試合に勝った。その事実に安堵する。

取り合えず互いに礼をしてから、恭也さんは病院へ行く事になった。美由希さんは付き添いという事で、恭也さんに付いていった。

士郎さんは、なのはに一言二言伝えてから俺に向かって言った

 

「ありがとう・・・それと、すまない」

 

その言葉だけで十分だった。

 

「良いですよ・・・礼なんて。」

 

「しかし・・・・」

 

「この話は、此処までです。それじゃ、先にお風呂貰います。」

 

俺は、士郎さんにそう言って早足で部屋に向かった。

部屋に入ると、直ぐに結界を起動させる。音が漏れないように

事前に、黒いゴミ袋を用意できたのは幸いだった。俺はゴミ袋を開けると一気に吐いた。

胃酸が喉を焼く。ダン・・・相棒が部屋に入った瞬間から、治療魔法を掛けてくれたおかげ予想していたよりは酷くはないが・・・・止まらない。

胃酸と混じった為か吐き出した血が、ドス黒く変色していた。一度吐き気が止めば、四肢が痙攣を起こし始めた。

筋肉が悲鳴を上げ続けている。関節がギシギシと鳴いている。血管が破れそうな程に脈打ち、痛みを増徴させる。

深く息を吸い込み、浅く吐く。呼吸する度に肺が痛い、喉に激痛が奔る。

脳が燃えているのではと、錯覚してしまうほど熱い。思考するだけで痛みが奔る。脳が情報処理をする度に痛みが奔る。

それら痛みが少し治まった頃にまた吐き気が襲ってきた。

 

「うっ・・・・ゲェェェ・・・ガハっ・・・ウォエ・・・」

 

ビチャビチャと穢い音を立てて嘔吐する。少し前から胃酸すら出なくなり、血反吐しかでない。少し時間が経って吐き気が無くなった。汚物の入った袋は、ダンに転移で山に送ってもらい俺は鎧と外衣を消して風呂に向かった。投影品は後を残さないから便利だ。

体の痛みは少しマシになった程度だが、我慢できるので無視することにした。

 

熱いシャワーを浴びる。体中汗で濡れていたので、気持ち良かった。頭と体を洗い湯船に浸かろうとした所でガチャリと戸が開いて

 

「み、美由希さん!!」

 

「やっほー、おじゃまするよー」

 

ジャアーっとお湯が流れる音がする。恭也さんは途中で忍さんという人に預けたらしい。それでも、年頃の娘さんが男の子とお風呂に入るのはどうかと思う・・・

 

「シロ君」

 

「なんですか?」

 

「・・・・う〜ん、いいや。ヤッパリなんでもない。それよりも」

 

「はい?」

 

ザブンと美由希さんが湯船に入り、後ろから抱きつかれた。

 

「なっ何を「辛かったら、ちゃんと教えてね」・・・・はい」

 

それから、少しして俺は風呂から上がった。夕食の時間になると、ちょうど恭也さんが帰ってきた。一人の女性を連れて・・・小声で美由希さんが「あの人が月村忍さんだよ」と教えてくれたが・・・・俺の中の『エミヤシロウ』が警戒しろと叫ぶ。俺はその言葉に従う事にした。

恙無く食事の時間が終わり、なのはは部屋に戻り桃子さんは風呂に向かった。

 

「それじゃぁ、反省会といきますか・・・良いかな? シロ君」

 

「俺は構いませんけど・・・」

 

「大丈夫だ、忍も聞きたいらしいし・・・この間の事もある。」

 

「解かりました。・・・ドコから説明したら良いですか」

 

「それじゃあ・・・・あの殺気の事から頼む」

 

恭也さんが頭を下げた。そんな事しなくても良いのに・・・

 

「えっと、あの殺気はですね。『戦う者』なら誰でも出来る技術なんです」

 

士郎さん以外は首を傾げているが、俺はそのまま話を続ける。

 

「以前、恭也さん達が感じた事のある殺気ですが。アレはあの時限りの物です。あの時は心底怒ってましたから・・・そして、今日使った殺気は指向を持たせて相手を包み込むように放ちました」

 

「殺界と言うヤツかな?」

 

士郎さんの言った言葉に覚えが在るのか、恭也さんと美由希さんは成るほどといった顔をする

 

「正確には違いますが・・・似た様なモノです。俺にはそのレベルで使えませんから。」

 

「それじゃあ、試合の最中の急な加速は?」

 

「あ、私は知ってるよ。リミッターを外したんだよね」

 

「その通りです。脳からの抑制を外しました。他にも血流の流れや、筋肉・骨の強化も同時に行いました。前者は薬などを併用すれば誰でも出来ます。中国方でも門派によりますが、そういう鍛錬を行っているところも在ります」

 

「後者の方は?」

 

「後者の方は無理です。アレは俺だけが使える方法なので、教える事はできません」

 

「そうか・・・・」

 

なんで、残念そうなんですか? 恭也さん

 

「俺からも良いかな?」

 

「何ですか? 士郎さん」

 

「日頃の鍛錬で使っている歩法・・・アレは何なんだい? 最初は縮地法の亜流かと思ったんだが・・・」

 

「鮮麗され過ぎている・・・でしょう?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「歩法の名は凶蜘蛛、使う一族の名は七夜。人でない者を殺し続け、そして滅びた退魔の暗殺一族の技です。俺が使っているのはソレの劣化品ですよ」

 

誰も、何故とは聞かなかった。士郎さんが俺の出生を誤魔化して恭也さん達に伝えているからだろう。それよりも、唯一反応を見せた忍さんが気になる。まさか彼女は・・・

 

「一つ質問が有るんだが」

 

「何ですか恭也さん?」

 

「リミッターを外したと言ったが・・・大丈夫なのか? ソレにアレだけの速度で動くとなれば・・・」

 

「大丈夫じゃないですよ・・・今座っているだけでも体中がイタイです。それでも、この痛みには慣れていますし・・・自分の動ける限界も知っていますから・・・・大丈夫じゃないけど大丈夫といった所です。」

 

「なら良いんだが・・・シロ君、あの試合の流れをどこまで読んでいたんだ?」

 

「そうですね・・・・正直な話、なのはを道場に動向させた所から最後までは読んでいました。」

 

「嘘!!」

 

「やっぱりな」

 

「・・・・・・」

 

美由希さんが驚き、士郎さんは納得した。恭也さんは静かに次の言葉を待っている。

 

「今日の試合で俺が勝てたのは、恭也さんの弱点があの場に居たからです。コレは恭也さん自身が解っていると思います。次に、恭也さんは俺が投擲した木刀に脅威を抱けなかったのも在ります。最初の試合では何もしてませんでしたから、先入観を利用しました。飛針に付いても同じです。尽きたと思わせて、恭也さんが攻めて来れるようにして利用しました。」

 

「・・・・・・シロ君は飛針や木刀がなのは達に当たるとは思わなかったのか?」

 

「思いませんでしたよ? 恭也さん。だから俺は嗤ったんです(・・・・・・・・・・・)。」

 

恭也さんは目を見開いて頷いた。

 

実際にこれ以降、恭也さんと試合をすれば俺は負ける。勝てるのは今日のもう過ぎ去ってしまったあの時だけだ。

 

「コレくらい・・・かな? 他に何か在りますか」

 

「いや、無いよ。」

 

「それじゃぁ、私から良いかな」

 

そう言って手を上げたのは、月村忍さんだった。

 

「この間の襲撃未遂事件に関わった・・・いえ、違うわね。情報を流した人物を特定できたわ。名前は氷室遊・・・・国際指名手配を受けてる犯罪者よ。」

 

絶句する。国際指名手配となれば後ろ暗いコネも在るだろう。それらと敵対するのは余りにも危険だ。

 

「昨日、さくら姉さん・・・私の叔母に当たる人が追い詰めたんだけど逃げられたそうよ。・・・氷室に関しては、月村が全力で対処させて貰うわ。皆には指一本も触れさせない」

 

ソコから少しの沈黙が在り、桃子さんがリビングに来たのでお開きになった・・・が、俺には確認しなくてはならない事が在ったので一度部屋に戻り窓から外に出た。

 

 

Side 月村忍

 

反省会という名の話し合いがお開きになってから、私は恭也の部屋に行った。彼の近くに居たかったから・・・・一人では不安になる。彼がシロ君と呼んだ少年が語った『七夜』という一族の事が気になったのだ、私はそのような一族が居た事を知らない。私達のような存在を殺し続けた一族など・・・

恭也の部屋に着いて開口一番に私は聴いた。「あの子は何者なのか」と、恭也は淡々と語った。

 

「あの子は俺と同じ目にあった一族の最後の一人だ」

 

そこで理解する。成程、ならば彼が言った様な一族は居たのだろう。ソコから推測するに、その一族が滅びたのは少なくとも百年以上前の事だろう。ソレならば私が知らない事も納得できる。何故なら私達が今生きているからだ。ソコまで考えて私は安心した。

 

「安心しろ、お前は何が在っても俺が護る」

 

「違うわよ、恭也。別に氷室の事は関係ないわ・・・・心配させちゃってゴメンね」

 

でも、かなり嬉しいな♪ 恭也って中々そおいう事を言ってくれないんだもん

 

「そうか・・・なら良いんだが」

 

ほら、照れ隠しに顔を背けた。フフフ、可愛いな〜。いいや、このまま弄ってみよう。

 

「それにしても、恭也があんな子供に負けちゃうなんてね〜。あの子、なのはちゃんと同い年なんでしょ?」

 

恭也はブスっとした表情で言った。

 

「むぅ・・・確かにシロ君はなのはと同年だがな」

 

恭也は一旦言葉を切りまじめな顔で言った

 

「シロ君は少なくとも俺よりも上にいる。これから試合を行えば俺が勝つだろう、俺はシロ君の手の内を知ったし自分に何が足りないのかも知った。それでも・・・死合いでは勝てないだろうな」

 

「・・・・・・本当に? ソレはオカシイよ、試合に勝てるのに試合に勝てないって矛盾してるよ?」

 

私の言葉に恭也は言いなおした

 

「忍・・・試合じゃない『死』に『合』うと書いて死合いだ」

 

それでもオカシイ。私は口を開こうとして閉じた恭也立ち上がり窓を開けたから、というのも在るけど・・・

 

「忍、外に出るぞ。シロ君が呼んでる」

 

私は、そう言った恭也の後に付いて道場の方へと向かった

 

道場の中に入るとシロ君が座っていた、嫌な予感がした。恭也に倣って正座で座るとシロ君は口を開いた。

 

「月村忍さん、貴女は純粋な人ですか?」

 

嫌な予感は当たる物だと、場違いにも考えてしまった

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

俺の問いに反応したのは恭也さんだった

 

「シロ君、何で君が「いいわ、恭也。自分で話すわ」・・・解かった」

 

「そうね、失念していたわ。あなたは『人で無いものを殺し続けた一族』それも私が知らない一族を知っているんだものね・・・あなたが知っていても可笑しくないわ・・・・それで? あなたは如何する気なの?」

 

雰囲気が変わった。彼女から感じる気配が濃くなったといった方が正しいか

 

「問いたい。貴女は、人に危害を加えないか?」

 

「加えないわよ。私達の一族は生きていく上で血を飲まなくてはいけないけど、輸血パックとか家で作ってる擬似血液とかで良いし。今は恭也がくれるから」

 

「吸血の際に噛まれた人物が吸血鬼かする事は?」

 

「無いわよ。そんなB級ホラーじみた事なんて・・・他には何かある? 無いなら、これで御暇したいんだけど」

 

「それでは最後に・・・貴女達は血に堕ちないのか? その危険性は?」

 

「言っている意味が分からないわ?」

 

彼女の表情と挙動から、俺の居た世界の混血とは違う事は解かったが・・・コレだけは譲れない

 

「貴女が完全に人で無いモノに成る事は無いんですね?」

 

「それは・・・無いわ。ソレは血を濃く継いでしまった人が暴走する事でしょう? 私は党首だけどそんな事は一度も無かったし」

 

「ソレでは氷室という人物は? 話からするに彼も同じなのでしょう?」

 

「確かに彼は同じ一族の出よ。でもそれは思想が違うからよ。あの男は普通の人間を劣等種と思っているらしいわ。詳しい事はさくら姉さんに聞かないと解からないけど」

 

見通しが甘いと言うしかない返答だ。最悪の可能性を考えていない。否応無しに力を持ってしまったからには、考えなくてはならない事を考えてない。ソレが恐怖の為か如何かはわからない。その状況に陥った時に一番苦しむのは恭也さんだというのに。

 

「解りました。・・・・・・恭也さん」

 

「なんだい、シロ君?」

 

「はっきり言います。貴方は彼女を殺せますか?」

 

二人とも、俺の言った事に驚いている。たぶん、考えて居なかったのだろう。

 

「突然なにを・・・・」

 

「そうよ。なんで、恭也が私を殺さないといけないのよ!!」

 

恭也さんも忍さんも、何故俺がそんな事を言ったのかが思い付かない様だ。

 

「血が薄い・濃いなど、人外の血を引いているのならば関係ない。何故最悪の可能性を考えない!! 前例が在ろうと無かろうと、貴女にも堕ちる可能性が在るという事が在るんだ!! 解っているのか月村忍!! その時貴女が襲うのは恭也さんだ!! 解るか?! その時の苦しみが!! 悲しみが!! 恭也さん・・・その時、忍さんを殺すのは彼方の義務だ。彼方に殺せますか? 愛しい人を、家族を、・・・・彼方に殺せますか」

 

二人の顔は蒼くなっていた。忍さんに至っては青を通り越して白くなっている。

 

「何よ・・・そんな、少ない可能性を考えて・・・・怖がって生きなきゃいけないとでも言うの!!」

 

「誰も、そんな事は言っていません。只、覚悟しろと言っているだけです。それと、努力しろと・・・・ね。俺の聞きたいこと、言いたい事はコレだけです」

 

俺はそう言って、道場を後にした。出るときに、一言だけ言っておく

 

「もし、貴女が堕ちて、恭也さんが躊躇するのなら言ってください。俺が・・・・」

 

殺してあげますよ

 

 

 

 

Side恭也

 

彼は不器用だ

 

少なくとも俺はそう思う。シロ君の言った事は、俺達が考えなければいけない事だった。ただ、そんな未来が怖くて考えようとしていなかっただけだ・・・・・・本当に彼は不器用だ

 

「なんでよ・・・なんでそんな事を考えなきゃいけないのよ・・・・在るわけ無いじゃない。私が・・・・恭也を襲うなんて・・・」

 

俺は、忍の方に手を置いて言う。

 

「忍・・・もし・・・もしそうなったら、俺は君を月村忍のまま殺すよ。」

 

「何、言ってるのよ。恭也? 私がそんな事・・・・」

 

「ああ、そんな事に為るなんて無いだろうさ。ただ、コレは俺の覚悟だ。俺は君を、月村忍を愛している。だから、君が君で無くなるのなら・・・俺が終わらせる。だから、その時は君も俺を殺してくれ。だから・・・・」

 

死が二人を別つまで、共に居よう

 

 

 

 

 

 

Side衛宮士郎

 

 

溜め息が出る。悪役を演じるのに慣れてない所為か、肩が凝った。

 

「悪役ご苦労様」

 

士郎さんが居た。如何やら俺のした事はお見通しらしい・・・全く、この人には敵わない。

 

「そうでも無いですよ。あの二人も何れはその可能性を考えていたと思いますし。」

 

「それでもだよ・・・本当なら俺が言わないといけない事だったんだがな〜。家族の中で、唯一その秘密を知っている責任として・・・まあ、それもシロ君に取られたけど」

 

「それじゃあ、フォローをお願いします。今聞こえてる会話を聞いてる限り、心配はなさそうですが」

 

「それもそうだが・・・恭也め・・・こっちが赤面物なセリフ吐きやがって・・・」

 

確かに・・・言うには少し恥ずかしい。だけど、そんな言葉だからこそ・・・溢れんばかりの愛情が篭っていると、俺はそう思う

 

「からかったら、駄目ですよ?」

 

「何を言うんだシロ君。俺は、只単に息子を褒めに良くだけだ」

 

「顔が笑ってますよ? ソレに、今の雰囲気を壊さなければ新たな命の誕生も「さあ、シロ君コーヒーか紅茶でも飲みながらゆっくりしようか!!」・・・はい」

 

俺達は歩く、リビングに向かって。本当に、対策を立てないといけない。護るために

 

「あっシロ君、明日は鍛錬無しで店にも出なくて良いからな。その代わり、なのはと一緒に居てやってくれ。ゲームとかなら体は痛まないだろう」

 

やっぱり、この人には敵わない

 

「何か言ったかい? シロ君」

 

「父さんには敵わないって言ったんですよ」

 

「そうか・・・・・・ん? シロ君もう一回言ってくれ!!」

 

 

俺はそのまま、現在在る情報を整理して士郎さんと対策を立ててから部屋に戻った。部屋に戻って、時計を見れば午前一時。もう、寝た方が良いか。俺はそう思い、布団を敷いた。

 

「シロ君・・・今、大丈夫か?」

 

「良いですよ。恭也さん、それと忍さんも」

 

入ってきたのは二人、二人とも髪が少し濡れている。風呂に入ったのだろう・・・二人の様子を見れば、問題はない。良かった・・・これで恭也さん達は俺が犯した過ちを起こすことは無いだろう。

 

「シロ君、ありがとう。俺達は大丈夫だ。」

 

「ありがとう、シロ君。ごめんね、嫌な役回りをさせてしまって」

 

二人の顔は、晴れ晴れとした物だった。この人達は、もう大丈夫だ。

 

・・・あぁ、安心した

 

この人達なら、俺が居なくなっても大丈夫だ。俺が居なくなっても士郎さん達が居る。本当に安心した。

二人が迷う事も、焦る事も在るだろう。でも、ソレを解決するのに俺はもう要らない。向き合う事にも俺は要らない。

 

「俺が進んでやった事ですから気にしないで下さい。少なくとも、俺と士郎さんは、貴方達が己と向き合っている限り味方でいますよ。」

 

恭也さん達はもう一度、礼を言うと部屋に戻っていった。その後ろに、小声で声を掛ける

 

「おやすみなさい。恭也兄さん、忍義姉さん」

 

「「おやすみシロ君」」

 

足音が遠ざかる。俺は完全に足音が聞こえなくなってから、結界を張って我慢していた物を吐き出した

 

「ギィ・・・アァァッ・・・・・・」

 

体が軋む

肉が軋む

骨が軋む

神経が磨り減る

精神が磨り減る

魂が侵食される

 

今日の試合はギリギリだった。戦いの気配に『エミヤシロウ』が触発された。比重の違いすぎる、ホンの少しだけ混じってしまったモノが蠢く。まるで、体内で蟲が蠢く様な痛みと怖気が体中に広まる。

 

「桜・・・君はこれ以上のモノを耐えていたのか・・・・」

 

俺のアンバランス過ぎる魂が『エミヤシロウ』の侵食に屈すれば、その瞬間に衛宮士郎の死が確定する。

精神的という意味ではない。勿論ソレも含まれるが、肉体も、魂も、心も、衛宮士郎を構成する物全てが死ぬ。

ソコに残るのは『衛宮士郎』ではなく、ズタズタに成った血と糞尿の詰まった袋。

B級ホラーでも失笑物の結膜だろう。相棒の目的の為の行動だけをするのなら、最高十年は生きられる。

これは、最初に言われた事だ。自分でも納得している。自分が之から如何動くかは決っている。俺に残された時間は、最低でも三年。長くて八年程だろう・・・『エミヤシロウ』の『衛宮士郎』への侵食は日常でも起きている。彼女の鞘がソレを抑えてくれているから、それ程に生きられる。

鞘の使用は俺の時間を減らす事に成るだろう。俺とダンの推測からして二回使えれば、上出来。最悪一回かぎりの使用だ。

氷室遊・・・それと龍という組織との決着は二年内決めたい。それと・・・なのは達から俺に関する事を誤魔化す準備もしないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

高級ホテルと誰もが思うであろうビルの一室で、複数の男が集まっていた。

 

「大丈夫・・・なのですか? 本当に我々は・・・」

 

一人の男が、椅子に座り酒を飲んでいる男に言った。声を掛けられた男は笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「大丈夫に決っているだろう。君達は何の因果か、僕等の祖の血が時を越えて強く現れた。そんな君達が劣等種に現を抜かす小娘にナニを恐れるんだい?」

 

「しかし、党首の後ろには御堂が「関係ないさ」しかし!!」

 

「心配するな。さくらのスケジュールは確認しているんだ。さくらを誘き寄せ、月村の目を此方に向かせる為にイロイロとチョッカイを掛けたんだ。君達が動く時、さくらは日本に居らず。月村の目は君達を見る事が出来ない。気付いた時には、全てが手遅れ。君達が『夜の一族』を影から率いる事が出来る条件が略、揃うんだ。最後は皆殺しで証拠は残らず僕達は万々歳だ。」

 

「・・・・・・解った。彼方を信じよう。彼方は先んじて動いてくれたんだしな」

 

「それはそれは、嬉しい限りだよ」

 

そう言って男は酒を飲み、他の男達は部屋を出て行った。

 

「ふぅ・・・それにしても、さくらに負わされた傷は治りが遅い。」

 

男は自分の腹を撫でながら言い、笑った

 

男の名前は氷室遊。同属殺しにして、人食い。世界規模で指名手配を受けているテロリストにして罪人である。

 

 

 

 


あとがき

あれ? 続いた? と思われた方、正解のようで間違えです。BINです。

確かに続きますが、出るのは先。今回はVS恭也の終わりですし・・・・続けれるかなぁ・・・・・

氷室の兄ちゃんが暗躍中。既に全員が思惑通りに動いている。どうなる事やら・・・

実はこの人の所為で本編もややこしい事に・・・・

シロ君も長生き出来ない様ですし、暗いなぁ・・・





士郎と恭也の試合はこれにて本当に終わりみたいだな。
美姫 「代わりという訳じゃないけれど、氷室遊が登場したわね」
ああ、何が起こっているのかな。
美姫 「それでは、本編も楽しみにしてますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る


inserted by FC2 system