涼宮ハルヒの終焉

 

序章

 

魔王への依頼

 

 

 

「もう、看板の明り消しますね?」

 

いつも通りほとんど客が来ねえ店のカウンターで煙草を吹かしながら、

新聞に目を向けているところにカップの手入れをしていた甥の声が届いた。

 

「ん、ああ、そうしてくれ」

 

柱に掲げてある時計の針は直に8時を指すところだ。

さすがにこの時間まで、こんなスラム街の寂れた茶店に表商売目当てで来る客はいねえだろ。

 

「わかりました」

 

無表情に了承の意を表した甥はカウンターを出て、扉へと向かう。

だが、甥が開く前に扉に取り付けてあるベルの音が閑散とした店に鳴り響いた。

 

「ういーっす……って一馬っ!?」

 

ダルそうな声を出しながら入ってきた少女は

扉の前に立っていた甥の存在に少しばかり驚いた声を続けてあげた。

 

「……響?」

 

対していつも通り淡々とした声で返す一馬。我が甥ながら見事な無表情っぷりだ。

昔の女房にも負けてねえ気がするぜ。

 

「よう、いらっしゃい。どうしたこんな時間に?」

 

「あっ いえ、そろそろお店が閉まるころかなって、

それで……近くまで来たんで、折角だから、その……」

 

俺の問いかけに響は扉の取っ手を未だ握ったまま、

少し顔を赤く染め、歯切りの悪い言葉を返してきた。

 

「ほう、愛しの一馬を迎えに来たってわけか。いや、若いってのはいいねぇ、全く」

「ちょっ!? か、からかわないでくださいっ! そんなんじゃありません!!」

 

いや、顔を体中の血を集めたみてえに真っ赤にして言っても説得力皆無だぞ?

それに比べて一馬のほうは見た目ポーカーフェイスだが、

やはり照れくさいのか、俺から目線を逸らしやがった。

 

「まあ、そう照れるなって。どうだ、せっかく来たんだ。コーヒーでも煎れてやるよ」

「え? いいんですか?」

「ああ、客が来ねえとはいえ、たまに煎れねえと腕が鈍っちまうしな」

「はは、それじゃいただきます」

 

そう言いながら、ようやく響は取っ手から手を放し、

カウンターテーブルを挟んで俺の目の前の席に腰を落ち着かせた。

 

「一馬、お前にも今日はサービスだ」

「ありがとうございます……」

 

囁くように頷き響に続いて席へと腰を下ろす一馬を見て、

俺は今日一度も用いていないサイフォンと封を切っていないコーヒー豆を手に取った。

 

「そういえば、女房から聞いたが、お前んとこの姉貴、順調みたいだな」

 

研ぎ始めた豆が店の中を香ばしい香りで包み込んだ。

 

「ええ、予定日まで一か月切りましたけど、

今のところは奥さんの診察のおかげで異常はないみたいです。

入院してからこっち、兄が付きっきりで、ろくに家に帰ってきてませんけど」

 

響お得意の「やれやれ」といった仕草で溜息をついた。

が、その表情は少なからず笑っている。

 

「まあ、無理もねえだろう。2人ともあの年でガキをつくっちまったんだ。

いくら周りがフォローしても不安はたんまりあるってもんさ」

 

ボコボコとサイフォンの中で黒い泡が大量に生まれ、

コーヒーの出来上がり具合を俺に鮮明教えてくれる。

 

「俺の女房もお前の母親もそうだったぜ。なにせ両方とも孕んだのが高2ん時の冬で、

産んだのが翌年の夏だったからな。そりゃ大変だったぜ。学校への言い訳やら、医療費やら、

しかも俺の場合、その時無職とはいかねえまでも、住処が愛車のテントウ虫だったからなぁ」

 

先代のマスターに教わった通りにできる限り、やわらかく、優しく、黒い液体をカップに注ぎながら、

自分の若気の至りを語っていると、それに興味を示したのか、

響が目を丸くし、自慢のポニーテールを揺らしてカウンターを乗り出してきた。

 

「む、無職って初耳ですよ!? それ」

「おいおい、別に本当に無職ってわけじゃねえ。ただ、収入が不安定だっただけだ。

 それでも、アイツのおかげでどうにか亜希を産ませることができたがな」

「アイツというのは、やはり……」

 

今まで響の隣で人形のように座っていた一馬が静かに口を開いた。

 

「ああ、あの魔王のことだよ。ほれ飲みな」

 

ティースプーンを添えて2人の前にカップを置くと響はその取っ手を握りながら

一度カップの中の黒い表面に映る自分の顔を見つめ、再び、俺に目を向けた。

それに俺はいぶかしげなものを感じられるにはいられなかった。

 

「あなたたちはどういう関係なんですか?」

「あん?」

「父は死んだ母のことをよく話してくれたことはありません。

そしてあなたたち夫婦との、あなた達が魔王と呼ぶあの人との関係も、

いつ聞いても話を濁すだけなんです。そして……あなた達も」

「響……!」

 

一馬にしては低い声で制止するが、目の前の少女の瞳の色は変わらずにそのまま俺に向けられた。

母親に似たのか探究心旺盛なやつだ。普段のダルそうな顔が嘘みてえだ。

 

「まだ、早い」

「え?」

「お前が知るにはまだ早すぎるって言ってんだよ。ガキには重すぎることだ」

 

タバコに火をつけながらの俺のセリフが気に入らなかったのか、

 

「子供じゃありませんっ!」

「そうほざいてるうちはガキだってんだよ。時が来れば、そのうちオヤジが話してくれるだろうよ」

 

言葉負けを悟ったのか、響は口惜しそうな顔を浮かべながらも、ようやく握ったカップに口をつけた。

 

「……美味しいです」

「そうか」

 

ふと一馬に眼を向けると響と俺とを交互に見比べ、俺に向けて、謝罪の意を込めた視線を送っていた。

 

(冗談抜きでいいカップルだな。こいつらは)

 

未熟なところもまだまだあるが、支えあっている目の前の二人を眺め、

ガラにもなく昔の自分を重ねているところに客の来訪を告げる鈴の音と

身を斬るような冷たい疾風とともに、そいつは現れた。

 

「もう、閉店時間なんだが」

 

真っ黒のマントに首から下を覆い、短い金髪を靡かせて立つ二十歳ぐらいの身なりの男に

俺は目で探りを入れながら言葉を投げた。 俺も伊達にこの裏新宿に長くいるわけではない。

一目でソイツがただの人間ではないことを直感した。

それは響たちも同様のようで、男を見る目から警戒の念が伺えた。

 

そんな俺達の心中を察しているのかいないのか、男は平然として、言葉を発した。

 

「仕事を……頼みたいのですが」

「裏の……仕事か?」

「ええ、ですが、あなたにではない」

「なに?」

 

鋭く目を細め、睨み返した俺に、男は冷たい微笑を伴ってこう返してきた。

 

 

「第六天魔王に涼宮ハルヒを守っていただきたい」

 

 

刹那、自分の心臓音がバカでかく聞こえた後、

俺の中の時が肺に流れ込んでくるニコチンの煙さえ感じれぬほどに停止した。 

 

「涼宮晴日……だと?」

 

その忘れられぬ名を持つ少女の面影を脳裏に鮮明に浮かび上がらせながら、

俺は不本意にも目を見開いた無様な顔を男に向けることしかできなかった。

 

「お伝えできますか。よろず屋……いや、元奪還屋 ゲットバッカーズが一人……美堂蛮さん」

 

滑らかな口調で俺の名を吐くその男の冷たい笑みに俺はかつて、自分が…自分たちが

目の当たりにした惨劇の再来を予感させる背筋を指すような寒気をひしひしと感じていた。

 

 

 

 


あとがき

 

はじめましてアークでございます。

まずはこのようなトチ狂ったような駄文をご覧いただきありがとうございます。

このSSはかつて別の小説サイトに投稿していたものですが、諸事情により今後はこちらのほうに掲載していただくこととなりました。

正直、こんなジャンルがはっきりしない多重コラボ+オリジナルのSSを投稿してよかったのか迷っています。 しかし、それでも私なりに尽力していくつもりなので、よろしくお願いいたします。

 

登場人物解説(今のところ一人しかいませんが)

 

美堂 蛮

週刊少年マガジンで連載されていた「GetBackers」の主人公その人であり、本作では王 波児の後を継いで喫茶店のマスターになっているという設定です。 語り部をしてるあたりから主人公っぽいですが、完全な脇役、しかも序章だけで本章からは登場予定一切なし。

期待された方すいません。




多重作品とのコラボという事だけれど。
美姫 「どれぐらい出てくるのかしらね」
いやー、楽しみだ。今回の序章は「GetBackers」のみみたいだけれど。
美姫 「因みにアンタはその作品は?」
知らない。他にも知らない作品からも出てくるだろうけれど、楽しみにしてます。
美姫 「次回を待ってますね」
ではでは。



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