TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜

 

第二十九話 −VERY VERY HAPPYEND FOR EVERYBODY

 

 

 

 

 

 

 

 

「玲二さん。恭ちゃんはああ言ってるけど玲二さんは無理せず休んでてね」

 

美由希は視線を目の前の少女から外さず玲二に話しかける。

エレンもそれに同意するように、

 

「そうだね。あたしは援護しながら玲二を護ったげるよ」

 

とこちらは玲二を下から見上げるように前かがみになって無邪気な笑顔を携えながら顔を覗き込む。

玲二は始めこそ、女の子二人に戦わせて自分は護ってもらうなんて、と少々不満そうな顔を見せたが、結局自分の傷が決して浅いものではない事を考えると足手まといにしかならないと思いなおし、

 

「……仕方ない。俺はここで彼女達が逃げたりエレンを追ったり出来ないように牽制させてもらうよ」

 

とエレンが走り去った方向を背にして立ち塞がった。

 

「さて。あたし達は逆に早くアインを追っかけるんだろ?」

 

「そうですね。二対一はちょっと剣士として気が引けるんだけど、でもそうも言ってられないですし」

 

二人は視線を一切合わさずにそう言って武器を構える。

そしてその瞬間、対峙している少女ズィーベンは、いつの間にか両手に構えたサブマシンガンを有無も言わさず二人に向かって乱射し始めた。

足元を薙ぎ払ってくる銃弾の嵐を飛びのいてなんなく避ける美由希とキャル。

ズィーベンを中心に円を描くように、お互いに逆方向に向かって走った美由希とキャルは、ズィーベンがどちらを追うかを思案した一瞬の隙を見計らって仕掛ける。

 

「ほらほらほらっ!」

 

無邪気な笑顔のまま、キャルがズィーベンの足元に二挺の拳銃を交互に発砲する。

仕方なく意識をキャルのほうに向けてその銃弾をかわすべく飛び退くズィーベン。

しかしそれこそがキャルの狙いそのもの。飛び退いた先には駆け込んでくる美由希が駆け込んでいる。

空中でそれに気がついたズィーベンは慌てて体を捻って駆け込んでくる美由希に向かってサブマシンガンを乱射する。

 

「うわっ! わわわっ!」

 

無茶苦茶な体勢で撃ってきたズィーベンに驚いて後ろに飛び退いた美由希。

信じられないといった表情で少々無理な体勢で着地をきめたズィーベンに視線を向けると、

 

「私が恭ちゃんの前であれやったら無茶苦茶怒られそう……」

 

と苦笑いを零す。

 

「おい伝説の弟子! そんな余裕かましてる場合じゃねぇぞ。早くアインを追いかけないといけないんだろ?」

 

玲二を庇いながらあきれた様にそう美由希に苦言を洩らすキャル。

美由希は頭を掻き、

 

「あはははは、お兄ちゃんの軽口がうつっちゃったみたい」

 

と言いながらも一瞬でズィーベンとの距離を詰める。

全くそんな気配のなかった美由希のいきなりの行動にズィーベンはおろかサポートするはずのキャルまでもが面食らってしまう。

美由希はそんな事もお構いなしに右手に握った小太刀を横薙ぎに振り、ズィーベンのサブマシンガンの片方を打ち飛ばす。

その衝撃によって完全に落ち着きを取り戻したズィーベンは、もう片手のサブマシンガンを美由希に向け、そして同時に痺れの残る手を後ろに回す。

向けられたサブマシンガンを簡単に払いのけた美由希は、そのまま距離を詰めると思いきやそのまま打ち払った手のほうへと体を滑り込ませた。

その行動によって後ろ手に掴んだ大きめのサバイバルナイフを一時正面から距離を詰めてきた美由希に向かって振り下ろしたズィーベンの攻撃は空を切る。

そして横に回りこんだ美由希はそのまま振り返るように回りながらズィーベンの足元に向かって薙ぎ払うような下段蹴りを放った。

攻撃が空を切ってしまったズィーベンはなすすべなくその蹴りを両足のふくらはぎに受け、その衝撃によって両足に強烈なしびれが走る。

それでも前に転がって、そのままその場を一時離脱しようとするズィーベンだったが、それはキャルと玲二からの銃弾によって阻まれる。

明らかに焦りの見えるズィーベンに、美由希は真正面からゆっくりと歩み寄る。

 

「もう、終わりにしませんか? 悪いようにはしませんし、私、戦うのあんまり好きじゃないんです」

 

困ったような笑顔を向ける美由希に、ズィーベンはそれでもサバイバルナイフを両手にかまえる事でそれに答える。

それを見た美由希は少しだけ悲しそうな表情を見せると、

 

「それなら……、私が貴方を止めてあげる」

 

と、両手を下げて目を閉じる。

キャルはこの言葉で自分は手を出すまいと決めた。

その言葉に強い意志を感じ取ったから。

 

「キャル、解ってるよな?」

 

玲二のそんな言葉にも、キャルはただ頷いて返すのみ。

そしてズィーベンは、強い意思のこもった美由希の言葉に気圧されながらもこの好機を逃すまいと拘束で美由希に詰め寄り、そして右手のサバイバルナイフを美由希に向かって渾身の力で振り下ろす。

その一瞬。

美由希は目を開き、間合いを崩すようにもうナイフを振り下ろし始めてしまっているズィーベンの懐に入り込み、腕を掴んで腰を落としつつ背を向ける。そして、

 

「せぇい!」

 

気合の籠もった声と共に美由希は落としていた腰を一気に跳ね上げ、一本背負いの要領でズィーベンを投げ飛ばした。

そのまま地面に叩きつけようとする美由希に対し、ズィーベンは無理やり両足を地面に叩きつけるように着地してそのまま振り向きざまに左手のナイフを突き出す。

しかし着地されたのを見て取った美由希は素早く腕を放し、そして突き出されたナイフを手首ごと右手で絡め取る。

そのまま美由希はズィーベンに背を向けながら回転し、背後を取ると同時に、

 

「ごめんね」

 

と一言呟いて首筋に左手の小太刀の柄を叩き込んだ。

力なくうつぶせに倒れるズィーベンをその傍らで暫く見下ろしていた美由希だったが、やがて彼女の腕を取ると自分の肩に回して立ち上がり、引きずるようにして玲二達のほうへと運ぶ。

玲二は事が終るのを見届けて近くの木にもたれる様に座り、キャルはその傍らにしゃがんで美由希のほうを見ている。

そして美由希が到着するなり、

 

「伝説の弟子! アンタやっぱすごいねっ! 腕を極めながら相手の後ろに滑るみたいに廻り込むなんてさすがとしか言いようがないよっ! ね、玲二?」

 

と先ほどまでのどこか他人行儀でそれでいて乱雑だった言葉遣いとはうって変わってまるで友人と話すような口調で美由希に楽しそうな表情を向ける。

玲二もまた、感心したように頷きながら、

 

「ああ。目の当たりにするまでは信じられなかったが、やっぱり君は恭也先輩の愛弟子なんだな」

 

と自分の横にズィーベンを優しく横たえる美由希に向かって小さく微笑みかける。

美由希はそんな二人の照れたように、

 

「そんな凄くないですよ、私なんて。恭ちゃんにはまだまだ怒られてばっかりだし、それにさっきの技だってお兄ちゃんに一度やられたのを真似しただけですもん」

 

と世間話をするおばさんのように手を軽く振ってみせる。

そんな美由希を、キャルはお兄ちゃんを指す人物が誰なのかわからずに首を傾げながら、玲二はその人物がはっきりと浮かんで苦笑いを浮かべながら、それぞれ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

美由希とキャルが動き出していたその時、恭也のほうも動き出していた。

恭也と対峙する少女、ゼクスはその表情を明らかに緊張した表情で両手に無骨なサバイバルナイフを握り締めて、その銃口を向けるか向けまいかを迷ったように恭也との距離を測っている。

そんなまだ年端もいかない少女の視線を受けた恭也は、それでも戦うこと、殺すこと以外を彼女達から奪ったサイス・マスターに明確な怒りを覚える。

そんな中、ゼクスはとうとう覚悟を極めたのか、両手のナイフを握る手に力を込めて恭也へと突進する。

そのまま恭也へと何度もナイフを繰り出すが、恭也はそれをすべて紙一重で交わしてのけるとそのまま後方へと一度大きく跳躍し、

 

「……しかたない」

 

そう呟いて八景を抜くと、そのまま今度は恭也のほうがゼクスに強襲をかける。

自分の時とは比べ物にならない速度で肉薄してくる恭也にゼクスは防戦一方。

しかも恭也の攻撃はその細腕では凌ぎきれないほど重く、彼女の両手には一撃ごとにダメージは蓄積されてゆく。

そして、

 

「ここまでだ」

 

まるでそのダメージを計算していたかのように恭也はそう一言呟くと腰の後ろに差していたもう一本の小太刀を抜く。

 

−御神流奥義之肆 雷徹−

 

ゼクスは計算し尽くされたかのようにその一撃を恭也の思惑どおり二本のナイフで受け、そしてその二本は弾き飛ばされる。

その時点でゼクスの両腕は限界を向かえ、彼女は両腕を力なく下げたまま恭也にその畏怖の籠もった視線を向けた。

 

「……これで終わりです。さぁ、手を見せてください」

 

そんな視線を受けた恭也は、先ほどまで戦っていた相手に向けるものとは思えないほど優しげな微笑を、ぎこちなくではあるが向ける。

そして懸命にその場に立つゼクスの傍らまで近づくとその腕を取り、暫く指圧するように腕の状態を確認した恭也は、

 

「大丈夫なようです。腱も傷付いた感じはないですし、暫くすれば元に戻ります」

 

と安心したように一息つく。

 

「……なぜ」

 

そんな恭也の表情に、ゼクスは思わず口に出してしまった。

 

「なぜお前は私を殺さない?」

 

相手を倒す事とは殺す事、倒されるとは殺される事という世界しかないゼクスのそんな疑問に、恭也は心底心外だと言わんばかりに眉を顰め、

 

「俺達は君達を殺したいわけではない。サイス・マスターを止め、そして君達を助けるのが目的だ」

 

と憮然とした態度でそう言い放った。

そんな恭也を驚いたように見たゼクスはそして今更のように木の幹にもたれる様に眠っているフェンフを見つけ、目の前の男が自分達では太刀打ちできない人間であることを理解し、そして、

 

「……私の、負けだ」

 

恭也達に自分達の命運を預ける覚悟を極めた。

その言葉を聞いた恭也は嬉しそうに頷き、そして無理をさせないようゼクスを気遣いながら美由希達に合流するために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、これはまた……」

 

屋上で一人、事の成り行きを見ていたサイスは、その場にエレンが現れたことで少し驚いて見せたが、すぐに人を食ったような口調に戻る。

 

「……恐れ入ったよ。まさかお前が一人で私の所に来るとは」

 

余裕の表情でそういいながら、サイスはその懐の年代物の銃をゆっくりと抜く。

対してエレンはというと、相変わらずの読めない表情のまま、ただサイスの言葉に耳を傾けていた。

 

「こういった結末は予想していなかった。しかしこれはこれで面白い」

 

「貴方ならそう言うと思ったから、私は一人で来ました」

 

平然とそう言ってのけたエレンに、サイスは今度こそ驚きの表情を顔に浮かべ、そして嬉しそうに笑い出した。

 

「まさかお前がそういった興に理解をもっているとはな! 想定外ではあるが、お前のそういった変化もまた、今後の研究の対象とさせてもらおう。……しかし残念だったな」

 

サイスはそう言って出口へと歩き始めた。

 

「お前は私を倒せないよ」

 

「……なぜです?」

 

「それはな……」

 

余裕の笑みをそのままに、サイスはエレンの問いかけにあわせるかのように自分の握っていた銃を地面に落として見せ、

 

「私がここで降参するからさ」

 

とその笑みをエレンに向けた。

押し黙っているエレンを見て、サイスはその表情の笑みよりも更に計算高い笑みを内心で浮かべていた。

ここがアインとツヴァイの決定的な差。ツヴァイは自分の意思で戦い、そして殺すことが出来たが、アインであるエレンにはそれが出来ない。必要に迫った時のみその力を発揮するだけで、それがなければ戦えない。

命令で、そしてそうしなければいけないから。それがアインが理由にしていた詭弁であり、そしてその心を護るための唯一の頼りだったのだ。

 

「さて、今夜はこの辺で帰らせてもらおう。ツァーレンが全滅してしまった以上、次を作らなければならないのでね」

 

それを知っているサイスは、この場で自分が引いてしまえばそれで終わりだと思っていた。しかしそれはサイスにとって致命的な過ちになる。なぜなら、

 

「…………」

 

エレンは眉一つ動かさずにサイスに向かって銃口を向け、劇鉄を起こした。

無機質な金属音が響く中、サイスはなにかとてつもない違和感を覚える。

 

「本当に、あなたは愚かな人……。誰の心でも見透かせると本気で思っているんですね」

 

自分がアインと呼んでいた彼女からは絶対に聞こえることのなかった語調が、サイスの自身をじわじわと崩していく。

 

「……なぜだ? なんでお前は……」

 

そうして振り返り、サイスはやっと気付く。エレンの瞳に強い意思が宿っていることに。

 

「私はあなたを殺しに来たわけではありません。あなたを止めるためにきたのです」

 

静かに、エレンはサイスに銃口を向けたまま語りだす。

 

「私は、あの人を傷つけたあなたが憎い。でも殺しません。死という形ではあなたを結果的に楽な方向へと逃がすことになってしまうと教えられたから」

 

サイスは理解した。

エレンがサイスを捕らえ、そして罪を死という形以外の方法で償わせようとしていることを。

唐突に、サイスの理性を恐怖という感情が蝕んでいく。

 

「アイン、貴様……気は確かか?」

 

「アインなんて呼ばないで。私はエレン。あの人と、そして私を支えてくれる人たちにそう望まれている限り私はそう生きる。あなたには理解できないでしょうけど……」

 

「馬鹿な!!」

 

サイスはついにその恐怖を口に出した。自分の理解を完全に超えた、かつて自分が作り出した目の前の少女に向かって抗議する。

 

「許されると思っているのか!? 貴様が……よりによって私を」

 

「そんな事、わからないわ」

 

サイスの狂気じみた抗議に対して、エレンは冷静に答えを返す。

 

「ただ私は見つけたかもしれない。せめて自分が死んだ時に手にかけてしまった人たちの前で謝ることくらいは許されるかもしれない道を」

 

エレンの言葉にサイスは恐怖のあまり、自分が落としてみせた銃を拾おうと手を伸ばす。

しかし、

 

「往生際が悪いな。さすがに散々下衆な事をやってきただけの事はある」

 

その手は新たな乱入者によって踏み砕かれる。

激痛にのたうちまわるサイスを一瞥した乱入者である恭也は、遅れてやって来た美由希、キャル、玲二の三人と共にエレンに視線を向けた。

そしてすぐに美由希と目配せをし、サイスを拘束にかかる。

 

「よく、頑張ったな」

 

玲二がエレンの横まで歩いていき、頭を軽く撫でる。

 

「俺も、お前と一緒に謝ってやるよ。その時が来たら」

 

「あたしもね。そのかわりあたしのほうも一緒にお願いね、玲二♪」

 

そういいながらエレンとは反対側に廻って玲二の腕に絡みつくキャル。

怪我をしている腕をとられた玲二が悲鳴をあげてキャルに抗議する様子を見ながら、エレンは初めてと言ってもいいほどの心からの微笑みを浮かべた。

一筋の涙を頬につたわせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても驚いた。まさか二人が……なぁ?」

 

「うん。お兄ちゃんの所の養子になっちゃうなんて」

 

そう言って翠屋への道を歩く高町兄妹の横には、相変わらずの優しげな微笑を浮かべたイチと、どこか不満顔なブリジットが歩いていた。イチが怪我をしてから彼女は常にイチの傍らにいる。どうやら二人の関係も、今までよりほんの少しではあるが進歩を見せたようだ。そしてその更に斜め後ろには、

 

「私達はイチに救われました。これからは妹として少しでもお役に立てればと、そう思って義父にお願いしました」

 

とイチに何処となく似た軽い微笑みを浮かべるフィーアと、

 

「私も、そんな姉さまのお手伝いをさせてもらいます」

 

と此方は歳相応の笑顔が戻ったノインが歩いていた。

 

「そういえば二人の戸籍はどうなったんだ?」

 

「フィーアは狼村四織、ノインは狼村静九としての戸籍を作ってもらったよ」

 

イチはそういいながら紙に書いた二人の名前を恭也達に見せる。

 

「……名前を考えたの、お兄ちゃん?」

 

「いくつか候補を出してみて、後は本人達に選んでもらったよ」

 

「それまでの名前がちゃんとはいってるです」

 

どうやらブリジットはイチが名付け親となったのが少々気に入らないらしい。

不貞腐れたような表情を崩すことなく、それでもイチの真横にぴったりとついて歩きながら紙の数字の部分を指差す。

 

「ちゃんと今までの事を背負いながら新しい人生を生きてもらいたかったからね」

 

そう言って微笑んでいるイチを横目で少し見やると、恭也と美由希は後ろを振り返り、

 

「それでは、四織さん、静九さん、改めてよろしくお願いします」

 

「お願いしますね」

 

と二人に向かって軽く挨拶する。

それに二人が声を揃えて返事を返したあと、四織は恭也に他のツァーレンの事を聞いた。

 

「香港警防にフェンフ、CSSの本校を警備している会社にズィーベンが入ったらしい。ゼクスはさざなみ寮でリスティさんの個人サポートをしながら身のふり方を考えていると聞いた。アハトの事だけは何も聞いていないんだが……」

 

そう言って申し訳なさそうな表情をする恭也にイチは楽しげな視線を向けると、

 

「それはね、多分今日の午後にでもわかるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の午後、午前中に四織と静九に翠屋の新しいバイトとしての訓練がてら店を手伝っていた恭也達は忍の家に招待され、そしてそこでノエルのサポートメイドとして働くアハトを目撃する。

同じく二人を家族として引き取ったイチには何かと相談していたらしいのだが、どうやら恭也達には今日驚かすべく今まで黙っていたらしい。

そこに玲二とエレン、そして美緒と早苗も現れ、キャルがリズィと共に一度アメリカに帰国した事を告げる。

すぐに戻ってくると言っていたそうなので、玲二の周りでもまた彼女も含めた騒がしい日々がすぐに訪れるのだろう。

美緒も事件前に比べるといくらか積極的になり、エレンと玲二の本当の事を知った今ではどうにかして二人の間に入り込もうと早苗に半ば強制的ではあるが努力の日々をおくっている。どうやら梧桐組も絡んできているらしく、以外に一筋縄ではいかないのかもしれない。

 

「さて、恭也に渡さないといけないものがあるんだ」

 

事件解決パーティーだと騒ぎ出した忍達から逃れ、バルコニーに恭也を連れ出したイチはそこで恭也に黒くて細長い包みを差し出す。

首を傾げつつ恭也がそれを受け取り、そしてそれを開ける。

 

「こ、これは……」

 

そこから出てきたのはイチが使っていたはずの月影。

一臣に譲り受けたといっていた、言ってみれば一臣の形見のような刀だった。

 

「それは不破を継ぐ君がもってるべきだと思うよ。正統後継者は恭也なんだからね」

 

「しかしそれはお前にとっても……」

 

「いいんだよ。僕は今ある自分の生き方こそが一臣さんの残してくれた、生涯守り通さないといけないものだから。それにもう解ってるんだ。君に教材としての僕はもう必要ないってね」

 

そう言って少し、目を閉じて一息つくと、

 

「だからさ、そろそろ不破の剣を置かしてくれないかな?」

 

と、穏やかな微笑みを恭也へと向ける。

恭也には解っていた。

そうは言ってもイチは剣を置く事はないということを。

要するにこれは儀式なのだ。御神不破を継ぐ恭也のための。

 

「お前は、これを俺に渡してどうするんだ?」

 

「僕は僕のままだよ? 肩書きが不破の教材から狼牙の忍者になる以外は」

 

それを聞いたとき、恭也は腹を極めた。いつも陰で、日向で自分を支えてくれた親友の肩の荷を軽くしてやろうと。

 

小太刀二刀御神不破流高町恭也、正統後継者不破一臣より受け継がれし小太刀『月影』を継承させていただく」

 

軽くお辞儀をしながら恭也が自分の頭の上に月影を掲げた時、イチの『三人目の不破』としての役割は幕を閉じた。

 

「恭也、改めてこれからよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

……………………………………

……………………………………………………

………………………………………………………………

…………………………………………終りました。

終ってしまいました。といってもPHANTOMとのクロスがですが。

結構尻切れ気味になっている事柄も多いですが、それは次に繋がるということでとりあえず肩の荷を降ろしたイチ君にお疲れ様です。

胃もたれしそうなほどのハッピーエンドでしたが、やっぱり自分に人は殺せないと再認識しましたね。

サイスは別に殺してもいいと初めは思っていたんですけど、やっぱり誰にも殺させたくなかったんですよ。甘ちゃんですね。

さて、次はたぶんもっと知名度の高いものとのクロスになりそうです。

自分で無理矢理暗い雰囲気を明るくしなくてもいいようなものにしたいと思ってます。そっちを舞台にして。

最後に、ブリジットさんゴメンナサイ。次では貴方も出番が増えるかと思いますので、とりあえず少しだけ進んだ二人の関係に今は浸っていてください。

 

それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました♪





終わってしまった。
美姫 「無事に事件も終わり、ハッピーエンドなのは良いことよね」
うんうん。だが、これは一つの終わりにすぎない。
美姫 「第二部とも言うべき物語があるみたいだものね」
いやー、完結して少し寂しくもあったけれど、また次があると知ったら、この余韻を味わうのと同じぐらい…。
美姫 「次が気になってくるわね〜」
うんうん。いったい、次はどうなるのかな〜。
美姫 「とりあえずは、完結おめでとうございます」
おめでと〜。
美姫 「それでは、また次も楽しみにして待っています」
待ってます!



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