『しんげつのかおり5』





〜恭也視点〜

「男が居るのに無防備なやつめ、しかも、布団の上に本当に横になってるだけだし
 体丸めて、小さくなって……こうしてると、暗殺者にも何にも見えない年相応に見えるのにな」

 不思議な奴だ……本当に
 憎めないというか、こう、面白い
 多分、周りもそれを感じて、楽しんでいる

「全く、男として見られてないのか悩みどころだな」

 自分の上着をかけてやる
 寝息が聞えるが、起きる素振りは無い
 本当に疲れがピークへと達してるのだろう

「さて、父さん頼むな」

 神棚にそう言って、俺は立ち上がる
 さて、ティオレさんたちに報告を……

「ごめんなさい……全部、わたしが……」

 驚いて振り返ると、そこには涙を流してる少女が居た
 少女という年齢で通るほどの女が居たと言うべきか……ずっと後悔し続ける
 それは、美沙斗さんも同じ事だと聞いている
 警防隊へと入隊を決めた今でも悩みを抱えてると

「ごめんなさい……わたしのせいで」

 自分を責め続ける……自己犠牲か
 それとも、もう謝りたいのに謝れない後悔か

「小さな体なくせに……」

 横に座って軽く頭をなでてやる
 小さな幼子のように、悲しんで悲しんで……誰が此処まで彼女を傷つけたか分からない
 それでも、彼女は傷つき、幾度も戸惑い、そして、見つけた新しい生き方
 まだやり直しのきくような年齢だ
 もしも立ち向かう事が出来なければ、家族で助けてやれば良い
 貴女なら大丈夫だと
 泣き止んだみたいだ……俺の上着をきゅっと握って、体を丸めてる
 こうやってると、昔を思い出すな
 俺も、父さんが居ないとき、こうやって神社とかで丸まって寝たっけ
 寝袋をあの父さんが持っていってくれたせいで

「失礼するわよ」

 ティオレさんが入ってくる

「寝てるんだ……可愛いわ」
「ティオレさん」
「泣いてたのね……それだけ辛かったのか、それとも」
「辛かったんでしょうね」
「寂しいのかもしれないわ、悲しいのかもしれないし
 彼女には家族の温かさややさしさが必要だと思うのよね……本来なら、CSSにでも放り込むべきだろうけど
 彼女はそんな事望まないでしょうね……だから、宜しくね」
「しかし、無茶をしますね」
「まぁね……どうせ、寄るつもりだったのよ」
「そうだったんですか」
「ええ……恭也、この子はまだ幼い子供と同じ
 何も分からないままに育って、何が如何したら良いかとかも考えてると思うの」
「考えは立派な大人のそれですよ……俺の方が驚かされます」
「でもね、精神的な強さは子供と同じか、もっと繊細かもしれないわ」
「そうですね……知ってしまって傷つき、そして、自分が全て悪いと思い込んでしまうところがあるみたいですし」
「そりゃあ、そうかもしれないわ」
「ティオレさん……美沙斗さんから聞いたのですよね」
「ええ、でも、この子のせいで死んだなんて思わない、考えない
 確かに、士郎もマクガーレンも死ななかったでしょうね……でも、この子が死んでいたかもしれない
 考え違いをしてる……それだけの力ああるなら、これからを頑張ればいいのよ」
「難しいでしょうね」

 ティオレさんが隣に座って、俺が彼女を見ているのと同じように見ている

「私はもう長くないわ……それでも、彼女の希望になれたことは誇りに思うし
 この子が私を悲しませたと思って、行動してくれてるのは優しい証拠よ」
「まぁ、そうでしょうね……実質的に体力が限界というのもあるでしょうけど」
「かもしれないわ」
「彼女が困っていて、恭也が助けられるなら助けてあげなさいな……
 私だってこの子の気持ち分からなくも無いの……本当に自分が此処に居ていいかも悩んでる一瞬
 私は、コンサート前に何時も感じてた……自分のせいでたくさんの命が危険に晒されていることを
 でも、逃げてしまえば、それはそれで私がしたいことから遠のく
 だから、危険を承知でもする」
「ティオレさん」
「フィアッセがね、この子を見たかったら来たら分かるって
 あの子なりに、私の助けが必要だと感じて呼んだのよ……そして、恭也たちも助けて欲しいと頼んだ
 同じ様にね」
「ティオレさん」
「多少の違法については黙っていたらばれないわ」
「どうして、この人のためにそこまで」
「フィアッセが教えてくれたのよ……彼女は私と少し似ているって」
「悪戯好きな所が?」
「それもあるかもしれないわね……でも、もっと根本が似てるのかもしれないわ」
「意味が分かりません」
「そういうものよ」

 そうなのかもしれないが、気になる点だ
 もう泣いてなくて、眠りに落ちてる
 大丈夫だ……これだけ寝ていたら、起きないだろう
 しばらくなら

「恭也、あなたが見ててあげて……」
「分かりました」
「じゃ、よろしくね」

 ティオレさんはそのまま歩いていった
 しかし、本当に起きないな
 寝たら起きない体質なのかもしれないけど、暗殺者の眠りは少しで十分に取れるようになのか
 その点は俺らも同じか……

「今は俺がお前を護ってやる、だから、ゆっくり休んでろ」

 俺は瞼を閉じて座禅を組む
 どうせ、する事が無いなら、禅の修業でもしておくのがいいだろう
 女性が居るのが精神的な乱れになるというのも、情けない話だ
 実際驚いたのは、蛍がまだ幼い子供の女って事にもあるのだがな
 こういう面影というか、こういう一面も持っている点……
 そして、似ている……誰にとは言い辛いが……仁村知佳さんに……
 もしも、それが事実なら、彼女の能力は……脅威だった
 今はどうしようもないほど可笑しな気持ちだが……

「まさかな」

 瞼の閉じた先に彼女の笑顔が浮かぶ
 そして、蛍と被る
 ……如何しようもない事実のように感じて、如何しようも無く否定したい気持ちになる
 もし、蛍が遺伝子コピーとかではなく、人工授精で作られていたら……
 それが成功していて、こいつがそれだったなら……

「正解」
「なっ!?」

 驚いて目を開くと彼女も体は横になりながら、瞼を開いていた

「恭也の考えてるとおりだよ」
「勝手に読むな」
「仕方ないでしょ……頭なでたときにイヤリングのスイッチ切った馬鹿のせいだし」
「すみませんでした」
「変な夢まで見ちゃうし……まさか、自分の夢で仁村知佳と話すことになるなんて思わなかった」
「それはすみませんでした」
「どうせ、私はあの人と会うつもりは無いしいいけど」
「何故!?」
「姉妹みたいで会うのが怖いから」

 どう言ったらいいのか分からない

「お互いに羽で共感しちゃったりしたら、お互いの記憶が混じってごっちゃになる可能性もあるし」
「そんな可能性あるのか?」
「無いと言い切れないだけ……私と仁村知佳さんの羽はそれだけ酷似している
 見たでしょ?」
「ああ」
「リア−フィン……私を今まで護ってくれた物だよ
 体術は、ある人に教わった」
「ある人?」
「もう死んでるよ……私に奥義を見せて死んだ」
「はっ? 奥義を見せて?」
「自滅技なんだよ……奥義がね」
「奥義が自滅技?」
「そう、自滅技……そして、それを可能にするのは、己の中にある呼吸法のみ
 それでも、私は使う気はサラサラ無い」
「奥義を使えばどうなる?」
「骨という骨を全てが吹き飛ぶ
 体ごとね……爆弾より遙に危険な散弾地雷みたいなものだね」
「それを身一つでするのか」
「うん、見た感じそういうの……実践してあげたいけど、あれは奥義だよ
 究極奥義って言うくらいだし、もし、自分の後に誰か戦う人が居て、自分が命落として良いなら
 間違いなく最強の技だよ……相手に手傷を負わせられるし、毒を喰らえば、それごと倍返しだしね」
「なるほどな」

 ま、そう言う経緯があるからこその奥義だろう

「で、恭也は寝顔を見てたわけだ」
「すまん」
「ま、良いよ……どうせ見てもつまらないものでしょう」
「そう言う事はなかったが、かわいかったぞ……普段が普段だからな」

 顔を赤くして、俺を見てる

「そう言うのは好きな人に良いなよ……私なんかに言っても意味ないじゃん」
「何故?」
「可愛いとかはさ、本当に好きな人に言ってこそ価値があるんだよ
 私が可愛いなんて、そんな嘘言わなくて良いし……」
「お前、鏡は見たことあるのか?」
「あるけど……一応身だしなみは整える性質だよ」
「……マジ?」

 というか、こいつって世間一般の常識が疎いんじゃないだろうか?

「マジ……第一失礼だよ」
「何が?」
「イヤリングのスイッチ入れてないから、心の声駄々漏れ」
「……すみませんでした、触らせていただきます」
「うん、お願い……それと上着ありがと」
「ああ、構わないぞ」
「じゃあ、しばらく借りる」

 横になってるので、イヤリングのスイッチを押す
 と、何かふにっと当たる

「ひゃうっ」

 うん?
 スイッチは押したはずだけど

「押せてないのか?」
「やっ、ちょ、あっ…………」

 ああ、首筋に手が当たってるのか……それは悪いことをしたな

「ふぅ……いじめだ」
「いや、悪い……まさか、弱いとは思わなかったんだ」
「それでも、酷いよ……女性の弱いところを」
「女性って誰が?」
「私」

 ふっ

「うわっ、ひどっ……裸まで見て、陵辱したくせに」
「してないっ!! 第一、品祖な体してるくせに」
「酷いよ……これでも多少は気にしてるのに
 背もそんなに高くないし、胸もそこまで無いし……気にしてたのに
 恭也って意地悪だね」
「お前だけには言われたくない……俺を弄んで楽しいか?」
「すっごく」

 言い切りやがった……しかも、とても嬉しげな笑顔で

「大体ね、恭也はもっと女性に気遣うべきよ……しかも、何、家族だからって
 突込みが激しいって……いやまぁ、美由希さんは頑丈そうだから、大丈夫だろうけど
 突っ込みはもっと激しく無いと」
「そっちなのか?」
「そうよ!! こう、ハリセンくらい瞬時に出しなさいよ」
「いや、そんな無理なこと」
「ほら、この手の小さいのならもてるでしょ」
「持ってるほうが可笑しいが」
「私のは自作よ!」

 ドキッパリ持ってると断言しやがった
 突っ込み属性なのか?

「人に突っ込まれるために持ってるんだから」
「そっちなのか?」
「とまぁ、冗談は置いておいて……単にあったら便利だなって」
「そ、そうか」
「そうよ……でもさ、もうちょっと回りの人に気を使ってあげなよ
 恭也の事、大事に思ってるし、好きなんだよ、きっと」
「むっ、分からないでもないが……お前がそれを言っても説得力無いな
 我侭だし、馬鹿だし」
「酷いよ……我侭って、恭也の方が我侭じゃない!
 私が出た方が安全なのに、引き止めるためにって手足折ってでも捕まえるって
 しかも、本気で技出して……死ぬよ普通」
「死んでないじゃないか」
「あんなんで死ねるか!」

 どっちだよ

「第一、どこかで隠居してたら、そんなに見つからないと思ったのに
 しかも居心地良いから離れずづらいし」
「そりゃあな、皆お前が居ることを喜んでるし」
「ううっ、いじめだ」

 いじめでは無いと思うのだが

「もういいよ……恭也と話してると疲れるし
 髪の毛触ったことやイヤリングのスイッチ切ったことについては許してあげる」
「ああ、それは助かる」
「その代わり、連れてって」
「何処に?」
「居間」
「何故に!?」
「だって、目が覚めたし、体起こすのは出来るけど、あまり体力使いたくない」
「ちっ」

 舌打ちだってしたくなるもんだ
 と、お姫様抱っこだったかする

「また、これね……そんなに頬に胸の感触が欲しいの、あんまりないけど」
「だ〜、やめいっ!」
「照れて、可愛いんだ」
「離れろ」
「暴れないでよ〜、こけたら痛いんだから」
「くっ」

 くそっ、こいつ絶対、悪魔みたいな性格してるな

「ほらほら、早く運びなさいな」
「鬼か、お前は」
「鬼よ……恭也にとってはね
 あ、それとも悪魔の方が良いかしら……羽を黒く染めたらデーモンかもね」

 想像してみたら、ピッタリな気がした
 何で、こいつの羽は白いんだ? 元来は優しいって事か
 確か、羽は心の成長や心の状態によって変わるって聞いてる

「ほらほら、連れて行け〜」
「ちっ」

 しかも、抱きついてくるし……顔に当たる胸の弾力にちょっとどきどきだ
 16歳の小娘と言いながら意外と持っていると思うのは俺だけか?
 連れて行ったらまた何を言われるのやら

「ティオレさんにからかわれるな」
「女性の眠りを妨げた罪と思って諦めてね」
「本当にお前、悪魔みたいな性格してるな」
「ほっといてよ……第一、恭也だって悪魔みたいな性格じゃない」
「何処がだよ」
「全部」

 即答……このまま落とそうかな

「落としたら問答無用で、恭也捕まえて、体操ってでも私を襲ってる図を作って助け呼ぶから」
「お前なぁ」
「ま、それくらいの罰はあるよね」
「ちっ」

 言葉の達者なやつめ
 リビングの前に到着……入るのが悩むな
 と、玄関がガラッと開いて

「ただい……ま?」
「おじゃ……」
「おじゃまします」

 かあさん、忍、ノエルさんだ……多分翠屋の休憩というか夕飯だろう
 もうそんな時間なんだな……大分長い間、話していたのだろうが……

「恭也、その子誰?」
「こんな態勢ですみません……滝川蛍と言います
 ちょっと立てないくらいに疲労を感じてまして……それで、どうしても居間に用事があって」
「そうなんだ……初めまして、月村忍です」
「ノエルです」

 挨拶が終るが、何故か睨まれる
 ドアがガチャと開く

「お帰り、お母さん……わ〜、蛍さん、良いな〜」
「動けないだけなんだけどね……眠りを邪魔された腹いせにとりあえず借りだから」
「悪魔め」
「恭也、下ろしたら良いじゃない」
「そうだな」
「膝枕所望」
「まてぃ」
「桃子さんの」
「あら〜嬉しいこと言ってくれるわね〜」

 かあさんは嬉しそうに言う……準備万端なようだ
 全く、なんて親だ……

「ほら」

 蛍を下ろしてかあさんの膝に蛍の頭の乗せようとすると俺の腕をぐいっと引かれる
 え?

「ま、楽しみは此処からよね」

 自分の首筋に手を感じ、そのまま抱き寄せられる
 胸が顔にあたってる……しかも、顔面に柔らかなものが……ちょっと固いけど
 足がかられて、倒れる……そして、顔から明るくなる
 ん? かあさんの顔が見える
 そして、蛍は立っている……あれ?

「なのはちゃん、カメラ!!」
「忍さんも」
「OK」
「任せて!!」
「ノエル、映像としても全て残すのよ」

 えっと、今の状態は?

「あらあら、恭也ったら嬉しいわね〜」
「私もしてみたいわ」
「ティオレさん、それは良いですけど、彼重そうですよ」
「エリス……そんな事言う物ではないわよ
 それに、エリスもしたいんじゃないの?」
「そんな事無いですよ〜」

 ……目の前にかあさんの顔
 頭の頂点部にはかあさんの手……指が前髪をよせていく
 そして、頭の後ろには程よい柔らかな物

「ぐあっ!!」

 気づいて立ち上がる……はずだった
 ところが、胸にそっと手が触れる

「駄目」

 ソファの影から伸びる手……俺の胸に突かれてる手

「蛍、貴様!!」
「ほほほっ、お母さんに存分に甘えなさいな〜」
「お前、さっきまで演技だったな〜」
「何のことでしょう〜」
「はかったな!!」
「知りませんわ〜」
「ちぃ、なんて奴だ」

 しかも、力が結構強い
 確かに上にあがる力より、下に下がる力の方が強い
 腕と腹筋の力……ようはそれだけなのだが

「なのはちゃん、ノエルさん、撮れました?」
「ばっちりです」
「ええ、今この瞬間もばっちりと」
「じゃあ、手外すので、桃子さん、頭気をつけてね」
「ええ、ありがとうね……恭也って中々膝枕させてくれないし」
「耳掃除も今度はオプションでつけますよ」
「あら、ありがとうね」
「いえ……でも、目で悪戯しようって言われたときは驚きました」
「通じてくれたのが嬉しいわ」
「あまり動けないんですよ」
「その割りに確りと俺を抑えてるじゃないか」
「攻撃しないでね」
「ああ、その前にきっちり叱ってやる」
「……も〜、恭也もそこまで怒らないの……蛍も楽しいことを楽しんでるんだし良いじゃない
 それが恭也をからかうことなんだし、周りの皆もそのうちチャンス作ってもらえるわよ」

 ティオレさんに言われては俺たちは弱い……エリスは少し考えて

「私も混じる?」
「したいの?」
「うっ」
「正直になる方が良いよ……ライバルだらけだし」
「まぁ、したいと言えばしたいわ」
「うん、頑張ってみるよ……恭也が警戒してるけど」

 分かってるじゃないか……蛍の頼みは聞かない方が良さそうだ
 でも、聞いてしまうのは、なのはと美由希たちのど真ん中くらいの年だからか?
 警戒だってするさ……またこんなことされたら溜まったものではない

「でも、お兄ちゃんが膝枕されてるのは初めて見た……」
「なのはちゃんなら、されたい方かな?」
「蛍さんにして欲しいです」
「私?」
「うん」
「くおんも〜」

 2人してそう言って蛍さんに抱きつく
 何とかふらつく足に力を入れて、ふわりと2人を横たえさせて膝を崩して座り二人にする

「柔らかくないけど、どうぞ」
「にゃ〜」
「くぅん」

 嬉しそうにする2人……そんな2人を優しそうになでる

「姉妹って居ないから分からないけど、こういうなのかな
 なのはちゃんみたいな妹なら、も〜すっごく嬉しいよ」
「く〜ちゃんは?」
「久遠ちゃん……もちろん、嬉しいよ……だって、2人とも可愛いもん」
「くぅん♪」

 久遠も嬉しそうだ

「那美だとしてくれないし」
「そうなんだ……」

 那美さんが、少しだけ怯んだ顔をしている
 まぁ、膝枕はしたくないと思うのかもしれない
 久遠の場合、狐の耳が膝に当たってくすぐったいのかもしれないし
 耐えられない人には耐えがたいものなのだろう

「お兄ちゃんもしてくれないよ」
「そっかぁ……今度するように計画練るよ」
「蛍さん、大好き〜」

 おいおい……計画するのか?
 というか、俺をちらりと見る彼女
 なんだ、凄い寒気がする……あれの本性は絶対悪戯好きだ
 しかも、ピンポイントで俺を弄ぶのが好きなんだろう

「あの、俺も」
「あ、うちも」

 晶、レン、お前らまで俺を遊びたいのか?

「あ、私も」
「出来れば私もお願いしたいです」

 忍、ノエルさんまでもか!

「ん〜、でも、早々出来る事限られてるし……既成事実なら簡単だけど」

 フィアッセ、美由希、レン、晶、忍、那美さんの6名ががばっと寄った

「それをお願いします」
「えっと……普通既成事実で、エロエロ朴念仁鈍感男恭也が誰か好きな人が分かった時だったら」
「何で?」
「え、だって、既成事実って奪い取るための手段でしょ?」

 あ、流石に固まった……確かに既成事実とは、ある女性がある男を好きになったが
 その男が彼女持ちと妻持ちで相手にされない時に用いる手段だからな
 確かに、俺が好きな奴が居ないと意味が無いという事か
 しかし、危険な奴を家に入れたものだ

「私は波風立ちまくりで楽しいけど……士郎さん、恭也に立派な妹が出来ました
 これまでにないアグレッシブな動きと、行動派なようで、桃子さん大感激です」

 何時の間に写真を取り出したんだ?
 しかも、ティオレさんが一言

「懐かしいわね〜」
「桃子さん、私も見たい」
「そう?」
「はい」

 不破士郎の笑顔……気色悪い……というか、何時の写真だ?

「へ〜、恭也に似てる」
「そうね」
「うん、内在する強さとか……でも、剣士としての才能は如何だろうね」
「何? 蛍、何か分かったのかい?」
「いいえ、秘密……美沙斗さん、とりあえず、周り引き離して」
「ほら、美由希、月村さんらも蛍から離れる」
「でも、何か貴重なこと聞けるかもしれないし」

 貴重なこと……どんな事だ?

「ん〜、暗闇だと人を凝視する癖があって、相手がどんな姿でも、相手を凝視
 それはもう、人が恥ずかしいのを無視して凝視とか?」

 どんな癖だ?
 しかも、凝視って……そこまで見てない……つもりだ

「でも、本当に離れて……なのはちゃんと久遠ちゃんの2人が危ないし」

 ギリギリ足が全て避けてるが、確かに怖いだろう
 なのはや久遠にとっては特に……

「なのは、久遠、大丈夫か?」
「うん」
「なんとか〜」

 しかし、皆も危ないな……と、なのはの頭をなでてる

「こうしてるとほっとする……初めてなのにね」
「蛍さん」
「迷惑?」
「ううん」

 凄く優しくなでる……

「ティオレさん、今回はありがとうございます
 しかも、わざわざ来てくれるなんて」
「近くにいたからね……それに、貴女にも直接会いたかったのよ
 フィアッセが力を貸して欲しいなんて事言うし」
「ごめんね、ママ」
「良いわよ、これくらい……それにしても、本当に楽しい子ね」
「ティオレさんも恭也にしたいの?」
「まさか……私の膝はアルのよ」
「惚気られちゃった」
「うふふ……もうすぐ夕飯だし、起こしたら」
「え?」

 久遠が寝息を立てて寝てるのだ
 しかし、さすが久遠……寝るの早いな
 あんなに騒がしい中でもきっちり寝てるし
 と、彼女は久遠の耳をなでる
 なのはも起き上がって、久遠の寝顔を見る

「く〜ちゃん、おきて」
「や〜」
「起きないと」

 言葉を止めて
 小さく呟いた

「このままお鍋に入れて、狐うどんにしちゃうよ」

 がばぁっと起き上がる久遠

「くおん、うどんになるの?」
「ならないよ……そういえって恭也に言われてね」
「まてぃ、俺か!? 俺が悪いのか?」
「でも、お兄ちゃんが前言ったことあるよ」
「え?」
「ほら、前、なのはの腕の中で寝てるく〜ちゃんにそう言ったらおきるんじゃないかって」
「いや、あれは……」
「……あれは?」

 ……ど、どう言えばいいんだ!? 確かに言った事があるのは覚えてるが

「ふふっ」
「蛍、どうしたんだい」
「いえ、本当に楽しいなって」
「そういうのを分かってくると良いだろう」
「はい」

 いや、そこ楽しげに会話しないでくれ

「でも、どうしてそのこと蛍さんは知ってるの?」
「私はね、自分の能力が全力展開の時は、相手の思考をある程度まで読めるの
 過去もね……で、恭也とは戦闘が数度目で、全力で1度展開してるから……」
「じゃあ、それで、お兄ちゃんの過去を?」
「まぁ、少しだけね……ここ数年分くらいかな」

 そう言う風にして、此処の地図を手に入れたのか
 俺を元にして……言うなれば、俺を受信機の役割だ……だから、俺をいじめ易いと

「へ〜」
「私には無い力だね」
「ええ、まぁ」
「でも、それって凄く不便じゃない……全員の思考が流れてきたりしたら」
「ま、それでも対一戦闘で出したのは初めてだよ
 普段なら、数名に囲まれて逃げるために使うだけだし、全力展開も久々だったから
 そのおかげで体力使いきって、今もふらふら」
「あ、それで最初なのはちゃんたちに抱きつかれた時にふらついたんですね」
「まぁ、そう言う事」

 応えるあたり、余裕はあるが、座ったままだ

「ね、恭也」
「なんだ?」
「すっごく聞きたかったんだけど」
「だから、何?」

 ……なんだ?

「私の胸でさ、いちいち真っ赤になってたらさ
 もっと豊満な胸の人と当たった時どうするの?」

 へっ?

「ほら、忍さんや美由希さんやノエルさんはどう見ても私よりあるから
 そんな人に抱きつかれて、真っ赤になってたら、男としてどうかと思うのだけど」

 スパーンと振り切った
 自分の腕にある小さなハリセンを

「いた〜〜〜〜〜〜」

 頭を抑えつつ、俺を見る
 少し涙目であるが

「そんな本気で叩かなくても良いじゃない……だって気になったんだもん
 私は動けないからお姫様抱っこしてもらったけど
 忍さんが倒れたとして、そうなったら恥ずかしくないのかなぁって」
「恥ずかしいとかそういうのはあるかもしれないが
 忍や那美さんは友達だぞ、それに美由希は弟子だし、
 晶やレンも妹みたいなものだぞ」

 あっと言う間に静まる居間
 どうかしたのか?
 かあさんは苦笑いだし、ティオレさんも頭を抑えてる

「じゃあ、エリスさんとノエルさんは?」
「エリスは仕事仲間兼幼馴染兼親友
 ノエルは……忍の保護者で友達だな」
「エロ鈍感朴念仁キング恭也と命名します」
「勝手に命名するな!!」

 って、周り頷いてるし……なのはまで!!

「あ、落ち込んだ……でもね、幾らなんでも、此処まで鈍いとやっぱりいいたくなるって
 鈍感と朴念仁の王様だと」
「勝手に言うな!! 第一俺の何処が鈍感なんだ!?」
「女性との関係について全てに置いて」

 即答!! しかも、そのあたりに置いてって言われても

「そ、そんな事を言えば、お前だって我侭だろうが」
「むぅ、またそんな事言った〜」
「ああ、言わせて貰うぞ、この我侭馬鹿娘め!!」
「勝手に娘にしないでよ!! 滝川蛍って名前があるんだからね!!
 美沙斗さんがつけてくれた大事な名前なんだよ」
「ふっ、そんなこと知るか……お前なんて我侭馬鹿娘で十分だ!!」
「そんなこと言うから鈍感朴念仁エロキングって言われるんだよ!!」
「順番を変えるな!! しかも、誰がキングだ、誰が!?」
「恭也」
「即答するな……第一、お前だって鈍感だろうが」
「何が鈍感だよ……恭也の捻じ曲がった性格に比べたら凄くピュアだよ」
「……何処が?」
「うわっ、何その冷えた視線! 酷いよ」
「何を言うか、お前の鈍感さに比べたら遙にマシだ」
「どこがマシって言うんだよ……ほら、忍さんや那美さん、皆傷ついてへこんでるじゃない」
「何時ものことだ」
「何時もって、何時も、こんなこと言われたらへこみもするよ……恭也の方が自分の姿鏡でみてないんじゃない?」
「何を言うか……身だしなみはきちんと整えないと駄目に決ってるだろうが」
「当たり前で、毎日鏡見て、何で自覚が無いんだよ、だからこそ鈍感なんだよ」
「お前だって、毎日でないにしろ鏡見てるんだろうが
 俺を鈍感だって言うくらいなら、お前だって自覚があるんだろうな!?」
「何のよ?」
「そういうなら、言ってやろう……お前な、普通に髪の毛結んでたりしててスカートとかしてたらすごく可愛いんだぞ
 周りの男達の視線感じなかったのか?」
「それくらい感づいてるよ!! でもさ、ああいう人たち嫌いなんだし」
「ふっ、だからこそ鈍感なのだ」
「何よ!! そっちこそ、女性の視線感じてなかったの!?」
「気づいてるさ……ただ、何で見てるのかサッパリわからないがな」
「ふん、そっちの方が鈍感ね……私はちゃんと周りが何を思ってみてるか気づいてるもの」
「ほぅ……」
「第一、どうせ体とか顔目的の奴なんか私の過去知ったら逃げるんだし放置しておくしかないでしょうが」
「何を言うか!? それを言えば俺だって同じだろうが」
「じゃあ、周りの好意に気づいてる? 気づいてないでしょ?」
「俺を好きになる奴なんて、居ないだろう」
「その時点で何か間違ってるよ」
「お前こそ、そう言うんじゃないのか?」
「そりゃあ、私を好きになる変な人は居ないと思うけど……」
「その時点で俺と同類だ!!」
「すっごい敗北感」
「どうだ、参ったか」

 よし、何事も勝つ方が良い

「どっちもどっちね……どっちが鈍感かといわれたら、双方ともと私は言うわ」
「あら、私もですよ、ティオレさん」
「だってね〜、双方とも自分の魅力に気づいてないないし」
「魅力あるのに、気づいてない同士だから、こう口論がすっごく低レベルに感じる」

 酷いぞ、ティオレさん、かあさん

「ううっ、恭也と同レベルなんて嫌〜」
「……そっちなのか?」
「だって、恭也と同じレベルって事は、鈍感キングとか言うと、自分も当てはまるし」
「あ、もう1つあった……耳年魔だ」
「それを言うなら、恭也なんて老年期みたいな過ごし方じゃない」
「何を言うかと思いきや」
「散歩して、縁側で緑茶とお煎餅を持って日向ぼっこって……
 一昔前の老年期迎えたじ様そのまんまじゃない!!」
「何を!?」
「何よ!?」

 やっぱり、こいつとは気が合わない部分があるぞ
 何ていうか、元々の気質があるからか……

「恭也がああいう風に言い合うのめずらしいわね」
「そうやね」

 いや、かあさん、それはどうかと……しかも、レンは頷いてる

「恭也がじ様は置いておいて……蛍さんは何か趣味があるの?」
「しいて言うなら、買い物とかですね……
 でも、アンティーク好きです
 ランプとか、お皿とか、戸棚とか」
「へ〜、買ってなかったの?」
「見るだけだったら、ただで見れるし」
「そう」
「はい」

 こいつも十分、おばあさんっぽい気が……

「後は絵画鑑賞とか、読書とかも好きですよ
 音楽鑑賞とか……ティオレさんの歌大好きなんですよ〜」
「あらあら、ありがとうね」

 まぁ、音楽鑑賞などは芸術がすきなのかもしれないな
 読書は美由希のようなものか

「如何いう本がすきなの?」
「ん〜、最近の本とかも読んでるけど、詩集とか好きだよ」
「詩集〜〜!? お前、似合わないな」
「ほっといてよ……第一ゲーテとか知らないでしょう」
「ゲーテ?」
「昔居た詩人ですっごい綺麗な詩を残してるんだよ〜
 ふふふ、恭也、もう少し国文学勉強したら」
「くっ」
「文学部なんでしょ〜」
「あら、恭也ったら大変ね〜」

 勉強嫌いだから、試験頑張ればいけるが
 こいつは危ない……

「それに、日本だと百人一首とかも好きだよ……赴きあるし
 海外のと違って綺麗なんよね……」
「へ〜」
「ま、大学卒程度の学力ないと困ってたからね
 そのために8歳くらいで大卒並の学力手に入れてて
 後は自由課題だよ……」
「天才?」
「努力の結果だね……でないと、出来ないと
 何事もなせばなるの精神だでないとね」
「了解です」
「でも、蛍にとって名付け親は美沙斗になるわけね」
「まぁ、そうなりますね」
「美沙斗も子供持てた気分?」
「最初、凄く苦労しましたよ……バスタオル一枚で、男が居ても闊歩するし」
「よく無事だったね」
「心を読んだらいいし」
「うわっ、さすが言う事が違うね」
「ふふ」
「でもさ、この子最初は感情らしい感情は少なかったんだよ
 ティオレさんを暗殺しに行くっていってから変わったくらいだね」
「まぁ、会っては無いですよ」
「え? そうなの」
「殺しに行く途中で歌を歌うために、インスピレーションを高めてる時に屋根裏に居まして
 その、心を見てしまって……ごめんなさい」
「それくらいは構わないけど」
「それから、私は変わったというか、普段というか何時もの自分というか
 確たる自分を見つけられたんです」
「なるほどね」

 そういうわけだからこそか

「それが貴女の良い方向へと導いたなら、私は何も言わないわ……
 それに、蛍はそこから自分のしてる事が悪いことだって気づいて、考えていたのでしょう
 それだったら、もう少し回りに甘えたら良かったのよ」

 ティオレさんの言葉には何処かほっとする部分がある
 勿論、それはCSSの歌を聴いてる時にも思ったりするのだから、不思議だ
 でも、その言葉に一番救われてるのは、馬鹿娘だったのかもしれないな







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