二時間目が終わって、休憩時間に入る。今日は学園祭まであと一日ということで授業はなく、朝から準備に全生徒が追われている。

遙たちは生徒会で催す喫茶店の準備を終えて、いろいろと飾り付けがされていつでも開店できる状態の生徒会室で一服していた。

「しかし、今朝のクリス先生にはびっくりしたなあ・・・」

 今朝のことを回想して遙が言う。クリスはいつもおとなしい先生として知られている。

まあ、あの状況ではあそこまで怒るのも仕方のないことだろうが。

「ええ。まさかクリス先生が時間を止められてその上物質再生までできるとは驚きです。」

 驚く場所が少しずれている気もするが・・・。

「しかも、記憶操作までできるとはね。」

 遙は違う点も指摘した。遙の言ったとおり、あのあと誰も遙たちに一連の出来事を聞いてくる生徒はいなかった。

おかしいと思って何人かに尋ねたが、誰もそんなことなかったよ。と、応えるだけなのだ。

闇音に聞いても記憶操作などしてないというから、どうやらクリスがしたことなのだろうと思い至った。

「何かしでかしたんですの?」

 そこにホノカが割ってはいる二人が何の話をしているのかわからないのだ。

「まあ、しでかしたと言えばしでかしましたけど・・・」

「また何かしでかしたんですか。」

今までも何かしてきた経緯があるのだろう、 静夏は呆れたように言った。

「何なにぃ?今度は何をしちゃったのぉ?」

 華香が興味本位で聞いてくる

「わからないならわからないままのほうがいいこともあるんだよ。」

 そういって紅茶を飲み干す遙。さすがに少しは悪いことをしたと思っているんだろう。

那雪姫もそのことには触れることなく、紅茶を飲んでいた。

 そのあと、学園祭についてのことを話していると、話題が遙と那雪姫の結婚式になった。

「そういえば、那雪姫は両親来るんですの?」

「ええ。来ることになっています。」

 微笑みながら応える那雪姫。

那雪姫の両親はそろって、三宮コンピューターエンタープライズの頭取をしているため、ほとんど一緒にいることができない。

今までの授業参観などにも一度も来た事がない。だから、那雪姫は嬉しいのである。

「遙君はぁ?」

「わからねえんだと。いまのとこ来るように予定してるって話だけど。来る確率低いんじゃねえかな。」

 ほとほと呆れたように言う遙。

「そういえば、遙君の両親は何をやってますの?」

 遙は自分の過去はさることながら、両親のこともほとんど話さない。

「ああ・・・それは・・・」

「内閣総理大臣ですよ。」

 そういったのは那雪姫だった。

「お、おい・・・」

「別に言ってもいいでしょう?たいしたことじゃないんですから。」

 たいしたことではないというが、実際すごいことである。

まあ、那雪姫が言いたいのは親がどうであれ遙が遙であることにかわりないということなんだろうが。

しかし、ほかの人はかなりびっくりしているようだ。

「で、でも今の総理大臣は七海隆ですよね?」

 ちょっとパニックに陥っている静夏。

「苗字が違うよぉ?」

 確かに華香の言うとおりだ。

「七海は父親の姓だ。九重は母親の姓なんだ。俺は七海ってのがなんか好きじゃないから九重を選んだんだよ。」

 本人が言うのだから間違いないのだろう。

「それはご多忙でしょうね・・・」

 ホノカはそうは言うものの、遙は別のことを言った。

「あれのどこがこ多忙なんだよ。国会じゃ寝てるし、委員会でもちょっと野党の答弁に答えるだけじゃねえか。」

 どうやら、遙はあまり父親のことが好きではないようだ。

「そんなに毛嫌いすることないじゃないですか。」

「嫌っちゃいないよ。呆れてるだけだ。」

 遙がため息をつくのと生徒会室のドアが勢いよく開けられたのはほぼ同時だった。

あまりの音に、生徒会室にいた静夏たちは驚いてドアのほうを見る。

那雪姫は臨戦態勢を取り、遙はケーキを切るのに使ったナイフを持ち、入ってきた人物に飛び掛り、首筋にそれを当てた。

「お・・・・親父?」

 遙はその人物が誰だかわかるとナイフを首筋から話した。

「おいおい。いきなりそれはないだろう。お前、父親を殺す気か。」

 そういって大げさに手を広げて呆れてみせる遙の父親、隆。

「それもありだな。で?なんのようだ?どうせ来れなくなったか?」

「いや。行けるようになった。昨日まで予定が入ってたんだが、こっちを優先させることにした。

なんと言っても一人息子の結婚式なんだからな。」

 そういって遙を抱き寄せる隆。が、体が触れる瞬間、遙の右拳が隆の腹を捉えた。

「ぐお・・・」

 その場に崩れ落ちる隆。

「まったく。こんなとこでそんなことしようとするな。」

 遙は照れているだけのようだ。

「だからといって殴ることないだろうが・・・」

 腹をさすりながら起き上がる隆。さすがは遙の父親といったところか。打たれ強い。

「お久しぶりです。お義父さま。」

 そういって挨拶をする那雪姫。確かに遙とは夫婦になるのだから、遙の父親は義理の父親である。

「やあ。那雪姫ちゃん。ひさしぶりだね。そうか。あと二日で二人は夫婦なんだよね。

まあ、いまさら言うことじゃないけどできの悪いこいつをよろしく頼むよ。」

 最後の言葉が微妙に気に入らないのか、遙の顔が少し変わった。

「ええ。」

 那雪姫の返事に隆はあろうことか、うんうんといって抱きつこうとした。

「調子に乗るな!!!」

 那雪姫の本気のハイキックが後頭部を直撃した。そのまま隆は開いた窓から外に放り出された。

「ちょ・・・」

 さすがにみんなパニックに陥り、那雪姫と遙以外は窓に駆け寄った。窓の外、芝生の上で隆は頭をさすっていた。

「少しは手加減しろよ!!本気で殺す気か!!」

 今のはさすがに応えたらしい。

「本気で殺す気だったらもうとっくに首が胴体からはずれてるよ。」

 あっさりととんでもないことを抜かす遙。

「ちっ、可愛くなくなったもんだ。まあいい。じゃあ、また二日後にな。」

 そういって立ち上がると何事もなかったかのように校門に向かって歩いていく。

「まいどまいどお騒がせなヤツだ。」

 遙はそういうものの顔には笑みが浮かんでいた。







 学園祭一日目。当然のように活気付く麦山高校。今回はパンフレットの件もあって、クイズを企画していたクラスなど大盛況である。

何せ枚数の少ないパンフレットが優勝商品なのだから。喫茶店も大盛況だ。

指定された人数目に来た人にはパンフレットが配布されるからだ。学園はさながら戦争状態である。

「ここまで騒がしいのも初めてじゃないか?今までがどんなだったかは知らないけどさ。」

 さすがに遙も驚いているようだ。まあ、初日の入場者数が5000人を超えるというのは普通の学園祭ではありえないことだろう。

「そうですね。はい、遙。これを五番テーブルにもっていって。」

「はーい。」

 そう、当然のことながら遙たちは生徒会の催す喫茶店のウエイトレスをしている。しかもこの喫茶店が大盛況。

さっきからひっきりなしに客がやってくる。

「お待たせしました。」

 そういって五番テーブルにオーダーを持っていく遙。すると、

「久しぶりだね。遙君。」

「あ、那雪姫の・・・」

「そうだよ。今日から休みが取れたんでね。いやいや。学園祭なんか何年ぶりだろうな。」

 そこにいたのは那雪姫の父親と母親だった。

「明日が結婚式よね。待ち遠しいわ。」

 そういって遙を見上げる那雪姫の母親。

「そうですね。俺も待ち遠しいですよ。」

「しかし、君は女装したらほんとに女性に見えてしまうんだな。」

 そう。喫茶店ではウエイトレスは全員女性でないといけないという華香の偏見に満ちた一言により遙は女装させられたのだ。

おまけに再び、フリフリでヒラヒラの服。当然ウエイターでもいいじゃないかという遙の意見が却下されたのは言うまでもない。

「お恥ずかしい限りです・・・」

 耳まで真っ赤にして恥ずかしがる遙。だが、

「あら、そういう服なら家にいっぱいあるわよ。いるなら差し上げようかしら。」

 どうやら前回のフリフリでヒラヒラの服の出所は那雪姫の母親らしい。

「遠慮・・・」

「するの?」

 何か那雪姫の母親の目にあやしい光が宿った。

「・・・・・何着かください・・・・」

 遙は再び真っ赤になってそう応えた。

「そうそう♪バリエーションがないと飽きちゃうからね♪」

 ちょっとこの会話を聞く範囲では遙に女装癖があるのかと思われるかもしれないが、

おそらくこの二人が話しているのは全く別のことだろう。あえて深くは突っ込まないが。

「はっはっは。そんなに遙君をいじめるなよ。ところで遙君のご両親は?」

「来るって言ってましたよ。」

「そうかそうか。首相も子供思いだよ。」

「どこがですか?」

 どこと無く呆れたような遙の口調。

「君はあまりニュースは見ないのかい?」

 ちょっと呆れたような那雪姫の父親の口調。

「ここ最近はそんな暇なかったですし。」

「まあ、君も那雪姫も忙しいのはわかるが、世事には置いていかれないようにしないとね。」

「はあ・・・」

 返す言葉の無い遙。ちなみに遙は最近の芸能関係などにはとてつもなく疎い。もともと興味が無いというのが大きいのだが。

「首相、君の父親はね、明日予定されてた日米首相会談をキャンセルしてまで君の結婚式を選んだんだよ。いい父親じゃないか。

一国の進退よりも自分の息子を取るなんて。当たり前のこととはいえなかなかできないことだよ。」

 そういって心底感心たように言う那雪姫の父親。

「・・・・ま、まあ、とにかくごゆっくりしていってください。」

 遙はそういって再び接客に戻った。少し照れているような感じだった。

「ふふ・・・那雪姫、本当にいい人を選びましたね。」

 目を細めて接客をしている那雪姫を見る母親。

「そうだな。わたしたちのほうが先に逝ってしまうからいい人が早く見つかってほしいと思っていたが、

思ってた以上に早く見つかってよかったよ。」

 そういってせわしく接客をして回る遙を見る父親。

「ええ。これで肩の荷が下りましたね。」

「とはいえ、まだまだ先は長いけどな。」

「ええ。まだまだ死ねませんよ。」

 そういって二人を見ながらコーヒーを飲む二人。その視線は優しいそれだった。





「じゃあ、休憩してくるわ。那雪姫、行こうぜ。」

「ええ。」

 午後一時、交代の時間がきて遙と那雪姫は学園祭見て回ることにした。

「しかし・・・ここまで多いとはな・・・」

 ふと見るだけで廊下はほとんど人で埋まっている。おまけにグラウンドも人で埋まっている。

「そうですね。で?どこからいきます?」

「そうだな・・・・目的もないし、これだけ人が多かったらあんまり回れないだろ。

とにかく、アンナと闇音と朝比奈のところに行ってみるか。」

そういって遙は那雪姫の手を取って人ごみの中に入っていく。

まあ、二日目の主役ということもあって、知名度は高く(まあ、もともと高かったのだが。)、廊下を通るだけで大騒ぎになっている。

そうこうしているうちに灑薙麗のクラスの前に来た。

「あ、那雪姫に遙君!来てくれたんだ。」

 灑薙麗が教室から出て二人に駆け寄ってくる。しかし、一目見た遙は、

「お前、そんな服似合わないんだな。」

 なんと灑薙麗はさっきまで遙が来ていた服と同じようなデザインの服を着ていた。

たしかに、少しボーイッシュなところがあるため見た目的に似合わないというよりは、雰囲気にあっていないといったほうが正確だろう。

「余計なお世話よ!何なら今ここで遙君にこの服着せてあげようか?」

 前回の件がある手前、冗談とは思えない。

「遠慮するよ。で?お前たちは何やってんだ?」

「コスプレ喫茶だよ。」

 とんでもないものをやっているらしい。

「なんですか?それ?」

 まあ、全うに生きていけばお目にかかることはほとんどないような代物である。

「なんというか・・・人としてある意味終着駅だろうな。」

 ある意味で的確に評しているかもしれない。

「意味がわかりません。」

 まあ、仕方ないかもしれない。

「とにかく入っていきなよ。」

 そういって中に入ることを促す灑薙麗。

「ええ・・・と言いたいとこですけど・・・」

「アンナのところと闇音のとこに行かないといけないからな。」

 そういって再び人ごみにまぎれる二人。

「まったく。うらやましいくらいに仲がいいんだから。」

 灑薙麗は呆れながらも、二人の消えた方向を見ていた。

その後、遙たちはアンナと闇音のところに行き、再び生徒会室に戻りまたそこで接客を始めた。

 午後四時半。学園祭一日目が幕を下ろした。

「お疲れ様。今日はほんとに人が多かったわね。」

 静夏も少々疲れ気味の様子だった。

まあ、一日の売り上げが20万を超えたところを見るととんでもない量の人がきたことは容易に想像がつく。

「じゃあ、明日は待ちに待った二人の結婚式だね。」

 華香はまっていましたと言わんばかりに興奮している。さながら翌日の遠足を待つ小学生のように。

「ああ。と言うわけで明日の打ち合わせがあるから今日は早めに上がらせてもらうよ。」

「迷惑かけて・・・」

「迷惑だなんて思っていませんわ。二人の新たな門出なんですもの。ぴっちり決めてもらわないと困りますわ。」

 那雪姫の言葉が終わらないうちにホノカが割って入り、那雪姫を言いくるめる。

「わかりました。ではお先に。」

そういって二人で生徒会室を後にする二人。

「やっとここまで来たって感じね。」

「そうですわね。まあ、これから始まるんですもの。二人の関係は。」

 静夏とホノカは校庭に出た二人を見ながらそういった。

「うんうん。刀は収まるべき鞘に収まらないとねぇ。」

 遙と那雪姫は本当にいい友達を持ったようだ。

 それから結婚式の準備には四時間ほどかかった。その間に仮設の教会や、式場、披露宴会場などと言うものが大急ぎで作られた。

完成してみると、グラウンドいっぱいいっぱいに一つの大きな建物ができていた。

ここまで大掛かりなことが四時間でできたのは今回の作業に借り出されたのは総勢約5000人。

普通から考えてもとんでもない人数である。ちなみにこれを手配したのは那雪姫の両親である。そして、結婚式当日を待つだけになった。











あとがき




というわけで結婚前日のクロスワールド第十話です。

(フィーネ)ということは、次回が結婚式なのかな?

そういうことだ。あまり面白くないかな。このあたり。

(フィーラ)へ?調子悪いの?

どうやらスランプ真っ盛りのようだ。全く持って話が浮かばん。

(フィーネ)あんたの文が下手なのは今に始まったことじゃないって。

(フィーラ)そうそう。あんた高校の現国の先生に文才ないってはっきり言われてるじゃない。

(フィーネ)ここまでかけてるって時点で既に奇蹟ね。

ぼろくそ言われてるが、まさにそのとおりです。はい・・・。

(フィーネ)じゃあ、次回の案は?全くなし?

いや、一応あるけど・・・この部分は前から考えてたし。面白いかどうかは人によるけど。

(フィーラ)あらら。めちゃくちゃ弱気じゃない。珍しいこと。

梅雨だからねえ・・・雨降らなくても俺はこの時期テンション下がるのよ。

(フィーネ)季節病かぁ。復活に時間かかりそう。

(フィーラ)こういうときは景気づけしましょ!!

な〜に〜?

(フィーネ&フィーラ)ダブル・サイクロン!!!

きゃあああああああああああああああ!!!!

(フィーラ)ま、かえって来る頃には復活してるでしょ。

(フィーネ)じゃあ、第十話でお会いしましょ♪



投稿ありがとう!
しかし、遥の父親がまさか…むぐむぐむ。
…………ぷふぁ〜。な、何をする。

美姫 「駄目よネタバレは。後書きから先に読む人もいるんだから」

いや、HPでそれはないんじゃ…。

美姫 「絶対にないって言い切れる?」

無理かも…。で、でも、これは後書きじゃないぞ。
後書きは怪盗Xさんが…。

美姫 「その流れでここまで読む人もいるかもしれないでしょう」

うぅ。し、しかし、それを言ったら、今までだってかなりやったような気がするんだが。

美姫 「過去は過去として、忘れましょう」

うわー。しかし、何で急にそんな事を?

美姫 「よくぞ聞いてくれたわ。私が用事でとあるサスペンスドラマを見れない日があったのよ。
    それをビデオに録画してたのね。それで、後日それを見ていたら……」

いたら?

美姫 「あ、これ見た。この人が犯人だったよな。とか、言われちゃったのよ!」

ま、まあその人はお前が見てないと思ってた訳で…。

美姫 「問答無用よ!浩にあの悲しさが分かるっていうの」

いや、分かるというか…。
その後、ボロボロにされた張本人としては、せめてもう少し手加減をして欲しかったと言うか…。

美姫 「思い出しても腹が立つ〜!」

え、えっと、それじゃこの辺で……。

美姫 「む〜〜〜」



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