『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




第十一話 −INVISIBLE BONDS OF HE AND SHE

 

 

 

 

 

 

 

「で、事情を聞きたいんだけどその前に...do you want me to speak English? Or you don’t mind speaking in Japanese?」

 

「日本語でいいよ。皆もそのほうがいいだろうし」

 

「そう、ケイトもそれでいい?」

 

「はい、私も問題ありませんよ」

 

「じゃあ早速なんだけど...なんでここにいるの?」

 

ブリジットが落ち着いたあと、イチの机の周りには恭也と他の三年生メンバーも集まって話を聞きに来る。

そんな皆のことを紹介すると早速イチが事情を聞こうとする。

そんなイチをブリジットは少しふてくされたようにみると

 

「もうっ!私たちに自己紹介くらいさせてよ...イチのお友達の皆さん、ボクはブリジット・クローウェルっていうです。イチのこと追っかけてきたよ」

 

「私はケイト・グラハムと申します。ブリジットの同級生で付き人...いえ、友人です」

 

自分のことを友人だと言い直したケイトと、それを嬉しそうに聞いていたブリジットを見て恭也たちはなんとなく忍とノエルの関係を思い浮かべた。

ノエルも口にはあまり出さないが、忍のことをただの主人ではなく、もっとかけがいのないものだと思っている。

そんな二人を微笑ましげに見ていると、ブリジットが話を続ける。

 

「で、なんでボクたちがここにいるかだけど...さっき言ったとおりだよ?」

 

「...さっきって...僕を追いかけてきたってあれ?」

 

「そう!やっと日本語けっこうしゃべれるようになったし...ねぇ、うまくなったでしょ?」

 

「え、うん。もう普通にしゃべれるんだね...それにしてもケイト、今言ってたの本当?」

 

はぐらかされたブリジットは頬を膨らませていたが、ケイトは苦笑だけ浮かべて

 

「ええ、貴方が日本に帰ってからずっと自分も追いかけるとダダをこねまして...そして妥協案として日常会話に支障がなくなったら、と」

 

「おじさんたちが言っちゃったわけだ...まったく自分の娘なんだから...」

 

「ええ、ブリジットは本気で始めたらとことん突き詰めますから」

 

「ダディ、ボクのこと甘かったよ!」

 

イチとケイトがため息をついていたときに出たブリジットの不思議発言。

 

「...自分にあまかったといいたいのか?」

 

と恭也。

 

「そうかもしれないけど...何か辻褄が合わなくない?」

 

と忍。亜子はフリーズしていたところを隣のクラスに預けてきたらしい。

 

「ツジツマ?...Toothpickですか?」

 

さらに不思議発言を上乗せするブリジット。

理解できない恭也たちが頭をひねっていると

 

「ブリジット、おじさんはブリジットをあまく見ていた、というのが正しい日本語だよ。あとToothpickは爪楊枝。辻褄があわないっていうのは...They were saying that it doesn’t make sense

 

Oh!さすがイチね!やっぱり日本語は難しいね。まだまだ勉強しないとね」

 

ブリジットの言いたかったことを苦笑を浮かべながらもあっさりと言い当ててしまったことに恭也たちは唖然としていた。

 

「それで...まさか僕に会うために転校までしてきたの?」

 

そのイチの言葉にはっと気づいたようにブリジットとケイトをみる恭也たち。

たしかに彼女たちは風高の制服を着ていた。

しかしその制服をみたイチがふとあることに気づく。

 

「あれ?それ二人とも二年生の制服だよね?二人とも今一年じゃないの?」

 

「む、そういえば昨日のイチの話では二つ下のはずだったな?」

 

「イチ、ボクたちの事話してたの!?嬉しいなぁ〜」

 

変なところに反応してニコニコしているブリジットをみてケイトは呆れながら

 

「ブリジット、そうじゃないでしょう...まったくもう...私たちは日本で言う飛び級をしたんです」

 

「「「「飛び級?」」」」

 

「うん!イチとクラスメイトになりたかったんだよ。でももう少しってところでね...ケイトは大丈夫だったんだけどボクにあわせてくれたんだ」

 

と本当にただイチと一緒にいたくて日本まで来たことを証明するようににっこりと笑ってみせるブリジット。

そんな姿に恭也たちももうただ苦笑いを浮かべるだけだ。

そんなほのぼのしかけた空気を今まで忘れられていた彼女がぶち壊す。

 

「し〜の〜ぶ〜...ちょっとあんたひどいんじゃないの?ってイチ君!だからその娘たち!いったい誰なの!?」

 

「...亜子...とりあえず落ち着こうよ。彼女たちはオーストラリアにいたときの友達のブリジットとその友達のケイトだよ」

 

そうして忍たちも交えて今までの話を要約して亜子に伝える。

忍の意見もあって始めのブリジットがイチに抱きついたところは省いた。

少しでも亜子のパニックを最小限に留めようとした忍の努力だったが、話を聞き終えた亜子は明らかにブリジットにライバル心を出していた。

 

「じゃあなに?彼女はイチ君に会いに日本に転校してきたの?」

 

「そうだよ?だってイチに会いたかったんだもん。ずっと、二年間我慢したんだよ」

 

「そうです。最後のイチのいつでも遊びにおいでっていう言葉を聞いてから」

 

それを聞いて亜子はブリジットの覚悟を感じ取って黙り込む。

確かにイチに会いたいという気持ちだけで今までの生活を捨ててしまうほどの覚悟が彼女にはある。

自分と同じ人間に、同じ気持ちを抱いているのを感じてしまった亜子は、結局ブリジットに笑顔を向けて手を差し伸べる。

 

「...私は藤代亜子。よろしくね、ライバルさん」

 

それにブリジットは驚いたような顔を浮かべるが、すぐに笑顔で亜子の手を握る。

イチと恭也以外はそれを微笑ましげに見つめていたのだが、亜子はふと一つの疑問にぶつかる。

 

「...ねぇ、ちょっと気になったんだけど...ケイトは何で来たの?」

 

亜子の疑問に皆もはっとしたような表情でケイトをみる。

 

「そうだな、たしかにブリジットの友人というだけでは弱い気がする」

 

「そうよね。まさかあなたも狼村君に会いに来たの?」

 

「それはありえそうだな」

 

そんな突っ込んだ質問をする三人にケイトは少々うろたえて後退するが、そこにブリジットが爆弾を投下する。

 

「ケイトはケイトで会いたい人がいるですよ。ね、ケイト?」

 

いたずらっぽくいうブリジットにケイトは顔を少し赤くしながら恨めしそうな目を向ける。

そんな二人をみて忍と亜子は楽しそうに笑っていたが、恭也たち男性人は

 

「...俺はもうついていけん」

 

「...話の内容は高町だからしょうがないにしても...あのテンションについては同感だ」

 

「...四人いるけど、女三人寄れば、ってやつかな?」

 

「「...お前本当に帰国子女なのか?」」

 

とついていけなくなって会話が漫才じみてくる。

イチ以外にケイトが知っていそうな日本にいる男などあと一人しかいないのだが、それでも四人は異様な盛り上がりを見せる。

とかなり打ち解けてきたところでイチがふと輪から外れる。

何事かとそちらに目を向けたとたん、イチの胸に飛び込むように倒れる女子がいた。

 

「「あぁーーーーーーーー!!!!」」

 

当然のことのように悲鳴を上げる亜子とブリジットだったが、その生徒を確認するとブリジットたち以外はため息を付く。

二人が何事かとイチたちを見回していると、イチの腕の中に納まった少女が

 

「うぅ〜、すみませぇ〜ん...ってイチさん!わわっ!あ、あのまた助けていただいて...」

 

「ああ、それはいいですから...で、どうしたんです、那美さん?」

 

「それが転校生を探してくるように言われまして。外国人の方二人らしいんですけど...ってあれ?」

 

「たぶんこの二人だな」

 

「ああ、外人二人なんて転校生、もう一組いてたまるか」

 

「というわけであの二人だと思います。そうですか、那美さんのクラス...」

 

とそこでいったん言葉を切って考えると那美に向き直り、

 

「それではすみませんが二人のことをお願いできますが?僕の知り合いなんですよ...二人とも、クラスの人が迎えに着たよ」

 

「はいは〜い!ボク、ブリジットです!よろしくです!」

 

「ケイトと申します。よろしくお願いします」

 

「この人は恭也の知り合いの関係で知り合った神咲那美さんだよ。優しい人だから、よかったね二人とも同じクラスになれて...それじゃ那美さん、よろしくお願いしますね」

 

「え、あ、はい!任せてください!それじゃあ二人とも戻りましょうか?」

 

「は〜い、それじゃあイチ、See ya later!」

 

「それでは皆様、お騒がせしました」

 

と楽しそうに手を振って那美についていくブリジットと日本式にお辞儀をしてそれにつづくケイト。

そんな対照的な二人を見ながら恭也と赤星は

 

「...なんだか忍とノエルみたいな感じなんだが?」

 

「...そうだな...まあ変なもの作らないだけ向こうのほうがまともだが」

 

と小声ではなす。

そんな男二人をいぶかしげに見ながら忍は亜子に

 

「いやー、とんでもない娘が現れたねぇ、亜子。自身ある?」

 

「...ちょっと...でもイチ君鈍いからあの娘の気持ちも気づいてないみたいだし...」

 

「そうだねぇ、これで狼村君もますます恭也状態かぁ」

 

そしてイチはそんな四人を見ながら緩やかに微笑んでいる。

そんなある意味いつもどおりな空気にクラスメイトたちもようやく席に戻る気になったらしく、ぞろぞろとなかに入ってきてそこでお開きになった。

 

 

 

 

 

 

 

「なあなあ、美由希」

 

昼休み、いきなりケイが美由希に声をかける。

 

「?ケイくんか...その呼び捨てにするのちょっと抵抗あるんだけどなぁ」

 

「わりぃな。俺人を苗字で呼んだりさん付けしたりって出来ないんだよ。向こうじゃ皆名前でよんでたからな」

 

「ふ〜ん...まあいいや。で、どうしたの?」

 

「いや、なんか二年の転校生が外人でアニキの知り合いらしいんだよ。もしかしたら俺も知ってるやつかもしれないし、ついでだから一緒にみにいかねぇかと思ったんだが...」

 

「お兄ちゃんの知り合い?いくいく!早く行こう!!!」

 

「?なんでそんなに乗り気なんだ?」

 

「だってお兄ちゃんの知り合いだよ!?女の子の確率高いじゃない!」

 

「そりゃそうなんだけど...なんで美由希が気にしてんだよ?たしか恭也さんじゃなかったっけか?」

 

「!!そ、そのい妹の恋路を心配して...」

 

「なのはちゃん?まったくアニキは無意識に見境ねぇな...まぁとにかくいってみようぜ」

 

「うん!」

 

走り出す二人を見てクラスの友人たちはその場にいた全員が二人は付き合っていると勘違いし、二人はその誤解を解くのに丸々一週間を費やしたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

そして同じ頃...

 

「なあ晶、ちょと噂きいてんけど...」

 

「ん?なんだ?言いにくそうに...」

 

「それがな...なんでも風高の二年に入った外人の転校生がイチさんに朝いきなり抱きついたらしいんやけ...」

 

「いくぞ、レン!急げ!!!」

 

聞き終わらないうちに走り出した晶をレンは楽しそうに見ながらあとを追った。

 

 

 

 

 

 

そして三年教室。

那美に連れられてやってきたブリジットとケイトと一緒に昼食の相談をしていた恭也たちのもとに駆け込んでくる影が四つ。

 

「お兄ちゃん!...ってああ!やっぱり女の子だぁー!!」

 

「イチさん、抱きつかれたって本当ですか!?」

 

「...すんません、こん馬鹿全力疾走してしまいまして...」

 

三者三様なリアクションで入ってきた三人にその場の皆は苦笑いを浮かべていたが、話題の中心である二人、特にケイトはその三人の後ろから入ってきた男子から目をはずせないでいた。

 

「あぁ、やっぱりブリジット...って、え?なんでケイトまで...」

 

明らかに驚いている、というより動揺しているケイに向かってケイトは

 

「ま、まったく貴方という人は...いきなりそんな反応とは相変わらず失礼な人ですね。少しはお兄様を見習ったらどうですか」

 

と言い捨てる。

しかし顔が赤くなっているのは誰の目から見ても明らかだ。

そんなケイトに対してケイは多少押されながらも口げんかを始める。

そんな二人を見ていた忍が

 

「そっかぁ、ケイトはツンデレだったのねぇ」

 

と専門用語を言い放つ。

 

「なんだ、その言葉は?」

 

「俺も聞いたことはあるけど意味は...藤代は?」

 

「...たしか二人きりになるとバカップルっぽくなる女の子だったっけ?」

 

「へぇ、日本語はむずかしいですね」

 

とそこに美由希たちに説明を終えたイチが戻ってきて

 

「みんなの前ではツンツン刺々しいんだけど二人きりになるとデレデレ甘える女の子。ツンツンとデレデレで略してツンデレ...だったかな?」

 

と説明しようとしていた忍を遮る形で説明する。

それに多少不満そうな顔をする忍。

聞いていたブリジットは

 

「へぇ、さすがイチ!なんでも知ってるね!」

 

と感心していたが、あとのメンバーは呆れた顔で

 

『...なんでそんなことまで知ってる(の)...』

 

「...だって僕かなりハードなPCユーザーだよ?」

 

簡単に笑顔で言ってのけるイチにもはや、美由希や晶たちまで自分たちがこの教室に駆け込んだ理由をわすれて感心する。

そしてそんなことも気にせずヒートアップするケイとケイト。

メンバーが増えてもいつもどおりな空気にイチは二人が受け入れられたことを感じて安心する。

結局ケイたちが終わるのを待つことなく皆は学食に向かい、初めてのブリジットが大はしゃぎするのをなんとかなだめつつ食事をすませた。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ...あれ?アニキたちいねーぞ?」

 

「はあ、はあ、はあ...そうですね。どうやらおいていかれたようです。貴方のせいで」

 

「だからなんで俺の...ってやめだ。こんなことしてても腹減るだけだ」

 

「そ、そうですね。どうするんですか?食事は」

 

「学食でダチ探して分けてもらうしかねぇな、この時間じゃ」

 

そういって仕方なさそうに立ち上がるケイをケイトは慌てて呼び止める。

まだ何かあるのか?といった感じでいぶかしげに見るケイに、ケイトは顔を赤らめながら

 

「し、しょうがないですから私の食事を分けてあげます。屋上まで案内してください」

 

と自分の持っている包みを掲げてみせる。

それを見たとたんケイは目を輝かせて

 

「それお前の作ったサンドイッチか!?食べる食べる、早く行こうぜ!!!」

 

とケイトの手を掴んで早歩きで歩き出す。

ケイトは掴まれた手を顔を赤くしながら握り返すと嬉しそうに笑顔を浮かべて手を引かれていった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、二人ともどうだった?日本の学校は?」

 

放課後、翠屋についてくると言い出したブリジットとケイトをつれて歩くイチと恭也、それにケイ。

赤星と亜子は剣道部が終わったら、忍は新しいゲームを買ったらそれぞれ顔を出すといって分かれてきた。

ケイは赤星の命令で今日は練習を強制的に休まされ、しかたなく同行している。

実はケイトの気持ちに気づいた忍と亜子の根回しがあったのだが、ケイはそうとは気づかずにケイトとの軽い口喧嘩のようなものを続ける。

それをイチは傍からみていつものように微笑みながら二人が言い過ぎておかしな方向にこじれないように所々話の修正をかってでていた。

そして残った恭也とブリジットは必然的に二人共通の話題であるイチの話になる。

 

「そうですか〜、恭也はイチの昔の友達だったですか」

 

「ああ、親友だと俺は思っている。ブリジットはイチを追いかけてきたんだったな。アイツ向こうでもあんな感じだったのか?」

 

「うん!優しくて、強くて...向こうでも結構ファンはいたです。でもイチはボクのガードがあったから一緒にいてくれて...」

 

いくら鈍い恭也といえども、自分の故郷から離れてまで男を追いかけてきたのが伊達や酔狂でないことくらいは察しがつく。

だからイチが護衛対象としてブリジットを見ていたと思っている彼女の寂しそうな顔をみて、親友への誤解を解くことをためらうことはなかった。

 

「イチは...アイツは貴方のことをただの護衛対象だなんて思ってなかった」

 

それでも多少恥ずかしいのか目を合わせようとしない恭也のほうを不思議そうに見るブリジット。

 

「アイツは昨日、貴方のことを始めて友達になってくれた娘といっていた。それ以外にもいろいろ話を聞いたがアイツが貴方のことを軽んじていないことくらいはわかる」

 

「...ボク、イチにとってただのお客さんじゃなかった?」

 

「ああ、アイツが貴方のことを護衛対象というとき、必ずアイツは少し躊躇っていた。なにより俺やアイツの力は守りたいと思った人を守るための力。そう思わない人のために力を使うことも、使おうとすることも、ありえないはずだから」

 

親友の小さな誤解を解くためにいつもよりかなり饒舌になる恭也。

自分でもそれが分かっているのか多少戸惑っていたが、聞いていたブリジットは嬉しそうに

 

Thank you!イチも、イチの友達もいい人ばかりよ!」

 

と笑うとイチのほうに駆けていき、後ろから飛び乗る。

イチはそれをただ苦笑いを浮かべながら受け止めると、仕方ないと言いたげな微笑みにそれを変えてブリジットをぶら下げておく。

嬉しそうにすりついているブリジットを慌ててたしなめるケイトとそれを笑いながら見ているケイ。

そんな光景をただ微笑みながら見ているイチ。

それを見た恭也は

 

「...俺もああいう風に笑いたかったのか...」

 

と感慨深げに呟くが、やがてふと思い当たると

 

「...あのまま翠屋にいったら大惨事になるんじゃないか?」

 

と当然の疑問に思い当たり、慌てて四人に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ〜、かわい〜♪なになに?彼女がイチ君が話してたブリジットちゃん?こんにちは〜。私は高町桃子、恭也の母で、イチ君をいま預かってま〜す♪」

 

恭也の予想は少し違った方向で的中した。

たしかにイチにくっついている金髪の少女は店内に膨大な殺気を生み出したのだが...フィアッセと桃子がそれをものの見事に霧散させた。

 

「ひさしぶりだね、ブリジット。お父様とお母様はお元気?」

 

「はい!相変わらず忙しそうですよ。ティオレさん、元気ですか?」

 

「うん。あいかわらずいたずらばかりしてイリアが頭抱えてるって。そっちはケイトだよね。なんか女の子っぽくなったからわからなかったよ」

 

「そっちがケイトちゃん?ブリジットちゃんのお友達なんだってね。またまたこっちも美少女で...イチ君、ほんとに二人となにもなかったのぉ?」

 

「そ、そんな!私とイチがなんてありえません!...あ、そ、その......」

 

「「ほほ〜う♪」」

 

明らかに動揺したケイトの反応に桃子とフィアッセはティオレと同じような目をしてケイトに詰め寄る。

 

「...ねぇイチ?フィアッセってあんな人だった?」

 

「...どう?恭也の意見は」

 

「...子は親の背を見て育つ...」

 

「...どゆこと?」

 

「子供はどこかしら親に似るもんだよ、って言いたいんだと思うよ」

 

I see

 

その後暫くして桃子を厨房に引き戻そうと出てきた松尾さんにイチがお決まりのように謝りに行き、そして照れてしまった松尾さんが怒ることを忘れた頃に桃子がこそこそと戻ってそれに恭也がつづく。

イチも手伝おうとしたが、今日はまだ暫くいいから、といわれてひさびさのオーストラリアの話を弾ませた。

その後遅れて忍、赤星、亜子が到着。

亜子とブリジットがイチ争奪戦を繰り広げ、ケイトはケイのとなりでちゃっかり嬉しそうに紅茶を飲み、ケイはそれを知ってかしらずかケイトと上機嫌で自分の頼んだお菓子類をつまみ、忍と赤星はそれをやれやれといった表情で見ながら何気ない会話をしていた。

暫くすると美由希と那美が入ってきて大人数用のテーブルに移動し、晶とレンもなのはをつれて帰ってきた。

結局ここで晶となのはが正式にライバル宣言し、美由希はそれを複雑な表情で見守る。

そしてイチは慌しくなってきた店を手伝うべく、いつのまにかエプロン姿でウェイターをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんなドタバタした時間もお開きになり、イチとケイは一足先にブリジットとケイトを送っていくといって二人と一緒に出た。

ケイとケイトは前を言い合いをしながら歩いている。

 

「ねぇイチ、ボクたち...迷惑だったです?」

 

ふいにそんなことを聞いてくるブリジットに一瞬目を丸くするイチだったが

 

「なんで?そんなことあるわけないでしょ」

 

といつもの微笑をむける。

それをみたブリジットは安心したのか

 

「それにしてもいい人たちばかりだね!ボクもっとはやくきたかったよ。みんなボクがクローウェルの娘だって知っててもなにも言わないし...」

 

「そうだね、いい人たちばかりだよ。でも恭也のまわりがああなったのは最近のことだから、ブリジットは一番のタイミングできたことになるね」

 

「そうなの?みんなもっと昔から友達みたいにみえたです」

 

「...不思議だよね。やっぱり絆って時間じゃないんだよ」

 

「そ、そうだね!イチとボクも二年も離れてたけど、絆、弱くならないもんね!?」

 

なぜか緊張した面持ちでいうブリジットだったが、イチはそれを意に介さずに

 

「あたりまえでしょ。そんなにやわな絆じゃないよ」

 

と平然と言ってのける。

自分とイチの間にはきちんと絆がある、そういって貰えたブリジットは顔を真っ赤にしながらもご機嫌でイチの腕に自分のを絡める。

昔からそういったことはなれていたイチは、そんなブリジットに微笑んでそのまま歩く。

前方を歩くケイトたちが止まるまで、ブリジットはニコニコでイチにしがみついていた。

 

「ありがとうございました、お二人とも。ここが私たちの住居です」

 

そういって立ち止まったケイトについで立ち止まると、そこは見覚えのある景色だった。

 

「ってここ高町家から徒歩一分ってところだぞ、アニキ」

 

「えへへ、実はイチが高町って家に住んでるってことはもう調べてたよ」

 

「なにかあったら困りますから...なるべく近くに部屋を探しました」

 

「...そうだね。近くにいてくれれば安心だ...それじゃあこれ」

 

イチはそういって紙切れをブリジットに手渡す。

そこには11桁の数字が書かれていて、上にイチのフルネームが筆記帯で書かれていた。

 

「これって...携帯電話の番号?イチの?」

 

「そうだよ。なにかあったらすぐ呼んでね」

 

そういって渡された紙切れを、ブリジットは大事そうに手に握る。

そして思い立ったように顔を上げると

 

「用がないときは...電話しちゃ駄目です?」

 

と上目遣いでおねだりするような目をイチに向ける。

それがあまりに幼く見えて、イチはくすっとわらうと

 

「僕が家にいるときは音声チャットでもいいかな?電話代結構ばかにならないんだよね」

 

とおどけながら承諾の返事を返す。

嬉しそうに番号を教えるために自分の携帯から教わったばかりの番号を鳴らすブリジットを、ケイトは少し羨ましそうな目で見ていた。

するとイチは急にケイトのほうを向きながら

 

「ああそうだケイト。ケイトの番号も教えておいて。なんかあったときにすぐわかるように」

 

「あ、は、はい。ええと...」

 

そういってイチに番号を教えるケイト。

そしてイチは自分の携帯からその番号にかけると、ケイのほうに向き直って

 

「ケイも番号、ケイトに教えておいて。二人同時になにかに困ってたときはケイにケイトを頼みたいから」

 

と笑顔でケイに告げる。

ケイトはびっくりしてイチをみて、ケイは兄の頼みならと快く承諾する。

ケイトは嬉しそうにその番号に自分の携帯からかけ、ケイはそれをメモリーに記録した。

 

「まあアニキの頼みだ。こっちにきたばっかで困ることも多いだろうから話くらい聞いてやるよ」

 

「...はい」

 

憎まれ口のつもりで言った台詞にあまりに素直な返事が返ってきたため拍子抜けするケイ。

そんな二人をイチとブリジットが微笑ましげにみていると、イチの携帯が鳴り出した。

 

「はい、どうしたの恭也......うん、うん...分かった。それじゃあすぐにいくよ」

 

電話を切ったイチは三人に

 

「三人とも、晩御飯晶とレンちゃんが皆食べるものだと思って用意しちゃったんだって。だから今日は一緒に食べよう?」

 

と誘う。

全員自分で料理しないといけない人間なだけにこの渡りに船な申し出はありがたいもの以外のなにものでもなく、みんな喜んで高町家に向かう。

ものの一分で玄関に到着し、ケイトと押し込むようにしてケイが高町家に入っていくのを見届けると、あとからついて歩いていたブリジットにイチが

 

「ブリジット、今朝から言いそびれてたんだけど...またあえて嬉しいよ。これからまたよろしくね」

 

と微笑みながら告げてなかに入る。

ブリジットはそれを聞いて暫く立ち尽くしていたが、

 

「うん!ボクも...!本当に日本に着てよかった」

 

と涙目になった目を拭って、笑顔でその背中を追った。

ありのままの自分を受け入れてくれる人たちの住む家の中へ。

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

どうも〜、なんかぐだぐだです。アインです

今回のはちょっとつらかったです

なにせ同じようなことをイチのときにやってますし...

なので今回は少しでもイチとブリジット、ケイとケイトの間の絆をと...

あと恭也の周りの人間の暖かさを、と...すこしても成功していれば幸いです

だめならもっとがんばりますので許してやってください

さて、これで役者は完全にポジションに着きましたので、

今度はブリジットたちとか、亜子とかなのはとか...

いままでは恭也が騒動の中心にいて忍たちに振り回されていたのが、

今度は恭也は完全に第三者としてドタバタに絡むというのをやってみます

それでは、これからも精進しますのでよろしくお願いします

 

 

追加キャラ設定

 

ケイト・グラハム

 

クローウェル家の使用人の娘であり、幼い頃からブリジットの遊び相手

護身術などもある程度こなすが基本的にガードの役割はない

クローウェル家もケイトを娘の親友として娘同様に可愛がっている

根が真面目で融通が利かない部分があるが、実は結構振り回されやすく、

本人もそれを自覚し、周りを強引に引っ張るケイを慕っているが、

強情な面がそれをケイに告げることを躊躇わせている

ブリジットとイチの協力もあって今の関係までなんとかこぎつける

忍の言ったとおりツンデレな、社長秘書タイプの聡明な美少女である





ブリジットとケイトの二人も受け入れられ。
美姫 「これで、更に騒がしい日々が…」
これからどんな事が起こるのか!?
美姫 「とりあえずは、イチを巡る攻防かしらね」
その辺りも楽しみにしつつ、次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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