TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




 

第二十二話 −WANNA SAVE YOUR HEART

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、僕はこの娘を……、この娘達を助けてあげたいんだ」

 

隣のベッドで身を起こした少女を見ながらイチはそういった。

敵のはずだったこの少女達を助けたいというイチの言葉に恭也達が困惑していると、エレンと玲二が口を開いた。

 

「…………エレンと、同じなんですね?」

 

「…………調整された暗殺マシーン……、でもこの娘からは感情が……」

 

「うん、その辺は彼女から聞いてくれないかな?とりあえず僕の意思は伝えたから……。もし反対するなら、その時は僕は君たちの敵に回るよ…………。嫌ならここで殺してね。……ごめん皆、何があったかは彼女から聞いて。僕、もう、限界みた……い……」

 

そういって突然ベッドに倒れるイチ。

となりに座っていたブリジットが慌ててイチを呼びながら肩を揺さぶるが、その手をフィリスが止める。

 

「イチ君、眠ってますよ。あれだけ血を流してるんですから当たり前です」

 

その言葉を聞いて顔を近づけるブリジット。

 

「……ほんとだ、寝てるです……」

 

ほっとした表情を浮かべて身を起こすブリジット。するとそこには数人の赤面した人たちがブリジットを見つめていた。

 

「どうしたです?皆顔真っ赤です」

 

きょとんと首を傾げるブリジットにケイトが困ったように、

 

「ブリジット、驚かさないでください」

 

しかし、言われた意味の分からないブリジットはまだ首を傾げている。

見かねたリスティが、

 

「皆ね、君が急に顔を近づけたもんだからキスでもしちゃうんじゃないかって思ったんだよ」

 

と子悪魔スマイルを浮かべながらいうと、ブリジットはその言葉で自分の先ほどの行動を思い出し、急に瞬間湯沸かし器のスピードで赤面した。

 

「え、あ、だ、だって、ほんとに寝てるのか心配で……」

 

おろおろと言い訳するブリジット。

そんな寸劇を寝ているイチの真横で行っていると、隣のベッドから、

 

「あ、あの……」

 

と遠慮がちに声が発せられる。

その声で皆が思い出したように振り向くと、そこにはショートカットの美少女がどうしたらいいかわからないといった表情で座っていた。

 

「あ、ああ、すいません。そちらから話を聞かなければいけませんでしたね。でもその前に出来れば名乗っていただきたいのですが?」

 

唯一ブリジットの行動が呼吸の確認と信じて疑わなかった恭也が一人で話を進める。

 

「……私に名前はありません。あるのはフィーアという呼び名だけ」

 

「そうですか。ではフィーアさん、俺は高町恭也、貴方をここで助ける原因となった男の親友です」

 

「…………知っています。貴方だけでなく、ここにいる人間全員を。調べましたから」

 

「そうでしたね。でもお互いを知るにはまず名前からですから」

 

「ちょ、ちょっとまってくれよ、恭也。そんなに丁寧に話を進めてるけど、その娘は敵の兵隊だよ?」

 

何事もないかのように話を進めていく恭也を見かねてリスティが止めに入る。と同時に他の皆も口を挟みだした。

 

「そうだよ、恭ちゃん!お兄ちゃんだってこの人たちにやられたんだから!」

 

「そうだね、ここは慎重にいくべきだと思うよ」

 

「そうです!イチ君がこの状態で恭也君までやられてしまったら玲二くんとエレンさんはどうなるんですか!?」

 

美由希、美沙斗、フィリスはリスティと同じく慎重論を唱える。とくに美由希にいたっては敵意丸出しだ。

恭也はそんな美由希に軽くチョップを落とすと、

 

「無責任と言われるかもしれないが、俺に何かがあったら美沙斗さんとお前、それにリスティさんで何とかしてくれるだろう?だから俺は親友の頼みを聞くことにした」

 

となんでもないことのように言ってのける。

エレンも恭也の言葉に頷きながら、

 

「以前までの私なら躊躇わずに殺しているでしょうけど、今回は恩のある人に直接頼まれたから……」

 

と恭也を支持する。

玲二はそれを聞いて一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐにそれを崩すと、

 

「イチ先輩についたのは正解だったみたいだな、エレン。迷いははれたか」

 

と優しく問いかける。

それに対してエレンは、

 

「そうね……、はれた訳ではないんだけど、でも向き合う方法は分かった気がするわ。あの人が教えてくれた」

 

と玲二に対して薄く微笑んで見せた。

エレンの見せた素直な微笑の可憐さに玲二は、その嬉しそうな態度を隠そうともせずにエレンに微笑み返した。

 

「二人とも、いい雰囲気をつくるのは構わないが、僕としては恭也が決めた以上なるべく詳しく話をきいておきたいんだけどね?」

 

柄にもなく先ほどまでの少々殺伐とした空気を和ませた元暗殺者たちに、リスティは苦笑をこぼしながらからかう様な口調で冷やかす。

それを受けて玲二は照れくさそうに頭をかき、エレンも少しだけ居心地の悪そうな表情をみせる。

 

「それではフィーアさん、おそらくというか間違いなくイチの奴は貴方に気がついて俺達と別れたんだと思うんですが、いったい何があったんですか?」

 

「……貴方、高町恭也がツヴァイと藤枝美緒、久保田早苗とともに出かけていた日、あの日私は始めて彼に会いました。……その時は彼女、でしたけど……、その時から私はすべてを見透かされていたんです」

 

そういわれて恭也と美由希はその日の夜の悪夢を少しだけ思い出す。

他のメンバーはそれを見ていないので理解できないでいたが、恭也がイチがその日女装して恭也たちを尾行してガードしていたことを簡単にしらせてフィーアに話の続きを促す。

 

「あれからも私達が交代で監視していて、今日が私の持ち回りでした。性格には私ともう一人、同じ部隊の仲間とペアでしたけど……。そして彼はおそらく私達が交互に張り付いているタイミングを計っていたのでしょう。私ともう一人が入れ替わるその隙をついて貴方達からはなれ、私に接触した」

 

恭也、玲二、エレンの三人は、美由希の動向の理由にその時ようやく合点がいった。

今日に限ってイチはわざわざ関わらせる予定ではなかった美由希を誘った。

今思えば、中途半端に知っている美由希が身内に何かあった時に一番危うく、そしてそれが自分に起こりうると判断したからこそイチは美由希を前もって関わらせたのだろう、と。

そしてケイはその日に限ってブリジットまで自分に任せていった兄の意図を掴んだ。

自分が行動を起こすつもりだった以上、戦闘能力のないブリジットは傍にいては間違いなく危険な目にあうだろう。

そのことをキチンと考えていた兄を誇らしく思う一方で、ケイは何かの時のために自分が当てにされていたことに喜びを感じていた。

 

「……そうですか。俺も貴方達の監視と一定時間で交代しているらしいことは分かっていましたが、まさかコイツがそのタイミングまで計っていたとは……」

 

そういって恭也が呆れ顔でベッドで寝息をたてる親友をみてやると、それにつられたように皆がイチに目を向ける。

 

「こうして無防備に寝てるととてもそんな周りを手玉にとるような事をするような奴には見えないな」

 

リスティのそんな一言に恭也たち手玉に取られた一同は無言でしみじみと首肯する。

ブリジットは寝顔を覗き込んでなにやらうっとりしていたのだが、それは見なかったことにされたらしい。

 

「じゃあフィーアさん、何があったのか、といっても俺達が駆けつけた時は気を失っていたようですので覚えている所まで、話してください」

 

そしてフィーアはその恭也の言葉に頷くと、ゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノイン、交代だ。ツヴァイたちの現在地は?」

 

「現在高町恭也、狼村一太郎に高町美由希を加えて翠屋に向かっている模様。ブリジット・クローウェル、ケイト・グラハム、狼村圭は海鳴駅の方向へと移動を始めた。おそらく別行動だと思われる」

 

「了解。私が到着し次第下がって」

 

フィーアはそういって通信を終えると翠屋へ向けて足早に進んでいく。

風ヶ丘の制服に身を包んだ彼女は何処からどう見ても下校中の高校生にしかみえない。

フィーアがノインと合流した時、恭也たちはあと100mほどで翠屋というところまで来ていた。

 

「高町美由希が一緒にいることには何かあるのかもしれない」

 

ノインの一言に無言で頷くフィーア。

 

「……気をつけて、ねえさん」

 

一瞬だけ年相応の表情で心配そうに言うノインに、フィーアも少しだけ表情を柔らかくしてそれに応える。

そうして距離をあけるノインの後姿を暫く見送っていると、

 

「妹分、なのかな?」

 

といきなり真後ろから声がした。

全く気配を感じなかったことに驚きつつ条件反射で飛びのきながら隠し持っていたデリンジャーを袖から抜くフィーア。

しかしその人物はフィーアの飛びのくスピードに合わせるようにそのままの間合いで近づくと、デリンジャーを構えようとした右手を押さえる。

フィーアは押さえられた右手をそのままに、同時にサバイバルナイフを抜いていた左手を振るうが、その相手はフィーアの右手を動かすと、デリンジャーの銃身を使ってナイフを止める。

そうして向かい合った時、フィーアは相手の姿を確認して驚愕する。

 

「狼村…………、一太郎、だと?」

 

驚きを隠さずにそう呟いたフィーアに、イチは飄々と微笑んで、

 

「そう、狼村一太郎です。イチって呼んでください♪」

 

と嘯いてみせる。

 

「なにをそんなに落ち着いている、狼村一太郎。私はツヴァイたちを狙う、いわば貴方の敵だ」

 

「うん、そうかもしれないね。でもそうならない方法は本当にないのかな?」

 

「なにを言っている?そんなこと、お前がツヴァイ達への協力をやめないかぎりありえない話だ」

 

「……でも君は迷っているだろう?言われるままに動き、言われるままに殺す、そんな人形のような生き方に」

 

「なっ!?」

 

イチの一言にフィーアは思わず絶句してしまう。

その反応を見たイチは優しげに微笑みながら、

 

「あなた、寂しそうですね。元気出してください♪…………覚えてますか?」

 

と声の調子を変えてフィーアに問いかける。

敵前ということも忘れていきなり聞こえてきた聞き覚えのある声と台詞に思考をめぐらせたフィーアは、はっとした顔でイチをみる。

 

「あの時の女性、あれがお前だったの?」

 

「そう、あの時君に倒れ掛かってからずっと気になってたんだ。君が見せるエレンのような表情。調整された兵士ならそんな表情は出来ないはずだよね?」

 

「…………なんのこと?私はツヴァイとアインを殺すためにここに来た。そしてそれを邪魔するというのならお前も……」

 

そういってフィーアは間合いを開けて腰に挟んだハンドガンサイズの銃を引き抜いて銃口をイチに向ける。

 

「殺せるかい?君は僕にあったことで更に迷いが深まっているよね」

 

イチはゆっくりと歩み寄りながら話し続ける。

 

「君はおそらく調整のされ方が玲二に近いんだろう。記憶のみを消されて自我を残された。その上でエレンと同じような徹底した戦士としての訓練をする」

 

微笑みながら近づいてくるイチに、フィーアは見えない何かに押されるようにじりじりと下がっていく。

 

「たしかに玲二とエレンのいいとこ取りな感じだけど、そのおかげで君は精神的にとても中途半端だ。戦士としての精神と年相応の精神がせめぎあった結果が今の君だね。戦士として命じられるままに動かなければいけないと体が言っているのに、頭はもういやだと訴えている」

 

ついにフィーアは壁に背をついてしまう。

イチはそのままゆっくりと歩いていくと、向かい合うような場所で立ち止まる。

 

「あるいはエレンのような調整を受けていれば何の迷いもなく殺し、殺されを出来たのかもしれないし、玲二のように教育されたのなら自分で考え、自分で動くことが出来たのかもしれない。でも君は……、いや、君たちはそうはならなかった。自我はあるのに命令どおりに動かざるを得ない」

 

あいかわらずゆったりとした口調で口元に笑みを浮かべながら、イチは優しく問いかける。

 

「君は、どうしたいのかな?」

 

イチの発した言葉は、自我を押しつぶされてきたフィーアにとって衝撃だった。

この目の前にいる男は、意思を尊重しようとしている。

それがとても衝撃で、敵にそんなことを語りかけることに対してなめられている様でとても腹立たしく、そして、それでいてどうしようもなく…………嬉しかった。

フィーアはイチに少しだけ微笑むと、

 

「…………ありがとう、狼村一太郎。でも私はここで貴方に救いを求めるわけにはいかない!」

 

まるで自分に言い聞かせるように叫ぶと、フィーアはもう一度銃口をイチに向け、左手にサバイバルナイフをかまえる。

 

「私には私と同じ立場で、私と同様に苦しみ、もがき、そして今も戦っている仲間、……妹達がいる!私はこの場で自分だけのうのうと助かるなんて真似は出来ない!」

 

そういってイチの頭上を飛び越えながら銃弾を浴びせる。

イチはそれを咄嗟に飛びのいて避けると、

 

「なら、僕はここで君を倒して連れて行くことにするよ。そして君のその姉妹達も全員倒して足洗わせる」

 

といいながら腰元から忍者刀を、鞄の中から月影を抜いて笑顔を浮かべる。

 

「ハッピーエンドなんてそん所そこらに転がってるわけじゃないことくらい分かってるけど……」

 

両手の刀を回転させて逆手に構えると、イチは、

 

「あったら儲け物だから、僕はそれを最後まで追いかける」

 

と言い終わると同時に間合いを高速でつめる。

フィーアは、先ほどこそイチのことを非戦闘者という認識があったからこそ完全に虚をつかれたが、今回はそのスピードに対応してサバイバルナイフとハンドガンで確実にイチの斬撃を防いでいく。

そして攻め込むイチの隙をつくように防いだその勢いで引き金を絞って銃弾を撃ち込んでいくと同時に、その小柄な体を十二分に利用した足技を絡めて翻弄する。

 

「くっ、さすがに戦闘慣れしているとやりにくいね。簡単には押さえさせてくれないみたいだ」

 

「当たり前だ。こちらこそその調子なら死体を利用させてもらうことになるぞ」

 

「それは嫌だね。僕の命は恭也達のためにあるんだ。そんなことに利用されるなんてごめんだよ」

 

そういうと更に態勢を低くかまえ、と同時に先ほどまでとは比べ物にならない速度で詰め寄る。

予想だにしないスピードに、フィーアは考えるよりも先に横っ飛びで体を転がす。

そのまま体勢を立て直すと素早く二発撃ち込み、そしてそのまま銃弾を追う様にして自分もイチとの間合いをつめる。

イチは銃弾二発を寸前で月歩をつかって避けると、蜃気楼のように揺れ動きつつフィーアの周りを回って動く。

フィーアはそれを見ると、一転今までの素早い動きが嘘のように立ち止まって受身の構えを取る。

イチはそれを見ると蜃気楼のような残像を残し、疾風を使ってそのまま一直線にフィーアに突進し、

 

「狼牙、双狼爪」

 

と両手の刀で打突を繰り出す。

フィーアはそれをそれぞれ銃とナイフで弾くが、イチはそのまま更に技を派生させ、追尾するかのように二本の刀を振るう。

着実に追いかけてくる二本をじりじりを下がりながらそれを弾くフィーアであったが、所詮右手に握るのはハンドガン。防ぎきれずに二の腕に少し深めに受けてしまう。

慌てて飛びのいて右腕を押さえ、出血の具合をはかるフィーア。

しかしイチはそれ以上の追い討ちをかけずにフィーアの様子を窺う。

 

「大丈夫かな?一応あとは残らないように気をつけるけど、それでも君を止めないといけないからね。それなりに痛い思いはしてもらわないといけないけど、我慢してね」

 

「何を言っている。私はお前を殺すつもりだぞ?戦う以上殺すか殺されるかしないと終らないことくらい分かっているだろう」

 

「僕は誰も殺さないし、君にも誰も殺させない。言ったでしょ?あったら儲け物のハッピーエンドが僕の理想なんだって」

 

そういって今度は神速の領域に入るイチ。

もはや完全に視界から消えたイチを相手に、それでもフィーアは感覚のみを頼ってイチの攻撃を凌いでいく。

暫く単発的な神速を使いながら攻撃を繰り返したイチだったが、暫くすると肩で息をしはじめる。

 

「……神速はあと一回、かな?」

 

苦しそうに、それでも笑みを絶やさずに呟くイチ。

それを訝しげに見ながらも、フィーアはここぞとばかりに攻めに転じる。

高速で詰め寄り、サバイバルナイフを振るいながらハンドガンとのコンビネーションで着実に攻撃してくるフィーア。

すでにイチの体には無数の掠り傷が出来ており、動きも少しずつ鈍くなってゆく。

それでもイチは笑みを絶やさず、何かを待つようにじっと攻撃に耐え続ける。

段々フィーアの攻撃が単調になり始めると、イチは突然飛びのき、体勢を今までで一番低くし、今までのリズムをいきなり崩して神速に入る。

フィーアは今までの段々と遅くなっていく動きから一転して神速にはいったイチに驚愕するが、それでも一直線に突進してくるイチの気配に向かってナイフも捨てて両手にハンドガンを持って撃ちつづける。

サイレンサーのついた銃からの空気のぬけるような音が連続的に鳴り響く中、イチは銃弾を出来うる限り両手の刀で弾きながら最短距離をもってフィーアとの間合いをつめ、

 

「……ごめん」

 

と一言呟くと、双狼爪で両手の銃を弾き飛ばし、そして必殺である一撃を放つ。

 

−御神流奥義之六 薙旋−

 

先ほどの攻撃で両手の武器を弾き飛ばされ、更に体勢も崩れた状態でのこの攻撃をフィーアに避けられるはずもなく、すべての攻撃を受けたフィーアは声もなく地面に崩れ落ちた。

そしてそれを確認すると同時に、イチもその傍らに片膝をつく。

 

「はぁ、はぁ…………ふぅ、なんとか止められたね」

 

そういって苦しそうに微笑みかけるイチ。

倒れたフィーアは、記録にもあった高町恭也の必殺技を受けて死を覚悟していた。

しかし自分の意識がはっきりしていることに驚きつつ、イチに疑問を投げかける。

 

「い、今のは、高町恭也の技…………。なぜお前が…………」

 

「実は僕、恭也とは同門者なんだよね。君たちが周りをうろつくようになってからは、僕が切り札だったんだよ」

 

「……お前が戦闘している姿を全く確認できなかったのはそのためか」

 

「君らのマスターは頭が良いみたいだけど、同時に自信家みたいだからね。イレギュラーな存在がたいして重要ではないと一度でも判断してくれればそれはよほどのことがない限り覆らないと思ったんだ」

 

「我々は読みが甘かったわけか。まさかブレインであると同時に戦闘用の切り札でもあったとは…………。さぁ、お前の勝ちだ。殺せ」

 

そういってフィーアは目を閉じて完全に仰向けの状態で倒れた。

そんなフィーアにイチは軽く苦笑いを浮かべると、体を引きずって隣までいく。そして……

 

「…………何を、している…………」

 

フィーアの頭を撫でた。

訝しげな疑問の声にも無言をとおして頭を撫で続けるイチ。

フィーアは、段々と自分の胸の奥に暖かいものを感じるようになり、その感覚に戸惑ってただなすがままになっている。

暫くそうした微妙な空気が流れていたが、やがて

 

「君の命、僕が預かる」

 

とイチは静かにフィーアに告げた。

 

「君の命を僕に預けてもらって、残りの君の姉妹達も全員生きたまま止める。君に拒否はさせないよ」

 

「…………私は、どうやって償えばいいんだ。今まで殺してきた人たちに対して。今更自由にしてもらってどうしろというんだ」

 

「エレンも同じ悩みを抱えて……、いや、むしろ君たちよりも重いものを抱えて玲二と生きているよ。だから君たちもこれが終ったら探せばいい。僕らも手伝うから」

 

そういって勝手に握手するイチ。

フィーアは、流れていく血の量が少しずつ多くなって意識が朦朧となっていくのを感じつつ、最後の一言をイチに告げる。

 

「……マスターの命を果たせず、そむいた今となっては私はもう死んだも同然だ。ただしお前の言葉がもし本当なら、一人も殺さないでくれ。もし殺したら、その時は私がお前達を…………」

 

最後まで言い終わることなく体力を使い果たしたフィーアは、そのままゆっくりと意識を手放していく。その時。

 

パァン! パン、パン、パァン!

 

サイレンサーなしの銃声が響き渡って意識が一瞬だけ戻った。

そして倒れたままのフィーアの視界に飛び込んできたのは、銃弾を四発体に受けて倒れるイチだった。

そのまま視線を強引にずらすと、そこにはスナイパーライフルを構えたノインとゼクスが見えた。

 

「……あちゃあ、これは完全に計算ミスだ」

 

口元から血を流しながらそう呟くイチに視線を戻すと、イチは相変わらず微笑んだままだった。

 

「で、でも……、おかげで恭也達がもうすぐ来てくれそうだ……。儲けもの、なの、かな?」

 

そういって微笑んだイチが、フィーアが見た最後のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうして気がついたら貴方たちがとなりで話しているところだった、というわけです」

 

フィーアは話し終えると疲れたようなため息を一つこぼす。

 

「無理させてすいません、フィーアさん。お話で大体の事情は分かりました」

 

そういって頭を下げて礼をいう恭也。

そして玲二とエレンに向き直り、

 

「そういうわけだ。俺はイチが遣り残したことをやるつもりだったし、話を聞いて余計やる気になった。止めるなら美沙斗さんには悪いがこの頼まれ事はなかったことにしてもらって俺一人で動くが」

 

と再度確認をする。

それに対してエレンと玲二は二人ともあっさりと承諾し、そして

 

「さて、今日はこの辺にしておきましょう、恭也先輩。二人とも怪我人なわけですし」

 

「そうね。かりにフィーアが何かをたくらんだ所で、フィリス・矢沢相手に今の状態じゃ勝ち目はない。安心よ」

 

「ボクも暫く残るしね」

 

「……そうだな。リスティさんとフィリス先生なら何があっても大丈夫だろう。では最後に一つ。フィーアさん、インフェルノは、いえ、貴方達のマスターは一体この海鳴でなにをする気なんですか?」

 

恭也の一番の確信をつくその質問に、全員が固唾をのんでフィーアの口元に神経を集める。

 

「マスターは、ここで最強のファントムとその部隊を作るつもり。アイン、ツヴァイ、そしてドライがテストタイプ。そして私達がそファントム部隊の候補生。つまりマスターはこの土地を戦場とし、私達に貴方達という最高の実践相手を与え、そして最強のファントムを作り出すこと」

 

フィーアのもたらしたこの情報は、恭也たちも愕然としてその場に立ち尽くした。

 

「くそっ、やはりか…………。美沙斗さん、申し訳ありませんが美由希はイチの変わりに戦力として考えたいのですが」

 

「あたりまえだよ、かあさん! お兄ちゃんがこんなになってるんだから、私だってお兄ちゃんの望みをかなえてあげたい」

 

詰め寄ってくる高町兄妹に美沙斗は微笑みかけると、

 

「私も彼には借りがある。高町家のガードとインフェルノ本隊のほうは香港警防がやるから二人とも、絶対にとめるんだよ」

 

「「はいっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ海鳴市某所にて、美緒と早苗が連れ立って歩いていた。

二人で談笑しながら話していると、爆音とともに一台のバイクが目の前に止まり、ライダースーツの人物がそれから下りる。

二人ともスーツに見覚えがあって無言で見ていると、ライダーはバイクから降りてヘルメットを外した。

中から現れたのはやはりあのアメリカ人の少女だった。

 

「あんた達、玲二について話があるんだがついてこないか?」

 

片言の日本語で二人にそう告げる。

 

「アイツは馬鹿だけど話さなきゃいけないことは全部自分から教えてくれる。だからアンタから聞かなきゃいけないことはないと思うよ」

 

早苗は全く取り合わずに美緒の手を引いてさっさと歩いていこうとする。

 

「たしか、キャルさん、でしたよね? 私は玲二さんが昔アメリカで貴方にどんなことをしたのか知りませんが、それでも玲二さんを信じていますから」

 

美緒も片言ながらもしっかりした英語でそう告げ、早苗と共に歩き出す。

するとキャルはその表情を邪悪な笑みにかえ、

 

「あっはっはっはっは! 信じてるだって!? あの男、私を捨てて他の女にはしったあの男をかい!?」

 

と大声で馬鹿にするように笑い出す。

二人は思わずむっとして立ち止まり、キャルを睨みつける。

 

「なにが可笑しいんですか?」

 

美緒の一言に、キャルは笑うのをやめ、しかし邪悪な笑みをそのままに決定的な一言を告げる。

 

「アイツはね、超一流の暗殺者なんだよ。それを信じるなんて、笑うしかないだろ?」

 

そういってまたゲラゲラと笑い出すキャルの言葉を聞いて、美緒と早苗は、

 

「そんなの嘘です! 玲二さんがそんなことするはずがありません!」

 

「アイツはね、ボーっとした馬鹿だけどそんなことするような奴じゃないよ!」

 

とそれぞれ英語と日本語で不快感を露にし、キャルを真直ぐに睨みつける。

その視線を受けてキャルは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、

 

「今何を言っても無駄なようだね。折角穏便に連れてってやろうてのに……」

 

といきなり高速で詰め寄り、二人の腹部に打撃を加えて気絶させる。

何が起こったかもわからず、声も出せずに崩れ落ちた二人を見下ろすと、キャルは不快感を露にしてはき捨てた。

 

「アタシはね、あんたらみたいにな平和な馬鹿共が大嫌いなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

…………申し訳ございません。

いえ、何を謝るってこのあまりにも空いてしまった間隔や、とらハ×PHANTOMのはずなのに恭也達が殆どでてないとか、ツァーレンの連中が完全にオリジナル化してるとか、とにかく色々です。

まあツァーレンに関してはもともと性格設定なんてないも同然なんで自分でやるより仕方ないんですが……

あと最後のシーンに早苗が出てきてしまったので短くオリジナルにまとめてしまいましたOTZ

さあ、これからどうなるんだろう?

ツァーレンの残りとドライで今敵は六人+暴力団の皆さんが一杯

上手いこと割り当ててハッピーエンドに持ち込むべく努力しますです、ハイ

それではまた〜♪





最強のファントムとその部隊というのも見てみたいかもな。
美姫 「こらこらこら」
冗談だって、冗談。
にしても、遂に一般人に玲二の過去が知らされた!?
美姫 「しかも、キャルに攫われた二人〜」
一体どうなる!?
美姫 「次回も楽しみね」
次回も待ってます〜。



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