『白い日に愛を込めて』
作 安藤龍一
――第97管理外世界・地球……。
この星の日本という国には、女の子が好きな子にチョコレートを渡す風習がある。
2月14日、バレンタインデー。
元々は愛し合う夫婦がお互いに贈り物をして、その愛を確かめ合った日らしくて、実際にそれらしいことをして仲を深めるカップルも少なくないようだ。
何が言いたいかと言うと、つまり、普段は恥ずかしくて中々言えない好きって気持ちも、この日なら自然に伝えられるということ。
わたし、フェイト=T=ハラオウンもまた、そんな風習を利用して、想い人に告白した一人だった。
大好きだよって気持ちを、不恰好な手作りチョコに精一杯詰め込んで、きれいなリボンと包装紙でラッピング。
いろいろと気の利いたセリフを考えて、でも、いざ、その時になって言えたのは、素っ気無い一言だけ……。
「今日、バレンタインだから。はい、これ……」
そう言って、鞄から取り出したチョコを渡すと、わたしはその場から逃げるように立ち去ってしまった。
恥ずかしさと情けなさで顔を赤くして、その後に相手の反応を確かめなかったことに後悔したのは言うまでもない。
そんな、どうしようもなくダメな子のわたしだけど、運命の女神さまはちゃんと見捨てずにいてくれたようで、その日のうちにもう一度チャンスをくれたんだ。
学校の宿題をするために机に向かったわたしは、そこに彼女から借りたCDを見つけた。
コピーさせてもらったし、いつまでも借りたままなのもよくないと思って、わたしはそれを返しに彼女の家まで行くことにしたのだった。
「もしもし、今、大丈夫?」
彼女のケータイに電話を掛けて、これからそっちに行く旨を伝える。チョコを渡した時のこともあって、二人の間に交わされた言葉はいつもよりずっと少なかった。
「別に明日でもよかったのに」
そう言いながら扉を開けて、わたしを自分の部屋へと通してくれる彼女。久しぶりに入ったそこは、変わらず彼女の優しい匂いに満ちていて、わたしは思わずホッとした。
「久しぶりだよね。こうして二人でゆっくりするの、このところなかったから」
カップに紅茶を注ぎながらそう言う彼女に、わたしは小さくうん、と頷く。改めて見回した彼女の部屋はなるほど、確かにほんの少しだけ寂しいような気がした。
「今日はありがとう。これ、開けても良いかな」
「あ」
そう言って彼女が示したのは、わたしが押し付けるようにして渡したチョコレートの包みだった。
「ご、ごめん、わたし……」
「待って、逃げないで!」
立ち上がって逃げようとしたわたしの手を彼女が掴んで引き止める。
「お願い。このチョコに込めてくれたフェイトちゃんの気持ちを、あなたの口から直接聞かせてほしいの」
彼女に真摯な瞳で見つめられ、わたしの旨の鼓動が早くなる。
――ダメだよ、フェイト。ちゃんと伝えるって決めたんじゃない。
折れそうになる心を必死に奮い立たせ、真っ直ぐに彼女の目を見つめ返すと、わたしは意を決して口を開いた。
「わたしはあなたのことが……」
そして、あの告白からもうすぐ一ヶ月が経つ今日、わたしはまたチョコレートを手にキッチンに立っている。
今日は3月14日、ホワイトデー。
勇気を振り絞っての告白の返事と一緒に彼女からもらったチョコのお返しにと、わたしは手作りのお菓子を用意していた。
右手には甘いホワイトチョコレート、左手にはほろ苦い大人の味のビターチョコレート。それぞれ別のお皿の上にかざして、わたし自身の魔力で溶かす。
――魔力と一緒に込めるのは、もちろんわたしの彼女への想い……って、きゃあ、わたし、何考えてるんだろ……。
両手を熱くなった頬に当てて、その手のべっとりとした感触と熱さに思わず悲鳴を上げる。自分の顔にチョコレートパックしてしまったことに気づいて、わたしは慌てて洗面所に駆け込んだ。
――閑話休題……。
焼き上がったハート型のクッキーを少し覚ましてから、まずはその半分を溶かしたビターチョコレートに浸す。それが冷えて固まるのを待って、今度はもう半分をホワイトチョコレートに浸して、同じように固まるのを待った。
ハートを彩る白と黒は、それぞれわたしと彼女のバリアジャケットの色だ。
二人で一つ。
心はいつも側に。
そんな願いを込めた、
わたしからなのはへの、
ホワイトデーの贈り物……。
* * * fin * * *
リリなののホワイトデーSS〜。
美姫 「甘いわね」
いや、本当に甘〜いお話でした。
照れるフェイトの姿が浮かんで離れない。
美姫 「安藤さん、ありがとうございます」
投稿ありがとうございました。