プロローグ

 

 ――世界に広がる紅い波紋……。

 それがわたしの見た最初の夢だった。

 ……秋の夕暮れを思わせる鮮やかな赤。

 それと対を成すように淡々と揺らめく緋色の炎は、まるでわたしの生き様を映しているようだった。

 炎は血を糧に燃えている。

 人もそうでないものも等しくそれの前では無力……。

 故に誰もそれに近づこうとはしない。

 同じように絶対者とされる青とは凡そ正反対の、孤独な存在。

 わたしも青として生まれていたのなら、もっと違った生き方が出来たのだろうか。

 本当に最後になってふとそんなことを思う。

 そんなわたしの目の前で炎は揺らぎ、はじけた。

 ―――――――

  ――早朝。

 普段は自宅の庭で鍛錬をしているその時間に、草薙優斗は氷上神社の境内にいた。

 変幻自在の妖刀・蒼牙を二刀の小太刀とし、腰の左右に挿している。

 彼が愛刀にその姿を取らせるとき、振るわれる流派は一つしかない。

 そして、それに対する巫女装束の少女、佐藤かおりもまた両手に小太刀を構えて立っていた。

 二人の間の距離は僅か数メートル。

 痛いほどに張り詰めた空気の中、先に動いたのはかおりだった。

 一気に踏み込んで左の小太刀を一閃する。

 それを優斗は右の小太刀を抜いて受け止めた。

 そこへかおりが右からもう一本の小太刀を突き入れる。

 優斗はそれを軽く後ろへ跳んでかわすと左の小太刀も抜いて迎撃の構えを取った。

 そのまま何度か打ち合って、再び離れる。

「中々良い動きをするようになってきたな。だが、剣の腕だけじゃこの流派は極められないぞ」

「……わ、わかってるわ」

 感心したようにそう言う優斗に、かおりは軽く息を整えつつそう答える。

「じゃあ、そろそろ本番といこうか」

「……はい」

 その言葉とともに優斗の顔から表情が消えた。

 同時に周囲の気温が一気に下がったような錯覚を覚え、かおりは思わず小さく身震いする。

「じゃあ、行くぞ」

 そう言って優斗は一度小太刀を2本とも鞘に納めると、そっと両手をその柄に添えた。

 かおりも一度だけ目にし、そして、使ったことのある破邪真空流奥義の一つ。

 その実体は時、空、心、体の4つの側面から相手を切る抜刀からの4連撃だ。

 そして、それに対抗し得る唯一の技、それは……。

 かおりは左の小太刀を納めると、右の一刀だけを胸の高さまで持ち上げ、刺突の構えを取る。

 チャンスは4つの斬撃が重なるその一瞬のみ。外せば確実に、死ぬ。

 かおりは目を閉じ、自身の霊力を高めていく。

 優斗が動いた。

 両手を柄に添えたまま駆け出し、そして……。

 ――破邪真空流奥義之四・絶刀――。

 圧倒的なプレッシャーを伴って4つの刃がかおりへと迫る。

 普通に剣で防げるのは体を切り裂く最後の一撃。

 それに先の3つが重なる瞬間を見極められなければこちらが負ける。

 ……見えた!

 かおりは目を見開くと、その一点を目掛けて全力で突きを繰り出した。

 ――破邪真空流、裏奥義之三・極壊――。

 ぎぃぃぃぃんっ!

 金属同士がぶつかり合う鋭い音が早朝の境内に響き渡る。

 気がつくと、かおりは石畳の上に倒れていた。

「大丈夫か?」

「えっと、……とりあえずは平気みたい」

 優斗の問いに、ざっと全身を確かめてそう答える。

「そうか。なら、今日の鍛錬はこれで終わりにしよう。ちょうど頃合だしな」

「はい。ありがとうございました」

 立ち上がって姿勢を正すと、かおりはそう言って頭を下げた。

 少し前にお互いが同じ流派を使うことを知った二人はこうして時々手合わせをしている。

 実際はまだ未熟なかおりが達人級の腕を持つ優斗に鍛えてもらっているというのが正しい。

 その実力差は歴然で、今も少し本気を出されただけで彼女はあっさり負けてしまった。

「しかし、手加減したとはいえ、まさか模造刀であれを防がれるとは思わなかったぞ」

「偶々、極壊が上手くいったからよ。でなきゃ、今頃立ってないって」

 まだ痺れの残る腕を振りつつ、かおりは照れたように笑う。

「あまり無茶はするなよ。君のその体はまだ完全に治ったわけじゃないんだからな」

「うん。ありがとう……」

 そう言って俯くかおりに、優斗はまずかったかなと思いつつとりあえずタオルを渡す。

「あまりじっとしていても体が冷える。そろそろ帰るとしよう」

「それもそうね。じゃあ、わたし着替えてくるから」

「ああ」

「覗かないでよ」

「バカ言ってないでさっさと行ってこい」

 照れ隠しにかおりの頭を軽く小突くと、彼女は小さく悲鳴を上げながら駆けていった。

 その背中を見送りつつ、優斗は背後に佇む気配へと声を掛ける。

「で、いつまでそこにいるつもりなんだ?」

「ふっ、やはり気づいていたか」

 そう言って姿を現したのは全身黒ずくめの男、綾崎刀夜だった。

「相変わらず人間離れしているな。青眼者などと呼ばれているだけのことはあるということか」

「皮肉はいい。用件だけ言え」

「ふむ。愛しい妹の巫女服姿を観賞していたというのではダメか」

 真顔でそう言ってくる刀夜に、優斗は疲れたように肩を竦める。

「まあいいさ。それで、例の件はどうなってる?」

「今のところ特に進展はない。一部の魍魎どもの動きが活発になってきてはいるがな」

「祭りが近いからだろ。ミタマクライが集ってくるのはいつものことさ」

「うむ。それで、そちらの対応は頼んでもいいのだな」

「それこそ毎年のことだからな。俺も祭りを邪魔されるのは面白くない」

「了解した」

 そう言って一つ頷くと、刀夜は傍らの木陰に溶け消えた。

 そんな芸当が出来るあたり、彼も十分人間離れしていると言えるだろう。

 ……さて、いろいろ動き回ってるみたいだが、俺はどうするかな。

 不穏な空気を感じつつ、優斗はとりあえず自分の日常へと戻ることにする。

 ――季節は秋。

 熱く燃える陽の気が冷たい陰に飲まれる前のこの時期に、紡がれる物語は激しくもどこか物悲しい。

 彼にとって、それは忘れることの出来ない季節の始まりだった。




 ―――あとがき。

龍一「というわけで、愛憎のファミリア2〜夢魔の岸辺・晩秋の紅〜、ここに開幕です!」

優奈「季節は秋。激しくもせつない恋の季節」

龍一「何かと紅いこの季節。物語においてもその色は様々な意味を持つことに」

優奈「わたしと優斗さんの関係も熱く燃え上がります(真っ赤)」

龍一「美里や蓉子の恥ずかしいシーンとかもあったりして……うぎゃっ!?

蓉子「何ですって!?

美里「きゃあきゃあ!」

どか、げし、ばたん、……。

優奈「ええっと、何やら大変なことになってまいりましたので今回はこのあたりで失礼させていただきます」

ではでは。

 




遂に始まった第二部。
美姫 「早速、何かが起こるみたいね」
それは兎も角、蓉子の恥ずかしいシーンはいつになるのか!
美姫 「そっちなの!? 祭りじゃなくて、そっちに反応するの!?」
あはははは〜。冗談だよ。
だから、その剣をノケテクダサイ。
美姫 「はぁ〜、何か、いきなり疲れたわ」
何、それは大変だ。
早く穴を掘って埋めないと……あわわわ、じゃなくて、布団を引いて寝かせないと。
美姫 「ううん、もうばっちり元気よ♪」
そ、そうか、それは良かったな。
でも、何で殺気が出てるんだろうな…(汗)
美姫 「何でかしらね」
あ、あははは、何でだろうね。
美姫 「それはね……」
…………。
美姫 「アンタをぶっ飛ばすためよ! 飛んじゃえー!」
にゅぎゅりょみょにょぴょぉぉぉ〜〜〜〜!!
やっぱり〜〜〜〜〜〜〜〜!
美姫 「はぁ〜。っと、それじゃあ、次回も楽しみにしてますね」



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