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とらいあんぐるハート




『風』






 丘のお墓がある場所で恭也は、死者に話しかけていた
 心の中で思うことを伝える。父さんである士郎に伝える。
 今まであったこと、これからのことを話す
 そして、自らのこと

「ふぅ」

 立ち上がる。膝をついていた恭也は膝を軽く払った
 花や線香が風にたなびく
 線香の上部分を出して持っていく。お水につけて火消しする
 燃え移ったりしないようにの配慮だ
 右膝を一度見る。此処まで動いてくれた膝には感謝だ
 守れたこと、止められたこと
 そのおかげであるのだ
 お墓から離れて、丘の風を一身に受ける
 もう春で桜が待っている。大学の二回生、壊れた膝は二度と治らない

「あまり出歩いたら駄目じゃない」
「せっかくの春休みを、ずっと家で過ごすのは良くないって言ったじゃないか」
「そうかもしれないわね」

 苦笑いで歩いてくる。髪の毛を片手で押さえて恭也の隣に来る
 風が強い

「風が強いのだから、あまり外に出ると怒られるぞ
 桜がついたら怒られるだろう」
「大丈夫よ。ちゃんと払うから」
「そう言いつつ、頭についてるぞ」
「ええっ!!」

 頭に手を持っていくが、恭也が抑える
 苦笑いで花弁を取る

「どうせ、髪の毛混ぜ返して乱すんだから、辞めておけ」
「ひどっ!!」
「ちゃんと取ってやるから」
「変な髪形にしたら怒るからね」
「あれは、なのはに対してだけだ」
「好きな女の子に男の子が悪戯するような?」
「そんなつもりは一切無い」
「あらら、なのはは『お兄ちゃん』って甘えるのに?」
「それはそれでありがたいが、いつか、なのはだって兄離れというか、親離れの時期が来るからな」
「それもそうね」

 空を見上げる恭也。女性はそっと恭也の手を取る
 歩くには支障が無い。でも、それが現在医学の限界
 フィリス・矢沢医師は、そのことを悲しそうに、泣きそうな顔で伝えた
 命があっただけ良かったとかじゃない。ただ、剣士としての限界を迎えた

「春だものね」
「なんだ?」
「大学ちゃんと通わなかったら、またなのはに怒られるわよ」
「それはそれで、毎回妹に怒られてるように思われるだろうが」
「誰も聞いて無いわよ」

 そう言われて、分かってると頷く恭也。女性はそっと笑顔を浮かべて恭也の頭へと手を伸ばす
 届かない距離は背伸びして、なでなでと撫でる
 少しして離した

「恭也」
「なんだ?」
「寂しいなら、一人で悲しまないでたまには誰かに頼ろうって気は無いの?」
「あんなにくしゃくしゃに泣いた女性が居るのに、その人にもたれかかるのも悪いだろう」
「むぅ。また私の思い出したくない過去を」
「高町母が母であるかぎり、俺は甘えないだろうな」
「はぁ!?」

 意味不明な言葉に、桃子の方が首を傾げる
 その意味の理解はいつかで良いのだろう

「第一だ、あれだけくしゃくしゃに泣いて、俺に縋ったんだから
 俺が、高町母の前で泣くわけないだろう」
「うわ、ひどっ」
「ちょっとは、遠慮しなさいよ」
「断る。そんなもの俺とかあさんには似合わないだろうが」
「それもそうか」

 妙に納得してしまった桃子。恭也は苦笑い

「二回生か。大学一回生の仕事で剣士としての限界がすぐに来たか」
「何?」
「いや、ただ、高校三年の時から怪我とか慌しかったなと」
「本当よ。フィアッセや皆も凄く心配してたわよ」
「仕方ないんじゃないか。俺には守るしか出来なかったんだから」
「その代わり、家族は泣かせまくったけどね
 それに、忍ちゃん、那美ちゃんの告白、断ったんだって」
「たきつけた人がよく言う」

 桃子は、苦笑いだ。恭也に恋人が居ないことを考えて、忍と那美の二人をたきつけた
 だが、恭也は、断った。今は誰かと付き合えるほどの余裕は無い、と
 自らの足の爆弾、治らないといわれたものは、霊力による治療も駄目だった
 結局のところ、すでにそれでも焼け石に水程度のものとなってるのだ

「でも、誰かに支えてもらったって良かったんじゃないの?」
「十二分に支えてもらったからな。何のお返しも出来ない俺なんかより良い人はいくらでも居る」
「はぁ〜」

 やれやれと大業にため息をつく桃子。恭也は前髪をかきあげる
 その横顔を桃子は見て、やっぱり、恭也は士郎と似ている
 何気ない仕草も、たまに見せる真剣な横顔も、優しく見てる瞳も

「大学が終われば俺はしばらくかあさんの所で働くつもりだ
 なのはだって、色々あったしな」
「そうね」

 初恋をした。まだ、続く想い。恭也は驚きつつも、しっかりと受け止めた
 彼が好きなら待ってみるのも良いんじゃないか、と
 桃子も紹介してもらわないとなんとも言えない
 ただ、恭也が暴れるかもと思ったが全く暴れなかったことに驚いたくらいだ
 周囲に居た女性たちも、全員が驚いたくらいだ
 なのはの初恋より、恭也が暴れまわるほうが問題だと思ったほどに
 だが、そんなことはなく、恭也はただ静かになのはの恋愛を応援した

『動けない俺はなのはの彼氏とやらに会ってから考える』

 応援とは言えないが、決めかねてるという感じだ
 そのことに桃子自身も驚いた。恭也はなのはを猫かわいがりしている
 だからこそ、『付き合うことなど許さん!!』と怒るかと考えたのだ
 だが、全く反対で恭也はなのはの恋愛をなんとも思わなかったように言ったのだ

「それにしても、恭也がなのはの恋を応援というか、何も言わなかったことに驚いたわ」
「……普段俺がどういう目で見られてるか分からないでもない反応ありがとう
 だが、俺は別になのはの彼氏を認めたわけじゃない。それにだ
 なのははなのはで、俺に反対されても、その彼と出会うだろうしな」
「それもそうねって言いたいけど、桃子さんより知ってるようでずるいわ」
「なのはも高町家の一員だってことだろう」

 それだけで分かりやすい。なのはが高町家の一員ならば、確かに多少頑固なところもあっておかしく無い
 恭也だって、晶やレン、美由希たちも頑固な部分があるから

「で、恭也は付き合ってる人は居ないわけで、何で士郎さんの所来たのよ」
「毎年この時期になったら来てる。春休みのときに、安全祈願もかねてだが」
「そうなの。そういえば、恭也」
「なんだ?」
「帰らないと、またフィリス先生に怒られるわよ」
「かもしれないな」

 恭也は苦笑いで答えた。フィリスの目だけが笑ってない笑顔が頭に浮かんでるのだろう
 ただ、恭也はその後目を閉じた。髪の毛をまたかきあげる

「恭也、どうかしたの?」
「ん〜、そうだな。三度目の恋は実らせたいなぁと思っただけだ」
「恭也が恋!?」
「驚くところか? 俺だって一応は男で、女性に恋心を抱くことくらいあるぞ」
「あ〜、ごめんごめん。でも、三度目って?」

 恭也は苦笑いで答えた

「一人は、那美さん。もう一人は、この世に居ない」
「じゃあ、何で那美さんじゃないの?」
「昔会った時の恋だ。結局のところ、それで終わりの恋だったからな」
「そっか。恭也から恋バナが聞けるとは思わなかったわ」

 恭也は少しだけ頬をかいた

「普段その手の話は逃げるからな。からかわれるのが分かってるのに何で話す必要があるって事だ」

 恭也の言葉に桃子は素直に謝った。普段からかうからこそ、恭也は話さなくなった
 確かにそれもあるだろう。だからこそ、素直に謝ったんだ

「素直に言うと可愛い人なんだがな」
「んなっ!!」

 唐突な言葉に桃子自身が驚いた。恭也が素直に褒めるのも珍しい
 美由希の扱いを考えたり、過去を考えると、ソファダイブや灰皿が飛んできたり、拳骨などもある
 梅干なども、恭也が使用する貴重な家族技だ

「ちょ、恭也、本当におかしいわよ」

 手をすぐに額に当てる。平熱だ
 その額にある手を恭也は、そのまま自分の手で掴む

「俺は、高町家を出るつもりは今の所無いから」
「別に構わないのに。ティオレさんの誘いも蹴るし」
「俺に似つかわしくないからだ」
「それで、出るつもり無いって」
「なのはが連れてきた男を見たいからな」
「どんなのか確認したいってこと?」
「それもあるが、どういう人が見てみたい」
「楽しみってこと?」
「そういうことだ。からかいがいのある人が良いな」
「極悪ね」
「かあさんほどじゃない」

 恭也に言われ桃子は少し落ち込む。確かに自分はそういう部分があるから

「もう」

 桃子は恭也の手を握る。その手や強く握るが恭也は気にしない
 痛いともなんとも言わない

「いつか言ってもらうからね」
「何時か言える時があればな」
「もう」

 分かってる桃子と知られていると分かってる恭也
 重なってはいけない道だとは分かってる。親子だから
 他人と言えば他人。でも、親子であるのに変わりは無い

「第一、それはお互い様だ」
「そうね」

 桃子は自らの想いを断ち切るために、那美と忍に言った
 フィアッセにも伝えたが、フィアッセは桃子の想いを見破った上で伝えた
 私は恭也との恋愛は無いと考えてる、と
 高校三年のあの時、フィアッセは恋に破れたと思ったのだ
 自分が守られてるだけの存在で、弱い存在だということを
 忍と那美は気にして、恭也へと恋人云々を聞いたりしていた

「恭也」

 恭也にとって三度目の恋
 それは、確かな形となっている。誰もいう事の無い秘密の恋
 だけど、いつか伝えるときがあるだろう恋

「私は恭也を愛してるから」
「此処で言うなよ!!」

 恭也は桃子を見て言う。そこには何時もの笑顔
 しかも、全力で突っ込む。恭也の頬が少し赤いのは仕方ないことだろう

「だから、いつかちゃんと言ってね。士郎さんをずっと想ってるわよ
 それでも、これとそれは別なのね」
「俺だって、父さんを想ってるぞ。恋愛的な意味は無いが。父さんとして尊敬したことも無いがな」
「そうね。ごめんね、頼って」
「いや」

 恭也は首を振る。頼られて、自分は大人にならざる得なかった
 なのはが居て、父親の役目も背負ったつもりだった
 だからこそ、なのはの彼氏の時は動揺はしたが、すぐに冷静になった
 なのはが彼氏が居ると家族の前で言うならば、ちゃんと認めなければならない
 それで、もしも彼氏が中途半端なら、なのはが見限るかもしれないし
 恭也か美由希が叩きのめせば良い
 それこそが、高町家なのだから

「なのはもあっという間に大人になるんでしょうね」
「そうだな」
「恭也は、本当にすぐだった気がするわ。美由希やレンちゃん、晶ちゃんのほうが心配ね」
「そうだなぁ。未だに彼氏居ないし」

 それはそれで禁句みたいなものだろうに

「さてと、そろそろ帰らないと」
「俺も行こうかな。歩いて接客とかは出来るだろう」
「お願いしようかしら」
「ああ」

 繋がれた手のまま二人は歩く。恭也はゆっくりと歩く
 桃子はその歩みに合わせて歩いていく。二人は丘から歩いていった





 知らない話。恭也と桃子の恋。ただ、草葉の陰から一人男は見守っていた

『恭也、お前は俺の背中を越えてるから。お前は俺とは違う。守って倒れたんだ
 だから、桃子を頼むな。俺が最後に愛した女性を
 桃子、恭也は意地っ張りで、鈍感だが、悪い奴じゃない。俺よりまっすぐで優しい奴だ
 だから、恭也を頼むな。泣きそうな悲しそうなとき、支えてやってくれ
 俺の最後の弟子にして、最高の弟子を。俺のライバルを頼む』

 伝わることの無い、とある男の声
 それは、優しい風となって消える
 二人の背中を押すように







 おわり






 あとがき
 難しかった〜(滝汗
 シオン「こら、先にいう事があるでしょうが!!」
 あ、一千万Hitおめでとうございます。ご挨拶が遅れて申し訳ございませんm(_ _)m
 ゆうひ「おめでとうございます」
 こちらを進呈しようと考えた作品の一つです。自分本人で、ハードルを高くした作品です
 シオン「何が難しかったのよ?」
 恋愛感情は読まれてるが、ばれてはいるが、正直に言わない二人の図って難しいんだよ
 ゆうひ「お互いに思うことがあるからってこと?」
 そういうこと
 シオン「なんだかなぁ」
 桃子と恭也、お互い好きだけど、まだ付き合ったりしない
 ゆうひ「なのはが大きくなってから?」
 そういうこと。なのはが手を離れたと思ったら、二人は皆に言うんだろうなぁって話
 シオン「付き合ってるわけじゃないのね」
 そういうわけじゃない。恭也は、足が完全に壊れて歩くくらいできる程度で
 ゆうひ「でも、剣士としてはもう」
 再起不能ですってことです。難しいね〜
 シオン「でわ、本当におめでとうございます」
 おめでとうございます
 ゆうひ「ほなね〜」
 でわでわ、これで失礼します。ほなね〜ノシ



ありがとうございます。
美姫 「一千万記念にもらっちゃいました」
いやー、二人のやり取りが何とも言えずに良いです。
美姫 「うんうん。分かっている桃子とそれに気付いている恭也の会話」
いやー、本当に素晴らしいプレゼントです。
美姫 「ゆうひちゃんもシオンもありがとうね〜」
遊び人さん、ありがとうございます。



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