空と翼の軌跡

LOCUS OF 17

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼する」

 

 ノックをして返ってきた返事を聞き、ユリアはルーアンの医療施設の病室に入る。

 部屋の中には彼女の敬愛する女王陛下の孫娘と、

 その孫娘を護るよう依頼した遊撃士の青年がベッドに包帯を巻かれた姿でベッドに横たわっている。

 

「ユリアさん……っ」

「ああ、だ、ダメです、動いちゃ!」

「何をしている。いいから静かに寝ているんだ」

「……すいません」

 

 わざわざ体を起こしてユリアの来訪に応えようとした青年――恭也だが、

 痛む体に顔を顰め、すぐにクローゼに止められて再び横になる。

 聞いた話では魔獣の突撃を止め、クローゼを護って自身はその爪で切りつけられた上に吹き飛ばされ、壁に激突したという。

 

「肋骨にひびくらいは確実に入っているだろうと。

 あとは爪を受け止めようとしたみたいですけど、さすがにアーツをかける余裕もなくて、片腕で受けたので……」

「魔法の補助もなしにあの魔獣の爪を受け止めたとあれば、如何に鍛えていようと人の腕の骨など折れるでしょうね」

 

 よくもまあその程度で済んだものだとユリアは呆れか驚きか、はたまたその両方かで肩を竦めた。

 恭也たちの倒した魔獣は軍の方で拘束されているし、ユリアもその魔獣を一目程度だが見ている。

 ただまともに受け止めたわけではなく、咄嗟に身を後ろに投げて衝撃を緩和したのが幸いして折れはしなかったようだ。

 他には爪による引っかき傷が胸と足に。あと背中を壁にぶつけたための打撲も。

 

「傷だらけの帰還だな」

「面目ありません……」

 

 責めたわけではないのだが、恭也は俯いて苦々しげな顔を浮かべた。

 魔獣の件は良かったのだ。ちゃんとエステルとヨシュアとの連携もあって倒し、結果的にクローゼを護ることはできている。

 ただその後のことが問題で。

 

「仕方ないことだ。古代遺物(アーティファクト)を使われるなど、そうそう予想できるわけがない」

 

 油断していようといまいと、それはどうにもできなかったことだ。

 しかし恭也にはそれを理由とする気はないようだった。

 如何に古代遺物によって動きを封じられ、どうにもできない事態であったとは言え、

 そもそもにしてそこにクローゼがいなければあんな命の危険が及ぶことはなかった。

 つまり、最初からクローゼを連れて行くことをよしとしなければよかったのだと。

 

「キョウヤさん、それは私が望んだことで……!」

「そこに油断がありました。1度行動を共にすることを許したからと、それからはロクに止めもしなくなってしまって……」

 

 なあなあでそのままクローゼを危険な場所に同行させてしまったと。

 

「殿下がお望みになられたことを全て無視するというのは、護衛としてどうかと思うが?」

「ええ。ですが必要な時にまで止めもせず、拒否の態度を取らない護衛というのも失格ではないですか?」

 

 柔軟にいくべき時と、心を鬼にしてでも毅然として拒否するべき時。

 護衛とは、危険から護る前にまず護衛対象者を危険から遠ざけることが重要である。

 戦って護るだけが護衛する人間の仕事ではなく、先を予測し、

 あらかじめその危険を排除するなり回避するなりする方策を臨機応変に考慮し、実行することが先なのである。

 レイヴンを相手とする時は確かに実力的にその場でもクローゼを護ることもできるとわかっていたし、

 あれはクローゼにとって剣を取るべき時だという、信念のようなものがあったから、仕方ないかもしれない。

 だがそれと今回では、危険の度合いが違う。

 

「魔獣を出してくるとまで想像はいきませんでしたが、ダルモア市長が抵抗することくらいは想像がいきました」

 

 少なからず追い込まれた人間は何をするかわからないことくらい、恭也は経験則からもわかっていたから。

 なのに同行させてしまった。

 

「……確かに、その点では君は甘かったな」

「ユリアさん!」

「殿下。これは事実なのです。事実を真摯に受け止めることは重要かと思います」

「……それはそうですけど……」

 

 恭也にしてみれば、他の世界から来ましたなどと、どう考えても頭のおかしい不審者扱いされていいところを、

 話をちゃんと聞いていちおうだろうと信用し、自由を保障するために自身の保証人にまでなった上、

 自身の腕と護ることへの考えを信頼してクローゼの護衛という重大任務を任せてくれた恩人の信頼を無駄にしたようなもの。

 

「もしこれで殿下の身に一生ものの傷ができ、果ては命を失うようなことがあれば、

 それは殿下のみならず、女王陛下、ひいてはリベール王家と国家全てにおける、取り返しようがない悲劇」

 

 クローゼの身分――リベール王国元首たるアリシア女王の孫娘である、クローディア・フォン・アウスレーゼ王女。

 彼女が望むと望まざるとに係わらず、その命、その体、その存在には常にこのリベール王国と王家の名が付き纏う。

 そんな彼女が命に係わる事件に遭遇し、今こうして無事に五体満足傷なしであるのは――――『偶然』である。

 

「すでに気絶していた間のことは聞きました。明らかに……助かったのは偶然であったとしか言えません」

「「…………」」

 

 そこにクローゼもユリアも異論はなく、異論など挟ませない絶対の事実。

 

 

 

 

 

「如何なる処分も覚悟しています。ただ1つ……協会とエステル・ヨシュアのことは、大目に見てもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 今回の仕事は恭也がユリアから請け負ったものではあるが、遊撃士としての恭也に依頼されたという側面もあり、

 それはつまり、遊撃士協会が仕事を任されたとも言える。

 恭也の失態は所属する組織の責任でもある。

 甘いとは恭也も理解している。協会の信用や王家との関係にも影響があるだろう。

 だからせめて、エステルとヨシュアにだけはと。

 

「……あの、ユリアさん。私からもお願いします。今回は私が無理を言ったということもあるんです。だから……」

「殿下。将来この国を背負うかもしれない貴女が、易々と頭を下げてはなりません」

「わかっています。ですが今は迷惑をかけた1人にすぎません。

 そして王女なら、自国の民に迷惑をかけておきながら、その責任を民にのみ押し付けるのは王家の者として失格だと思います」

 

 クローゼにとって王家に連なる者としての誇りや在り方も『人』の上に成り立つものであり、

 『人』としての礼儀を弁えない者が人の上に立つなど論外であるというのが持論だ。

 

「……そうですね。殿下ももう少し御身の立場というものを考えた行動を取って頂きたいところです」

 

 かねてから申し上げておりますが、とユリアはクローゼの方は見ず、目を閉じて前を向いたまま少し厳しい口調で付け加えた。

 

「殿下が仰られたこともあります。協会とエステル・ブライト及びヨシュア・ブライト両準遊撃士への責任は問いません」

「ユリアさん……!」

「ただし」

 

 クローゼは目を逸らすことなくユリアを見ていた顔を綻ばせ、恭也も僅かながらよかったと肩を落としたところに、

 ユリアは個の私情はさておき、1人の王国軍人として言わなければならないとして続ける。

 

 

 

 

 

「キョウヤ・タカマチ準遊撃士には、以降の殿下の護衛から降りてもらいます」

 

 

 

 

 

 キョウヤは特に反応を示さず、ただ一言「わかりました」と受け入れた。

 クローゼは何かを言いかけるものの、これだけはユリアも譲らないという姿と、

 それですら良かった方なのだと思い至り、踏み出しかけた足を留めた。

 今回のことで、クローゼが係わったということのみならず、現場で危険な目に遭ったことは軍の耳にもどうしても入るだろう。

 なのに何のお咎めもなしでは問題視されることは絶対。

 まだ問題はある。

 恭也1人を処分したところで、協会と軍の関係が悪くなることは必然に近いのだが……

 

「また責任はキョウヤ・タカマチ準遊撃士に護衛を依頼した私にもあります。当然、私も責任を取らせて頂きます」

「それは――」

「君の反論は却下する」

「…………」

 

 ユリアが悪かったとすることで、軍としては協会を責めることはできないことになる。

 頼んだのは軍の人間であるユリアだということになるからだ。

『協会にも軍にも非があった』――名目だろうとそういう形にすれば、今後の協会と軍の関係への影響も少しは抑えられる。

 

「あと殿下もご自分で責任があると仰られた以上、その言葉を実行して頂かねば」

「もちろんです」

「では殿下への処分ですが……」

 

 クローゼは階級や立場など忘れ、直立して目を閉じ、判決を従順に待つ者のようにユリアの宣告を待った。

 

 

 

 

 

「女王陛下と私、キョウヤ――ああ、あとヒルダ夫人からたっぷりとお叱りを受けて頂きましょう」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 あまりに突飛というかずれているというか、唖然とさせられる内容に、

 クローゼは目を開いて瞬かせ、少々混乱したように恭也とユリアに視線を往復させる。

 恭也も首を捻って「なぜ自分も?」と呟いているが、ユリアはと言えば少し2人の様子に笑いを堪え切れなかったのか、

 繕うために咳払いまでしている。

 

「さすがに殿下の処分を公に知られるわけには参りません。それでは殿下がルーアンにいるとばれてしまいますから」

 

 今回の事件は、公にはクローゼの存在はなかったという方がいいのだ。

 裏を返せば、それはクローゼの手柄もまた知られないままということになってしまうが、

 別にクローゼはそんなものにこだわりなどないから構わない。

 

「それに殿下は何も違法な行為を働いたわけでもありませんし、むしろルーアンのために行動されたわけですから。

 ただし女王陛下も私もキョウヤも多分に殿下には引っかき回されましたので、少々おいたが過ぎる殿下には、と」

「……うう」

 

 縮こまるしかないクローゼである。

 

「キョウヤ。ここから先は王国軍人ではなく、1人の人間として言わせてもらうが、

 結果的に殿下に傷はないし、無傷で護りきったということに違いはない。

 それはそれで1つの手柄ではある」

「俺1人ではなく、エステルとヨシュアがいたからこそです」

「わかっているよ。それでも1人の人間として、殿下の友人として礼を言おう。

 殿下も今回のことでご自分の立場を明確に意識されたことはその言葉から受け取れたし、それもまたこちらとしては助かるのでね。

 今まで何度同じことを言ってきたか……」

「ご、ごめんなさい……」

「謝れば済むものではありません、殿下」

「はい……」

「あと、キョウヤ。今回の件に関しては君1人が責任を負わなければならないわけじゃない。そこを忘れてはいけない」

 

 エステルとヨシュアからはすでに取り調べのために話を聞いていた。

 そこでちゃんと今回の事件において学園祭が終わった後からの経緯も知っているし、

 キョウヤとクローゼは一旦別れて行動したことも知っている。

 そして再び会ったのがすでにクローゼたちが市長邸に乗り込んでいた後なので、

 恭也にはその間、クローゼを行かせないよう止めることはできなかったわけだ。

 

「ですがその間、俺は護衛の仕事を他に任せていたということになるわけで、それはそれで問題視されても仕方ないかと思いますが?」

「そうだな。君はエステル君とヨシュア君に殿下を託したわけだ。君は信用できるからこそ託したのだろう?」

「もちろんです」

 

 最初はクローゼをちゃんと遠ざけようとしたし、エステルとヨシュアなら大丈夫だろうと思って託した。

 だから恭也がエステルとヨシュアにクローゼ護衛を託したことになるわけで、そこからはエステルとヨシュアにも責任がかかる。

 

「殿下の護衛を何も放り出したわけではないし、君は遊撃士として素早く何を為すのが一番かを考えてそうした。

 殿下の望みを聞き入れ、信用できる相手に託して。

 決して殿下護衛の任を投げ出したわけではないのだから、そこにまでいらない責任を感じる必要はない」

 

 エステルとヨシュアはクローゼを王女であると知らないわけだが、ユリアは彼らに会ってみて、

 彼らがクローゼは王女だからと知っていたら、今回の事件から遠ざけようとしたかを考えた。

 だが彼らはきっとそうしないだろうと思わされる。

 特別視せず、1人の民間人として、友人としてクローゼを見て、そして結局連れて行くのではないだろうかと。

 ならば今回連れて行ったのと変わりはしない。

 

「それに、殿下は常々特別視されることを嫌っていらっしゃるし、確かにその点からすれば今回の件も、

 殿下を1人の民間人として扱ったわけだから、王国軍人としては色々言いたいが、

 殿下のお気持ちを知っている友人としては特にないな」

 

 ユリアとていつも口やかましく言っているが、クローゼの意見を決して無視したいわけではないのだ。

 

「エステル君とヨシュア君も何度か止めたそうだが、行くと言って聞かなかったのは殿下だろうからな」

「……その通りです」

「止めきれなかった君たち、そして忠告を聞かなかった殿下。双方共に非があるわけだ。

 殿下が仰った通り、君たちだけに責任を問うのもおかしい話だからな。今回はこれでいいだろう」

 

 この話はこれで終わりです、とユリアは話を切り上げ、そろそろまた王都の方へ戻らなければならないと続けた。

 さすがにこれ以上いると、親衛隊がどうしてこんな所に来たのかと問われかねないし、王都での仕事だってある。

 ただ少しだけ、またいくらか時が経てば女王生誕祭があるし、その際にクローゼは当然王城へと帰省する。

 そのことで少しだけ話し、今度こそユリアは踵を返した。

 

「ではな。しっかり静養するように」

「わざわざすいません」

「気にするな。それでは殿下、失礼いたします」

「本当にありがとうございました。それと、ごめんなさい」

「私にはもう謝られる必要はありません。ただし、次に王城へお帰りの際は女王陛下とヒルダ夫人からのお叱りにお覚悟を」

「ううう……わ、わかりました」

「ふふ。それでは」

 

 立場を超えた友人としての笑みを浮かべた後、再び1人の軍人として敬礼をして部屋を出ていくユリア。

 見送らないのかと恭也は言ったが、「意地悪なユリアさんなんか知りません」と返し、

 先ほどのように無理をしそうな恭也のそばにいることにするクローゼである。

 

「キョウヤさん、本当に今回はごめんなさい」

「もう何度も謝られているが……俺は気にしていない。むしろ俺こそ護りきれたと言えず、すまないと思っている」

 

 痛々しい恭也の包帯姿を見れば見るほど、やはり自分を護るために無茶をさせてしまったと思うクローゼだが、

 恭也は彼女に自分を責めてほしくはない。

 それよりも、自分を誇ってほしかった。

 

「先ほどユリアさんにはああ言ったが、俺がクローゼと一緒にずっと行動していたところで、おそらく連れて行ったと思う」

 

 レイヴンの時とは危険の度合いが違うことに間違いない。

 それでもクローゼが剣を抜くべき時として立ち向かっていくと決めていたのだから、それを止めることはできたかわからない。

 

――――王女として民のために。

 

――――クローゼという優しい女の子としてテレサ院長やクラムたちのために。

 

――――1人の人間としてルーアンの街と人々のために。

 

 強い思いで動いていたクローゼ。それを止めるのは、果たしていいのか悪いのか。

 それはきっと人によることだろう。

 

「だから俺は、連れて行ってしまうと思う」

「…………」

「以前言ったが、俺やユリアさんはクローゼや女王陛下ができることをしようとするのを妨害しようと、

 ねじ伏せようとする相手から護る立場の人間だ。

 それが俺やユリアさんにできることだからな」

 

 今回、クローゼは自分にできることをしようとした。

 ならばそれを全力で援護するのが恭也やユリアの立場であるとも言える。

 それを妨害しようとする敵、立ち塞がる敵から護るのが、恭也の仕事。

 

「クローゼを危険から遠ざけることも必要だ。

 ただ、時にクローゼにも危険な場所に赴いてでも為さなければならないことがあるはず」

 

 安全な場所、暖かい場所にいるだけではダメなことなんて多々ある。

 歴史上でも勇敢な王が前線で自ら兵を指揮して兵を鼓舞した例も多いように。

 

「クローゼ、今回のことは君にとって絶対に引けなかったんだろう?」

 

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 テレサ院長やクラムたちのために。ルーアンの街と人々のために。

 力強く、迷うことなく答えたクローゼに、恭也は満足して頷いた。

 

「絶対に引けない気持ちがあるなら、それを押し留めることは俺にはできないな。

 クローゼが行くと決めて覚悟だって持っていると言うなら、

 俺にできることはそんなクローゼをどこまでも援護し、護りぬくことだ」

「キョウヤさん……」

 

 それが恭也にとっての『護る』ことであるから。

 その結果、クローゼを護りきれたなら、自分がクローゼの護衛から外されようと如何なる処分を受けようと、

 自分と自分の『護る』という信念には誠実にいられたことになる。

 

「……キョウヤさんの体、初めて見ましたけど」

 

 気絶した恭也をこの医療施設に運び、手術とまではいかなかったが治療をしている最中、クローゼは彼の体を初めて目にした。

 傷だらけの体を。

 ほとんどは鍛錬でついてしまったもので、実戦でつけられた傷は少ないようだが、どちらだろうがクローゼにはどうでもいい。

 

「これだけ傷を負ってもですか?」

「ああ」

 

 心配させたいわけではないが、やはり傷はついてしまう。

 見ていて気持ちのいいものではないだろうと自嘲のような笑みを見せる恭也だが、クローゼは静かに首を横に振った。

 確かに傷は痛々しいし、ないことに越したことはないが、

 恭也の言葉には「気持ち悪くて引くだろう」というニュアンスがあったことをクローゼは決して逃さず、

 それに対してクローゼは否定したのだ。

 

「気持ちよくはないです。キョウヤさんが傷つくのを見て、気持ちよくなんて思いません」

「…………」

「でも気味悪がったり引いたりなんてこともありません」

 

 これだけ『護る』に対して誠実に、忠実にある人を、そして自分を護ってくれた人にそんな態度など取れようはずがない。

 クローゼはまだ自分が時期女王に相応しいなんて思えない。

 でも以前恭也から言われて逃げ続けることだけはやめて、前をしっかり向こうとしている。

 だからその意味でも、危険と向き合って、戦い続けている恭也は目標とできる人間だ。

 そんな人が自分を護って傷ついて、だから気味悪がって引くなどとんでもない。

 

「ありがとうございました」

「……どういたしまして」

「私のせいでまた傷が増えちゃいましたよ?」

「クローゼを護ってのものならば名誉の負傷だ」

 

 言ってからなんてくさい台詞だと、恭也はクローゼから赤くなった顔を背ける。

 言われた方も視線を彷徨わせてどう答えればいいのかで悩む。

 

「まあ、なんだ……クローゼの護衛を外されるのは少々寂しいというか残念というか……とにかくそういう気はするんだがな」

「あの、えっと……わ、私も同じ、です」

「…………」

「…………」

 

 いい雰囲気と言えばいいのか、しかし当人たちは自身の言葉にすら動転している始末で、いいも何もないのだが。

 少なくとも彼らには早く何か言わないと場の空気が悪くなると焦って、しかし何も言えばいいのかまるでわからずで、

 もう居心地が悪い。

 そこに助け舟はやってくるものなのか、

 もしかしたらお邪魔虫と言うべきなのか――少なくとも2人には助け舟だろうが――ドタバタと誰かが走ってくる足音。

 

「お兄ちゃん! 怪我したって大丈夫!?」

 

 ティータだった。

 大慌てでやってきたのか息も絶え絶えにノックすら忘れて入ってくる。

 

「あ、ああ、ティータか」

 

 ティータは僅かに顔を傾げる。

 いつも冷静で静かな恭也が妙に何度も咳払いをしているし、

 同じクローゼがはわはわと顔を動かして微妙に引き攣った笑みを浮かべているのだから。

 しかしすぐに恭也の包帯姿に目をやって、怒っているような泣いているような顔をして恭也に駆け寄る。

 

「もう! 無茶はダメっていつも言ってるのに!」

 

 しばらくティータの説教が――なぜかクローゼも一緒になって謝っているが――続く中、

 窓の外、その青空には、陽光に真白の船体を煌かせて上昇していくアルセイユの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、エステルとヨシュアが恭也の病室にやってきた。

 恭也がこの体で入院しているため、彼の分も報告もエステルたちが引き受けたので、すぐに来られなかったということもあった。

 

「大丈夫ですか、怪我?」

「ああ。痛みはもうない」

 

 もちろんヘタに動かせば痛みがあるのは当たり前だが。

 

「にしてもクローゼに治療してもらったのに、まだこれだけ包帯巻いてギプスまで取れないなんて、よっぽどの怪我だったんですね」

 

 クローゼの戦術オーブメントは6つのスロットのうち、3つが水属性専用になっている。

 水は治癒魔法を扱う属性であり、また精神力を高め、アーツの威力を増す効果のあるクオーツが多く、

 それが3つもあるだけあってクローゼの治癒魔法の効果は非常に高い。

 

「効いてないはずがないんですけど……」

 

 クローゼも自信がある分野だけにちょっと現状には納得がいかないようだ。

 クローゼだけではなく、エステルもヨシュアもクローゼの腕は知っているだけあって少々疑問に思っている。

 

「私もお兄ちゃんに治療してあげたことあるけど、何かお兄ちゃんって傷の治りが遅いんだよね」

「放っておくことに比べれば充分早いのだがな」

 

 治療魔法でも治せない病気や怪我もあるにはあるが、体質の問題などはエステルたちも聞いたことがない。

 ただその点で恭也とクローゼとティータには思い当たる節があるのだが。

 

 

 

 

 

――――異世界から来ただけあって、この世界の人との体質に明らかに違いがあるのかもしれないということ。

 

 

 

 

 

「そうか。推薦状をもらったのか。おめでとう」

 

 クローゼとティータが顔を見合わせながらどうなんでしょうと話している間に、

 エステルとヨシュアが今回の件でルーアン支部から正遊撃士資格推薦状をもらえたことを話し、恭也が祝いの言葉を述べていた。

 クローゼとティータも続けて拍手――いちおう病室なので静かめに――を。

 エステルは「いや〜、それほどでも。ありがと〜」で、

 ヨシュアは「ありがとう。だけどキョウヤさんやクローゼの協力があったからだよ」と、やはり対照的な2人の反応。

 

「あ、あとこれ。キョウヤさんの分です」

「なに?」

 

 エステルが思い出したように懐から封筒を取り出した。確かに封筒の表に「正遊撃士資格推薦状」とある。

 

「シュヴァルツ中尉もその場にいらっしゃったんですけど、聞いておられなかったんですか?」

「ユリアさんが? いや、聞いていないが……」

 

 が、そこで思い至る。

 どのみち恭也がルーアンからいなくなるのなら、クローゼの護衛も終わりである。

 だが一緒に言ってしまえば、まるで恭也をクローゼ護衛任務から外すのがついでのようになって、罰としての意味合いが薄くなる。

 ユリアとしては、処罰を下した人間の口から推薦状が出されたなどと伝えれば、処罰しているのかどうなのかが問われかねない。

 形からちゃんとする。そういうことだろう。

 

「律儀なユリアさんらしい」

 

 クローゼと顔を見合わせて笑う。

 

「『ユリアさん』って2人とも呼んでるけど、親衛隊の人と知り合いなんですか?」

「あ、私は親のつてで知り合いになったんです」

 

 クローゼがどこか偉いところの娘なのだろうというのは、以前からエステルもヨシュアもわかっていたことなので、

 そういうことかと納得したような顔を浮かべた。

 わずかにヨシュアだけはまだ聞きたいことがあるという顔をしていたが。

 

(鋭いな、ヨシュアは。確かに、いくら親が親衛隊の人間だとしても娘のために王族護衛の部隊を動かすなど論外だからな)

 

 恭也はおそらくヨシュアが考えているだろうことを推測して、本当に見た目以上の鋭い思考を持っているヨシュアを見た。

 

「? 何ですか?」

「いや、何でもない」

「そうですか。ところでキョウヤさんはどういう関係で知り合ったんですか?」

「ん? 俺か。俺はちょっとした事件でユリアさんに厄介になってな。保証人になってもらってるんだ」

「保証人? なんかやらかしたんですか〜、キョウヤさん?」

「……その明らかに人をからかう目をやめろ、エステル」

「まあ、簡単に言いますと、ちょっとした家宅侵入をされまして」

「ク、クローゼ!?」

 

 正確には王城侵入だし、王城は政府官庁でもある。が、クローゼにしてみたら「実家」だから、家宅侵入と言えないこともない。

 

「キョウヤさんって元犯罪者!?」

「い、いや、待ってくれ! 故意にしたことではなく――」

「認めましたね?」

「話を聞け、ヨシュア。いいか、確かに俺は家宅侵入をしてしまったが、あれは不可抗力と言うべきであってだな……」

「で、何を盗もうとしたんですか? まさかお金がなくて食べ物を?」

「エステル、お前は俺をそういう目で見てたのか?」

「お兄ちゃん……?」

「ティータ、事情を知っているのになぜそんな目をする。頼むからやめてくれ」

「へえ〜、ティータは知ってるんだ? ねえねえ、ティータ。お姉ちゃんにも教えて〜」

「え、えっと……」

「ティータが喋れないようなことをしたんですね、キョウヤさん」

「……エステル、ヨシュア。ちょっと来い」

 

 そばに来いと、いつもふざけがすぎる美由希にやっていたように手招きしながら笑う恭也に、

 エステルとヨシュアもやりすぎたかと逆に離れつつ、笑ってごめんなさいと。

 

「まったく……」

 

 クローゼとティータにも半目で睨んでおく。

 憮然として4人の謝罪と宥めにも軽く無視するモードに入る恭也だが、いい大人がいつまでもそれではアレなので、

 そこそこにしてやめておく。

 

「ところでキョウヤさん。ちょっと聞きたいんですけどいいですか?」

「何だ?」

「市長邸での魔獣との戦闘ですけど……"あの動き"はいったい何ですか?」

 

 ちゃっかりとヨシュアは気づいていたらしい。

 そしてエステルも思い出したようにそれだそれだと言って身を乗り出して聞いてくる始末だ。

 

「アーツなんか使ってる暇なかったでしょうし、あのときにはもうすでにかけていたアーツの効果も消えていたはずです。

 いえ、アーツを使ってもあんな瞬間移動のような動きはできないと思いますが」

 

 ヨシュアにとってスピードは大事な武器だ。だからこそ尚更、恭也の"あの動き"――"神速"は気になって仕方がないのだろう。

 

「あれは俺の使う御神流の歩法の一種だ」

 

 カシウスにも聞かれるくらいだから、エステルもヨシュアも、いや、誰だって知りたくもなる。

 本来ならあまり口にすべき流派ではないのだが、この世界には御神流を知る者などいないはずだし、

 言ったところで命を狙われたり家族に危険が及んだりなんてことは、元の世界に比べればはるかに可能性としては低い。

 

「アーツで例えるなら、戦場全体が"クロックダウン"の影響下にある中で、

 俺だけ"シルフェンウィング"をかけて動いているようなものだ」

「その例えで"クロックアップ"ではなく、"シルフェンウィング"を使うということは、

 単なる高速移動というわけではない、ということですか?」

「よく気づいたな」

 

 物分かりのいい弟子に満足するように、恭也はヨシュアの質問に頷く。

 エステルやクローゼにはわかりにくいようだが、ヨシュアはスピードを武器にするだけあって拘りがあるためか、

 ただ速いか遅いかの一視点だけで『速さ』を捉えていない。

 実際、恭也も『神速』の世界では他人より速く動けると言っても、それはスライムの中を泳いでいるようなもの。

 純粋に体速が上がる"クロックアップ"に対し、"シルフェンウィング"は風の力で言わば強引に速度を押し上げている。

 力の加減を間違えば、以前恭也がアネラスとの模擬戦でついつい彼女のそばを通り過ぎてしまったようなことも起こる。

 それと同じことで、"神速"は極めて鋭敏になった知覚力に体を無理やり付いてこさせているわけで、

 だから使いすぎは体への大きな負担になる。

 恭也は身体ができていないうちから"神速"を使ってきたため、膝を壊してしまったと言えるわけだ。

 

「これは俺の切り札みたいなもので、流派自体、あまり公に口にするものではないので、これ以上は勘弁してくれ」

 

 結局例えを口にするだけで、恭也はヨシュアの質問を躱す。

 御神流のことを言ったところでこの世界の人間にはわからないし、見つけられるわけもないのだからとは言え、

 軽々しく流派の極意を話すのはまずい。

 

「やっぱり御神流なんて聞いたことないなあ……本当に恭也さんってどこの出身なんですか?」

 

 そうは聞かれても答えられない恭也である。答えたところでそうそう理解できないだろうが。

 

「う〜ん、教えてほしいなあ」

「1日そこらで身につけられるものじゃないぞ」

 

 

 

 

 

「まあ、どのみち明日にはあたしたちルーアンを出るから無理なんですけどね」

 

 

 

 

 

「え? エステルさんとヨシュアさん、もう次の町に行かれるんですか?」

 

 あまりにも突然な上、エステルの切り出し方までいきなりなので、クローゼは少々驚きを隠せないようだ。

 いくら推薦状をもらったからと言ってもすぐに準遊撃士は次の町に行かなくてはならないわけではないし、

 まるで追い出されるというか急き立てられるように旅立つというエステルとヨシュアに、

 恭也も「また唐突な」と言葉が出てしまう。

 

「すいません。けど、あたしたち推薦状をもらう以外にもちょっと目的があるので」

 

 エステルがヨシュアと、なにやら「あれを見せても大丈夫だよね」「いいと思うよ」などとひそひそと。

 そして彼女は持っていた小さなバッグから、箱を取り出して恭也たちの前で開けて見せた。

 

「何だ、これは?」

「あ、これ、あのときの……」

 

 恭也は気絶していたから知らないのだが、クローゼは当然、黒い半球上のそれを知っている。

 すでにクローゼから自分が気絶していた間のことを聞いている恭也は、

 彼女に先ほど話したときの「不思議な現象」を起こした物であると言われ、

 マジマジとそれを見て好奇心に駆られ、持ってもいいかとエステルに尋ねる。

 エステル自身も持ったことがあるからたぶん大丈夫だということで、少々話に聞いていたこともあって、

 注意しながら触れ、何ともないことを確認した後、手に持ってそれを眺めた。

 ティータも激しく好奇心を駆られたのか、見せて見せて〜と1人背が低い体を跳ねさせる。

 

「以前お話しましたよね、孤児院で。父さんの話」

「ああ、行方不明になられたと」

「はい。丁度そのとき、ボース支部に父さん宛に来ていた小包があって、それに入っていたんです」

 

 カシウスが行方不明となったので届くはずがなく、やむなくボース支部に届けられたそれを、

 偶然居合わせたためにエステルたちが持っていることになったらしい。

 続いてその小包に入っていたという手紙を見せてもらう。

 

 

 

 

 

『例の集団が運んでいた品を確保したので保管をお願いする。機会を見てR博士に解析を依頼して頂きたい。K』

 

 

 

 

 

 問題はやはり気になるその『R博士』や『K』という人名。他にも、『例の集団』というのも気にかかる。

 内容といい、怪しさといい、明らかによいものとは考えられない。

 

「本当はあたしたちが預かるより、支部で預かっておいたもらった方がいいのかもしれないんですけど」

「推薦状をもらうならリベールを動き回るわけですから、

 父さんもしばらく帰って来れないこともあるので、ついでに探していけばと思って」

 

 ところがこのルーアンで、それも事件中に、さらには古代遺物の動きを止めてしまうような代物だとわかった。

 ただ止めるだけならまだしも、ヘタをすれば何が起こるか分からないし、尚更早くその『R博士』を探さないとならない。

 そのためにエステルたちは明日すぐにでも発つことにしたようだ。

 

「ジャンさんやボース支部のルグランお爺さんにも聞いたんですけど、2人もさすがにわからないって」

 

 『R博士』と一口に言っても、博士という呼称は多くの分野で使われているため、

 どの分野のどの『R博士』なのかがわからないのではどうにも言えないらしい。

 思い当たる者がまったくいないわけではないが、カシウスの交友関係を完全に知っているわけでもないのだから。

 『K』という人物にしても、遊撃士なのかすらわからない。

 

「……『R博士』……カシウスさんの知り合いで『R博士』……」

 

 恭也は博士関係の知り合いは……実のところ多い。

 何せ彼の保証人になってくれたのも、この世界に来てすぐにあったのもその博士と呼ばれる人であり、

 彼を受け入れてくれた街も工業都市であり、高名な研究機関のある街だから、博士なんてそこら中にいたと言ってもいいわけで。

 

「お兄ちゃん」

「うむ」

 

 ティータを見ると、彼女も何となくどころか確実に思い当たっているらしく、確信したような目で見上げてきた。

 エステルは思いがけないその様子に身を乗り出してくるし、ヨシュアも真剣な目で教えてほしいと言ってくる。

 

「俺はツァイスで半年お世話になってな。博士と呼ばれる人の知り合いは多い。

 その中に『R』の文字に当てはまる博士も何人かいる」

「誰々!? 誰なんですか!?」

「全員言ってもいいんだが……おそらくその必要はないだろう」

 

 条件がいくつかある。

 1つ――名前か姓に『R』が付く博士と呼ばれる人。

 2つ――カシウスの知り合いであること。

 そして3つめ。

 

「これが古代遺物かどうかはともかく、未知の代物に変わりはない。

 お前たちが言うような、導力を無効化してしまう現象が起こったということは間違いなく導力関係だろうし、

 解析するならその道の専門家に、ということになる。

 そしてできるだけ腕の立つ博士に調べてもらった方がいいに決まっている」

 

 その全ての条件に当てはまる人物と言えば、もはや1人しかいない。

 

 

 

 

 

「おじいちゃんだと思う」

 

 

 

 

 

 恭也もティータの発言に頷く。

 

「おじいちゃん?」

「ティータの姓、覚えているだろう?」

「ラッセル、だよね?」

「うん、そうだよ」

「でだ、エステル、ヨシュア。ラッセル博士という人を知っているだろう?」

「誰?」

「知ってます……っていうか、エステル。お願いだから無知ぶりをこれ以上露呈しないで。僕が恥ずかしすぎる……」

 

 せめて知らないにしても、もう少し考えて困っているふうにしてほしいヨシュアである。

 アホ面というわけではないが、躊躇なくサラリと「誰?」などと聞くのは、

 確かにどうかと恭也やクローゼ、ティータに至るまでが思った。

 

「エステルさん……ラッセル博士って言ったら、

 リベール王国どころかこのゼムリア大陸中でもたぶん、五指に入るほど有名な方ですけど……」

「エステル……この世界――じゃなくて、この国に来て1年ほどの俺ですら知ってるんだぞ。

 確かに保証人になってもらっている人だから知っていて当たり前だが、

 彼が有名人であることだって数日でわかったくらいそこら中で見聞きしたものだ」

 

 ヨシュアは肩を竦めてジト目、恭也はため息をつき、クローゼは苦笑すらできない。

 彼らに共通するのはまさに「呆れ」であろう。

 エステルは針のむしろに曝されて非常に居心地悪いことこの上ないのだが、それも当たり前である。

 ラッセル博士の名は新聞を読んでいなくとも周囲の人間が一度くらい口にするはずなのだ。それくらい有名なのだ。

 

「おじいちゃんのこと知らないって言う人、初めて見たよ〜」

 

 ティータは逆に新鮮なのか、なぜか嬉しそうである。

 しかしエステルにはそれこそがトドメとなった。

 失意に暮れてがっくりと壁に手をついてうな垂れるエステル・ブライト、16歳。

 

「そもそもカシウスさんの知り合いだぞ? 話していて名前の1度くらい出ているだろうに」

「君が使ってる戦術オーブメントとか、それ以前に導力それ自体がラッセル博士の功績だっていうのに、

 何も知らないで君は使ってたなんて……」

「あの、お2人ともそろそろそれくらいに……」

「エステルお姉ちゃんがものすごく小さく見える……」

 

 とりあえずクローゼとティータがエステルを慰める。

 5分くらいするとようやく戻ってきてくれた。

 

「まるでインスタントラーメンの麺だな……」

「はい? 何か言いましたか、キョウヤさん?」

「いや、気にしないでくれ、クローゼ」

 

 とりあえず話を戻し、全ての条件を満たすのはラッセル博士1人ということ。

 丁度いいことにエステルたちが陸路を使って次の街に行こうというなら、その街こそラッセル博士の住む街――ツァイスだ。

 さらに言えば、ラッセル博士の孫娘であるティータがいるのだから、すぐにでも彼に会うことができるだろう。

 

「都合が良すぎるくらいだな。そろそろティータも帰らないといけないし、エステルとヨシュアが一緒なら安心だ」

「ティータがいるなら飛行船を使った方がいいかなあ」

「あ、陸路でもいいよ〜。私、これでもカルデア隧道の照明を直すために何度も入ってるから道案内もできるし」

「ティータはこれでもよく外を出歩いているから、そこらの女の子よりは足腰も強いからな」

「う〜、何かそれ、女の子じゃないって言ってるみたいに聞こえる」

「そ、そんなつもりはないぞ、ティータ」

 

 機械いじりが好きだからインドア系かと思われがちだが、ティータは意外にアウトドアでもある。

 ツァイスの街の中やその周辺のこともよく知っていて、恭也も土地勘が強くなかった頃はお世話になった。

 恭也が慣れてきてもよくついていったティータは、同年代の女の子よりなかなか根性もあるし、体力もある。

 

「それにね〜……あ、あったあった」

 

 

 

 

 

 何やらいつも持っているバッグの中身を漁るティータは、その体には大きめの……銃を取り出した。

 

 

 

 

 

 正確には銃ではなく、『導力砲』と呼ばれる武器である。

 『砲』というからには榴弾砲のようなものもあるが、拳銃程度の大きさの導力砲もあるのだ。

 

「な、何でそんなもん持ってるの、ティータ!?」

「はえ? おじいちゃんが護身用にって」

 

 護身用で導力砲ってどうよと言いたいのはヨシュアもクローゼも同じである。

 もちろん恭也もなのだが、もうラッセル博士のことをよく知っている恭也は頭を抱えていつものことと何も言わない。

 

(ルーアンに来たときに荷物を持ってやったが、やけに重たかったわけだ……)

 

 頭の中ではラッセル博士に対する愚痴や、ティータの将来を案ずる思考で埋め尽くされているが。

 

「しかもこの導力砲、中央工房が開発した『P―03』だろうけど……たぶん、独自の改良が加えられてる」

「あ、ヨシュアお兄ちゃん鋭い! これね、おじいちゃんと私で『P―03』を改良した『クラフトカノン』って言うの」

「……ティータ、あんたって武器までいじれるの?」

「うん、そだよ?」

「ティータはたいていのものなら自分で直せるほどだからな」

「たいていって……武器ですよ? 11歳の子が武器改良したり直したりって――」

「言うな。言わないでくれ、エステル」

「「「…………」」」

 

 ラッセル一家。

 いったいどのような一家なのだろうと、エステル・ヨシュア・クローゼは冷や汗すら流したものだった。

 彼らの懸念が理解できず、ティータは4人の顔を見渡しながら首を傾げるだけだが。

 

「キョウヤさんはこれからどうするんですか?」

「そうだな……推薦状をもらったことだし、そろそろ次の場所へ行くことになるだろうが、もうしばらくはルーアンで過ごすさ。

 俺は急ぎの旅でもないし、次のロレントが最後だからな」

 

 準遊撃士とは言え、3人もいきなりいなくなるとルーアン支部も大変かもしれないし、

 そのあたりの事情はちゃんと考えないとジャンにも悪い。

 何にせよ、ひょんなことから情報を仕入れることができたエステルとヨシュアはすでに荷物の整理もできているから、

 ルーアン最後の日ということで今日はちょっと買い物をしたりして過ごすそうだ。

 ティータもそれについていきたがり、そこに恭也も暇すぎるので、まだ仕事復帰はできないがついていこうと……

 

「キョウヤさん、その怪我でですか?」

「いや、もう歩けるし、骨折と言ってもひびが入っている程度だからな」

「じゃあ、お医者様に許可をもらわなくて大丈夫ってことですか?」

「ああ」

 

 クローゼが止めるが、恭也がそう言うのならと5人で揃ってその日1日、ルーアンの街を回った。

 

 

 

 

 

 帰ってから外出許可は出していないと医者に怒鳴られ、エステルとヨシュアが自業自得だとため息をつく中、

「嘘をつきましたね?」「また嘘ついたね、キョウヤお兄ちゃん!」と、クローゼとティータからも厳重に注意されましたとさ♪

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 


あとがき

  というわけで17でしたが、如何でしたでしょうか。

  事件の後日談的な話でしたが、私としましては、恭クロフラグが続々と立っていくので嬉しいですw

  あれだよね、最後は結婚エンドだよねFLANKERさん?w

  それはともあれ、次回からは新章突入。次回の話もちぇっくいっとあうと!ですよ!   (クレさんより)

 

  お待たせしました!

  ソラツバ17話、お送りいたしましたが、いかがでしたでしょうか?

  市長との戦いによってボロボロになってしまった恭也君。

  クローゼの護衛を外されたことは残念でしたが、推薦状を貰えたことは良かったことです……個人的には残念ですがw

  ではでは、これからの物語にもどうか御注目下さいますように。

  ennaでした〜。

 

  当人のご都合により、今回シンフォンさんの後書きはありません。ご了承ください。

  どんだけ久しぶりなんだかすら忘れてしまいましたが、ソラツバ更新ってことでFLANKERです。

  ルーアンでの事件も終わってエステルとヨシュアが旅立つ直前の話ですね。

  恭也もこれで正遊撃士になるために、残るロレントに向かうことになるわけですが、今しばらくはルーアンに。

  原作とは違ってすでにティータがいますが、ストーリーの進め方は基本的に原作追随ですので、

  以降のツァイスでのエステル・ヨシュアたちについては原作と変わりませんので、ほぼ省くつもりです。

  大筋だけはもちろん書きますが、エスヨシュだけでも書いてたら相当量になりますので。

  これからは原作通りのツァイス〜王都グランセルでのエスヨシュサイドだけでなく、ロレントの恭也サイド、

  そしてエレボニア帝国領にいるなのはサイドの3視点から描いていかないといけないですしね。

  う〜む、どこぞの強力な恭クロ電波を強制受信してしまうために恭クロ度が上がるなあ。(笑

  それでは。




事件後のお話。
美姫 「そうみたいね。だから、切羽詰まった感じじゃなく、ゆったりした感じね」
恭也は負傷した上に護衛を解任されちゃったが。
美姫 「以降はどんな感じで話が進むのか楽しみよね」
うんうん。なのはとの再会とかも楽しみの一つ。
美姫 「本当よね。次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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