不破恭也こと、高町恭也の朝は早い。

 

御神真刀流の継承者である恭也は、義妹である美由希と一緒に朝稽古をするため薄暮の時間から起床し、出かける。昏睡状態から奇跡的に回復した師範であり、父でもある高町士郎は軽い修行ならば付き合うが本格的な修行は引退してからしなくなっているため、二人だけで行っている。

 

代わりに恭也は、士郎から師範の座を譲られている。

 

 

 

 

 

 

ガパァン!!

 

 

 

 

 

 

「あっ・・・・!!」

 

 

動きの邪魔にならないよう長い髪をおさげにしている少女―――高町美由希は、小さく声を上げて微動だにできなくなる。

 

 

「止まるな、莫迦者」

 

「あうっ・・・・」

 

 

張り詰めた雰囲気を意識的に解いた恭也は、容赦なく美由希の頭へ拳骨を落とす。

 

 

限りなく“奥義之歩法・神速”に近づいた美由希の踏み込み。事前の動作で勘付いた恭也は姿を捉えずに攻撃手段である小太刀を―――模した木刀を、自分の木刀で叩き折った。

 

 

「あれほど動きを止めるなと言っただろう。お前には俺ほどの膂力も耐久力もない。速度が命のお前が動きを止めることは死に繋がる」

 

 

御神真刀流の基本三形の一つ“徹”の浸透性のある衝撃に、美由希の腕は完全に痺れて動かない。更に瞬間的な衝撃に神経系が混乱して脚部が言うことを聞いてくれない。

これが本当に“徹”を究めた御神の剣士。浸透性のある斬撃を自在に操り、神経系すら麻痺させる。

 

 

「速度を活かしての突進も悪くはないが、まだ先の見通しが甘い」

 

「・・・・・はい」

 

 

しょんぼりする美由希。

これまでの恭也はここまで本気の“徹”を打ったことはなかったから見通しが甘いと言われればそこまで。

 

 

 

「―――だが、速度そのものは良かったぞ。もうすぐ“神速”の領域に到達しても良いだろう」

 

「え!?本当、恭ちゃん!?」

 

「・・・今は師範と呼べ。教えてどうなるものでもないが、何と無くコツは掴めているはずだ」

 

 

前半を華麗に無視して、後半だけを聞いた美由希は次のステップに浮かれて負けたことなど頭の中から消し飛んでいる。

 

恭也は少し浮かれ気味の美由希に呆れながらも、偶には良いかと許すことにする。

御神真刀流の“奥義之歩法・神速”は意識の深化と同時に身体能力のリミッターも外すため、身体が十分に出来上がっていない状態で使うと自滅することになる。だから恭也は自分がそうしてきたように、美由希に課す基礎トレーニングを綿密に作り上げて、“神速”に耐えられる身体に仕上げてきた。

 

恭也はひょんなことから幼少の頃に“神速”へ到達できたが、一度使っただけで倒れて起き上がれないほどの疲労と肉体の損傷に苦しんだ。

 

 

 

「・・・・あまり浮かれるな、怪我をするぞ」

 

 

踊りだしてしまう――――既に小躍りしている美由希へ流石に釘を刺しておく。

 

 

「だって、だって、だって!!“神速”だよ、“神速”!!私、もうすぐ“神速”を使えるんだってよお母さん!!」

 

 

「ああ、見ていたよ・・・頑張ったね」

 

 

日が落ちて真っ暗な茂みの中から、足音も立てずに美沙斗は抜け出るように現れた。

その顔には娘の成長を喜び、綻んでいる。

 

 

御神の剣士にとって“神速”は奥儀という枠を超えた特別な意味を持つ。

“神速”を使えて初めて、一人前の御神の剣士になることが許される。

そして、“神速”こそが御神の剣士の証であり、奥義之極に達する足がかりとなる。

 

美由希は、御神の剣士となることが約束された。憧れた存在に。

 

 

 

恭也は浮かれ続ける美由希へ何も言わずタオルを投げつける。

 

 

「ぶっ!?」

 

「何時までも浮れていないで汗を拭いてクールダウンを始めろ」

 

 

表情筋をピクリとも動かさない仏頂面の見本のような恭也は、すでにクールダウンを始めている。そのついでに戦闘の際に使った鋼糸や飛針、小刀を拾い集めることも忘れない。

 

 

「もう!少しくらい喜びに浸らせてくれても良いじゃないっ!」

 

 

 

ぶつぶつと恭也への愚痴を零しながらも美由希は言われた通りクールダウンを始める。

 

 

 

美沙斗は二人のやり取りに目を細めて、それと分からない程度に微笑む。

 

 

愛娘の確かな成長は、それが剣士としての道であっても嬉しくないはずがない。

剣士としてだけではなく一人の人間―――女としても美由希の成長は日々実感できている。

 

かつて夫だった静馬が願った、剣士としても女としても立派にしてみせるという願いは結実しつつある。

 

 

だから―――高町家には、特に恭也への感謝の念は尽きない。

 

士郎が昏睡状態へ陥ってから、美由希や生まれたばかりのなのはの面倒を見て、義母となった桃子の負担を減らすために、生まれて初めて手にいれられるはずだった子供時代を捨てた恭也。

 

十一歳から失踪するまでの七年間。士郎が昏睡状態から目覚めてから社会復帰するまで自分を捨てて家族を護り続けた。

士郎が命がけで守り通したことを見て約束どおりに御神の剣士を志した美由希を一から鍛えたのも恭也。美由希が御神真刀流を始めたのは九歳。物心つく前から剣士だった恭也や美沙斗に比べれば遅過ぎる。

 

御神の伝承のほとんどは滅亡と共に失われ、奥義を極めた士郎も美沙斗もいないにも関わらず、恭也は美由希を一人前に鍛え上げた。

それでいて美由希の心にはどこも曲がったところが見当たらない。天然で、ドジで、料理が殺人的に下手であるという欠点はあるがそれも魅力の一つと言えるほど、美由希は真っ直ぐに育った。

 

物心つく前に親戚一同と父親を失い、母親に捨てられ、挙句に義父となった伯父まで一時いなくなるという環境で真っ直ぐに育てたのは奇跡としか言いようがない。

 

 

 

一つだけ気がかりなのは、恭也はそのために自分の感情を殺すことに慣れすぎたために、愛弟子の成長にすら素直に喜びを出さない。弟子の慢心を戒め、体を気遣うという師匠の役目を確実に果たすため。

 

 

 

「もっと、素直になって良いじゃないかな・・・・・」

 

「何か言った、お母さん?」

 

 

聞こえないと思っていた独り言を美由希に聞かれて少し驚いたが、美沙斗は何でもないと首を横にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰った恭也は、シャワーを美由希に譲り、その間に縁側で今日使った道具の手入れを始める。

 

練習用とは言え殺す気で戦っている以上、道具の不備で死ぬことも有り得る。

手入れを欠かさず、木刀の内部に小さな亀裂があっても見逃さないように感触を確かめる。

 

 

美沙斗は感心しているが、キッチンで桃子とイチャイチャしながら朝食を作っている士郎などは、その真面目さに「本当に俺の子か?」などと呆れている。

昔々に折れた木刀で危うく失明させかけたことなど記憶に残ってない。その木刀をチェックして太鼓判を押したことなど言わずもがな。

 

 

チェックを終えた頃にちょうど美由希がシャワーから上がり、代わりに入る。

 

 

 

 

「あ、恭也。ご飯だからなのはを起こしてきてくれる?」

 

 

シャワーから上がり、大学があるため部屋着の甚平ではなく黒で統一されたシャツとズボンの恭也に、桃子が言う。

 

実年齢も若いが、見た目はもっと若々しい桃子。

未だに士郎と新婚ラブラブ風味だが、一応ちゃんと母親であることを忘れていない。

その場のノリと勢いだけで士郎のプロポーズを受けたあの悪夢のような光景だけは恭也の記憶の底に封印してある。

 

 

「わかった」

 

 

軽く頷いてから、なのはの部屋へ向かう。

 

 

大学へ入学したばかりの恭也と同じで、妹のなのはは今年で小学校三年生になる。十一歳も年が離れているのは、なのはが桃子と士郎の娘で異母兄妹だから。

不思議なことに、朝の鍛錬のために早起きが身についた恭也や美由希に美沙斗、洋菓子店の職人と経営者である桃子と士郎は朝に強いが、なのはだけが早起きを苦手としている。

 

 

 

―――コンコン

 

 

 

ドアをノックするが、返事はない。呼びかけても返事はない。

多少寝起きが良ければこれで起きてくれるのだが。

 

 

仕方なく、不承不承という感じで恭也はドアを開けて中に入る。

 

 

可愛らしい内装の―――半ば桃子の趣味―――なのはの部屋は同年代の子供よりも、ハイテク家電やAV機器が多い。

 

 

「なのは、起きるんだ」

 

「ん・・・・・」

 

 

呼びかけて反応はするが、起きる気配はない。

 

 

「なのは、早く起きないと朝食が冷めるぞ」

 

 

これが美由希なら超でこぴんの一発でも打ち込むところだが、優しく揺する。

 

 

「うにゃ〜〜・・・・・起きる〜〜〜・・・・」

 

 

起きてベッドから降りたは良いが、まだ覚醒しきっていないなのはは体を左に、右に揺れている

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

なのはは寝間着から着替えるから部屋の外に出るべきなのだろうが、恭也は心配で動けない。

士郎はその昔、立ったまま寝るという秘技を披露した。まさかとは思うが、なのはがそれをやることはないだろうが、こけて頭をぶつけるかもしれない。

 

心配なのだ。

それも非常に。

 

それでも「まぁ大丈夫だろう」と自分に言い聞かせて部屋の外に出る。

 

 

 

 

 

 

それが失敗だと気付いたのは「はにゃ〜」っと大声を出したなのはが、恭也と美沙斗以外いなくなってしまったダイニングに下りてきてからだった。

 

 

朝の講義がない恭也は残っている。士郎と桃子が経営する洋菓子・喫茶「翠屋」へ行ってしまった。美由希は日直なので早めに学校へ行った。一年前に裏の仕事から手を引いた美沙斗は知り合いの仕事を請ける以外は、高町家に居る。

 

本当は、使用していた麻薬「竜香湯」を抜くための治療中だが、なのはや美由希には教えられていないので二人は知らない。

 

 

 

「うぅ〜〜、ごめんなさい・・・・」

 

「ふぅっ・・・・・・次からは気をつけるんだぞ」

 

「うん・・・・」

 

 

恥ずかしいやら、情けないやら、あまり時間がないやらいろいろ大変な状況のなのはに、美沙斗は小さく笑い声を漏らす。それが更に追い討ちをかける。

 

穴があったら入りたいというのは、こういう時を言うのだろう。

 

 

恭也が暖めなおしてくれた朝食を一心不乱に食べて、恥ずかしさを誤魔化す。

 

 

恭也が部屋を出た後、着替えたままの姿勢でなのはは二度寝してしまった。流石に立ったままではなく座ったままだが。フェレットのユーノがテシテシと叩いて起こしてくれるまで。

 

 

「最近起きるのが辛そうだが、遅くまで起きて何かしているのか?」

 

「え!?あわっ!?あわわわっ!!?」

 

 

思わず落とした塩鮭が飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。

彼方まで飛んでいきそうな切り身を簡単に指で挟んだ恭也は、ぱくりと食べてしまう。

 

 

「慌てて食べては駄目だ」

 

「・・・・それを食べる恭也もどうかと思うが」

 

「・・・・指で挟んでしまったので」

 

 

反射神経が良すぎるのも問題。

 

 

「それで、まさか遊んで夜更かしをしているとも思えないが・・・・」

 

 

割りと直前のことを誤魔化しつつ恭也は言う。

 

 

「えーっと・・・・・・」

 

 

顔が引き攣りそうになるのが自分でも分かる。

それをバレないよう祈りながら勤めて平静さを装う。兄の異常な鋭さが恨めしくなる。

 

だが、今はそんなことを考えてばかりいられない。

如何にして答えを返すのか。

 

 

恭也は家族や周囲の人間から常々、なのはに対して“甘い”と言われる。

だが、決してただ“甘い”わけではない。

兄であり、父親役でもあった恭也は忙しい桃子に代わって、躾に関して厳しい態度で臨んでいた。

 

礼儀やマナーに始まり、着替えや歯磨き、家の手伝いに至るまで現代のお父さんに見習わせたいほどの教育兄ぶりを発揮していた。

 

 

中々答えないなのはに、恭也は傍目には分からない変化で少し厳しい表情になる。

 

 

「夜更かしするのは感心できない。それが「できるだけ家族で一緒にご飯を食べる」という約束に反するなら尚更だ。何か理由があるなら、夜更かしするなとは言わないが」

 

「えっと・・・・その・・・・・」

 

 

言える理由ならとっくに言っている。

なのはの横ではユーノが何かに焦っているかのように忙しなく動いている。

 

 

「恭也、このままだとなのはちゃんが遅刻してしまうよ」

 

「むっ・・・・」

 

 

美沙斗に言われて時計を見ると、時間が少々厳しくなっていた。

遅刻ギリギリというわけではないが、余裕のない行動をさせるわけにはいかない。

 

 

「今日はここまでにしておくが、ちゃんと考えておくように」

 

「・・・・・・・はい」

 

 

きつく叱られたわけでもないのにしょんぼりしてしまったなのはは、食器を片付け、自分の部屋に鞄を取りに行く。

 

その後姿を複雑な―――ようには全く見えないが―――心持で見送った恭也は、何時の間にか美沙斗が淹れてくれていた緑茶に礼を述べつつ手を伸ばす。

一口、緑茶を飲むその様子はとても二十歳の青年には見えないほど似合っている。

 

 

「行ってきます!」

 

 

玄関から、いつもより少し元気のない声が届く。

 

 

「いってらっしゃい」

 

「気をつけるんだぞ」

 

 

二人の声に見送られるようにして、なのはのパタパタという足音が少しずつ遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、美沙斗さん」

 

 

湯呑みをテーブルに置いた恭也はそう切り出した。

 

 

「いや、気にしなくてもいいよ」

 

 

美沙斗はくすぐったそうに肩を竦める。

 

 

「けれど、どうするんだい?」

 

「解かりません・・・・聞けば答えるようなことを隠し立てするような子ではないと思っていましたが、あそこまで黙られるとお手上げです」

 

「・・・・あの年で深夜の無断徘徊だからね」

 

 

人の気配がぐっと減った家の中で、二人とも難しい顔をつき合わせる。

 

実のところ二人はなのはが夜更かししてやっていることを、深夜の無断外出と知っている。

互いに裏社会に身を置いたことがあるため、寝ていても人の気配には敏感に反応する。

“閃”にこそ到達していないが御神の剣士として限りなく完成された者にとって、誰の気配で大体何をしているかまで察することは難しくない。

 

 

「兄さんは・・・・」

 

「気付いているとは思いますけど・・・・ああいう人ですから」

 

「・・・・だね」

 

 

物心ついたばかりの子供を平気で一ヶ月も樹海に放置するような父だ。

楽観的というか、何と言うか、一緒にいて楽しくはあるがあまり父親には向いていない。

 

だからと言って、全部自分に丸投げするなと思うのだが。

 

 

「理由もなくそんなことをする子でもないし・・・・」

 

「かと言って、理由があろうとも中々許されることでもありません」

 

 

なのはは今年でやっと九歳。

贔屓目に見なくても可愛いのは、きっと桃子の遺伝子だろう。

 

可愛いということはさて置くとしても、深夜ともなれば犯罪に巻き込まれる可能性が非常に高い。

 

 

「解からないのは、そんな時間に外出してまでなのはちゃんが何をしているのかだけど」

 

「あの様子から見て、悪事を働いているようには見えないのが救いですが・・・今度、直接確かめてみようかと思います」

 

恭也は、大体の予想がついていることは黙っておくことにした。

 

「それが良いね・・・しかし、っと・・・」

 

 

―――本当の父親みたいだね

 

 

そう言おうとして、美沙斗は慌てて口を噤む。

 

自ら望んだこととは言え、恭也は本当に父親役を果たしてきたのだ。

そのことを冗談という形で言うのは、美沙斗は躊躇われた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、いや・・・・な、何でもないよ」

 

 

我ながら苦しいなと思いながら、美沙斗は苦笑を浮かべる。

納得はしていないがあえて追及しようとせず、そうですかと恭也は答えた。

 

何気ない恭也のその態度に、美沙斗は表情ではなく心に苦味が走った。

恭也のおかげで自分は美由希とやり直せる機会を得た。

だが―――恭也の得るはずだった子供時代を奪ったのは、大人である自分。そのことで何か言う資格があるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れ始めた頃、最後の講義を終えた恭也は今日も実りのある講義だったと反芻しながら歩いている。

七割がた講義を寝ていても、講義中に起きているだけで中学時代からの友人である赤星などは驚くものだ。

 

第一志望だったスポーツ科学部に合格はしたが、よくよく考えると恭也はその学部ですることがない。

美由希を鍛えるために徹底して近代トレーニングを学んだ恭也にとって今更なことが多すぎる。

ならばと鉛筆を転がして決まった先は文系の政治学部。これが意外に面白い。

 

 

元々、大学は将来の選択肢の中で弱い候補だったから仕方ないのかもしれない。

 

 

高校を出席日数が本当にギリギリの状態で卒業した頃、進路は主に二つあった。

「翠屋」の二代目になるための修行。食べる方は駄目だが、作る方は店の手伝いで慣れていたのでこれを機にパティシェを目指すのも悪くないと考えていた。それができずとも、経営者になることも考えていた。

 

もう一つは、イギリスの幼馴染であるエリスから誘われていた、彼女の経営するセキュリティーサービスの名門マクガーレン社に就職すること。これだと姉的存在で今は「光の歌姫」と謳われるフィアッセの護衛ができるようになる。

 

 

前者は海鳴で生活できるが、後者は家族と離れることになる。

家族を護ることを優先したい恭也にとってより夢に近い後者を選ぶのも難しい。

 

そんな進路に悩む恭也に、桃子は無理に決めずモラトリアムとして大学へ進学することを勧め、今こうして恭也は大学に通っている。

 

 

友達の忍は意外にも真面目に通っているが、将来は家の寿司屋を継ぐつもりらしい赤星は恭也と同じで父親の勧めでモラトリアムをしている。

さっきまで講義は一緒だったのだが、向こうはこれから剣道部の練習があるらしく別れた。高校剣道界トップクラスの赤星の入部で俄然盛り上がっているらしい。

 

 

 

 

 

家に帰ろうとして正門まで来ると、妙に雰囲気が騒々しかった。

通常の講義は全て終わっているので帰宅する生徒が多いはずだが、それにしても。

 

何事かと多少気にしつつ、自分には関係ないだろうと正門を抜けたところで、

 

 

 

「やっと来たな、恭也」

 

 

名前を呼ばれた。

一瞬、同じ名前の別人のことかと思ったが何者かの視線が無遠慮に向けられている。

 

何より、その声には聞き覚えがあった

 

 

振り返ったその先には、

 

 

「探したぞ」

 

 

GTカーに寄りかかりながら、右目の虹彩の色が金色の少年が軽く手を振っていた。

 

 

 

「カーマイン・・・・・」

 

「話がある、付き合ってくれるよな?」

 

 

有無を言わせない含みを持たせて、金色の瞳の青年―――カーマイン=フォルスマイヤーは薄く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









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