『決闘少女リリカルなのは』





 デュエルリングの一つに向かって一人の少女が走っている。
 年の頃は、なのはやアリサたちと同じくらいだろうか。ツインに結った金色の髪を靡かせ、左腕にはデッキがセットされたデュエルディスク。
 だが、あちこちに小さな傷が目立ちながらもよく手入れされたそのディスクからは装着者の外見にそぐわない年季のようなものが見て取れた。
 少女の名前はフェイト=テスタロッサ。海鳴市の隣、遠見市に居を構えるテスタロッサ家の娘で、今年八歳になる新進気鋭のデュエリストだ。
 今年の初めに毎年恒例行事として行われている遠見市主催のデュエル大会で、小学生部門に於いて初出場初優勝を果たし、その後の市内のカードショップで開催される毎月の公認大会でも常に上位5位以内に入り続けている。
 そんな自分の実力が何処まで通用するのか確かめてみたくて、彼女はこの全国アマチュアデュエリスト選手権に挑んだのだが、今は少しばかりそのことを後悔していた。
 それというのも、フェイトの母親であるプレシアが仕事中の事故に巻き込まれて倒れてしまったからだ。
「母さん!」
 知らせを受けたフェイトは、病院に駆けつけるなりベッドに横たわる母の姿を見て思わず叫んでしまった。控え目で大人しいフェイトの常からは考えられない大声に、呼ばれたプレシアのほうが逆に目を丸くしていた程だ。
 だが、そこは病院。そんな大きな声を上げれば他の患者の迷惑になるわけで、フェイトはその場に居合わせた母の友人でもある担当の女医先生からやんわりとお叱りをいただくこととなったのだった。
 さて、事故に遭ったプレシアだが、怪我自体は大したことはなかった。寧ろ倒れたのは働き過ぎによる疲労の蓄積が原因とのことで、こちらはきっちりと説教されることに。
 この女医ときたら、娘たちの前だというのに容赦なく叱り付けるものだから、プレシアはすっかり参ってしまった。そこに普段の優しくて格好良い母さんの姿は見る影もなく、フェイトは大いに戸惑ったものだった。
 結局、プレシアはドクターストップが掛かる形で入院が決まり、数日は安静にしているよう言い渡される。それが、東海地区予選開催の三日前のこと。
 フェイトは出場を取り止めて母の看病をすると言ったが聞き入れられず、逆に娘の雄姿を見届けるのだと会場まで付いて行こうとするプレシアを女医や従姉妹のアルフと共に説得しなければならなかった。
 今朝も見舞いに寄ったフェイトに激励の言葉を送る傍ら、隙あらば抜け出そうと画策しているのが見え見栄な母の様子に、娘は嬉しいやら申し訳ないやらで、どうしたら良いか分からずに困ってしまった。
 ――母さん、そんなにわたしがデュエルするところを見たいんだ……。
 期待している。そう言われたのを思い出して、フェイトは思わず走りながら頬を緩めた。
 思えば最近では一緒に過ごすことも少なくなっていた。母子家庭で生活していくには沢山働かなければならないと子供ながらに理解しているフェイトではあったが、それでも寂しく感じることは否めなかった。
 それでも我慢出来るのは、自分が嫌われているわけではないと確信しているから。
 愛されているのは、今回のことを見るまでもなくよく分かる。だからこそ、フェイトも頑張ることが出来るのだ。
 ――うん、頑張ろう……。
 母を看病するという貴重な時間が減ってしまったのは残念だが、その分掛けられた期待に応えるチャンスを得たのだと思えば落ち込みかけていた気分も大分上向けることが出来た。
 戦意も高く、フェイトはデュエルリングに立つ。相手は既に準備万端整えてフェイトを待っているようだった。
「ごめんなさい。遅れました」
「いいえ、時間丁度ですよ」
 フェイトが待たせてしまったことへの謝罪を口にすると、対戦相手の女性は柔らかな微笑を浮かべて首を横に振った。その仕草に合わせて、帽子の上に乗った二つのネコの耳が揺れる。
 ふさふさの毛に縁取られた猫耳。やや吊り気味の瞳と合わせて、まるで本物の猫のような印象を受ける女性だった。
 ――あれ、この人、前に何処かで……。
「それじゃあ、そろそろ始めましょうか。わたしはリニス。よろしくお願いしますね」
 微妙に動いているような猫耳に、フェイトが奇妙な既視感を覚えて首を傾げていると、女性がそう言って手を差し出してきた。その手に応じて握手を交わすと、二人は数メートル離れて対峙する。
 これから行われるのは一回戦最後の試合。既に大半の参加者がデュエルを終えているためか、リング周囲に集まった観客の数もこれまでで一番多くなっているようだ。
 集まる視線に息を呑みながらも、フェイトはデッキからカードを5枚取って初手の手札とする。こうして、彼女の本大会最初のデュエルが幕を開けた。

  フェイト LP:4000
  リニス  LP:4000

「先行はわたしからですね。では、ドローするとしましょうか」
 リニスと名乗った女性はそう言うと、優雅とも取れる流麗な仕草でデッキへと手を伸ばす。洗礼されたその動きには無駄がなく、彼女が熟練者であることを伺わせた。
「ふむ、まずは手札から永続魔法《神の居城‐バルハラ》を発動します。このカードの効果はご存知ですか?」
「えっと、はい。確か、自分の場にモンスターが存在しない場合、手札の天使族1体を特殊召喚することができる。ただし、その効果は1ターンに1度しか使えない、でしたか」
「正解です。わたしの場にモンスターはいません。よって、効果を使うことが出来ます。わたしはこの効果で手札の《光神テテュス》を攻撃表示で特殊召喚します」
 問われたフェイトは軽く顎に人差し指を当てて考える仕草を見せると、思い出したバルハラのカードテキストを口にする。それにリニスは満足げに微笑み、効果を処理した。
「更に手札から《豊穣のアルテミス》を召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

  フェイト LP:4000
  手札:5枚

  リニス  LP:4000
  手札:2枚
  場:光神テテュス ・ 豊穣のアルテミス
  魔法・罠:神の居城‐バルハラ ・ 伏せ1

 アルフは愕然としていた。彼女がデュエルの大会に出るというフェイトに付き添うのはいつものことだが、今回はその対戦相手が問題だった。
「なん、で……」
 思わず漏れた呟きは驚愕に擦れ、ようやく言葉になっている有様。何故、どうして、そんな言葉ばかりがぐるぐると頭の中を回り続け、まるで思考が纏まらない。アルフはそれ程の衝撃を受けたのだ。
 リニスはフェイトの母親、プレシアの使い魔で、フェイトの教育係も務めた彼女にとっては姉代わりのような存在。四年前のある事件で行方不明になっていたのだが、その彼女が何故こんなところに。
 いや、そんなことはどうでも良い。生きていたのなら何故連絡してこなかったのかとか、心情的に問い詰めたいことは山程あるが、それこそこのデュエルが終わった後で幾らでも聞けば良いのだから。
 問題はデュエルをしている二人の様子だった。フェイトは良い。彼女は事件のショックからそれ以前の記憶をほとんど失っており、そのためリニスのことを分からなくても無理はないからだ。
 しかし、リニスのほうは……。

「わたしのターン」
 デッキへと手を伸ばし、引いたカードを手札に加えながらフェイトは考える。相手の場には有名な天使族召喚サポートカードの神の居城‐バルハラに、天使族モンスターが2体。
 そのうちの1体がカウンター罠の発動をトリガーにカードをドローする効果を持つ豊穣のアルテミスであることから、相手のセットカードはカウンター罠の可能性が高いだろう。
 しかし、隣に並び立つ光神テテュスがそれを断定させない。こちらの効果はカードをドローした際、それが天使族だった場合に相手に見せることで更なるドローを行えるものだ。
 もしも、アルテミスの存在を囮にセットカードをカウンター罠と誤解させ、除去しようとしたところでそれが実際にはドロー効果を持つフリーチェーンの罠、例えば《強欲な瓶》だった場合、光神テテュスの効果と合わせて確実に2枚はドローされてしまう。
 だが、先に光神テテュスをどうにかしようとして、伏せられていたのがそれを防ぐためのカウンター罠だったなら、アルテミスとテテュスの効果でやはり2枚ドローは確定だ。
 更には残りの手札が2枚なのも問題だった。天使族には他の天使族と共に手札から捨てることで、こちらの行動を阻害する効果を持つ宣告者というシリーズがあるからだ。
 フェイトは考える。ここまで挙げた可能性すべてに対応するには、どうすれば良いのか。考えて、考えて、やがて彼女は意を決すると、手札の1枚へと手を伸ばした。
「手札から魔法カード、《二重召喚》を発動。この効果でわたしはこのターン、二度の通常召喚を行えます」
 まずは最初の一手として、召喚の権利を水増しする魔法カードを発動させるフェイト。だが、リニスは動かない。手札とセットカードはどちらも魔法の発動を妨害するものではないのだろうか。
「《雷の戦士ライディ》を召喚して、効果を発動。このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力を800ポイント単位で下げることで、800ポイントにつき1枚、フィールド上のカードを破壊することが出来ます。わたしはこの効果でライディの攻撃力を1600ポイント下げて、光神テテュスと神の居城‐バルハラを破壊します」
「ですが、それでそのモンスターの攻撃力は0。いえ、二重召喚を使っていましたね。これでライディをアドヴァンス召喚のためのリリースにすれば無駄もないですか。なるほど、よく考えていますね」
「あ、いえ、その、ライディは自身の効果で攻撃力が0になると自壊するんです」
 感心するリニスにフェイトが慌ててそう言うと、彼女の言葉通りに力を失った女戦士はその場に崩れ落ちて消滅した。
「まあ、レベル4で2枚も除去できるなら、そのデメリットにも頷けますが。それで、ここからどうしますか?」
「えと、手札から《雷神官ウィルナ》を召喚して、バトルフェイズに入ります」
 フェイトの場に胸に稲妻の刺繍(ししゅう)が施された神官服姿の少女が召喚される。ウェーブの掛かった青い長髪に、金色の瞳。口元には小さく笑みを浮かべ、見るものに柔和な印象を与えている。
「ウィルナで豊穣のアルテミスを攻撃」
 雷の力を操る女神官がその手に携えた杖を振り翳す。すると、長柄の先端に取り付けられた球体の中心で金色の宝玉が輝き、周囲に金色の魔力弾を浮かび上がらせた。
「――行きます、フォトン・ランサー・マルチショット!」
 振り下ろされる杖を号令に、複数の魔力弾が撃ち出され、豊穣のアルテミスを貫いた。セットカードはまだ翻らない。
「雷神官ウィルナの効果。このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、自分のデッキからレベル7以上の戦士族、または魔法使い族モンスター1体を手札に加える。わたしは、この効果でデッキから《混沌の黒魔術師》を手札に加えます」
 フェイトもまさか普通に通るとは思わなかったのだろう。戸惑いながらもそう言って、カードの効果を処理する。そして、その効果でサーチされたカード。
「混沌の黒魔術師。確か、デュエルキングのデッキにも入っている魔法使い族の切り札でしたね。ということは」
「手札から即効魔法《ディメンション・マジック》を発動。このカードは自分フィールド上に魔法使い族モンスターが表側表示で存在する場合に発動する事ができる。自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースし、手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。その後、フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する事ができる」
「雷神官ウィルナは魔法使い族。よって、発動条件は満たしていますね。そして、今はまだあなたのバトルフェイズ中。なるほど、一気に攻めるつもりですか」
「わたしは雷神官ウィルナをリリースして、手札の混沌の黒魔術師を攻撃表示で特殊召喚します」
 フェイトの掲げたカードから次元の渦が発生し、雷神官ウィルナを呑み込むと、それと入れ替わるように混沌の黒魔術師がフィールドに降り立った。
「さて、フィールドにはあなたの混沌の黒魔術師1体しか存在しませんが、ディメンション・マジックの破壊効果はどうするつもりですか?」
 問われ、フェイトは考える。ディメンション・マジックの破壊効果は任意のため、使わないこともできる。その場合、混沌の黒魔術師の任意効果を使うこともできるのだが。
「ディメンション・マジックのモンスター破壊効果は使いません。混沌の黒魔術師の効果、このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地の魔法カード1枚を手札に加えることができる。ディメンション・マジックを手札に」
「それを待っていました。わたしは混沌の黒魔術師の効果にチェーンして、手札の《朱光の宣告者》の効果を発動。手札からこのカードと天使族の大天使クリスティアを墓地に捨て、その効果を無効にして破壊します」
「なっ!?」
「種類の豊富な天使族デッキへの対策の一つは早期決着です。あなたがそれを狙って早い段階から切り札を出して来るだろうことは読んでいましたよ」
「混沌の黒魔術師はフィールドを離れた時、ゲームから除外される。だけど、このままじゃ終わりません。手札から即効魔法《サイクロン》を発動。セットカードを破壊します」
 破壊され、フィールドを離れた混沌の黒魔術師は次元の彼方へ去る。だが、やられっぱなしというのも面白くないだろう。せめて、そのセットカードだけは破壊させてもらう。
「発動、通常罠《強欲な瓶》。デッキから1枚ドローします」
 伏せられていたのはドロー効果を持つフリーチェーンの通常トラップ。ある意味、フェイトの読み通りではあったが、それならば何故雷の戦士ライディの効果を朱光の宣告者で無効にしなかったのだろう。
「メインフェイズ2に移ります。わたしは手札から魔法カード《運命の宝札》を発動。サイコロを振り、出た目の数だけデッキからカードをドローします」
「運命(fate)の宝札ですか……」
「出た目は4。よって、4枚ドローします。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

  フェイト LP:4000
  手札:2枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:伏せ2

  リニス  LP:4000 → 3800
  手札:1枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:なし

「ねぇ、どう思う?」
 一連の流れを見ていた咲耶が、隣に座るなのはにそう尋ねる。
「分かりません。手札と場では金髪の子のほうが勝ってるように見えますけど、この状況を作り出した相手のプレイングが読めなくて」
「どういうこと?」
「例えば混沌の黒魔術師の特殊召喚を封じたいのなら、最初にバルハラでクリスティアを特殊召喚するだけで良いはずだよね」
「あ、うん。クリスティアの特殊召喚封じは強力だもんね。ライディみたいな破壊効果も手札に朱光の宣告者があったならそれで無効に出来るし」
「うん。それに、ブラフを兼ねて伏せただろう強欲な瓶にしたって、テテュスを朱光の宣告者で守った後に発動すれば、続けてテテュスの効果でドロー出来たのに」
 頷くすずかに、なのはは分からないという顔のまま言葉を続ける。
「混沌の黒魔術師を確実に無力化するために除外しときたかったんじゃないの? 後、宣告者パーミッションだってことを隠したかったとか」
 相手の意図をそう推察するのはアリサ。アドヴァンス召喚に2体のリリースを要求する最上級モンスターを切り札とするなら、それを素早く展開するための手段を用意するのは当然だ。
 また、手札誘発の無効化効果を持つ三種類の宣告者を駆使して相手の行動を妨害するデッキは強力だが、同時に有名でもあるために、それと知られれば対応されてしまう恐れがあった。
「でも、それだとあの猫耳の女の人は、金髪の子が混沌の黒魔術師をデッキに入れてるって知ってたことにならないかな」
「他の大会で使ってたのを見られてたんでしょ。ほら、これにも載ってることだし」
「どれどれ、……あ、本当だ」
 すずかが疑問を口にすると、アリサはそう言って一冊の冊子を広げて見せる。大会のパンフレット。彼女が指し示すのは、参加者の中でも特に注目のデュエリストを取り上げているページだった。
「フェイト=テスタロッサちゃんか。えっと、デュエリストランクは……」
 横からパンフレットを覗き込んだすずかは、そこに記載されている少女のデュエリストランクを見て思わず固まってしまった。
 デュエリストの強さの指標として認定されるランク。FからSSSまであり、AAランク以上はプロリーグでも通用するとされている。
 その出発点は初回判定によって決められるため個人差があるが、自分やアリサの年齢での平均は精々Dランク。Cを取れば優秀と言われ、Bに達すれば将来を期待される程度。
 ちなみに、すずかもそのBランクなのだが、彼女は自分が特別強いとは思っていなかったりする。アリサも同じBだし、もう一人の親友であるなのはに至っては最年少のAAAランカーだ。
 ――そして、フェイトもまたそのランクはAAAだった。それが強さのすべてではないとはいえ、これまで周囲に同年代で同ランクの対戦相手がいなかったなのはが果たしてこの事実を見逃すだろうか……。

「わたしのターン、ドロー」
 緊張した様子でこちらを見てくるフェイトに、リニスは満足げに目を細める。運命の宝札には賭けの要素こそあったものの、彼女はエースを失っても動揺せず、冷静に場と手札にカードを残したのだ。
 ――ここまでは及第点といったところでしょうか。さて、ここからどうしますか?
 口元に楽しげな笑みを浮かべ、リニスはドローカードを手札に加えると、それとは別のもう1枚、先程強欲な瓶の効果で引いたほうをデュエルディスクへとセットした。
「手札から魔法カード《強欲な壺》を発動して、デッキからカードを2枚ドローします」
 これでリニスの手札は3枚。その中に、大天使クリスティアの効果の発動条件を満たすためのカードもあった。
「続けて手札から魔法カード《死者転生》を発動。手札を1枚捨てて、墓地の大天使クリスティアを手札に」
「クリスティアは墓地の天使族が4体のみの場合、手札から特殊召喚できる。ここで戻すってことは、死者転生のコストで捨てたのも天使族ですか?」
「その通りです。わたしは手札の大天使クリスティアを自身の効果で特殊召喚します」
 リニスの場に降り立つ最上級天使。その攻撃力はフェイトの混沌の黒魔術師と同じ2800を示している。
「この効果でクリスティアの特殊召喚に成功した時、自分の墓地の天使族1体を手札に加える。豊穣のアルテミスを手札に加えます」
「ノーコストでの最上級天使の特殊召喚に手札補充。クリスティアにはお互いの特殊召喚を封じる効果があるし、今ので宣告者の効果を使うための手札コストまでそろえられちゃった。これは、いよいよ拙いかも……」
「バトルです。大天使クリスティアでプレイヤーにダイレクトアタック!」
 冷や汗を垂らすフェイトに構わず、リニスはモンスターに攻撃命令を下す。タイミングはここ。お願い、通って。祈りを込めて、フェイトはデュエルディスクのボタンを押し込んだ。
「発動、通常罠《サンダーブレイク》。手札を1枚捨てて、フィールド上のカード1枚を選択、選択したカードを破壊する。大天使クリスティアを選択して破壊します!」
 手札を糧に破壊の稲妻がフィールドを走る。だが、それに対するリニスの反応は何もなかった。どうやら、今回はこれを止める手立てはなかったようだ。
「フィールド上から墓地に送られる場合、クリスティアはデッキトップに戻ります。豊穣のアルテミスを召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

  フェイト LP:4000
  手札:1枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:伏せ1

  リニス  LP:3800
  手札:0枚
  場:豊穣のアルテミス
  魔法・罠:伏せ1

 サンダーブレイクが通ったことで破壊され、フィールド上から墓地に送られた大天使クリスティアは自身の効果でリニスのデッキの一番上に戻る。
 これにより、彼女の次のドローカードは必然的にその大天使クリスティアとなったわけだが、それでドローロックを掛けられたとは思えなかった。
 ――リニスの場に再び召喚された豊穣のアルテミス。彼女に手札はなく、デッキトップは自身の効果で戻った大天使クリスティア……。
 ここで問題となるセットカードだが、アルテミスが出ているからと言ってそれがカウンター罠であるとは限らないのは、先程の強欲な瓶の例を見れば明らかだ。
 寧ろ、次のターンに再びクリスティアを効果で特殊召喚するつもりなら、ここでアルテミスを守る意味はない。となれば、伏せられているのは全体除去の罠か。
「どうしました? あなたのターンですよ」
 促され、フェイトは慌ててデッキへと手を伸ばす。引いたカードと合わせてこれで手札は2枚。カウンターが怖いけれど、セットカードを考えれば再び特殊召喚を封じられる前に動くしかなかった。
「発動、永続罠《闇次元の解放》。このカードの効果でゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚する。わたしは混沌の黒魔術師を攻撃表示で特殊召喚します」
「そうはさせません。その効果にチェーンし、2000ライフポイントを払ってこのカードを発動します。カウンター罠《神の警告》」
「っ、そのカードは……」
「神の警告はあらゆる召喚を許しません。よって、闇次元の解放の発動を無効にして破壊します。更にカウンター罠が発動したことで、アルテミスの効果が発動。1枚ドローします」
「やっぱり、カウンター……。だけど、これであなたを守るものはなくなりました。わたしは手札から魔法カード《死者蘇生》を発動。墓地の《ライトニング・フェニックス》を攻撃表示で特殊召喚します」
 毅然とした態度でリニスを見据え、デュエルディスクへとカードを差し込むフェイト。その表情には控え目ながらも勝利を確信した笑みが見て取れ、リニスはそのことに僅かに目を見開いた。
「まさか、自分のエースを囮に、わたしにカウンターを使わせたのですか。ですが、そのモンスターの攻撃力は僅か1000。それではアルテミスは倒せませんよ」
「まだです。ライトニング・フェニックスの効果。このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在するライトニング・フェニックス以外のレベル4以下の光属性モンスター1体を特殊召喚することができる。わたしはこの効果で墓地の雷の戦士ライディを攻撃表示で特殊召喚します」
 蘇生の光が導く不死鳥の姿をした雷。それを道標に、一度は力を使い果たして倒れた雷の戦士が蘇る。
「雷の戦士ライディの効果を発動。攻撃力を800ポイント下げて、豊穣のアルテミスを破壊します」
「神の警告の発動コストを払ったわたしの残りライフポイントは1800。あなたのモンスターの攻撃力の合計も丁度1800。どうやら、このデュエルはわたしの負けのようですね」
「行きます。ライトニング・フェニックスと雷の戦士ライディでプレイヤーにダイレクトアタック。ライトニング・サンダークラッシュ!」
 翼を広げて飛翔する雷の不死鳥の突撃に、少女戦士のバスタードソードから放たれた稲妻の斬撃が重なって、守るもののいなくなったリニスの身体を貫く。最後の瞬間、彼女が唯一残された手札に目をやったように見えたが、結局、どうすることも出来なかった。

  リニス  LP:3800 → 1800 → 800 → 0
  ――フェイト:win


   * * * 登場オリカ設定 * * *

 ・雷の戦士ライディ
 効果モンスター
 星4/光属性/戦士族/ATK:1600/DEF:1400
 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力を800ポイント単位で下げることで、800ポイントにつき1枚、フィールド上に存在するカードを破壊することが出来る。
 この効果でこのカードの攻撃力が0になった時、このカードを破壊する。

 ・雷神官ウィルナ
 効果モンスター
 星4/光属性/魔法使い族/ATK:1800/DEF:1200
 このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、自分のデッキからレベル7以上の戦士族、または魔法使い族モンスター1体を手札に加えることができる。

 ライトニング・フェニックス
 効果モンスター
 星3/光属性/雷族/ATK:1000/DEF:800
 このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、自分の墓地からライトニング・フェニックス以外のレベル4以下の光属性モンスター1体を特殊召喚することが出来る。



フェイトの登場と。
美姫 「リニスの登場ね」
使い魔という言葉が出てきたけれど。
美姫 「その辺りに関しては次回に話されるのかしら」
それとも別の機会になるのか。
美姫 「次回もお待ちしてますね」
待ってます。



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