『乃木坂春香と高町恭也の秘密』










第一話 その4












 笑いが止んだ頃、乃木坂さんは真剣な顔になった
 先ほどまでの穏やかやなごやかな空気は消えていた

「私……もうオシマイだと思ってました」

 唐突に言われた言葉

「おしまい?」
「はい」

 頷いて返す乃木坂さん

「あの時、高町先輩に私が『イノセント・スマイル』を借りたのを見られて、さらにとっても
 混乱した姿を見られてしまって……ああ、これでもう私がそういう趣味を持っていることが皆に
 知られてしまう、そうしたら皆は私のことをバカにするだろう、ヘンな目で見るだろう、って、
 そういう風に思ったんです」

 ふむ、そこまで可笑しなものなのか悩むところだな……俺なんかは慣れてるが
 なれない人にはなれないものなのかもしれない……何より、俺も十分に一般人とかけ離れてるわけだし
 偏見を持つ者はいるだろうから……確かに宜しくは無いな
 だが、少し考えてみたけど……口ぶりから考えて

「乃木坂さん、もしかして、俺が乃木坂さんの本のことをバラすと考えてたのか?」

 確認するかのように聞く……まぁ、そう思われても仕方ないかもしれない
 話したことも無ければ、誰とも知らない男の事なんか知らないのが普通だ

「ご、ごめんなさい。あの時はまだ高町先輩がどういう人なのかよく分からなかったから、そういう可能性も
 否定できないかなって……それに私、そもそもあんまり男の人と喋ったことがなくて……
 高町先輩のことも……少しだけ恐かったの」
「なるほど」

 まぁ、確かによく恐がらせてしまっていることから分かる事だ
 確かに恐いのかもしれない

「男の人はみんな、どうしてか私に対しては余所余所しくて……他の女の子にするみたいに、
 気軽に接してくれないんです。普通に話してくれるのは、高町先輩くらい」

 それはそれで寂しいのかもしれない……しかし、何で気軽に接しないかね……
 こんなに普通な人なのに…………俺の周りの方が普通の人が少ないかもしれない

「そんなわけだから、あの時はもう本当に何もかもオシマイだと思ったんです。いっそそのままどこか
 遠くへ旅に出てしまおうと思ったくらいで……でも、私の認識は間違っていました。高町先輩は
 約束通り黙っていてくれましたし、それに私の趣味を知ってもバカにすることもなく普通に接してくれた……
 それどころか助けてさえくれました。今日だって高町先輩がいてくれなかったらどうなっていたことか……
 高町先輩を信じることが出来なかった自分が恥かしいです。あの時の自分にバカって言ってやりたいくらい。
 私……高町先輩には本当に感謝しているんです」

 乃木坂さんは俺の前に立つ

「本当に……ありがとうございました」

 スカートの裾を指先で摘み、ぺこりと頭を下げる
 俺はそこまでしてもらえるような事をしたつもりは無い
 でも、綺麗とか可愛いとか言うなら、可愛いだろう仕草と行動
 ガタリ、バサバサ

「!?」

 乃木坂さんが俺の腕にしがみつく
 何かが落ちた音……距離にして本棚のところだな……

「い、今の……何の音でしょう?」

 目は暗闇になれてるので問題ないが、距離がちょっと不安だ
 ただ間違いじゃ無かったら……

「ほ、本棚の方から聞えてきましたよね? もしかして『読書する死者』……」

 不安そうに言う乃木坂さん

「まさかな」

 そう呟いてふと思う……もし、幽霊がいるなら、誰かが気づいてるだろう
 神咲さんとか、そのあたりが気づいて成仏させてるはずだ

「ど、どうするんですか?」

 不安にかられてる目……恐いとか色々あるのだろうが

「あ、高町先輩!?」
「ちょっと様子を見てくる……乃木坂さんは此処で待っていてくれ」

 腕をぎゅっと捕られた……捕まっていると言っても良いだろう

「わ、私も行きます」
「恐いんじゃ……」
「ここに1人で置いていかれる方がよっぽど恐いですっ」

 確かに、もともと恐がってるのに置いていかれる方が恐いか

「行くか」
「は、はい」

 震えながらも歩き始める……多分あっち
 間違いじゃなければ……大丈夫だろう
 ヴィンヴィンヴィンとさっきと違う音が響く
 そして、バサバサと本が落ちる音

「ひっ……」

 乃木坂さんが器用に自分の耳を俺の腕を取りながら閉じる
 聞えてて恐いのかもしれない

「い、い、今の……」

 目に涙をためて乃木坂さんがこちらを見上げる
 分かってはいるが、意識したらダメだ……柔らかいものが腕に当たってるとか

「や、やっぱり『読書する死者』……に、逃げましょう、高町先輩」
「いや、ちょっと待て、これって」

 先ほどの音である程度分かっていたが……

「た、高町先輩!」

 本棚に近づいて見ると正体が見えた……

「携帯だな」

 白い携帯電話……俺のとは似ても似つかないけど、誰かのだろう
 と、ストラップに音楽教師が以前持っていたのを思い出す……YUKARIという名前
 間違いないだろう……朝にでも届けておくか、それとも置いていっておくか

「乃木坂さん、もう大丈夫。原因、わかったから」

 電源を切り、乃木坂さんを呼ぶ
 本棚の影から恐る恐る見ている様子は小動物のようにも見える

「原因わかったって……」
「原因はこれだ」

 携帯を見せると、安心しきったようにペタリと足から力が抜けたようだ
 図書室の床に座り込んでいる

「あ、安心したら力が抜けちゃいました」

 そういって少し困った顔をしている乃木坂さん

「ふっ」

 思わず笑みがこぼれ出てしまったようだ
 乃木坂さんがぷーっと頬を膨らませていた……絵になる人は何でも絵になるものだ

「な、何でそこで笑うんですか。そこは笑うところじゃないです。しょ、しょうがないじゃないですか。
 ほんとに恐かったんですから!」

 と、講義をしていたが、それもやがて呆れた顔になって、口元を緩ませていた

「もう……ほんとにヘンな人」
「それはお互い様だ」

 2人して盛大に笑った……俺自身もここまで笑えるのかというくらい笑っていた
 初めてじゃないしろ、笑顔だっただろう……
 新たな怪談が出来てるかもしれない
 学校の校舎から聞える男女の笑い声……近隣で流行りそうだ






 任務完了により、校門前まで戻って来た
 乃木坂さんが頭をぺこりと下げていた

「今日は本当にありがとう。高町先輩のおかげで助かったし、それに……不穏当かもしれないけど、
 とっても楽しかったです」

 楽しかったか……確かに楽しくないって事は無かった気がする
 乃木坂さんという人の新たな一面を見せてもらった気がするし
 何より、一緒に居て飽きることは無かった……どこか楽しくて目が放せない人だとも思う

「どういたしまして……俺も楽しかったかな……」

 正直に答えていた……つまらなかったら、流石にこんな事しないだろうし
 此処まで付き合うことも無かっただろう
 あ、美由希、気がついたかな?
 すっかり忘れてたな

「あの……春香、でいいです」

 照れたような顔でこちらを見て、改まっていう

「あ、呼び名のことなんですけど。その、乃木坂さん、っていうのはなんだか他人行儀じゃないですか。
 いえ、確かに他人は他人なんですけど、そういう意味じゃなくて……う〜、上手く言葉にできないです。
 でも……とにかく私のことは春香って呼んでほしいんです。乃木坂さん、じゃなくて」

 真剣そのもので言うのだが……

「いや、だが、俺は乃木坂さんと呼ばないといけない気がするのだが」
「む〜」

 頬をぷーっと膨らませる
 呼ばれたいらしい……だが、俺だって、そのな気恥ずかしさが

「うっ」

 少し目が潤んできている

「わ、分かった……その、春香で良いんだな?」
「はい♪」

 嬉しそうだ……というか、根負けした?
 こんな所をかあさんやなのは、他の誰かに見つかれば、それこそどこぞでパーティかもしれんな
 かあさんからの追求は逃れられ無いかもしれない

「……それじゃあ、俺のことも恭也でいい……俺だけ名前っていうのも可笑しな話だろう」

 彼女は心からの笑顔で

「分かりました。恭也さん、これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」






 これから俺の秘密が彼女にばれるとは全然思えなかった
 ただ、俺と彼女の奇妙な関係が始まりを告げる最初のころ、始まりだった












 つづく












 あとがき
 第一話ですね……ここは変化なく、直球で行きました
 シオン「ほぼ駆け足でね……それとな〜く、フォークがあった気がするけど」
 無いよ、フォーク……というか、変化球苦手だし
 ゆうひ「どうでも良いけど、第二話かけるの?」
 ……買い物かぁ……その前に、恭也の秘密がばれるのを書きたいんだよな
 シオン「え!? 先にそっちなの!?」
 書く機会を失うとずるずる書きそうだから……
 ゆうひ「でも、春香も秘密に気づくって難しくない?」
 それを書いてこそ、二次創作作家の面目躍如なんじゃないかなぁとは思う
 シオン「というより、それを書きたいんだよね〜」
 そうとも言う……というか、限界に近いからこそ頑張ろうって思えん?
 ゆうひ「で、そのために第二話は違う話になりそうって事なんだ」
 多分、文庫本の一冊目、第二話とは違う内容になるだろうね
 シオン「なるほどね……それまた大変だわね」
 ああ、大変だけど、どうやって恭也の秘密がばれるのだろうか、楽しみだ
 ゆうひ「でも、どうやってバラすの?」
 聞くな!! 今、必死こいて頑張ってネタと荒削りで捜しまくってるんだか
 シオン「あ、やっぱり先のネタが無いんだ」
 無い!! どきっぱり言うなら、しばらくネタを考えないと他のも怪しくなってきた
 ゆうひ「大変だね〜」
 どうにかするってのが俺だし、どうにかなるはずだけど
 シオン「でも、恭也と春香はこの後どうやって秘密を共有するかは問題だもんね」
 そう、この話のコンセプト的というか、必要最低限の要素だからね、早めに出すに限る
 ゆうひ「恭也が毎日ドタバタ……それ、良い! でわ、また〜」
 ほなね〜……というか、毎日ドタバタ、周り巻き込んでって事なんだけどなぁ、ハートフルコメディにならんなぁ




無事に任務完了〜(笑)
美姫 「そして、いよいよ次では恭也の秘密が!?」
一体、どんな風になるんだろうか!?
美姫 「はっやっく、はっやっく、つ・づ・き〜♪」



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