『三日月の表情4』












〜恭也視点のまま〜

 家に到着すると、そこには家族が全員揃っていた
 まぁ、レンと晶、ノエルさんとリスティさんとフィリス先生に頼んで護衛してもらってたし
 ティオレさんとアイリーンさん、フィアッセにと勢ぞろいなのだが
 蛍が抱かれて、俺と似た人に運ばれてきたのが驚いたのだろう

「えっと、どちらさま?」
「先に蛍を運びたいんだ……寝かせてる場所まで案内を頼めないか?」
「え、あ、はい、此方になります」

 美沙斗さんが着いていくことにした
 俺が着いていくと、突っかかりそうで……路上で何度も抑えたが

「さて、恭也、先ほどの人は誰? 凄く誰かに似てるのだけど」

 かあさんがそう言って俺を見る

「俺が説明しないと駄目なのか?」
「本人に聞いて良いことと悪いことがあるでしょ」
「だが」
「それに、何処か感じたことあうような気がするのよね」

 そりゃあ、あんたの旦那だからだ
 なんて、言えない……

「蛍!!」

 遠くからそんな声が聞えた

「大丈夫だから、ごめんね、士郎くん」
「いや、俺はお前のことを」
「答えは今度にさせて、今は」
「分かってるよ」

 蛍が起きたのか?
 しかし、ムカツクな……あの士郎とかいう奴は
 父さんなのだが、同い年以下になれば、苛立ちも来る

「しろう……」

 しまった!! かあさんが何かに反応するように言葉を濁らしている

「恭也、心を読んだほうが早いのは気のせいか?」
「リスティさん、フィリス先生勘弁してください……」
「でも、誰かが説明をしないといけないでしょ」

 ティオレさんの言葉に全員が頷く
 だが、俺が説明するのは気が引ける
 と、本人たちが登場した
 美沙斗さんが、蛍を支えてる……ほっ
 って、何で安心してるんだ?

「説明は私からします……恭也さんや美由希さん、美沙斗さんは黙っていてください
 それ以上の質問は、後で伺いますから」
「蛍、そんな無理しなくても」
「でも、信頼してもらわないと、いけないの……
 香港警防隊、警察関係、医療関係の3つが揃ってるのだから」
「分かった……でも、蛍が無理するなら、気絶させてでも、休ませるからね」
「ありがと」

 やはり、むかつく……何ていうか、こうなんで俺に相談されないとかか?
 俺に言うのを止められたからか

「此処に居る人は、不破士郎の遺伝子コピー……
 龍が数年前に成功させた不破士郎の18歳当時の姿」
「じゃあ、士郎さんなの?」
「桃子さん、少し待って」
「ごめんなさい、感極まってしまって」
「いえ、言葉は分からないでも無いですけど、落ち着いて聞いてくださいね」
「ええ」

 蛍は、ふぅと呼吸を整える
 誰も何も言わない

「不破士郎のコピーである士郎くんは、暗殺者として育てられたんです
 戦闘経験のみを移譲されて……だから、本来の記憶
 桃子さんの事や、他の人の記憶も一切合財封印されてました」
「封印?」
「遺伝子の記憶を消すことは不可能でしたから」
「なるほどね……それで、それを封印していたのか」

 リスティさんがそう言って、頷いてる……蛍は少し瞼を閉じて

「そして、先ほど、士郎くんがその、私を追いかけて、もう1度龍に戻すとか
 その、一緒に居て欲しいとかで戦闘になってしまい、元々二日ほど寝ていたのですけど
 その前に、弟子1人取って、それで」
「弟子?」
「恭也」
「ああ」

 美沙斗さんが納得

「弟子って、師匠の師匠が蛍さん!!」
「すげ〜」

 何処か違う事で褒められた気分なんだろう、凄く不可思議な顔をしている

「話続けますね……それで、その記憶は先ほど思い出してもらいました
 不破士郎としてではなく、高町士郎としての記憶を……」
「じゃあ、士郎さんなの?」
「厳密には違う……俺は、その高町士郎でもあるが
 その後に付け足された年月もあるし、新たに生まれ変わったといったほうが正しい」

 ……そういうことか……だから、別個人であると

「えっと、お父さんじゃないってコト?」
「ああ、悪いな」
「ううん、でも、お兄ちゃんそっくり」
「そうか? 俺、あそこまでお爺ちゃん趣味してないぞ」
「ふっ、全国食べ歩きの旅で金を全て無くした父さんに何がわかる
 その後、俺は夜の街をさまよい歩いたんだぞ」
「あ〜、そのとき、俺は博多ラーメン食べてたな」

 ムカツクというか、イライラする
 間違いなく、俺の目の前に居るの敵だ

「ちょ、恭也も士郎も落ち着いて」
「むっ」
「うっ」

 蛍に言われたら仕方ないか

「お兄ちゃんたちって」

 なのは、何でそこで考え込んでるんだ?

「えっと、言う事は士郎さんとの記憶はあるけど、士郎さんがよみがえったというわけじゃないのね」
「ああ、桃子にとっては悪いことかもしれないけど、そう言うことだ」
「……そう……ありがとう、はっきり言ってくれて助かったわ
 だって、もしそうなら、諦めきれないじゃない」

 かあさんがなにやらニコリと笑って言っている
 なんだろう、怖い事言われそうだ

「そうね、桃子にとっては、そちらの方が良いかもね」
「そうなんですよ、ティオレさん」

 だから、何なんだ?

「ううっ、恭ちゃんが取られた」
「恭也ってなのはに甘かったもんね」
「まさか、師匠がああだったなんて」
「遺伝子を見てしまった気がするわ」

 だから、何でそこまで言われるんだ?
 というか、俺が全て悪いみたいじゃないか……

「それに……うふふふ」
「そうね……これは楽しくなりそうな予感ね」

 かあさんとティオレさんが怖い

「お二方とも、あまりご無理は」
「分かってるわよ、美沙斗さん」
「そうよ、美沙斗……楽しまないと、こう言う事は」

 ……どう言う事ですか?
 聞けない俺をにこやかに見る

「お兄ちゃんと士郎お兄ちゃんは蛍さんの事を好きなんだね」

 なのはがまっすぐに言ってくれる……えっと、ちょっと待て
 俺が蛍を好きだってか

「なのは、俺はあんなちんくしゃ嫌いでは無いが、好きでもないぞ」
「……ちんくしゃって、そりゃあ、小さいけど……」
「第一、俺と蛍とじゃあ、似合わないだろうが、俺が」
「お似合いだと思うけど」
「兄妹に見えてな」
「ま、その辺りは頷くけど」

 ……蛍もなにやら横に聞いていて頷いてる
 あれ? 父さんは?

「蛍はちんくしゃなんかじゃないぞ!! この、スケコマシ!!」

 頭からスパーンって音が鳴った後、痛かった

「何をする!?」
「はっ、見る目の無いクソガキにお仕置きだ!」
「何を!! そっちの方が年下のくせに」
「そうだな……だが、思い出したら、経験はお前より年上だ!!
 このクソガキ」
「はっ、どっちがクソガキだ……大人になってもほとんど変化無かったくせに
 甘い物好きで、人を困らせることばかりしてたくせに
 どれだけ俺が苦労したか」
「はん、所詮記憶は受け継いでもお前の苦労なんて微塵も知らんね」
「良いだろう!」
「あ、なんだ……やろうってのか、良いぞ、表でろ!!」
「ああ!!」

 俺たちから闘うための力が湧きあがる
 やっぱり目の前に似てる奴が居るのはむかつきを覚えるし
 今の間にどっちが上か下かを決めておく必要がある
 と、カタッと音が立つ

「いい加減にしなさい……これ以上、二人が暴れるなら」

 蛍の声なのだが

「暴れるなら?」

 楽しげに忍が聞いてる

「私が相手になって、二人の主導権を握るわよ」
「……ごめんなさい」
「ふっ、所詮女に弱いだけの奴だったな」

 俺が勝ち誇ったように言うと

「恭也、それ以上言うなら、鍛錬しないから」
「すみませんでした」

 平謝りしてました

「すみません、話の途中で折れてしまって」
「いやいや、楽しいことを見せてもらったし」
「そうそう」

 くそっ、師匠って柄じゃないのに、何でああいう時だけ最強なんだろうか

「それで、士郎くんも此処に置いて欲しいんです
 後、私と士郎くんとで、龍には手出しさせません!! 絶対に守りますから」
「ほぅ、それは香港警防隊としても手伝って欲しいのだけど」
「それは難しいです……此処を離れてる間に誰か来たら怖いですし」
「そうだな……それに、美沙斗、お前も分かってるだろう
 龍の中にあった、二つの名を持っている1人を」
「ああ……『双龍』だよね」
「ええ」

 ……双龍って……1人で任務を終らせるもう1人の暗殺者
 龍直属で言えば、キリングドールとも名を張れる1人じゃないか
 知らなかったな……名前程度なら聞いてたが、まさか、父さんのコピーとは

「しかし、18歳の兄さんが、ロリコンだったとわね……夏織さんを思い出すね」
「夏織さん?」
「ああ、まぁ、兄さんは元々ロリコンの毛があったし、蛍さんを大事に思うのも分からないでも無いね」

 ……ああ、かあさんのこともあるし、それはそれで頷くけど
 夏織さんって俺の実の母親だよな

「夏織さんは15歳で身ごもってね、体は強くない人で、子供を生んだら、すぐさま失踪
 そして、その後死んだらしいんだ……ま、一時だけ二人で居させてって事だったし、仕方ないんだろうね
 にいさんは探しに出てて、どうなったのか知らないけど」
「会ったぞ、夏織と二人で子供の居る生活を」
「高校を休んでね……」
「あはは〜」

 父さん、笑って誤魔化すな……

「ま、その頃から、父さんが小さい子好きだったと」
「多分ね……遺伝子を幾らコピーしようとも、嗜好は変わらなかったんだろうね」
「……それはそれでなんか傷つきますよ」

 蛍はそのままへこたれる

「ま、恭也にもその毛はあったから、納得ね」
「はっ?」
「だって、恭也って綺麗な人より可愛い人の方が好きそうだし」
「……えっと」
「確かに恭ちゃんって、なのはには甘い」
「でも、お兄ちゃんって意地悪だよ」
「恭也、お前、なのはに手を出そうと……ロリペド野郎だったのか?」
「いや、勝手にそう言うな!!」
「はっ、これだからロリペドは危ない
 なのはも近づいたら駄目だよ」
「えっと、う、うん、気をつけます」
「勝手になのはに変なこと言うのは辞めてもらおうか」
「はんっ、まだ○貞のクソガキに負けれるか!」
「お前だって同じだろうが」
「記憶では終ってるんだがな……」
「はんっ、それでも、同じだ」

 お互いにらみ合う
 周りは楽しそうに見ている……やはり、これは父さんそっくりだ
 会いたくないか会いたいでは悩むけど

「お二方とも引かないですね」
「本当や」

 レンと晶の声が聞えるが、無視

「楽しいわね、桃子、美沙斗」
「そうですね〜」
「あはは……誰かどうにかしないと……」

 3人の声が聞えるが無視
 那美さん、美由希、フィアッセ、忍たちはアイリーンさんとフィリス先生、リスティさんにより慰められてるし

「いい加減にしなさい!! 下らないことでぶちぶちと!!
 もしも、これ以上変なこというなら、なのはちゃんの教育によくないんだよ!!
 分かってるの、二人とも!! どっちが子供か分からないじゃない!!」

 何気になのはの耳を塞いで言うあたり、さすがというか何と言うか
 なのはが不思議そうな顔して、蛍と俺たちを見比べる

「それとも、焦げたいのかしら?
 私だって無理したら、使えるのだけど」
「ごめんなさい、でも、こっちが突っかかってくるから」
「士郎くんも大人な対応くらいとってよ……確かに恭也は失礼で、言葉足らずで鈍感で朴念仁だけど
 それでも、士郎くんの方が確りと言えるでしょう
 何で苛立つのかは分かるけど」
「ううっ、すまない、蛍……そうだよな、俺の方が精神的には大人なんだから、俺が確りとしないとな」
「そうそう……恭也も何か要らないこと言う前に、少しは師匠として私を敬いなさい
 もしも、私が短気で、傷つき易いなら、恭也を即破門にしてるよ」
「すみませんでした」
「宜しい……全く、何でこう二人は血の気があるの?
 すぐに言い争うし」
「いや、あのな、蛍」
「蛍さんも鈍いから」
「えっと、なのはちゃん?」

 ……なのはに言われて、どういうものか悩んでる蛍
 さすが、なのは……我が家、最強の常識の砦

「お兄ちゃんと同じくらい蛍さんも鈍いよ」
「ええ〜〜〜〜〜!!! 私、あそこまで酷くないよ
 第一、あんなお爺ちゃんの趣味じゃないし」
「でも、蛍の趣味ってアンティーク眺めと花育てることだろ」
「そうだったなぁ、前はなんかネジ巻きの時計を見てたし、花は俺と一緒の時でも育ててたな」
「そう言う事じゃないのだけど……第一、周りの人の気持ちに鈍すぎ」
「なのはちゃん、それは無いよ……だって、恭也は、他人の好意に対して鈍いし
 私はあんなに酷くないって」

 笑いながら言うが

「無茶苦茶鈍いと思います……お兄ちゃんたちも苦労しそう」
「なのはちゃん、分かってくれるか!」

 父さんがそう言って、頷いてる
 いや、何でそこで頷くのか、俺も分からないでも無いが

「士郎くん、そんな風に思ってたんだ」
「いや、だが、お前鈍いぞ」
「確かに、蛍は鈍いところが」
「美沙斗さんまで、私は鋭いつもりですよ……第一鈍いっていうなら、恭也の方が遙に鈍いじゃないですか
 あんなに慕われてて、分からないなんて、心が可笑しいんじゃないかって程に」

 それはそれで酷い言われようだ
 先ほど怒られたばかりなので、言わないように心掛けるが、ぐさっと来たぞ、ぐさっと

「まぁ、蛍ちゃんの言う事もあながち間違いじゃないわね」
「でしょ〜、私なんて」
「でも、蛍ちゃんが言うのも可笑しな話よね」
「だから、どうしてですか!? 私は鋭い方ですよ」
「じゃあ、恭也と士郎が如何思ってるか言ってみて」
「二人とも私を家族みたいに思ってるじゃないんですか?」

 全員が一致して、苦笑い……俺もそのうちの1人だ
 いや、流石にそれは……先ほどの戦いは何処へ?

「あれ?」

 首をかしげても駄目な気がする

「これはこれで、蛍ちゃんはお姫様ね」
「え、え、何で?」
「だって、ね〜」
「そうね……」
「あだ名は決りだね……姫だね」
「いや、あだ名云々の前に、何で、皆さん苦笑いな上に、ふぅ〜やれやれだぜって」
「いや、此処まで鈍感なのは、女性でははじめてだよ」
「士郎さんも苦労してるんですね」
「そりゃあ、頑張ってるんだけど、こちらには全然だよ」
「可愛そうな気がしてきました」
「父さんも大変だな」
「お前にだけは言われたくない」

 いや、何で俺?

「確かに恭也に言われたら、私たちが報われないわ」
「何で俺が持ち上がるんだ? 確かに俺の話題も多少はあったが」
「まぁ、それでも、恭也がそれを言ったら駄目よ……あなたたちは似た者だもの」
「かあさん、それ、全然納得いかないぞ
 俺は、あそこまで酷くない!!」

 キッパリと言い放つ……と、忍や那美さん、美由希、フィアッセ、フィリス先生がため息をついた
 しかも、リスティさんやアイリーンさんが爆笑
 かあさんやレン、晶は苦笑い……ティオレさんと美沙斗さんはなにやら二人して会話
 なのはと父さんと蛍は……

「あんなこと言ってるよ」
「もう、良いよ……なのはちゃん、士郎くんのこと嫌い?」
「前のお兄ちゃんの明るいバージョン?」
「まぁ、あんな、じじぃ趣味は持ってないな」
「そうだね……士郎くんはお洒落さんだから、お洋服とか買うの好きだもんね」
「ああ」
「私の服のいくつかも、士郎くんが買ってくれたんだよ」
「へ〜」

 頷いてるなのは……いや、何か俺が悪いことしたのか?

「蛍お姉ちゃんって呼んで良い? 士郎お兄ちゃんとも」
「良いわよ」
「良いぞ……なのはちゃんはいい子だね」
「えへへ〜」

 いや、そこ暗殺者二人に囲まれて笑顔で居られるなのはは強い子だな
 まぁ、それでも、なのはの強さなんだろうが

「桃子、部屋は如何するの?」
「そうね……恭也と士郎さんが一緒に寝てもらうしか」
「……」
「……」

 俺と父さんがにらみ合う

「士郎、恭也、お互いに何か変なことしたら……私がお仕置きしますから」
「あら、蛍ちゃんったら、優しいわね〜」
「違います……弟子と親友が何か変なことしたら、注意するのが師匠と親友の務めですから」
「ありがとうね」
「いえ……分かってるわね、二人とも
 それに、私は二人の争いなんて見たくないの……それくらい分かってよ」
「はい」
「ああ」

 蛍は、俺ら二人を見て、言う
 その言葉には、つらそうな響きがあった
 それは、俺らに争って欲しくないという思いが







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