An Unexpected Excuse

  春歌編……?〜




    

    

「俺が好きなのは…………」

 

『好きなのは?』

 

「…好き、なのは…………」

 

『好きなのは!?』

 

言うか言うまいかを迷いながら慎重に言葉を選ぼうとする恭也に、忍や美由希達をはじめとするファンクラブの面々が早く答えを聞きだそうと身を乗り出してくる。

その異様なプレッシャーに、恭也は何故だか身の危険を感じて一歩、また一歩とあとずさり、仕舞いには木にぶつかってしまう。

 

「さぁ恭也!キリキリ答えなさい!」

 

「そうだよ恭ちゃん!減るもんじゃないし!」

 

「恭也さん、お願いします!」

 

「「お願いします、(お)師匠!」」

 

口々に必死とも言える形相で詰め寄ってくる忍達に恭也は段々理不尽さすら感じつつも、勢いに押される形で口を開く。

 

「あ、いや、だから俺の好きな人は……」

 

しかし“好き”という言葉に反応するかのように顔をよりいっそう近づけてくる皆に思わず息を呑んでしまって言葉が途切れる。

それを言いよどんでいる、言いたくないんだと解釈した忍達は、さらに詰め寄って無言のプレッシャーを恭也にかける。

相手は家族や友人や学校の生徒に先生たち、しかも女性ばかりということもあって強く出れずにいる恭也。いよいよ先頭の忍達の顔があと数十センチという所まで近づいたその時。

 

「兄君様から離れなさい!」

 

中庭を猛スピードで駆けてくる、長い髪を後ろで一纏めに束ねた少女が叫んだ。

何事かと後ろを振り向き、その勢いと手に持った木薙刀に驚いて慌てて道を空ける。

そしてその少女は最前列の忍達を飛び越え、とっさに皆を下がらせた美由希の前に、恭也との間に割って入るように飛び込んだ。そして美由希に向かって木薙刀を振るい、

 

「え?」

 

条件反射でそれを掴んだ美由希によって突き飛ばされてしまう。

 

「あ、危ないでしょ!?いきなりそんなもの振っ……ちゃ…………?」

 

慣れた手つきでそれをくるくると回し、地面に突き立てて自分が突き飛ばした少女に文句を言おうとして美由希は固まった。

 

「あ、兄君様……ありがとうございます」

 

「いや。それより大事無いか?」

 

「はい。兄君様が受け止めてくださったおかげで怪我一つありませんわ」

 

「そうか。よかった…………ん?どうしたんだ?」

 

「……そ、その……私、兄君様をお守りする為にドイツから戻りましたのに……」

 

「ああ、それならば仕方がないだろう。さっきのは俺の弟子だ」

 

「まぁ!さすが兄君様♪御自分自身だけではなく御弟子の方まできちんとご指導なされているのですね♪ますます尊敬してしまいますわ」

 

美由希達をよそに片膝を立てて乱入してきた少女を抱き抱え、しきりに気遣う恭也と、そんな恭也に頬を染めながらも美由希に軽くあしらわれてしまった自分を責めたりと忙しい少女。

 

「あ、あの……恭ちゃん?」

 

固まったままだった美由希がそんな二人の会話の中に聞き流せないある言葉を聞いて復活した。どうやら他の面々も似たようなものらしく、信じられないものでも見るような目で二人を見つめている。

そんな皆の視線を受けて恭也は訝しげに小さく首を傾げたが、とりあえず話しかけてきた美由希に顔を向ける。

 

「なんだ?美由希。まったく、お前の成長は俺としても嬉しい所だが時と場合を考えろ」

 

と、先ほど少女に向けていた気遣わしげな優しい表情とはうって変わった普段の顔に戻って少女を抱いたままの恭也に、美由希は少女を指差しながらおそらくその場の全員が抱いているであろう疑問を恭也にぶつけた。

 

「その子、誰?」

 

「ん?彼女は春歌という」

 

「春歌と申します。先ほどは兄君様の御弟子様とは露知らず、大変失礼をいたしました」

 

「そ、それよそれ!」

 

恭也の紹介に春歌と呼ばれた少女は少し名残惜しそうに恭也の腕から離れて綺麗に一礼してみせる。

その純和風で優雅な仕草に美由希を押しのける形で前に出た忍も一瞬息を呑んだが、すぐに気を取り直して恭也に詰め寄った。

 

「今この子恭也の事“兄君様”っていったわよね!?いったいどーゆーことなのよ!?」

 

美由希達も忍に同意するように頷いて恭也の返事を待つ。

そのさらに後ろのファンクラブを含めた視線に晒された恭也は、諦めたように一つ溜息をついた。

 

「どういうことも何も……ああ、そういえば答えていなかったな。俺の好きな人はここにいる春歌だ」

 

「……な、な、なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

 

「そ、そんな……こんなに大勢の皆様の前で…………私、照れてしまいますわ♪ポポポッ♪」

 

絶叫する忍と、照れて頬に両手を当てて体をくねらせている春歌。

美由希達にいたっては指さしたまま声も出せずに口をパクパクさせている。

人を指差すのは失礼だと注意する恭也の言葉すら聞こえていない美由希達をよそに、恭也の好きな人が突然現れた春歌だと知ったファンクラブの面々は一人、また一人とその場を後にする。

暫くしてその場に残っているのは恭也と春歌、そして忍や美由希達だけになった。

 

「…で?その子のことが好きだってゆーのはいい…………いやあんまりよくないけど……でもいいことにしておくわ。でも恭也、この春歌ちゃん?の事妹って……」

 

「ああ。たしかに春歌は俺の妹だ。といってもとおさんが生前亡くなった友人の子供を自分の娘にしたから血の繋がりは全くないんだがな」

 

「義父様が亡くなって、元々兄君様達と離れて暮らしていた私は産みのお母様のご実家のドイツに引き取られたのですが、それからも兄君様はずっと私の事を気にかけてくださっていて……。私も来年高校生になるので自分の進路を自分で決めなければいけなくなった時、すぐに兄君様と同じ町にと」

 

「じゃ、じゃあなんで日本に来ていきなり恋人なの?恭ちゃんドイツになんて一度もいってないでしょ?」

 

全く分からないといった表情の美由希に、恭也は少々ばつが悪そうに表情をゆがめた。

 

「いや、実はな。俺は年に一回かならずドイツに行っていたんだ」

 

「「「…………え?」」」

 

普段から一緒に生活している三人が素っ頓狂な声をあげる。

 

「毎年一回旅に出ていただろう?あの時だ」

 

「兄君様は毎年夏になると私に逢いに来て下さっていました。七月にいらっしゃった時は七夕も一緒に過していただいて……。まるで織姫と彦星のようですわ♪ポッ、ポポポッ♪」

 

「……じゃ、じゃあいつも買ってきてくれていたお土産は……」

 

「帰国してから一日、適当な土地に出向いて買ってきていた」

 

「……いつも聞かせてくれる旅先での話は?」

 

「大体はドイツでの出来事を脚色したものだ」

 

晶とレンの疑問に申し訳なさそうに答える恭也。

 

「でもなんで話してくれなかったの?私に妹がいたなんて」

 

「かあさんには話してあったんだ。すぐに引き取ろうとも言ってくれてはいた。しかしお前と違って御神となんの関わりもない春歌には俺達との生活は苦痛になるんじゃないかと思ってな。それでどうせ一緒に暮らせないなら黙っていようと……すまなかったな、美由希」

 

真剣な表情で頭を下げた恭也。

美由希は突然の事に慌てて、

 

「い、いいんだよ恭ちゃん。まだ小さかった私や春歌ちゃんにとって一番いいようにって思ってしてくれたんでしょ?」

 

と逆に恐縮してしまっている。

そんな美由希に恭也は一言、

 

「ありがとう」

 

と礼を言うと、その表情を突然変えた。まるでなのはに悪戯をする時のような表情に。

 

「しかしな美由希。お前は一つ、大きな間違い、勘違いをしている」

 

「え?な、なに?」

 

分からないと首を傾げる美由希。晶とレンも恭也の意図する所がわからず、美由希の隣で同じく首を傾げている。すると忍と那美がふと何かに気付いたような表情になった。

 

「あ、そうか!さっき恭也が言ってたんだ!」

 

「好きな人は春歌さん……ということは……」

 

「そう、美由希。春歌は今の所お前の義妹だが…………とその前に春歌」

 

「あ、はい兄君様」

 

「今日から俺を兄と呼ぶのは止めて貰いたいんだが」

 

話の見えている忍と那美は、すこし照れたようにそういう恭也をみて二人で顔を見合わせて笑うと無理矢理美由希達とその場を離れた。

気を利かせてくれた二人に感謝の意を示して春歌に向き直った恭也の目に飛び込んできたのは、自殺でもしそうなほど絶望の表情を浮かべた春歌だった。

 

「そ、そんな……私が妹では、ご迷惑ですか?」

 

初めこそ春歌の表情の意味が分からなかった恭也だったが、その言葉を聞いて優しく微笑むと、

 

「いや春歌、そうじゃないんだ」

 

と頭を撫でる。

そして完全に混乱している春歌に恭也はいきなり軽く口付けた。

 

「兄と呼ばれては、こういったことをするのにも多少抵抗を感じてしまうだろ?それに俺は春歌に、……その、美由希の義妹ではなく義姉になってもらいたい」

 

そう言って力強く春歌を抱きしめる恭也。

 

「もしかして……迷惑か?自分が兄だと思っていた人間のこういった気持ちは」

 

いくら血が繋がっていなく、恋人となったとはいえやはり今までの環境が変わってしまう。それに不安を覚えて返事を躊躇っていると解釈した恭也。

しかし少しだけ不安を感じさせる声でそう、囁くように尋ねられた春歌は慌てて体を少しずらして恭也を正面から真剣な表情で見つめる。

 

「え、そ、そんな!私はいつも夢見ていました!いつか兄君様と添い遂げるのを。…………本当に、夢じゃないんですね?」

 

慌てて自分の気持ちを訴えた後、感無量といった表情で瞳に涙を浮かべる。

 

「ああ、俺は今度こそ春歌とずっと一緒だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね?つまりあの子は美由希ちゃんの義妹だけどもうすぐ義姉って事♪」

 

恭也達の様子を草陰から見ていた忍達一同。

忍と那美の説明を聞いた美由希は、

 

「うぅ〜、なんかすっごい複雑」

 

と困惑気味。

しかし晶とレンは、

 

「まぁまぁ。お師匠の選んだ方なんだからええひとなのは間違いないですよ?」

 

「それになのちゃんはどっちにしてもお義姉さんが一人増えるわけですしね!いやぁ、喜びますよ、なのちゃん」

 

「これは放課後すぐに桃子さんに報告ね!」

 

『はい!』

 

なんだかんだで状況を楽しんでしまう五人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもあ、いえ、恭也様……」

 

その後、結局授業をサボって中庭で寄り添って過す恭也と春歌。

右肩に乗った春歌の頭を撫でながら、恭也は「どうした?」と尋ねる。

 

「先ほどのお話ですが……出来れば私と兄君様二人だけの時は今までどおり呼ばせていただけませんか?私にとっては、大事な事なんです」

 

「……二人の時だけだぞ?」

 

「はい!これからもよろしくお願いしますね、兄君様♪」

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

またまた無謀な事やらかしました、アインです

ブリジット「とうとうシスプリまでだしたですか。しかも全員でドタバタじゃなく一人でほのラブ」

実は初めは「これだけの妹の面倒見なければいけないからな」とか言う感じのドタバタを予定してたんですけど、浩さんに見透かされた感じがあったんで変更♪なんだか師匠にこのシリーズ書くたびに美姫さんに賄賂贈ってる仕返しされた感じ?

ブリジット「この捻くれ者が、です。大体賄賂の件は自業自得ですぅ。結局アインの一番お気に入りの妹で書いてるしです」

…………とまぁそんなこんなで春歌編でした。ちなみに年齢は美由希の一個下。どっちかっていうと小説版の一人の妹につき兄も一人みたいな感じですんで、この設定ではもう妹は出てこないってことでよしなに。

ブリジット「露骨に話そらしたDEATH。それではまた違う妹で、SEE YAです〜♪」

いや、シスプリ続けるなんて言ってないし……ねぇ聞いてる!?おい!? DEATHってお前!

 

 





という訳で、春歌〜。
美姫 「誰かさんの一言が、たのキャラの出番を奪ったのね」
うっ! お、俺か、俺が悪いのか!?
美姫 「どう考えてもアンタが悪でしょう」
ふっ、ふふふふ。ならば悪を貫いてやる〜。
とりあえず、美姫の靴を隠して、えーい、ノートに鉛筆で落書きだ〜。
美姫 「悪戯レベルね」
どうだ、まいったか。
美姫 「でも、悪と名乗ったのなら退治するまでよ! 大義名分を得たわ!」
し、しまった! って、ぶべらぁっ!
美姫 「悪即斬。なんちゃって♪」
……こ、こっちはなんちゃってじゃすまないんだが…………ガクッ。
美姫 「投稿ありがとうございま〜す。それじゃあ、今回はこの辺で」
…………。



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