「騎士イオアネス」
名前を呼ばれて、四方戟を肩に掛けて座る騎士は顔を上げる。
その顔は騎士道物語に登場する高潔な騎士そのものという気品に溢れている。
「何かありましたか、騎士ジューダス」
名前を呼んだ身の丈ほどもあるツヴァイハンダーを握る騎士ジューダスは肯く。
「武装四課の局員8名の死体が確認されました」
「騎士ディアルムドの仕業ですね?」
「おそらく。我々の存在を知られるわけにはいかないため、詳細な情報は得られませんでしたが」
「いえ。彼の仕業でしょう」
騎士イオアネスは確信を持つ。
瞳にはその光景を見てきたかのような色を帯びさせる。
「流石と言うしかありません・・・もう二年になると言うのに、まだ逃げおおせています」
「無理もありません。彼は我らを率いる枢機卿として憧憬の的でした」
二人は至極残念そうにする。
騎士の中の騎士として、誰からも尊敬と畏怖を集めた偉大な騎士。
それがディアルムド=ウア=ドゥヴネ。
「しかし、彼らしいとも私は思います」
騎士イオアネスは立ち上がり四方戟を脇に抱える。
「騎士イオアネス」
「そう、咎めるような目で見ないでください。貴方もそう思いませんか?」
「・・・私は誇りあるベルカの騎士です」
まだ年若い神童の憮然としていて、苦しい言葉に騎士イオアネスは内心で苦笑を漏らす。
表立って苦笑すれば真面目な年若い少年は気分を害するだろう。
「我ら騎士は名誉と貴婦人のために・・・では、その二つのどちらかを選ばねばならない時に彼は迷わず貴婦人の手を取りました」
他の騎士の中には恋人のために節を曲げたと見る者達も居る。
だが、彼は名誉という自分を律するものではなく、恋人ではある貴婦人という他者を護ることにした。
「私は彼のその潔さ、決断に要した勇気・・・それが、とても羨ましい。泣きたくなるほどに」
「貴方は・・・」
騎士ジューダスは、瞳を輝かせながらも一抹の危うさを放つその姿に言い掛けて口を噤む。
―――では、何故貴方はこの任務に志願したのか?
聞いて返ってくる答えはとても恐ろしいものに思えた。
騎士ディアルムドと共に偉大な騎士として数えられるこの人の奥底にも、人に知られぬ“何か”が存在するのだろうか。
「だが、そんな彼を討つと言うのであれば、それは私でありたいとも思っています」
「そうですか」
きっと、それは本音なのだろう。渇望とも言える、騎士のもう一つの本能。
「それでは、そろそろ移動しましょう。見つかると厄介です」
「準備は完了しています」
二人はデバイスを待機モードへ戻すと踵を返し、転がっているものを悠々と避けながら歩く。
一面を覆う、反統合派軍の魔導士の死体は吹き曝しのまま、意味のない二人の敬意を払われながら放置された。
その話がされたのは三時のおやつの時間。
いつものようにリンディが水分よりも糖分の方が多そうなお茶を美味しそうに飲みながら切り出した。
「フェイトさん、明日は買い物に行きましょう」
「え?あ・・・はい」
フェイトは前フリなしに切り出されるも、条件反射で頷く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
クロノは額を押さえているがフェイトにはその意味が分からない。
「どうしたの?」
「・・・せめて、何を買いに行くかぐらい聞くようにしよう。フェイト」
「あ、うん、そうだね」
返事はするが、本当に分かっているのか怪しい。
言われたことを素直に聞くというのは美徳だろうが、フェイトの場合度が過ぎている。
リンディは仕方ないと割り切っているが、クロノはやきもきしている。
「説明しなかった私も悪いんだけれど・・・裁判について、この前の公判は覚えてるわよね?」
「はい」
「タールホファー参事官の主張に従い、貴女は私達以外の監督官に監督下に入ることになるわ」
現在、フェイトの身柄はハラオウン家の監督下ということになっている。
素行に問題のない未決者は収容しないため、逮捕した執務官が身元引き受けすると制度に定められているためだ。
監督方法については執務官に専任事項なので自由である。
クロノはアースラを乗艦として活動する広域担当であるため、肝心のアースラがドッグ入りしている今は開店休業中。精々、本局にある自分のデスクで面倒な書類仕事を片付け、後は家でくつろぐ程度。
そのため、同じく暇なリンディと共にフェイトをハラオウン家で監督している。
「すいません・・・わたしが決められないから」
フェイトは申し訳なさそうに頭をちょこんと下げる。
「まぁ、仕方ないわね。逆に簡単な気持ちで決められても困ることでもあるわ」
フェイトは嘱託魔導士の試験を受けるかまだ決めていない。
一応、試験についての詳細や筆記の傾向と対策などもやってはいるものの肝心な受験については煮え切れていない。
そこでゼオンが出した早期結審のための方法が監督官の選任。
事件の捜査に当たったリンディやクロノ以外の信用できる第三者の目から見ても、フェイトに問題がないことを証明してもらおうというものだ。
「それで、フェイトさんはこれからしばらく隣の空き部屋でその人と暮らしてもらうことになるの。そのために必要なものを買い揃えに行きましょう」
「・・・ということだ。大きな家財道具や電化製品は向こうが用意してくれるんだが、その他については自分で揃えるようにと」
「でも・・・私、お金持ってないから」
「あ、それは大丈夫。ちゃんと経費で落とすから」
「・・・・・・」
クロノは途端に渋い顔になる。
リンディも軽く言ったものの、内心冷や汗かいている。
二人の脳裏には、クイッと眼鏡を押し上げながらキラリと光を反射させるレティの姿が。
海軍人事統括官を兼務する事務方の女王様は、経理についても口煩い真面目さを発揮されている。
―――経費は大事にしなさい
「あの・・・本当に大丈夫なの?」
あまりにクロノの渋い顔に、心配になるフェイト。
「あ、ああ。大丈夫だ・・・フェイトが心配することじゃない」
クロノも仕事の鬼と化したレティは怖い。
「フェイトさんは、お金の心配をする必要はないから買い物を楽しみましょう」
「は、はぁ・・・」
力説するリンディはちゃんとレティに怒られない方法を用意している。
監督官になる人物から「必要なら全部こちらで費用を持つ」というお墨付きをもらっている。
「買い物・・・」
一瞬、過去の映像がちらつく。
脳裏からそれを振り払い、ツーテールが揺れる。
「もしかして・・・買い物、嫌だったかしら?」
「ああ、いいえ!そうじゃなくて・・・」
―――買い物はどうしても思い出と直結してしまうから
それを慣れた作り顔で誤魔化してしまう自分が、嫌いだ。
「それじゃ、明日は買い物に行きます。私達以外にも、エイミィやレティ、その子供も一緒だから」
「レティさんのお子さん・・・?」
「・・・良いこと、フェイトさん」
「は、はい」
何故かズズイッと迫り出してくるリンディ。ちょっと真面目な顔をしてる。
「レティには、言ってはいけないNGワードがあるから覚えておいてちょうだいね?」
「え、はい・・・わかりました」
「・・・あまり余計な入れ知恵はしないほうが良いと思うけど」
「素直じゃないわね、クロノは・・・もう、フェイトさんぐらい素直な子なら良いのに」
迫り出した体勢のままフェイトを抱きしめると頬擦りする。
砂金のような金髪はさらさらで気持ちよく、小さくて柔らかい感触は抱き心地満点。このまま抱いて寝たいほどだ。
「ああもう。いいわー、和むわー・・・フェイトさんこのままウチの子にならないかしらね・・・」
「あ、え、あーっと・・・あははははは」
どう反応して良いのか分からないフェイトは取り合えず苦笑いで済ますことにした。
その時、クロノの目が尋常ではない真剣さを宿してリンディと視線を交わしていることには気付かず。
都市が丸ごと入っている本局には当然ながらショッピングモールだってある。
人間が生きていく上で必要なものだけではなく、生活を豊かにすることも所謂福利厚生として必要であるためちゃんと娯楽施設だってある。この辺は世界間の文化の差はあれども、大体どこでも一緒である。
これは極秘事項であるが、現在の時空管理局本局は自閉モードに入っているためスタッフは通常業務のみに従事している。
現在、ミッドチルダで勃発したクーデターにより地上本部は大混乱に陥り、周辺世界の駐屯地も損害を受けていた。『ウロボロス』と名乗る集団による武装蜂起は、後に『ディジョンの乱』と呼ばれることになる。この『ウロボロス』は高度な電子的・魔法的な干渉技術を用いたサイバーアタックを敢行するため、その対策として本局を防衛するために自閉モードに入っている。
通常業務のみであるため、実のところスタッフは通常シフト以外では暇になる。
いかに管理局のスタッフとは言え人の子。時間ができれば普段できないことを思い切りしたくなるのが人情というものだろう。
何が言いたいかと言うと、平日昼間にも関らず本局の市街地区画は人でごった返しているということだ。
「凄い人出ねー」
「何を悠長に言ってるの。しゃきしゃき歩かないと後が支えてるのよ」
先頭を歩く提督コンビ・リンディとレティは人ごみを切り抜けるように歩く。
一方の子供組の方は進むだけで四苦八苦している。身長が低いというのはそれだけで、人込みの中で苦労することになる。特に、最近自分の身長の低さに悩みを感じ出したクロノは。
「君も大変だな、グリフィス」
「いえ、慣れましたから」
提督の息子コンビであるクロノとグリフィス=ロウランは、何となくシンパシーを感じてしまう。
それでもきっぱりと“慣れた”と言えるグリフィスが、少し羨ましい。
両手にしっかりと荷物持たされても涼しい顔している二歳年下のグリフィスは、親とそっくりだった。
今日の買い物もフェイトの買い物という名目に託けたショッピングである。
レティが居るおかげでちゃんと必要なものも揃っているが、これでレティが居なかったらと思うとクロノは軽い頭痛に見舞われる。
だが、そのレティの予定表も辟易するものだが。きっとレティは遠足の栞とか書かせたら分刻みのスケジュールと「おやつは300円まで、バナナはおやつに含みません」などと書くのだろう。
「あ〜、あの服可愛いなぁ〜」
フラフラ〜と、誘蛾灯に誘われる羽虫のようなエイミィ。
クロノはその服の裾をむんずと掴んで引っ張る。
「これで五回目だぞ・・・」
「え〜、いいじゃん見て行こうよ〜」
「えぇいっ!僕の苦労も分かってくれ!」
「ブーブー!」
「ブーブーじゃない!」
「にゃー」
「にゃー、じゃない!」
にゃー、って何だ。にゃーって。
「クロノのセクハラ上司」
「なっ!?」
反射的に手を放してしまう。
これも反射的にグリフィスの方を向いて、
「お、僕は断じてセクハラなんてしていないぞ!?」
「そうですか」
「ほ、本当だからな!?」
「分かりました。信じます」
何故かエイミィではなく、グリフィスに必死の弁解をする。
脈絡の分からないグリフィスは勢いに押されて返事だけはしているが、今一話が分かっていない。
「おや〜?疚しいことがないのに慌てるってことは、クロノってば心の中で何を考えたのかにゃ〜?」
「か、勝手に変な想像するんじゃない」
「おやおや〜?私は一言も“変な”な〜んて言ってないのに・・・クロノってば、むっつりすけべぇ」
「ぐぅ・・・」
エイミィの揚げ足取りにクロノはぐうの音も出ない。
下手に言い返せば全部曲解されかねない。
「く〜ろ〜の〜♪」
尖った尻尾が見える。
黒い蝙蝠翼が見える。
触角のような・・・アホ毛は元々あった。
とにかく、邪なオーラをエイミィが放っている。
グリフィスがフォローしてくれるとは思えない。
ここはやはり、戦術的転進するに限るだろう。決して逃げるのではなく、転進である。
もっと性質が悪いかもしれないが、クロノは前の二人に追い着こうと足を速め、人の間をすり抜ける。
2歳年下のグリフィスとそう変わらない身長だと、14歳としては低い部類だろう。おかげで、人込みで人にぶつからないように気を遣わなくてはいけない。
成長期はまだ続くだろうし、16歳ぐらいから伸びる奴だっていると希望は持っているが何となく気分は良くない。幸いというか、フェイトやなのは、ユーノと比べれば・・・・
「・・・フェイト?」
何だかすっかりと場の雰囲気に呑まれて忘れていたが、最後尾になってしまっていたフェイトはどうしたのだろう。人込みに酔いかけていたが、大丈夫だろうか。
そう思ってクロノは振り返るが、そこには見たことのない他人が大勢行き交うだけ。
後ろに置いてきたはずのエイミィやグリフィスの姿が見えない。何かの悪戯かと思って目を凝らして見るが、やはり見当たらない。フェイトとアルフは言わずもがな。
「はぐれたのか・・・?」
これは拙いだろう。この人込みで離れると見つかりにくい。
早く知らせた方が良いだろうと、前を向くが、
「・・・・まさか」
前方にもリンディやレティらしき後ろ姿は皆無だ。
隙間を縫って進んでも、やはり居ない。
「・・・・はぐれたのは、僕の方なのか?」
クロノ=ハラオウン、一生の不覚だった。
ショッピングモールの吹き抜けにある休憩スペースで、レティはちょっと落ち込んでいた。
「私が一緒に居ながら、迷子を出すなんて・・」
「仕方ないわよ。この人出なんだから」
けろっとした顔のリンディ。
レティは眼鏡の位置を直しながら、溜息を吐く。
「あのね、クロノ君だけならまだしも―――別にそれが良いって意味じゃないけれど、フェイトさんまで居ないこの状況は拙過ぎるのよ?」
ほぼ無罪確定同然であっても、フェイトはまだ審理中の未決者なのだ。
これが監督不行き届きで行方不明(迷子)になるというのは非常に拙い。表沙汰になれば裁判への悪影響は免れない。万が一、犯罪に巻き込まれたり、逃亡を図ったりすれば即アウト。実刑の可能性だって出てくる。
「大丈夫よ。フェイトさんは自分から人を傷つけたり、逃げたりしないから・・・」
人を傷つけることの辛さを知っている子だ。
それに、もうフェイトにはどこにも行く所がない。唯一と言えるかもしれない、なのはとの絆を捨てるようなこともしないだろう。
少し物悲しい理屈だが、リンディはフェイトがそういうことをしないと信じていた。
「そうかもしれないけれど、それとこれは別よ」
一方のレティはリンディに釘を刺しておく。
結果がどうあれ、今の状況が拙いことに違いはないのだ。
「【ロケーション】で探さないんですか?」
「【ロケーション】を使うと、使ったことに関する情報は局の方にも伝わるようになってるの。クロノには掛かってないし、フェイトちゃんに使っても今の状況が局に知られちゃうの」
仕事の時の顔に戻ったエイミィが言う。
少し調子に乗りすぎてクロノをからかい、フェイト達のことをおざなりにしたことの責任を感じていた。
「広域探査を使えれば良いんだけど、私達今日は非番だからね」
管理局のスタッフと言えども、職務以外での魔法の使用は原則禁止されているのだ。
「・・・足で探すしかない、ということですね」
「そうなるわね・・・アルフさんを健康診断のために参事官の所へ生かせたのが痛いわね」
クロノは携帯電話の電源を切っている。向こうから掛かってくるのを待つべきだろうが、携帯を持っていないフェイトはやはり探さなくてはならない。
本当ならこの人込みを探し回るのは避けたい。そうも言っていられないが。
「私とエイミィ、レティとグリフィス君に別れましょう。一通り探し回って見つからないなら携帯へ連絡してから、ここに戻ってくる。それでいいわね?」
「いいわ・・・私達は念のために上の階を回ってくるわ」
「お願い」
リンディの真面目な表情に、レティは少しだけ嬉しそうにしてからグリフィスと共に人込みに紛れていく。
「さぁ、私達も探しに行きましょう」
「はい・・・リンディさん、そっちはレティさん達が行った方向です」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「や、やあねぇ、軽い冗談よ、冗談」
嘘だ。絶対に嘘だ。
ナチュラルに間違えた。
っていうか、冗談言ってる場合じゃないでしょう、貴女。
「そうですよね・・・冗談ですよね〜」
そんな内心はおくびにも出さず、目一杯話を合わせるエイミィ。
世慣れしている16歳だった。
「気分は悪くないかな?」
ベンチに座っていたフェイトは言葉を掛けられる。
「はい・・・大丈夫です」
「そう、良かった・・・」
声を掛けた熟桃色の髪をした女性は隣に座る。
熟桃色のショートヘアに若草色の瞳。白黒のシンメトリーブラウスと、ミニスカートにパレオのようなロングスカートを重ねている服装は、凛とした顔立ちと合わさって大人の魅力を放っている。
「ここが管理局の本局だからって、皆が皆、善人とは限らないからああいうこともあるんだ」
「・・・そう、なんですね」
女性が持ってきた飲み物を、お礼を言いながら受け取る。
何をチョイスすれば良いか分からなかったから、と渡されたものはオレンジジュースだった。
本人はこれが好きだからと小さく照れ笑いしながら苺ミルクを飲んでいる。
「あの、ありがとうございました」
「うん。どういたしまして・・・お礼を言われるほどのこともでないけれど」
さっきまで、フェイトは所謂チンピラに絡まれていた。
天下の管理局のお膝元である本局の市街地にもそう言う連中はやはり居る。
くだらない理由で難癖つけ、困るフェイトを笑いものにしていたチンピラをこの女性が追い払ってくれた。
「えっと・・・その・・・」
「ああ、すまない。うっかり、言いそびれてしまってね―――私の名前はディアーナ。ディアーナ=シルヴァネールだ。名前で呼んでもらって構わない」
「私はフェイト。フェイト=テスタロッサです。私も名前で呼んでください」
「テスタロッサ・・・・?」
「どうか・・・しました?」
「あ、いや・・・気にしないで。フェイトというのは、良い名前だ」
「あ、ありがとうございます・・・」
社交辞令でも、ディアーナはそれを感じさせない自然さで口にするのでフェイトも照れてしまう。
「あの・・・」
「うん?」
「ディアーナさんも、凄く・・良い名前だと思います」
「ありがとう。嬉しいよ」
照れて桃色になっていたフェイトの頬がさらに赤味を帯びる。
同性のフェイトから見ても、大人のディアーナの笑みはドキリとさせる魅力があった。
「今日は、一人で来たの?」
「あ、いえ・・・」
言葉に詰まる。
リンディ達のことを何と言えばいいのだろう。
家族や友達とも違う。親切にしてくれるが、それも仕事だからかもしれない。
言い表すのに適切な言葉は・・・。
「・・・知り合いの人と一緒に来ました。でも、人込みではぐれてしまって・・・」
「この人出だからね・・・休みの日にこうして出かけたくなる気持ちは解かるかな。でも、今はここも、そう安全とは言えないから、気をつけて」
「・・・ディアーナさんは、管理局の人なんですか?」
「ちょっと、違うかな。一応、管理局にも嘱託魔導士として登録してあるけれど、私の仕事は全権大使だから」
「全権・・・大使?」
「知らないか・・・管理局が次元世界レベルで活動しているのは、知ってると思う。その中でも、管理局がその存在を明かして次元世界へ接触することがある。この時に管理局に加盟するかは自由だけれど、何かあったときに管理局との折衝役が必要になる。今のところ私の世界は加盟するつもりはないから、折衝役として私ともう一人が派遣されているんだ」
管理局の唱える理念と正義は確かに素晴らしい。
だが、それは一面で管理局に加盟する世界を縛る枷ともなる。特に、ディアーナの世界のように世界戦争が終結し、これから纏まらなくてはならない時期に管理局からの干渉を受ければ団結に亀裂が入りかねない。
管理局もその辺の事情は察してくれる。強引な干渉により再び世界戦争を誘発すれば、ロストロギアの暴走を招く可能性もあるからだ。
「ディアーナさんって・・・凄い人なんですね」
フェイトは純粋に感心したのだが、ディアーナは微苦笑する。フェイトの感心に傷つけられたかのように。
敏感にそのことを悟ったフェイトは慌てる。
「あ、あの・・・私何か悪いこと言っちゃいましたか・・・?」
「いや・・・うん、悪いのはフェイトじゃないんだ。ただね、私は人が思うほど凄い人間だと自分のことを思えないだけで・・・」
後悔か、自己嫌悪か、ディアーナの表情は過去に曇る。
けれども、それに沈み込むことなく、ディアーナは心配そうにオロオロしながら、やはり顔を曇らせるフェイトを見る。
「君も、私と同じ経験があるのかもしれないね・・・」
「え・・・?」
「・・・これは、失言だったね。私は以前、本意ではない戦いをしたことがあってね・・・いや、今も別の意味で今もそうなんだが・・・自分の愚かさが忘れられないんだ」
「本意ではない戦い・・・ですか?」
「・・・うん。恥ずかしい話だけどね、私は大切な人と・・・戦ったんだ」
「!?」
ギクリとさせられる。
フェイトにとって、それは忌避するガルムとの戦いを想起させる。
「初対面の人にする話でもないね・・・話を変えようか」
「い、いえ・・・あの、不躾ですけれど、その話を・・・」
「・・・聞きたいの?」
歯切れの悪いフェイトに、ディアーナは困った風にする。
話すことにそう抵抗があるわけでもない。今思えば恥ずかしい面も多いが。
それでも躊躇うのは、歯切れが悪いながらも真剣に思いつめているかのように澱みを浮かせる瞳。
軽々しく“大変”では済ませられない人生をこの子も送ってきたと分かる。
自分で思うよりも根がお節介で母性的だが、不器用なディアーナは困りながらもフェイトを好ましく思う。
“大変”で済ませられない人生でも、この子は曲がらずに人を気遣う優しさを持てている。
「話してもいいけれど、一つだけ条件」
「条件・・・」
「できることなら、どうして聞きたいのかを教えてほしい。無理にとは言わない。言いたくなくても、答えるけれど、ね」
「・・・二人は、何を話しているんですか?」
「さぁ・・・女の子同士の会話を詮索するのは、野暮じゃないかな?」
フェイトとディアーナが見える位置にあるケーキショップのテーブル。
クロノはクレヴァニールと名乗る朱髪の少年――青年と少年の狭間――と一緒に相席していた。いや、相席させられていた。
迷子になったクロノは、いち早くフェイトを見つけることに成功したがちょうどディアーナと話しているところだった。ディアーナの正体を知らないため声を掛けるべきか迷っているところに、クレヴァニールに後ろから声を掛けられた。
自分の知り合いだから大丈夫だと、赤の他人には何の安心材料にもならないことを言いながらこうしてケーキショップまで連れ込まれてしまった。その動きは、体術も学んだクロノの抵抗が吸い込まれるように無効化されてしまうもの。
店員がクレヴァニールの注文したケーキセットをクロノの分まで運んでくると、テーブルに置く。
「ありがとう」
「いいえ、ごゆっくりどうぞ」
まるで敵意の無さそうな笑みを浮かべて店員を労う姿は、悪者には見えない。
クロノも執務官としてそれなりに見る目は養っているつもりだ。
逆にこういう人畜無害そうな相手ほど油断できないと思っている。
クレヴァニールは注文したブレンドコーヒーのカップを持つ。
「信用しろと言われてできないだろうが、せめてその敵意の篭った目は止めてくれよ。ケーキが不味くなる」
「・・・何者なんですか?」
「俺?」
ケーキに取り掛かろうとしていたクレヴァニールの手が止まる。
「クレヴァニール=リヒテナウアーっていう、甘い物が大好きな通りすがりだ」
「通りすがりがこんなことするわけないだろう・・・・・」
その一言だけで、ケーキをこの上なく幸せそうに食べるクレヴァニールがリンディやエイミィの同類だと分かる。
「通りすがりなのは事実だ・・・ディアーナと待ち合わせしてたんだが、取り込み中だからな。お互い、男同士でこういう店というのも乙なものだろう?」
「・・・で、どこの所属の人なんですか?」
ガン無視で、クロノは尋ねる。
普段の礼儀正しさもここでは発揮されない。
「所属?・・・管理局に籍は置いてないんだが」
「だったら・・・」
「第167干渉世界ノイエヴァールの全権大使が俺の今のところの仕事だ」
「全権大使・・・」
クロノはフェイトと違い、その役職の意味を理解している。
「そんなに大層なものでもないが・・・こっちの世界は管理局と比較的友好な関係を築いてるからな」
「それで、何のためにこんなことを」
「別に。深い意味なんてないさ。言っただろう。野暮なことはするものじゃない」
「・・・彼女には事情があって、不特定な人物と接触することは好ましくないんだ。あまり余計なことはしないでくれ」
裁判も重要な時期に来ている。
全権大使という役職は理解していても、本質的にクレヴァニールやディアーナが何者なのか分からない今、警戒を解くわけにはいかない。
「なぁ・・・えぇっと、名前なんだっけ?」
「・・・クロノです」
「そういう名前なのかクロノ。それ、何の意味がある?」
「は?」
主語の欠けた言葉。意図を掴みかねる。
「あの子がどういう立場なのか、俺らは知らないし、別に知りたくも無い。教えてくれるというのなら聞くが・・・だが、クロノの“してやっている”ことは彼女を幸せにできるのか?」
「なっ!?」
いきなりの言葉に、クロノは絶句するしかない。
それも頭から押さえつけるような、高所から見下ろすような言葉が癇に障る。
「事情を知らない人間が勝手なことを言わないでくれ」
搾り出すように、不機嫌さが間に滲む。
しかし、クレヴァニールは真剣に取り合うことなく、ケーキを平らげてコーヒーへ手を伸ばす。
「正論だよ。同時に、今あの二人がやっていることの事情も知らずに余計なことをするなと言わんばかりの態度を取るそっちも、同じじゃないのか?」
「それは詭弁だ。僕は彼女を知っている」
「まぁ、どの辺を指して知っているかどうかは置くとして―――」
ドキリと、心臓が高鳴り、キュゥッと縮む。
一言で、クロノは足場を軽く崩された。
自分はフェイトの何を知ったつもりでいたのかと。
いや、分かっている。頭をクレヴァニールに分からないように振って、嫌な考えを振り払う。
「―――伝える術はないが、俺はディアーナがやることなら安心して見ていられるから、こうして君を誘って悠長にケーキを食べてる」
「そういう意味で言ってるんじゃない!彼女らがどうこうじゃない事情が―――」
椅子を蹴倒しそうな勢いで立ち上がる。
「だったら、今すぐ駆けつけてやればいいだろう?」
「!?」
「何で俺なんかとこうして悠長に議論してる?」
見下ろす形になったクレヴァニールの瞳が、心底疑問だという瞳で見上げてくる。
言い返せない。その通りだ。自分はどうしてこんな風に、莫迦みたいな苛立つ話をし、興奮している。
「迷ってるんだろう?」
「・・・・・・」
「まぁ、それは、俺がどうこう言うこともでないからな・・・・好きにすればいい。代金は俺が払うから、今から行くなり、そのケーキを食べるなりすることだ」
ケーキは食べないなら俺が食べるからと冗談も付け加えるが、クロノには聞こえていない。
ストン、と椅子に座る。何故か、フェイトへと足が動いてくれない。
毒気を抜かれ、更に力まで奪われたかのように。
動かないクロノをクレヴァニールは、気にもせずケーキを追加注文する。
店員もあえて二人の関係を気にせず戻っていくと、また二人だけの切り取られた空間が生じる。
「行かないのか?」
二個目のケーキを半分食べたところで、クレヴァニールが尋ねる。
「止めないんですか?」
「止めるも何も・・・止めても行くときは行くだろう?そんな権利はないしな」
「本当に、何もないんですか?」
「疑り深いな。そういうのは嫌いじゃないが・・・なぁ、少年―――俺もまだ大人でもないが、今しなければならないことは優先した方がいいぞ?」
分かっている。フェイトを連れて、リンディ達と合流することを優先しなければならない。
けれども、引っかかるのだ。クレヴァニールの言うように、それがフェイトのためになるのか。
裁判で自由にしてやれば、執務官としての役目は終わりだ。その先は個人の自由・・・・だが、それが本当にフェイトのためになるのか?
自由に意味はあるし、フェイトの利益にはなる。しかし、その先にフェイトは幸せになれるのか。
クレヴァニールの連れ―――ディアーナとの会話にこそ、フェイトが幸せになる答え乃至ヒントがあるのではないか?
それを邪魔していいのか?
邪魔した果てに、裁判を終えても日常的な幸福を得られないフェイトを残すことに後悔はないのか?
それが―――クライドと約束し、自分の誓約である『立派な一人前の男』のすることなのか?
クライドなら、そんなことをせずにフェイトも救えるのではないのか?
自分は・・・何か途轍もなく大きな勘違いをしているのではないのか?
「・・・俺が言うのも何だが、できればこんなところで落ち込まんでくれ・・・」
コーヒーを一口。苦笑いのクレヴァニールは決して、コーヒーが苦いわけではない。
周囲のお姉さま方の視線がキラキラと輝いているのが鬱陶しい。
やましいことはないのに、こういうときの視線が嫌に突き刺さるのは万国共通だ。
別に別れ話でも三角関係もでないんだが。
「・・・店、出るかな」
まだ三個目を食べていのは名残惜しいが、ディアーナ達の話が終わったらしい。
「私は・・・尊敬する叔父や、好きな人と戦ったことがあるんだ」
言いにくそうに、ディアーナは話し始めた。
「国を代表する騎士―――ロイヤルガードと言うんだが、私はその一人としてその二人と敵対することになった。国王の命令、多くの将兵を統率する身として私情は殺して」
叔父に仕込まれ、練磨を続けた剣技にそれなりの自負があった。今でもおそらく自分の世界では五指に入る使い手だろう。
「けれどね、私は好きな人―――クレヴァニールと言うんだが、彼には勝てなかった。手加減しているわけでもない。正直、私のほうが彼よりも勝っている点が多い・・・それからね、気付かされた」
「何を・・・ですか?」
「・・・何て言うんだろうね・・・こう言えばきっと彼は怒るだろうが・・・背負っているものの違い、かな?」
彼の運命はあまりに重過ぎた。
屍山血河なら、自分も越えて来たがそれ以上に。
「私は、国しか頭になかった。だが、彼は世界の事を考えていたんだ。幼い頃から、義父からそう教育されていたらしい。それ以上に、背負わされたものもあったんだろう・・・それでも、私と同僚は諦めきれずに戦い・・・同僚はまだ小さな養女を残して逝ってしまったよ」
「・・・・・・」
“残される”という言葉に、フェイトは敏感に反応する。
「でも、私が負けたと思ったのはね・・・彼が同僚の養女に自分が養父を殺したのだと名乗り出たことなんだ」
「!?」
「驚くよ、普通は。私も度肝を抜かれたよ・・・同時に烈火の如く怒った。周囲は隠していたからね。戦災孤児で、ようやく手に入れた安寧を壊した奴が自分から名乗り出るな、と」
当然のことだった。養父との生活に生きる希望を見出した少女に、あまりに酷な仕打ちだ。
「しかし、誰もが彼を責める中で、その子だけだが礼を言ったんだ・・・私達の方が何も分かっていなかったんだ。その子にだって分かっていることなのに、隠して騙して、傷つけたのは私達のほうだった」
「それで・・・どうなったんですか?」
「結果的にだけど、私は彼と一緒に戦うことにしたよ・・・でも、その後も、彼の凄さと同時にその苦悩と葛藤も見せられた・・・私なら耐えられないほどのね」
ディアーナの表情は少し寂しそうに見えた。
苦悩と葛藤の中に居る、愛している人と同調するかのように。
「義理とは言え、父と姉を殺され・・・親友を犠牲にし、その果てに恩人と兄同然の人物を世界のためとして、殺したんだ」
「そんな・・・どうして・・・」
「戦争だった・・・ということもあった。私達には天敵も居た。そして、人々は彼にそれら全てを解決する役割を求め、彼もまたそれを受け容れたんだ」
本当の理由は分からない。クレヴァニールも語ってくれない。共に戦っていた仲間も知らないだろう。
ただ、黙って笑うだけだ。それが寂しくもある。
「大切な・・・大切な人と戦う気持ちって、どんなものなのかな・・・」
辛いなら、誰にだって言える。しかし、それが答えではないことを知っている。
フェイトにとって、ガルムと戦うことは恐怖を超えた絶望。
一番欲しかった手を差し伸べてくれたガルムから、手を振り払われることだけは駄目だ。
欲しいのは、それが乗り越えるべきことなのか、それとも逃げてもいいことなのかの答え。
そして、もしそうなったときにどうしたらいいのか。
「・・・正しいか、どうかは分からない。だけど、私は戦うべきなんだと思う」
「・・・どうしてですか?」
「フェイトが、自分が信じる道を進んだ末に戦うなら、それはフェイトの大切な人にとっても喜ぶべきことだから・・・かな?」
「え・・・?」
ガルムにとっても喜ぶべきこと?
意味が理解できない。どうして、ガルムが喜ぶのか。
「フェイトに未来をくれたのなら、フェイトの信じた道を応援してくれる。そして、自分と戦うことを決意するほど、信じた道ができたのなら・・・親のような存在としては嬉しいんじゃないかな?」
「あ・・・・・」
じわりと胸の奥の氷から水滴が流れる。心を縛る恐怖という名の氷が溶け出した兆し。
「彼からの受け売りなんだけどね・・・『寄り掛かるべき人ではなく、寄り掛かることを不要にさせる人。それが“親”なんじゃないか』・・・そう言ってたんだ」
ガルムが望んだのは光ある未来。
友達を作り、笑い、喜び―――誰にも胸を張って生きていける幸せな時間。
嘱託魔導士になるかどうかではなく・・・仮になったとしても、その先に自分の信じる道があるのなら・・・ガルムは決して否定しない。戦うことは辛くても、その戦いに掛けるべき信念があるのなら・・・。
―――ある人に魚を一匹与えればその人は一日の食を得る。
―――魚の取り方を教えれば、その人は一生を通して食を得る
ガルムの言葉。
クレヴァニールの言葉と似ている気がする。
戦うことになるかは分からないけれど、信じた道を進むことがガルムへの「ありがとう」なのかもしれない。
胸の奥の氷が、溶けて水となり流れていく。
フェイトの雨が降りそうで降らない曇天のような表情に、一条の晴れ間が指す。
我知らず、瞳の色から澱が失せて綺麗なルビー色が戻る。
「少しはために、なったかな?」
変化を敏感に感じ取ったディアーナは、苺ミルクが入っていた容器を潰す。
「はい・・・ありがとうございます」
「そう。私なんかの話で少しでもタメになったのなら、良かったよ」
「そんなことありません。凄く、参考になりました」
「こちらこそ、ありがとう・・・・すまないけれど、さっきから随分と人を待たせてしまっているようなんだ」
ディアーナはそう言ってベンチからも見えるケーキショップへ視線を向ける。
店の外でクレヴァニールがクロノを連れて立っている。
「あの・・あの人が好きな人なんですか?」
「うん・・・私の、片想いになりそうなんだけどね・・・」
「え・・・?」
「なんでもない、独り言だよ」
ディアーナは容器をゴミ箱に捨てる。その仕草が、フェイトには寂しさを誤魔化しているように見えた。
「そうだ・・・また、何かあったらここに連絡をしたらいい」
言って、一枚の名刺を渡す。
「いいんですか?」
「いいよ。恥ずかしい話もした中だからね・・・それじゃ、またいつか会えるといいね」
ディアーナは精一杯のお茶目で、軽くウインクしてから近くまで来ていたクレヴァニールと一緒に雑踏へと消えて行った。
ショッピングモールでの迷子事件から一週間。
クロノがこのネタでからかわれることもようやくなくなった頃、フェイトの監督官が来る日となった。
まだ完全に吹っ切れたわけではないが、フェイトは嘱託魔導士を受ける気に少しだけなっていた。
道を探すために。
だから、今日のことも新しい出会いと発見があるのだと切り替えて待っている。
ハラオウン家の隣の部屋は同じ間取になっているので、勝手は同じだ。しかし、先に送り込まれてきた監督官の荷物を見るため相当変わり者らしい。ちょっと不安。
「ねぇ、その監督官ってどんな人なの?」
この前の健康診断で子犬フォームをゼオンから教えてもらったアルフは、人形態のアダルトな姿ではなく若干幼い姿になっている。まだ練習中だが、将来的にはフェイトと同じ年齢まで下げることができるようになるらしい。
「私も詳しく知らないけれど、凄く有名な人なんだって」
「有名?」
「伝説的な人らしくて・・・管理局でも五本の指に入る魔導士だってリンディさんが言ってたよ」
アルフの脳裏に浮かんだの、この上なく気障な優男かムキムキマッチョメンなゴリ男という極端なイメージ。魔法に筋肉は関係ないが、お約束として。
「まぁ・・・アタシはフェイトに良くしてくれんなら誰だって・・・いや、男は駄目かな?」
「え?どうして?」
「ほら、フェイトの好きなタイプって、絶対にガルムみたいな奴だろう?だったら、余計な虫がつかないように――――」
「そ、そ、そ、そ、そんなことなぃよっ!?
「いや、バレバレだから」
尻尾と一緒に手をパタパタ振る。
「だだだだだって・・・ガルムさんはそういう人じゃなくて・・・お父さんみたいで・・・ごにょごにょ―――」
「んー・・・その辺はアタシもよく分かんないけど、別にいいんじゃない?」
「でも、私そういう気持ちってまだ良く解らないし・・・ガルムさんだってきっと私みたいな子供じゃ・・・ゴニョゴニョ―――」
「そんなものなのかなぁ・・・」
やけに後ろ向きなフェイトに、アルフは首を傾げる。
もっと直球勝負でもいいと思う。単純にアルフが直球勝負しかできないからでもあるが。
「でも、ガルムと相思相愛だったらいいと思うでしょ?」
「それは・・・そうだけど・・でも・・・・」
ガチャ
ちょうどその時に、玄関のドアが開き人が入ってきた。
二人は目配せで話を中断して、口を閉じる。リンディが案内して連れてくることになっているが、最初はこの三人だけで会うことになっている。
((あれ?))
不思議なことに足音がしない。
確か・・・こんなことが以前もあったような気がする。
「「!」」
廊下を抜けて、現れた人物の容姿に二人は魂消て絶句するしかない。
翡翠色の瞳は切れ長で、腿まで届く漆黒の長髪を顔の左右に垂らし、残りを背中で一纏めに束ねたその女性は見事に黒一色の服装で、申し訳程度に赤い刺繍が線として入っている。
ニルヴァーナという人外の美貌には流石に及ばないが、それに次ぐかなりの美しさを持つ女性だが、二人が驚いたのはその美しさではなく顔だった。
顔の造りではなく、放つ雰囲気や瞳から感じるもの、表情の鋭さ・・・そのどれもが、ガルム―――高町恭也によく似ているのだ。
「貴女が、フェイト?」
ガルムの声がするかと思ったが、声は綺麗なソプラノボイス。
「あ、はい。フェイト=テスタロッサです。こっちが私の使い魔のアルフです。よろしくお願いします」
「お、お願いします」
何故か、初めて会う人とのドキドキの緊張感と違う緊張が漲る。
「こちらこそよろしく。私は絢雪御雫祇―――本当はメルセデス=ブロムクイストという本名があるのだけれど、絢雪御雫祇で構いません」
「えっと・・・絢雪さん・・・」
「御雫祇でいいですよ」
「じゃ、じゃあ御雫祇さん・・・どうして、名前が二つあるんですか?」
その質問には慣れているのか、御雫祇はボストンバックを置いてフェイトの視線に合わせて屈む。
「絢雪御雫祇は、私の一族が先祖代々受け継いできた名前で、こちらのほうが知られているからです」
「一族?」
アルフが分からないという顔をする。
「そう、一族です。少し特別な一族でして・・・ある技をずっとずっと昔から伝えているんです。その名前を――――」
「―――絢雪真刀流・小太刀二刀術と言います」
あとがき
もう一話続くようです(何故他人事
但し、更に内容が支離滅裂になる可能性があるので、飛ばして本編に行くかもしれません。
フェイトの嘱託魔導士試験なので、カットするかどうか。
今回も訳の分からない用語や人物が一杯。
取り合えず少しだけ説明を。
冒頭のシーンの騎士イオアネスは、実は第一部既出の人物です。
名前が違うという突っ込みがあるかもしれませんが、名前も実はそのままです。
騎士ジューダスは伏線ですが。
そして、遂にというか登場したグロランWの主人公クレヴァニール。変な奴です。
甘味好きと言うのはオリジナル設定。自分の世界では政治的にも男女関係においてもかなり大変な立場なため、全権大使として避難中。
最後に登場した絢雪御雫祇。
本物です。但し、ベルカ戦争時代で恭也と一緒に居て、後にラーズグリーズとなった絢雪御雫祇ではありあません。あれから5000年という月日の間に恭也から学んだ御神流を絢雪流としてずっと伝え続けた現在。第288代目の絢雪御雫祇です。
顔や雰囲気は恭也に似ていますが、アバターではありません。余談ですが、詳しい容姿は恭也と美由希を足して二で割ったような感じで、髪も美由希が下ろしたぐらいですかね。
公式で表すなら「(恭也×2+美由希)÷2」ですかね
あれ?美沙斗さんにそっくりな気がする?別に意識したけじゃないんですが。
それでは、次回にまたお会いしましょう。
今回はフェイトのちょっとした葛藤みたいなものが。
美姫 「色んなキャラも出てきたわね」
特に最後の絢雪というのがちょっと驚いたけれど。
美姫 「しかし、五千年も伝えてきたのね」
それだけの年月があれば、当然色々と変化しているだろうし、御神にはなに技とかもあるのかな。
美姫 「楽しみね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」