『聖りりかる』




第20章 〜黄金と桜花の鉄火咲き…〜








ザザザザザザッ



バヂンッ!



ダンッ!



ガシィ!!

トン、タタタッ



 闇の中、二つの小さな影が交わっては離れる。片や桜色の燐光を纏わせ、片や黄金色の雷光を放ちながら、夜闇の森を彩った。

「くっ…!」

 フェイトは中々に捉えきれない敵の影に、苛立ちを募らせる。何故だ、何故見つからない。敵に有効打の気配も無く、只、自分だけが消耗しているかの様な感覚に冷静な判断を奪われる。

「何処だ……!?」

『余裕を失わせる』事すらも相手の策略の内。フェイトはその事にすら気付かず、徐々に募る焦燥感に捕われていた。

「…負けない……!」

 頭を大きく振り、弱った心をふるい落とす。両足に展開した飛行魔法を駆使し、木々の合間を縫う様に飛び去る影を追う為に、フェイトは更に神経を研ぎ澄ませた。







〜〜〜〜〜







「よっ、と!…ほぃっ」

 対するなのはは、余裕を持ってフェイトの追撃をかわしていた。



ガキッ! たんっ



 木々の合間を縫い、相手の撹乱と消耗を念頭に置いた不規則な動き。望ほど完璧な囮や隠行は無理だが、魔力をチラつかせて相手をつかず離れずに誘導する。

「…ぃしょ! っと」

 普段のなのはの運動では、絶対に不可能だと言い切れる変則高機動。しかし、彼女が独自に考案し、望とレーメが編み上げ、ユーノが魔術として昇華させた特殊術式が、彼女の不可能を可能たらしめていた。

 それは、外側からの強化ではなく内側…つまり筋繊維を直接強化する魔法だった。術の利点は即応性と柔軟性、そして何よりその隠密性だろう。あらかじめ強化用の術式を組み、体内に眠らせておくだけで必要に応じて身体強化を行う。この術を確立した恩恵として、なのはは士郎達の動きを直接教わることが可能となった。

 筋繊維に直接作用し、余分な魔力を制御に宛がうが故に傍目からは魔法を行使したことを悟られない。弱点は筋繊維が対象ゆえに、表面の防御力がおなざりになることだろうか。

 レイジングハートを木の枝に引っ掛けて跳躍と方向転換を同時に行う。正に変幻自在と呼ぶべき動きを見せながら、しかし速度は速くない。



ビュオン!



「こっちか!?」

 音も無く木の枝に着地した瞬間、フェイトが猛スピードでなのはが乗った枝の真下を通過した。

「……そろそろ、かな?」

 通過した瞬間のフェイトが見せた焦りの表情を確認したなのははそう呟いて、バリアジャケットのリボンをしゅるりと外した。








〜〜〜〜〜










「あや……? ……着替えも浴衣もある…………外かにゃ?」










〜〜〜〜〜







「ふざけてるのかいっ!?」

 戦闘の一部始終をフェイトを介して見ているアルフが望に詰め寄る。一方の望は飄々とした様子でアルフをあしらっていた。

「それは俺に聞くべき事じゃないな。なのはちゃんが真面目なら、これは間違いなく真剣勝負なんだろうさ」

「逃げ回るだけじゃないのさ!」

「そりゃそうだ。尋常な立会いなら、まず万全のコンディションにしないと。勿論、メンタルもね」

 自らの主に手だしを禁じられている以上、助太刀は出来ない。やり場の無い怒りを鎮めようとアルフは望の胸倉を掴み上げた。

「アタシ達の目的はジュエルシードなんだよ! こんな茶番に付き合えるかい!!」

「そこだよ」

「!?」

 突然に望が謎の指摘をする。思わず力を緩めてしまったアルフの手元から脱出した望が難無く着地し、続く言葉を紡ぎだした。

「あのな……――――」









〜〜〜〜〜









「見付けた………!!」

 ようやく標的の姿を確認したフェイトの口元に笑みが浮かぶ。その視線の先には一直線に飛び去ろうとする白いバリアジャケットの後ろ姿があった。

「バルディッシュ!」

《Yes,master!》

 即座に己のデバイスへ指示を飛ばし、光の鎌を射出させる準備に入る。この一撃は何としても命中させようと、殊更に気合を籠めるフェイト。やがてな白い背中が木々の合間に消えようと、


「させないっ! アークセイ……」






「ばあっ!!!」






 突如、ガサリと大きな音をたて、フェイトの眼前に背中を見せていた筈のなのはが逆さ吊りの状態で現れる。

 なぜかキャミソール姿で、ご丁寧に両手を広げて威嚇する様にしながらだ。

 よく見れば真上の木の枝に足を引っ掛けているのが確認出来るが、追いかけていた背中がなのはだと思っていたフェイトにそんな事を確認するような余裕など無く、



「ひああぁぁっ!?」



 予想外といえば余りに予想外な出来事に対処が遅れ、結果として悲鳴を上げる事しか出来ないフェイトは、ペたりとその場に女の子座りになる。

「引っ掛かったね! 残念でしたー!!」

「なっ、な、何が…!?」

 満面の笑みを顔に張り付けたなのはとは対照的に、未だに事情を飲み込めないフェイト。下着姿のなのはが軽く指先を動かし、先程までフェイトがなのはだと思っていた物体を呼び寄せる。フェイトはその物体に視線を釘付けにした。

 それは、そこら辺に落ちていた枝を即興で組み上げてバリアジャケットを着せた、言うなれば案山子とも呼ぶべき物だった。

「まだ望くんみたいな機動は無理だから、より囮っぽくしてみたの」

 聞いてもいない説明をして、案山子から自分のバリアジャケットを剥いていく。段々と落ち着きを取り戻していくフェイトの表情には、代わりに怒りの色が窺えた。

「…馬鹿にしてるの……!?」

 戦いの最中なのに、つい出てしまう非難の言葉。無理からぬ事ではあるが、やはり自分が真面目にしているのを虚仮にされているのは気分が悪い。

 だが、なのはから聞こえた言葉は信じられない程に真面目さを含んでいた。

「違うよ。フェイトちゃんが自分で言ったよね?『尋常に』勝負って」

「だったら!」

「お互いに万全でなくちゃダメだよ」

「っ…!?」

 思わぬ返しに一瞬、告げるべき言葉を失う。これを好機と見たなのはが畳み掛ける様にまくし立てた。

「そんなに気負ってガチガチに固まったような身体じゃ、満足に動ける訳ないじゃない。私は身体も心も万全のフェイトちゃんと本気の勝負がしたいの。そして……」

 一息、



「本気でぶつかって、本気で話し合って、フェイトちゃんと友達になりたい!!」







〜〜〜〜〜







「ふざけんなぁぁ!!」

 叫びと共に、アルフの握り締めた拳が放たれる。しかしそれは望に届く事無く、背後の樹木に風穴を開けるだけに終わった。

「こっちは本気なんだよ! そんなスポーツ感覚のお遊びに付き合ってられるかい!!」

 二撃、三撃と断続的に発射される、魔力を込められ、人であれば容易く貫けるソレは望の体術の前に虚しく空を切り続ける。

「俺に言われてもなぁ……」

 ひょいひょいと紙一重でアルフの攻撃をすべて避け切っている望が、困った様に頬を掻く。

 あの夜、立ち直ったなのはの決意表明を聞かされた身としてはどうしようもない。それに、今の望にはそれ以上に気に掛かっている事があるのだ。

「とにかく、早くアレを集めないと…!」

「………?」

 アルフの焦りように望は眉を潜める。その言葉を出した瞬間、アルフの表情が怒りから哀しみへと変わったからだ。

「………………」






〜〜〜〜〜










「…にゃんで森の中に? ……微妙にマナも荒れてるし………まいっか…たまには外で…………あぁ…ショタ望かぁ……………じゅるっ」









〜〜〜〜〜






「フォトンランサー!」

 フェイトの掛け声に呼応し、四筋の光弾がなのはに迫る。なのははフェイトの掛け声と同時に飛びのき、最初の牽制の一発を木の影で回避。続く光弾をプロテクションで相殺する。

「…っ!」

 プロテクションの為に手を出した隙を狙って、残る二発が時間差でなのはに肉薄する。

「ここと…ここっ!!」


ガギン!バチッ!


「へ!?」

 信じられない光景に、思わずフェイトが間抜けな声を漏らす。確実に仕留めたと思っていたフェイトには想像もつかなかっただろう。

 なのはが普段から死角に対する対処とカウンターを徹底的に教え込まれている事など、普通ならば予想できない。

 なのはは視線をフェイトに固定したまま、逆手に持ったレイジングハートを左手のみでフルスイング、一つ目のフォトンランサーを叩き落とす。命中を疑わなかったフェイトは当たった事を前提に二発目の軌道計算をしていたので、軽く身を捻ったなのはにかわされ、光弾が一瞬動きを止める。その隙になのはが手刀を叩き落とし、二発目は呆気なく消滅した。

「ふぅ……………っ!!」

 一息つこうとした所に、フェイトの光刃が迫る!


ギィン!!


 咄嗟に弾こうとレイジングハートを振るが、先程なのはの実力を認め、緊張も程よく解れたフェイトに最早隙は無い。距離を置こうとしたなのはの意図を読み、軽くブラフとパリィを掛けて近接戦闘に持ち込んだ。

「正直、友達ってのがどんなモノか、私には分からない…!」

 上段からの袈裟掛け、弾き返しと受け流しの応酬を繰り返す中でフェイトが言う。デバイス同士が火花を散らし、金属音が響く中、その声は何故かよく通って聞こえた。

「でも、キミを見てるとっ! 何処か、胸がギュッてっ! なって!」

 なのはは話を聞きながら、脚払いでフェイトの体勢を崩そうとしゃがむ。しかしフェイトは展開していた飛行魔法を発動させ、それを許さない。

「キミに! 友達に、なりたいって! 言われた時…身体がフワッてなった……!」

 せめて同じだけのアドバンテージを得る為に、なのはも足元に魔方陣を浮かべるが、フェイトが妨害の為に攻撃を足元に集中させたり、フォトンランサーを小出しにして撹乱して来るので上手くいかない。

「よく分からないけど! これが友達だって言うならっ! なんだか……温かくなる…わかんないよ…何なの……これ…?」

 空中からフォトンランサーの連射をしながら、多少の余裕が出来たので、考えをまとめようとする。しかし、なにぶん未体験の感情だ。フェイトだけで解決出来る訳がない。

「フェイトちゃんは! まだ、わっ! 分からないんだよ。と! 最初から分かる事なん…てやっ! 無いから、少しずつだよ!」

 地上で情熱的なタップダンスにも似た足捌きで光弾をいなしながら、なのはが語りかける。足元狙いはバリアジャケットと蹴りで捌き、上半身へ向かう光弾はレイジングハートで叩く。

「……!!」

 フェイトが混乱しながらも、とにかく敵を倒さないとならないと叫ぶ戦士としての本能に従い、なのはに突撃を仕掛ける。フォトンランサーの連撃が止んだ事を確認したなのはもフェイトに向き直り、これに応戦。

 戦いは鍔迫り合いへと持ち込まれた。







〜〜〜〜〜







「……ぐぅ……っ!!」

 満身創痍のアルフが堪え切れずに片膝を着く。対する望は冷ややかにその様子を見ていた。

「…歩み寄りは大事だぞ? ましてや相手からの譲歩だ。裏を勘繰るのは正解だが、いきなり襲うのは下策だったな」

「うるさぁい!!」

 望が言い終わる前に狼へと変身し、再び突撃を掛ける。

「だから」


ヒュッ


 アルフが力を溜め込み、地面を蹴ったその瞬間に軌道から外れて突撃を回避。


「少しは」


ガチン!


 次の突撃を行う為の着地を考えているアルフの顎を軽く叩き、舌を噛ませて思考を一時的に奪う。


「人の話を」


ガシッ、ビュン…!


 前脚二本を左手、後ろ脚二本を右手で引っ掴み、アルフの突撃のスピードを利用して大回転。


「聞け!」



ビタァン!!



 腰を入れたフォームでそのままアルフを木の幹に叩き付けた。

「はぁ………」

「まだだぁぁぁ!!」

 どう考えても立てそうにないアルフがまだ立ち上がる。どうも変なスイッチが入ったらしい。

「…………」

 本腰を入れるか、そう考えた瞬間にこの場に似つかわしくない呑気な声が響いた。



「の・ぞ・む・はっけぇーん!!」







〜〜〜〜〜







 突然だが此処でレイジングハートについて説明しよう。

 本来、ユーノ・スクライアの所持品であるこのデバイスは「杖型」デバイスとして、使用者の魔法発動の補助を行う。

 あくまで『魔法発動の補助』を行うデバイスであり、強度やその他の機能に関しては重視されていないのだ。では今回、なのははレイジングハートをどう使っていたか。


・森の中を駆け巡る際、木に引っ掛けて使用した。


・フェイトのフォトンランサーを迎撃。但し魔法でなく本体で。


・近接格闘に特化したバルディッシュと数十合打ち合う。


・これまたバルディッシュと鍔迫り合い←New! Now on air!!


 ……当然ながら魔法使いの杖がそんなダーティな戦い方に対応している訳がない。




ビキィ!!




「うそぉ!?」

 レイジングハートに亀裂が走り、なのはが驚愕の声を上げる。その一瞬の怯みをフェイトが見逃す筈もなく、あっさりとレイジングハートを弾き、喉元に刃を突き付けた。

 今回の勝負、軍配はフェイトに上がる。







〜〜〜〜〜







「こんな夜中に何処に行ってるのよぉ〜……お姉さんは許しませーん!」

 望にタックルをかまし、呆然とするアルフを尻目に酔っ払いが大攻勢をかける。

「許さないから罰としてー……おねーさんの夜伽を命じまーす!!」

「酔い過ぎだナルカナ! 今の状況分からないのか!?」

「…んー?」

 望に抱き着いて頭をぐりぐりと押し付けていたナルカナは、言われて初めて周りを見渡す。ぐるりと視界を確認し、アルフの部分でぴたりと首を止めた。

「なーによ、昼のじゃない。なにしてんのよ」

「そいつと戦ってんだよ! 邪魔立てするなら…!!」

 犬歯を剥き出しにして昼間と同様に威嚇する。対するナルカナも酒で濁った瞳をアルフに向け、不機嫌そうに唸る。

「…なーんで戦おうとしたのかしら?」

 痺れを切らしたナルカナが、アルフの腹に探りを入れる。しかしそこは単純なアルフ、アッサリと思惑を暴露した。

「決まってるじゃないか! ジュエルシードを狙ってるんだよ!!」

「ふーん」

 それを聞いたナルカナが腕を振る。その先に光を確認したアルフが何かを投擲された事に気付き、臨戦体勢を取った。

 しかし、その飛来物を確認した時、望とアルフの時間が止まる。

「「………え?」」

「…なによー、それ狙ってるんじゃないの?」

 アルフに投げて寄越したのは、ジュエルシード。

 それも四個だ。

「ほら、上げるからとっとと消える! ナルカナさまはこれから望とのミツゲツなのですよ?」

 上機嫌に望の首筋を舐める。呆然としていた望はそれで現実世界に引き戻された。

「おまっ、ナルカナぁ!? 何考えて…!!」

 猛然と抗議を吹っ掛けようとするが、その唇をナルカナが己の唇で以て塞ぐ。





 あ、舌入れやがった。





「……ぷはっ…あら、まだいたの? もしかして…見るのが好きなのかしら?」

 婉然と微笑み、先程望を奪ったその唇に艶めかしく指を乗せる。アルフが慌てて背を向け、望たちに言葉を放った。

「そ、そんな訳ないだろう!! とっとにかく、アタシは礼は言わないからね!?」

 それだけ言うと、フェイトが居るであろう方角へと走って行った。相当なダメージがあるらしく、随分ともたついた走りではあったが。

「はいはーい♪……さて、これで邪魔は無し。と」

 半端に望に抱き着いた姿勢を直し、本格的に馬乗りの体勢を取る。

「まだなのはちゃんが戦ってるんだよ! 見られたら……ってオーラフォトン!? 何時の間に!!」

「それじゃ、改めまして………」

 そして、昼と同じくひたすらに無の存在を体言したナルカナが、祈りを捧げる様に両の掌を合わせる。その姿に、望までもが一瞬ではあるが魅せられた。

 ただ一点、昼と違う所があるとすれば…



「―――いただきます」







 今は、ストッパーがいない。







〜〜〜〜〜








ポタリ

「あら、水仙の花が」

「脈絡も無ければ季節も違うな」







〜〜〜〜〜







「なのはー!」

「ユーノくん!?」

 敗北の証として、レイジングハートがジュエルシードを吐き出す。そのタイミングでユーノがなのはの元に駆け付けた。

「どうしたの?」

「いい加減遅いから心配だってイルカナさんが僕を寄越したんだ」

「え?………わっ! もうこんな時間なの!?」

 言われて初めて、現在時刻に気付く。旅館に戻ろうと脚を動かそうとするが、フェイトがその場から一歩も動かずにこちらを見ていた。

「……やっぱり、胸がギュッてなるよ…」

 ポツリと、小さく呟く。それだけ言うと、フェイトは今度こそなのはに背を向けた。

「フェイトちゃん!」

 なのはの呼びかけに、思わず脚が止まる。

「……待ってるからね!」

 なのははそれだけ言うと、今度こそ旅館に駆けて行った。

「…………」

 フェイトは何も言わず、黙って飛行魔法を展開した。飛び上がった直後、自らの頬を濡らす水がある事に気付く。どうやら、今夜は雨らしい。

 その水滴の塩辛さには気付かないフリをして、アルフの待つであろう自室へとフェイトは急いだ。







〜〜〜〜〜







「イルカナちゃん! ありがとうね!」

 旅館に戻って静かに寝床に着いたなのはがボソボソとイルカナに礼を言う。薄く目を開けたイルカナがそれに口元だけの笑顔を見せた。

「いえいえ。こんな夜更けに女の子が出歩くのは、流石にまずいですからね。それになのはさんもお疲れでしょう? 早く寝ないと、明日に響きますよ」

 小声になってイルカナも返し、なのははそのまま睡魔に襲われる。

 何かを忘れていないかと、奇妙な感覚を残しながら、夢の世界に旅立った。







〜〜〜〜〜







「……さてさて…」

 なのはが眠ったタイミングを計り、イルカナがその身を起こす。いそいそと着替えを用意して、音も無く部屋を出て行った。

 それとない下準備はしていた。戦いに夢中になっている所にユーノを投入、意外な人物を介入させる事で望が居たというイメージを薄れさせる。

 更に時間を確認させて心から余裕を奪い、心配している相手がいる事を告げて、なのはの中から完全に望の存在を消し去った。最後になのはに疲れを自覚させ、夢の中に誘う言葉を掛ければ作戦は完了だ。

「細工は流々、仕上げを御覧じろ…と♪」

 ぱたぱたと軽い足取りで廊下を進む。



 目指す聖地は、露天風呂。

 そろそろ二回戦が始まる頃だ。







〜〜〜〜〜








ボタリ

「あら、向日葵の花も」

「もう何でもアリだな!」







〜〜〜〜〜







 朝一番。








「ヘタ、こい、たぁぁあぁああぁああぁぁぁあぁぁあ!!!!!!!!」








 なのはの叫び声が旅館の中に木霊する。

「おーい、なのはー。そろそろ帰る準備だぞー」

 恭也がなのはに声をかけるが、そんな事が聞こえている訳がない。やれやれと肩を竦め、ぐるりと視線を巡らせれば、



 何故か簀巻きにされて石の座布団を抱くナルカナ・イルカナ姉妹の姿があった。



「……レーメちゃ「聞くな」…いや、で「聞くな」……了解した」

 触らぬ神に祟り無し。文字通りの言葉が恭也の脳裏に浮かぶが、眉間を揉んで追いやった。

 そんな責め苦を受けているにも関わらず、ツヤッツヤの頬に恍惚の表情を浮かべているのは言わぬが華だろう。



 ちなみに、かき集めれば丁度『十歳程度の男子一人分』になるだけの壁の赤黒いシミや足元に広がる挽肉は公然の秘密である。







〜〜〜〜〜







「…いてて…死ぬかと思った……」

 なんで生きてんのお前。

「楽しめたかね?」

 快活に笑いながら、士郎が望に話しかける。

「ええ、ありがとうございます」

「それは何より。帰ったらまた、よろしく頼むよ」

 何を、とは言わない。それでも望はひとつ頷いて窓の外に目を遣った。

「………あの娘……」

 気にかかるのは昨夜のフェイトとか言う少女。悩みの種が増えた事を自覚しながら、それでもその鬱憤を少しでも和らげたくてその言葉を小さく呟いた。












「…ミニオン……だよなぁ………」



ナルカナ、さすがにそれは駄目だろう。
美姫 「あっさりとジュエルシード、あげちゃったわね」
これ、後で問題にならないと良いけれどな。
美姫 「望が最後に呟いたミニオンという言葉も気になるわね」
フェイトの正体か。
美姫 「続きが気になるわよね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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