『乃木坂春香と高町恭也の秘密』










第一話 その3














 図書館は2階にあるので、階段を上っていく

「不気味ですね……」

 無人の廊下、無人の階段を歩いていく
 その間、乃木坂さんは俺の服を絶対に放さないとばかりに握っている
 伸びるだろうなぁ……

「ゲームだったら、その角の向こうからゾンビとか出てきそうです」
「あー」

 そういえば、忍がしていた気がするなぁ
 ゲームが好きだからとか言っていた気がするが、如何でもいいことだ
 俺にはよくわからない世界のことだから

「高町先輩、うちの学園の七不思議って知ってますか?」

 七不思議?

「……うちの学校にもそう言うのあるんだなぁ」

 というか、そんな学校だったら先生方が学校に泊まれない気がする
 恐すぎて……

「あるんです」

 断言して、少し後悔した顔
 って、俺も良くわかるなぁ

「えっと『屋上の死の十三階段』、『理科室の踊る人体模型』、『ひとりでに鳴る音楽室のピアノ』
 『ボールが弾む無人の体育館』、あとは『トイレの花子さん』、『死後の姿が映る保健室の大鏡』
 そして……『読書する死者』です」

 どれも眉唾物ばかりだな
 なんていうか、捻りもアレンジも無い……死の十三階段は数え間違えが殆どだし
 人体模型が踊るのは、確かネジが緩んでいたからだったはずだし
 ひとりでにピアノは、誰かが夜な夜な弾いていたのが原因……音楽の教師だったはずだが
 ボールが弾んだ体育館は無人なのになんで分かるんだ?
 トイレの花子さんって確か、死なすって奴だったか?
 死後の姿が映る大鏡だけど、保健室大鏡は無いらしいぞ
 読書する死者って……単に夜中に掃除してた司書さんの音らしいけど

「まぁ、大丈夫だろう」

 怪談話を階段でって所か……うむ、寒い
 夏前なのに寒いとは、これまた困った事だな
 ただ、腕をがっしりと繋いでいる……というより、体全体に包まれている
 図書室の前まで来た……お互いに無言

「『読書する死者』ってどんな話だ?」

 俺はそんなことを気にしてないが不安なら何か話してるほうが良いだろう

「むかしむかし、この学園が木造校舎だった頃、とても本好きな生徒が居たそうです
 その生徒は本当に本が好きで好きで、毎日のように図書室に通っていました
 だけどある日、図書室に向かう途中で事故にあってしまって……不幸にも亡くなってしまいました
 その生徒が、死んだ今でも本を読むために毎日図書室に通って生きているという話なです
 誰もいないはずの図書室から足音が聞えたり、本棚なら本が落ちる音がしたり
 窓に読書する人影が写ったらしいです」
「ふむ」
「余談ですけど、この話を聞いた人が真夜中に図書室に行くと、
 その人の前に本当に『読書する死者』が現れるとか」

 詳しいものだなぁ等と勝手に考える
 実際のところ、その読書する死者にあってから考えたらいいものなんだが
 こっちが普通の人の対応って事なのだろうな

「私、一昨日たまたまその話を聞いてしまったんです
 聞かなければ良かったって、今すごく後悔してるんですけど……」

 なるほど、確かに聞いたばかりでは恐いのかもしれない

「……ふむ、初めて知った事だが、意外と奥が深いものなんだな」
「……もしかして、今始めて聞いたのですか?」
「ああ」

 沈黙が流れる……図書室の前に到着しているのにも関わらず動かない

「ご、ごめんなさいっ
 やっちゃいました……」

 叱られた子犬のごとく小さくなる乃木坂さん
 ただ、俺の腕を解放して欲しいと少しばっかり思うのは悪いことだろうか?

「まぁ、俺は平気だから気にしてないのだが……」

 というより、実物と会わない限りなんとも思ってないのが事実上なのだ
 それになにより、呪われたら払ってもらえばいいだろうし……

「で、でも、もしも私の話が原因で高町先輩が読書する死者と遭遇して取り殺されたりしたら……」

 月明かりで分かるくらい彼女の顔が蒼白になる
 というか、俺はそう簡単に死なない気がする……それに、取り付かれたら本好きになる程度な気が……

「まぁ、大丈夫だから……何より、会う会わないは可能性の問題だし
 何より、必ずでるって訳でも無さそうだ……それに、俺は多少なら大丈夫だから」

 まぁ、そのために鍛えてるし、何かしらあっても大丈夫だろう

「け、けど……幽霊の攻撃って物理的なモノではなくて、精神的なモノじゃないですか?
 ……呪い、とか」
「そっちも大丈夫だと思うが」

 というか、そっちは剣士として磨かれてると思いたいのだが
 いつも枯れてるだとか色々言われてるわけだし……

「……優しいんですね」
「ん、そんなことないぞ」

 とりあえず、優しいって事は無いと思う

「ふふ」

 少し笑顔が戻ったかな……

「とりあえず、此処まで来たんだ……入るよな?」
「ええ。 折角此処まで来たんですもの、手ぶらでは引けません」

 手ぶらになるために着てるのだけどな……本人はそういきまいてるのだから良いか

「い、行きましょう」

 俺は頷いて扉に手をかけて、扉を開ける
 真っ暗な図書室が目に入る……夜の目となって周りを確認する

「わ、私から離れちゃダメです。 というか、むしろ離れないで下さい、お、お願いだから」

 必死なのは良いのだが……俺の腕にしがみつかないで欲しい……柔らかな体
 それに、動くとふわりと漂う甘い香り……心配なのは分かるがこれじゃあ、俺が動けない
 臨時の場合も何も出来ないし

「このままだと歩けないので少しだけ距離を取ってくれないか?」
「あ、そ、そうですよね」

 慌てて距離を取る……服は放してくれそうに無いので諦めた

「じゃ、じゃあこれくらいで。 絶対に離れないで下さいね」
「分かった」

 とりあえず素直に頷いておこう
 返却のところまで約5メートル……まぁ、何の代わり映えも無いと写る
 ただ、乃木坂さんが不意に近づいたりするので、そのたびに心臓が跳ね上がる
 綺麗な瞳、潤んでいてピンク色を放す唇……目が放せないというのはこういうのを言うのかもしれない
 俺は前にある椅子に気づいてないかのように歩く乃木坂さんを上手くコントロールして返却の場所まで着いた

「すみません、気を使っていただいたようで」
「気づいてたのか?」
「えっと、ちょっと手が当たったときに、椅子があったんだって気づいたんです」

 もう少し考えた方が良かったかもしれない
 気づかれていてはダメだって、フィアッセが言っていたな
 だが、乃木坂さんって……

「運動神経が悪いとは聞いてないが」
「運動神経とは、関係がないみたいで……注意力とか、そっちの話みたいです」

 なるほど……少し抜けてるのか
 でも、普段の彼女を見てると、そう言うところは無いと思うのだが
 人伝てではあるが

「普段は気をつけているんです……
 でも、高町先輩にはさんざんかっこ悪いところ見られちゃっているから……
 油断したのかもしれません」
「……あ、な、何を言っているのでしょう、私……それより早く手続き済ませなきゃ」

 わたわたと手続きをしていく乃木坂さん

「なぁ、この時間に返したって残ってるが、大丈夫なのか?」

 ふと疑問に思ったことを聞いてみた
 いや、だって、時間が記載されてるからだけど……

「……それは、全然考えてなかったです」

 まぁ、そう言うものだよな
 手続きは終了しちゃったわけだけど

「う〜ん、でも何とかなるんじゃないでしょうか? ほら、普通に考えればこんな時間に本を
 返却しにやって来るなんて人なんていないですし、司書の方々も何かの間違いだと思って
 見過ごしてくれると思います。 人は細かい間違いには、もっともらしい理由をつけて
 正当化してしまうものですから」

 そういってパソコンの電源を切る
 先ほどまでディスプレイの光りでほのかに明るくなっていた図書室にまたもや暗闇が落ちる
 しばらくは目が使えないかもしれない……暗いし
 しかし、乃木坂さんのイメージは周りが持ってるものと違うのだな
 俺はあまり知らないけど、頭脳明晰、容姿端麗、品行方正、ピアノの腕はプロ級、深窓のお嬢様だったかな
 さらに『白銀の星屑』(ニュイ・エトワーレ)という二つ名まで持っている人だ
 大人で人間の良く出来た人って言うのが周囲の言葉だろう
 椅子に座ってこちらを見ている姿は、確かにそんな風に見えなくも無い
 でも、やはり俺から観たら彼女は何処にでも居る普通の女性のようにも見える

「あのさ、1つ聞いても良いか?」
「はい?」

 乃木坂さんはこちらを見ている

「乃木坂さんは何でこういう趣味を持つようになったんだ?」

 あまり突っ込んだ質問は良くないだろう
 だが、俺は急に知りたくなった……多分、気にしてるからだ
 そう言う事にしておこう
 俺だって、盆栽の趣味の事を聞かれたら、精神鍛錬が元で、今は楽しめてるって事だし

「う〜ん、なぜなんでしょう?」

 乃木坂さんは少し上を向いて考えてるようだ

「自分でもそんなにはっきりと分かってないんです。
 気がついたら何時の間にかこうなっていたっていうか……最初のきっかけは多分、あれだと思います」

 あれ? 何かあったから、こうなった起因があるって事か

「はい、今から6年くらい前のことなんですけど……私、お稽古事のことでちょっと両親とケンカして、
 近所にある公園で泣いてたんです。確か……お友達と遊ぶ約束をしていたのに日本舞踊のお稽古のせいで
 ダメになってしまったとか、そういった理由だったと思います。 私、お友達に遊びに誘ってもらったのって
 その時が初めてで、凄く楽しみにしていたのに、それなのに突然入った特別のお稽古でダメになってしまって
 ……すごく悲しくて悔しくて、1人でわんわんと声を上げて泣いていました。 周りを憚ることなく、本当に大声で
 きっと誰かに慰めてもらいたかったのだと思います。大声で泣いていればそのうちに誰かが自分に優しくしてくれる
 子供心にそう思っていたんでしょうね。でもやっぱり世の中はそんな甘いものじゃなくて……
 通りかかる人は何人か居ましたけど、皆見て見ぬフリをして通り過ぎていきました。泣いている子供なんて、
 厄介なだけですものね。だけど……1人、1人だけそんな私に声をかけてくれた人がいたんです」

 懐かしい思い出なあのか、少し遠い所を見ているような目になっている

「その方は泣いている私を、ぶっきらぼうに、でもとても一生懸命に慰めてくれました。あの時のことは
 今でも忘れません。そして……その時に見せてくれたのが、『イノセント・スマイル』の創刊号だったんです」

 少し誇らしげだ……

「私、それまでマンガとかそういったモノを見たことなかったからとても新鮮で……
 一瞬でトリコになっちゃっいました。見るだけで人を楽しい気分にさせてくれるその雰囲気に惹かれたというのか
 ……結局その方にお願いして、創刊号はもらっちゃったんです」

 なるほどいいお話だな……泣いてる子の為にその人も努力したのだろう
 誰か分からない人だけど……ロリコンとか?
 それはそれで気をつけないといけないな、特になのはのことは

「それが始まりといえば始まりかもしれないです。それ以来、またあの楽しい気分を思い出したくて
 こっそりとマンガとかを読むようになったから。だから……今でも『イノセント・スマイル』には
 特別な思い入れがあるんです」

 なるほど、それでか……まぁ、本を借りて今日中に返したいというの分からないでも無いし
 何より呼び出されたら痛いだろう……視線がな

「な、なんでしょう? 私の顔に何かついてますか?」

 そう言って、俺を不思議そうに見ている
 そっか、見つけ続けてしまったのか……

「変といえば変なのかもしれないが、お嬢様だなぁって」

 それは意外だという顔をする乃木坂さん

「それは褒めてるのですか? 貶してるのですか?」

 そう言われてもなぁ

「両方かな」
「両方って……酷いです」
「悪い」

 なんていうか言葉をかけるのに悩んでしまう

「それに、高町先輩の方がもっと変です……変人選手権があれば、上位入賞間違いなしです」
「かもしれないな」

 俺はそんなことを苦笑いで答えていた
 まぁ、否定できないところも多いわけだし……何より、自分のことだからよく分かる

「認めてどうするんですか、ふふふ」
「そうだな……くくっ」

 2人して笑い出してしまった……こうなると中々収まらないもので
 2人して笑っていた……彼女の笑顔はとても綺麗で……とても無邪気なものだった
 何の穢れも無い少女の笑顔はこんな感じだと、なのはと照らし合わせてしまっていた
 ちょっとしたあってないお嬢様……忍とは違い、正真正銘のお嬢様だろう
 少し面白いという事が分かったので、俺にとって経験されたと思って良いだろう










 つづく









 あとがき
 うむ、眠い
 シオン「いや、眠いってまだ夜中の10時、丑三つ時にもなってないわ」
 いや、んな時間まで起きてたら死ぬから
 ゆうひ「大丈夫やって……どうせ今日も徹夜にしたらええやん」
 かれこれ、3日も寝てないと厳しいのですよ
 それに、あと少しだからね
 シオン「ま、1つ終りそうだしな」
 おう
 ゆうひ「でわ、また〜」
 またね〜(^^)ノシ




無事に本を返せたみたいだな。
美姫 「うん。そして、恭也とも少し仲良くなったみたいね」
打ち解けたかな?
美姫 「今後、どうなるのかしら」



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