『乃木坂春香と高町恭也の秘密』











第四話 その1













 六月に入って、しばらくは何事も無いままにいつもの日常を迎えていた
 ただ言うなら雨が降らず蒸し暑い
 そのために、早めから夏服への移行があったくらいだ

「ふむ」

 今日はたまたま時間があったのだが、音楽教師に居眠りが見つかり
 そのまま罰当番として、音楽準備室の掃除をおおせつかったのだ
 といっても、全部完全にという訳じゃないので良いのだが
 確か、棚の一角の本を戻しておいて欲しいって事だ
 偉人たちの順番に並べて、後は綺麗に拭いてくれって事なので、急ぎしていく
 早くに帰りたいといえば、帰りたいからだ
 居眠りした奴は他にも居た……違う罰を今ごろ受けてるだろう
 それぞれに分担があるかのように分けていく先生はいい人なんだろう
 上代由加里先生らしいことだが
 携帯もこの人のだったし、ボケてる時もあるのだろう
 拭いて片付けていくと、その一角だけ綺麗になった
 ほかは他の奴が掃除していくのだろう
 なんていうか、掃除が順番的に回ってきそうなのが凄いところだ
 ほこりのたまり具合が、場所場所で違うし
 下の部分だけ掃き掃除して、ゴミ箱に棄てる

「終了っと」

 大分遅くなった……というより、言うの遅かった上に、最終授業で掃除当番に日直の三拍子だったからだ
 時計を確認してみると7時……ふむ
 携帯は電源が落ちていた……後で充電しておこう
 小さな電光板には充電されてなかった報いか真っ暗を写している
 ポロンっと、そんな音が聞える

「ピアノ?」

 音が聞えて、そっと周囲へと気配を探る
 音楽室からか……ピアノを引いてる人が居るって事か
 上代先生は居ないはずだし……何でも

『コンサートいってきま〜す♪』

 などと言って出て行った記憶があるから間違いないだろう
 というか、この部屋を混沌とした本人は掃除をしないのかなぁと不思議に考えてしまう

「なるほど」

 小さな声で俺は呟いた
 1人の学生がピアノを弾いている……その姿はどこか見たことある女性だ
 黄昏の中、春香は一生懸命にピアノを弾いている
 集中してるのだろう、こちらの姿は全く写ってない
 これは、確かベートーベン作曲、ピアノソナタだったな
 『テンペスト』……だったかな? いや、何か違うかもしれない
 一度だけ聞いただけだし……聞かせてもらったのも、イリヤさんが弾いてるのを聞いただけだし
 それ以上の腕か、それと遜色ないくらいだ
 本職としても通用するレベルということか……
 春香の指先は白と黒の鍵盤の上を踊るように舞う
 見惚れていた……たまに女性らしさを伺わせる彼女は凄いと思う

「ふぅ……」

 一曲弾き終えたのか、春香は小さく息を吐く

「お疲れさま」
「え、きゃっ!?」

 驚く春香
 後ろから声をかけたら驚かれてしまった……普通は驚くだろうが

「え、あ、あれ、どうして恭也さんが此処に? 最初に来た時は誰も居なかったのに」

 俺は簡単に事情を説明する……罰掃除の所は言わないと分からないだろうし
 掃除をおおせつかってしたって所だし、そのあたりは変わらないから

「あ、そうなのですか。それはとってもお疲れ様でした」

 笑顔でそう言われると、少し疲れが飛んだ気がする
 そういえば、同じようなこと、翠屋でもあるからな……似たようなものか

「それより春香も何でこんな時間に此処で?」

 ピアノを弾いていると言う事を聞かないと、流石に心配になるだろう
 ご家族の方が……葉月さんあたりがな
 ほかの人たちも心配するだろうし……

「それはですね、ええと、話すと少しややこしいのですが……」

 話を即すように言うが

「試験勉強をしてまして……丁度世界史をしていたのですけど、そこにシェークスピアのことが載ってまして」

 シェークスピア……劇作家だったよな
 ん〜、有名なのが思い出せないが……

「私、シェークスピアの劇が大好きなんです。『マクベス』とか『真夏の夜の夢』とか
 とっても素敵だと思います」

 なるほど……大体分かってきたぞ
 そのシェークスピアが使ってる劇の中にベートーベンの曲があってって事か

「それでですね、シェークスピアの作品の中に『テンペスト』というお話があるのですが、同名のソナタが
 ベートヴェンの作品の中にもあるんです。ピアノソナタ第十七番『テンペスト』。シェークスピアの名前が
 でていたら急にそれが弾きたくなって……コンクールも近いことですし、その練習も兼ねて
 帰る前にちょっと弾いていこうかなって思ったんです」
「なるほど」

 確かに少しややこしいな
 しかも、俺の考えは似てたのか……そういえば、あった気がするが、覚えてないぞ
 フィアッセたちなら詳しいかもしれないが

「それにしても、こんな時間まで勉強していたのか……」

 困ったお姫様だとも思ったり……その前に図書館恐くないのだろうか?
 前、凄く恐がっていた気がするのだが

「はい。中間試験も近いですから……」

 ……はっ!!

「中間試験……」

 思い出しただけで気づいてしまった
 今年度に入って、一度としてノートが綺麗に取れてるのが無いかもしれない
 というか、誰かから借りるしか無いのだが……赤星取ってるかな
 それに赤点をとろうものなら、夏休みが潰れる可能性が……

「恭也さんは、中間試験の勉強進んでいますか?」
「いや、全く」

 なんせ恐怖のことだからすっかりと抜けるのだ
 うちの高校は昨年度から二期制に変わり、そのおかげで、中間が赤点なら夏休み補習漬け
 3分の1ほどが消えることとなるのだ……グッバイ、俺の夏休み
 毎年恒例になる可能性があるので、俺はある事してを切り抜けてるが
 ……先祖の皆さんには悪いが、神速って便利だよね……

「全く、ですか。でも、これからやる予定はあるんですよね?」
「そりゃあ、まぁ……少しはしないと」

 さすがにな……武術使って、他の人のテスト答案を丸写しとまでいかなくとも見て書いてます
 写しきってますなんて言うのは言えないわけであるし……
 高校の勉強についていけてない部分もあるので、どうとも言えない
 生活に困らない程度の語学力はついてるのだがなぁ
 フィアッセの日常英会話とか、レンの日常中国語会話とか……

「ただ、ノートなんかを誰かに借りんといけないし、借りたら次の日には返さないとな」
「土曜に借りて月曜に返してはどうでしょうか?」

 奴なら速攻で喜んで貸してくれそうだな
 三年次になって、大した差が無い授業だし……あいつと俺は同じ文系
 うむ、大丈夫だろう

「そうするかな」

 ほっと一息入れてそういうと、春香は嬉しそうに頷いた
 まぁ、やる事は変わらないのだが……

「それでですね、恭也さん……一緒に勉強しませんか?」
「一緒に?」
「はい……葉月さんも機会があればつれてきて欲しいと言ってましたし」
「そうか……そうだな、良いぞ
 ただ、曜日とか日にちをどうするかだな」
「あ、それじゃあ、日曜日で時間は一時くらい、私の部屋でって事でどうでしょうか?」
「分かった…………」

 って、春香の部屋でか?
 流石に問題があるようなないような気がするが、誰か近くに控えてるだろうし大丈夫だろう
 それに、乃木坂家はある種、凄い豪邸だろうし……一度入ったし分かってるつもりだ
 ま、春香の部屋もそれ相応なものがあるだろう

「それじゃあ、忘れないで下さいね……葉月さんにも伝えておきますから」
「ああ、頼む」






 そうこうしてる間に日曜になり、あまり会う機会も無く日曜の12時半くらいに目的の場所についた
 持っているのは家のシュークリームだ……かあさんが渡してくれたのだ

『あなたが女性の家にお呼ばれなんて、桃子さん嬉しいわ♪
 ほら、これでも持って印象付けてきてね……良かったら、店に連れて来てね♪♪♪』

 いい年した母親がこの状態でかなりテンションが高かった
 正直、フィアッセたちの視線が何故か厳しかったが……朝から何でああも元気なかあさん
 なのはも嬉しそうに『頑張ってね〜』などと手を振った始末
 美由希、今日の鍛錬は楽しくなりそうだ……といっても、午前の鍛錬の時に二度ほど
 気を失わせるくらいのダメージを出したり、木刀が手をすべり美由希へと飛んでいったりしたのだが
 些細な事だな……きっと

「たしか、こっちの方のはずだが……」

 ……結構距離あったような気がするなぁ
 帰り道は送ってもらったし……こっちという感じで進んでるのだから問題だ

『駅から十分くらいの距離にありますから、迷わないと思いますけど』

 そういって渡された地図と住所
 地図は渡された時に諦めた……というか、見ていてサッパリ分からない代物だからだ
 可愛いのか恐いのか怪しいのか危険物なのか、それぞれ見解はあるだろうが
 春香の地図は、それはもう地獄絵図という感じなのは、以前買い物の時に経験済みだからだ
 住所だけできたわけだが……何か、この住所がとても怪しい気がする
 その場所についても玄関が見当たらないのだ……もしかして、壁伝いに行ったら良いか?
 場所的には此処って場所なんだがな

「おに〜さん」
「ん?」

 小さな少女というわけじゃないが、少女に声をかけられた

「どうかしたのか?」
「いや、それは、私が聞きたいのだけど……どうかしたの?」
「いや、此処の家に用事があるんだが、これがまた中々玄関が見つからなくて」
「あ、そうなんだ……そこの角を曲がって暫く歩いたら玄関だよ……
 誰かに呼ばれたの?」
「乃木坂春香さんにな……ちょっとした知り合いなんだが」
「へ〜」

 少女はそういってにこやかに笑顔を浮かべて

「あ、じゃあ、私急ぐから……またね〜」

 手を振って駈け去っていった
 元気な子だな……うん
 んで、目的地に到着……此処ってこんなに大きかったんだな
 殆ど記憶に無いぞ……多分夜中で見えなかったんだな
 そう言う事にしておこう





 潔く着いた場所は、とても大きな屋敷
 うん、大丈夫だ……此処だ此処だ

「恭也さん」

 玄関からドアを開けて、メイドさんである葉月さんが出てきた
 というか、この人にとっての作業着や仕事着みたいなものだろう

「お嬢様がお待ちしていますよ」

 時間を確認すると遅れている時間では無いのだが

「そうか……遅れた覚えは無いが、詫びないといけないだろう」
「いえ、そうは言っても私もお待ちしていた1人なので、気にしなくても大丈夫ですよ
 それで、今回は違う場所なので、こちらです……ついてきてくださいね」
「はい」

 葉月さんの案内のもと、歩いていく……角を7つほど曲がり、階段3つを上り下りし
 そして、着いた先は、1つのホールみたいな部屋だった
 屋敷が広すぎるというのも大変なんじゃないか?
 まぁ、俺もそういえば、此処で迷子になった経験があるが
 通った人に道を聞いて戻ってきた事があるくらいだし……知られたくないことだが

「あ、恭也さん、いらっしゃいませ」

 サマードレス姿で春香は笑顔で迎えてくれた
 ソファに座っていて、後ろを向いていたのに気づいたのだ
 しかし、敷地内に入って此処まで20分……以前は走っていたから分からなかったのかもしれない
 それに、屋敷の近くだったわけだし

「葉月さんも案内ご苦労様でした」
「いえ、お仕事ですから」

 やんわりとだろう、本人曰くなら……少しそっけなくも聞えるけど、それは葉月さんだからだろう
 本当は凄く優しい人だという事を俺は知っているつもりだ
 葉月さんと春香とで紅茶の話や普段のこと、葉月さんの話で盛り上がる
 紅茶を入れてもらい、ティーフードを少し食べながら談笑
 そうは言っても俺は受験生な身だから、勉強に本腰を入れないといけないのだ

「では、移動しましょう」
「ん? 此処でするんじゃないのか?」
「此処では足りないものもあるんです」
「そうか……じゃあ、案内頼めるか……片付けもしないと」
「いえ、それは私がしますので」
「それじゃあ、葉月さん、後でお願いします」
「はい」

 そして、春香の後ろというか横で話しながら歩いていく
 色々な場所を抜けた先に、本日の勉強する場所についた
 あまり寛いではいけないだろうっていう配慮なのだが……俺はあまり勉強が得意じゃないし
 寝ないように頑張ろう……本当に











 つづく











 あとがき
 さて、次は恭也たちの勉強風景を……恭也たちじゃないかもしれないが
 シオン「普通に恭也のみの試験勉強よね」
 というか、恭也は試験大丈夫なのか不安だ
 ゆうひ「遊び人が言う事じゃないよね?」
 かも……へぶらっ!!
 シオン「全く、あんただって勉強すれば覚えられるのに覚えないからでしょ、このへたれ」
 殴ってから言うなよ!! しかも、瞬時に手出しておいて、何も言わないのか!?
 ゆうひ「あ、ごめん、手が滑った」
 遅いよ!!
 シオン「そっちなんだ……普通、殴ったことを怒らないの?」
 お前らだと毎度だから、なんとも言えないから……(TT)
 ゆうひ「頑張ってね〜、でわ、また〜」
 誰か、この2人止めて(凹 ほなね〜(^^)ノシ




美姫 「こうして始まる勉強会。このまま無事に終わるのかしら。
     勿論、そんなはずはないわよね。一体、何が起こるのかしら。
     次回も待ってるわね〜」
……ぁぁぁ…あああ〜〜。
ずべらぁっ! ぐげっ、着地失敗……。ただいま。
美姫 「……もう少し怪我するとか、すぐには喋れないとかないの?」
???
美姫 「まあ、良いけどね」
何かよく分からんが、バカにされている事だけは分かったよ(涙)
美姫 「それじゃあ、まったね〜」
って、え、もう終わり!?



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