『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第十七話 −SAVING PHANTOMS’ HEART−
「...結局、どうするの?」
校門前で玲二を待っていたエレンは、出てきた彼の隣に並ぶと同時に問いかける。
実のところ、エレンには答えなどわかっていた。
玲二が足を向けた方向は、彼らが使っているアパートとは逆方向。
もっと正確に言えば、玲二は明らかに翠屋に足を向けていた。
エレンがあえて問いかけたのは、玲二の覚悟を聞いておくため。
玲二の覚悟とは、それすなわちエレンにとっての覚悟。
玲二はそれを快くは思っていないが、彼女の気持ちも、玲二はアメリカを出る前に聞いている。
「俺は...ここで決着をつける。サイスとも...彼女......キャル、とも...」
判っているがゆえに、玲二はその覚悟を言葉にして紡ぎ出す。
そしてその悲痛な決意にエレンは一瞬だけ顔を歪めたものの、やがて目を閉じると静かに首肯する。
「それじゃ、翠屋にいきましょう。マスターの話が本当なら、高町恭也は協力者として申し分ないわ」
「ああ、それはそうだが...エレンはなぜあの場に狼村先輩がいたかわかるか?」
意外な玲二の言葉にエレンは一瞬、きょとん、と子供っぽい顔を浮かべるが、やがていつもの無表情に戻り、
「それは私も考えてはいたわ。情報ではあの人は高町恭也の幼少時代の親友らしいという事は分かったんだけど、それ以外は特に目立ったところはないわ。強いて上げるなら、彼は偶に人の気持ちを読み取ったように行動することがあるらしいけど......彼の天性の勘の良さだと考えたほうが自然よ」
と冷静に自分の意見を述べてくる。
一瞬見せた幼い表情に少し戸惑った玲二だったが、エレンの意見を聞くといつものペースに思考を戻す。
「そうだな。今のところ、あの人は高町恭也の理解者、というのが妥当なところか」
「そうね。運動神経も悪くはないみたいだけど高町恭也のような戦闘能力を持っているというような話はまったく聞こえてこないわ」
「まあ俺たちみたいなことでもない限り高校生で裏の人間なんてそうある話じゃない。理解者というのはある意味とても貴重だ。あの場にいたことも考えると、ブレインという話もあるかもしれないが...」
「恐らくそんなところでしょう。どうしても気になるなら本人に聞けばいいわ。早苗の話じゃあの人も一緒にここで働いているらしいわ」
そういって腕を地面と水平に上げて、人差し指を立てる。
その指のさす先には、二人の目的地である翠屋があった。
そのまま店内に足を踏み入れると、先ほどの屋上での話のとおり、先輩二人がエプロン姿で早苗とブリジットと一緒にテーブルについていた。
イチはうまくブリジットをかまいながら仕事をこなしているのだが、恭也はそこまで器用ではなく、少し困ったように微笑みながら、マシンガンのように話しかけてくる早苗に相槌をうっている。
店内は混雑しているらしく、他の席を探したが見つからない。
仕方なく早苗たちのほうに近づくと、イチが笑顔を向けてきた。
「やあ、結構早かったね。それじゃ、申し訳ないけど僕らが休憩に入るまでここで待っててくれるかな?恭也、仕事に戻るよ」
「あ、ああ。すまないな、久保田さん。ここは俺の奢りでいいから...そちらの、藤枝さんも...」
恭也の言葉に玲二たちが視線を向けると、丁度玲二たちからはプランターの陰になってしまっている席に、美緒が所在無さげに座っていた。
「ふ、藤枝さん...どうしてここに?」
とりあえず聞いておく玲二。
それをどうとったのか、美緒は少し慌てふためいて
「あ、え、そ、その...玲二さんを待ってたら、早苗とブリジットにあって...大事なお話中だから一緒に...その...」
「翠屋で待ってましょう、とでもいわれたのね、美緒?」
言いよどんでいた美緒の言葉をエレンが、さも呆れたといわんばかりのため息とともに引き継ぐ。
それに、我が意を得たり、とばかりに激しく首を縦に振る美緒。
その光景を、微笑ましげに眺めていたイチと恭也は、既に仕事に向かうべく背を向ける。
「あの、高町先輩!」
その背に慌てたように声をかける玲二。
せめて待ってくれていたこの娘には、友人らしく、と。
「藤枝さんの分は、俺が払いますから」
その言葉に美緒は、はっと驚いたように顔を赤くし、早苗はにんまりと笑顔を浮かべる。
「あ、あと私の分も兄貴が払いま〜す!」
折角の兄貴の甲斐性を台無しにするようなことを、演技とはいえ平気で言うエレンだった。
そして脱力している玲二に恭也とイチがトドメをさす。
「「毎度ありがとうございます」」
そしてアメリカ全土を震撼させた暗殺者は、財布の中身という学生最大の敵と戦うこととなり、そのとなりで美緒が、少し嬉しそうに慰めていた。
そして残されたメンバーを見渡した後、ブリジットはなんとなく孤立していることを感じて店の手伝いに向かい、残った四人は恭也たちの休憩時間まで、玲二をからかって過した。
結局怒涛のごとき忙しさを見せた翠屋で、レギュラーメンバーである恭也たちがろくな休憩を取れるはずもなく、玲二とエレンは高町家に招かれることとなった。
「...なんでこうなったんだ、エレン?」
「...さぁ...私もこの展開は予想していなかったわ...」
二人は高町家のリビングに通された。
そこにはやたらハイテンションなお姉さんや某超有名歌手の娘、やたらとどじな眼鏡っ娘やなぜだか喧嘩をしながら料理をするボーイッシュな女の子と関西弁の女の子、そしてそれを一声で止めてしまう小さい女の子などでごった返していた。
玲二はその光景に、なくしてしまった家族の暖かさを思い出し、エレンはエレンで始めて触れるその感覚に戸惑い、完全にペースを見失っていた。
流されるままに晩御飯を済ませ、そしてなんとか食後の団欒を切り抜けて恭也の部屋に通された。
「...もうこういったのは勘弁してほしい、高町先輩」
「恭也で構わない。堅苦しいのは好きではないしな。俺も玲二と呼ばせてもらう」
今までの経験から自分から先に呼べば相手も合わせてくれることを学んだ恭也。
案の定玲二は
「それじゃあ、恭也先輩で。さすがに学校で上級生呼び捨てにするのは目立ちますから」
と早くも修正してきた。
「僕もイチ...先輩でいいよ。僕も名前で呼ばせてもらうから...エレンさんも、いい?」
「ええ、かまわないわ...それよりイチ先輩、私はあなたがこの場にいる理由のほうが気になるわ」
玲二の気になっていた疑問を先回りして確認するエレン。
その質問に恭也が答えようと口を開くが、それよりも先にイチが答える。
「僕は恭也の立場を理解している親友だよ。それに情報収集と、恭也のブレインもやらせてもらってる」
その答えに恭也は少し訝しげにイチを見たが、何か考えのあることなのだろうと言葉を呑んだ。
玲二とエレンも完全に納得したわけではなさそうだったが、それでも自分たちの予想とも外れていないことから、とりあえずは追求しないことにした。
「...それで...玲二、君の覚悟は決まったのか?」
妙な方向に話が流れる前に本題へと話を引き戻す恭也。
それを受けた玲二は、もう一度覚悟を決めるように俯くと、やがてゆっくりと顔を上げながら
「...俺は...ここで、すべてに決着をつける......手を、貸してくれ」
と真直ぐに恭也の目を見て言い放つ。
その横で、エレンもそれに納得済みと首肯する。
「よし、といっても取り合えずはこちらからは動かないほうがいいだろう。今、俺の叔母が詳しい事情を調べている。アメリカ本土からの増援がないように、万が一のときの足止めなどもすべて引き受けてくれている。本当に今回の件が単独行動によるものだとしたら、香港警防の名前と力で組織に圧力をかけて孤立させてくれるだろう」
「そうね。そうだとしたら、とりあえずは警戒を怠らないようにしつつ、普段どおりに過しているのがいいのでしょうね」
「ああ、暫くは普通に学校生活を送るべきだろう。ただ......」
そういって考え込む玲二。
それを訝しげにみる二人に、エレンが事情を説明する。
それを玲二は止めずに、黙って顔を伏せていた。
やがて説明が終わると、恭也は心底辛そうな表情で玲二を見た。
恭也もかつて、叔母である美沙斗と望まぬ死闘を繰り広げた身である。
まして玲二の場合は心を救われ、何があっても帰ると約束し、そして護ることができなかった少女だ。
その少女が生きていて、そして見捨てられたと命を狙ってくる。
「俺にも似たような経験があるのだが...やはり決断するのは辛かっただろう」
その恭也の言葉に玲二はすこし心が軽くなるのを感じ、張り詰めていた空気を心なしか解いて、気の抜けた表情で恭也に微笑む。
そんな玲二の様子を、エレンは少し寂しげな笑みで見つめる。
それを黙ってみていたイチは、ふと真剣な眼差しを玲二に向けると、
「それで、玲二?君はその娘をどうするつもりなの?」
と核心を突いてくる。
覚悟を決めているとはいえ、それは極力考えないようにしていたこと。
恭也もかつてそうしたように、相手にするという覚悟はそれすなわち殺すという覚悟に繋がってしまう。
「もしも...本当に、どうしようもなくなったその時は...最悪の覚悟は、出来ている...」
そう辛そうに告げる玲二に恭也は普段は決して見せることのない同情の眼差しを向ける。
エレンも無表情ながら、すこし辛そうに玲二をみる。
しかしイチは、
「もしそれを本気で言ってるなら...僕はこの話、直接は関わらないことにするよ」
と微笑みながらも冷たく言い放った。
「イチ、どうしたんだ?いったい」
恭也のそんな問いかけに、イチは軽く微笑むと、
「恭也もそうみたいだけど...人の命を奪うことに慣れたら駄目だよ...ましてやその娘、君は助けたいんでしょ、違う?」
と玲二に問いかける。
「当たり前だっ!彼女を助けたい気持ちに嘘なんかありはずがないっ!!!」
初めて感情的になった玲二に恭也は驚き、エレンもいつになく取り乱している玲二を見て目を見開く。
「それなら...少なくとも君だけは最後まで助けようとしてあげて、ね?いくら君たちが元暗殺者だからって、命の重さを忘れたら駄目だよ...どうしてもそれが出来ないって言うなら...美沙斗さんには申し訳ないけど僕は別行動でこの事件にあたる事にする」
そういいながらイチは立ち上がる。
そのイチの纏う雰囲気が、数日前の路地裏でのあの冷たい空気にあまりにも似ていて、恭也はイチを引き止めることが出来なかった。
そのまま恭也の部屋のドアを開けるイチ。
「まあ、君が最終的にどういう決断をするにせよ、暫く僕は単独で動くことが多くなると思うから......玲二、僕の言ったこと...忘れないでね」
そう言い残してイチは恭也の部屋をあとにした。
「恭也先輩、あの人は本当に何者なんですか?」
部屋のドアが閉められてから、普段は一歩引いているエレンが口を開いた。
その事実に玲二は驚いたような表情でエレンをみていたが、恭也は特に気にした様子もなく
「いや、最近再会したばかりなんだが...とにかく昔から謎が多いやつでな。ただアイツの言うことに間違いはない。アイツは時々突拍子もないことを言い出したりするが、絶対に間違ったりすることはなかった。今回のことに関しても...玲二、アイツは当然の事を言っている。それはわかるよな?」
「それは...わかってるさ。さっきの言葉だって俺は偽ったつもりはない...でも...」
「ああ、分かっているさ。だから俺は君と一緒に行動することを拒否するつもりはない。アイツだって協力してくれるさ...その時がくるまでは、な」
男二人がそんな話をしている間、エレンは一人で考え込んでいた。
彼女はその命を玲二によって救われてから、人の命を奪うことに抵抗を覚えるようになっていた。
今までやってこれたのは彼女自身が“玲二を守り抜くため”という信念のおかげ。
しかし、それでももう全盛期の時のような力はないし、自分の意思をもってしまった今、命令で殺していたときのようなキレもない。
神に縋って、祈って、今までのことを懺悔し続ける彼女にとって、イチが玲二に言った言葉は彼女にとっての理想だった。
そして彼女はここで一つの決断をする。
「玲二...私、彼と動いてみるわ」
そう呟いたエレンに、玲二ばかりか恭也までも驚いてエレンをみる。
「彼の言葉...もし殺さずにすむ方法があるのなら、私はそれを見極めてみたい」
「...エレン......恭也は、どう思う?」
突然話をふられた恭也は少し戸惑うが、
「俺はイチさえ構わないというのなら反対はしないが...たしかにアイツなら君の力にもなれるだろう」
とあくまでイチの意思を重視するべきだと匂わせながらも肯定の返事を返す。
それにエレンと玲二は頷くと、互いに顔を見合わせる。
「エレン...君の最初のわがままだ...きちんと貫いて、なにか掴んで来い」
「ええ...じゃあ恭也先輩、玲二を...よろしくお願いするわ」
そういってエレンはイチの部屋を恭也に聞き、部屋を出る。
残された男二人は暫くまた沈黙していたが、
「組織を抜けてから、エレンはいつも俺のことを優先させてきた。それが香港警防と貴方達が協力してくれるとなって、俺の身の安全はある程度保障されたわけだ」
「...それで彼女はイチの所に?」
「ああ、ずっと思い悩んでいたことに対する答えをあの人が持っているかもしれない。エレンは無意識かもしれないが、貴方達に頼り始めている」
そういってすこし嬉しそうにする玲二を、恭也はなんとなく先があるような気がして促すように黙って聞く。
「俺に頼ってくれているのは嬉しいし、実際俺も彼女がいたから今まで生きてきた。でも...」
「彼女にも、もっと自分を大切に、自分のために生きてほしい、ということか?」
先を続けた恭也の言葉に、玲二はなにも言わずに首を縦にふる。
恭也も以前、ティオレなどをガードする際に同じようなことを言われたので、玲二のその話しぶりからもしやと思い、半ば鎌をかけるように言ってみた。
それが当たっていたことから、恭也はなんとなく玲二に親近感を覚え、美沙斗の頼み抜きで吾妻玲二に協力する気になっていた。
そして玲二もまた、自分の気持ちを理解してくれる目の前のこの男を、出会って間もないというのに信頼し始めていた。
こうして、出会ったばかりの同じ世界に違う国で身をおいていた二人の間には確かな信頼関係が目覚め始めていた。
(しかしエレンさんのほうはうまくいくだろうか。イチはあれで底意地が悪いから...)
(俺は...本当にキャルを助けられるだろうか...エレンが自分の答えを見つけるまでに、俺も答えを見つけないとな)
そんな物思いに耽りながら、恭也のほうは自分の小太刀、士郎の形見の八景を手にとってそれを目の前に掲げる。
それを玲二が訝しげに見ていると、恭也は軽く笑みを浮かべると、恭也の中での決意を言葉にする。
「この刀に誓って、俺は吾妻玲二、そしてエレンさんの力になろう」
「イチ先輩、おじゃましてもいい?」
エレンはドアを軽く二回ノックすると、中にいるはずのイチに声をかける。
イチはというと、それをまるで待っていたかのようにエレンの声が終ると同時にドアを開ける。
エレンも気配で分かっていたのか、得に驚いた様子もなくそのまま部屋に入る。
「恭也の部屋と違ってあんまり広くないけど、まあ座ってよ」
そういいながら、普段はなのはがパソコンの練習用に使っている椅子をエレンに勧めると、イチは向かいになる自分の椅子に腰を下ろす。
その動作を見ながら、エレンはイチの実力を測ろうとしていた。
(動きは悪くないわ。でもあくまで素人として、だけど...運動神経は悪くないという感じね。でもそれだとなぜ恭也先輩があそこまで彼を頼りにしているのかがわからない)
分析を続けるエレンを、黙って笑顔を浮かべてみているイチ。
そして次の瞬間、イチはエレンの目の前から姿を消した。
「え!?」
思わず声をあげてまわりを見回すエレン。
右手はスカートの中で、使い込んだ9mm口径のオートマを握っている。
そして気配を探そうと神経を研ぎ澄ませたその時、肩に手を置かれた。
その気配に敵意がないのはわかっていても、彼女の体に染み付いた戦闘意識が体を突き動かす。
しかしエレンが取ろうとした肩に置かれたその手は、なにを掴むこともなく空を切った。
(えっ!?)
今度は声には出なかったが、エレンは自分の見立てと明らかに違うこの青年の実力に軽く混乱していた。
「...と、いい加減そのスカートの中のベレッタから手を離してくれないかな?」
「あなたも...なぜ突然手の内を私にみせたの?」
後ろで軽く微笑んでいるイチに、右手をスカートの外に出しながら問いかけるエレン。
「気になってたんでしょ?さっきの僕の言葉...始めに言っておくと、力なき言葉に意味はない。それはわかるよね?」
イチの言葉に軽く頷くエレン。
警戒を解いて、先ほど勧められた椅子に座りなおすと、イチが正面に座って話すのを黙って聞きの体勢に入る。
「今のはそれを体現して見せたわけだけど...正直言うとね、僕はこの先誰が相手になっても、僕は殺すつもりはないんだ。最後の最後までね」
「それは、なぜ?」
「誰かが死ねば、誰かが悲しむ。当然のことでしょ、それは。だから僕はそれを極力出さないようにする。最後の最後は...自分の命と天秤にかけるよ...僕とその相手、どっちが死んだほうがいいのか、ってね」
「......そんな冗談...と言いたい所だけど、本気みたいね」
「本気だよ〜。僕と相手、どっちがより罪深いか、ってね」
冗談めかしたようなイチの言葉に、それでもエレンは心を打たれる。
(私と相手、どちらが罪深いか...私より罪深い存在なんて、いるのかしらね)
また思い悩んだような表情を浮かべるエレンに、イチはいつものように微笑むと
「エレンより罪深い存在なんていない。そう、思ったかな?」
とまさに確信を突いてくる。
(そういえば、偶に相手の気持ちを読み取ったような行動をするって情報があったわね)
驚きながらも自分が仕入れた情報を思い直して納得する。
そしてそれならば恐らく隠しても無駄なのだろうと、それでも重々しく首肯する。
「やっぱりね...でも君より罪深い存在なんて山ほどいるんだよ、君がいつも懺悔している相手によるとね」
「?どういう意味?」
「最も罪深きことは罪を罪とも思わないこと、ってことだよ。違うかな?」
たしかにそういった言葉があった。
しかしエレンは今まで自分を許すような言葉には耳を傾けることを避けている傾向にあった。
それを今、目の前の青年は何も言わずに肯定する。
「君は今までの事を悔やみ、そして償おうと苦しんでいる。イエス・キリストと貼り付けにされた二人の罪人の話、知っているかな?」
それに黙って頷いてみせるエレン。
一人は神なら自分を助けてみろといい、もう一人は自分は罪人だが貴方は違うのだから助かるべきだと主張した。
結果、イエス・キリストは二人目の罪人を許し、自分と一緒に天に召される事を許した。
「つまりね、君より罪深い人間なんて、僕らの世界には山ほどいるんだよ。だからそのときが来たとき、君はそれを踏まえて考えてみな?意外と自分以上に罪深い人間っているもんだよ、ね?」
そういって微笑む目の前の青年をみて、エレンは自分の心が軽くなっていくのを感じた。
今までいくら懺悔しても決して重さを変える事のなかったその罪の意識が、神ではなく、一人の青年によってその重さを変えている。
「神様は僕たちのすることを、ただみてるだけだよ。絶対に干渉してこない...ただ、みてるだけだよ...」
そういって微笑んだイチの表情は、どこか寂しげに見えた。
しかしイチはすぐにもとの優しげな表情に戻ると、
「それじゃ、とりあえず僕と君が組んで、恭也と玲二でもうワンペアってことだね。なかなか面白い組み合わせだ」
とエレンに向き直る。
「ええ、私と貴方でサポートする形をとるのがベストでしょうね。玲二が狙われているのは確かだし、恭也先輩の実力は知られているから」
「だから恭也の友人としか見られていない僕と...」
「能力が衰えたと思われている私が後ろでサポートする」
「だがそうなると学校内で一緒にいても自然だと思われるようにしないといけないね」
「私と貴方が付き合っている、というのは...だめね。貴方の周りの女の子たちが騒ぎ出して逆に身動きが取れなくなりそうだし」
「??僕の周りの女の子って?僕が君と付き合ってるって事にするとなんで騒がれるの?」
今までスムーズにエレンの思考についてきたイチの、意外な異性の気持ちに対する鈍感さにエレンは唖然とする。
しかしすぐに思考を戻すと
「まあいいわ、私も明日から貴方の取り巻きの一人になるのが一番自然でしょう。早苗とブリジットの付き添いのような形でなら怪しまれにくいでしょうし」
と自ら手段を提示する。
イチも得に異論はなく、そのアイデアを呑むことにした。
「とりあえずはこんなところだね」
「そうね...ところでイチ先輩、あなたにお願いがあるの」
そういってエレンは居住まいを正すと、正面からイチを見る。
「私も...もう誰も殺したくない。だから...貴方の戦い方、私に教えて。殺さずに、助ける戦い方を、私はしたい」
真剣に告げるエレンのその眼差しを受けたイチは、
「玲二のため、かな?」
といきなり冗談めかした口調になる。
意表を衝かれたエレンは一瞬唖然とした表情を浮かべるが、やがて
「...そうね...それと、これからの私たちのため」
と始めても言っていい微笑を浮かべながら答える。
それをみたイチは、表情をもとの優しい微笑にもどして
「頼まれなくても、僕の前で君たちに人を殺させるようなこと...するつもりはないよ」
といいながら、一臣から受け継いだ小太刀、月影を手に取ると、奇しくもすこし前に恭也が玲二の前でしたのと同じ行為をエレンの前でみせる。
「この刀に誓って、君たちに人は殺させない」
あとがき
さてと、なんだかPHANTOMらしくなくなってきましたw
始めは恭也×イチ、玲二×エレンと従来どおりのコンビを考えたのですが...
この先の展開を考えたとき、恭也×玲二が必要になりまして...ってすこしネタバレましたがw
とりあえず最強コンビとダークホースコンビのほうが面白いだろう、と
ともかくここから先はPHANTOMとかなり違った展開を予定してます
くわしくは、あの子とかあの子とか...
ドカッ!!!!!!
ぐ、ぐはっ!ブリジット、なぜここに...
ブリジット「ちょっと出番が減ってきたから寄ってみたです...それにしても...」
な、なんでしょうか?
ブリジット「なにまたいい加減なネタバレしてるですか!!!」
す、すみません!ごめんなさい!次回は出番があるからスタンバってください!!!
ブリジット「ほんとですか!?うそじゃないですね!じゃあSEEYAですっ!!!」
......なんかひさびさな黒い風でしたが...次回でまたお会いしましょう♪
意外と面白いコンビの出来上がり。
美姫 「これが今後どうなっていくのか」
とりあえずは、日常を過ごさなければいけないんだけれどな。
美姫 「さてさて、一体どうなることやら」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」