「悪い。待たせたな。」

 那雪姫たちは遙の持っている武器を見るなり絶句した。まあ、実用性ゼロのように見えるために仕方がないだろう。

そしてそんな剣でまともに戦えるのだろうかという心配な目線を送っている。

「っと、じゃあ始めようぜ。琉羽。本気で来いよ。」

 そんな那雪姫たちを尻目に琉羽に向けて切っ先を向ける遙。

「うん。」

 そういって琉羽は背負っていた自分の身長よりも20センチほど長い筒から長い棒を取り出した。

いや、棒ではない。バットである。しかしその表面には無数の鉄の棘が生えている。そのフォルムもとんでもないものであった。

異色な武器同士のぶつかる戦い。それが一体どうなるのか、那雪姫にも炎火にも予想ができなかった。

が、遙はそれが何なのかを知っていた。

「へぇ。パディティオ・レリジオシタス(破壊信仰)か。んなえげつないものどこで手にいれたんだよ?」

「えっと・・・和さんがくれたんだ。」

 琉羽にとってはおばあちゃんのはずの和を「さん」付けで呼んでいるという事は、どうやら和がそうするように言ったのだろう。

「全く。あの人もとんでもないもの持ってるもんだ。」

 そういいながら遙は魔剣『裂躯闇』を構える。それに応じる形で琉羽も脇構えを取る。

脇構えは、自分の武器を相手に見せないように構えることでリーチを相手に前もって測らせないという利点がある。

身長差で40センチ近く負けている上、武器の長さもかなりの長さの差があるためにこの構えが一番いいという考えを琉羽は出したのだろう。

 先に仕掛けたのは琉羽のほうだった。一足飛びからのパディティオ・レリジオシタスによる横薙ぎ。

その速度は重量武器にもかかわらず遙の振りに引けを取らないものだった。

遙は難なくそれをかわすと自分の間合いでもないのに裂躯闇を振り下ろす。

琉羽も負けじとそれを受けるが、遙の斬撃の重さに体勢を崩した。そして裂躯闇が地に着ききる前に剣を翻し右胴に薙ぐ遙。

それすらも琉羽は受けるが、やはり威力に負けて吹き飛ばされる。

「くっ・・・。」

 受身を取っているために体にダメージはほとんどないが、受けるたびに両腕にはげしく痺れを感じるほどの一撃のため、

苦しそうな声を上げる琉羽。が、それもつかの間、琉羽は地を蹴るとふたたび遙に向かって跳びかかる。そして再び横に薙ぐ琉羽。

遙はそれを避けず受ける姿勢をとったが、何を思ったか不意にバックステップで距離をとった。

次の瞬間、ほんの一秒足らず前まで遙のいた場所にパディティオ・レリジオシタスが突き刺さっていた。

「あれっ?はずれちゃった。」

 言葉から琉羽が確実に当たったと確信していたようだ。が、さすがは遙。その程度では一撃を入れられなかったようだ。

「全く。どんな馬鹿力してたら、んな重量武器で軌道を一気に変えられるんだよ。」

 とはいえ今の琉羽のしでかしたことには呆れている様子を示す遙。確かに見た目、琉羽の武器が軽いとは思えない。

むしろかなり思い部類に入るのではないかと思えてしまう。

「そうかな?これ重いって言っても50キロぐらいしかないよ。」

 琉羽はこともなげにそういうが、50キロもある鉄の棒を遙が剣を振るのと同じスピードで振り回す上に横薙ぎを振り下ろしに

変えたりするあたり、琉羽の力は桁外れであることは明白である。

「そういうお父さんの剣だってお世辞にも軽そうには見えないけど?」

 確かに遙の持つ裂躯闇もそのフォルムからしてかなり重そうに見える。

「そうでもないさ。俺、この剣の重さ感じないし。まあ、実際は重いんだろうけど。」

「そうねぇ。実際は100キロぐらいはあるんじゃない?」

 そう答えたのは朔夜だった。

「ひゃ、100キロ・・・」

 さすがの遙も目が点になっている。一方琉羽はそのぐらいかなといって頷いた。

「まあ、そのくらいないと僕を吹き飛ばすなんて無理だもんね。」

 どうやら琉羽は力に関してはかなり自信があるらしい。そういいながらもパディティオ・レリジオシタスをぶんぶん振り回している。

「やっぱり、お父さんは強いよ。なんか、勝てる気がしないもん。」

 そういいながらも笑顔で再び脇構えを取る琉羽。闘うことを楽しむあたり、やはり遙と那雪姫の子である。

「じゃあ、僕も思いっきりやろうかな。勝てる気は本当にしないんだけど。」

 そういった瞬間に琉羽はその場にはいなかった。いや、そういったと同時に遙が弾き飛ばされた。

「うおっ!」

 遙はもう一度体勢を立て直し、琉羽を視界に捕らえるが再び弾き飛ばされる。

「もらいっ!」

 琉羽の攻撃が見えないまま吹き飛ばされた遙だったが、決めにかかった琉羽の声に反応し、自らも同時にその場から消える。

次の瞬間、弾き飛ばされたのは琉羽のほうだった。

「ててて・・・」

 琉羽は起き上がると頭をさすりながら遙のほうを見るが、遙を視界にとらえると同時にその遙は視界から消えた。

琉羽はやっぱりという表情を浮かべると背後にたって裂躯夜を首に当てている遙を見て、

「うにゃあ・・・。やっぱりかぁ・・・。」

 そう言ってうなだれる琉羽。とはいえ、遙も左手と右足からかなり出血している。おそらく琉羽にやられた所だろう。

「まさか、トキハネを使えるとは思ってなかったよ。いやいや、完全に予想外だったな。」

 そういって琉羽の頭をなでる遙。それが嬉しかったのか、目を細めて笑う琉羽。

「確かに二人の子供だよ。闘い方なんか那雪姫そっくりだ。」

 そういって那雪姫の方を見る遙。

「そうですか?」

 那雪姫は自分か闘っていないため実感として沸かないから、はっきりとはわからないようだ。

遙はそれに続いて那雪姫に似ているところを言った。

「おまけに、機械化まで受け継いでるときたもんだ。トキハネにこんなのまで混ぜられたら正直たまったもんじゃないよ。」

「あれ?気づかれてた?」

 これには琉羽のほうが驚いた。そして那雪姫も驚いている。

「そうなの?」

 そういって確認を取る那雪姫。

「うん。手首から先は機械化させてないけど、一応、受け継いでるよ。」

 そういって琉羽は自らの手を機械化してみせる。遙はだからあんなに重い鉄バットでも振りまわれるんだといいながら地面に座り込んだ。

「ちょ・・・大丈夫ですの?」

 炎火が心配そうに声をかけ、タオルを遙に渡す。遙はタオルを受け取るとそれで体についた血を拭う。

「いや。これだけの素質があれば、あと数年もすれば俺を超えられるんじゃないか?いや、冗談抜きで。」

 そういって再び琉羽の頭をなでる遙。そこに那雪姫がふとした疑問を投げかける。

「そういえば、琉羽は男なの?女なの?」

 十歳ぐらいの上に、ともすればどちらにも見えてしまうような顔立ちをしているために男なのか、女なのかの区別が全くつかない。

「今は今度から通う高校のために女の子ってことにしてるけど、実際は男の子なんだ。」

 那雪姫はなるほどといって頷き、遙にそろそろ家に帰らないかと提案する。

これ以上外にいて今、華香にあったりしてしまうと何かとまずいと考えたからだろう。

「よし。それじゃあ帰るか。」

 そういって琉羽の手を取って広場を後にする遙たち。が、炎火はそのあとにはついていかず一人その場に残った。

三人が広場からいなくなると炎火は一人夜空に向かってつぶやいた。

「まったく。私の気なんか知らないで、本当に仲がいいんですから。妬けてしまいますわ。」

 炎火はそのまま星空を一人で見上げていたが炎火を呼ぶ声にふと我に帰った。

「遙君?」

 声のするほうに振り返ってみたがそこには誰もいなかった。

「気のせい・・・?全く。最近の私は何かおかしいですわね。」

 そういって再び前を向いた先に遙はいた。

「あ・・・・」

 炎火は顔を赤らめると顔を遙から背けて一人で広場を去ろうとする。

「あー。ちょっと待ってくれ。」

 遙は何かいいたげな様子で炎火をその場にとどめようとする。炎火はその場に足を止める。

「えっと・・・その・・・なんだ。今日さ、母さんが来てあんなこと言ってたけどさ・・・・。」

 そこで言葉を区切る遙。炎火は振り返ることなくその場に佇み言葉の続きを待っているようにも見えた。

「あー・・・。やっぱりだめだ。回りくどく言うって言うのは性にあわねえや。」

 そしてまた少しの間。そして遙が意を決したように言葉を紡ぎだした。

「母さんにも言われたとおり、俺、お前に特別な感情を抱いてる。でも、正直なところそれがなんなのかよくわかんない。

那雪姫とは母さんの言うとおり、恋愛感情抜きにしたああなっちまったから恋とか人を好きになるとかいうのはよくわかんないんだよ。

でも、俺のわかる限りの言葉でお前への気持ちを表そうとするなら、お前を守ってやりたい。

何からと聞かれても困るけど、とにかく、お前を守ってやりたい。」

 その遙の言葉が終わると再び場に沈黙が訪れた。しかも、今までのように少しの沈黙ではなく、たっぷり五分は続いただろう。

「わたしは・・・・」

 炎火が戸惑いながら、自分の気持ちを遙に伝えだした。

「わたしは・・・・遙君のことが好きです。遙君が那雪姫の手伝いで生徒会に出入りするうちに好きになっていってしまったんですわね。

私、預けられた家も家でしたし、生まれた家も家でしたから、男性と触れ合うことも少なかったし、

教室の中でもあまり触れ合うことはなかったですし。でも、遙君とあったときに、なんというんでしょうか、

あ、この人だって思ったんです。」

 堰を切ったかのように続ける炎火。その目は涙であふれていた。

「何度もあきらめようと思ったんです。那雪姫と付き合っていることなんて明白でしたから。

でも・・・諦められませんでしたわ。諦めようとするたびに想いがつのっていって・・・・。

ですから、諦めることをやめて、いつか告白してすっぱりふられようと。でも・・・。」

 炎火はそこまでいうとついに泣き出した。遙はそっと炎火に近づき、抱き寄せた。

「大丈夫だ。」

「・・・・・・・っく・・・・・・っく・・・・・」

 炎火は遙の胸の中でおそらく始めて涙を流した。生まれてから物心つく頃には鷹真奈美の子として育てられ、

高校になってからは雪広の家で跡取りになるように張り詰めた教育を受けていたために緊張の糸を緩めることが許されなかったのだ。

 炎火はひとしきり遙の胸でなくと、顔を上げてこういった。

「那雪姫は・・・・許してくれるでしょうか?」

 すると遙はバツが悪そうに頬をかきながら、

「大丈夫だと思うぞ。ここに来たのだって、半分那雪姫にけしかけられたようなもんだし。

あ、でもお前に気持ちは伝えなきゃとは前から思ってたんだけどね。」

 そういって遙は炎火の髪をそっとなでた。炎火は遙に体を預けると目を閉じた。

いま、ここにある遙の体のぬくもりをしっかりと確かめるように。

「炎火。」

「遙。」

 互いに目を合わせて名前を言うとどちらともなく唇を合わせた。

遙にとっては那雪姫以外で初めて、炎火は初めてのキスだった。

長いキスを終えると炎火は恍惚な表情で遙を見てもう一度遙の唇を奪う。

二度目のキスは最初のものよりも長く、深かった。互いに唇を離すとその間には銀色の橋が掛かっていた。

「おまえ、思ったより積極的なんだな。」

 意外だったのか、遙は少し驚いているようだ。しかし、炎火は気にせず、少し遙からはなれてくるっと回転しながら遙のほうを見る。

「あら、本来の私はこのようなものですよ。いままでは優等生ぶっていましたから。」

「ははっ。そっか。」

 そういってはるかは炎火に近づいて再び抱き寄せる。

「いきなりなんだけどさ、俺、お前のことが好きなのかもしれないな。うん、そうだ。これが好きって感情なのか。」

 遙はそういって炎火を少し強く抱きしめた。

「嬉しいですわ。でも、忘れないでくださいね。私は私。那雪姫は那雪姫なんですから。」

「わかってる。那雪姫の占めてる心の部分とお前の占めてる心の部分は別だよ。」

 そういって手をほどき二人で帰路に着こうとしたそのとき。

「はあ〜い♪呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃ〜ん♪」

「なら来るな。」

 いきなり背後から現れた和に遙はお決まりの文句で返した。炎火はいきなりのことに飛びのいて尻餅をついている。

いや、何もないところから現れてびっくりしない方がおかしいのだが。

「そんなつれないこと言わなくてもいいじゃない〜。せっかくお祝いに来てやったのに〜。」

 そういってしなを作って見せる和。が、遙は胡散臭そうな目で見ていきなり現れた真意を探ろうとしている。

「な〜にそんな人を疑うような顔してるのよ?せっかく私がコウノトリの役買って出てやったのに〜。」

「は?コウノトリ?」

「え・・・?それって・・・」

 炎火はなんにことを言っているかわかっているようだが、遙は何のことを言っているかさっぱりわからないようである。

どうやら、遙にその手の言い回しは理解できないようだ。

「でておいで、侑羽(ゆう)ちゃん」

 和がそういうと木の影から一人の少女が現れた。歳は琉羽と同じぐらいだろう。

が、女だとわかるのは琉羽と違って髪が膝下まで伸びているからである。

「この子は・・・」

 そういって和のほうを見る遙。和は、あ、気づいたんだというような感じで二人に向かって侑羽を紹介する。

「この子は九重侑羽。はるちゃんとほのちゃんの子供だよ。」

「お父さん、お母さん。ひさしぶり。」

 その言葉に目を点にする遙。一方、炎火は既に侑羽と話している。

「あのさ、那雪姫のときも思ったんだけど、琉羽も侑羽もどうやって創ったんだ?」

 どうやら遙はどうやって二人を創ったのかがわからないらしい。

「かんたん・・・ってわけじゃないんだけどね。まず、十歳ぐらいの子供・・・できれば、寝たきりの子とかがいいね。

その子の遺伝子情報を二人のものに書き換えるの。それこそ全身くまなくね。そうすれば正真正銘、二人の子供が出来上がるってわけ。

まあ、記憶に関してはちょっと書き加えちゃったりしたけど。」

「ついに九重も神の領域に入ったってわけか。」

 遙はそういいながらずっと話している侑羽と炎火の方を見た。

「そんなことないよ。私たちは人間。だから人間ができることしかしてないよ。はるちゃんは嫌かな?」

 そういうと遙は和のほうを向いてほころんだ顔でいった。

「いんや。こういうのなら歓迎だ。」

 遙はそのまま二人のところにかけていき、侑羽の手を取ると炎火と三人で家に向かって歩いていった。

その光景をにこやかに見送った和。三人の姿が消えると、和もその場から消えるようにいなくなった。

空には三人を祝福するかのように、満天の星が輝いていた。








あとがき



さて。クロスワールド第二章第八話で・・・・

(フィーネ)ばかーっ!!!!!!!

ぐはあっ!!!いきなり殴るな!!俺が何をした!!!

(フィーラ)いや、二股はないでしょ・・・

二股ってわけじゃない!!一夫多妻・・・

(フィーネ)同じでしょうが!!!!

ぎゃうっ!!!

(フィーラ)まあ、なんとなく予測はついてたけど本当にこうなるとはねぇ・・・

むむむ・・・とにかく!これでこの話にはひと段落着いたんだ。次からは華香との決戦に向けて一直線だ!!

(フィーネ)本当でしょうね?

当たり前だ。九月中に終わらせなきゃ、授業が始まってしまう。

(フィーラ)あらは?始まってもいつもと同じじゃないの?

いや、そうだけど・・・。

(フィーネ)んじゃあ、さっさとかけー!!!

わかった!!!わかったから蹴るな!!!

(フィーラ)私も混ぜて〜♪

やめてー!!!!!!!『ドカ バキ ボコ グシャ・・・・』

(フィーネ)まったく。懲りないんだから。

(フィーラ)じゃあ第九話であいましょ〜♪



あ、あははは〜。
物凄い展開になってるね。
美姫 「しかも、子供のあの強さ……」
果たして、次回からどんな展開になるのか。
美姫 「そして、9月中に終るのだろうか」
それは怪盗Xさんを信じて。
美姫 「フィーネちゃん、フィーラちゃん、頑張ってね〜」
何故、そこでその二人の名前を…。
美姫 「気にしない、気にしない♪」
……気になるって。



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