「あちゃ、これはあかんかもしれへん」

一部始終、ユウヤ達の試験状況を見ていたはやてはそう呟いた。本当はもう一組の状況をメインスクリーンで見たかったが隣にいる親友が心配そうな表情で釘付けとなっており、見ることが出来なかった。もし、ここで変えようものなら物凄い睨み顔でこっちを見てきただろう。まあ、自分の娘がピンチになっているのだからしょうがないとはやては自分の傍らに小さなモニターを開き、もう一組の様子を見る。

だが、モニターには何も映し出されていなかった。どうやら、そっちでも何かあったみたいだ。

(……なのはちゃん、どないしたん?)

はやては念話で違う場所で二組の様子を見ているなのはに連絡をする。

(はやてちゃん。どうやら、流れ弾が当たっちゃったみたい)

なのはは冷静に状況を説明する。

(そだったんや)

(そっちでも見てたんじゃないの?)

(フェイトちゃんがフィオナに釘付けで見てないんよ)

(あー……)

なのはも今、はやての隣にいるはフェイトの姿を思い浮かべたのだろう。何処か納得したような頷きだった。

(こっちでも随時監督するけど、これからスバル達に何かあったのか確認してくるからはやてちゃん、そっち任せていい?)

(ええよ。一応、私も監督や。それに特例魔導師試験は記録を撮っておかなきゃいけない決まりやし。だから、そっちの方に集中してくれてもええよ)

(うん、分かった。じゃ、よろしくね、はやてちゃん)

念話が途切れる。はやてはなのはを信頼して小さなモニターを切り、メインモニターに集中する事にした。未だにフェイトはこの世の終わりかのような表情を浮かべている。

「……フィオナ」

「大丈夫や、フェイトちゃん。ユウヤ二等空士は回復魔法を取得しているから怪我をしても治っているはずや」

「そうだけど……ねえ、はやてから見てこのままだとどうなる?」

フェイトは一旦、モニターから目を離し、はやてを見た。はやてはフェイトの問いにどう答えたほうが良いか考えるが、すぐに結論が出たようで迷いなき目でフェイトを見る。

「フェイトちゃんも分かっていると思うけど、はっきり言って状況はきびしいわ。

特例魔導師試験は敵機の全滅が最低ラインなんよ。そこから、全滅までの時間、戦略、コンビネーションなどを判断して合否を判断するんや」

特例魔導師試験はかなり難しい。一人前の魔導師でも厳しい内容であるにもかかわらずこの試験を受けられるのは二十歳以下で軍曹以下の魔導師だけなのだ。なので、合格者が出る年もあれば、出ない年もあるのだ。

その代わり合格した人は魔導師ランクが二つ上がり、一階級昇進が約束されている。

「じゃ、やっぱり不合格になっちゃうのかな……」

「いや、それは違うで、フェイトちゃん。

敵の全滅が最低ラインなんよ。だから、敵の全滅さえできればまだ可能性があるんや」

合格者と不合格者の決定的な違いは敵の全滅したかどうかである。通常では全滅するわけがないのだ。試験を受ける者達の実力ではクリアができないように設定が施されている。

だからこそ、それを乗り越えた者はどんなに苦戦をしていてもマイナス要素にはなりえない。どのように乗り越えたかを判断基準にしているのだ。

「だから、フェイトちゃん。心配なのは分かるけど信じようや、きっと大丈夫だから」

「……うん」

少しだけフェイトの顔に笑みが浮かぶ。はやてはこれからのユウヤ達の今後の活躍にただ願うばかりであった。

 

「よし、行くぞ!」

勢いよく、割れた窓から飛び出す。空中魔法で浮き、杖を構える。

策敵していたU型がこちらを向き、地上にいるT型も獲物を見つけた狩人のようにこっちに向かってくることを確認する。

(T型八機にU型が六機、こっちに向かって来ている)

(了解)

自分の後に勢いよく、フィオナが飛び降りた。U型が反応するが既に用意しておいた魔法弾を撃つ。無効化されてしまうが一時的に動きが止まるため、重力任せて落ちるフィオナに攻撃することができない。

無事に地上に降り立ったフィオナを確認する。魔法弾を生成、射出するのをやめ、U型に向かって飛ぶ。襲い来るミサイルをくぐり抜け、U型を通り抜けた。

U型は追跡してくる。それを確認した後、下降し始める。すると向こうもこっちの動きを連動して下降してきた。立ち並ぶビルに向かい、不規則な動きをしながらかわしていく。

すると、二機は追跡し、残りは回り込もうと迂回したようだ。

それは予想の範囲内だ。

魔法弾を生成し、U型ではなく前にあるビルに向かって撃った。ビルに見事命中し、自分が通り抜けた瞬間、崩れ出す。後ろから付いてきたU型は瓦礫の下敷きとなり、姿が消えた。

周辺にあったビルが崩れたことにより、回り込みしていた残りの姿が現れた。

これで、残りも倒す事ができる。

既に上空に魔法が発動されている。そこにはビルが崩れたことによって生じた破片が浮かんでいた。その周りに輪っか型の魔法陣が巻きついている。

敵の位置を確認し、物質加速型射撃魔法を発動する。破片が音速に近い速度でU型へ飛んでいく。破片はU型を貫通し、遠く彼方へと消えていった。

(六機撃破。残りが今の騒ぎでこっちに接近中)

すかさず、連絡を入れる。

(こっちも三機撃破。そっちの残りはいくつ?)

(今、新たに六機を確認。他にも数は確認できないがいる。後、南にT型五機を確認、そっちに向かっている)

(了解。では、さっきの話したフォーメンションBを実行)

(了解。そのまま下降する)

こちらに向かってくる敵に背中を見せ、下降し続ける。地上すれすれまで下降し、水平飛行に移る。そこで振り返る。

敵は六機。杖を高々と掲げる。杖の先から閃光がほとばしる。

さっきと同じ目くらまし。

またU型の動きが止まる。けど、今度は時間稼ぎをするために逃げたりしない。

光がなくなる。

U型は自分が逃げていると思っていたらしく未だに動きが止まっている。

「……ウイングザンバー!」

そんな時、U型の間を何かが通り過ぎた。

その後に全機が真っ二つにずれ、爆発した。

(撃退完了)

念話でフィオナが伝える。今の刹那をフィオナがやったことを証明付ける。通り過ぎた方を見ると双剣を両手に握っているフィオナが空中にいた。

すると、右から後を追っていたT型が出現した。自分の姿を確認すると動きを止め、アイカメラが大きく開いた。自分は笑みをあげる。

「予想通り」

移動中のT型の下から魔法陣が浮かぶ。次の瞬間、T型の下に発生した水の槍が全機を貫いた。バリアを張り、爆発から逃れる。

ビルから飛び降りてから数分。

流れるような動きで今まで苦戦していた相手に自分達が圧倒していた。素直に驚く。

まさか、こんなにうまく行くとは思っていなかった。

『まず、T型とU型は多分、個々に対応するように設定されていると思うの』

あのビルの中でフィオナはそう言った。

『設定?』

『多分、U型は空士にT型は陸士をターゲットするように優先順位がされていると思うの』

『なるほど。それを最初から各個撃破するように自分が提案してしまって気付くのが遅れてしまったのか』

確かに、U型もフィオナを狙うことができたのにもかかわらず行こうとしていなかった。最初から二人を隔離するように設定されていたのか。

そして、後は囲んで追い込み、撃墜させるというのが向こうのシナリオ。

『ごめん、これは自分のミスだ』

『いいよ。パートナーだし。

申し訳ないと思っているのならこれからの連携で挽回しよ』

フィオナが励ます。今まで無口で何とも掴めない娘だと思っていたけど今、はっきり分かる。彼女はとても優しく、強い娘だと。

そして、今なら……フィオナとならこの絶望的な状況を何とかやっていける。

『となると、自分達が一緒にいる時だと動きを止めるな』

『そうなの?』

『ああ。けど、ただ一緒にいるだけじゃいけない。

例えば、U型は自分をターゲットとしている。そこにフィオナが強襲する。U型は自分を守るために対応する。そこに自分が追撃したら……』

『優先順位が邪魔をしてどう対応をしていいか分からなくなる?』

『そう。

後、もう一つ。今までフィオナを追っていたT型の前に僕が立ち塞がっているとする。それだけでも動きが止まるかもしれない。そこにこの状況をくぐり抜ける糸口がある』

突破口が開けた気がした。フィオナの口も笑みを浮かべ、いけると言った。

その通り、うまくいったのだ。

二人が一緒になった時、わずかだがガジェット達の動きが鈍くなった。

その隙をついての攻撃。それが成功したのだ。

いける。

これだったらいける。

「ユウヤ!」

こっちに走ってくるフィオナ。

このコンビネーションを成功した一番の要因はフィオナにある。フィオナは間の取り方が絶妙である。さっきの一連の動きでよく分かった。

フィオナはこっちが攻撃してきて欲しいと思った時に攻撃をしてきた。

それだけではなく、特定空間に仕掛けていた攻撃にT型を誘導し、自分だけはかからないように回避していたのだ。

T型を対応しながら絶妙なタイミングでこっちへの攻撃を加え、なおかつ仕掛けをもかかっていなかったかのようにこなしたのだ。

多分、現状の状況を考えながら、こちらの状況をシュミレーションして予測していたのではないか。そうだとしたらそれは物凄い事である。

そんなマルチタスク、自分には到底できない。

けど。

「うまくいったね」

自然とフィオナの頭を撫でる。フィオナも驚いていたが、嫌がっていなかったので撫で続ける。こちらも負けていられない。こっちはこっちでやれることをやってみせる。

「……うん」

「よし、敵はまだまだ来るし、ゴールにも行かなくてはいかなくてはいけない。

この調子で行こう」

「うん」

杖を構える。フィオナも一緒にして双剣を構え、お互い笑顔を浮かべる。

フィオナと一緒に駆け出す。

この時、自分は試験の最中だというのに楽しくて仕方がなかった。

 

「まさか、こんなに変わるやなんて」

目の前の出来事にはやてとフェイトはにわかに信じられないでいた。

フィオナがビルの中に吹き飛ばされ、ユウヤが後を追ってから数分。

二人はさっきまでとはまるで打って変わっての動きを見せていた。

息のあったコンビネーション。

多彩なバリエーション。

敵の弱点を知った上での戦略。

その全ての項目が一つにまとまっている。手も足も出なかったガジェット達を難なく撃墜させていっているのだ。

一体、あの数分の間に何があったのかというのか。

はやてはただ、疑問に思うばかりであった。

「さすが、フィオナ」

ほんの少し前までは心配しすぎて倒れるのではないかと思われていたフェイトがそう呟いた。

「なんや、フェイトちゃん。さすがって」

フェイトの台詞にはやてが反応する。

「フィオナは周りの人に合わせるのがとても上手なの。

以前、二人で模擬戦やったりとかしたけど。コンビネーションを使った練習の時が一番、動きもよかった」

フェイトは嬉しそうに答える。その表情から自分の子を褒める母親のように見えた。

「何でコンビネーションの時が一番、ええ動きができるんや?」

「以前、フィオナに聞いたんだけど私がどういう風に感じて動いているのかを常に考えて、私が攻撃を加えてほしい瞬間を見つけて、それを絶妙なタイミングでやる。

それができた時の達成感が楽しいって言っていたの」

口では簡単に言っているけどそれは大変なことではないかとはやては心の中で思った。

確かに、自分の率いる守護騎士達との連携をする際、後方支援の自分は皆の動きを見て行動を読み、詠唱を行い、攻撃をしている。それが、コンビネーションであり、勝利するために絶対必要な戦略でもあるからだ。

けど、フィオナはそれの域を超えているように思えた。

パートナーである人の思考をも読み、自分の置かれている状況と重ねながら行動をしていのだ。それは既にコンビネーションではなく同調。

もう一人の自分がいるということになる。

それを行うためにどれだけの工程を踏んでいるのか、考えるだけで気が遠そうに感じるはやてであった。

「けど、そんなこと可能なんか? 考えただけで頭痛くなるわ」

「うん、私も半信半疑だったんだけどね。けど、一緒にやっていって確信に変わったよ。

多分、フィオナだけが使える能力だろうね」

「はぁ〜、だからあんなに動きがよくなったんか」

「ううん、それだけじゃないよ。ユウヤ二等空士もすごいんだよ」

フェイトは続ける。

「ユウヤ二等空士は空間認識能力が非常に広い。けど、突撃思考があるみたいで損している所もあるけど、それでも高い。現に、そこが弱いフィオナが一人で持ちこたえられていたのも納得するし」

フィオナは凄い能力がある反面、空間認識能力が欠如していた。目の前の出来事とパートナーの予想で頭がいっぱいになり、目に入らない所までの反応ができていないのだ。

そのことを知っているフェイトはユウヤ二等空士が随時、フィオナに敵の位置を教えているのだろうと考えた。

そうすれば、フィオナ一人でも何とか一人で持ち込めるほどの実力を持っているとユウヤ二等空士は思ったのだろう。その鋭い観察眼にフェイトは感嘆する。

「後、戦術も豊富。砲撃魔法を始め、回復魔法に物質射撃魔法、それに拘束魔法など幅広くて、状況に応じての戦術を変える能力も長けている。そんな二人が息の合ったコンビネーションをしているからこそ今の結果になったんだよ」

フェイトの説明を受けてはやては納得する。

既に敵機の数も随分少なくなり、全滅するのも時間の問題となっている。

「うん。この様子だといけるわ。

時間的な区間での撃墜数から考えると十分に評価されてもおかしくない」

「うん」

「けど、あの二人……あのあんな短時間でどないやって仲よおなったんやろな」

「フィオナは誰にでも仲良くなれる子だけど……かなり興味があるね」

フェイトが少し鋭い表情をする。まるで、娘が恋人を連れてきた母親の顔ではないか。

それを見たはやては思わず笑ってします。

「ははっ、フェイトちゃんあかんよ。嫉妬は」

「し、嫉妬なんてしてないよ!」

「いやいや、嫉妬しとるよ。

あかんよ、フェイトちゃん。試験終わった後にユウヤ二等空士に尋問したりしたら」

「そ、そんなことしないよ!」

「じゃ、フィオナにこっそり教えてもらうんか?

あの子はフェイトちゃんの言う事なら何でも聞いちゃう素直な子やしね」

「う、それはちょっと思ったけど」

「思ったんかい!」

思わずツッコミをいれてしまったはやて。

その鋭いツッコミはフィオナにも負けずと劣らず絶妙なタイミングだった。

「はぁ、フェイトちゃんの親バカ振りには心配させられるわ」

「お、親バカじゃないよ!」

「いいんや、フィオナもフィオナだけど、フェイトちゃんもフェイトちゃんや。

そんな調子じゃ、エリオ達も大変やろうな」

「エリオとキャロは……フィオナみたいに頼ってこないもの」

しまった、とはやては今になって気付く。

フェイトの前にエリオとキャロの話をするのは禁句だった。

「ねぇ、はやて。どうして、あの二人はフィオナみたいに私に甘えてこないんだろう」

始まった。

はやては逃げられない運命に絶望する。

それは、フェイトの子育て相談。

エリオとキャロとフェイトの間ではある問題が発生している。それは、フェイトはエリオとキャロの前ではちゃんとした母親であろうとしているためにまったく隙がないのだ。

それをエリオとキャロはどうしてそんな風に考えたのか隙がまったくないフェイトに迷惑をかけて隙を与えたくないと思っているらしい。それと、フェイトの役に立ちたくて、そのためには自分達がしっかりしないといけないとも言っていた。

それは以前、はやてがこっそりと二人に聞いた二人が思っているフェイトに対する評価だった。

はやては母親なんだから甘えてもええんじゃないかと言ったのだが、二人はどう甘えていいか分からないと言っていた。フィオナを見習えばとも提案したが二人は何ともいえない顔をしていた。どうやら、あそこまで甘えるフィオナの姿と自分の姿を重ねる事ができないようだ。

まあ、これから一緒にいる時間が増えるんやから時間が解決してくれるやろ、とはやては心の中でため息を吐く。

「ねえ、聞いてるのはやて」

一件落着と勝手に閉幕していたはやてだが、フェイトの子育て相談にはまったくもって終わりの兆しは見えていなかった。

「うん、聞いとるよ」

「それでね、この前、エリオがね……」

どう解決の糸口を言っても納得しないであろうフェイトの愚痴にただはやては早く言い切ることを願うばかりであった。

 

「ラスト!」

大きい車道で一直線上にそびえ立つT型の姿を確認した。魔力を足に集中させながら衝撃を抑えるために全身に魔力の層を張る。

T型がレーザーを撃ってくるが私の前にユウヤが立ちはだかり、バリアを張って守ってくれた。双剣の周りに魔力で発生した薄い風の層ができ、まとわりつく。

「ユウヤ!」

私の声にユウヤは上空に退避する。それを確認して魔法を展開する。

「……ウイングザンバー!」

次の瞬間、全身に襲い掛かる風力を感じ、私の目に入る景色は変わっていた。一つ一つのモーションごとに景色が変わっていき、何があるのか確認できない。

前から来る抵抗力を覆っている魔力で相殺しながら、双剣を操る。

すぐ近くにいたT型を一振りで斬る。それに続いて足を使い、懐に入り、テンポよく次々と切り伏せていく。

T型達には自分のスピードを捉える事ができないのか銅像のように立ち止まっていた。

スピードが徐々になくなり、停止した。

痺れた両腕を上から下へと振る。

ブン、と音をした後、T型の身体が真っ二つに切れ、爆発した。

爆風で二つに分けた髪がなびく。

これで、全ての敵を撃墜したのだ。

「……周りに敵機の気配なし。

多分、今ので最後だね」

ユウヤが降りてきた。避けられた場合の事を想定していたのか周りには魔法弾が浮かんでいた。

「うん、じゃあ後は……」

「ゴールを目指すだけだ」

少しホッとする。油断しない程度に。

「まあ、ゴールするまでは気を抜かないで行こう」

「うん」

ユウヤは宙に浮き、私は走り出す。ゴールはこの車道のすぐ先にあるのだ。

少し走ると小さい何かが浮いているのが分かった。

その何かは管理局の制服を着ており、人型であった。それで私はあそこにいるのが誰かが分かった。

「あ、一組目到着です」

それは、試験の説明をしていたリインであった。私達がゴールをするのと同時にリインはこっちへ飛んできた。

「おめでとうございます! これで特例魔導師試験は終了となります!」

リインが身体いっぱいに両手を広げ、試験終了を告げた。

それを聞いて一気に力が抜け、私は後ろへと倒れこんだ。それをユウヤが受け止める。

「お、おい。大丈夫?」

「フィオナ、大丈夫ですか!」

「……力が出ない」

ユウヤが私の体を地面に降ろす。今までの中で一番、疲れた。

魔力も空っぽ。身体も悲鳴をあげている。今、目を閉じたら確実に夢の世界に旅立てるだろう。

「それはそうだろうね。

あんなに動いたのにあの魔法を使ったら身体が動かなくなるって」

あの魔法とはウイングザンバーの事だろうか。

お母さんのライトニングザンバーにちなんで自分で考えた技。

砲撃魔法が使えなかった私であったが、その代わりに体を一時的に強化し、目にも止まらぬスピードで切り伏せるこの技を編み出した。

だけど、その消費はとても激しい。

お母さんにも一回しか使ってはいけないと言われていたけど、二回使ってしまった。

そのためか、身体が脱力感に満たされる。

「うん。別に身体に異常はないようだね。

しかし、まさか現場責任者さんがこんな小さい人だとは思っていませんでした」

「あー、それはバカにしてませんか?」

「いえいえ、そういうわけではないですけど……」

「ですけど?」

「いえ、何でもありません」

「はぅ、目を逸らしたです!

ちゃんと目を見て話すのです!」

何か、二人の漫才が始まってしまった。それを寝ている状態で聞いている私はくすり、と笑う。

青い空に、心地よい風。

試験をやり終えたのだという達成感に嬉しさがこみ上げる。これで、合格したらと思うとお母さんの嬉しそうな笑顔が思い浮かぶ。

一緒に喜んでくれて私の頭を撫でてくれるだろう。

それが、一番の祝福。

早くその瞬間が来ないかなと思っていたその時。

『ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!』

と、二人の叫び声が聞こえてきた。

何事かと思って身を起こすと遥か先に物凄いスピードでこちらに向かってくる人影がいた。

「あ、二組目が来たです」

リインはおーい、と手を振るが、こちらに向かってくる人影のスピードが一向に落ちる気配がない。というか、逆に増しているような気がする。

「ま、まさか」

「何かちょいやばです」

漫才をしていたユウヤとリインの顔に焦りが浮かぶ。多分、私が今思っていることを二人も思っているはず。このままでは私達が巻き込まれると。

「リンフォースU軍曹! アクセルガードとか使えないんですか!?」

「今、やっている最中です! えへん!」

「誇らしげに言わないで早く発動を!」

こんな時にも関らず漫才を展開する二人。

それに構わず。

『ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!』

と次第に大きくなって聞こえてくる二人の悲鳴。

よく見るとローラーブレードを履いている自分より少し年上のように感じる青い髪が橙色の髪をした青髪の人と同じぐらいの歳の人を背負っていた。

制限時間が迫っていたせいか、何とか間に合わすために全力で走って止まらなくなったのだろうと予測する。

「失礼!」

ユウヤが私の体を持ち上げ、避けようとしたが、視界にあるモノが映った。

「大丈夫」

「いや、どう見てもだいじょうぶに……」

「私じゃなくてあの二人が」

そう言った時に私達の目の前に魔法陣が浮かんだ。次の瞬間には魔法が展開された。

それに向かってローラーブレードの二人は突撃した。

爆発音と白い煙が上がる。

私達の目の前には魔法で作った網と衝撃を緩和させるための棒が出現していた。

その中に、青髪と橙色の髪をした少女が倒れていた。

「むうぅ、二人共危険行為で減点です。

頑張るのはいいですが、怪我をしては元も子もないですよ。そんなんじゃ、魔導師としてはダメダメです!」

宙に浮いて回避運動を取ろうとしていたリインが怒った顔で二人を叱る。

二人共、呆然とした顔でリインを見て、口を揃えて……

『小っさ』

と言った。

「ひどいです! この二人までも!」

リインに怒りの炎を点火させてしまい、叱り続ける。

そこに。

「まあまあ、ちょっとびっくりしたけど無事で良かった」

上空からなのはさんが降りてきた。

バリアジャケットを身に付け、片手には相棒のレイジングハートを持っている。

「とりあえず、試験は終了ね。お疲れ様」

魔法は解除され、二人はゆっくりと地面に降ろされる。

「リインもお疲れ様。ちゃんと試験官できてたよ」

「わぁい、ありがとうございます! なのはさん」

さっきまで怒っていたリインであったがもうその事すら忘れている。

なのはさんはバリアジャケットを解除し、士官の制服に戻った。

「まあ、細かい事は後回しにして……ランスター二等陸士」

「あ、はい」

「足怪我してるね、リインお願い」

「はいです」

リインは颯爽と橙色の少女に寄り、怪我の治療に当たった。青い髪の人は立ち上がり、なのはさんを見る。

「なのはさん……」

「ん?」

「あ、いえ、あの高町教導官……一等空尉!」

「なのはさんでいいよ。みんなそう呼ぶから。

四年ぶりかな……背伸びたね、スバル」

「あ、あのあの……」

「また会えて嬉しいよ」

なのはさんが青い髪の人――スバルさんの頭を撫でると泣く声が聞こえてきた。

「私のこと、覚えててくれたんだ」

「あの、覚えているというか……私、ずっとなのはさんの憧れてて……」

「嬉しいな」

「バスター見て、ちょっとびっくりしたよ」

「あ、あの! それは……」

「後、ユウヤもね」

「えっ!」

突然、指名されたユウヤが驚く。

『す、すいません』

二人揃って謝る。

「あはは、いいよ。そんなの」

なのはさんは笑って許した。どうやら、二人共なのはさんとは知り合いらしい。

上空からヘリの音が聞こえてきた。ヘリは風を起こしながら私達の近くに着陸する。

扉が開く。そこにはお母さんとはやてさんがいた。

お母さんがヘリから降りる。全体を見回して、こっちに目が来た。

笑顔で私の事を迎えてくれるはずと思っていた私だったがここで予想が外れた。私を見つけたお母さんが驚いた顔をし、人差し指をこっちに向けた。

「あああああああぁぁぁぁ!!!」

さっきの二人に負けないぐらいお母さんが叫ぶ。ヘリの音と混ざり威力は半減ではあるけど。何をそんなにお母さんを驚かせたかと思い、観察するとすぐに答えが分かった。

ユウヤが私を抱えたままだったのだ。

それを知ったユウヤが顔を赤くして急いで私を降ろす。

すると、タイミングよくお母さんが顔を真っ赤にしてユウヤの襟を掴んだ。

「どうして、そこまで仲良くなってるの!」

「ええっ!」

ユウヤも意味不明なお母さんの言葉に驚く。

「お母さん、ユウヤは私を助けるために……」

「ユウヤ!」

お母さんがそこの部分に反応する。

「名前まで呼び合うほど仲がいいんだ……」

ふふふふ、と何処からそんな声を出しているのか不思議なぐらい不気味な笑い声がお母さんから聞こえてきた。

えーと。

今まで見た事がないお母さんの一面に私は戸惑う。

「ふ、フェイトちゃん落ち着いて!」

なのはさんが仲裁に入る。その隙にはやてさんがお母さんの両腕を取り、ユウヤから引き離した。

「離してはやて! せめて一言だけでも……」

「一言やなくて、一撃の間違いじゃあらへんか!」

確かにお母さんの手は拳になっていた。一体、ユウヤが何をしたのだろうと私は不思議でしょうがなかった。

「むぐぐぐ……!」

お母さんが何とか逃れようと頑張る。それをさせまいとはやてさんとなのはさんは必死に説得し続ける。私達はただ、呆然とその様子を見ているしかなかった。





フェイトがちょっと親ばかさんに。
美姫 「でも、こういうフェイトも良いわよね」
確かに。フィオナとユウヤの二人により、これからどんな風に進んでいくんだろう。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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