第14話 ファーストコンタクト

 

 夕食後、優斗は自室に戻って愛用の剣を取り出すと、いつもより若干念入りに磨いた。

 冷たいほどに鋭い光沢を放つ刃は妖魔の力を帯びた金属を鍛えた妖刀である。

 蓉子は確かに危険なこと、例えば犯人を誘き出すようなことはしなくていいと言った。

 そもそも、邪気の主が通り魔であるかどうかもまだ確認されていないのだ。

 優斗はとにかく、自分の生活圏の安全を確保するための努力をするだけである。

 佐藤かおりは今夜もその場所を訪れていた。

「ここにはもう近づくな。昨日、そう言わなかったか」

 優斗が近づいて声を掛けると、彼女は顔を上げてキッと彼を睨んだ。

「言ったわ。でも、それだけじゃ納得出来ない。ちゃんと訳を話してよ」

「それも昨日言ったじゃないか」

「危険だから? そんなこと百も承知よ。それに、だったらどうして草薙君はここにいるの」

 強い口調で問い詰められて、優斗は一瞬言葉に詰まった。

「それは、君が多分まだ諦めていないだろうと思ったからだ」

「わたしのこと、心配して来てくれたの?」

「ま、まあな」

 優斗は嘘をついた。本当は単にここも巡回コースに入っているというだけのことである。

 しかし、そのあたりの事情を彼女に説明するわけにもいかず、優斗はそう言うしかなかった。

「ありがと。でも、わたしは止めない。せめて、相手の姿を確かめるまでは止められないわ」

「どうしてそんなに拘るんだ」

「それは……」

 今度はかおりが言葉に詰まる番だった。話すべきかどうか思案しているようだ。

 優斗は辛抱強く彼女が口を開くのを待った。

 とにかく、それを聞かないことには話が先に進まないと思ったのだ。

 だが、そんな彼の考えなどお構いなしに事態はまた動き出す。

 瞬間、感じて優斗は諦めたように口を開きかけた彼女の言葉を手で制していた。

 ……聞こえる。高く、鋭く、鼓膜の奥にまで響く、音……。

 光が急速に闇に呑まれていった。

 昨夜のそれとまったく同じ現象。

 訪れた漆黒の闇の中で優斗は密かに呼び寄せた妖刀の柄に手を掛ける。

 感じるのは慌てたようなかおりの気配とそして、もう一つ。

 それはあの邪気だった。微かにだがはっきりと伝わってくる。

 すべては一瞬で決まるはずだった。

 たった一つのタイミングを見計らい、優斗は素早く剣を抜き放つ。……だが。

 刹那、衝撃は押し寄せる波のように圧倒的なプレッシャーを伴ってやってきた。

「くっ」

 危うく手を離しそうになるのを堪え、優斗は闇に刃を一閃させた。

 手ごたえは、ない。だが、それ以上の追撃もなかった。

 大気が急速に軽さを取り戻し、邪気も虚空に散って消える。

 優斗は剣を地面に突き立てて荒い息を吐いていた。

 かおりは息を呑んでただ呆然とその姿を見ていることしか出来なかった。

 ―――――――

 赤い染みが点々と闇の奥へと続いていた。

 一目でそれと判る鮮やかな赤。それを流した負傷者は今はもうこの場にいない。

 現場には微かに残った衝突の気配を見据えるように、男が一人立っていた。

 街灯の明りから僅かに外れたその姿は黒衣の内にあって、他者の目には判然としない。

 にも関わらず、少女の瞳にははっきりとその男の姿が映っていた。

 少女の視線は冷たく、まるで男がそこにいることを批難しているかのようだった。

「何か言いたそうだな」

「…………」

「言いたいことがあるのならば、はっきりと言えばいい」

 男の言葉に少女の視線が鋭さを増す。

「どうして止めさせなかったのですか?」

「あの薮は下手につつくと蛇が出そうだった。わたしは蛇は苦手だ」

「面倒はご免蒙りたいとそうおっしゃりたいのですね」

「これでも最善を尽くしているつもりだ。わたしとて余計な仕事を増やしたくはないからな」

「…………」

 再び沈黙する少女。男はやれやれと肩を竦めた。

 この男にしては珍しく人間らしい態度だが、それも今の少女には反感を煽るものでしかない。

「彼に任せる。そう言ったのは君ではなかったか」

「それは、そうですが……」

「現状を目の当たりにして不安になったか。だが、君に彼女の前に立つ覚悟があるのか?」

「…………」

「心配するなとは言わんが、少しは信じたらどうだ。あいつはそれほど頼りない男でもないぞ」

 あまり声に抑揚はないが、これでも励ましているつもりなのだろう。

 男にそう言われて、少女は彼が去っていったと思われる方角へと目を向ける。

 ……本当にそうだといいんですけど。

 どこか疲れているような彼の顔を思い出し、少女は思わず苦笑してしまった。




 ―――あとがき。

龍一「半妖、草薙優斗。その神速の抜刀は大気さえ敵を切り裂く刃と化す」

蓉子「結局、取り逃がしちゃったみたいだけどね」

龍一「……………」

蓉子「な、何よ」

龍一「おまえ、前回のあとがきで自分が何をしたか覚えているか?」

蓉子「えっと、確か…………」

 ――回想中

蓉子「すべての力の源よ。輝き揺れる赤き炎よ!」

 ―――――

蓉子「あたしがファイヤーボールの呪文を唱えて」

 ―――――――

どごぉぉぉぉぉぉんっ!

龍一「う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

蓉子「龍一が吹き飛んだ」

 ――回想終わり。

蓉子「って、あれ?」

龍一「さ、再現しないで…………ばたん」

蓉子「はっ、あたしとしたことがついうっかりと」

作者が倒れてしまったので今回はここまで。

蓉子「さぁてと、早く帰って水着の用意しなくっちゃ。では、また次回で〜」




水着の用意!?
美姫 「何で、そこに反応するかな?」
ふっ。悲しい男の性だ。
美姫 「さがって、九州にある」
それは佐賀って、バカな事は置いておいて。
逃がしちゃったな。
美姫 「逃がしちゃったわね。果たして、どうなるのかしら」
そして、最後に出てきた人物は…。
美姫 「多分…」
う〜ん、正解なのか、違うのか。
美姫 「それらも含めて次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回、まだかな〜。
美姫 「はいはい、少しは落ち着きなさい」
へ〜い。
美姫 「それじゃあ、次回もお待ちしてますね」
ではでは。



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