『An unexpected excuse(偽)』

 〜八雲紫編〜


     

    

「俺が好きなのは・・・・」

そこまで言いかけてふと、脳裏に浮かんだのはやはりというか彼女の姿だった。

「恭ちゃん?」

「いや・・・・なんでもない」

知らず自嘲気味に笑ってしまっていたらしい。

 

出会ったのは本当に偶然で、だけどそれだけでもう魅了されてしまっていた。

彼女にとってもあの世界にとっても俺はイレギュラー。ありえないはずの存在はしかしだからこそ彼女の興味を引いたのだろう。

ともに過ごした日々は確かに耀いていて、今でも鮮明に思い出せるほどで。

いつしか自覚した想いは、届かない想いと判りながらなお諦めきれていない。

今でももしかしたらどこからか彼女がひょっこり現れるんじゃないかと、そんな幻想を抱いて生きている。

 

「好きな人はいる。確かにもう会えないのだろうが、それでも俺は今でも彼女を想っている」

 

神妙な空気と言葉ははっきりと。風にのって周りにいる少女達に届いたのか。一人、また一人と校舎へと帰っていく。

美由希や神咲さんが何度か俺の方を振り返っていたが月村に後押しされるようにして、歩みは遅いながらも戻っていった。

―――こういう時の月村の心遣いは正直ありがたい。

なんとなく授業を受ける気にならず、俺は校舎を背にして静かになれるあの場所へと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ふう」

 

鉄拵えの柵にもたれかかりながらじっと海と空との境目を見つめる。

境目、境界。

モノとモノとの断裂された面と面。論理的なあらゆるものの存在を後付けするもの。貼り付けられたそこは同時に隙間でもあり、彼女は境界を支配する存在だった。

妖怪、と一般的に呼称される存在。其の中でも上位に格付けされる大妖怪だ―――とは式神の藍さんの弁。

 

幻想郷から帰ってきた俺の判断は正しいと、思う。

御神の血を継ぐものとして何より家族を守るという誓いは向こうでは果たせない。

けれど、とも思う。

もし、もしも、あの時彼女にこの想いを告げていたら何か変わったのだろうかとも思ってしまう。

首を振る。

なんて都合のいい解釈だ。何より彼女と俺とでは違いすぎる。種族の違いとかではなく他の、何か決定的な違いが、あった。

それが俺と彼女との境界。決して変わることの無い俺と彼女の――――――

 

 

 

 

 

 

「――――――なら、その境界を失くしてしまえば万事解決ということかしら?」

 

 

 

 

「ッ!?」

 

振り向いた視界いっぱいに広がる金色。

ゴシック調の洋装に、レースをあしらった大きな日傘。風にあわせて揺れる豪奢な金髪。

見間違えようはずもない。あの時と一切変わらぬ様相で―――大妖怪、八雲紫はそこに立っていた。

 

「久しぶりね、恭也。あの時より変わらず壮健そうでなによりだわ」

 

日傘がくるくる、くるくると回る。

彼女は1歩1歩こちらに近付いてくる。反面、俺は金縛りに会ったかのように動けない。回転する日傘のように、俺の思考も理解が追いつかずくるくると回っていた。

やがて俺の目の前まできた紫はそっとその手を俺の頬に手を触れ、すうっと撫でる。

思わず頬を紅潮させる俺を見てクスクスと笑う。

「まずは一つずつ貴方の疑問に答えましょうか。

―――どうしてここにいるのか。それは当然、隙間を空けて向こうからこっちに来たのよ。

―――どうして貴方の思考がわかったのか。・・・ふふ、こっちの方が重要のようね。これは貴方の心の境界をすこしだけ弄って覗いただけ」

「・・・・随分と悪趣味、ですね」

想いの境界を操作した。それをなんでもないことのように紫は言った。事実、彼女にしてみればどうということのない事なのだろうが。

それがなんとなく癪だったので、苦し紛れにああ言って反撃にでたが―――彼女の口から次に出た言葉は俺の反撃など到底及ばない、俺にとっては核兵器並の最強のカウンターだった。

 

「あら、恋する乙女は止められないってよく言うでしょう?」

 

「・・・・・・は?」

回転していた思考は破壊された。紫の言葉でそれはもう、これいじょうないくらいに木っ端微塵に。

真っ白で胡乱な頭はただ紫の顔が今にも接吻しそうなくらに近付いていることだけ捉えている。

「・・・・恭也。女の口からこれ以上言わせるのは殿方のすることではないわ」

一瞬だけ、少女のような恥じらいをみせたがやはりそれは一瞬で。刹那の間に彼女は大妖怪としての威厳を顕わにした表情で、まるで宣告するかのように、告げた。

 

 

 

 

「―――選びなさい、人間。時間はあげたわ」

 

 

 

 

何を、などと無粋なことは聞かない。散々回りから枯れてるだの言われるがさすがにこれがどういう意味を持つのかくらいは理解できる。

蘇った思考回路は一つの解を俺に提示する。人間、高町恭也が妖怪、八雲紫に向けるたった一つの正しい解を。

さっきまで迷っていたはずだったのだが、境界を操作されたのだろうか?などと頭の片隅で思いながらも俺は得た解を彼女に告げる。数学的ではない感情という要素を含めて。

「俺は貴女と比べれば弱く、しがない人間だけれど。それでも――――――貴女を護りたい、護らせて欲しい・・・・・ずっと、共に在りたいと願っている」

言った。こんなときにもっと気の利いた言葉が言えないものかと自分でも思うが、こればかりは性分だからどうしようもない。

紫は俺の言葉を聞くとしばらくしてクスクスと、だけど嫌な笑いではなく喜びが込められた笑いで。

「・・・・・ふふ。嬉しいわ、恭也。―――だけど肝心の言葉が欠けているのではなくて?」

・・・ふむ。やはりちゃんと言わないと駄目だな、こればかりは。多分に、恥ずかしくはあるが。

一回、大きく深呼吸して再び紫の瞳を見る。

そして

「―――貴女を、愛している」

言葉を受けた紫は1歩さがりスカートの端を軽く摘み優雅に一礼して

 

「八雲紫。そのお言葉、謹んでお受けいたします」

 

この日。ずっと望んでいた紫の笑顔を、俺は再びこの目にすることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「さて恭也、じゃあさっそくいきましょうか」

「は?」

「決まってるでしょう?――――――一名様、スキマへごあんな〜い♪」

「まて!?いきなりか!」

「そうよ。やることはたくさんあるのだし。私の旦那様兼式として」

「式!?」

「だって人間のままじゃ、よくてあと80年くらいしか居られないでしょう」

「いや、確かにそうだが―――」

「それともさっきの言葉は偽りだったのかしら?・・・・・ゆかりん、泣いちゃう」

「嘘偽りは誓ってないが、しかしだな」

「じゃあ問題ないわね」

「いやだから―――ッ!?足元にスキm」

 

―――幻想郷は、全てを受け入れる。それはそれは残酷な事です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

まず、紫ファンの方ごめんなさい(DO・GE・ZA)

東方キャラと恭也ってどうなんだろという疑問の元の試みで。まあ無茶なクロスやもしれませんが意外にありかな、と(笑)

恭也は設定上規格外な人間だから式になっても問題なさそうですよね、多分。

きっとハイスピードな弾幕が展開されるでしょう・・・(汗)

東方キャラの中では紫とか幽々子とか割かし妖々夢のキャラが好きです。

実際には、紫と出会ったらその時点でDEAD END確定してしまいそうですが。





東方から紫の登場〜。
美姫 「言いながが、東方はアンタやってたっけ?」
えっと、一番最初のはちょっとだけ。難しいっす。
クリアしてないっす。できないっす(涙)
美姫 「以降、アンタが東方をする事はなかった……」
いやー、やってみたいんだけどね。
キャラとか色々面白そうだし。
とはいえ、知らなくても充分以上に楽しめました〜。
美姫 「投稿ありがとうございます」
ではでは。



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