恋姫†無双戯曲 −導きの刀と漆黒の弓−
−序章−
竹刀と竹刀、竹刀と防具、防具と防具。それらがぶつかり合う乾いた軽やかな音が絶え間なく響き渡る聖フランチェスカ学園剣道道場。そこで一人別格の強さを見せ付けていた男が一人、深く息を吐きながら面を外していた。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………」
「北郷お疲れ」
「北郷君、お疲れ様」
「うい、おつかれ〜」
にこやかに挨拶して道場を出て行く仲間達に笑顔で手を振る彼は北郷一刀。この剣道部では誰もが一目置くほどの実力者であり、
「……ねぇねぇ、北郷君ってああやってみると意外と……♪」
「……うんうん♪ 結構可愛い顔してるよね♪」
「しかも強いし、優しいし♪」
「あら、貴方達もようやくあの方の魅力にお気づきになられましたか」
元がお嬢様学校だったためか未だに過半数を占める女子部員達の間では隠れた人気者でもある。真に残念なのはこの女子剣道部員達の暗黙の了解として北郷一刀は皆のものというルールが存在している事であり、それによって彼女達からは決して一歩進んだアプローチがないと言う事だ。ようするに一刀が選ぶのならばそれを心から祝福するが、自分からモーションをかければ吊るし上げを食らうという仁義無き掟。決して異性に興味がないわけではない、むしろ彼女が欲しいと常日頃から思っている一刀は、しかしこのルールのせいで女の子達からモーションをかけられることもなく、また彼自身人の気持ちに関してはかなり鈍いためにただ一言声をかければいいだけのこの状況から抜け出せずに、俺ってモテないからなぁ、と勘違いな毎日を過ごしているのであった。
「なんやお前にはたまぁ〜に殺意とか覚えるわ、かずピー」
と、そんな一刀の背後から声をかける関西弁の男が一人。
「!? なんだ及川か。やれるもんならやってみな」
いきなりで少々驚いたものの、相手が分かると親しげに軽口を叩く一刀。及川もまたそんな一刀に笑いながら近づく。
「で?お前がこんな所になんのようだ?」
「なんのようってかずピーそらないで!? 理事長から出された宿題覚えてへんのか?!」
「?宿題……あー」
「ようやく思い出したか。そやそや。学園の敷地内に歴史資料館こさえたから休みの間に見学して感想文書いて来いって」
「まったく。何処の小学校の宿題だよ……んで? たしか一緒に行こうって言ってたけど。……今日行くのか?」
「せや。見たところかずピーもう練習終わりみたいやし、不都合はないやろ?」
そう言ってもう今日行く事が完全に決まっているかのように話を進める及川。防具を片付けながら話を聞いていた一刀はそんな及川の言葉を否定せず、代わりに、
「たしかにそのとおりだが、なんだって急に今日なんだ?」
と面をしまいながら肩越しに及川を振り返る。
「ま、ついでってヤツや♪」
「ついで? ついでってなんの?」
「で・ぇ・と♪ にきまっとるやないか」
妙に身体をくねらせながら嬉しそうにそういう及川に呆れたような恨めしそうな微妙な視線を送る一刀。忌々しげに舌打ちした一刀に及川は完全に勝ち組の笑みを浮かべる。
「ムフフー♪ ってなわけでかずピー、早く着替えてきてなー!」
「わーったよ!………………あ、そうだ」
胴着を着替えに足を更衣室に向けかけた一刀は、そこでふと思い出したように立ち止まった。
「アイツも誘ってみていいか?」
「アイツ……ってあぁ、嶋都か。ええよ」
「おう。んじゃちょっと待っててくれ」
そして一刀は素早く制服に着替え、及川を連れ立って道場を出る。と、そこに、
「ん? 一刀と及川。今から帰りですか?」
と一人の男子生徒が声をかけた。少々長めの前髪が目元を隠してしまって視線の読めないその生徒は、静かな口調で一刀達に話しかける。
「あぁ一弦、丁度良かった。今から誘いに行こうかと思ってたんだ」
「いいタイミングや。時間のロスも全くないしな」
どうやら先ほどの“アイツ”とは彼のことらしく、二人は幸先の良さに喜んで彼、嶋都一弦に歩み寄った。
「……どうしました?」
「いやさ、お前理事長からの宿題はもうやったか?」
「やってないんやったら俺らと一緒にこんか?」
「もうやっちゃいました。 出された初日に」
「「…………あっちゃ〜…………」」
「でも……」
一弦がすでに宿題を終わらせている事を聞いて掌を額に天を仰いでいた二人に彼は、
「暇だし、いきましょう」
「お? そうか?」
「早く行きましょう、早く」
なにやら少々急いだ様子の一弦。一刀は訝しげにそれを見ていると、
「はよいこや。でないとカイト君がカイトちゃんになってまうで?」
と、及川が分かっていると言いたげな笑みをニヤッと浮かべる。
「お、及川ぁ……」
「あぁ……あれは結構グッときたよなぁ」
一刀も意図するところが分かったらしく、腕を組んでうんうんと頷いた。
「か、一刀まで……」
今年の学園祭で定番の喫茶店を出していた一弦のクラス。調理などに必要な人員以外は基本男子である一弦は強制的に裏方、女子が表で接客と、どこぞのちょっとうれしはずかしなタイプの、俗に言うメイド喫茶店スタイルを選んだはいいものの、元お嬢様学校ということでナンパやセクハラを繰り返すはた迷惑な客が後を絶たずに難儀した。その後女子からの強い要望もあって、むしろこの学校では珍しい男子である一弦を売りにしようと二日目からは女装メイドが目玉のメイド喫茶となった。なったはいいのだが、もともと背は低いほうではないがとび抜けて高いわけでもなく、顔は小さめで余計な毛も脂肪もなく本当に平均的な体格をしている一弦。加えて前髪が長く顔がはっきり見えないため、
「ほんとお前さんは着てる服で確認する以外は全部引っぺがすくらいせんと男か女か確認でけへんもん」
なんともいえない中性的なショートカットのメイドさんが出来上がった。なまじ普段から性別をあまり感じさせていないだけにこの魅力は凄まじく、偶々一緒に遊んで回ろうと訪れた一刀と及川をもってして、
「お前今からでも舞台役者目指してみろよ」
「それも女形限定な」
と言わしめたほどだった。
それから休みとなると何かにつけてクラスの女子を中心としたメンバーに追い掛け回されて、捕まれば女装させられて連れまわされる罰ゲームというなかなかハードな日々を送っていた。
「でもまぁ、アレが始まってから捕まったのは初めの一回だけやろ?」
「たしか一番最初、何をされるかも分かっていない時に一度だっけか?」
「もう二度と御免です」
そう言って不貞腐れたように口元を歪める一弦。
「んじゃま、もう一回みたい気はするけどそろそろいこか?」
「そうだな。んじゃいこうぜ一弦」
一刀と及川はそう言って一弦の肩を両隣から押して歴史資料館へと向かっていった。
「そういやさ、今日は誰とデートなんだよ?」
「? デートですか?」
歴史資料館へと向かう並木道。同じような目的を持った生徒たちがちらほらと見える中、一刀は話題を振る意味で何気なく及川にそう尋ねた。
一刀の言葉の意味が分からずに首をかしげた一弦に道場内での会話を大まかに説明する一刀。納得してもらって改めて聞きなおすと、
「ムフッ♪ な・い・しょ♪」
とまた身体をくねらせて思わせぶりな態度ではぐらかそうとする。
「内緒にする必要ないだろ。…………あー、あの芹沢ってコか?」
「グサッ!」
「それとも織戸ってコに紹介してもらってた水泳部の女の子か?」
「グサグサッ!」
その後もいくつか心当たりの名前を出す一刀だが、及川はそのすべてで同じようなリアクションをとっている。
「……なんだ皆違うのか?……って一弦。お前はなんで反応してるんだ?」
一刀が女の子をあげる度に何故かビクッと隣で小さく反応する一弦。
「……そのコ達は……敵です」
「敵? 敵って……あぁ、狙われてんのか」
ようするに今一刀が名前を出した女の子達は皆一弦に女装させようと狙っているメンバーらしい。なんとなくいたたまれなくなった一刀は及川に助けを求めた。
「皆もうとっくにフラレとるわーっ! 主にお前のせいじゃあー!」
どうやら皆一弦に女装させるために及川と別れたらしい。ブルー気味な二人を連れ立って、もうどうしようもない一刀がため息をついて、
「これで及川は俺よりモテるし……なさけねぇ〜」
と自分も落ち込み気味になった時、丁度空を見上げていてフラッと少し横にずれてしまい、後ろから追い向こうとしていた男子学生にぶつかってしまった。反射的に謝る一刀。
その男子生徒はそんな一刀を一瞥すると、
「……チッ!」
と舌打ちを一つ残してその場を足早に去っていった。
「……なんや、感じ悪いやっちゃなー」
「あんな生徒、いました?」
あからさまに不機嫌そうな及川と、不思議そうに首を傾げる一弦。
一刀は男子生徒の後ろ姿を眼で追いながら、先ほどぶつかった時の事を思い出していた。
(アイツ、同年代とは思えないほどガッチリ筋肉がついてた。しかも一弦とは違った感じの、鋼のような)
「……はっ?! か、かずピーまさかっ?!」
「ん? なんだ?」
「さっきからジーっとアイツの背中見つめて何考えとるん?!」
「か、一刀?」
明らかに勘ぐっている及川と、その言葉を真に受けて自分の肩を抱いて一歩引く一弦。その仕草は本当に女性のそれのようだ。
「なっ?! ちっ違うって! ってゆーか一弦お前それ本気でやめろ。この上なく女っぽいから」
「……あー、なんやおにーさんちょっとムラッときたわ」
「え゛? ちょ、ちょっとまさか及川まで?」
そんなこんなでわいわいやりながら、三人は歴史資料館へと入っていった。
「こりゃまたスゲー資料館だな」
「さすがフランチェスカってところか。金かけすぎや」
「ですねぇ。……たとえば……あれ」
一度もう来ている一弦がそう言って一つの展示品を指差す。
「どれどれ……後漢後期、ってゆーと1800年くらい前か。……って、え?」
「うん。確か一刀、昔三国志読んでましたね」
「ああ、散々読み漁ったなぁそういえば。……ん? どうした及川」
一弦の指差した展示品を見て目を輝かせた一刀を見て呆れたような視線を向ける及川。
「かずピーようみただけで分かるよな。1800年前とかって。……もしかして結構歴史マニア?」
「んー、そうかもなぁ。昔爺さんの所にあった本片っ端から読んでたから」
「うん。散々付き合わされました」
そんな会話をしながら、主にもう宿題を終わらせている一弦の話を聞きながら資料館を一通り見て回る一刀と及川。どうやら三国志の時代のものばかり集めているらしく、一刀は見て回りながらまるで自分のコレクションを自慢するように展示品の札に書いてあることに自分の知識を出来る限り補足していく。どうやらその知識はなかなかのものらしく、一度宿題を終わらせた一弦もその話のメモを取っている。普段はおちゃらけている及川も、このときばかりは呆れながらも宿題を終わらせるべく真面目にノートに書き込んでいく。
「これで全部回ったかな?」
「そうですね」
「いやぁ、タメになる話をありがとうかずピー。早速デートで役立ててくるわ♪」
どうやら真面目に見えたのはこれからデートでいい格好をするためらしい。苦笑している一弦だったが、一刀はというと、
「……アイツ」
「ん? なんやアイツ、さっきの無愛想やないか」
一刀の視線の先にはつい先ほどぶつかった男子生徒に向いていた。
「同い年くらいやろうけど……それにしてもおかしいな。同じ学年の男子はここに全員そろっとるし、他も全部しっとるはずやけど……」
「僕も、知りませんね」
「じゃあ一個下とかか?」
「あの威圧感でか? 末恐ろしいなそれは」
「まぁな〜。……でもアイツホントに只者じゃねーぞ?」
「ん? そらどういう意味や?」
一刀の言葉に首を傾げる及川。
そんな及川に答えたのは一刀ではなく一弦だった。
「……隙がないです。たぶん、一刀じゃ勝てません」
それを聞いた及川は驚いたように目を見開いて、
「お、おいおいお前さん適当言っちゃあかんで? この学校じゃ一刀に勝てる相手探すほうが難しいんやから」
と、一弦の肩をまるで「馬鹿な事いっちゃいかんよ」と言わんばかりにパシパシ叩く。
「いや、簡単には負けないかも知れないけど、少なくとも楽に勝てる気はしない。それに一弦がそういうならたぶんそうなんだろうな」
しかし一刀はあくまでも最もとばかりに一弦の言葉に相槌を打ちながら視線をその男子生徒から離そうとしない。
「一弦は俺よりよっぽど強いから」
「………………は? 強いって、この大和撫子が?」
「や、大和撫子って……僕男なんですけど」
「やかましい。その顔と体格で弓道着なんか着られたらそんなもんわからんわ」
「そ、そんな……」
あんまりな言い草にショックを受けている一弦。そんな様子も何処となく女性の色気のようなものを感じさせてしまっている。
「あのな。これで一弦は実戦用の弓とか持つと人が変わるからな。それみたらたぶん背筋凍るぜ?」
「へぇ……」
「そ、それよりもあの生徒。何かみてますよ? ……銅鏡ですかね?」
なんとか話題を変えようとしていた一弦はそんな男子生徒を見てここぞとばかりに一刀達の会話に割り込んだ。
「ほんまや。なんやおかしなやっちゃなぁ」
その銅鏡をまるで親の敵のように睨みつけている男子生徒をみてそんな失礼極まりない感想を口にした及川。しかし一刀とその話題をふった一弦は、何処か警戒するような視線をその生徒に向けて暫く動かなかった。
その晩、一刀はどうしても資料館で見た男子生徒が気になって着替えもせずに木刀をつかんでそちらへ向かっていた。
「なんかあの銅鏡をみるアイツの目、異常だったんだよなぁ」
呟きながらも足は止めない一刀。しかし資料館が近づくに連れて緊張もまた高まっていき、心臓の鼓動が跳ね上がる。いくら剣道で校内敵無し、試合でも同年代には殆ど負けた事がない一刀でも、それが所詮スポーツとしての剣、剣道の世界での事だということは重々承知している。
「ちっ、足が震えてる。……そりゃそうか。俺は一弦とは違う、ただの剣道の選手だしな。それにたぶんアイツも……」
一刀の目的である謎の男子生徒。一刀はあの生徒からもただの武道家などとは違う空気を感じ取っていた。
「!? ……着た!?」
とたんに草むらに身を潜ませる一刀。しかしすぐにそれでは何の意味もないとそこでタイミングを計り、
「待てよ!」
丁度走ってきた人影の前に飛び出した。声が多少上ずってはいたが、それでもたしかにその人影の足を止めさせた。その小脇に抱えているのは先刻ずっと見つめていたあの銅鏡。その目はあからさまな敵意を持って一刀を睨みつけている。二の句の告げない一刀に向かって、
「誰だ貴様。何のようだ?」
容赦ない殺気を露にする。
「……お前、この学校の生徒じゃねーだろ? それにその手に持ってるそれ。それは資料館のものだろ? 勝手に人のもの取ったら泥棒だって教わらな――――おわっ?!」
「……チッ。……邪魔だよお前。死ね」
立ちはだかる一刀に容赦のない蹴りを浴びせようとした男子生徒は、それを避けられると舌打ちしつつ追撃してきた。
いきなり襲い掛かられた一刀は何とか手に持った木刀でそれを防ぎ続ける。一見無造作に見えるその蹴りの一つ一つがまるで鎌のような鋭さ。一刀にはあたかもそれが自分の命を絶ちに来た死神の鎌のように感じられるが、それでも何とか一撃を当てられることなく捌き続けていた。
(……正直親父とか一弦の見てなかったら本気でヤバかったな。ってゆーかやっぱり一弦の予想は正しかった。俺じゃ勝てない)
そう自覚しつつ、それでも一刀は何とか反撃の機会を見計らっては一振り、もう一振りと攻撃に転じてみる。しかしそれら当然のことのように全くあたらず、しかしかといって相手の蹴りもいまが一刀を捕らえられていない。
「……しつこいよお前。もう本気で殺してやる」
優勢とはいえ凌ぎ続ける一刀に焦れた男子生徒。勝機が来るとしたら相手が平常心を乱したその時だと思っていた一刀は、その時己の考えの甘さを実感する。
(く、クソッ! なんなんだこの威圧感は!)
それは実力に大差がない場合の事であり、圧倒的な存在の前では無に等しかった。折れそうになる心をそれでも一刀は繋ぎとめる。
「……こいよ」
まだ終わらない。こうしていれば誰かが人を呼んでくるかもしれない。そう思って一刀は自分の役割を足止めと時間稼ぎに切り替えた。何よりも確信していたのだ。自分がこうして時間を稼ぎさえしていれば、荒事においては自分のまわりでは父親以上に信頼出来る人間が来ることを。
一刀の挑発に乗った男子生徒は、その苛立ちを隠そうともせずにそれまでとは比べ物にならないほどの爆発的な瞬発力で一刀に迫る。そしてこれまで以上に鋭い容赦のない蹴りが一刀の急所を的確に突いてくる。
「くっ! ぐっ! だぁ!!!」
凌ぐ事のみに集中して時に防ぎ、時に捌いていく一刀は、ふと一瞬の隙を見出した。やはり苛立っているのだろう。相手の攻撃はすべてが一撃必殺の威力があり、そして背筋が凍るほどに速い。しかし一瞬、ハイキックを捌いた時に背中を向けそうになっている。威力が高いうえにどうしても大振りになってしまっていたのだ。
(やれるとしたらここしかないっ!)
これまでの攻撃を捌いてこれた事に対しての少々の慢心もあったのだろう。しかしこのままでは埒が明かないと思ってしまうほど一刀の体力は持っていかれてしまっていた。
(イチかバチか、どっちが速いか勝負!)
回し蹴りの動作に入っている相手に向かい、一刀は渾身の力を込めて上段から肩口に木刀を振り下ろす。
「ぐっ?!」
「ぐはっ!?」
賭けは成功といえば成功。たしかに一刀の一撃は決まった。しかし相手はそれを受けてなお回し蹴りを止めず、そのまま足を振り抜いた。
結果は引き分け。しかしそこで二人も予期せぬ事態が起きた。
「!? し、しまった!」
肩に一撃を受けた男子生徒が銅鏡を脇から落としてしまったのだ。
腹に回し蹴りを受けて尻餅をついてしまっている一刀の目の前で必死に手を伸ばす男子生徒。しかしそれもむなしく零れ落ちた銅鏡は地面に叩きつけられ、砕け散る。
「くそっ! 貴様が余計な事をしなければ!」
取り乱した様子の男子生徒は、砕け散った銅鏡を見て逆上し、そのまま体勢を崩したままの一刀に鬼のような形相で迫ってきた。それを見た一刀は、もう自分が助からないだろうことを悟る。
(くっ! ここまでかっ?!)
へたり込んだ一刀に迫るは情け容赦ない殺意の篭った蹴り。
「外史が……貴様が邪魔さえしなければ……クッソォォォ!!!! 死ねぇぇぇ!!!!――――なっ?!」
蹴りが一刀の頭を目掛けて繰り出されたまさにその時、一閃の煌きが二人の間に飛び込んでくる。間一髪のところで蹴りを押しとどめて後ろに跳んだ男子生徒に一閃、また一閃と追い討ちが降り注いで一刀との距離をとらせると、
「一刀、大丈夫ですか?」
と座り込んでいる一刀の隣に漆黒の弓を構え、背中に十字架のような黒い箱を背負った一弦が現れる。服も制服ではなく黒で統一されたサバイバル用の服で統一されている。
「戻ったらいないから、たぶんここではないかと思いました」
「……チッ! お前はソイツとは違うらしいが……!? ……もう遅いか。始まった」
忌々しげに一弦を睨みつけた男子生徒だったが、すぐに自分の足元の割れた銅鏡から光が溢れているのを確認して諦めたように落ち着いた口調にかわる。
「……なんの事だ……?! な、なんだこの光!?」
「……逃げられませんか……」
銅鏡からあふれ出る光は傍にいた一刀と一弦も包み込み始める。何とか逃れようともがく一刀だが体が思うように動かないので全く抗う事ができない。そして一弦は、
「すいません一刀。もっと早く来れていれば……」
と一刀に頭を下げていた。
「ん? ……いや、いいさ。アイツに蹴り殺されるよりは」
「はっ! 覚悟が決まったのはいいがお前等は死ぬわけじゃない。いや、むしろ死んだほうがましかも知れん。幕は、開いてしまったからな」
抗うのをやめた一刀を見て相手の男子生徒はそう二人をあざ笑う。
何の事かと口を開きかけた二人だったが、それは光がより強くなることによって阻まれた。
もはや意識を手放しかけている二人に向かって、男子生徒は最後の言葉を放った。
「飲み込まれろ。それがお前達に降る罰だよ。そしてこの世界の真実を、……その目で見るがいいっ!!!!」
そしてその言葉が終わるとほぼ同時に、二人の意識は完全に光に飲み込まれた。
「……んっ……まぶしい……」
薄く開いた瞼の間から朝日が容赦なく飛び込んでくる。体を起こして自分のまわりを確認した一弦は、そこで自分が砂の上に寝ていた事を確認した。
「一刀は……いないですか」
自分がすでに聖フランチェスカの敷地内にいない事を理解した一弦はまず初めに光に包まれる直前に自分の隣にいた一刀の姿を探した。
「出来れば、助かってくれているといいんですが……ん?」
そこで一弦は自分の耳に飛び込んでくる音に気がついた。それは怒号であり、地鳴りであり、そして叫び声。一弦はそれに引き寄せられるかのように音の大きくなるほうに足を進めていく。そして……
「こ、これは…………?!」
あとがき
性懲りもなくまた新しく書いちゃいましたねぇ、まったく。何を考えてるんでしょうか?
というわけでイマイチ自分の行動に責任が持てなくなり始めたアインです。
遅ればせながら恋姫†無双を最近攻略いたしまして、それでちょっとやりたくなりました。
最近とらハクロスばかり書いているので、ちょっとくらいいいじゃないかと言わせてください。
はっきり言って主人公は弓を使う口調がやけに丁寧なイマイチ性別が不透明になり気味な少年ですw 髪型はEVEの小次郎の後ろ髪を首筋あたりまで短くした感じをイメージしてみてください。これからもたぶん着てるものによってはちょくちょく女の子に間違えられるでしょうwww (イチといい、オリキャラにちょっと女装させすぎなアインw
背負っている十字架は矢と弓に着脱式の湾曲刃が入ってます。決してバズーカになったりハンドガンがならんでたりマシンガンになったりはしませんwww 完全にケースですwww
恋姫のSS〜。
美姫 「一刀とは違うキャラを巻き込んでのお話ね」
どんなお話になるのかな〜。
美姫 「これからの展開を楽しみにしてますね〜」
ではでは。