『聖りりかる』




第23章 〜黎明の黄昏〜








「…やった……のか?」

 ライトバーストの強烈な光に眼を閉じていたレーメが、恐る恐ると相手を確認する。未だに採光機能が麻痺した視界ではそれもままならないが。

 徐々に取り戻し始めた視力で、先ず捉えたのは黒い塊だった。

「これは……」


 丸く、歪で、醜く、黒い。


 黒焦げになりながらもかろうじて認識できるそのゴツゴツとした表面は、間違いなく樹のそれだろう。この有様を見る限り、この塊は最早動き出しそうにはなかった。それを看取ったレーメが視線を巡らせる。そんな彼女の視界に見慣れた青い衣服を捉えた時、我知らずとその喉は視線の先の者に声を掛けていた。

「ノゾム!」

 咄嗟にこの塊を作り出したであろう己が主の名前を叫び、駆け寄ろうと脚を動かす。しかし名前を呼ばれた望は、駆け寄るレーメに見向きもしない。

「ノゾム、どうした「近寄るな!!」

 刹那、



ボ ォ ン ! !



 望の一喝にレーメが身を縮ませるより疾く、黒い塊を内部から割裂き、光を反射させる程に瑞々しい肉の塊が溢れ出した。

「な!?」

 驚愕に眼を見開くレーメの眼前に、肉の暴流が押し寄せる。

「ッち!」

 が、警戒を解かなかった望がそれに反応してレーメを小脇に抱え、その場から離脱した。

「馬鹿が、お前も最近弛んだんじゃないのか!?」

 望が珍しく罵倒の言葉を口にする。返す言葉も無いレーメは、そのままうなだれるしかなかった。

 だが、此処である疑問が鎌首をもたげる。何故あの肉塊がまだ動く事を望が悟っていたのか、レーメは無性に気に掛かる。

「ノゾムは……何故まだ終わっていないと解ったのだ?」

「樹の焦げた臭いだけで、肉の灼ける匂いが全くしなかった。それだけだ」

 その問への答は、至極簡潔な物だった。そんな初歩的な事も気付けなかった自分を、改めて恥じる。

 ある程度の距離を取った所でレーメを降ろし、望はジュエルシードに向き直った。

「……?」



 何かが、おかしい。



 樹の部分を根こそぎ焼き尽くされ、余計に生々しい蠢動を見せる肉塊。望にはその動きが、先程とは違う物に映っていた。

「……レーメ、“オーラフォトンバリア”の出力を限界まで引き上げろ。最悪パーマネントウィルが破損しても構わない」

 首筋に感じた悪寒の銘ずる儘に、望がレーメに指示を飛ばす。

「んなっ…!?」

 言われたレーメが咄嗟に声を荒げようとしたが、望の余りにも真剣な表情に口を噤む。仕方なしに指示に従わんとマナを練り上げようとした瞬間、横合いから二人に話し掛ける声が上がった。



「…それよかさぁ」



 視線を移すまでもなく、その声の主はナルカナ。此処に来たという事は、恐らくフェイト・テスタロッサの説得に成功したのだろう。そうアタリを付けた望は、黙ってナルカナの言葉を促す。

「私が此処で防御に専念して、望達が二人がかりで行った方が良いわよね。先刻までは無理だったけど私が手隙になったからその作戦でも大丈夫よ?」

 先程とは状況が違い、今此処に護衛すべき対象は無い。

 躊躇う理由は何処にも無かった。

「レーメ、パーマネントウィルを返還するぞ!」

「うむ!」

 先程とは逆の軌道を描き、望の胸元から現れたパーマネントウィルがレーメへと吸い込まれていく。その作業を行っている間に、ナルカナは“イミニティー”の展開を終えていた。

「ナルカナ! 嫌な予感がする……絶対に気を抜くなよ!?」

「誰にモノ言ってんのよ!」

 望の言い樣にナルカナが不敵に笑う。この分なら心配は要らないだろうと踵を返…

「「…んっ……!」…!?」

 した瞬間、全くの不意打ちでナルカナに唇を奪われる。ほんの一瞬の出来事だったソレは、しかし望が動揺するには十分すぎた。
 そして、ナルカナは望の耳元で囁く。



「貴方の選んだ…貴方を選んだ、生涯の相棒なんだから…」



 これ以上なく赤面した望が慌ててジュエルシードに向き直る。レーメからのじっとりとした視線にも気付かない辺り、余程に切羽詰まっているようだ。そんな望の様子をひとしきり堪能したナルカナが、改めて望達に大声で告げた。

「さ! チャチャっと終わらせなさい!」







〜〜〜〜〜









ボチュッ!!!



 ジュエルシードを中核とした、醜悪な肉の塊。
 その塊から白い弾丸が発射される。
 いや、弾丸ではない。その白い物体は良く見れば骨の形をしていた。

「ふっ!」

 迫る骨の弾丸を、紙一重で躱す。続けざまに二連射、こちらは黎明で軌道を逸らした。



ガン!!



 軌道を逸らす一瞬の隙を狙い、肉の裂け目から鮮血を撒き散らして大きく湾曲した骨を突き立てる。 
その形態から推察するに恐らくは肋骨か。





ガゴッ、ボギン!!





 しかし、その狙われた一撃すら望には届かない。もう片方の手に握られた黎明を振るい、肋骨の一撃を妨害。その間に構え直した黎明を肋骨に宛てがい、恰もハサミで物体を無理矢理に捩り切るかの様に肋骨を折り砕いた。



 ジュエルシードの戦い方が、着実に変化している。



 それまでの無闇矢鱈な威力行使から、より大きな威力を持たせる為の動作、更に今は追い込みをかけて仕留めに掛かると、確実な一打を求める動き。そんなジュエルシードの『成長』を、望は感じ取っていた。
 ふと、骨を叩き折った瞬間に肉塊の動きが止まる。

「……?」

 様々な疑問を思考の隅に追いやり、戦う事に専念していた望も思わず疑問に顔を強張らせる。それまでの動きが実戦に重きを置いた成長を見せていた分、その疑念にも一層の深みがある。



うじュる……グずっ……



 動く。

 これまでの攻撃に備えた予備動作やフェイント、それらを欠片も感じさせない無秩序なる蠕動。




 震え、膨らみ、捻れ、伸びる。




 その形状は華を思わせ、花弁にあたる部分は薄い皮膜で形作る。

 そして、



ガパぁ………



 その花弁から一斉に、口のような物が現れた。



「「!!!!」」



 望とレーメがその思惑に気付く瞬間、







ビッッ!!







 光の華が、咲き乱れる。









〜〜〜〜〜









 言うなれば、それは花火に酷似していた。

 咲き乱れる肉の華を中心に、四方八方に撒き散らされる光の暴虐。
 しかしその光が周囲を破壊する事は無い。紅に輝く結界が、その全てを阻むのだ。
 破滅を匂わせる白が紅に触れた瞬間、眼にも鮮やかな火を散らせ、それが地へと降り注ぐ。正しく花火と呼ぶに相応しい光景が、展開されていた。





ギィュアアアァァァァァ!!!!





「………ッ!!」

 その悲鳴に、ナルカナが眉を顰める。いくら“イミニティー”で無差別砲撃を無効化しているとは言え、音を防ぐ機能は無い。そしてジュエルシードの発する悲鳴は、看過できない程に耳障りな響きを纏っていた。

「……?」

 ふと、ナルカナの脳裏を疑問が過ぎる。

 何故、今になって雄叫びを上げる?
 これだけの悍ましさと不快感を煽る音だ。決定打にはなりえないが、それこそ相手の気を散らせる等のサポートとしては十二分に威力を発揮するだろう。
 何が起こるか分からないとはいえ、余りに闘いの定義から外れている。

 或いは、それすら策の内なのか。

「……望…っ!」

 言い知れぬ焦燥に駆られ、思わず敵と相対している己の主の名を呟く。

 ただ、想いだけを籠めて。








〜〜〜〜〜








「………!!!」

 突如、望がくしゃりと顔を歪める。悲痛さすら篭ったその表情に、レーメが怪訝な面持ちをした。

「どうしたのだ?」

 そう尋ねるも返答は無い。レーメが疑念を抱くその表情には次第に憤怒が交わり、狂暴さすら伺わせる険しさを覗かせる。
 その顔を見てしまったレーメが思わず身体をビクリと強張らせ、続けざまに発しようとしていた言葉を飲み込んだ。

「……後で話す。レーメ…『星宮の麦』と『クゥルトクゥル界の稲穂』……後は『天翼剣レオンダート』を」

 ボソボソとした僅かな声でそれだけを告げると、レーメからのアクションを待つだけの体勢に入った。レーメが慌ててパーマネントウィルの譲渡を行うと、望が静かにグローブを嵌め直す。その所作一つひとつに凄まじい怒りを感じ取るレーメは、気が気では無かった。

 やがて、望が黎明の柄を力強く握り締める。

「レーメ」

「…なんだ?」

 不意に、柔らかい声が掛けられた。望の持てるありったけの優しさを一点に集めた様な……先の表情からは想像すらもつかない、そんな声。
 全身の緊張を一気に解されたような感覚に襲われたレーメは、返事をするだけがやっとだった。

「…少し、離れててくれ」



 その、言葉に。



「これから」



 その、声音に。



「ちょっと」



 その、佇まいに。




「馬鹿な事、するからさ」




 レーメは、全てを悟る。



「ナルカナも聞こえてるだろ?」



 剣を交えたからこそ理解できる、



「ちょっとだけ…」



 敵の、正体。



「……耳、塞いでてくれ」



 これから斬るべき、その相手。



「……行くぞ…!!」



 その全てを理解してしまったレーメが見上げた空に、暗雲が立ち込めて来ていた。









〜〜〜〜〜









ガッゴォ!!!



 踏み込みと呼ぶには、余りにも荒々しすぎるその一歩。アスファルトを砕き、その下地になっているコンクリートすら凹ませ、ジュエルシードとの距離を零にする。

「ッらぁぁ!!!」

 ジュエルシードの発する、隙間を極限まで削られ死角が無きに等しい、全方位への光線照射。
 望はその砲撃の嵐に対して“オーバードライブ”の攻撃マナを刀身全体に集中。そのフォースを鏡の様に利用し、その身に迫る砲撃を強引に反射しながら相手の懐に潜り込むという荒業をやってのけた。




チュガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!




 やがて反射された光線はビリヤード現象を引き起こし、ただでさえ死角無しに見えた光の放射が、更に無軌道な動きを見せる。

 外へと向かう光の筋は、ナルカナの“イミニティー”が残らず火花に昇華させる。

 また、地面に向かう光は赤く焼けた跡を遺し、光に応じた大きさの穴をアスファルトに刻み込む。

 そして、





ヂュガッ!!





ビギャァァアァアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!





 そしてまた、ある光は発したその身を焼き焦がし、その肉の一部を削ぎ落とす。
 ジュエルシードが一際大きな悲鳴を上げ、更に光線を撒き散らせる。
 しかし、それは己が身を更に灼く行為に他ならない。体組織の二割程度を焼き払い、これ以上は自傷以外に無いだろうと悟ったジュエルシードが、やっとの事で光を収める。肉の華を仕舞い込み、その巨体を肉弾主体の肉体に組み替える為に、今一度総身を丸い塊に収斂させる。



「疾ッ!!!」



 その決定的な隙、見逃す愚は犯さない。

 華の茎に相当する部分を、二刀で切り上げ支えを奪う。自由落下までの僅かな滞空時間、渾身の蹴りをかまして更に空中へと飛ばす。



「乾坤一擲…!」



 黎明を握る右手を左の腰溜めに、抜刀術の様な構えを取る。左手は右の肩口に親指を触れさせ、黎明の峰を背中に預けさせた。左足を軽く引き、膝を軽く曲げて突撃の体勢を整える。

 転瞬、






「“ブレードラッシュ”!!!」






 限界まで引き絞った全身の筋肉を、爆発させる。

 たった二振りの剣によって起こされるそれは、嵐と呼ぶに相応しかった。外周の肉を三ヶ所同時に切り落とし、返す刀で膨らみかけの部分を斬り飛ばす。

 敢えて剣筋を変え、斬り辛い状況を作る事で相手に黎明が刺さったままにさせ、それを振り上げる時に肉塊を丸ごと持ち上げる。次の瞬間には刺さっていた部分の肉を丸ごと斬り飛ばし、その動きを全方位から仕掛ける。傍目には、謎の塊が血を吹き続けている様にしか見えない。

 やがて三メートルは優に超えていた肉塊が一メートル前後までサイズダウンする。膨らもうとした分の肉も含め、周囲は血肉の海としか表現できない様相を呈していた。

「……」

 返り血でその身を余す事なく染め上げた望が無言で近付く。しかし、所々から骨を覗かせ、静かに転がるジュエルシードに動きは無いし、その兆候すら見せない。再生できない程に消耗したのか、それとも何が起こったのかを未だに理解していないのか。

「…汝、その存在を縛れ!」

 望が腕を振り、“グラスプ”を展開する。この世界に到着した直後に見せた物とは違う、正真正銘の出力でだ。



ギヂィィ……!!!



 肉の表面が完全に隠れる。光の帯が肉塊を締め上げ、その光条の隙間から血がボタボタと零れ落ちる。

 宙に漂い流れながら、血を滴らせる光球。

 この上なく不気味であり、同時に神秘的でもあるその光景に、だがしかし感慨を覚える観客は居ない。



「………ごめんな」



 たった一言、望の懺悔が響く。 今にも泣き出しそうな儚い表情を湛え、光球に眼を向けた。慈しみを以て黎明を構え、ジュエルシードに向き合う。





「……稲穂を撫でるは、夜半(ヨワ)の風」


 小さくその言葉を発した瞬間に、優しさを湛えていた望の眼は絶対零度に凍りつき、戦士のそれと化していた。





「帝に捧げし、星の麦」





 そこに一切の容赦は無く、





「我、導くは」





 そこに一片の曇りも亡い。





「其の御霊」





ギイイィィィン……!!



 右手に構えた黎明が輝きを放つ。その白い鍔に埋め込まれた紅の宝玉が橙の輝石へとすげ替わり、更に刀身が力強く輝いた。





「汝の息吹に祝詞を給い」





 輝きが最高潮に達し、望の右腕に巻き付けられたベルトが一本弾け飛ぶ。





「息災願いて」





 腰を落とし、黎明の切っ先を下げる。 溜めに溜めた力の渦が、望を取り囲む。

 そして、







「夜を穿つ!!!!」







 その叫びと同時、望が黎明を光球に突き立てる。否、突き立てるなどという表現では足りない程に、その一撃は激烈過ぎた。







ブクゥッ!ボゴベゴッ!!!



ボパァァァァン!!!!







 肉塊を縛り上げていた光条は、余りの余波にその戒めを緩め、標的とされた肉塊は血を滴らせる余裕もなくその身の大部分を吹き飛ばす。



ビキッ!!



 突如、望の手元から罅割れる音が鳴る。見れば、橙の輝石………パーマネントウィル『星宮の麦』が、その輝きを失って砕け落ちていた。

「…後は……」

 ゆっくりと歩を進め、ジュエルシードへと近付く。
 いくら祝詞を以って術式への干渉ダメージを和らげているとはいえ、想像を絶する威力のオーバードライブの衝撃を受け、その束縛は大きく緩んでいる。

 そんな威力にあてられ、球状の檻を彷彿とさせる“グラスプ”を、望は軽く身を屈ませながらくぐり抜け、オーバードライブの標的となった存在、その眼前へと立つ。





 蒼い輝きを放ち、横で一緒に漂う『胎児』と臍の緒によって繋がれた『滅亡の光』へと。





「謝りはする………赦して貰うつもりは無い」

 望はそう言って、胎児とジュエルシードを繋ぐ臍の緒を斬る。ゆっくりと光を失いながら落ちる胎児を己の胸へと抱き、空いた手で指を軽く弾く。パチンという微かな音を合図に、漂っていた“グラスプ”の光条が望を避けてジュエルシードに殺到。

 その封印を恙無く終わらせた。

「…仕上げを、ご覧じろ。ってか……」

 軽く自嘲めいた呟きを漏らし、その腕に抱いた赤ん坊を、両手で空高く掲げる。





「…翼を託せし、天の剣」





 その言葉に応じ、望の周囲に蒼い光が踊り始める。



「憎み給え」



 それは、誰への挑発か。



「赦し給え」



 それは、誰への謝罪か。



「諦め給え」



 それは、誰への宣告か。





「裁きは此処に、救いは天に」





 その言葉を皮切りに、蒼い光が望を伝って赤ん坊を包み込む。眠る赤子を布で包む様にも、また死した赤子を火葬する様にも見えるその光景は、正しく『浄化』という言葉を体現していた。




「“オーラフォトンレイジ”」




 その言葉を告げると共に、蒼い光が虹色へと分解され、白へと至り散滅する。望の降ろした両手に乗っていたのは、黒ずみ、腐食し、罅割れた、辛うじて骨であると認識出来る物体だけであった。

「……ノゾム………」

 いつの間にか、レーメが背後に立っている。望は気にした風も無く、誰にともなく独白した。



「…………重いなぁ…」



「………っ」

 息を、飲む事しかできない。

「こんなに小さいのに……こんなに軽いのに…なんで持ち切れないんだろうなぁ…」

 答えるだけの舌は持たず、ただ、無言。しかしそれでも、レーメは己に為せる事を準備する。

「……女々しいって笑われても、人間臭いって蔑まれても、これだけは変えらんねぇ……な………」



 笑っている、筈なのに。

 堪えている、筈なのに。

 レーメにはその表情が見ていられなかった。





「…神の山にて音色識る」





 答えにならないと理解しつつも、レーメがその言葉を紡ぐ。レーメの掌から溢れるその輝きが、黒ずんだ骨に降り注いだ。





「汝に天への導きを………“セレスティアリー”」





 パッとした光が望の手から弾け、骨が融ける様に消え失せた。少し眼を見開く望に、ゆっくりと歩いて来たナルカナが声を掛ける。

「…この魂に、憐れみを。か………なーんか、シリアス入っちゃってるわねぇ…」

 気怠そうに告げた瞳は、それでも目の前の光景に間違い無く揺れている。それを知っているからこそ、望もレーメも、一言も言葉を発しようとはしなかった。





――――キィ……ン――





「「「…!?」」」

 突然、目の前の空間が揺らぐ。ビキビキと空間を侵食し、空気が結晶化していく。

 知っている、この現象は――!






―――パキィン――!






 ……パーマネントウィルの、顕現。そこに産まれた新たなる神秘を、望は思わず手に取っていた。

「……ッ…!!!!」


 流れ込む、光景。


 この神秘が、神秘へと至るに辿ったルーツ。


 望まれなかった命。


 棄てられた未来。


 愛を識る、樹木。


 生の喜び、死の概念。


 そこに転がり込んだ、些細な切欠。


 そして、



「……ぁ…」



 最後に告げられる。


「………あ…ぁ……」



 産まれたての神秘の、


「……ぅあ…あぁぁ………」



 その名前。







『快楽主義者の功罪』








「うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」




 慟哭。



 ただ、嘆き。



 レーメとナルカナは、その背中を見つめる事しかできない。
 そのイメージはナルカナ達にも伝わって来ていた。しかし、悲しみの矢面に立っていたのは何時だって望だ。自分たちには、その思いを想像することしか許されない。
 その想いを、その慟哭を、理解しようとは思わない。望にとっての最大の救いは、何時だって変わらぬ自分達の懐だから。

 だから、

「……ま、死が何か知らないだけ…幸せだったんじゃない?」

 だから、

「愚か者……幸せな死など、存在する訳が無かろう…」



 だから、どうか……この涙だけは、望に知られませんように。



 何時しか結界は失われ、大粒の雨が望達を叩く。

 だが、今はこれで良いのだろう。



 いま、この瞬間だけは…………。



ちょっと悲しい結末か。
美姫 「それでも、他に方法がある訳じゃないしね」
これは流石になのはたちには言えないかもな。
美姫 「かもね。まあ、兎も角は回収はできたって事で」
だな。さて、望たちの方もこれで終わりかな。
美姫 「なのはたちと合流しないといけないわね」
さて、次回はどんな話になるのかな。
美姫 「次回も待ってますね〜」
待ってます。



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