アースラの医務室に二人の人間が横たわっていた

別段この光景は、これと言って珍しい事ではない

管理局の仕事には戦いが少なからずあり、負傷者が出ることもあるからだ

だが、明らかに医務室の空気はいつもと違った

メンバーも執務官であるクロノ・ハラオウン、艦長のリンディ・ハラオウン、AAAクラスの魔導師フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン

何とも、そうそうたるメンバーだ

もちろん、ちゃんとした理由がある

今、診察を受けているのはフェイトと同じAAAクラスの魔導師であり衰弱状態である高町なのはと正体不明の魔導師不破恭也

衰弱状態、正体不明の魔導師、これだけでも十分だが更になのはが襲われた連中は最近よく起きる事件と同じなのだ

だから、襲われたなのはとフェイトより先に現場にいた恭也に話が聞きたいのだ


「ん……。あれ? 私……」


「なのは!」


「フェイトちゃん!」


ゆっくりと眼を開けたなのはを見てフェイトが涙眼になる

さっきまでは、堪えていたみたいだが眼を覚ましたことで緊張の糸が緩んだのだろう

なのはは、なのはで恐怖が蘇ってきたのかフェイトに抱きつく

どうやら上半身を起こすくらいの体力はもどっているようだ


「クロノ君もリンディさんも来てくれてありがとうございます」


「ああ。それで少し聞きたいことがあるんだが」


「えっと、その前に恭也君に会えないかな?」


なのは言葉にクロノが少し顔を歪めた

別に、嫉妬とかではない

ただ、なのはに今の恭也の現状を伝えなければならないからだ

昏睡状態だけじゃなく、なのは達を襲った魔導師の仲間として疑いをかけられているのだ

もちろん、フェイトから聞いた話等から少なくとも敵ではないだろうと予測はしている

だが、物事はそんな簡単にはいかないのだ


「なのはちゃん、落ち着いて聞いてね」


「え?」


「彼は今、昏睡状態なの」


なのはは、カナヅチで叩かれたかのような衝撃を受けた

頭では直に理解した。でも感情が情報の受け入れを拒否する

泣きそうな顔でフェイトとクロノを見る

だが、二人は眼を逸らしながら首を縦にふった

なのはの心に絶望感が溢れる

少し昔、なのはの大切な人が――高町恭也が同じ様に昏睡状態になったことがあったのだ

いつものように護衛の仕事に出かけて帰って来たときには、その状態だったのだ

血を流しすぎたのが原因だった

それから恭也は三日間、生死を彷徨ったのだ

なのはにとって、その三日間は悪夢のようなものだった


「恭也君が…………」


言葉にするのが恐くて、途中で口を噤む

神速の複数使用、二段がけ、更には魔力をも全て使い切った

むしろ生きているのが不思議なくらいなのだ

それほど、恭也の体には負担がかかっていた

特に最後の攻防では神速を限界である四秒をはるかに超える八秒間使っていた

つまり、脳が焼ききれていてもおかしくはなかったのだ


「…………恭也君はどこ?」


うなだれていた顔をあげると、なのはは虚ろな眼でフェイト達を見た

その瞳に一瞬恐怖する三人

同時に、今のなのはを恭也に会わしてはいけないと感じた


「答えてくれないんだ。いいよ、自分で探すから」


立ち上がろうとするが、足元がおぼつかない

それでも、壁で体を支え恭也を探そうとする


「なのは、もうちょっと休んでないと」


フェイトが、声をかけるがなのはは反応を示さない

だから、肩を掴んで止めようとして震えていることに気づいた

いつも快活で元気いっぱいな姿からは想像がつかないほど、その表情は失うことを恐れていた

あの三日間以降、なのはは時たまこのような発作をおこしていた

最近はなりを潜めていたのだが、今回のことでまた症状が顕著になってきた


「じゃあ、恭也君に会わせて」


「なのは……」


フェイトは、さっきとは違う意味で泣きたくなった

待ち焦がれた再会、会ったら言いたいことは沢山あった

そして、何よりも笑顔で喜び合いたかった


「友達を泣かすのは感心しないな」


「恭……お兄ちゃん!?」


声の主を見ると、そこには高町恭也が立っていた

なのはは兄がいることに驚愕し、フェイトはポカンとしていて、クロノは気配が感じなかったことに驚き、リンディは何者だと警戒した

ここにいるという事は兄も魔導師である

まさか、恭也だけでなく兄まで魔導師で思考は一時ストップする




「特別交戦部隊隊長、高町恭也二等陸佐だ」








        魔法少女リリカルなのはA'S

          〜漆黒の王者〜

  第六話 一つの戦いが終わって








俺の発言にみんなが混乱するなか、一同は横たわる恭也と対面していた

取り付けられた器具、自力で呼吸すらできない現状

脳派を測る機械の電子音だけが生きている事をあらわしていた

なのはは、ギュッと俺の服を掴む


「どうやら神速を複数使用したようだな。しかも、二段がけまでしている」


「神速?」


恭也の容態をザッと見回し呟くと、その言葉にフェイトが反応した

御神流を知らないから、魔法か何かとでも思っているのだろう

まぁ、彼女達にとったら生身であれだけの事をできるとは信じがたいかもしれないが


「戦闘中、こいつがもの凄いスピードで移動しなかったか?」


「えっと、二回くらいあったと思います」


相手はヴォルケンリッター、夜天の書の守護騎士だ

いくら恭也でもフェイトと組んでも五分五分ぐらいのハズだ

なら、こいつのことだ

使っていい回数限界近くまで使ったと考えて間違いないだろう

しかし、まさか二段がけまでするとは予想外だ

障害を負うぐらいの怪我はないが、全身ありとあらゆる神経が疲弊している


「そうか。なら、二、三日安静にしてたら大丈夫だろう」


「本当!? お兄ちゃん!!」


「ああ」


何だ、このなのはの入れ込みようは

確かに、なのはが自分のために怪我した事に責任を感じ必要以上に心配するのはわかる

だが、勘が違うとつげる

何か、もっと大きな物を感じる

二人は知り合って、まだ日が短いハズだ

胸を撫で下ろすなのはを見てて一瞬奇妙な違和感を覚える

しかし、次の瞬間にはいつものなのはに戻っていたため漠然とした不安を抱えるだけだった
















深い深い闇の中にいた

上下左右全てが漆黒で埋め尽くされている

俺は、その中を浮遊している

普通なら恐怖を覚える光景だが、何故か俺はとても落ち着けた


「あれ? そういえば俺は…………。そっか倒れたのか」


流石に二段がけは耐えられなかったんだな

それよりも、なのはは無事なのだろうか

それに、ここは……


「なのはは無事よ。それと、ここは漆黒の祭壇」


まるで、俺の心を読んだかのように質問に答えてきた女性

肩まで伸びた黒髪、スラッとした体型、そして整った顔立ち

大人と感じさせられる人だった


「君は? それに何故俺が祭壇にいるんだ」


すると、女性はポカンとした後、笑い始めた

むっ、何か笑わすこと言っただろうか


「ゴメンゴメン。でもね、私の事がわからないなんて言うからよ」


そうは言われても、こんなに印象深い女性に会えば忘れるハズがない

ん? 何かが引っかかる

うむ…………そうか、声だ

出会ってから、毎日聞く喧しい声と同じなのだ

しかし、まさかこの人があいつだなんて信じられない


「酷い言い草ね」


「…………やっぱり、プレッヂなのか」


まさか、プレッヂに一瞬とはいえ見惚れるとは不破恭也一生の恥

しかし、プレッヂが人間の姿になっているということは、ここは精神空間のようなものなのだろう


「う〜ん、まぁ精神世界であってるのかな?」


「俺に聞くな。それに、何故考えてることがわかる」


「え〜っと、この空間だからだと思う。恭也の考えてることが大体わかるんだ」


プレッヂが、わからないとなると一体誰がこの空間を作ったんだ

人間の姿になったプレッヂといい、溢れてくる力といい


「溢れてくる力って?」


「ああ、さっきからどうも力が魔力が流れ込んでくるんだ」


最初は、気のせいだと思っていたがプレッヂが現れてから量が倍増し確信した

だが、魔力は潜在能力であり増えたりすることはないハズ

例外はあるが、明らかに俺のはおかしい

色々疑問は残るが百歩譲ってありえるとして、俺をパワーアップさせて何のメリットがあるんだ

それに、ヴィータやシグナムと戦う時に発生した黒い風や炎

今考えれば、あれらの威力も上がっていた

考えてみると、漆黒の炎も風も意識して発現させているわけではない

プレッヂの能力かとも思ったが、それはプレッヂ自身に否定されている

なら、何かあるのは必至

プレッヂを手に入れた遺跡が関係するのかもしれない


「なぁ、プレッヂ。本当に何もわからないのか?」


「……うん。でも、わからないと言うか権限がないみたいな感じなの」


何がいいたいかは何となくわかった

プレッヂの表情から察するに記憶はあるのだけど何らかの力によって思い出すことができないと言ったところか

にわかに信じがたい話だが、それを言ったら魔法の存在自体が信じがたい物だ

だから、プレッヂの創造者で俺に力を与える存在がいたとしても不思議ではない


「わからないことだらけだが、別段俺の能力があがって損はない。何かあればその時に対応すればいい」


「そうだね。…………それにね、多分だけど敵じゃないよ」


プレッヂは、そう微笑むが俺はそこまで楽観的には考えない

あくまで、今回に関しては利害が一致しての行動だろう

それか、あちら側の何らかの都合による行為

つまり、いつ俺達の敵に回ってもおかしくない

それと、さっきのプレッヂの反応で分かったことがあった

この空間内だけかもしれないが、心は俺の意志によって読めないようにすることができる

だが、裏を返せば気を抜けば筒抜けになるのだ


「とりあえずは、ここからどうやって抜け出すかだな」


「精神世界なら時間が経てば出れるんじゃないの? 寝てるのと同じ状態なんだし」


そういえば倒れたんだったな

うむ、下手したら体がズタボロになっているかもしれない

い、今更ながら少し後悔する

もうちょっと神速を使うのを抑えておけばよかった

しかも、二段がけまでしたし

師匠に知られたら地獄に放り込まれるやも知れない


「どうしたの青い顔して」


「……いや、なんでもない」


少し昔を思い出しただけだ

師匠に言われた以上に無茶な鍛錬をした時のな

あれは地獄など生ぬるいと感じるぐらいの物だった

絶対、師匠に神速を使いまくったことはばれない様にしなければ


「ねぇ恭也」


「なんだ?」


「どうやって時間潰すの?」


ふむ、疲弊しきっているからな

体力が戻るには一日ぐらいかかるだろう

と、言っても時間の概念がなさそうな場所だからな、ここは

…………手の感覚、足の感覚、魔法の感覚、小太刀、相手、全部あるな

それに、疲れは感じないようだ

何て素晴らしい環境なのだろうか


「な、なんか顔が恐いよ」


「元からこんなものだ。それより、どうやって時間を潰すかと言ったなぁ」


「激しく嫌な予感がするんだけど」


何となく予感しているのか顔が引きつっている

まぁ、俺の鍛錬の一部始終を知っているのだからな




「できる限りまで模擬戦だ」




「やっぱりぃぃぃ〜!!」
















「ふむ、こんなところか」


「し、死ぬ……」


あれから体感時間24時間ぐらい鍛錬し続けた両名

疲れを感じないし、魔力も減らないため、そう言った意味では万全なプレッヂだが

何度も吹っ飛ばされ、投げられ、斬られたら精神的に疲弊する

やり返そうにも自分が何をできるかわからないため、どうしようもなかった

それでも時間が経つにつれ理解したらしく魔法を使用していた

だが、相手が悪すぎた

恭也は、難なく避け、叩き切り、弾き、防いだ

その中には、なのはのスターライトブレイカーに匹敵する威力もあった


「ねぇ、恭也」


「なんだ」


「さっきから気になってたんだけど、そんな小太刀持ってたっけ?」


プレッヂは、恭也が左手に持つ小太刀を指差した

今までは、無名の業物を使っていたのだが明らかにそれはデバイスだった

ちなみに右手には、意志のないプレッヂを持っている


「いや、いつの間にかあったのだ。妙に手に馴染むから使っていたが」


「でも、同時に二つのデバイスを扱うことってできるもんなの?」


「色々試してみたが、これといって問題点はなかった」


嬉しそうな恭也

これまでは、魔法はプレッヂでしか使ず、色々と不便だった

実質、ヴォルケンリッター戦でも両方で魔法を使えたら有利にできた場面がいくつもあった

それに、今まで少なくない回数の修羅場を戦ってきた小太刀は、今回ので使い物にならなくなっている

魔法に耐えれる小太刀を探すのは霊力に耐えれる小太刀と同等かそれ以上に難しい

恭也も、あの小太刀以外は持っていない


「う〜ん、意志はないんだよね」


「ああ」


「ふ〜ん、ならいいか」


プレッヂとしては自分の居場所を奪われかねないと懸念していたが、どうやら意志が無さそうなので文句を言うのをやめた

そんな内心を知ってか知らずか、恭也は一度小太刀を振るうと満足気に鞘に収めた

そもそも、この空間で手に入れたのが現実世界にあるとは限らないのだが、二人はそんな可能性に全く気づいていなかった


「ん、そろそろ戻れそうだな」


「わかるの?」


「何となくだがな」


すると、プレッヂは一瞬寂しそうな表情をした

鈍感だが妙に鋭い恭也は、それを見逃さない


「どうした」


「はぁ、なんでこんな時だけ鋭いのかな」


ため息をつくが、どことなく嬉しそうだった

言葉には出さないが、心配してくれるのが嬉しいのだ


「そうか。……む」


「終わりのようね……」


黒く染められた空間が明るくなっていく

それにつれて少しずつ恭也の姿が薄れる


「また、会えるかな?」


「いつでも会えるじゃないか」


「バカ。この姿でよ」


言葉の意味を理解した恭也は微笑む

それが答だったのかプレッヂも嬉しそうに微笑み返した

一時の夢が終わる

だが……






「なっ!?(えっ!?)」






巨大な謎が残った




新たに幾つかの謎が。
美姫 「うーん、これは何を意味するのかしらね」
とりあえずは、今の所はパワーアップできたという事で良いのかな。
美姫 「今後、何が起こるのかしら」
ワクワクしながら、次回を待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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