涼宮ハルヒの終焉

 

序章2

 

月明かりの下の素顔

 

「こりゃまた壮絶だな」

夜の9時を回ってもくそ忙しい状態だったが、携帯に緊急の連絡を受けたことで、思わぬ口実ができ、残りの書類を秘書に任せ、秘書の恨めしそうな視線を余所に大手を振って馴染みの喫茶店に足を運んだ俺が、店(だった場所)に入ったと同時に目にしたのは、哀れ原形を留めないほどに廃墟と化した空間だった。

 

「俺の店……波児の店……おれが受け継いだ店が……」

備品のテーブルもコーヒーカップを始めとする食器類も愛用していたコーヒーメーカーも粉々になり、なぜか周りの壁がハチの巣になってそこら中に薬莢が転がっている店内の真ん中でゾンビのようにひょれひょれの状態でブツブツと呟いているマスター。それをやり切れない表情の一馬くん、そしてなぜか申し訳なさそうな表情を浮かべて響ちゃんが見つめている。

足もとの薬きょうを一つ摘みあげ、それを観察しながら俺はダメ元で聞いてみた。

「グリーンベレーの襲撃でも受けたのかい?」

「正悟さん 違います」

空気を読まない冗談はよせと言いたげな目つきで俺の問いに短く答えると、そのまま響ちゃんへと視線を向け、一馬くんは言葉を続けた。

「響がやりました」

「ちっ、ちょっと! 一馬」

 

一瞬ビクッと肩を震わせたあとそれ以上余計なことを言わないよう、口を塞ごうとする響ちゃんの手を払いのける一馬くん。

 

「さっき電話で言った怪しい男を伯父さんが捕まえようとしたんですが……」

「なるほど、なかなか捕まえられなくて店の中が荒れていくのに業を煮やした響ちゃんが床下に隠してあったBARを所構わずぶっ放したというわけか」

薬莢から予測した銃器の通称を織り交ぜながらの推測を口にしながら、まだ火薬の臭いが漂って鼻に付きまとう空間を彼らのほうへと歩み寄ると、間髪入れずに一馬君が答えた。

 

「その通りです」

「見ていたような推測をしないでください! そして一馬も即肯定するなっ!」

「でも否定しないってこたあ、当たってるってことだろ?」

「あう……、ごめんなさい……」

そう言うと彼女は顔を俯かしてしまう。

ごめんなさいで済む状況かこれは……、普通なら器物破損でしょっ引かれるところだろうが、まあこの辺りじゃあこんなことは珍しくないから黙認しよう。

「僕も店の周りに結界を張るより、響を止めるべきでした。すいません」

いつも無表情な顔に苦みを落とし、一馬くんは頭をゆっくりと下げる

「いや俺に謝っても仕方ないよ。響ちゃんがふっ切れたらなかなか手に負えないのは俺もわかっている。むしろよく周りに被害がでないようにしてくれた」

「はあ」

「俺は真面目に英国か13課がやらかしたと思ったんだがな。それで元凶となった怪しい野郎はどこ行ったんだ?」

周りを見てもそれらしき人物の姿はおろか気配さえ感じない。

「それが響の乱射の中、次元の狭間……いわゆるグレイホールに姿を消し……」

「呼んだか?」

一馬くんのセリフを途切れさせるように背後から耳に飛び込んできた声に俺は脊髄反射で振り返った。

確かに男が立っていた。さっきまで“気配”が全くなかったのに関わらず、だ。

「いやいやまいったねどうも。美堂さんとやり合うことは予測していたが、まさか女子高生に弾丸ぶち込まれそうになるとは」

黒いフードに体と顔を覆い、軽い口調でものを言う。なるほど、こりゃ確かに怪しいわ。

それに加え、こうやって面と向っていても気配を全く感じない。目を反らすとそこにいることすら忘れてしまいそうなくらい不気味なやつだ。蛮さんもいきなりとっ捕まえようとしたのも頷ける。しかし彼の腕を以てしても捕まえられなかった。しかも、響ちゃんが所構わずの銃撃を受けたはずなのかすり傷一つつけずに、不敵な微笑をそのフードから垣間見れる口元に浮かべている。

(こいつ……ヤバすぎる)

自然と警戒心が増し、身構えが強くなっていくさ中、

 

「我、その忌まわしき命運尽き果てるまで……」

「っ!? 蛮さん!」

 

振り返ると、さっきまで干物になってた蛇の王が文字通り蛙を睨むような眼で指をゴキゴキと鳴らし、闘争本能を剥き出しに蛇使い座の呪文を地獄から響いてくるような声で詠唱していた。自分の愛する城が廃墟と化した元凶を目に捉えて理性のガタが外れたのだろう。

 

ええいっ! こんなときにやっかいな!

 

反射的に飛びかかる体制に入る。 周りに巨大な毒蛇の影を漂わせている今の彼を止めらるかどうかはわからないが、これ以上話をこじらせたくはない。 そう思って全身に力を込めて……。

 

クラッ

 

……へ?

 

一触即発の空気の中、よろめいた。 蛮さんが。

「しばらく引っこんでてください」

彼らしい短い毒舌を吐きながら、傾いた蛮さんの体を受け止めた一馬君の手には小さな小瓶が開けっ放しの状態で握られており、当の蛮さんはというと今さっきまでの殺気がウソのように静かに寝息を立てていた。

 

「それってもしかして?」

 

小さな問いを投げかけた俺に、一馬君は俺の方へとその冷たい視線を向けて、

 

「安眠香。今年から母に持たされている毒香水の一つです。持たされているといっても、これの他には、追尾香、不可視香、忘却香の比較的誤って吸い込んでしまっても、あまり人体に悪影響がないものだけですけど」

 

あ、あの人、もう倅にこんなヤバイもん持たせてるのかよ。 もっとも彼女の場合10代前半にはもう大体の毒香水は使いこなしていたようだが。

 

「そうか。 ありがとう。蛮さん止めてくれて」

なんにしてもグッジョブだ。 ほんとにできた青年だな彼は。 うちのガキにも見習わせたいくらいだ。

愚息の顔を脳裏に浮かべながら、後輩の息子を賞賛していると、後ろから耳障りなくらい不気味な笑い声が聞こえてきた。

「くくく、さすがは史上最年少で運び屋になったレディ・ボイズンと呪術担当総監督の血を引いていることはある。先ほどの魔鏡結界といい、見事なものだ」

 

「……ふざけろや」

 

自分でも驚くほど低い声が腹の底から無意識に出た。

ゆっくりと男の方へ振り返った俺はどんな顔をしていたのだろう? 腹が煮えくりかえりそうでそれどころではなかったが。とにかく人のお気に入りの店を物理的に潰した原因を作っておいて、へらへら笑っている目の前のクソ野郎を殴りたおしたい思いで一杯だった。

 

男はそんな俺の心中をまるで見透かしているかのように言った。

「おいおい、俺は最初から潰すつもりなんかなかったぜ? ただ仕事を頼みに来ただけだ。

それを怪しいからっていきなり飛びかかってきたのは美堂さんのほうだ。俺は逃げてただけで、そうしてるとそこの彼女が弾丸ぶっぱなしたんだろうが」

 

響ちゃんの気まずそうな短い呻き声が聞こえた。確かにその通りだが、我関せずのその物腰が気に食わなかった。

 

「仕事を頼みに来たんなら、まずその暑苦しいフードを外して面を見せるべきだったんじゃねえのか?」

 

「お前が来るまで見せられなかったんだよ。なにせ……」

 

男の右手がフードの先を掴み、それをゆっくりと後方へと下ろしていった。

 

「……なっ!?」 

 

廃墟と化した店の窓枠から差し込んだ月の光が照らしだした、露わとなった男の顔が眼に飛び込んでくるや否や、俺は言葉を失った。 いや、そんなレベルではない。今の自分が見ている状況すべてが夢か幻ではないかと、心底自分を疑った。

俺の目に映し出されたもの……それは

 

「この顔は第六天魔王 龍峰正悟。かつてあんたの顔"だったものだからな」

 

見慣れた、されど懐かしいその顔が冷たい笑みを浮かべているのに対し、俺は短く掠れた声で返すこしかできなかった。

 

「龍……飛龍」

 

 


あとがき

 

どうも、アークです。前回よりさらにわけのわからない展開になったうえに序章のくせにまだ続きます。(次で終わらせます)

それに加え、進歩のない文章力にさぞ読みづらいことだとは思います。いやほんとご覧いただいた方、ありがとうございます。

さて、のっけから登場した魔王と呼ばれる男。こいつこそ、全編を通す主人公になっています。魔王が主人公なんてどこのチートキャラなんでしょうねぇ。 実際チートですが。

 

ところで前回、どのくらい作品が多重しているのかとコメントに書かれていましたので、以下に一部作品を記しておきます。 現段階ではネタバレどうこうにはなりませんので、ご安心ください。

 

多重決定物

涼宮ハルヒシリーズ

奪還屋GetBackers

HELLSHING

SHUFFLE!(一部設定改造)

孔雀王

加持隆介の議

() 男塾

 

多重予定物

アスラクライン

CLANNAD

他多数

 

……自分で書いててどんなの書く気だと自問自答したくなってきました。

くれぐれも完結するまでお見捨てにならないよう、お願いいたします。

 

それでは次回。




いやー、店が崩壊しているよ。
美姫 「しかも、やったのは相手じゃないってのがね」
男が持ってきた依頼内容は何なんだろうか。
美姫 「前回で口にしたハルヒを守るという事なんでしょうけれど」
うーん、何が起こっているのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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