このSSはPC、PS2、小説の設定がご都合的に絡んでます。

あと緑葉樹がかっこいいかもしれませんのでご了承くださいw

 

 

終わらないDynamiteDays

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよー、稟君!」

 

「ああ、おはよう麻弓。今日も朝から元気だな」

 

「そんなことないのですよ。土見君は相変わらず眠そうだねぇ♪」

 

稟と麻弓が付き合い始めてから一週間。

関係が始まってから楓はシアやネリネと一緒に朝、稟よりも早く登校し、そして稟は麻弓と待ち合わせて二人ゆっくりと登校する日々が続いている。

とくに何か重要なことがあるわけでもなく、ただのんびりと朝の時間を二人で過す。

バーベナに来るまで一人で過し、来てからは常に騒がしかった彼女の恋人との二人の時間。

それがなんとなく嬉しくて、麻弓はいつもおずおずと稟の手を握る。

そんな麻弓の手を稟は、はじめこそ照れて赤くなっていたものの、今は軽く微笑みながら握り返すようになっていた。

そんな、本当にゆっくりとした時を二人で過すことが、麻弓にとって幸せな時間になっていた。

 

「それにしても稟君も物好きな人だよね〜。普通あれだけの美少女がまわりにいたらあたしなんて見向きもされないと思うのですよ?」

 

そんな麻弓の照れ隠しにも稟は真面目に応える。

 

「誰が周りにいようと俺が麻弓を好きになったんだ。不満か?」

 

そんな稟の言葉に頭をぶんぶん横に振って否定の意を伝える麻弓。

そんな麻弓を見て稟は軽く微笑みながら一言

 

「よかった」

 

とだけ呟く。

結局いつも麻弓の照れ隠しはこうして自爆に終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、最近麻弓なんかかわいくねぇ?」

 

ふと本人のいない食堂の一角でそんな話をしだす男子たちがいた。

 

「ああ、それ俺も思った!なんかたまに女の子っぽいところ見せるようになったんだよな」

 

「でも麻弓も土見らしいじゃん?」

 

「ちくしょー!なんであいつばっかり!」

 

そんな男子たちの話も決して間違いではなかった。

たしかに麻弓は稟の近くにいるととても女の子っぽいところを見せることがある。

たとえば調理実習のとき、麻弓は自分の作ったクッキーをもって真っ先に稟のもとへ走った。

そしてそれを食べて稟が、

 

「へぇ、結構うまく出来たじゃないか」

 

とほめると、麻弓は見ているほうが恥ずかしくなりそうなほどの笑顔を弾けさせて稟の向かいに座り、自分の作ったクッキーをパクつく稟を頬を染めてニコニコしながら眺めていた。

 

また、数日前の雨の日、麻弓は自分ももっていた傘を友人に貸した。

自分の分をどうするのかとその娘が不審に思っていると、麻弓は稟に、

 

「稟君、今日傘持ってなくて...家まで送ってくれる?」

 

と少々頬を染めて上目遣いで『おねだり』した。

そうなると朴念仁だった土見稟とはいえ、自分の彼女のそのような表情にはなすすべもなく陥落。

麻弓の行動の一部始終をみていた土見ラバーズはそんな二人を苦笑を浮かべながら見送り、麻弓は本当に嬉しそうに稟の腕を組んで出て行った。

二人が出て行った後、樹がポツリと呟く。

 

「...まさか麻弓がああまでなるとはねぇ...」

 

そんな呟きを近くで聞いていた楓も、

 

「ええ、本当に可愛い女の子って感じですね。でも、ちょっと...」

 

そうやって言いよどむとシアとネリネも同意するように頷きながら

 

「そうだねぇ〜...」

 

「ええ、妬けてしまいます...」

 

と呟く。

いつもならそこでまた軽口をたたく樹だが、そのときばかりは三人の気持ちを汲み取ってただ苦笑を浮かべると、

 

「さぁ、俺様たちもこれ以上雨脚が強まる前にかえったほうがよさそうだね」

 

といきなり笑顔で三人に向き直る。

そんな樹に三人は微笑みながら同意し、教室をでた。

 

ここ一週間の麻弓はそんな感じで以前のパパラッチ娘は完全に影を潜め、そこにいるのはもうすっかり恋する乙女になったスレンダーな美少女だった。

麻弓の美人然とした容姿と、その子供っぽい仕草のギャップは、いってみればネリネとシアの魅力を併せ持つようなもの。

それに加えて稟相手にたまに見せる恥じらいを顔と甲斐甲斐しさは楓のそのものにも劣らない。

恋をすると女性は変わるとはよく言ったものだが、間違いなく今の麻弓は土見ラバーズの美少女三人組と比べても遜色ないほどに輝いていた。

 

「だよなぁ〜、やっぱ!麻弓今一押しだよな!」

 

「でも土見と付き合ってるんだろ?ああーっもう!なんであの魅力にもっと早く気がつかなかったかなぁ!」

 

「でもさ、その話本当だとしても麻弓がなんかの気の迷いで土見に惚れたんだぜ、きっと」

 

「ああ、それは俺もそう思う。だって土見からってのはありえなくね?」

 

「そうだよな。あれだけの美少女三人から選り取り見取りの状態だったんだから」

 

「じゃあもしかして.....」

 

今まで懲りずに美少女談議に花を咲かせていた男子が突如声を潜めてなにやら話し合い始めたとき、その一部始終をみていた男が静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ稟、ちょっといいかな?」

 

最後の授業が終わった直後、樹はそういって机に伏せている親友に声をかける。

稟はその声に気がつくとゆっくりと顔を上げ、

 

「なんだ、樹。なにかあったか?」

 

と眠そうに返事を返す。

それをみて樹は苦笑を漏らすが、すぐに真面目な顔になると、

 

「いや、まだはっきりとはしないんだけど...まあ、君なら平気か。とりあえず男子共になにか少し不穏な動きがあるから注意したほうがいいよ」

 

「はぁ?なんだそれ?最近は三人の親衛隊も鳴りを潜めてるぞ?」

 

「いや、だからはっきりした話じゃないんだ。とにかく何か起こるかもしれないって程度だから...まあ親友からの忠告として心に留めておいてくれよ。それじゃあ俺様は今日も女の子たちが待ってるから♪」

 

「あ、ああ。なんだかわからんがサンキューな、樹」

 

「気にするな。じゃあな」

 

最後のほうはいつもの樹に戻っていたが、なにやら心配してくれていたのは事実のようなので感謝をしておく。

そこに荷物をまとめた麻弓がやってきて、

 

「ん?緑葉君どうしたの?」

 

と笑顔で聞いてくる。

 

「さぁ?なんだか分からんが、心配してくれていたらしい...それより麻弓、今日はどうする?」

 

「今日はのんびりしたいなぁ〜。稟君の家いってもいい?」

 

「来るのはかまわないけど...のんびりは出来んぞ?なんたって頻繁にお隣さんたちが出没するからな」

 

「それならそれで楽しいからいいのですよ♪...ん?どうかした??」

 

すこし疲れたような、残念そうな顔をしている稟をみて不思議そうに覗き込む麻弓。

稟は恋人のアップに少し顔を赤く染めると、

 

「いや、ただ...麻弓とのんびりするのは好きだから少し残念だっただけだ」

 

とそっぽを向きながら応える。

それを聞いた麻弓は音がするくらい急速に顔を赤らめたが、それでも嬉しそうに稟の腕を掴んで、

 

「それはこれからいくらでも出来るのですよ♪とりあえず稟君の家にいってから考えよう♪」

 

と引きずって前を歩き出す。

稟はそれに体勢を少し崩しながらも、

 

「ああ、そうだな」

 

と微笑んでついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし.........

そんな穏やかな日は翌日から音を立てて崩れ去った。

 

「土見稟!覚悟ぉーー!!!」

 

「どうなってんだ、まったく!これで何人目だ!?」

 

文句を言いながらも自分に襲い掛かってくる相手には容赦なく拳を入れて黙らせる。

 

「これであたしと会ってから五人目...かな?」

 

倒れ付す男を見ながら稟の疑問に応える麻弓。

その顔は少し嬉しそうでもある。

そんな麻弓の表情に気がついた稟は、顔をしかめながら、

 

「なんか結構楽しそうじゃないか?麻弓」

 

と疲れた口調で問いかける。

それに対して麻弓は笑顔で、

 

「うん♪だってなんか土見君に守ってもらってるみたいじゃない?これ」

 

と嬉しそうに応える。

思わぬ返答に一瞬顔を赤らめた稟だったが、すぐに冷静になると

 

「いや、コイツら全員俺を狙ってるんだが...」

 

と突っ込む。

それを聞いて麻弓も少し考えるようなそぶりを見せながら

 

「そうなのよねぇ。たぶん三つの親衛隊のどれかだと思うんだけど...学校着いたら三人に話して止めてもらいましょう」

 

と提案する。

その提案におおむね賛成の稟は軽く笑いながら頷くが、一つだけ気になっていることがあった。

 

(でも...あいつらいままで一度もみたことないんだよな...)

 

どうしてもそれが気になった稟だったが、思い過ごしだろうと気を取り直すと麻弓の手をとって学校へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「稟、襲撃者はどうだった?」

 

教室にはいった二人を出迎えたのは樹の一言だった。

その一言に稟は昨日の話がこれをさしていたのだと分かり

 

「ああ、麻弓と合流するまでに二人、してから七人。どれも雑魚だったが...で?あれはどこに所属している連中だ?」

 

となにか知っていそうな樹に聞いてみる。

 

「そうよ、どこの連中よ!あいつらのおかげで稟君とののんびりした登校時間が台無しじゃない!見つけ出して絶対に公開させてやるわっ!」

 

実はかなり憤慨していたらしい麻弓も樹に詰め寄る。

 

「で!?どこなの!!?KKK!?SSS!?RRR!?どれよっ!!!?」

 

かなり興奮状態で樹に掴みかからんばかりの麻弓を稟がなだめていると、

 

「それが...違うらしいですよ」

 

と後ろから楓が声をかけてきた。

その後ろからシアとネリネも来ると、

 

「うん。なんか抜けて新しい組織を作ったやつらがいるって言ってたよ?」

 

「はい...散々愚痴を零していました」

 

実は稟が麻弓と付き合い始めてから三人とも自分の親衛隊の人間の何人かとたまに話をしているらしく、ファンクラブのイベント参加の打診なども受けるなど、完全にアイドル化している状態だったので、話を聞いてみたらしい。

 

「そうか、わざわざありがとうな、三人とも」

 

そう軽く微笑みながら礼をいう稟に軽く頬を染める三人。

しかし麻弓が少しふてくされた様な顔をしているのが分かると苦笑いを浮かべて笑みを引っ込め、話の続きを促す。

 

「ええ、それが...麻弓ちゃんのファンクラブらしいんです...」

 

言いにくそうに応えた楓の言葉に稟と麻弓は我が耳を疑う。

そこに麻弓が恋する乙女と化した今、バーベナ一の情報通となった樹が詳しい話を続ける。

 

「そうなんだよ。実際話を聞いたときは唖然としてしまったけどね...」

 

といいながら話し始めた樹の情報は、かなり綿密だった。

 

「正式名称麻弓ちゃん隠密護衛隊『もっともっと麻弓ちゃん』、略してMMM。最近になって急激に増えだした麻弓のファンたちがKKK、SSS、RRRのメンバーの脱退者とともに結成したらしい。ちなみに結成式は昨日の夜だったらしいよ」

 

「...じゃあお前が昨日言ってたのは...」

 

「ああ、といってもあの時はなんかおかしな動きがあるって分かっただけだったから忠告しか出来なかったんだけどね。気をつけなよ?他のグループの脱退者達は皆結構過激派だったやつららしいから」

 

「...あれだけ散々やっててさらに過激派って...」

 

「上の人たちは結構話してみると普通だったよ」

 

「ええ、とても今まで消滅させたいほど憎んでいた相手とは思えませんでした」

 

「ネ、ネリネちゃん、言ってることが...」

 

一人かなり過激なことを言っていた気もしないでもないが、それにはあえて触れないことにして稟は話を続ける。

 

「つまり今まで鳴りを潜めてた三つのグループの中の過激なやつらの集まりが、麻弓のファンを語って俺を襲ってくると」

 

「ああ、そんなところだけど...それにしてもファンを語ってって...」

 

「そうだろ?楓たちのもそうだったが、ファンだといいながらその本人にまで迷惑をかけて平気でいるやつらだ。そんなもの認められるか」

 

少し感情的になっていう稟にみんな少し驚いた表情を見せるが、樹は

 

「うん、それはそのとおりだよね。まあ、稟が俺様以外に負けるとは思わないけど...一応親友として忠告させてもらうよ」

 

「ああ、ありがとうな、樹」

 

そんないつもはふざけあっている二人の男の友情に、四人の美少女は憧れに近いものを覚えてそれをみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が過ぎた。

結論から言えば状況はかなり最悪に近い。

何しろあの日から稟と麻弓は二人の時間が全くといっていいほどもてずにいた。

しかも初日の朝に一人ずつでいってことごとく撃退されてからというものの、MMMは絶対に単独行動はしない。

朝の登校時間から休み時間、さらには放課後までやつらは最低でも五人一組で襲撃する。

初日こそ一人ずつであったからこそ撃退も出来た稟だったが、さすがに五人以上が相手となると麻弓に危害が及ぶ恐れも否定できない。

襲われるたびに稟はKKKなどのときと同様、麻弓に侘びを入れつつも逃げの一手を使うのみだった。

麻弓もはじめこそ強がって

 

「がんばってね〜♪」

 

などと軽口をたたいていた。

実際自分のファンクラブなど、長続きするはずがないとふんでいた。

しかし実際のところ、ここ数日でファンクラブは異常なまでのスピードで拡大していき、KKKやSSS、RRRのメンバーも次々に鞍替えしていった。

原因としてはやはり楓たち三人はいまだ稟の事を思っており、自分たちではどうしようもないことを理解していたことだろう。

今や残っているのは諦めの悪いもの、つまり本当の意味でファンと呼べるものたちだけで、そのほかの結局美少女であればよかったような連中はみんなMMMへと流れていき、規模は拡大、そして妨害の度合いもエスカレートしていった。

そんな状態で恋人と学校でろくに話も出来ない麻弓の強がりも長続きせず、日に日に気落ちしていく。

そんな麻弓をみてなんとかしたいと思うものの、やはり彼女の身の安全を第一に考えるとどうしようもなくその集団を麻弓から離すことを優先させざるを得ない稟の苛立ちも、またピークに達しようとしていた。

そんな日の放課後、稟と麻弓は逃げるように屋上に来ていた。

 

「ふぅ、たぶん気づかれてないだろう...いつまでもこの状態ってのもいやだしな」

 

「ごめんね、稟君。あたしもまさかこんなことになるとは...」

 

すこし苛立たしげな稟の口調に謝ってしまう麻弓。

そんな麻弓を驚いたようにみていた稟だったが、慌てて笑顔で

 

「あ、いや、わるい。そんなつもりじゃないんだ。こういうのにはもう慣れっこだからな...ただ...」

 

とそこまでいって言いよどむ。

先が気になる麻弓はまだ少し不安げに

 

「ただ?」

 

と先を促す。

普段ならこういったことはむしろ嬉々として聞いてくる麻弓のそんな表情に稟は複雑な顔を一瞬浮かべたが、やがて少し顔を赤くしてそらしながら

 

「...ただ、麻弓とのゆっくりした時間が好きだから...それがもてないのは少し悔しいなぁ、と」

 

照れた表情でそんなことを呟く稟に、麻弓は改めて自分がこの人を好きで、この人も自分を好きでいてくれていることを実感する。

嬉しくなって抱きつこうと麻弓が足を踏み出そうとしたとき、

 

「みつけたぞぉー!!!土見りぃーーーーん!!!!」

 

と怒号が屋上のドアを蹴破る音とともに響き渡った。

そこにはMMMの主要メンバーがざっと見えるだけで十人。

おそらく総勢で軽くその三倍から四倍がここを取り囲んでいるだろう。

苛立たしげにそれを見やった稟だったが、すぐにいつものように麻弓に危害が及ばないルートを探し始める。

そしてそっちに向かって足を向け、麻弓に一言残そうとしたとき、稟は聞いてしまった。

 

「なんでよ...なんであたしばっかり...」

 

とうとう涙を流し始めながら麻弓は呟き続ける。

 

「あたしばっかり...いつもあたしばっかりこんなんで...やっと見つけた分か...スン、分かってくれる人なのに...や、やっと見つけた好きな人なのに...やっと...ウッ...グスンッ

 

もう最後のほうは嗚咽交じりで聞き取れなくなっている。

そんな麻弓をみた稟が、キれた。

逃げようとしたその場所からゆっくりともといた場所、麻弓の隣に俯いて歩いていく。

 

「お前ら...麻弓を泣かせたな...」

 

小さく呟く稟の言葉に、今までにない悪寒を感じ取って思わず一歩引くMMM。

そしてそれに気が付いた麻弓には、ある懐かしい感覚がよみがえる。

 

「お前ら...本当に...許さん」

 

静かに、しかし猛々しく告げる稟は一年前、倉庫でKKKに陵辱されかけた自分を救ったときと同じだった。

そんな感覚に流れる涙も今までの気持ちも忘れて稟を見ていると、いつの間にか自分のすぐ目の前まで来ていた。

 

「麻弓...いつかのあれ、また使う。全部終わったらお前が看病してくれるか?」

 

優しいいつもの笑顔に戻っていう稟に麻弓は慌てて

 

「ちょ、ちょっとあたしも...ンッ」

 

自分もまたやるといおうとした麻弓だったが稟にいきなり唇を奪われて言葉を次げなくなる。

そして唇を離した稟は今度は少し照れたように、

 

「今回は...俺がけじめをつける。麻弓には指一本たりとも触れさせん」

 

と短く告げる。

そんな稟の男としての部分に麻弓は久しぶりに嬉しそうな笑顔を浮かべると

 

「しょうがない。でもあたし以外の看病は絶対にお断りするのですよ?」

 

といつもの口調に戻って告げる。

それに微笑んで返すと、筋力増強帯をつけながら

 

「樹、そっちはもってるか?」

 

と屋上のドアのあった場所の上に向かって話しかける。

するとそこから樹が飛び降りてきた。

 

「いや、あいにくもう必要ないと思ってたからね。でも足手まといになる気はないよ?」

 

といつもの調子でいう樹に稟は

 

「いや、今回ばかりは譲れない。逃げようとしたやつだけ、頼めるか?」

 

とだけ告げる。

それをきいた樹は肩をすくめながら、

 

「まったく、本来ならそんな引き立て役は引き受けないんだけど...ほかならぬ親友とその恋人にして中学からの悪友のためだ。まかせなよ」

 

と出入り口の前に立ちふさがる。

稟は短く礼を言うと、先ほどの鋭い眼つきに戻り、

 

「さて、覚悟は出来てるだろうな?もちろんここにいる人間全員、出来ていないといったところで逃がすつもりも、ないっ!」

 

そういって近くて立ち尽くしていた一人を思い切り蹴り飛ばす。

なすすべもなく吹き飛び、仲間の何人かをまき沿いにして転がるそれを認識したとき、バーベナ学園の屋上で、今回は一人の男子生徒の手によって、『血の五月』事件は再現された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても...よくもまあここまで...」

 

さすがの樹も呆れたような声をあげているとき、ふと我に返った稟が表情を曇らせる。

それをみた麻弓が怪我でもしたのかと心配そうに駆け寄ってくると、稟は笑いながら

 

「いや、ただ...今回ばかりは言い逃れできないな、と」

 

そういって死屍累々の山を見てやる。

それに気が付いた麻弓が息を呑むのも束の間、

 

「それに関しては心配ないっす〜♪」

 

と神界のプリンセスが元気よく飛び出してきた。

それに続くようにネリネと楓が顔を見せる。

あまりに突然のことで動転していた稟だったが、やっとの思いで

 

「シア、心配ないって...どういうことだ?」

 

とシアに問いただす。

それに応えたのはシアではなかった。

 

「稟殿、俺たちがだれだか忘れてもらっちゃ困るぜぇ!」

 

「そうだよ、たとえ違う女の子を選んだとしても僕たちは君のお隣さんだしね。それに神界は一夫多妻制だし...」

 

「神王と魔王のおじさんまで...どうしてここに?」

 

「それは...私たちがお呼びして来てもらったんです」

 

と稟の疑問に応える楓。

その楓の話によると、三人は様子のおかしかった稟と麻弓を心配して探していたらしい。そこに樹からの連絡が入って屋上にきたらまさに稟がはじめの一人を蹴り飛ばしたところ。

それならばいつか話しに聞いていた事件のようなことが起きるだろうと思い、今回は前回の事件とは性質が異なるので万が一のため、と連絡したところ、すぐさま飛んできたらしい。

しかし状況を説明するとそれまで乗り気だった二人は急に見届けると言い出した。

なんだかんだで男な二人だった。

 

「それは...ありがとうございました。手を出さずに見届けてくださって」

 

「そんな野暮な真似はしねぇよ。だが後始末はまかせてもらいてぇな」

 

「え?いや、でも...」

 

「稟ちゃん、君はもう僕らの関係者なんだ。関係ないとは言わせないよ」

 

「今回の事情を聞いた以上、こいつらがクズなのは明白だからな。中には今までうちのシアに付きまとってたのもいたらしいじゃねえか!」

 

「そうだよ、うちのネリネちゃんもこの中の何人かには迷惑をかけられているんだ。ここは私たちにまかせてくれないかい?」

 

笑いながらそういう二人に、稟はもはや言い返す言葉もはる意地もあるはずもなく

 

「ありがとうございます」

 

と頭を下げる。

二カッと笑って事情説明をしに理事長室に向かう二人の王様と二人の娘たち。

四人が出て行ったあとで、MMMの一人がうめきながら立ち上がると稟を憎憎しげに見ながら、

 

「麻弓ちゃん、そいつはシアちゃんやリンちゃんにも取り入ってそんなことするやつなんだ。はやく目を覚ましてくれ」

 

といって殴りかかってくる。

それに対して稟は筋力増強帯をはずして体力の限界の状態だったが相手の顔面に右拳を打ち下ろす。

 

なおもなにか言おうと立ち上がろうとする相手に稟は、

 

「つまらないことをいうな!俺が麻弓に惚れて、俺が付き合ってくれといったんだ。その勇気すらなかったお前らが偉そうになにいってんだ!二度と麻弓に近づくな!」

 

と怒鳴りつける。

それを見ていた樹は心底驚いたような顔をして稟を見つめ、楓は少し寂しそうだがそれでも嬉しそうに微笑んでいた。

そして当の本人の麻弓はその猛々しい稟に声もなく頬を真っ赤に染めていた。

やがて叫んだ稟自身も恥ずかしくなったのか顔を赤くしてあらぬ方向を向く。

そんな二人をみて樹と楓は苦笑しながら顔を見合わせると、

 

「稟、今日はもう麻弓を送って帰るんだね」

 

「ええ、稟君は疲労が激しくて話せる状態ではないって言っておきます」

 

といいながら二人を屋上から押し出す。

いつの間にかシアたちも帰ってきてそのまま階段の下まで四人に押しやられると、二人は苦笑しながら見つめあう。

 

「まったく、おせっかいな親友たちなのですよ」

 

と少し照れたようにいう麻弓の手を稟は握ると

 

「ああ、でも俺はそのおせっかいが素直に嬉しい」

 

とやはり照れながら告げる。

そのまま下駄箱までいくと、稟は不意によろめいて壁に手をつく。

 

「まいったな。体力かなりもっていかれた」

 

とそこまで言うと顔を真っ赤にしながら、

 

「あ、あの、麻弓...その、う、うちで看病...してくれるか?」

 

と思い切った口調でたずねる。

麻弓は一瞬己が耳を疑ったが、すぐに稟が本気であることを知ると稟と同じくらい顔を染めながら、

 

「もちろん!いやだっていっても押しかけるのですよ♪」

 

と弾けるような笑顔でいいながら抱きつく。

その場で二人はどちらともなく顔を近づけて暫く互いの唇を貪りあうと、互いの肩を抱きながら同じ道を帰路に着いた。

これからも続いていくだろう隣のぬくもりとの日々に思いをはせながら...

 

 

 

 


あとがき

 

初シャッフルSSはやっぱり麻弓!

ブリジット「PCのときからのお気に入りだったです」

もち!なんせ『サブキャラに惹かれる男』だし

ブリジット「自慢にならないです」

ぐぅ、い、いいだろ?サブってのはメイン以上に魅力があるもんなんだ

でないと話は盛り上がらん

ブリジット「What?なにか物書きっぽいことをいってるですぅ」

だからお前それは多重人格の管理人さんの親友だって

ブリジット「そんなひとしらないです。それともあなたSS書いて説明するです?」

いや、勘弁してください

これから次書かないといけないんで

ブリジット「Oh,ならしょうがないです。見逃すです」

た、助かったぁ...そ、それでは今回はこの辺で

ブリジット「SEE YAです!」





SHUFFLE!の短編〜。
美姫 「前半はほのぼので、後半は稟がきれてたわね」
でも、あれは当たり前のような気もするよな。
美姫 「よね〜。さて、投稿ありがとうございました」
ました〜。麻弓がとても可愛らしかったのですよ〜。



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