高町恭也は失踪する年に、完膚なき敗北を喫した。

当時の恭也は自身へ課した鍛錬で基礎を固め、奥儀六芸を修め、神速の領域に踏み込んでいた。

多少の困難は付き纏うが日常生活を送れるようになっていた士郎の指導もあった。

無論、己が最強であるとも、完成されているとも思っていなかった。何かを護るべき戦いでもなかった。

それでも恭也は自らの強さに疑問を抱かずにはいられなかった。

相手は八岐融。永全不動よりも歴史の古い八京門の次期当主。

剣士を人間ではなく殺すための兵器―――否、存在を“殺”の具現化にまで高めようとした一族。

御神流の対極を成す流派。

刀とは呼べない超重量の大太刀を小枝のように振るう異形で、異常な強さ。

二段神速からの薙旋という恭也の十八番を、二段神速の中でさえ速度を変えない超神速斬撃で打破した。

異形であっても、異常であっても強さは強さに変わりない。

その在り方は恭也の考えを根底から覆しそうになった。

護り、排撃する御神にとって彼らこそが最大の悪夢。死の具現とも言えるそれを、排撃する力がない。

純度を高めた彼らに対抗するためにはこちらも純度を上げるしかない。

しかし、純度を高め続ければ自らを死の具現にしてしまい、御神の理念から外れる。

二段神速を超えた超神速斬撃―――それが恭也の目に焼きついていた。

この超神速斬撃を知らなければ悩むことなかった。けれども、知ってしまった。

剣士の性だったのかもしれない。超神速斬撃を超えなければ自分は剣士として失格と思ってしまった。

そう思ってしまった時点で高町恭也は高町恭也ではなくなっていた。

彼は不破になった。御神の剣士ではなく、不破の剣士になるのだと。

おそらく歴代の一族の中において最も不破の剣に優れた素質を持つ恭也が不破になることを選んだ。

人生が剣の在り方を決めるのではなく、剣の在り方が人生を決める。

不幸だったのは、恭也という人間がそのために必要なあらゆる事象に耐えられるほど強かったこと。

彼は不破になることと引き換えに、御神として得られたはずの幸福な生を捨てたのだ。

 

その日から恭也は――――凶がったのだ。自ら望んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黎明の空。夜の帳を打ち払う光条が届く時分。

山の手にある森林公園は、初夏に差し掛かる季節ながら少し肌寒い。

目覚めの時間ではなくとも早朝ジョギングをする者が一人は居てもいいはずが、誰も居ない。

なのはとユーノ、そしてアルフを除いて。

アルフがフェイトを呼んで説得するそのために、三人はここにいる。成り行きはクロノ達も見張っている。

結界の張られた公園に邪魔が入ることはない。入ってこれるとしたら、それはフェイトだけ。

 

「なのは」

「うん」

 

結界を展開しているユーノが侵入者を探知し、空を見上げていたなのはが侵入者の姿を捉える。

金髪をツインテールにした少女がゆっくりと降りてくる。黒を基調としたバリアジャケットと、相棒であるインテリジェントデバイス[バルディッシュ]を手にしたフェイトは、まだ薄暗い公園を照らす電灯の上に降り立った。

 

「アルフ・・・本当に無事だったんだ」

「うん、心配掛けてごめん」

 

ずっと探し回っていたフェイトは、疲れも忘れて顔を綻ばせる。

念話で連絡を受けて無事と分かっていても、こうして姿を見ると見ないのでは大きな差がある。

 

「ううん・・・アルフが無事なら、私はそれでいいから・・・それで、大事な話って、何?」

 

言いながら、フェイトはアルフの側にいるなのはとユーノを見る。

周囲が軽い緊張に包まれる。なのはとユーノ、そしてクロノ達にとってここが第一段階となる。

ここからは話を聞いてもらわなければ先に進めない。もしここでフェイトが疑惑を持てば話し合いには発展しない。アルフがなのは達と一緒に居ることは承知しているが、それを人質にしていると勘違いされても仕方がない状況なのだから。

アルフもそんな誤解をフェイトに持って欲しくない。だから、フェイトが疑惑を口にする前に自分から切り出した

 

「あたしは、フェイトが頑張ってるのを知ってる。けれども、プレシアはフェイトを褒めるどころか殺しそうになった・・・あれがわざとなのか、事故だったのかははっきりしないけど、あたしはわざとだと思ってる」

 

【サンダーレイジO.D.J.】の持つ意味は大きい。

魔導士として、あれを事故と片付けるのは難しい。特にプレシアの病状の酷さを知らない者には。

 

「これまでフェイトが頑張るって言うから、あたしもやってきた。けど、あたしはもうフェイトはプレシアの言いなりになってちゃいけないと思う・・・このままだと、フェイトはプレシアに何時か・・・」

 

―――殺される。

直接か間接かは分からない。

だが、このままでは消耗品同然に使い潰されてしまう。

 

「もう止めようよフェイト。フェイトの人生がそんなものでいいはずがない。だって、全然嬉しそうじゃない、幸せそうじゃないよ!・・・言ったよね、あたしはフェイトに幸せになってほしいだけだって・・・フェイトが幸せになるためには、プレシアの言いなりになってやりたくないことをやるのは止めないと駄目だろう?」

 

以前は届かなかった。

止めることはできても、それは自分のためにならないとフェイトは言う。けれども、このまま殺されてしまうことが、フェイトのためになるとは絶対に思えない。

止めなくてはいけない。それがフェイトの意思に反していても。

管理局もフェイトの罪を極力問わないようにすることを付け加える。

 

アルフの言葉に間が生じる。

見上げるアルフとなのは達。見下ろすフェイト。

珍しく凪いだ公園内は風さえも静寂を乱さない。

不意にフェイトが微笑んだ。

 

「フェ―――」

 

それを肯定と受け取りかけたアルフに、

 

「ごめんね・・・アルフ」

 

ツインテールを揺らして、謝った。

 

「私はプレシア=テスタロッサの娘だから・・・お母さんを捨てられないの」

 

フェイトにとって、理由はそれ以上でもそれ以下でもない。

アルフに理解してもらえないことも分かっている。

それが人と人の難しい部分。プレシアの娘であることがフェイトにとってのアイデンティティということを実感できるのは、本人だけ。どれほど親しくてもアルフにはそれは分からない。

そして、フェイトにはアルフと出会う前の―――優しいお母さんだったプレシアの記憶があるから。

今の苦しい時を耐えればプレシアが昔のように優しいお母さんに戻ってくれるはずだから。

 

「あれでもまだプレシアを母親だと思わなきゃいけないの!?」

「・・・アルフ。それを信じてあげられるのは、私だけなの。娘の私が、お母さんを見捨てられないよ」

 

微笑みが弱弱しいものへとなっていくことが、誰の目にもフェイトの悲痛さを伝える。

 

「私もお母さんとの絆が壊れかけてるって、本当は分かってる。でもね、だからこそ諦めちゃ駄目だって思う・・・私がお母さんとの絆が壊れそうになっていて、自分が辛いからって言って見捨ててしまって・・・それでいいはずがないよ」

 

――お母さんを見捨てることは、優しいお母さんに戻ってくれる可能性を自分からゼロにしてしまうこと

その可能性が20%なのか、10%なのか、1%なのか。それとも、小数点以下なのか。けれども、決してゼロではないなら、それを絶対に手放すことはできない。

 

「今、お母さんを見捨てたら確実に助からない。私は、手遅れにもしたくない。可能性を捨てたくもない・・・ごめんね。エゴだよね、これ・・・だから、もしアルフが辛いならそう言って・・・もっと上手く我慢するから」

 

言えない。アルフに辛いなら誰かに契約を譲渡して、自分の幸せを探して欲しいなんて。

アルフが居なくなればきっと心が壊れてしまう。治せないほど致命的に。

ガルムとアルフでは違う。好き嫌いの上下関係でガルムが下、アルフよりも大切ではないというわけではない。フェイトにとってガルムはお父さんみたいな人。けれども、アルフは自分の魔力を分かち合う半身。在り方が違う。アルフが離れることは自分で自分を否定し、消し去られてしまうことになる。

だから、アルフのためにもっと上手く我慢する。そんなことしか言えない。その言葉でアルフが喜ばないと分かっていながら。

 

「フェイト・・・我慢なんてしなくていいよ!いいから・・・分かんないよ。可能性なんてあるはずがないのに・・・」

 

アルフは腹立たしかった。頑ななフェイトにではない。そのフェイトを説得して翻意させる言葉も、手段も持たない自分自身が。

この肝心なときにフェイトに何もしてやれない、助けてやれない自分が歯痒い。

何か言葉はないかと考えるアルフに影が射す。

 

「それが、フェイトちゃんにとって、譲れない大切なもの・・・なんだよね?」

 

なのはが一歩前に進み出る。見下ろすフェイトを射るように見つめながら。

その後姿にアルフは何かを言いかけるが、今度はそれをユーノが留めた。

今のアルフの言葉では、フェイトを変えることができない。ユーノはそう伝えるつもりで、アルフも既に分かっている。

フェイトの説得は、なのはに託すしかない。アルフにはできないことをやれる立場にあるなのはなら、可能性があるから。

 

「誰にでもね、大切なものはあると思うの。誰かの大切なもの比べることなんてできないし、しちゃいけないの。私はフェイトちゃんのお母さんがどんな人か知らない・・・本当は酷い人なのかもしれない。だけど、それでもフェイトちゃんにとって大切な人なんだよね?」

 

なのははまた一歩踏み出す。

おそらくアルフの言うようにプレシアの虐待は事実だろう。それはフェイトも否定しない。

けれども、フェイトはそれでもプレシアを信じて、大切な母親だと思っている。いや、信じるという具体的な内容なはずがない。母親というものへの信頼は無意識なのだから。

 

「どんなことがあっても大切な人を想って、自分が辛くても戦おうとしているから、私はフェイトちゃんのことを信じられる」

 

言いながら、なのはは家を出る前のことを思い出す。

公園へ行くためにこっそり脱け出したつもりだったが、そこは人外じみた能力の高町家。美沙斗と恭也に見つかってしまった。二人は美由希の休養日にしかできない本気の鍛錬のために朝出するところだった。

止められると思ったなのはは誤魔化すことも逃げることもできず頭を抱えそうになったが、意外なことに二人は行くことについて反対しなかった。その代わりに一つ昔話をしてくれた。

それは美沙斗と恭也が再会した一年前のこと。二人は本気で戦った。間違っていると分かっていても止められない、譲れず、諦めきれず、縋るしかない朽ちかけた想いと誓いのために。詳しい理由は教えてもらえなかったが、そのときの戦いは互いに本気であったと。

 

「私にもその気持ちが分かるよ。私のおとーさんも、おにーちゃんも、おねーちゃんも、皆大切なものを護るために強くなろうとしてるから・・・私も護るために強くなろうって決めたから」

 

なのはは運動の才能がなかったし、家族の方針で御神流をやらなかった。けれども、その心は継いだ。

 

「“俺たちはあまりに不器用だから剣を取ることでしか護れない”って私のおにーちゃんが言ったの。でも、お兄ちゃん達は真剣に・・・純粋って言うのかな?―――護ろうとしてるの。大切なものを。その分だけ、護りたいものにはこだわって、簡単には変えない」

 

美沙斗は自分が間違ったものを護ろうとしていると知っていた。それはもう、護るという行為ではないことも知っていた。それでも己を曲げることができなかった。それほどに重要なものだから。一度決めたことを翻せない意思があって、人は初めて達成すること鍵を手に入れられる。

恭也もまたそれを知っているから、言葉ではなく、剣で応じた。

 

「フェイトちゃんの心がどう思っているのか、私には分かるなんて簡単に言えない。壊れかけている絆っていうのも分かったなんて言えない。でも、フェイトちゃんは信じてる。お母さんとの絆を信じて、最後まで護り通そうとしてる。その絆をどうするべきなのかはフェイトちゃん次第だけど・・・これだけは言わせて欲しいの」

 

間を置いたのは偶然だった。

喋り続けて乾いた喉に唾を飲み込む。

本当は自分の言葉が届いているのか不安だけれども、届いていると信じる。

信じてくれたアルフのためにも、協力してくれたクロノやユーノのためにも、そして誰よりもフェイトと自分のためにも。

 

「お母さんの絆―――それは辛いからと言って、逃げればいいってものじゃない。捨ててしまえばいいってものじゃ、もっとない。だって、それを一番信じてるのはフェイトちゃんだから・・・信じてるもの、逃げたり、捨てたりできないよね?」

 

見上げているはずのなのはは、何故かフェイトの顔を窺うことができない。それでも、声は届いている。この声が紡ぐ言葉は説得ではない。アルフの説得が届かないなら、自分の説得が届くはずがない。この言葉は、自分の想いを知って欲しいから紡いでいる。

 

三歩を踏み出して、フェイトへ近づく。顔を見たかったから。

 

「そんなフェイトちゃんだから、共感できるの・・・友達になりたいって思うの。辛い気持ちの雨に打たれないように友達っていう名前の傘へ一緒に入りたい」

 

フェイトの顔色は変わっていない。変わっていないが、変えないように懸命に我慢しているように見える。

なのははそれを確認してから、待機状態である胸元の[レイジングハート]を手に取る。

 

「風は空に。星は天に。そして、不屈の心はこの胸に。この手に魔法を―――レイジングハート、セットアップ!」

 

起動の詠唱により、バリアジャケットを纏い、手に杖となった[レイジングハート]を持ったなのはが静かに現出する。

 

「そのためにも、決着をつけよう?―――私はフェイトちゃん返事を聞きたいけど、フェイトちゃんにはお母さんとの絆のためにジュエルシードを集めなきゃいけない。だから、私たちが戦う原因のジュエルシードを賭けて」

 

勝者は敗者のジュエルシードを手に入れる。すなわち、勝者が全てのジュエルシードを手にする。

 

「・・・分かった。でも、それで貴女に何のメリットがあるの?」

「あるよ、メリット。私が勝ったら、返事を聞かせて欲しいの」

「返事?」

聞き返されたなのはが微笑む。

「友達になりたいって言ったよね、私?その返事はまだもらってないから。YESなら嬉しいけれど、NOでも、諦めないで友達になってもらえるように努力するから」

 

乱暴とは分かっている。原始的で、それでいてあまりにシンプル。

お互いに納得するためには何かの決着が要る。

それが自分とフェイトの場合は決闘だっただけだ。

友達になるための決闘。まるで美由希の読むような熱血漫画の世界だが、それを実行しようとしている。

フェイトはどう思っているだろう。了承はしてくれたが、その内心は分からない。思い込みかもしれないが、決闘を受けたのだからフェイトだって何かの決着を望んでくれているはず。

―――俺たちの剣は“護る”ためにある

そのためなら恭也は大切な護るべき人とも戦った。理由は知らない。でも、兄が選びそして美沙斗が生きているならきっとそれは正しかったのだろう。

 

(・・・・・・)

 

そうだ。勝ったらフェイトに聞かないと。

ガルムの正体を。本人にガルムは兄の恭也なのか確認しないと。

 

「こわれで終わりにする・・・」

 

[バルディッシュ]を構え集中力を高めるフェイトが自分から口を開いた。

 

「違うよ。終わりなんかじゃない――――」

 

対してなのはのバリアジャケットのブーツに桃色の羽が生じる。

 

「私たちの全てはまだ始まってもいない・・・だから、本当の自分を始めるために・・・始めよう、最初で最後の本気の勝負を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どう見ます?」

 

『アースラ』で成り行きを見守るクロノとリンディにエイミィが尋ねる。

なのはとフェイトの戦いが始まってすぐだが、エイミィは専門家の意見が聞きたかった。

 

「・・・単純に見れば、なのはちゃんが不利ね」

「そうですね。今までの対戦成績も負けてますし・・・」

「対戦成績もそうだけど、実際に地力で負けてる。フェイト=テスタロッサの方が、経験もあるし、手数も多い」

 

なのは側としては厳しい意見だが、覆しようのない事実だ。

 

「もし、二ヶ月・・・いや、二週間でも彼女が本局の正規教育を受ければ、地力で追いつく可能性もあったんだろうけど。勝っているのはバリアの能力と魔力の収束・制御――つまり、砲撃魔法だけだ。他は全部負けてる」

 

地力の負けは魔法戦闘において大きい。

母とは違い、特別な魔法の才能を持たなかったクロノにはそれが痛いほど分かる。

クロノは砲撃とバリアに関してはなのに遠く及ばない。速度と手数ではフェイトに勝てない。

だが、才能がない故に地力を練磨し続けたクロノは二人に勝つ自信があるし、それだけの力もある。

地力とはそういうもの。究極的にはあらゆる物事に共通する、努力する者が強いということ。

 

(だとしたら・・・僕はガルムに地力で負けたということなんだけどな)

 

海上での戦い。あれは格の違う戦いだった。

相手の弱点を見抜き、その弱点を衝き、戦闘を支配する。

あの戦いで速度や出力のパラメータを見れば、ほぼ拮抗していたにも関わらず押されていたのは、戦闘を支配するための経験値の差に他ならない。数字に表れない地力で負けたのだ。

 

「でも、この戦いはどうなるか分からないわ」

「そうなんですか?」

 

リンディの評にエイミィは首を傾げる。地力の勝負で負けていると言ったのは二人だ。

 

「彼女達の戦闘スタイルはね、凄く偏ってるの。歪って言ってもいいほどよ」

「まぁ・・・そうですね」

「なのはちゃんはバリアの防御能力は高いし、凄く強力な砲撃魔法を使える。けれど、それ以外は魔法学校なら落第点スレスレか落第点っていうぐらいに酷い。一方のフェイトちゃんも距離を問わない高い攻撃力、それを支える手数に、何より射撃魔法でさえ捕捉するのが難しいほど速い。でも、あまりに防御が弱くて脆い・・・それこそ、肉を切らせて骨を断つつもりで広域攻撃を仕掛ければやられてしまうほどに」

「どっちも一長一短なんですか」

「そういうことね・・・だから、この勝負は欠点を埋めるより長所を活かし切ったほうが勝ちだと思う」

 

そこまで分かっていて、リンディは勝敗の行方が読めなかった。

さっきの単純な地力の差で考えれば、フェイトが勝つのは自明だ。その才能も、年齢にそぐわないほどに洗練されている。流石はメハシェファのプレシアを母親に持つだけはある。

だが、その地力の差を考慮してなお、なのはの敗北する明確なイメージが湧き上がってこない。それが何故なのか考えて、唐突に正解へ至った。

 

(そうか・・・)

 

それは二人の才能の質の差。

フェイトは天才だ。なのはと同年だろうが、防御面の欠点はあるがハイレベルな纏まりを持ちながらまだ完成してない。これからもまだまだ伸びるだろう。

だが、なのはは天才とは少し違う。なのはは奇才だ。誰にも予測しきれない奇抜な成長を遂げ、マイナスからイーブンどころではなくプラスにしてしまう。

 

「これはきっと、天才的才能と奇才の爆発力の勝負ね」

「・・・僕も、そう思う」

 

クロノもリンディの意見に同意する。どこか二人の才能を羨ましそうにして。

エイミィとしては才能がないのにそれを努力で埋めたクロノの方が凄いと思うし、ここまで分析しきる分析能力も十分驚嘆に値するものだと思う。

才能がない。リンディと今は亡き父親も魔導士としての実力は有名だ。その息子であるクロノはその才能をあまり受け継げなかったことがコンプレックスになっている。だから、それを埋めるための努力は惜しんでない。

エイミィにしてみれば、弟みたいなクロノのそういうところが可愛げのあるところだと思う。普段が無愛想な分、余計に。

 

「ん?―――キャッチ?」

 

長距離次元通信のシグナルが出される。良いところなのにと思いながら発信先を確認して、手が止まる。

―――管理局秘匿コード

部隊の情報保護のために巡らせた送信先の保護プログラム。それの意味するところは、送信先が重要な機密保護対象であるところ。そして、事前に連絡のあった秘匿コードに関係しそうな部署は一つ。

 

「艦長、本局からの長距離次元通信です」

「こんなときに?―――どこから?」

「・・・本局武装七課第二分隊です」

「!?―――アライアンス・オヴニル!?」

 

驚いたリンディは直後に、しまったという顔をして顔を片手で覆う。

今回の件での根回しが間に合っていない。これではフェイトの記録を抹消しきれない。

そこどころか、彼らの任務はほぼ抹殺で終わる。このままではフェイトも消されてしまう。

 

「出して・・・」

 

出ないわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

フェイトのマンションの屋上。ガルムは体の痛みを覚えながらフェンス越しに公園の方角を見ている。

バリアジャケットを纏い、トレードマークとも言えるクローズドヘルムをつけて。

ガルムの視覚は強化され、ユーノの結界を抜いてなのはとフェイトの戦いが見えている。

あの戦いの如何によってこれからの選択肢は変わるが、結果としてフェイトには良い方に傾く。そうなるように調整し、仕向けてきた。本当はもっとスマートな方法を選ぶはずだったが、大きな手違いによって変更を余儀なくされていた。

 

「すまない・・・フェイト」

 

大人のエゴに巻き込んだ。だが、これ以上は巻き込まない。

“悪人は悪人らしく、善人は善人らしく”そのまま幕を引けば良い。

 

〔ヘルガルム、転送の座標固定を確認しました。彼女達が来ます〕

 

後ろに控えていた明星が伝えると、更に後ろで転送魔法陣が展開される。転送ポートを用いた長距離次元転送魔法。魔法陣の数は三つ。

 

「待たせたかしら?」

 

先頭の少女―――エイプリルが軽く髪の毛をかきあげながら言う。

転送魔法陣が現れたのは四人の少女達だった。全員がゴシックロリータファッションという異様な四人だが、それが似合うだけの美しさ、可愛さを備えている。

 

「いや・・・ちょうど良い時間だ。四人も送ってくれるとは、マルチアーノには礼を言っても足りないな」

「そうだぞ。お母様と私達に感謝するんだな」

 

ガルムが苦笑混じりに言うと、銀髪でツンツン頭の少女―――メイが皮肉げに言うが、口元は笑っている。ガルムもこれがメイ流の挨拶だと分かっているので、肩を竦めて礼を述べる。

 

「・・・・・・海ね」

 

糸目で微笑みを絶やさない少女―――ジュライが脈絡もなく呟いた。

 

「海だね」

 

最後の一人、二つのお下げと眼鏡が印象的な少女―――フェブラリーが相槌を打つ。

 

「そうね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「おい、海がどうしたんだ?」

 

黙ってしまう二人にメイは突っ込むが、返事はやはりない。

むしろ、全く意味はなかったのかもしれない。

エイプリルは最初から二人を無視してガルムとの話を続ける。

 

「敵はアライアンス・オヴニルでいいのね?」

「ああ。ハイメロート、ヨハネ、ワルキューレの三人はまだ来ないが、グランドチーフが率いてる」

「オーバーSが三人来ないなら、私たちだけでもいいわ」

「あら、そうするとノクターンは来るのね?」

 

上の空だったジュライが微笑みの質を変えて尋ねる。

 

「そういうことになるな」

「それは楽しみ・・・」

「?」

「ジュライの奴、前に遣り合ったことがあるんだよ。その時に引き分けだったことを今もまだ根に持ってるらしい」

 

外見に似合わず、内心は根に持つタイプらしいジュライは日本刀風のデバイスの鍔をカチカチと爪で擦っている。

 

「・・・そろそろ来るわよ」

 

足元に緑色のベルカ式魔法陣を展開していたフェブラリーが告げる。

 

「明星、極限定化を解除。限定化状態へ移行だ」

〔了解〕

 

明星が[CARIBURN]へ戻り、ガルムに掛けられた能力制限を一部解除する。

それだけでガルムの魔力量が跳ね上がった。

そして、構えを取る間もなく抜刀すると飛来した六条の射撃魔法を切り伏せた。

何も合図はなかった。五人はマンションの屋上から飛び上がり戦闘を開始する。

 

「燃えろや屑どもがぁっ!!」

 

髪も瞳もバリアジャケットでさえ赤一色。肌もボディペイントで赤くしている魔導士―――レッドハートの【ブラッドファイア】で暁の空を、オレンジから紅蓮に変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――【フォトンランサー】

―――【ディバインシューター】

 

 

雷の弾丸が純粋魔力の弾丸と衝突し、対消滅を引き起こすと閃光と放電で視界を覆う。放電はアスファルトの化学成分を燃焼させて異臭を撒き散らし、魔力の爆発で粉塵が巻き上げられる。

なのはは視界の覆われた間を利用して、【ディバインシューター】のスフィアを一つ、二つと構築していく。

フェイトはそれを続けさせるほど甘くはなく、粉塵から出てくるというなのはの予測を裏切り後方からの強襲をかけてきた。

 

―――【サイズスラッシュ】

 

サイズフォームへ変形した[バルディッシュ]が振り紫電の軌跡を描きながら振り下ろされる。

遠心力を加味した一撃に、なのはは逃げない。瞬きすらほとんどせずに五つまで形成したスフィアを射出した瞬間に炸裂させた。

即席の機雷と化した【ディバインシューター】の衝撃波に打たれ弱いフェイトは、吹き飛びながらも片手で振り切りバリアジャケットを薄く切り裂いた。

 

「っ!?」

 

紙で指を切ったときのような鋭い痛み。二の腕が浅く切れている。

痛くない。嘘で痛みを堪え、なのははあえてフェイトとの距離を取る。

スピードではフェイトに勝てない。考えられる方法はスピードの有利を潰すこと。そのためになのはが選択した戦術は、間合いのイニシアティブを自分が握る戦術。

なのはは深く考えて間合いについては作戦を立てているわけではない。間合いという言葉もよく分かっていない。単純に距離の取り方でスピードの有利を潰せるのではないかと考えているだけ。計り方さえも勘と予測が半々でしかない。

場当たり的と言えばそうだが、これこそ魔法以外におけるなのはの戦闘才能。御神の血を確かに引いたことの証左だろう。感性で戦う姿は士郎そのもの。

再度スフィアの形成を始めながら、なのははフェイトも次の魔法に入ったことを確認する。呼吸が苦しくなってきたが緩めるわけにはいかない。分かっていたがことだが、フェイトの方が魔法の構築能力が高い。つまり、同じレベルの魔法を構築してもフェイトの方が速いのだ。

 

「【アークセイバー】!!」

「!!」

 

予測負けした。六つまで形成したスフィアに対して撃ち合いで来るかと思ったら、あくまでバリアブレイクを仕掛けてくる。魔力が電気へ変換されている金色の刃が変則的な動きで飛来してくる。

作戦のためには追い込まれなくてはならないと言ってもこれは拙い。それ自体に意思が宿っているかのような変則的な動きに対応しなくてはならない。

急いで射出するスフィアを選択すると指先で操り、射出。三つを同時に操作しながら、三次元空間で精密な機動を取らせる。あたかもUFOのような機動の金色の刃に対して、似たような機動を取らせて衝突させた。ただ当てようとするだけでは当てられない。変則的な動きができないように三つのスフィアを操作してルートを塞げばどれか一つと衝突する。そう見越して放っていた。

 

(残りは三つ――――)

「行って!【ディバインシューター】!」

 

三つのスフィアが射出され、上空へ移動していたフェイトを追うが、その速度に追従できない。

 

「【フォトンランサー】!」

 

単発なら簡単。雷槍を【プロテクション】で防御しようと手を伸ばそうとしたなのはは、横合いからの衝撃と熱に吹っ飛んだ。以前、同じように受けたことのある熱と痛み。

 

(フォトンランサー!?そんな・・・どこから・・・)

 

なのはは混乱して気付けない。自分が間合いの支配を目論むように、フェイトは奇策を弄して罠を作っていたことに。基本的な魔法が扱えないなのはにはできない、魔法の遠隔発生と遅延魔法の合成攻撃。

使ったタイミングは即興だが、戦いの流れを確実に引き寄せるための布石。見せた【フォトンランサー】は油断を誘うための囮。

 

流れを掴んだフェイトは一気に畳み掛けた。

 

 

 

「なのは・・・」

 

ユーノはぎゅっと拳を握って戦いを見守る。引き出しの多さで負けているなのはの不利は否めない。今のトラップも気付いていたが、決闘である以上教えることはできない。それがもどかしい。

元々は自分のせいでなのはを巻き込んだ。巻き込まれたのであって、なのはは当事者ではなかった。

だが、今やなのはは自らの意思で当事者となり、ジュエルシード以上にフェイトという一人の少女と自分のための戦いとしている。

勝たせてあげたい。でも、手出しはできない。

それは自分の隣で同じく見守ることしかできないアルフも同じだろうと思う。

 

「複雑・・・だよね」

「・・・あたしは、どっちも応援できない」

 

直接言わずとも、主語がなくとも互いに伝わるものがあった。

フェイトのためを思うアルフにとって、フェイトは負けたほうが良い。だが、負けるということは戦いで傷つき倒れるということだ。それを分かっているアルフは、フェイトを応援することも、なのはを応援することもできないでいた。

苦しい。痛い。素直に感情を出せないことが辛いのは知っていたが、それが自分の願い故であることの辛さというのは呼吸することも苦痛なほどだ。

フェイトが苦悶の声を噛み殺す姿を見るたびに自分は間違いを犯しているのではと不安を抱き、なのはが追い込まれるたびにフェイトを救うための戦いを押し付けることを済まなく思い、自分がその役割を果たせないことが歯痒い。

 

(リニス・・・アンタはどこかでこの戦いを見てるのか?見ていて辛いと思わないのか?フェイトが苦しむ戦いなんてあたしは見たくない・・・アンタの言った通りになってるけど、本当にこれで良いの?)

 

この戦いで本当に幸せが訪れるのか。

フェイトとプレシアの関係の冷たさを分かっているが、同時にフェイトの絆への執着心も不本意ながら知っている。戦いに負けたからそこで諦めてくれるのか。

諦めて欲しいと願いつつも、そうならないだろうと思っている自分がいる。

 

(本当に、あたしはどうしたら良いんだろう・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度目か分からない雷撃の放電に視界を奪われながら、なのはは荒い呼吸で肺が痛むのを堪える。

落ち着いて呼吸をする暇がない。集中ために呼吸を一時的に止めることを断続的に繰り返した代償は少しずつなのはの体力を削っている。

だが、それはフェイトも同じ条件のはず。耐え切れずに呼吸に集中力を削がれれば、そこが最大の隙となる。お互いに我慢比べになっていた。

 

(凄いよ・・・私じゃ、そこまでできない)

 

我慢比べ以前に、なのははフェイトの強さに改めて驚嘆させられる。

魔法の構築能力が尋常ではない。強力で数も多い魔法を、自分より速く構築してくる。

既になのはの構築能力では追いつかなくなってきていた。

そうだ。純粋な射撃勝負では勝てない。そんなことはとっくに分かっていたが、突き付けられるとやはり違う。

 

(だけど、負けたら駄目・・・私は負けるわけにはいかない!)

 

まだ、こちらの手の内を明かすわけにはいかない。

正直な話、なのはは自分がフェイトに勝てる確率を低いと考えている。クロノやリンディの分析に近いもので、彼我の能力差を弁えている。

だからこそ、奥の手を用意してきた。それは奥の手などとも呼べないような詰まらない手だが、なのはにとってそれしか手がない。しかも、一回しか使えない。それ以上はなのは自身、魔力も体力も底を尽いてしまう。

意思を固め、意識を高め、針の穴ほどの状況推移も見逃さない。

握った[レイジングハート]の感触を恃む。

 

スフィアの形成を三つ同時に行う・・・が、瞬間的にそれが駄目だと直感した。

呼吸も忘れ、筋肉の動きも反射。態勢を射撃から突撃に切り替え、焼け付く肺の空気と共に詠唱を放つ。

 

 

「【ブリッツアクション】!!」「【フラッシュインパクト】!!」

 

 

詠唱の声が重なる。焼け付く肺からの呼気が大気に混じり、肌で錯覚する。

雷撃の魔力変換資質者に相応しい超高速移動に、及ばないながらの高速移動が挑む。

否、挑む必要はない。質が違う。形が違う。

競うのではない―――この魔法は薙ぎ倒すためにある。

 

「!?」

 

大音量の激突音。

 

「「ぐぅっ!!」」

 

物理法則「E=MC2」に従い、高密度の魔力を展開した高速の体当たりを受けたフェイトは、サイズフォームの[バルディッシュ]を構えた態勢で吹き飛んだ。

バリアジャケットで保護されているとは言え、完全な不意打ちにフェイトの意識が真っ白に飛ぶ。

脳内が攪拌される感覚さえ薄く、天地の区別さえつかない。ただ、ただ意識も視界も白い。

それは激突したなのはも同じで、備えていた分だけ軽い程度でしかない。咄嗟とは言えやり方が出鱈目過ぎた。

意識が戻るのはなのはの方が早かったが、意識と肉体が乖離して体が言うことを聞いてくれない。その様はまるで調整ミスで糸が空回りする操り人形のように滑稽。

 

ようやく五感と肉体の操作が噛み合い始め、視界もはっきりしたその時、

 

「これで、詰み・・・」

 

耳鳴りが治まり、最初に戻った音がフェイトの声だった。

それが何を意味する言葉かを考える前に、体のほうが体感させられる。

 

―――【ライトニングバインド】

 

「これ、バインド!?」

 

苦しい呼吸で紡いだ正体に、驚愕を隠せない。驚きよりも前に目の前の現実を否定する思考が流れていく。

バインドのはずがない。現に今のフェイトはまだ頭を振って、明滅する意識を繋ぎとめようとしている。

自分より早く立ち直って、魔法を唱える余裕を持てるはずがない。

なのはの思考に致命的なバグが生じた。真剣勝負であってはならない無駄な思考時間というバグが。

 

 

 

 

(間に合った・・・・)

 

フェイトは安堵に胸を撫で下ろす。頭はまだクラクラするが、魔法の行使に支障がないほどには回復した。

ボーっとしそうな視界には金色の輪に拘束されるなのはが映る。

バインドから逃れようとしているが、蟻地獄に嵌まった生餌のようにもがくだけでバインドはびくともしない。なのはがバインドを解除することが得意ではないと分かっている。

実際はなのはが思う以上にフェイトには余裕がなかった。

長期戦で手数が上回ってもなのはの防御を撃ち抜けるほどの攻撃力を出すのは難しい。フェイトの持つ砲撃魔法【サンダースマッシャー】も抜けるかは不安がかなり残る。やるからには一撃で沈める必要がある。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス―――」

 

この戦いは二つの決着しか考えていない。

一つは【サイズスラッシュ】のようなバリアブレイクによる近接攻撃による決着。

そして、もう一つが今行っているバインドで拘束した状態へ防御力を超える飽和攻撃を叩き込む。

それ以外に高町なのはという奇才を仕留める術を思いつけなかった。

 

 

「―――疾風なりし天神、今導きの下撃ち掛かれ―――」

 

 

 

「フェイトの本気だ・・・」

 

アルフでさえ初めて見る。かつてないほど研ぎ澄まされ、宙を舞う紙すら貫きそうな精神の高まり。魔導士の精神状態として理想的な状態に自分を高めたフェイトの魔力は、小さな体を数倍に錯覚させるほど昂揚している。

 

「逃げるんだなのは!!」

 

見ているだけのユーノでさえ怖気がくる。

フェイトは本物の天才だ。結界が得意な自分とは根底の才能が桁違い。

なのはでさえ【ディバインシューター】のスフィアは八つまでしか生成できない。

フェイトはそれを易々と超えた。今のフェイトの周囲には、落雷が球形を保っていると本気で思えるほどのスフィアが浮遊している。それも十や二十ではない。三十発を超え、今なお生成されている。

確かに非殺傷設定は傷つかない。しかし、痛みはある。場合によって痛みのあまりにショック死することだって今までの歴史の中でなかったわけではない。もし耐えられなければ、なのはは・・・。

強い。フェイトと同じ年齢で並べるほど強い魔導士が果たして居るのか?

 

「動くなよ・・・」

「っ!?」

 

アルフから釘を刺されて、ユーノの体が震える。

頭の片隅を掠めなかったわけではない。

 

「今入ったら、お前も一緒にやられる・・・今のフェイトはあいつを倒すためだけに、集中してる」

 

決闘の邪魔をするよりも、割って入る方が危ないと警告してくれている。

だが、ユーノのその警告に胸が痛んだ。動こうとしても動けなかった自分が情けなくて。

怖い。フェイトの放つ魔法の直撃を受けるかもしれないことが怖い。

なのはに助けられてばかりでいざというときの飛び込む勇気のない自分が、憎くて堪らない。

 

「僕は、なんて・・・情けないんだ・・・」

 

初めて、心の底から弱い自分が情けなかった。力ではなく、心の弱い自分が。

 

 

 

そんな二人を余所に、フェイトの魔力の高まりは最高潮を迎えようとする。

戦うことに純化しているフェイトは最早勝つことしか頭にない。

訓練された兵士は思考しない。ある機関銃手は流れ弾で頭を吹き飛ばされて即死しているにも関らず、隣の補助銃手へ交代を伝えるために肩を叩いた。脳の思考を要せず、訓練で純化された身体の方が反応した。

何のために、誰のために、関係なくフェイトはこの戦いに勝つための最善を選び取る。

今持てる全てを注ぎ込んで、目前の敵を滅す。

 

雷撃塊が凝縮しきれない電気をパチパチと放電させ始めている。今やスフィアの輝きでフェイトそのものが光輝を放っているようにさえ見える。

 

「―――バルエル・ザルエル・ブラウゼル―――」

 

師であるリニスが機動力に頼るフェイトのために考案した奥儀とも言える魔法。

三十八基のスフィアが燦然と光ながら周囲を浮遊し、全てがバインドの拘束から抜けられないなのはを指向する。

 

(・・・これで終わりにする!)

 

ただ勝利のために、フェイトは[バルディッシュ]をなのはへ向けて掲げて最後の詠唱を紡ぐ。

 

 

 

 

「【フォトンランサー・ファランクスシフト】!!!」

 

 

 

 

紛れもなくそれはイカズチの嵐。

もしくは黄金の集中豪雨。

 

三十八基のスフィアから秒間七発という光速じみた一点集中高速射撃が繰り出される。

一発で駄目なら二発。

二発で駄目なら四発。

四発で駄目なら十発。

十発で駄目なら二十発。

二十発で駄目なら五十発。

五十発で駄目なら百発。

百発で駄目なら―――千を超えてみせる。

 

 

「貴女が耐え切るなら、私は貴女が耐え切る心さえ摩滅させる!!」

 

雷撃の射出音が連続し過ぎて、音の発生が間に合わない。

瀑布の直近のような轟音が鼓膜を拷問にように震わせ続けている。

その上で、フェイトは叫んでいた。

 

勝つ、勝ち取る、勝利する。

純化しろ。制御を緻密に。一点に注げ。

砕け、砕け、砕け―――破砕しろ!!

折れぬ心をも砕け散らせろ!!

 

「貴女の思惑ぐらい私にだって読める!!」

 

光の洪水に呑まれたなのはの姿は見えない。

 

「“自慢のバリアで私の攻撃を凌ぎ切って、動きが止まったところを砲撃で撃墜する”―――できるならやってみればいい!!私は負けない!!貴女のその心を、折れない心を砕く!!」

 

この先には、今度こそ光が待っているから。

花輪を作って頭に乗せてくれて、優しく微笑んだお母さんが戻ってきてくれる!!

そのためなら私は何だってする!辛くても我慢する!―――私は鬼にだって成る!!

 

千二十八発。

全ての魔力を注ぎ込んだ。

その【フォトンランサー】千二十八発が誤差5cm以内へ集約された。

ショック死しかねない。それさえ考慮に入れた。あの日々に戻れるなら、人殺しでもいい。

 

―――逝け、雷撃の槍(サリッサ)

 

 

 

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耳が痛い。静寂が戻ったのかさえ分からない。

千二十八発の直撃音のあらゆる音を殺してしまっていた。

雷撃の余波に周囲はイオン臭が漂い、指出せばバチバチと音を立てるほど空気が電気を帯びている。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ――――」

 

光輝を纏い、破壊の権化だった少女―――フェイトは極度の集中のリバウンドに襲われていた。

何も考えられない。純化の代償に鈍化の極みにある。

―――勝った。

リニスの考案した絶対防御にして必殺の魔法で。

生きているだろうか?生きていたとしても意識はないだろう。

 

「終わった・・・」

 

[バルディッシュ]を握る手が緩みそうになる。

 

「もう少し・・・あの子のジュエルシードを奪うまでは・・・」

 

これで二十一個全部揃う。

これできっとお母さんは・・・。

 

 

「レイジングハート、【レストリクトロック】」

Restrict Lock

 

光の輪が幾重にもフェイトを覆い、拘束しようとする。

疲労困憊し、思考力も鈍っていたフェイトは避けることもできず、気付けば完全に拘束されていた。

 

「そ・・そんなはず・・・」

 

バインドブレイクさえ思い浮かばない。

全ての【フォトンランサー】を受けて死んでいてもおかしくなかったなのはが、まだ意識を保って浮遊しているのが見える。目の錯覚かと疑いたくなるが、どう見ても現実そこに居る。

バリアジャケットはボロボロ。白い基調としていたはずが、どこも煤けている。構成している魔力も修復できないほどにダメージを受け、おそらくもうバリアジャケットとしての機能はないだろう。

なのは自身も無事ではない。傷つかなくても熱を感じれば、皮膚は火傷と同じように表皮で水脹れを起こし熱傷となっている。痛くないはずがない。これは現実に体が誤認して受けた傷なのだから。

 

それでもなお、なのはは倒れない。

不屈の心は胸に。そして、身体は不倒だった。

 

「やっぱり、凄いよフェイトちゃん・・・私の考えなんてお見通しだった」

 

痛いというより、熱い。熱くて、熱くて、感覚が麻痺しているなのは。

かろうじて、[レイジングハート]の感触だけは感じられた。

 

「でもね、私だって負けられないからもっと考えたの。フェイトちゃんはきっと私より強いから。そんな強いフェイトちゃんだから、私の考えの一枚上を行くって信じたの

「まさか・・・私が貴女の作戦を読みきることまで・・・」

「うん・・・予測されないなら良かったんだけど、フェイトちゃんなら絶対に予測するだろうって」

 

防御力を活かして攻撃を耐え切り、一撃必倒の砲撃で撃墜する。

小技を覚えても、それが本質。付け焼刃の魔法ではなく、自分の最も信じる魔法をぶつけることを選んだ。

それが読まれるだろうと見切った上で。

その上でも耐え切ることを選択した。それしかない以上に、フェイトの全力を受け止めたい想いがあった。

なのはがバインドブレイクを使わなかったのは苦手だからではなく、バインドされる前にフェイトを真似て遅延技術によって[プロテクション]を重ねるという防御策を使うためだった。そうでなければ、【フォトンランサー・ファランクスシフト】を防げるはずもない。

だが、それでもなお[プロテクション]は全てブレイク。バリアジャケットでかろうじて止めることができたに過ぎない。

 

「私が耐え切るか、フェイトちゃんが押し切るか。最後はそんな単純な図式へ持ち込むために」

「・・・・・・」

 

フェイトは信じられないというように絶句する。

理解できない。そんな方法を選択することもだが、そうまでして自分を受け止めようとするなのはが。

 

「私はフェイトちゃんを鬼になんてさせない・・・こんなに優しい人が鬼になるなんて悲しいから・・・」

 

痛みで引き攣り、震える手で[レイジングハート]を両手で保持。

ボロボロで頼りない身体に反して、心の奥底は静謐さを秘めている。

 

「レイジングハート、シーリングモード」

sealing mode

 

[レイジングハート]の変形を手先だけで感じながら、視線は決してフェイトから外さない。

 

「絶対に、負けるわけにはいかないから・・・私は耐え切った後の作戦を考えたの」

 

変形を終えた[レイジングハート]をバインドで拘束されたフェイトへ向ける。

 

「聖者達に希望の光を―――」

 

なのはの詠唱が始まる。

同時に、なのはの身体以外から魔力が生じる。

 

「・・・集束してる・・・?」

 

確かに、なのは以外の魔力がなのはへ向かって集束を始めている。

まるで吸い寄せられるようにして。桃色の魔力光が周囲の空間から湧き上がるように現れては集まる。

その現象に、フェイトはなのはが何をしているのかを悟る。悟るが、認められない。

 

「集束型魔法・・・・・・」

 

理論は知っている。リニスが教えてくれた。かつて一度だけプレシアが使っている映像を見たことがある。

だが、その難易度はあまりに高い。メハシェファであるプレシアのレベルで扱う高等技術だ。

なのはの年齢で実現できるはずのない技術。しかし、実現して見せている。

 

「―――星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ―――」

 

全てはこのための布石だった。

集束魔法は術者以外の魔力を集める。但し、集めるのは周囲の空間へばら撒いてある術者の魔力。他人の魔力も足しにはできるが核とはなりえない。己の魔力が少なくともこれにより強力な砲撃に必要な魔力を揃えることができる。

効率的に行使するためにはあらかじめ限定された空間に効率良く圧縮する必要がある。そうすることで回収と再圧縮が容易になる。だから、なのはは得意の[ディバインバスター]ではなく、「ディバインシューター」を多用していた。スフィアに圧縮し、限定された空間で行使し易いから。

今回の戦いは最初からそこまで仕組まれていた。耐え切るという前提に戦いを組み上げ、実現して見せたなのはの意思の強さ。ユーノが見ているだけで怯えた【フォトンランサー・ファランクスシフト】を前にして怯まなかった意思の結実。

 

ただこの時のためだけに。なのはは全てを賭けていた。

 

「―――貫け、閃光―――」

 

まるで星の光のように魔力が[レイジングハート]へ集束していく。

だが、この星の光はただ光ではない。星が最も輝くのは滅びと誕生の時。

なのはが齎そうとしているのは滅びの光だ。

 

「まだ・・・まだ、私は負けられない!!」

 

なけなしの力を振り絞ったフェイトがバインドブレイクに成功する。

なのはが耐えたなら今度は自分が耐えてみせる。

 

「【デュオ・ディフェンサー】!」

 

[バルディッシュ]の【ディフェンサー】とフェイトの【ディフェンサー】による二重の防御を展開する。

なのはは、その光景を直視しながら微塵も動揺しない。

ほとんど自らの魔力を消費せず、集束した魔法を後押しするためにトリガーを引いた。

 

 

「【スターライトブレイカー】!!」

 

 

 

 

―――まるで、星の光が堕ちて来たみたいだ・・・

上方から堕ちてくる集束型砲撃に、フェイトはそう感想を漏らした。

 

防御は初めから意味がなかった。

例えば甲冑を来た人間が居たとする。

刀や槍を通さないだろうし、素材によって銃弾も止めるだろう。

しかし、300mの高さから落ちて地面に激突したならば甲冑など意味を成さない。

 

同じ理屈だ。星の光を堕とし、フェイトごと撃墜する。

 

 

あたかも、フェイトが天から堕ち行く堕天使であるかのように―――堕ちて行く。

【スターライトブレイカー】を神の審判。

堕ちて行くフェイトは反逆の天使ルシフェルとして。

 

 

 

「フェイトちゃん!!」

 

フェイトの撃墜には成功したが、なのはのダメージが回復したわけではない。

時間が増すごとに酷くなる痛みを堪えながら、意識を失ったフェイトへ向かって飛ぶ。

倒すことは手段であって目的ではないから。フェイトを助けるために戦ったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが世界の選択か・・・」

 

「ごめんなさいねフェイト・・・やはり、貴女を連れてはいけないから」

 

「もう、俺から言えることはない・・・」

 

「分かっているわ・・・」

 

デバイスが掲げられ、紫色の魔法陣が展開される。

 

「デイオス・パテール――――」

 

「―――黒雲虚空に昇り―――」

 

「―――雷光四方に閃きたり―――」

 

「―――雷神の怨讐、全てを呑み干せ―――」

 

 

 

「【サンダーブラストO.D.J.】!!!」

 

 

 

 

 

 

その数秒の間、誰もが目を疑った。

それが何か分からなかったから。

 

 

それは、メハシェファと称された大魔導士の放つ広域攻撃魔法の本体。

特大の雷撃塊が八つ、周囲を囲むように出現した。

 

核爆発の閃光はこんな風なのだろうと思うような、強烈で凶悪な閃光と共に空間が雷撃に満たされた。

 

 

(フェイ・・ト・・・ちゃん・・・)

 

薄れ行く意識の中、なのはは最後までフェイトへ手を伸ばし続けていた。

 

 

 

 


あとがき(?)

 

分量はいつもの倍・・・疲れました。

先週から今日まで忙しくてまとも書く時間も取れなかったので一週間以上も掛かってしまいました。

できるだけ戦闘描写を入れないというコンセプトでしたが、終盤は流石に難しいですね。

そのくせまた登場人物増やしちゃったよぅ。

まぁ、そこは気にせずまっすぐにGO!

 

>八岐融

本編には一切登場しません。私の未発表オリジナルの主人公らしきキャラです。

生身の人間では人類で五本の指に入ります。え?勇次郎と殴り合いですか?できるんじゃないかな?

 

>四人の少女

分かる人に分かるネタです。彼女達もゲストキャラなので、継続して出てくるかは不明です。

いや、だってね・・・予定している登場人物が五十人を超えそうなので。

 

>スターライトブレイカー

詠唱ってどんな奴なのでしょうか?分からなかったので闇の書の詠唱を利用しましたが。

 

>サンダーブラスト

広域攻撃魔法第二弾。威力は『アースラ』を轟沈させるぐらい。むしろ対艦隊レベルですね。

凄いねオーバーSS。それはもう制限かけないと。逆を言えば、管理局のような小回りの効かない上にリミッターまでつけてるような連中よりも、高位魔導士の犯罪者のほうが強いんでしょうねー。

ちなみに詠唱は能の演目「鳴神」より。ちゃんと御神流正統奥儀と掛けてみました。

 

>ダメージによるショック死

なぜなに掲示板からの情報提供により推測。

人間、あまりに痛みが強いと心臓麻痺で死にますから。傷がなくても痛みを知覚し過ぎて死ぬという可能性を提示してみました。更に、場合によって痛みが傷を引き起こすという逆説現象も込みで。

今後、これはリバースの基本設定で行きます。実のところ、こうでもしないとダメージ描写があまりにも難しいんですよ。

 

 

物語は終盤に向かって加速しますが、また予定がずれました。戦闘シーンは面白いから調子に乗りすぎました。次回はインターバルっぽくした上で、時の庭園突入までになるかと。

ああ、リンディさんがまたまた腹黒く(プロット読みながら

 

それでは次回にまたお会いしましょう。





熱い二人の戦いだった。
美姫 「なのはも精一杯想いをぶつけたわね」
その結果があの魔法という辺り、やはり高町家の娘さんなのか。
美姫 「なのはとフェイトの戦いは一応の決着を見せたみたいだけれど」
いやー、次回もとっても気になります。
美姫 「早く次回が読みたいわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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