TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




第二十四話 −THE BEGINNING OF THE END

 

 

 

 

 

 

 

 

エレン達に救出された次の日の朝、美緒は海鳴病院の一室で目を覚ました。

 

「あ、美緒……」

 

呟くような小さな声で自分の名前が呼ばれたことに気付いてそちらを向くと、隣のベッドで早苗が涙を浮かべて美緒を見ていた。

 

「……早苗……」

 

少しかすれた寝起きの声でなんとか名前を呼ぶと、早苗は感極まったといった表情で、

 

「美緒! 良かったぁ、ちゃんと目を覚ましてくれて! アンタ、なんであんな無茶したのよ!」

 

と、喜ぶと同時に怒るというなんとも奇妙な芸当を見せつけながら抱きついてきた。

美緒は抱きついてきた早苗を受け止めながら、自分が今おかれている状況についてまだ寝ぼけている頭で考え始めた。

 

(たしか……早苗とあの金髪の、キャルさん?に掴まってどこか廃屋みたいな所に監禁されて……それで……!)

 

「早苗! ここは何処!? 私達、助かったの!? エレンは!?」

 

いつもの美緒と比べるとかなり早口でまくし立てるように早苗に詰め寄る。

 

「ちょ、美緒、落ち着いて、落ち着いてってば!」

 

困り果てた表情で自分の肩を抑える早苗を見て美緒は我に返ると、

 

「……ご、ごめんなさい……」

 

と急に大人しくなって肩をすぼめる。

そんな美緒の肩を、早苗は軽く叩くと、

 

「ここは病院よ。今は朝の八時。私達は昨日の夜に助けられてここに運び込まれたんだって。事情は……本人達に話してもらいましょう」

 

と言ってドアを見る。

隣の病室に繋がっているそのドアに美緒が早苗につられるようにして目を向けると、そのドアがゆっくりと開いて白衣を着た銀髪の少女、フィリス・矢沢が入ってきた。

 

「藤枝美緒さんと久保田早苗さん、ご気分はいかがですか?」

 

医者のコスプレをした少女に二人が戸惑ったような視線を向けると、フィリスは顎に手を当てて小首を傾げ、少しその視線の意味を考える。そしてその意味に気付くと、今度は頬を膨らませて、

 

「私はれっきとした医者です! 誰が○学生ですか!」

 

と少し被害妄想なツッコミを勝手に入れる。

そんな仕草がますます可愛らしいとしか言いようがなく、二人が反応に困っていると、

 

「それだけフィリス先生が可愛らしいってことですよ、ね? 恭也?」

 

と隣の病室から最近二人が聞きなれてきていた先輩の声が響く。

 

「ん? ああ、そ、そうだな」

 

それに半ば強制的に同調させられているその人の声も、最近接点が増えてきたもう一人の先輩の声。

彼が同調したことに舞い上がっているフィリスは、ろくに診察もせずに、

 

「それじゃ皆さん、体調には問題なさそうですけど体力と精神はそれなりに疲弊してますからそんなに長話は駄目ですよ?」

 

と言いながら早苗と美緒を隣の部屋へと促す。

用意されたカーディガンを羽織って背中を押されるように隣の部屋に入ると、そこには恭也と美由希、ベッドに横たわるイチ、自分達の背中を押している少女と瓜二つのショートカットの女性に見知らぬ少女と恭也達に雰囲気の似た女性、そして……

 

「……玲二さん……」

 

「……エレン……」

 

美緒にとっては、自分が最後まで信じ続けた男と、そんな自分を助けた友人。

早苗にとっては、つい数日前まで気を許せる友人だった兄妹。

そんな二人がそこにいることを確認した時、美緒と早苗はそこにいる全員が関係者であることを理解した。

呆然としてしまっている二人に向かって玲二とエレンが一歩前に出ると、

 

「美緒、早苗、今回の件は私達の所為なの」

 

「藤枝さん、早苗……、ごめん」

 

と簡潔に伝える。

二人の言葉を聞いて美緒と早苗は正気を取り戻した、かと思いきや今度は、

 

「ちょっと玲二! そんなしおらしく謝ってもらいたいわけじゃないのよ、アタシたちは! ちゃんと事情を説明してちょうだい!」

 

とものすごい剣幕で玲二に詰め寄った。

ただただされるがままにしている玲二を見て、美緒もまた何かを決心するように視線をエレンに向けると、

 

「私も……事情を知りたい。いつも私の知らないところで何かが起きて、そしていつの間にか終ってる。でも、もうそんなのは嫌です。だからエレン、玲二さん……」

 

と、昨晩キャルにも見せた強い意志の籠もった視線を二人にぶつける。

強気で詰め寄っていった早苗もたじろぐほどのにらみ合いらしきものが暫く続き、見ている人間が固唾を呑んでそれを見守る。

ほんの数秒の出来事だったのか、それとも数分経っていたのか。そんな睨み合いが永遠に続くのではと思い始めたとき、

 

「玲二、エレンさん、彼女達には知る権利がある」

 

と二人の後ろから声を放つ男がいた。

驚いて二人が振り向くと、それは本来なら一番玲二達の行動に賛同するであろう恭也だった。

 

「もちろん二人をこれ以上巻き込まない為には何も教えないのが一番かもしれない。が、それを承知でというのなら誰にも彼女達の知る権利を邪魔できんだろう」

 

恭也の思わぬ発言に玲二とエレンは驚きながらも考えこむ。

逆に美緒と早苗は思わぬ味方を得て更に強気に玲二達に視線を向ける。

そんな五人のやり取りを外野で見ている美由希たちは、

 

「ねえかあさん、事情話したほうがいいのかな?」

 

「それは結局あの二人が決めなければいけないことだよ」

 

「ただ、やっぱり知らないほうが身の為ではあるよなぁ」

 

「そうよね、私達みたいに力があるわけでもないんだし」

 

「……貴方はどう思います?イチ」

 

「僕は恭也に賛成。何を知って何を忘れるか、それくらいの選択肢くらいはあげるべきだと思うよ。それに……」

 

そこでイチは言葉を一度区切ると、その場に集まった全員を見回して、

 

「僕はこんな状態だけど、この中にも、僕らの友人達も、知った本人の責任だなんて言って二人を見捨てるようなことする人、いないでしょ?」

 

と軽く微笑んでみせる。

そんなイチの言葉に皆驚いたような表情を見せるが、やがて皆イチと同じように微笑んで玲二とエレンに視線を向ける。

後ろでひそひそと話しているのも当然聞こえていた玲二とエレンは、やがて覚悟を決めたように二人で顔を見合わせる。

 

「最後にもう一度聞く。特に早苗、お前は完全にまき沿いをくった一般人だ。このままなにも聞かなければそれでお前は残りの人生を確実に平穏無事に送れる。それを捨ててまで、自分に関係のない非常識な世界の話を聞きたいのか?」

 

今まで見たこともないような真面目な表情の玲二に、早苗は事が本当にただ事ではない事を再認識する。

 

「藤枝さん、君もこの話を聞くということは、さっき君が言っていた自分の知らない所で何かが起こっていたその原因を知ることになる。おそらく君のお母さんがそれを君に知られまいとこれまで必死に隠し通してきたその秘密、本当に知る覚悟はあるか?」

 

美緒もまた、玲二のいつにない真剣な表情に事態の深刻さを知るが、それでも彼女には彼女を突き動かした存在が目の前にいる。

 

「私は……それでも知りたいです。エレンとこれでお別れも嫌ですし、それに……少しでも、貴方のそばにいたいから……」

 

「?……分かった……ありがとう。早苗、お前は?」

 

どうやら最後は聞こえていなかったらしい。

この状況で聞こえなくて良かったという気持ちと、聞いていて欲しかったという気持ちで複雑な表情をしている美緒の顔すら、玲二には思い悩んだ末の答えだからこそという解釈しか出来ていない。

そんな美緒の横で、早苗もまた決意を固めたらしい。

 

「アタシは……、正直玲二の言ったとおりの一般人だし、首を突っ込んだらそれこそ取り返しつきそうにないし……」

 

「ああ、そうだな。それがい……」

 

「でもね」

 

でもの意味が分からずに首をひねる玲二とエレンをよそに、早苗は言葉を続ける。

 

「もしアタシがそれを聞かずにこの場を立ち去ったら……、あんた達とは二度と会えないかもしれない。そうよね?」

 

早苗の問いかけに玲二はただ首肯することでそれに答える。それを見た早苗は納得したように一つ頷くと、今度は恭也達のほうに向き直る。

 

「高町先輩、狼村先輩、お二人はもし私がここで事情をすべて知ったことによって仮に命を狙われるようなことになった時、助けてくれますか?」

 

「……ええ、もちろんです」

 

「僕は……今は無理だけどね」

 

恭也は真剣に迷いなく、イチは微笑みながら優しげに、それぞれの言葉で肯定の意思を伝える。

 

「もちろん、私達だって恭ちゃん達と同じ気持ちですよ」

 

美由希の言葉に頷いてみせる美沙斗達。

 

「それじゃあ、迷うことなんかないわ。私も美緒と一緒に聞かせてもらう」

 

「な!?ほ、本気か!?」

 

早苗は聞かないと思い込んでいた玲二は思わず驚きの声をあげる。エレンも隣で少々目を見開いて驚いているようにも見える。

 

「なぜ?聞いたらもう今までの日常には戻れないかもしれないのよ?」

 

エレンはその抑揚のない声を早苗にぶつける。

自分が普段学校で接しているエレンとは明らかに違うその様子に早苗は少し首を傾げるが、すぐに目を閉じて軽く笑ってみせる。

 

「だって……アタシ、皆のこと好きだもん。美緒とだってこれからもずっと友達でいたいし、エレンだってそう。まぁしょうがないから玲二も加えてやってもいいわ。高町先輩達とだって最近になってようやく少し親しくなれたんだもん」

 

ウインクするように片目と閉じておどけてみせる早苗。

しかし彼女のその覚悟はそんなものでは隠せないほどにその表情と言葉の節々に表れていた。

 

「アタシはね、自分の身の安全のために友達の事知らん振りなんかできないのよ」

 

結局早苗のその覚悟に玲二とエレンも全面的に折れ、二人にすべてを知ってもらうことになった。

 

「分かった。藤枝さん、早苗……ありがとう」

 

自分達の命よりも玲二達との関係を壊したくない。そういってくれた二人に玲二は言葉を詰まらせる。

エレンもまた、自分を友人と呼んでくれるこの二人に驚きの表情も隠さず、

 

「あ、わ、私が……と、友達……?」

 

と唖然と呟く。

まだ事情を知らないにせよ、この二人はおおよそ自分が普通の人間でないことなど分かっているはずなのにそんな言葉を口にする。

信じられないといった表情をするエレンに向かって、二人は軽く微笑んでみせる。

 

「エレンは私達の友達だよね?また比呂乃とかブリジット、ケイトも皆で遊ぼうよ?」

 

「そうよ!アンタ今まで散々猫被ってたみたいだし、一度本音って聞いてみたいのよね」

 

微笑みかけてくれる今まで騙していた友人達の言葉に、エレンは声もなくただ一筋の涙を流した。

そしてそれに一番に気付いた玲二がエレンの前に出てそれを隠すと、これまでの経緯を二人に話し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞き終えた時、美緒は静々と涙を流していた。嗚咽を漏らすことなく泣くその姿に、玲二達は皆、今始めて自分の本当の素性を知ってしまったことに同情する。

自分が実はヤクザの親分の隠し子であり、叔父だと思っていた人は実の兄。しかも優しかった実の兄は自分の想い人を殺しかけ、そしてその想い人の妹を名乗っていた自分の親友によって命を落としていた。そんな事実を知らされて、平静でいられるわけがない。何しろ自分は一般人ではないということを、自分の想い人から告げられてしまったのだ。

 

「ごめんな、藤枝さん。やっぱり無理矢理にでも伝えないほうが良かったな」

 

玲二もまた、やりきれないといった表情で美緒を見る。

彼もまた、自分の所為で彼女の兄が殺されてしまったことに対する責任を感じている。許してもらえなくて当然。どんなに罵られようと、玲二はそれを甘んじて受ける覚悟でいた。

そしてそれはエレンも同じ。彼女にいたっては自分が手を下してしまっている。先ほどは自分の事を友人と認めてくれた美緒だったが、この事実を知ってなおそう呼んでもらおうなどといった考えを持ち合わせているはずもない。

しかし美緒の口から出た言葉は、玲二達の予想を裏切るものだった。

 

「……玲二さん…………辛かったですよね?エレンも…………。それなのに私は、こんなにのうのうと…………ごめんなさい」

 

美緒は、自分の本当の家庭の事情のことを知り、叔父と慕っていた兄の死の真実を知ってなお、玲二とエレンのために涙を流していたのだった。

ふとみると早苗もまた、涙こそ流していないものの沈痛な表情を浮かべている。

 

「なのに私は、そんな事も知らずにそんな玲二さんの表情に憧れて……」

 

「……アンタがいつもボーっとしてるように見えてたのはそんな……」

 

そう。美緒が惹かれ、早苗が酷評していたあの表情は、自分の故郷を心の底から愛しんでいたからこその表情だったのだ。

 

「いや、そんなことはこの際さほど重要でもないだろ?」

 

「美緒、貴方自分の素性はどうでもいいの?」

 

当の本人達はそんな二人が不思議でしょうがないのだが、逆に恭也達は皆そんな美緒達の優しさに素直に感心する。

 

「それは確かに驚きましたけど、私だって何もないとは思っていませんでしたから……。それに兄のことも……やり切れない気持ちはあるけど……、でも兄はそういった生き方を選んだ人だったんです」

 

「……強いんだな、藤枝さん。美由希、お前もす、少しは見習え」

 

「うっ、わ、私だっていつもいつも恭ちゃんに頼ってばかりじゃ……」

 

「イチの時、誰よりも取り乱してたじゃないか」

 

「そ、それは……。大体恭ちゃんだって倒れてるお兄ちゃん見て唖然と立ち尽くしてたじゃない」

 

重くなりかけた空気を恭也がぶち壊す。本来ならばイチが受け持つであろうその役を買ってでた所為でどこかぎこちない話の振り方だったが、そこは美由希、長年の付き合いでぴったりと息を合わせてみせる。

リスティもそれに混ざっていつの間にか恭也の表情がいかに打ちひしがれたものだったかという議論に移ってくその会話を、話の中心人物だったはずの四人が唖然として見つめる。

 

「あ、あの、高町先輩?」

 

「ど、どうしようエレン?」

 

このノリに全く免疫のない普通人二人が少々うろたえた様に玲二とエレンを見る。

二人は顔を見合わせてると、

 

「この人たちはこういった人たちよ」

 

「ああ、空気が重くなりすぎるとこうやって崩して軽くしてくれる」

 

とエレンは少し表情を和らげ、玲二は苦笑を浮かべる。

とそこへ、本来の役割を奪われた怪我人がもう一人の怪我人に付き添われて近づいてくる。

 

「玲二、エレン、ちょっといいかな?」

 

フィーアに付き添われたイチを手近なベッドに座らせてそれを囲むように三人が立つ。

美緒と早苗は空気を呼んで恭也達のほうに混ざりこんでいった。

 

「さて、ちょっと問題なんだけど……」

 

「……敵、ですね?」

 

「……梧桐組の連中?」

 

二人ともある程度想像はついていたらしい。

二人に頷くと、イチはフィーアに後を任せる。

 

「実は梧桐大輔の側近が藤枝美緒に何度も接触しているらしく、しかもいまだにツヴァイに対しての憎しみは消えていないようです。今回の藤枝美緒の誘拐の件にも貴方が関わっているという情報をマスターが流している可能性は高いかと」

 

「……たしか、志賀透だったか……。たしかにあの男は梧桐大輔を崇拝していたようだった」

 

「ええ、梧桐組というより梧桐大輔という人間に仕えていたというのが正しいわね。そんな男がマスターからそんな情報を聞いたら……」

 

「まず黙ってはいないよね?」

 

「ええ、高町恭也とイチが関係者というのが組織としての歯止めにはなるでしょうが、それでも組の中には梧桐大輔を崇拝していた人間は多いですし、それに……」

 

「ちょっとまってくれ」

 

淡々と話を進めるフィーアを玲二が止める。

 

「イチ先輩の実家と梧桐なら繋がっている可能性があるだろうことはわかっていたが……」

 

「一応歴史の長い家だし、なにより裏家業だからね」

 

何が言いたいのか理解したといった表情で頷いたエレンは、フィーアは話を始める前に口を開いた。

 

「恭也先輩の父、高町士郎はかつて仕事上、梧桐の抗争に巻き込まれたことがあったらしいわ。その時一人で襲撃した梧桐の組員を一人残らず撃退して、それ以来梧桐は高町士郎には関わらないと決めているらしいわ」

 

「……エレンが藤枝さんたちに事情を話す事に妥協したのはそれが理由か……」

 

「ええ。でもさすがに個人で動かれると話は別よ。家の名前はたいした抑止力にならないわ」

 

「対策は必要、だよね?」

 

頷きあう三人と、その横に静かに立つ一人。

四人の打ち合わせがある程度終ったころ、恭也達のほうも一応の決着を見たらしい。

なにやら恭也が疲れた表情を見せている所を見ると、結局最後までからかい続けられたらしい。

先ほどまでの打ち合わせ内容を大まかに説明し終えると、美緒が遠慮がちに声をあげた。

 

「あの……玲二さんに伝言があります…………、キャルさんから」

 

そういって少し表情を歪めた美緒。

よほど思い出したくないような仕打ちを受けていたのだろう。しかしすぐにそんな表情を押し消すと、

 

「今日の16時に学校の聖堂で玲二さんを待つって……」

 

言い終えるとまた肩を震わせてしまう美緒。

玲二は慌ててその肩を支えると、優しく頭に手を置いた。

 

「ありがとう。たしかに受けたよ」

 

そういって早苗の手に美緒を預ける頃には、彼女は別の意味で放心状態だった。

 

「早かったな。今までの動向から考えてもこの期に乗じて向こうは仕掛けてくるだろう。で、どうするんだい?」

 

美沙斗は恭也に問いかける。

 

「美沙斗さんは……、すみませんがインフェルノのほうの抑えに戻っていただけますか?あとリスティさん、万が一もありえますので梧桐のほうの情報収集もかねながらさざなみに戻ってください」

 

「うん、そうだね。それじゃそっちはまかせてくれ。それじゃあ美由希、終ったらまた休暇しにくるよ」

 

「ボクは……、まあ前線に出ることはあまりしたくないからね。精々立場を利用して組の情報を集めておくよ」

 

二人ともそういうと早々と部屋を後にする。

美由希は名残惜しそうに母親の背中を見つめるが、すぐに気を取り直すと、

 

「恭ちゃん、私は?」

 

と剣士の表情になる。

そんな美由希をみて、恭也はイチに判断を委ねる事にした。身内をどう使うかは客観的にみれるポジションにいる人間に任せるべきだという判断だろう。

イチもそれを汲み取って軽く頷いて見せた。

 

「美由希ちゃんは恭也と一緒に。エレンは玲二のバックアップ。といっても玲二、初めにこの話をしたときの僕の言葉、忘れないでね?」

 

「はい、分かってます。俺も気持ちは同じですから」

 

その答えに恭也とイチは頷いて答える。

しかし、玲二がそういって決意を口にした時、エレンもまた何かを決めたような目をしていたのを見たものはいなかった。

 

「美緒ちゃんと早苗ちゃんは……、忍に協力してもらえるかな?」

 

「あ、ああ、まあアイツの家ならノエルもいるし安全ではあるが……」

 

「もっちろん、協力させてもらうわよ?」

 

「し、忍(さん)!?」

 

突然の乱入者に驚愕の声をあげる高町兄妹。

してやったりといった表情を浮かべた忍の後ろには、きちんとノエルがつきしたがっている。

ぐるっと室内を見回してまず恭也を見つけると、すぐに頬を膨らませて、

 

「もうっ!恭也のことだからなにかあるとは思ってたけどまさかそんな事になってたなんて!なんで黙ってるのよ!?」

 

と不貞腐れたように恭也に詰め寄っていく。

 

「そ、それは……、お前を危険に晒したくなかったから……」

 

おそらく、というか確実に全然意識していないのだろうが、その台詞に忍ははっとした表情で顔を赤らめる。

このままでは埒が明かないと思ったのか、ノエルはイチを探してその視線を彷徨わせる。そしてすぐに包帯だらけのイチを発見すると、

 

「お加減はいかがですか?」

 

と表情は崩れないながらも、少し心配そうな口調になる。

 

「大丈夫ですよ。それよりも二人のこと、頼みます」

 

「ええ、お任せください。恭也様並の相手でもない限り後れはとりません」

 

「おい、いいのか?お前の家を誰かが襲撃するかも知れないんだぞ?」

 

「いいよ?私だってそれくらいは恭也の役に立ちたいもん」

 

そういわれてしまっては恭也にはもう言い返せない。

ノエルの実力は知っているし、これ以上言っても忍が聞かないことくらい分かっている。

 

「あとは……家の人間とブリジットさん達か。イチ、どうするつもりだ?」

 

「高町家には僕の友人達に影から見てもらってるよ。今ブリジット達にはケイがついてるし、今日ここによってくれたらケイにも向かってもらう。……大丈夫だよ」

 

そういって微笑むイチ。

恭也はその言葉を信用して頷くと、玲二とエレンにもう一度視線を向ける。

 

「玲二、エレンさん……、今日で全部終らせるぞ?」

 

恭也の言葉に二人はただ無言で頷いて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドライが今晩動く。行動開始は16時」

 

ホテルに備え付けの深いソファーに足を組んで座るサイス・マスター。それを取り囲むようにツァーレンの五人が影のように跪いている。

 

「フィーアを失ったのは痛手だったが、まあコマが減る事を想定していなかったわけではない。結果的に此方もおそらく切り札だったであろう狼村とかいう小僧に痛手を負わせる事が出来た。まったく、志賀に聞いたときは驚いた。まさか本物の忍者だったとはな」

 

ノインの表情が歪む。イチを撃った時倒れていた自分が姉と慕った存在を思い出したのであろう。彼の影になっていたため分からなかったが、あれだけの斬撃を受けて無事でいられるはずもない。フィーアは死んだと思うのが妥当であろう。

 

「しかし念には念を入れる。ノイン、あの小僧は海鳴病院に搬送された。止めを刺して来い」

 

フィーアとノインの間にある他とは違う特別な絆を知っていての命令だろう。しかしノインにとってはありがたいものだった。敵が討てるのだから。

ノインがその感情を押し殺し、黙って頷くのをほくそ笑みながら見ると、サイスは他の四人にそれぞれの配置を告げる。

 

「アハトは藤枝美緒を確保しなさい。サル共に恩を売るには絶好の機会だが、香港警防がついている可能性もある。探し出し、対処しろ」

 

アハトは無表情にその言葉に頷いた。

 

「フェンフ、ゼクスはツヴァイとドライの戦闘終了後、後始末だ。ズィーべンは私につけ。私も見届けに出向くぞ」

 

三人もそれぞれ、アハトがそうしたように傅いたまま頷いてみせる。

 

「高町家には梧桐の連中を向かわせる。ご令嬢がそこにいるだろうと情報を流しておけば後は勝手に志賀が動くだろう。それなりのやり方をしてくれれば高町恭也の泣き所を押さえることにもなる」

 

すべてが完璧だといわんばかりにサイスの言動には自身が満ち溢れている。

クラシックな愛銃を愛おしそうに撫でながら、サイスは勝利と成功を確信して笑った。

 

「今日ですべてが終る。インフェルノでの私の地位は不動のものとなり、そしてこの戦いを生き抜いた最強のファントム達を手に入れるのだ」

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

…………つ、月一ペースになり始めました、この作品。読んで下さっている奇特な、お優しい方々、ごめんなさい。

帰国してから色々ありまして、もう開店休業状態でした、アインです

さて、そろそろ終りそう、なのかな?ってな所まできました!
どうやらめちゃくちゃな事になりそうです、ってゆ〜か原作無視?

……ごめんなさい。私にモアちゃん(能登ヴォイス)は無理がありすぎでした

???「しかもボク、出番減ってるですし……」

それもゴメンナサイです。だから彼を呼ぼうとしないで!ああ!彼女呼んだら浩さんにご迷惑がっ!ち、ちゃんとまた出すから携帯しまってください!

???「……ちっ、約束忘れるなですぅ」

は、はい!それでは私めは執筆活動に励みますゆえこれにてっ!

 





いよいよ事態が終局へと向かう!?
美姫 「色々と動き始める中、恭也たちはどうなるの!?」
いやいや、緊迫してきましたよ〜。
美姫 「次回が楽しみね」
一体、どうなるのか。
続きを気にしながら待ってます!
美姫 「それじゃ〜、また次回でね〜」
ではでは



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