『乃木坂春香と高町恭也の秘密』





第五話 その1













 七月……中間試験が終わり、夏休みがもう少しというところ
 帰ってきたテスト結果に一喜一憂し、俺もどうにか赤を抜け出し……勉強会のおかげかもしれない
 期末も頼んでおこう……俺の成績じゃあ不安で不安で

「高町は夏休み、毎度のごとく山に篭るのか?」

 小さな声で訊かれたのは、赤星からだった
 赤星は事情を知ってるのだから、仕方ないが……

「いや、今年は美由希の事情もあるから篭らないで居るつもりだ」

 小声で話してるが隣の月村には聞えてるようだ

「じゃあ、忍ちゃんと一緒に海行かない?」
「行かない……悪いが、単に勉強をしようと思っただけだから」

 成績不振の俺には過酷なことこの上ない
 忍と赤星はそれだけで納得してしまうのが悲しい

「確かに、高町は今回抜けれたけど、次が」
「そう言うことだ」
「私は平気だったし」
「あらら、忍は現代文とかが問題だったでしょ〜、知ってるんだぞ」

 そう言うのは藤代さんだ……元気だなぁ
 以前、有明で同人誌の大きな即売会があるからって言って、赤星を連れて行くようなことを言ってたが
 成功したのだろうか?

「ま、俺は本気で勉強でもしないとついていけてない部分もあるし
 今年は勉強しようかなぁと……後はバイトで追われるだろう」

 朝夕の鍛錬はするが、それ以降は勉強に本腰を入れようということだ
 如何いう風の吹き回しって事で熱測られたりまでしたが、理由は試験がヤバイって事だけだ
 やはり頼るのは良くないだろうし、言えば教えてくれそうだが
 それだけであそこまで行くのがな……



 それから数日後、俺は春香と会っていた……といっても、掃除当番が終って日誌を出した後だった

「掃除お疲れ……そうだ、高町、お前、これを渡しておく」

 そう言って渡されたのは試験対策の問題だった
 どうしてという顔をしてると

「ほら、お前と赤星と藤代、月村の4人で話してるのを聞いてな
 大学を何処受けるかはきいてないが、実情を考えれば近場だろ? だから、近い所の試験問題をな」

 そう言って渡されたプリント……といっても、抜粋みたいな問題用紙が10枚ほど
 量は多いと捉えるべきかどうか悩むくらいだが、多少は目安になる
 良いものを貰ったかもしれない

「そういえば、恭也さんは夏休みどうするんですか?」

 教室に戻るまでの間、少しお話しようって事で話してるが

「流石に今年は、受験もあるし勉強をしようって」
「そうなんですか? 私は、葉山の別荘に美夏たちと泊まる予定してます。後、お祖父様と尾瀬にテニスしに行ったり、
 八月にはロンドンでピアノコンクールがありますね」
「結構、やることがあるんだな」

 といっても、家族がらみが多いが

「それと、1つ行きたい場所があるんですよ」
「行きたい場所?」
「はい,”なつこみ”です」

 ああ、藤代さんが言っていたような……弟たちが興味持って行って見ようかどうかみたいな
 楽しいところなら良いとは思ったり思わなかったりしたが……話半分に聞いていたしあまり覚えてない

「見てみたい物もあって、1人で行くのは不安なのでやはり行かないで諦めようかと思ってますけど」

 ふむ、なるほど……多分、夏休みになればかあさんがデートもしないで勉強って
 とか言い出す可能性がある……もしかして、これは使えるかもしれない
 春香を出汁にするようで悪いが……よし、この手で行こう
 毎年、夏になれば山に篭って云々の言葉を今年は言わせないように頑張るぞ

「もし良かったらだが、一緒に行くか? その、俺の息抜きも兼ねてになるが」
「え? ですが、良いのですか?」
「勉強ばかりだとどうしても疲れるからな……だから、少しくらいなら問題無いだろう」
「あ、ありがとうございます」

 そう言われて俺も少し考え

「いや、こちらもありがとうな……」
「え?」
「いや、何でもない」

 そう言って、分かれる階段まで着ていたのを思い出して、分かれた
 しかし、嬉しそうだったので、良かったと捉えるべきだろう
 まぁ、ニ三日居なくてもどうにでもなるし、俺は考えなくて良いだろう
 それに、これで女性とデート云々の会話も逃げられる……良いことだ

「おにーさん♪」

 後ろから何かが飛んできたので、慌てて膝を折りキャッチすると美夏だった
 声からして何となくそうだとは思ったのだが

「どうしたんだ?」
「む〜、慌てない」

 これくらいで慌ててたら、春香のドジミスや美由希のドジなんてもっと酷いぞ

「それより、こんにちわ」

 下ろして言うと、美夏もこんにちわと挨拶
 制服姿だが、どうかしたのだろうか?

「春香に用事か?」
「うん、近くまで着たから一緒に帰ろうかと思って」
「そうか……まぁ、あまり人様に迷惑かけないようにな」
「おにーさんだけだもんね、ああいうのするの」

 駆け寄ってきたみたいだし、多分俺だけなんだろう
 周りから何か声が聞えるが、気にしない方が良いだろう……多分

「それで、春香ならもう直ぐ出てくると思うぞ……俺と同じ掃除当番だったから
 職員室手前であったし」
「それじゃあ、ちょっとだけ話相手になって」
「構わないが、あまり楽しいとは思えないぞ……多分10分も無いだろうし」
「良いから良いから……それで、お姉ちゃんとは如何なの?」

 ……??

「いや、首傾げてるんじゃなくて、仲良くなってるかなぁって
 こう、進展とかって…………ごめんなさい、お姉ちゃんやおにーさんじゃあ意味無理だね」

 なんだろう? 俺、今中学生の美夏に凄い失礼なこと言われた気がする

「おにーさんとお姉ちゃんだし、どうしたら良いのかなぁ」

 ……何か悩みだしたし

「あれ美夏、どうしてここに? それに恭也さんも」

 そう言って春香が登場

「じゃあ、春香が着たことだし、俺はもう行くな……」
「あ、おにーさん」
「??」
「単に春香が来るまでの間、俺が美夏の相手してただけだ」
「ああ、ありがとうございます」
「お姉ちゃんもそれで納得しないでよ」

 ??
 2人して首を捻ると、美夏から盛大なため息が漏れた
 どうかしたんだろうか?

「美夏、どうかしたのか?」
「ううん、何でもないよ……そうだ、お姉ちゃん、これから翠屋よって帰ろ」
「え? 急にどうしたの? 別に構わないと思うけど」
「じゃあ、れっつらご〜」

 元気だな……そう言って歩いてく2人を見る
 しかし、不穏な影というか歩いてる人も……間違いなくSP
 ま、2人にばれてないなら声をかける必要も無いだろう
 こちらに一度視線を送ったときもそ知らぬ振りをしておいた




 そのまた数日後、今度もまたまた美夏が校門の前に居た
 と言っても、今回は掃除当番じゃないので、春香もいたりする
 しかし、どうしたのだろうか?
 と、思っていたら、単に翠屋に一緒に行こうという誘いだった
 バイトだからと言って断ったら、翠屋で捕まった……とか、おおむねそんな感じで日々過ぎていった
 その後、かあさんとフィアッセから嫌って程色々聞かれた
 フィアッセの目が果てしなく釣りあがっていて、夜の鍛錬後も泊り込み(徹夜)で聞かれた
 勿論かあさんも含めてだ……俺の睡眠が露と消えた日である










 そして、その日は唐突に訪れた
 春香のたまにこけるところとか、そういうのは大体の人は知らない
 なんせ、こけたらこけたで驚かれるだろうが、それすらも一種の特技で済ましそうだからだ
 まぁ、そんな偏執狂的(変宗教的の方が正しいか?)のような人たちがファンクラブなのだから
 仕方ないといえば仕方ないだろう

「恭也さ〜ん」

 ちょっとした用事で1階事務室から職員室へと移動中に声をかけられた
 声と足音、気配からして春香だと分かる
 まぁ、このようにかけてくる女性の知り合いもあまり居ないが
 近いといえば藤代さんとかだろうか?

「恭也さ〜ん」

 嬉しそうな春香の声……周りもなんだなんだという風に見る
 まぁ、何て言うか、俺、目立ってる?
 後、人ごみで俺を名指しで呼ばないで下さい……お願いします

「あのですね、”この前お話したもの”ものを持ってきたので、これから一緒に見ませんか?」

 そう言ってこちらに走って寄ってくる
 その足元には……声をかけるより救出だな
 つるっと滑る春香……

「きゃあ」

 一回転してる女性を受け止めるのは、正直な所自信は全く無い
 足の負担もあるわけで……そのまま春香の背中、足を持って滑った
 といっても、結局のところ壁に背を預けてる俺とお姫様抱っこ(教わった)の春香だ
 そして、カバンの中身は落とされ方が酷かったのか中身が全て出ている
 更に『この前お話したもの』についても、ページが見開かれ出ている

「え、あ、何が」

 混乱してる春香に手を貸して先に起き上がってもらう
 痛くないようでほっとしたが、その前に春香は気付いしまう
 自分のカバンから出た周りが色々な視線を向けてる事にも

「あ、え」

 混乱してるのだろう

「わ、私、いや、そんな目で見ないでください……やめて……」

 そのまま首を小さく振ると大粒の涙が彼女の瞳にあった
 
「っ……」

 そのまま落ちているカバンを拾い上げて、呼び止める間も無く走っていった
 何かあると思ったが……しかし、先に、そのなつこみとやらの雑誌をどうにかしないとな……
 考えをまとめ実行してみる
 周囲の奇異の視線はある
 色々な憶測が飛んでるし、何より俺は春香のこと頼まれてるし
 知られないほうが良いのだろう

「これ、藤代さんの弟さんに頼まれたものかな
 確か、経由で俺に持ってきてって頼んでいたし……」

 新聞部の面々に聞えるように言う
 まぁ、これで多分大丈夫だろう……

「赤星連れて行くからって、気合は入れてたし」

 すまん、赤星、藤代、後で翠屋で何か奢る

「ま、弟思いの藤代さんらしいが、何で自分で買い忘れたんだか」

 ということで、そのまま話は何とか春香の物じゃないって事になった
 独り言で何とかなる事ってあるんだなぁ……
 その翌日、春香は学校を休んだ……下の階の事で何があったか騒然となったよう


 赤星と藤代は大丈夫って言っていた……もともと、藤代はそう言うの行くって公言していた上に
 赤星を連れて行くのも良いって事で、雑誌も買い忘れてたし見せてって事で見せたら納得していた
 なんていうか、2人ともそれで良いのか? 後ほど買い物には行くらしいけど、夏休みらしい





 春香が休んで三日と経った……俺の方は普段と変わりないが
 パニックとなった春香の目が気になる……バイトも休みだし、行って見るか
 そのうち何かあると言えば春香じゃなく、美夏あたりが来ても可笑しく無いし
 来られても困るし

「で、春香ちゃんに手を出して嫌われた高町はなにしてるんだ?」

 毎度のごとく絡んでくる男たちも居るわけで、俺、毎回相手に疲れるから半分無視して進む
 ゴミ棄ても立派な仕事だと思ったりはするが……殴りかかってきた奴は、校舎を殴って痛そうだった
 俺はそのままスタスタと歩いていく
 何かごちゃごちゃ言ってるがなんだ?

「春香ちゃんにこれ以上近づくの止めたら、いい加減うざいだろうしね」
「俺からしたらお前の方がうざい」

 真似てみた……顔を真っ赤にして、何か騒ぐ
 煩い奴だ

「今日はまた違う人種ね〜」
「あれ? 由加里先生どうしたんですか?」

 名字で呼んだら、ダメらしい
 理由は良く分からないが

「実はね〜、高町くんにお願いがあるのよ〜
 ほら、乃木坂さんと仲が良いじゃない?」
「俺のほうが良いですよ」

 横が何か言うが

「それで、これお願い……今日から渡されてる宿題なんだけど、一度に持って帰るの大変って事で
 分けてるんだけど、溜まってきてるから」
「分かりました……持っていけば良いんですね」
「うん、お願いね〜」

 男は何か言うが無視されてる
 俺も意図的に無視……ま、これで口実は得たわけだが
 周りの野郎たち(女性も若干混じってる)、どうしよう?




 走って逃げて、そのまま校門のところで美夏に捕まった

「おにーさん、お姉ちゃんに何したの!?」
「……まぁ、これが普通の反応なんだろうな……とりあえず、美夏、帰り道の間に話すから一緒に帰るぞ」
「え?」
「用事を頼まれた……それに便乗して、元気かどうか確かめたい」
「あ、うん」
「それにだ、春香の秘密のことだろう? 美夏がそこまで慌てて俺の方まで来たのだから」
「あ!」

 春香のこと、大切な姉のことだからこそ、美夏は俺を見て言うのだろう
 変なことに関しては、単なる憶測
 だが、その先にある事実がある

「中学の頃なんだろうな」
「え?」
「春香のあの視線に耐えられないうろたえようとパニック……中学か小学校高学年の頃に何かあった
 そう考えるべきなんだろうな」
「おにーさん……お姉ちゃんのこと考えてくれてたの?」
「で、本日行く予定だった……病気じゃないなら良いが、あのうろたえようは間違いなく何かあったはずだ
 それに、混乱が酷かったから
 手はあるのにも関わらず、そこまで頭が回ってない証拠だろ?」
「おにーさん……結構頭良かったんだね」
「まぁ、ああいうときは冷静に対応すれば、何とかなるものだ、多分」
「それじゃあ、中学の頃の話も?」
「知らない……俺には分からない事だから」
「そうだよね」
「俺が聞いて良い事なら、聞いても良いが……美夏が言いたくないなら、言わなくて良い
 春香も聞かれたくない話かもしれないからな」
「ううん、おにーさんなら大丈夫な気がする……お姉ちゃんのこと、聞いて下さい」
「分かった」

 そして、春香の中学の頃にあったことが話され始めた
 それは、俺の予想と大体一致していて、俺は納得していくだけだった
 彼女、乃木坂春香の一番、辛く悲しい傷……抉られ開かれた傷口と言って良いだろう









 つづく









 あとがき
 まぁ、このあたりの機微が本来の本と違う所かな?
 シオン「……確かに、恭也詳しく考えてたみたいだね」
 まぁ、恭也は一応でも、高貴な奴らと知り合ってたりするわけだし
 ゆうひ「そうなの?」
 恭也は護衛の息子、しかも連れ歩かれていたね
 シオン「納得」
 だろ……自分もこれほどまでに確り考えられたのは偶然に近いね
 ゆうひ「頭大丈夫?」
 というか、眠たさでこう言えるというのが可笑しい
 シオン「そっちね」
 そっちだ
 ゆうひ「眠いというかボーってかんじだよね」
 ま、そっちだ
 シオン「でも、この調子で行くと、美夏は恭也をどう思うのだろう?」
 というか、1つ言わせてください……一冊一冊が出るの早すぎて、追いつけません
 ゆうひ「うわっ、もろに言ったし……でわ、またね〜」
 ほなね〜(^^)ノシ いや、いっておくに越した事は無いから







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