最近、知佳の様子がおかしい気がする。人前、特に真雪さんの前では隠そうとしているようだが、なんだか無理に明るく振舞っているように見える。それに十六夜さんから、人が回りにいない時に不安気な表情をしていたという証言も得ている。俺は寮の管理人として、義理の兄貴分として、なによりも恋人として、悩みがあるのならば力になりたいと彼女に直接、尋ねて見る事にした。

 

 

 

 

 

 

「知佳、ちょっと入ってもいいか?」

 

知佳の部屋の前にたち、ドアをノックし呼びかける。知佳の返事があって、俺は部屋の中に入った。

 

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

 

・・・・やっぱりおかしい。部屋に入り、俺を出迎えた知佳は一見笑顔だが、その表情にはどこか翳りが見える。俺は思い切ってストレートに聞いて見る事にした。

 

「なあ知佳。最近様子がおかしいけど、何か悩み事でもあるんじゃないのか?」

 

「えっ!?そ、そんな事ないよ。何でもないって。お兄ちゃんの気のせいじゃないの!?」

 

と、俺の問いに対し、知佳は分かり安すぎる位に動揺を示す。

 

「あのなあ、知佳、そんな何か隠してますって態度で否定しても説得力無いぞ?」

 

俺の言葉に知佳は押し黙り、不安な表情になって、やがて決心をしたように口を開いた。

 

「・・私・・・・・赤ちゃんができちゃったみたいなの・・・。」

 

「へっ?」

 

その一言で、俺は停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・赤ちゃんができた?誰の?私のって・・・・知佳は言ってたよな?・・・・・・つまり知佳が妊娠したってことか。と、すると、父親は誰だ?・・・・って俺に決まってる。心当たりはありすぎるし、知佳が他の男とそういう事するだなんて、欠片も疑っていない。ああ、つまり、知佳が俺の子供を身ごもったって事か。なんだ、そうか。・・・・・・・・・って!!

 

 

(なぅんですとおおおおおーーーー!!!!!!!)

 

俺は思わず絶叫を上げそうになるが、何とか自制する。見ると、知佳は俺が考え事をしている間、押し黙ってしまった為に先ほど以上に不安な顔をしている。今、俺のすべき事は彼女の不安を取り除いてやる事だ。俺はまず落ち着きを取り戻し、できる限り優しくかたりかける。

 

「わかった。知佳はどうしたい?産みたいと思ってる?」

 

知佳はビクリと身体を振るわせ、不安の表情を崩さない。だから、俺は彼女を安心させる為にさらに言葉を続けた。

 

「俺はできれば産んで欲しいと思ってる。そりゃあ、知佳はまだ、学生だし、他にも色々と大変な事もあるだろうけどさ。」

 

これはまごうことなく俺の本音。最初聞いた時は動揺してしまったけれど、少し落ち着いてくれば嬉しさが湧いてくる。勿論、それに対して不安が全く無い訳ではない。知佳がまだ高校生である事もそうだし、『HGSの自然出産は前例が少なく、何が起こるかわからない』っといった話を矢沢先生から聞いてもいる。けど、例え何があっても知佳とその子供を守っていくという覚悟は既にもう俺の中でできていた。

 

「お、お兄ちゃん・・・・。」

 

知佳は目を潤ませ、俺はそっと彼女を抱き寄せる。そして、それが弾みになったのか、知佳は声をあげて泣き出し、そして何度も同じ言葉を繰り返した。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」

 

ごめんなさい、知佳は泣きながら何度も謝る。俺は予想外な言葉に、先ほど知佳の妊娠を聞かされたとき以上に動揺させられてしまう。

 

「ど、どうして謝るんだ!?もしかして、産むのが・・・・・」

 

嫌なのか、そう言おうとした俺の言葉を遮り知佳は叫ぶ。そして、泣きながら話し始めた。

 

「違うの!!・・・・私もお兄ちゃんの子供産みたかった・・・。けど・・・、私お兄ちゃんの事、疑っちゃったの。おろせって言われるんじゃないかって・・・・。それどころかもしかしてお兄ちゃんに捨てられるんじゃないかって・・・・・。そんな事無いって、お兄ちゃんはそんな人じゃないって・・・・・・。そう思っても不安がどんどん湧き出してきて、誰にも言えなくて・・・・・。ごめんなさい・・・私の事嫌いにならないで・・・。」

 

知佳の告白を聞いた俺は、左腕で抱きしめたまま、右腕で頭をなでた。幼い頃両親にすら見捨てられた事は知佳にとって深いトラウマになっている。常に取りまとう捨てられる事に対する不安、それが妊娠という唯でさえ精神不安定になる事象で噴出してしまったのだろう。

 

「謝らなくていいよ、知佳。だれだって不安になる時はあるし、人を疑ってしまう事もある。前にも言ったろ?少しぐらいわがままな事とか言ったりしたって俺は知佳の事、嫌いになったりしないって。俺は知佳の事が好きだからな。」

 

「お兄ちゃん・・・。」

 

泣き止み、まだ少し潤んだ目で俺を見上げる知佳。そんな彼女に俺は決意を込めて言った。

 

「知佳、俺と結婚しよう。」

 

「!!・・・・・・はい。」

 

最初驚いたような顔をした知佳は、そこで今日初めての心からの笑顔を見せて答えてくれた。

 

 

 

そして、それから8ヶ月が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぎゃあ、おぎゃあ。」

 

命の誕生を伝える産声が鳴り響く。

 

「頑張ったな、知佳。」

 

「うん。」

 

出産はかなりの難産だった。途中、本気で危ない事もあった。その度に不安になった。けど、それを乗り越えた。それだけにより一層愛しく感じる。知佳が、そして生まれたばかりの我が子が。

 

「かわいい、女の子ですよ。」

 

看護士さんがそう言ってくれる横で、知佳はうまれたばかりの我が子を愛しそうに抱いていた。

 

「目元が知佳にそっくりだな。きっと美人になるな、こりゃ。」

 

「口元は・・・おに・・耕介さんに似てるよ。お兄ちゃんに似て優しい子になってくれるといいな。そうだ、お兄ちゃんも抱いてあげて。」

 

そして俺は知佳から赤ん坊を、優佳を受け取る。優しい子にになって欲しいという願いと、そして、たくさんの優しさに包まれて生まれてきた子供だから付けた名前だ。

 

「知佳。」

 

「何?」

 

俺は優佳を抱いたまま知佳に指輪を送った時と同じ言葉をもう一度言う。

 

「幸せになろうな。」

 

「うん。」

 

その時、浮かべた知佳の笑顔はこれまで見たどんな笑顔よりも幸せそうで、だから、俺は、知佳と優佳の笑顔をずっと守っていこうと思えて、だから、俺も自然に笑顔になれて・・・・・・・

 

   

 

 

 

 

 

 

うん、俺は今、幸せだ。

 

 

 


(後書き)

この作品を安藤龍一さんにささげます。だから感想ください。・・・・・嘘です。ごめんなさい。唯、知佳ssは前から書いて見たかったssだったのですが、自信が無くて躊躇っていたものを、安藤さんが掲示板でこのサイトの作家全般に対してリクエストしていたのを見て、それをきっかけにこの作品を書いてみました。結果、随分短くなって、その癖、内容も繋がりの薄いものになってしまったかもしれません。短編はなれないので難しいです。今度はもっと、知佳の魅力を表現できるよう精進して次は妊娠から出産までの空白部分でも書いてみたいです。




ほのぼのとした良いお話だな〜。
美姫 「うんうん。ほのぼの〜」
ぼへ〜〜。
美姫 「いや、だからって、アンタがそんな気の抜けた顔をしなくても」
あ、あははっはは〜
美姫 「それじゃあ、また次の作品を待ってますね」
今回はこの辺で〜。



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