恋姫†無双戯曲 −導きの刀と漆黒の弓−

 

第十六話 −この戦いの真実−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ねね」

 

「はっ! ここにおりますぞ、恋殿!」

 

「……敵が来る」

 

「なんですとぉ!?」

 

虎牢関内部。

恋と呼ばれた赤髪の背の高い、スラリとした美少女、呂布が単語をつなげながら敵、半董卓連合軍がすぐそばまで来ている事を告げる。

その傍に控えていた小さな熊猫帽子のねねと呼ばれた少女、音々音こと陳宮はその言葉に驚愕して声を張り上げる。

神懸りめいた主人の感の良さを絶対的に信用しているからこそ驚けるそんな所に、二人の決して浅くない関係が伺えた。

 

「という事は、華雄と皇甫嵩殿がこんなにも早く敗れ去ってしまったのですかっ!?」

 

なまじ二人の実力を知っているだけにそこだけは納得がいかないといった感じの音々音だったが、恋は少し困った表情で、

 

「……分からない。でも、強い奴が近くまで来てる」

 

と、それを告げるのみ。

しかしそんな音々音の疑問に答えられる人間がやってきた。

 

「呂布ちんの言っとることはどうやら間違いあらへんよ」

 

「……霞」

 

「霞! どういうことなのです!?」

 

胸元をさらしでしめ、袴に羽織姿の霞と呼ばれた女性、張遼はそんな今にも駆け寄ってこようとしている音々音に苦笑を零しつつ、

 

「まぁまぁそぉあわてんと」

 

と手を振って留め、自分から二人に歩み寄った。

そして傍について早々、

 

「恋の感、当たっとるで。さっき斥候に出しとったんが帰ってきてな、華雄は北郷んトコの関羽に負けてとんずらこいたらしい。行方不明ってコトだから生きとるコトは生きとるやろうけど」

 

と真剣な表情で告げた。

 

「篭って戦っとれば良かったのにアイツ、また頭に血ぃ上って突っ込んでもうたらしい」

 

「……蘭華さんは?」

 

「っ! そうですっ! 皇甫嵩殿はどうなったのですか!? よもやあの方まで簡単に敗走したなんて……!」

 

二人とも皇甫嵩義真という武将を知っているからこその言葉。

猪突猛進気味で熱くなりやすい華雄ならまだしも、皇甫嵩がこらえきれずに特攻して玉砕するなどという負け方をするなど考えられなかったのだ。

そんな二人に対して霞は口元をニヤリと吊り上げて、

 

「いんや」

 

と不敵な笑みを浮かべた。

 

「義真ちゃんは詠の考えでな、頃合見て公孫賛に降るように指示出してあんねん。斥候もちゃあんと確認しとるから間違いなく、義真ちゃんは無事や」

 

「……よかった」

 

霞の言葉に安心したのか、小さくほっと一息つく恋。

しかし音々音はまだ納得がいかないのか、

 

「それはよかったのですが……何故公孫賛の軍です?」

 

と首をかしげた。

 

「強い勢力なら他にいくらでもあるのですよ? 公孫軍はまぁ、そこそこ名前は通っていますが言ってみれば二流勢力です。先が見えてしまっているのではないのです?」

 

暗に、仮にそれが成功したとしても将来性はないのではないか、とそう尋ねている音々音。

しかし霞の笑みは崩れなかった。

 

「そこやっ! そこが一世一代の大勝負なんや!」

 

興奮気味に身を乗り出した霞は、ここで賈駆文和、もとい詠の計画の全貌を明らかにする。

 

「たしかに公孫軍は一流とは呼べん勢力やけどな、かといって弱い勢力って訳でもない。つまり簡単に攻められもせんし、簡単に負けもせん。それに公孫賛本人は義理堅く、また稀代のお人好しでおせっかい焼きや。つまり……」

 

「なるほど。万に一つも利用されたり問答無用で殺されたりする心配はなさそうなのです」

 

「せや! そんでもってなおかつ今、公孫賛の軍には“奴ら”の狙っとるのの片割れがおって、そいつのおかげで公孫賛自身もけっこー名前上げたらしい」

 

「そうなのです。どこからともなく現れた男を副官につけたと聞いてから公孫賛の評判は上がる一方なのですよ」

 

「やろ? ってコトは、や。今んとこ公孫賛とそん男がどんな関係かははっきりせんけど、少なくとも公孫賛にとってその男はこないに名前を上げる事が出来るようになるくらいには重要な男っちゅーわけや。つまり……」

 

そこで霞は三度、今度はその表情にいたずらな感じを色濃く出しながらにやりと笑った。

そして今度は音々音にも、その笑みの理由が理解できたらしく、まっすぐに笑みを返してみせる。

 

「…………??」

 

そんな中一人話の流れについてこれていない、というよりも半分以上聞くことすらすでに放棄したらしい恋が首をかしげた。

そんな様子を見た忠臣音々音が慌ててすべてかいつまんで説明すると、

 

「…………………………蘭華さん、無事?」

 

と至極単純明快な理解の仕方をしていた。

 

「お、おおっ! そうですぞ恋殿っ! 蘭華殿は作戦通り無事、公孫賛の軍に降られたのですっ」

 

「……うん、よかった」

 

「はぁ……まぁ恋にはその程度で丁度ええか。 んでや、まぁ公孫賛もその男は必要やろうし、なら狙われとるって分かれば黙っとらんやろ。後は義真ちゃんが上手く公孫賛に話をつけて他の誰よりも早く洛陽に入城してくれれば、月と詠は無事に逃げられるっちゅー寸法や」

 

「我等の兵達も戦況が危うくなったら公孫賛の所に駆け込めば何とかなりますな。蘭華殿が取り成してくれるはずですし、公孫賛も評判どおりの人間なら無碍に扱うような真似はしないはずです」

 

「ま、いざとなったらウチらの逃げ場でもあるんやけどな」

 

そう言って豪快に笑い飛ばす霞。

とても決戦直前とは思えないが、そんな霞に音々音も苦笑を浮かべている。

そして恋は……

 

「…………負けない」

 

ただ一言、そう言って方天画戟を掴んだ。

 

「お?もうきよったか」

 

その様子を見て霞も槍を握りなおし、

 

「では、いきましょうぞ!」

 

音々音も帽子を被りなおす。

 

「さぁて!一世一代の大勝負やっ!月っちの為に、ただでは負けてやらんでっ!」

 

「はいですっ!ですが恋殿、霞……ここは死に場所ではないですぞ?」

 

「……(コクッ)。皆、死んだら誰か悲しい。恋も、霞もねねも……生き残る」

 

一応ここの守りを任されている将軍の身である恋の、精一杯の激。

この場の二人しか聞いていない、とても小さいその激はしかし、確実にその二人の心に焼きついた。

 

「おうっ!必ず生きてまた会おうなっ!」

 

「ねねはいつまでも恋殿のお傍におりますぞっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当なのか? それ」

 

「このような場で嘘を申し上げる理由がございません。それに……」

 

「……まぁ、私如き騙したところでたいした影響はないよな。この連合軍じゃ」

 

水関の戦いが終わり、瑠那が回復した時を見計らって蘭華は、降った時から言っていた話を公孫軍の主要人物に話していた。

それは……

 

「……董卓って人の噂は全部、その白装束の奴等が一刀と僕を呼び寄せる為に作り上げた虚言……ですか?」

 

蘭華が語ったこの戦の真実。

董卓は元々、立派に国を治めていたらしい。慕う人間も多く、蘭華なども元々董卓の力になってやりたいと協力していた隣国の大守で、平和に暮していたという。

それが最近になって突然、謎の白装束の集団が現れて国を占拠。

董卓を捕らえてその部下達を従わせていたという事だった。

つまり……

 

「華雄にしても、虎牢関の呂布と張遼にしても、あいつ等にしてみれば国と董卓を護る為に仕方なく防戦してただけ、って事か?」

 

「少々違いますわ。私が斥候として動いておりましたので、董卓軍はこの反董卓連合が組まれたことからその理由まですべて把握しております」

 

「ん〜……あっ! わかったっス! 知ってても降伏とかしちゃうと董卓さんが危ないんスね!?」

 

瑠那にも納得がいったようだ。

確かに、慕っている董卓を人質に取られてしまっては何も抵抗出来ない。

だからこそ董卓軍は、この圧倒的に不利な戦いをも受けてたつしかなかったのだろう。

 

「しかし先ほども申し上げたとおり、私が詠ちゃ…賈駆文和に状況を逐一報告しておりましたので……今頃はうまく逃げる手立てを考えてくれているかと」

 

そうはいいながらも心配そうに、今はまだ見えない洛陽に視線を向けてため息をつく蘭華。

そんな彼女を見た白蓮は、ああもうっとばかりに頭をガシガシッとかきむしってから、

 

「んで? なんで一弦と北郷が狙われてるのかは分かったのか?」

 

と話を促した。

 

「……いいえ、詳しいことは何も……ただ……」

 

「ただ……ただ、なんでしょう」

 

何故自分が狙われるのか。

実は一弦にはすでにおおよその見当がついていた。

だから蘭華にわざわざ聞いたのは、その確信を得るため。

 

「ただ……こういっているのを聞きましたわ。

 

“北郷と嶋都は世界を滅ぼす悪”

 

と」

 

「なっ!? なんだそりゃ!? 北郷と一弦が悪!?」

 

「そんなわけないっス! 天の御使い様はいい人そうでしたし、一弦さんは凄く優しい人っスよっ!」

 

「う〜ん……そうよねん。あの御使い君は、まぁ女の敵っていうならまだ分かるけど、それにしても悪ってほどじゃないわよねん?」

 

蘭華の聞いてきた話に激怒する白蓮と瑠那、そして不思議そうに首をひねる泉。

そのあまりの怒り方に話した蘭華が戸惑っているそんな中、当の本人である一弦は至って冷静だった。

 

「……その件に関しては、いいです」

 

「んなっ!? か、一弦お前っ……!?」

 

「心当たりが、あるんです。そいつにとって僕等二人は……悪になるでしょうから」

 

一弦のいう心当たりとはもちろん、一弦と一刀がこちらの世界に来るきっかけとなったあの男。

 

(理由は分からないけど、あの男なら……僕たちを邪魔に思ってるはず)

 

ならば考えたところでどうしようもないし、どうなるものでもない。

自分のことのように怒っていた白蓮と瑠那が拍子抜けしてしまうほどのその落ち着きようもすべて、その心当たりの所為。

二人に軽く微笑んで見せるほどのその態度に二人も、

 

「……ま、まぁ……一弦に心当たりがあるって言うなら、とりあえずもういいか」

 

「そっスね。どーせ天の国でお二人にやっつけられた敵とかが逆恨みしてるとかそんなんっスよ!」

 

と、微妙に核心を突いていないでもない憶測を立てて矛を収めた。

そして白蓮はいよいよ、白蓮自身にとって一番の問題に話を進める。

 

「大体の話の流れは理解した。今回の戦いは北郷と一弦をおびき出すための、その得体知れないやつらの陰謀だって事はわかった。それを誰かに伝えるために蘭華が華雄と水関にいて機会をうかがってたんだろうって事もなんとなく分かるし、効率上北郷んトコか私んトコにくるのが一番手っ取り早いのも分かる。でもなぁ……」

 

「はっきりいって白蓮ねぇんトコよりも天の御使い様んトコのほうが強いっスよ? あたい等数はあっちより多いっスけど、関羽様とか張飛ちゃんとか孔明ちゃんとか、むこうのほうが凄い人いっぱいっス」

 

「……はっきりいうなよ……ちょっとは気にしてるんだからさ」

 

瑠那にはっきりと、自分のところよりも北郷軍のほうが頼りがいがあると言われて少し肩を落とす白蓮。これこそが一番知りたかった事だったはずなのに、これでは完全に自爆。

一弦もこればかりは、北郷一刀が劉備玄徳の役回りを持っているという裏事情を知ってしまっているためフォローすることが出来ない。

三国志に詳しくない一弦でも知っているほどの、いってみれば主人公級の存在である劉備軍を率いているのと同じ一刀と、名前を知らなかった公孫賛軍とではさすがに言うべき言葉が見当たらないのだ。

 

「……いいじゃないですか……僕らは僕らなりに出来る事をすれば……ね、白蓮さん」

 

結局、そんな戦力差を否定しない上での慰めの言葉を苦し紛れに言いながら肩に手を置くと、

 

「か…一弦ぉ……」

 

何故だか心なし嬉しそうにその手をキュッと握って身を寄せた。

 

「あ、あの……私の話をそっちのけにされていい雰囲気を醸し出されると少々悲しくなってしまうのですが……」

 

「し〜! 黙ってみてなさいよん蘭華ちゃん。せっかくいいところなんだからん♪」

 

「そっスよ! 大体白蓮ねぇが早く素直になって一弦さんとくっついてくれないと、あたい等後に控えてる人間がいつまでたっても一弦さんとイイこと出来ないんス!」

 

「そ、そうなのですか? つまり瑠那ちゃんと泉さんは一弦様のご寵愛を賜る順番待ち、と言う事でしょうか?」

 

「「そうよん(そっス)♪」」

 

「……いや、違うでしょ?」

 

さすがにここまで勝手な事を言われては黙っていられない一弦。

 

「お、お前らぁ! 入ったばっかりの蘭華にヘンな事吹き込むなよっ!」

 

続いて白蓮も割ってはいるが、さすがにこちらはかなり顔が赤い。

 

「大体蘭華さん、白蓮さんに様をつけるのは分かるとしても……なんで、僕まで様がつくんですか?」

 

「え? 何故と聞かれましても……先ほどまではお二人とも“さん”でお呼びしてはいましたが、白蓮様はもう私の正式な主となりましたので。それをこちらのお二人にお話させていただきましたら、白蓮様が我が主となるのならばいずれ一弦様も同様になるから、と……」

 

「んなっ!?」

 

「……はい?」

 

蘭華の放った言葉に、白蓮と一弦が硬直する。

そしてまた丁度いいのか悪いのか、二人は今だ寄り添った体勢のまま。

となると当然のことのようにすぐ傍にある互いの顔色を伺ってしまい……

 

「っ!?……あ……その……」

 

「え……と……」

 

頬を染めて視線を絡めるようになってしまうのも最早お約束。

互いを必要以上に意識してテレてしまい、至近距離にいるのに上手く言葉も交わせない二人のそんな様子を見ながら瑠那、泉、蘭華の三人は……

 

「えへへ〜っス♪」

 

「でもぉ、間違ってないわよねん♪」

 

「……ですわね。ただ、一弦様からは動けないのではないかと……」

 

「「だから余計面白いんスよ(のよん)♪」」

 

結局、蘭華の重要な話もそこそこに公孫賛軍は、いつものほのぼの空気に戻っていく。

ついさっきまでは予想だにしなかった真実を聞き、それまでとは違った立場で挑まねばならない虎牢関の戦いを控える彼らとってそれは、本当につかの間の休息だから。

 

「……待っててくださいね、詠ちゃん、月ちゃん。絶対に……この方達と、絶対に……」

 

 

 

 


あとがき

 

すっごいご無沙汰でございます。

いろいろと修正を加えさせていただいて、皆様に混乱とご迷惑をおかけしてしまってからはじめての更新となりましたが、申し訳ないと同時にもう、なんか忘れられてるかもなぁ的な空気も感じ始めているアインです。

まぁだからといってまだ書きたいことは一杯ありますし、ここで止める気はまったくありませんのでw

とまぁそれはともかく、今回は蘭華がこの戦いの裏を白蓮達に明かすの巻でした。

 

それだけでもなんなので、董卓軍サイドのほうからも我等が恋ちゃんはじめ、霞ねぇさん、そして仮面ぱんだ〜ことねねも登場。

原作とも真・恋姫とも違ったお話にするために彼女達(主に詠ちゃん)には頑張って策を弄してもらっております。

感じ的には恋姫†無双ストーリーに真でのキャラと流れを交えつつ、オリジナルテイストも加えて〜……あれ? グダグダ感が漂ってきた(汗

まぁ一弦の存在にも意味がありますし、瑠那ちゃん達の存在も考えるとそうせざるを得ないんですけどね。

基本路線は書き始めた頃のプロットから変える気はないですので、できれば変更は暖かい目で見逃していただいてこの先もお付き合いいただけるととっても嬉しいです。

それでは、今回はこの辺で失礼いたします。




いよいよ呂布たちとの戦いか。
美姫 「その前に、色々と詠が画策しているみたいね」
だな。これにより、どれぐらい変化が。
美姫 「ああ、続きが気になるわね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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