本作は『メンアットトライアングル』などを書いておりますT.Sと、
『リリカルなのは プラス OTHERS』を書いておりますFLANKERの合同作です。
設定としては『とらいあんぐるハート3×オリジナル』です。
恭也は大学を卒業しており、OVAの設定も使っていますがフリーです。そこはお間違えなきようお願いします。
とらいあんぐるハート3
『Schwert und Gewehr』――das schmutzige Weltende――
GUARD OF 0
サイレンが廃墟のビル内に鳴り響く。訓練は終了のようだ。
「お疲れ様でした」
「おお、お疲れさん、キョーヤ」
その言葉も日本語ではなく中国語。それも片言どころではないと、聞けばすぐにわかるほどの。
キョーヤと呼ばれた青年が、着ている近代的な特殊部隊の武装服には似合わない、鞘に刀を納める。
「にしても、今時そんな刃物であそこまでやれる奴なんて、うちではお前と御神隊長くらいだぜ」
「はは、まだ美紗……あ、いえ、彼女と並べられるほどでもありませんよ」
「こいつ、余計な謙虚は時に挑発になるって知らねえわけじゃねえだろうな、コラ」
少なくとも青年よりは年上だろう、髭を生やした、それでも明るく若そうな表情の男は彼の肩を叩く。
着ている服も全く同じ。
今日の訓練では彼と男はタッグを組んでいた。少数部隊をさらに2人1組に分けての、チームでの制圧訓練。
『ご苦労、チーム・チャーリー。ヘマしてやられたチーム・ベータをアルファかどっちかで連れてきてやってくれ』
「はっはっは、あの馬鹿野郎ども。な〜にあんな単純なトラップに引っかかってんだよ」
『聞こえてんぞ、ジャン。てめえこそキョーヤがいなけりゃ引っかかって死んでたろうがよ!』
「うるせえ。これはチーム戦だ。チームワークが何より。相棒の戦果は俺の戦果でもある。なあ、キョーヤ」
ジャンと通信で呼ばれた男はキョーヤの肩に、少し乱暴なくらいに腕を回したが、
青年は特に不機嫌な表情など浮かべず、むしろ苦笑してジャンを見る。
「そうですね。ですが、刃物を舐めて前回痛い目をくらったのを忘れてませんか、ジャン軍曹」
「あ、てめ、それは言わねえ約束だろうがよ!」
今回も刃物を用いたトラップに引っかかりかけ、軽く足首に傷を負ったジャン軍曹。
聞こえていたらしく、通信先の仲間が我先にとジャンに「キョーヤの荷物になるなよ、先輩?」などと笑っていて、
ジャンは無茶苦茶な理由で反論して最後には通信機を切った。
「くっそ、お前って一言多いぜ」
「そうですか? ジャン軍曹こそ、いつも一言多いって隊長に言われてません?」
「うるせ〜!」
いちいち大声上げるジャンだが、青年はそれが嫌いではない。
ムードメーカーの彼はとても楽しいし、自分のような無口で無愛想な者にも軽く付き合ってくれる。
実に故郷、日本の高校時代からの親友である男を思い出す。
ビルから出るまでに、幾人かの仲間たちと合流しつつ、外に構えている本部のテントに向かう。
「よし、今日の訓練はここまで。制圧にかかった時間は12分36秒……まずまずだ」
と、髭面の部隊長が言うが、これでも他のチームよりは圧倒的に早い。
「アルファチームは少し突進しすぎだが、それでも制圧が早かったのはお前らの動きがよかったからだ。
だがもう少し連絡を密にしろ。ベータチームは……言う気にもならん」
「ひでえ」
「何がひどいか。開始わずか数分でトラップにはまりおって。エレメンタリーからやり直して来い!」
こいつが悪い、お前のほうが先にかかったんだろうが、と脇を突っつき合ってベータチームの男たちが騒ぎ出すが、
部隊長がそれを一喝するとすぐに止む。
「で、チャーリーチーム。ふむ、早いな。ベータの抜けた穴をしっかり防ぎながらアルファを援護し、かつ自らも積極的に進攻している。
途中で片方が馬鹿をやらかしかけたようだが……」
「ちょい待てって部隊長! その馬鹿って俺か!?」
「そう思うならそうなんだろう? ジャン軍曹」
ジャンは「オーマイガッ」などと額に手をやって空を見上げる。仲間たちが笑い、彼はブーたれる。
そして部隊長は同じチャーリーチームのもう1人、キョーヤを見て彼に近寄り、その肩を叩いて他の者を見回す。
「お前らももうちょっと罠を見破る目と、全体の動きを通信だけでも把握できるだけの戦術思考を持て! キョーヤのようにな!」
今日もまたキョーヤに手柄を持っていかれたと、悔しいだろうに、しかし男たちは苦笑してキョーヤを褒め称えた。
キョーヤはそんなことはないと言う。
事実として、他の者たちも非常に訓練度は高いし、軍の特殊部隊の隊長をやっていた者だっているくらいだ。
だが彼らは同時に他人を認めるだけの度量を持つ者たち。
如何に香港警防が最強最悪の法の番人などと言われ、実力こそ第一という思考の部隊であろうと、
優秀な部隊には自ずとそれだけの協調性や柔軟性ある者たちが自ずと集まるのだ。
「お前らはあと、キョーヤのこの謙虚さを学べ。むしろそれこそ第一に学べ。お前らのやることをいつもいつも始末してる俺の身にもなれ、馬鹿ども」
そう言って部隊長はいつまで黄昏てるんだと、ジャンの尻を軽く蹴飛ばし、後始末して来いと仕事を押し付けるのだった。
「お疲れ様、恭也」
そう言って近づいてくる女性に、キョーヤ――高町恭也は心持ち他の者たちよりも親愛を込めた笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、美紗斗さん」
彼女が差し出してくれたタオルを受け取って、恭也は礼を言う。
すっかり秋も暮れてきた季節柄とは言え、今日はそれなりに暑く、そもそも香港はこの時期でもそれほどまあ寒くない。
これが海鳴ともなれば寒くなってきているだろうが。
「さすがだね。あの部隊長にあれだけ言わせれば充分だよ。それも今年入った君がね」
「何言ってるんですか。美紗斗さんが出てきたらまだ俺は一勝すらしたことないんですよ」
事実として、もう香港警防隊に入隊してからすでに半年以上。しかし美紗斗に勝利したことは一度もない。
個人戦でもこうしたチーム戦での駆け引きでも。
「俺が美紗斗さんに勝ってるところなんて、握力とかそんな単純な力くらいですよ」
美紗斗は常々、自分はもう劣っていくのを防ぐくらいしかできないと言うが、
恭也が一度も勝てない辺りでその実力の健在ぶりはありありと見て取れるというものだ。
そんなことを話しながら、しかし本当にこの香港警防隊に入ってよかったと恭也は思うのである。
美紗斗だけでなく、先ほどの部隊長は戦術面なら美紗斗以上だし、仲間内でもさすがにどこかに秀でた者ばかり。
扱いに困る者もいるが、それでも実力の高さはさすがに折り紙つき。
そんな中で思う存分に自分を磨けるのは、恭也にとって最高の時間であり、心から今は人生で一番充実しているときだと思える。
「入隊するまでは悩みましたけどね」
「仕方ないだろうね。君は高町家では兄さん亡き後、大黒柱としてあったからね」
「大黒柱は母さんですよ」
「その桃子さんが君がもう一本の大黒柱って言うんだ。美由希やなのはちゃんにしたって同じさ」
夏休み――香港警防にそんなものはなく、単に美由希やなのはに合わせただけ――に一度帰ったが、久しく見る家族はやはりとてもよかった。
今年大学を出ると同時に香港警防隊に入ったので、バタバタしていてロクな別れ方もしてなかったので、
なのはなど突然の帰省に思いっきり抱きついてきたほどだった。
「香港警防隊以外にもいろいろとスカウトが来てたそうだしね」
警察関係者はリスティとの繋がりで護衛など仕事を請け負っていたから、恭也の腕は知っていたろうし、
仕事上名前が知られたからか、セキュリティー関連の会社からもオファーは来ていた。
正直そうした仕事以外にも翠屋で働くといった手はあったが、
フィリスの懸命の治療――恭也がもう少し協力的ならもっと早く治っていたとは彼女の言――によって膝が良好なことと、
桃子の言葉が何より大きかった。
『アンタは自分をずっと抑えてきてたでしょ。なら一度自分の好きなことをやってみなさいよ、パーッと』
美由希もすでに皆伝しているし、夏休みには日本への帰省から戻ってきた恭也と共にこちらに来ていた。
なのはももう中学生になったし、レンや晶も大学生。
いつまでも恭也の庇護下にいるほど彼女らも子供ではない……恭也は今だなのはが心配なのだが。
「一番迷ったのはマクガーレン社からの勧誘ですね。はは、フィアッセのツアー護衛の際にすっかり目を付けられたみたいで」
「みたいだね。香港警防隊と並ぶ名声を持つ、世界一のセキュリティーと警備関連企業体からオファーなんて滅多にないよ」
「それ言ったら、美紗斗さんからの香港警防隊にっていうのも、滅多にないでしょう」
マクガーレン社――イギリスに本社を置く、超有名な世界有数の警備保障関連複合企業体。
他でもない、幼馴染みのエリスの実家で、彼女も勤める企業。
1年前、大学生のときにフィアッセのツアー護衛を日本にいるときだけ勤めたが、
その際にマクガーレン社の御眼鏡にかなったらしい。おそらくエリス辺りもかなり勧誘を推奨しただろう。
「何度となくエリスから電話が来ましたから」
「彼女の場合、私用でかけてそうだけどね」
「いえ、毎回勧誘だから私用ではないと思いますよ。まあ、近況とかも話しはしましたが」
「……恭也、君はもう少し兄さんの『そういうところ』を受け継いでもよかったんじゃないか……?」
なぜあの士郎の息子が恭也なのかと、美紗斗は本気で尋ねたかった。恭也に答えようがないが。
ため息すらついてみせる美紗斗にも、恭也は「?」を浮かべるだけなのだが、そこで美紗斗が思い出したように手を打った。
そしてそばの机の上においてあった一通の大きめの封筒を取って恭也に差し出す。
「渡さないといけないんだった。マクガーレン社で思い出したよ」
恭也は自分の名前も書かれたその封筒を受け取る。すでに一度開封されているようだ。
「心配しなくても開けたのはその中の香港警防隊の上司宛てや私宛ての手紙だけだから」
差出人はもちろんマクガーレン社。ただ恭也に直接ではなく香港警防隊宛てというのが多少気になるところだった。
まず入っていたのはさらに一つの小さい封筒と、マクガーレン社全体としての用件を書いたらしい紙。
「……互いの隊員やSPを交換し合っての親善、ですか」
「そういうことだよ。実は兼ねてからそういう話があったらしくてね」
業界では世界最大クラスのマクガーレン社と香港警防隊、2つの組織が互いに有する情報や協力体制を整えるため。
商売敵――少し違うが――にもこういう提案をする辺り、多少は内情視察だとかの打算的意味合いもあるのだろうが、
香港警防隊としては商売としてこんなことをしているわけではないので別に構わないということだし、
最近増えるテロなどに対応する意味でもマクガーレン社は非常にいい協力相手先だった。
「で、マクガーレン社の、しかも娘さんと幼馴染みという君ならってことでね」
「最初だから人選は気をつける、ですか?」
何度も言うが、香港警防隊は実力が全て。だから美紗斗という、かつては裏で恐れられた人間でも受け入れた。
協調性もない人間を行かせて問題を起こすわけにはいかず、その点でも恭也は問題ない。
「あとは……香港警防隊でもすでに名が売れている若きエースを派遣することで、香港警防隊の層の厚さを見せ付けたい、かな?」
「美紗斗さん……プレッシャーかけるのはやめてもらえませんか?」
「あはは、すまない。でもまあ、お偉方としてはそういう思惑もあるよ」
まあ仕方ないことだと思う。
上層部に使われるのはあまり面白くないが、そもそもそうした思惑も恭也の実力を認めているからこそであり、
世話になっていることもあるし、エリスと会えるのもそれはまた利でもある。
イギリスならフィアッセもいるし、最近会っていないこともあるから、挨拶代わりには丁度いいだろう。
「わかりました。俺でいいならこの話、受けますよ」
「わかった。私からその旨は伝えておくよ。で、もう1つのそれはエリスちゃんから?」
「ええ、そうみたいです。あとで読んでおきます」
「そうだね……こう後ろから見られてるんじゃねえ……」
すでに気配でわかっている。というか、気配に鋭くなくても気づくだろう。
むさくるしい男どもがこうもジロジロと早く手紙を開けろ〜とばかりに背後から視線を送ってきて、
さらにジャン他数名が恭也の背中越しに手紙の中身を覗こうとしていては……。
「なんだよ、読まねえのかよ〜。ガールフレンドからの手紙だろ? いいよないいよな」
「キョーヤ、俺に紹介しろよ。マクガーレンの娘さんっていやあ、二丁使いのあの子だろ?」
「よくクリステラ……だっけか? あそこのSP引き受けてるトコ、テレビで映ってたけどよ、金髪の気の強そうな子」
「めっちゃ好みだぜ、俺の。ああいうのはな、意外に根は純情なんだよ」
「ありがちでつまんねえだろ、それは。いっそこう、どこまでも素直になれないって感じの……ツンデレ? その方がよくね?」
などと身勝手なことをそれ次から次にのたまう。
「はあ……いつも言ってますけど、俺にはそんな人はいませんよ。彼女は単に幼馴染みです。
だいたい俺なんかじゃもったいないですよ、彼女は」
それに対し、戻ってくるのは盛大なため息と呆れた視線のみ。
完璧なチームワークを発揮してくれる美紗斗やジャンたちだった。
「……それをエリスちゃんが聞いたら、泣く……いや、彼女の場合、拗ねて怒るよ、恭也……」
「何か言いましたか、美紗斗さん?」
「いや、気にしなくていいよ」
エリスが発砲しないことと、色恋沙汰で彼女を怒らせて香港警防隊とマクガーレン社の関係が悪くならないことを、半ば本気で祈る美紗斗であった。
互いの隊員とSPの交換による親善が提案されてから約1週間。
イギリスに建つマクガーレン本社の一室にて、エリスはペンを片手に書類と向き合っていた。
「…………」
言葉を発することなく、カリカリと小さな音を立てて彼女は紙にペンを走らせる。
そして書き物をする彼女の机の横には、それが終わるのを待っているのだと思われる女性が1人いた。
彼女は彼女でエリスが処理し終わった書類をまとめ、書き損じや間違ったところがないかをチェックしている。
エリスほどではないが長い髪を、首の後ろ辺りでくくって纏め、背中に金髪を流している。
普段タイトなスーツを着ることの多いエリスに対し、彼女は足首まである長いスカートで、全体的にゆったりした感じの仕事着である。
「……ふぅ」
動かしていた手を止め、エリスは小さく息をついてペンを置いた。
「お嬢様、少しご休憩をされては?」
「いや、もう少しだし、一気にしてしまった方が楽だから」
「ですが本来、これは今日中にする必要のあるものでもないのですが……」
それはエリスもわかっている。
書いている内容からしても別にエリスがしなくてはいけないようなものでもなく、急ぎの書類でもない。
そもそもスケジュールの管理にはすべき仕事の量もしっかりノルマとして決めており、
そばにいる女性――シュペリー・ファーバンティーが、しっかりとスケジュール作成の段階からいてくれるので、
エリスが今やっている仕事の量がすでに1日のノルマを越えていることもわかっているわけだ。
「明日1日を丸々空けるんだから、これくらいはやっておかないといけないだろう?」
「有休をお使いになられればよろしいかと思うのですが……」
その辺りは生真面目なエリスだからであろう。
シュペリーもそれなりに長くエリスの秘書を務めているため、互いにわかっているつもりである。
「それじゃ、少しだけ休憩しようかな」
「何かお飲みになりますか?」
「そうだな。じゃあ、コーヒーを頼めるかな?」
「はい。少々お待ち下さい」
エリスの執務室から出ていくシュペリー。
彼女が出ていくのを待ってから、エリスはコホンと咳払いを1つして、机の引き出しから雑誌を取り出す。
本棚はちゃんと別にあるし、そこにある本も法律系であったり護衛やSPとしての仕事の記録や事件簿。
だがエリスが取り出した雑誌は、あまりにもそれらとはかけ離れた類のものだった。
――――『ロンドン観光 今が旬のスポット!』
執務室はいちおう応接室としての役割もかねているので、確かに本棚にこんな雑誌があったら、第三者の心理的にあれだろうが……。
「空港からだとこのコースが一番いいのか? いや、でもこれだと時間が……ええい、コースは自分で考えた方がいいじゃないか。
何が最適のスポット巡りコースだ。私ならもっと時間短縮できるぞ」
などと愚痴を言いつつ、赤ペンを持ってコースを決めていく。
「……うん、これでよし」
そして次はそのコースを目に焼きつけ、脳に叩き込んでいく。
SPならば現場の地理や建物の構造を把握しておくのは当たり前なので、まさに記憶力には自信がある。
別にその本を持って歩けばいいじゃないかというものなのだが、彼女としてはそういうわけにもいかないのだ、心情的に。
「こんな本を持っていたら勘違いされる」
仕事中にこんなものを持っていたら確かにそう思われるかもしれないから仕方ない。
至極真面目な目をして雑誌に集中するエリス。
場所が場所なら彼氏とのデートに備えて真剣にプランを立てている女の子に見えるのだろうが、
執務室で、しかもエリスが超真剣となると、普段のエリスを知る者ならまずそんなふうには見えないだろう。
「お待たせしました」
「っ!」
雑誌を閉じ引き出しを開いて放り込みかつ音を出さずに閉じて何事もなく平然と「ああ」と返事を。
この間、実にシュペリーが扉のノブを回してから開くわずかな時間。
「……?」
シュペリーには何となくエリスの表情に固いところがある気がするだけで、彼女の行動には一切気がつかなかった。
(あ、危なかった……私としたことが気配に気づかなかったなんて……)
それだけ集中していたということだろう。
揺れる心を内面では必死に抑えながら、表では泰然とコーヒーを飲んでいるエリスである。
「シュペリー、いい時間なんだから、今日はもう帰ってもいいんだぞ?」
時計を見るとすでに夜の9時。就業時間などとうに過ぎている。
エリスが本来済ませるべき仕事など、当然その就業時間中に終わらせているのだから、シュペリーが帰ったところで何の問題もない。
「いえ。お嬢様が働いていらっしゃるのに、秘書の私が先に帰るなど以ての外です」
「君も融通が利かないんだな」
「申し訳ありません」
「いや、いいんだ。融通が利かないのは私も同じだからな」
生真面目な性格なのはお互い様。エリスもシュペリーには感謝こそすれ、鬱陶しく思うことなど全くない。むしろありがたい限りだ。
その後も1時間ほど仕事を続け、さすがにこれ以上は明日に関わるのでと終わりに。
シュペリーと共に帰り支度をして執務室を出る。
シュペリーの運転する車に乗り込み、後部座席で背中を預けて一息。
「お嬢様。明日は9時半くらいにお迎えに上がればよろしいでしょうか?」
「到着は何時頃だったかな?」
「10時頃になっております」
ふむ、としばし考え込む。
明日は有休を取ったのだから仕事というわけではないのだが、シュペリーはエリスの秘書という仕事柄、エリスの休暇に付き合うのも仕事である。
「朝方だから道が混むかもしれないし、もう少し早めに頼めるかな?」
「わかりました。15分でどうでしょう?」
「それでいい」
車はピカデリーサーカスの前を通過する。明日はこの辺りを観光することになるんだなと思いつつ、ちょっと楽しみに思う。
「それにしても、わざわざお嬢様が送迎をされることまでないと思いますが」
「お母様はさすがに出られないからな。向こうはこちらの提案を快諾してくれたのだから、
由緒ある英国の紳士淑女としては礼儀を果たさないといけない」
香港警防隊への提案は手紙より先に電話にて、マクガーレン社社長であるエリスの母親が伝えていた。
手紙はあくまで形式的なことで、手紙が到着したときにはすでに親善計画は両者合意の上。
そして今朝方、香港警防隊へ派遣される、選抜されたSP数名を、エリスは社長代理として送り出していた。
こちらはあくまで代理としての意味合いくらいでしかないが、香港警防隊から来る者の出迎えに関してはそれ以上の意味がある。
代理として、ではなく、エリスが個人的に自分で出迎えたいのだ。
「高町恭也様、でしたか。確かお嬢様の幼馴染の方であると伺っておりますが」
「ああ。私とフィアッセのね」
「個人的に興味があったので調べさせて頂きましたが、刀剣を扱われるとのことで」
少なからずシュペリーの言葉には「変わっているな」という色があったが、決して否定的なものではない。
「そう思うのが当たり前だろうね。実際、私も1年前はそう思っていたから」
1年前――フィアッセのツアーコンサートの警備において、日本にいる間だけ恭也と美由希もフィアッセのガードについていた。
脅迫と犯行予告を兼ねた手紙が送られていて、実際に2人の男がフィアッセを狙ってきていたのだが、
危うかったものの、フィアッセを護ることはできた。
「銃が当たり前のこの時代に刀剣なんて時代錯誤も甚だしい……はっきりそう言ったくらいだ」
恭也は僅かにつらそうな顔をしていたが、この剣で護るべきものを護ると言ってのけた。
結果的に彼と美由希とは分かり合って、互い協力の上で敵を退けたが。
「間違いなく恭也の実力は本物だよ」
「そうでしょうね。あの香港警防隊において入隊半年ながらすでに功績を挙げておられるようですし」
どんなに時代錯誤だろうが、実績が証明する以上、実績と実力こそが必要なこの業界では文句など言いようがない。
「私もあの時は考えが足りなかった。刃物自体は特に悪いわけじゃないしね」
近接では銃よりナイフなどの方がいいことなんてざらにある。
ただ恭也や美由希の場合、それだけでやろうというのだから、確かにこの時代では特殊ではあるだろうが。
「正確に言うと、飛針という投げナイフのようなものと、鋼糸というゲインベルグ社製の糸も使っているらしいんだが」
「我が社の方でもかなり強く勧誘したそうですね」
「ああ。香港警防隊に取られてしまったと聞いたときは残念に思ったよ」
少々不愉快。残念というかショックだった。
エリスとて恭也に何度か電話をしたし、当然ながら勧誘だって行った。
何となく自分を選んでもらえなかったという、第三者が聞けば勘違いされそうな感情があるのだ。
「お母様も私もこの機会にヘッドハンティングできないものかと考えてるけどね」
冗談ではなく、結構本気である。
「香港警防隊でもその辺りはしっかりと対策を立ててそうではありますね」
「その辺りは互いに同じようなものだと思う」
これは仕方のないことだろうと軽く笑う。
この業界はやはりゆっくりと新人を育て上げていくより、即戦力として使える者が希少価値を持つとも言っていい。
軍を退役した者――それも特殊部隊などの出身だと競争率は非常に高い。
どこかに所属している者であっても、ヘッドハンティングなんてよく使われる手だ。
会話をしているうちにエリスの家の前に到着した車から降り、エリスはもう二言三言、シュペリーと話す。
「お疲れ様でした」
「ああ。今日は付き合ってくれて感謝しているよ。今度、私が気に入っている店で奢らせてくれ」
「はい。楽しみにしています」
笑みを交わして、その日は別れた。
ロンドン・ヒースロー空港。
世界第3位の旅客者数を誇る、ロンドンやその周囲の表玄関としてのハブ空港に位置づけられる、ロンドンでも最大級の空港である。
パスポートチェックや荷物の検査も済み、旅行カバンを引っ提げて、恭也は空港内を歩く。
「さて、出迎えを用意するとのことだったが……そもそもどんな人なのかを聞いていなかったな」
失敗したなと思いつつ、向こうがこちらを見つけてくれることを祈りながら、
とりあえず相手が気づきやすそうな場所に移動しようかとしたところに……
「恭也」
声をかけられる。聞き慣れたその声。
1年前のツアーで再会して以来、電話などもしてはいたが、入隊以来はまともに話していない。
それでもその声を間違えるはずもなく、恭也は振り向きながら、彼女の顔を確かめる前に名前を呼ぶ。
「エリスか」
秘書だろうか。そばにもう1人女性がいる。
まさかマクガーレン社の令嬢が自ら出迎えてくれるとはな、と言うと、彼女は礼儀のうちだと返した。
「まあ、個人的にも幼馴染としてってのがあるからな。他の者に任せるのは何だしね」
「そうか、ありがとう。声だけなら半年ぶりくらいだが、顔を合わせるのはあの時以来だな」
「ああ。成田空港で別れて以来、1年ぶりだ」
シュペリーの紹介などもしてから、エリスはマクガーレン社社長代理としての顔になる。
「ようこそ、イギリスへ。そしてマクガーレン社へ。この度はこちらの提案を快く受けて頂き、感謝している」
「こちらこそ。今回の相互派遣の親善が、御社と我ら香港警防隊を良き関係に導けるよう、精一杯努めたく思います」
握手。そしてどちらからともなく吹き出す。
「君は真面目なんだが、なぜか今は似合ってない気がするよ」
「途端に失礼だな、エリス。とは言え、俺も我ながら似合ってないと自覚しているが」
堅苦しいのはここまで。
恭也もエリスも手を離して笑い合う。
「しばらくの間、厄介になる」
「ああ。でもいつまでも客扱いはしないぞ?」
「望むところだ」
それこそ自分たちに相応しいのだから。
――続く――
あとがき
F 「え〜、何と言うか……無謀と言うか蛮勇と言うか、さらに合同作に手を出している阿呆極まりないFLANKERです」(w
T 「そして、今回その合同作で組ませて頂いたT.Sです」
F 「ペルソナさん、シンフォンさん、ennaさんという作家とも組んでいるくせに、さらにT.Sさんとも組んで書こうなんてする愚か者です。
いや〜、しかし……我ながらどれだけやるんだろう?」(w
T 「あははは……なんか、この勢いだとまだまだ増えそうですよねぇ」(w
F 「もうこれ以上はやばいですw 体力的にもネタ的にも。さて、そんなこんなで、本作はとらハ3オンリーのストーリーになっております」
T 「カップリングは見ての通り、恭也×エリスですが……そもそもこのSSを始めることになったきっかけってなんでしたっけ?」
F 「いや〜、私がまずT.Sさんに合同作やりませんかって言い出して、
でもって私がエリス好きだからそれ関係でどうでしょって言って…………すいません、私の欲望全開な提案でした!」(土下座
T 「いやいや、私としても面白そうな提案だったのでまったく問題なしですよw
にしても、あの頃はまさか合同作を書くことになろうとは考えもつかなかったなぁw」
F 「そもそもダメ元で言ってみたら実現。しかもネタは次々に飛び出すし、こうなるとやめられない私。
私のシリアス殺伐とT.Sさんのサスペンスがマッチしていたらいいんですが」
T 「そうなるといいですねぇ……でも、シリアス殺伐とサスペンスがマッチしたら、ほんと暗い話になってしまう気がw」
F 「むう……そんなわけで次回は無謀にもほのぼのとギャグに挑戦した私です。上手く書けてるといいんですが」
T 「FLANKERさんなら、きっと素晴らしい出来栄えで仕上げてくれると信じてますよw」
F 「というわけで、T.Sさんとの合同作『剣と銃』も、私の本編や他の合同作同様、しっかりやっていく所存ですので、よろしくお願いしまーす!」
T 「私からも、よろしくお願いします!! では、今回はこの辺りで……」
おおう! 新たな新作!
美姫 「今度はT.Sさんとの合作ね」
どんなお話が待っているのかな。
美姫 「今からとっても楽しみよね」
うんうん。次回が待ち遠しい。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。