それは魔法を超えた不思議なの
  作 安藤龍一
   * * * * *
 それは、なのはが久しぶりにわたしの家に泊まりに来たときのことでした。
 朝、起きると目の前にわたしの顔があった。
「えっ?」
 思わず間抜けな声を出してしまう。
 えっと、鏡……じゃ、ないよね。
 まだ半分寝ぼけた頭でとりあえず浮かんだ可能性を確かめるべく、目の前のわたしの顔へと手を伸ばす。触れた手に伝わるのは柔らかな感触と人肌の温もり。うん、本物だ。でも、そうすると、今この顔に触れているわたしはどうなっているんだろう。
 そこまで考えたとき、不意に目の前のわたしの目が開いた。
 二度、三度と瞬きをして、それから眠たそうに目を擦る。
 あれ、この仕草、どこかで……。
 わたしがそう思っていると、そのわたしがいきなりわたしの身体を抱きしめてキスしてきた。
 いや、自分に唇を奪われるなんて経験、普通は出来ないと思う。だとすると、そんな普通では出来ない経験をしたわたしは幸運なのかな。
「おはよう、フェイトちゃん。って、あれ、どうしてわたしになってるの?」
 驚いたのとキスされたのとで何だかぼぅっとしてしまっているわたしに、わたしが目を瞬きながらそんなことを聞いてくる。
「ひょっとして、なのはなの?」
「あ、うん。そういうあなたはフェイトちゃんだよね」
 驚きが続いたせいで逆に冷静になったわたしのその問いに、わたしが戸惑った様子で聞き返す。
「つまり、目が覚めたら二人の身体が入れ替わっていたと?」
 呆れたようにそう聞いてくるエイミィに、わたしとなのはは揃って頷いた。理由は分からないけれど、今のわたしたちはそういう状態なのだ。
 わたしがなのはの身体に入っている。
 わたしがなのはの身体に……。
「それで、何か原因に心当たりはある?」
 気を取り直すように一つ咳払いをして表情を引き締めると、エイミィはメディカルチェックを行うための魔法を起動させながらそう聞いてくる。アースラの主席オペレーターを務める傍ら、執務官補佐としてクロノを支える彼女は、無茶ばかりする上官の体調管理に必要だからと、こういう細かな魔法も習得しているのだとか。
「えっと、あんまり考えたくはないんだけど、一つだけ」
 妄想の世界へと旅立ちかけているわたしの傍らで、わたし、もといなのはがそう言って手を挙げる。その口元が引き攣っているのを見るに、なのはの中でそれはかなりの地雷らしかった。
「……言ってみて」
 そんななのはの様子に、尋ねたエイミィの表情にも緊張の色が浮かぶ。
「昨日の朝、お姉ちゃんが料理をしていたの」
 なのはがそう言った瞬間、わたしたちの間の空気が音を立てて固まった。
「そ、それで……」
 年長者の意地なのか、ぎりぎり何とか冷静さを装って先を促すエイミィ。だけど、その口元が引き攣っているのはどうにも隠し切れないみたい。
 うん、気持ちは分かるよ。だって、美由希さんの料理だもん。きっと、わたしも同じような表情をしているだろうし。
 なのはのお姉さん、美由希さんの料理といえば、それはもうある種のロストロギアにも匹敵するほどの脅威だ。料理と呼ぶこと事態が料理に対する冒涜で、一口食せば如何なる超人であろうと意識を手放すとまで言われている。
 わたしが食べさせられたときには丸一日目を覚まさなかった。でも、後で聞いた話によれば、寧ろその程度で済んだことこそが奇跡だとか。
 なのはいわく、不幸にもその味を覚えていたものは味覚を破壊され、体質によっては身体の一部が異常発達したり、果ては性別がひっくり返ったなんて例まであるらしい。
 不幸中の幸いというべきか、今のところそれらはすべて一過性のもので、取り返しがつかなくなったということはないらしいけど、どうしてただの料理、といって良いのかどうかはさておき、普通の材料で作ったものでそんな現象を起こせるのか、わたしには甚だ疑問でならない。
 でも、そんなとんでも料理なら、触れ合った相手と精神が入れ替わるなんてことも普通に出来てしまいそうで怖い。って、まさか……。
 その可能性に思い至ったわたしは、信じられない思いでなのはを見た。そこには、バツが悪そうに目を逸らすわたしの顔。
「嘘でしょ!?」
 同じ可能性を考えたらしいエイミィも、目を一杯に見開いてわたしの顔を凝視している。
「だ、だって、断りきれなかったんだもん!」
 開き直ったようにわたしの声でそう叫ぶなのはに、わたしとエイミィは揃って溜息を吐いた。
「はぁ、とりあえず、わたしはリンリーさんに連絡してくるから。二人は元に戻るまで大人しくしてるように」
 何ともいえない表情でそう言い置くと、エイミィは踵を返して部屋を出ていった。
「まさか、こんなことになるなんて思わなかったよ……」
「そんなに気を落とさないで。見たところ、身体が入れ替わった以外には特に問題もないみたいだから」
 項垂れるなのはを何とか慰めようと、わたしはエイミィがそのままにしていった空間ウインドウを見ながらそう声を掛ける。そこには簡単なメディカルチェックの結果が二人分、きちんと見やすいように整理されて映っていた。
「どれどれ……。あ、本当だ。あ、でも、わたしの身体、ちょっとだけ心拍数が高いみたいだよ」
 そう言って不思議そうにウインドウの一点を指差すなのは。女の子なら秘密にしておきたいデータとかまで結構暴露されちゃっているけれど、それこそわたしたちにとっては今更だ。
「そ、それは、ほら、わたしの身体だって似たようなものだよ」
 少し顔を赤くしながらそう言うわたしに、なのはは気まずそうに目を逸らす。その顔もたぶん、わたしと同じくらい赤い。
「とりあえず、着替えようか。いつまでもパジャマのままってわけにもいかないし」
「そ、そだね」
 お互いに何となく考えていることを察して、動揺しながらのなのはの提案に、わたしも少し上擦った声で答える。
「えっと、それじゃ、失礼します……」
 そう言って、わたしはなのはの身体が着ているパジャマのボタンへと手を掛ける。一つ、二つと外して、ふと目線を下げれば、そこには小振りながらもしっかりとした膨らみが二つ、渓谷を作っているのが見えた。
 うわっ、何だかすごくドキドキするよ……。
 知らないとこなんて無いなのはの身体だけど、いつもとは違う視点で見ているせいかちょっと新鮮な気がする。それに、まるでわたしが強制してなのはを脱がさせてるみたいで……。
「こら!」
「ひゃふっ!?」
「なに、人の裸見て興奮してるのかな?」
 後ろから自分の身体を抱きすくめながらそう言うなのはに、わたしは思わず顔を真っ赤にして固まってしまった。
「わ、わたしは別に興奮してなんか、……ひゃっ!?」
 慌てて否定しようとして、不意に身体を走った感覚にそれを邪魔される。
「……ほら、ここ、もう硬くなってきちゃってる。身体が入れ替わって、いつ元に戻れるかも分からないってときに、ここをこんなにしちゃうなんて、フェイトちゃんはいけない子だね」
 右胸の先端を軽く指の腹で撫でながら、耳元に囁くなのは。その声はわたしのなのに、何だかすごくエッチに聞こえる。
 わたし、こんな声も出せるんだ……。
 いつもはなのはに啼かされてばかりで攻めに回ったことなんてないから知らなかったけど、何ていうか、その、すごく色っぽい。それに、なのはのこの身体も、わたしがどうのって言えないくらいに敏感で、軽く胸を触られてるだけなのに、すごく感じちゃうの。
「な、なのは……」
 切羽詰った声で止めてと訴えるわたしに、なのはは止めるどころかますます行為をエスカレートさせていく。
 分かってる。こんなふうにお願いしたって、逆に煽っちゃうだけだってことくらい。でも、他にどうしろって言うの。
 片手で胸を弄びながら、もう片方の手をゆっくりと下に伸ばしていくなのは。同時に耳朶を軽く唇で挟まれ、舌先が耳の穴の中にまで入ってくる。身体が自分のじゃない上に、何箇所も同時に攻められたら上手く抵抗するなんて出来るわけがない。しかも、攻めているなのはのほうは、隅々まで知り尽くしている自分の身体なんだからもう反則としか言い様がないよ。
「うふふ、身体がわたしのでも、感じてるときの表情や仕草なんかはフェイトちゃんのままなんだね」
「あ、当たり前、だよ……。わたしは、わたしなんだから」
「そうだよねぇ。でも、感じる場所や感じ方はいつもと違うでしょ。……ほら、こことか」
「きゃぅ、ちょ、なのはっ!?ど、何処、触ってるの!?」
「かわいいよ。フェイトちゃん」
 未知の刺激に堪らず悲鳴を上げるわたしに、なのはがエッチな顔と声で笑いかけてくる。だから、どっちもわたしのなんだけど、全然そんな気がしないのは何故。
「な、なのは、自分の身体虐めて楽しい?」
 完全にこの状況を楽しんでいる様子のなのはへと、わたしは息も絶え絶えになりながらそう尋ねる。
「だって、こんな経験、そう出来るものじゃないよ。それにさっきも言ったけど、フェイトちゃんはフェイトちゃんだし、なら、なのはのすることもいつもと変らないよ」
「それは、そうだけど……」
「というわけで、続きしよ」
 言いよどむわたしにそう言うと、なのははわたしをベッドの上に押し倒す。これまで散々弄られていたわたしがそれに抵抗出来るはずもない。
 尤も前述のような理由でこの身体にもすっかり火が着いてしまっているから、ここで止められたらそれはそれで困るんだけど……。
 余談ですが、この後結局いつも通りにしてしまったわたしたちは昼前になって帰ってきた母さんに二人揃ってこってりと絞られました。
   * * * fin * * *





う、うーん、乗せれるかどうかの判断は任されたけれど……よし、OK!
美姫 「かなり際どいけれど、いいの!?」
ま、まあ、これぐらいなら良いでしょう。
という訳で、なのはとフェイトのSS〜。
しかも、入れ替わりもの。
美姫 「原因は美由希なのね」
あははは。書く人によって、色んな効果が……。
ともあれ、今回のSSはちょっぴり危なく甘いお話みたいだな。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ました〜。



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