白の主に選ばれた……当然、この二人の意見は正反対のものだ」

赤と白は相容れぬもの……救世主となって、赤か白……どちらかの理を持って世界を作り変える。

「赤の主となったルビナス・フローリアスには、赤の書の精であるオルタラが、ミュリエル・シアフィールドが、アルストロメリア・バーンフリートがついた」

この四人の実力は高く、破滅を撃退する事も出来ていた。

「しかし、白の主となったロベリア・リードには白の書の精であるイムニティしか、最初はついていなかった……戦力差というものがあり、破滅は追いやられていた」

恭也の言葉に、リコの脳裏のあの日の記憶が甦る……忘れもしない、あの日が……

「だが、ある日一人の男が破滅の側へとついた……そしてそれまで優勢だった救世主側は、一気に敗走が増えだした……」

あの日、あの時に……彼は、目の前にいる不破 恭也はルビナス達の目の前で破滅へとその身を投じた。

まさにそれこそが、一連の敗走の原因だ。

「が、結局的には救世主側の勝利に終わった……後は、お前が知るとおりだ」

皮肉気に笑いながら、恭也は言う。

「俺は、あの時無様にも生き残った……護ると誓いながらも、その誓いを果たせなかった……だから、俺は今こそ誓いを果たす為に、この時代へとやってきたんだ」

言葉と同時に、恭也は駆け出していた。

一瞬にして間合いをつめ、大河の前に現れる。

「ぐっ!!?」

まさしく、突然目の前に恭也が現れた事により大河の反応が遅れ、大河はトレイター越しに吹き飛ばされる。

「マスターッ! 恭也さんっ!!!」

リコは叫びと同時に捕縛呪文を唱え、恭也の体を拘束する。

恭也の足元に魔法陣が出来、そこから出てきた鎖が恭也を束縛する。

「退いてください、恭也さん……そして、もう破滅には関わらないでくださいっ」

悲痛な表情で、リコは恭也に言う。

「それは、俺にロベリアやイムニティを裏切れ、と言いたいのか?」

リコを見ながら、恭也は言う。

その視線に、リコは一瞬気おされるが、何とか踏み留まる。

「あなたは、操られているんです……じゃなければ、あなたが破滅につくなんて……」

あの日から、ずっと信じられなかった……恭也が……初めて好きになったこの人が、敵に回ったなどと……

「オルタラ……いくらお前とて、言っていい事と悪い事があるぞ」

凄まじい殺気を込めながら、恭也はリコに言う。

純粋な殺気が、リコを射抜く。

「あ…あぁ……あぁぁああ……」

初めて向けられた、その視線に……リコは動けなくなる。

「俺は、俺の意思でロベリア達と共にある事を望んだのだ……」

言って、恭也は小太刀を握りしめる。

「それに、忘れたか……俺に、魔法は効かんっ」

刹那、恭也を捕らえていた鎖が全て切り裂かれる。

恭也は魔法を使えない……使えないが、有り余る魔力が、その体には蓄えられている。

「この魔法無力化と魔法解除の力は、お前とイムニティから受け取ったものだったな」

前衛で戦うには、余りにも魔法に対する抵抗力がないから……当時オルタラとイムニティはその身にある魔力に対して細工をした。

それが、魔法無力化の体質と、恭也の使う武器全てに行われる、魔法解除の力。

「リコォッ!!!」

そこに、突撃槍で突進してくる大河。

ハイスピードで向かってくる大河に、恭也はある構えを取る。

その構えにリコは息を呑んだ。

1000年前に見たときは、その変化の多様さに、思わず見惚れてしまった……技。

恭也本人は余り得意ではないといっていたが、それでも、素晴らしいと思った、その技は……

「マスターっ!! いけませんっ!!!」

知っているからこそ、リコは叫ぶ。

今の大河では、あの技は絶対に防げない……そして、恭也が放つ技は……

 

 

―――――――御神流(みかみりゅう)(うら) 奥義之参(おうぎのさん) 射抜(いぬき)―――――――

 

 

大河の突撃槍の先端と、恭也の小太刀の先端がぶつかり合う。

しかし、ぶつかり合った瞬間、恭也の体がぶれる。

その一瞬の間に恭也は体の重心をずらし、大河の内側へと潜り込む。

そしてもう一方の小太刀を勢いよく振りぬき、大河の手からトレイターを弾き飛ばす。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

さらに追い討ちを掛けるように、ずらした勢いで大河を蹴り飛ばす。

「がっ!!!」

凄まじい衝撃を体の中に受け、大河は容易に吹き飛ぶ。

「ほぅ、久しぶりに見たな……衝撃を体の内側に徹す恭也の技……『徹』を」

その一連の動作に、ロベリアは納得したように言う。

恭也の腕は落ちるどころか日に日にあがっている……それがロベリアの感想である。

さらに言えば、それが自分達の為だと言う事に、ことさら喜びを感じる。

「マスターッ!!」

リコが叫びながら、大河の元へと駆け寄る。

「どうだ恭也、今回の赤の主の実力は」

ロベリアが恭也に近づき、尋ねる。

「ふむ……鍛えればモノになるかも知れんが……今のままでは宝石の原石となんら変わりはない」

そう答える恭也の右腕に、一筋の血が流れる。

「まさか傷を負わされるとは思わなかった…敵を過信してはいけないと思ってはいたが、これでは立つ瀬がないな」

流れ出る血を見て、恭也は言う。

「オルタラよ、今日は挨拶だけしに来たんでな、ここら辺で失礼する」

小太刀を鞘に戻し、恭也はリコに向かって言う。

「今のままの救世主候補では100%破滅を食い止めることは不可能だ」

そして、厳しい現実と言うものを、知らしめる。

「強くなりたければ、あいつを……俺のライバル兼パートナーであるロベリアと双璧をなした救世主、ルビナス・フローリアスを甦らせる事だ」

その言葉に、リコはおろかロベリア、イムニティも驚いて恭也を見る。

「ミュリエルの教えでは魔法に偏る……その男を鍛えるには、やはり剣士としての救世主も必要であろう」

そう言って、恭也はリコ達に背を向ける。

「次にあう時は、容赦はせんからな」

言葉と共に、恭也たちを魔方陣が包む。

「恭也さんっ!!!」

消えていく恭也に向かって、その名を叫ぶリコ。

「また、いつか敵としてではなく、味方として共に戦いたいな」

その言葉だけが、リコの心に響いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

なんとなく書いてしまった続編SS……

フィーア「今回はいきなり1000年後だもんねぇ……恭也はどうやって時空を超えたのかしら」

まぁ、前の戦いで恭也はリコに強制転移させられたんだよ。

フィーア「戦えないならどこかに飛ばしてしまおうって事?」

そういうこと。 で、その時は咄嗟だったのに加えて恭也自身の保有魔力量の膨大さが時空の狭間で交じり合ってしまった。

その力の所為で恭也はいきなり1000年後のアヴァターに吹き飛ばされてしまった、って言う事。

フィーア「じゃあどうやって恭也はロベリア達と合流したの?」

それは、恭也がアヴァターの中で戦っているときに放った力というか、そんなものをイムニティが感知したんだよ。

そして、イムニティはもしやと思い言ってみると、そこには恭也がいたって言うわけ。

フィーア「変にややこしいわね……」

自分でもそう思うよ……

フィーア「でも恭也の性格ちょっと違うんじゃない?」

うぅん、それは思ったんだけど……見逃して欲しいかな。

フィーア「やれやれ」

まぁ、今回はこの辺で。

フィーア「ではでは〜〜〜」





という訳で、続き〜。
美姫 「まさか、続きが投稿されるなんてね〜」
うんうん。感謝、多謝です。
美姫 「破滅側へとついた恭也」
それを悲しむリコ。
でも、今回のだけを見ると、大河を鍛えるためにっぽくも見えるな。
美姫 「その真意は不明なのよ」
こういうのも良いな〜。
美姫 「アハトさんには感謝を」
それでは、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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