機動六課、着任式の日がやってきた。

ミッドチルダ中央区画湾岸地区にできた新しくきれいな隊舎。

湾岸の近くに立っているため、潮の匂いが風に乗り、鼻孔をくすぐる。

まったく違う環境なのに雰囲気がなのは達の故郷、海鳴市に何処か似ていた。

そんな隊舎の中で順調に着任式は進められていた。

制服を身にまとったはやてを始め、隣にははやてと同じ制服を着ているなのはとフェイトが立っており、その反対側では眼鏡をかけた部隊長補佐のグリフィス・ロウランの姿があった。その横にははやての守護騎士であり、ヴォルケンリッターであるシグナムとヴィータ、シャマルが己の主を見守っていた。

そして、その向かいには今日から共に過ごす隊員達がいた。

フォアードの六人から始まり、ロングアーチ、バックヤードスタッフなど。

皆、真剣にはやての言葉に耳を傾けていた。

「全員が一丸となって事件に立ち向かっていけると信じています……ま、長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした」

拍手が会場内に鳴り響く。

皆がこれからの仕事に向けて気合を入れていたその時。どこからか軽快な音楽が流れてきた。子供のお遊戯に使われているような音楽が。

「……なんや、この音楽?」

はやては音がする方向に身体を向ける。皆もはやてに続きその方向を見た。
そこにはぬいぐるみがいた。

正確に言うと着ぐるみだ。

たぬきにも見えるぬいぐるみが全体のバランスを無視した、やけに長い足を交互にステップしながら片手にあるラッパを鳴らし、もう片手にはくす玉みたいなものを持っていた。笑顔を保っている顔からさっきから流れている音楽が漏れているのがわかり、止まらずに鳴り続けている。

「おい、そこの何をしている」

怪しいと判断したシグナムがぬいぐるみに歩み寄る。

ぬいぐるみはその場から動かず、音楽を止めた。あきらかにシグナムが来るのを待ち受けている。それを感じたシグナムが射程内である距離で立ち止まった。

「お前、何者だ」

パフ。

ぬいぐるみがラッパの音で答えた。

そのバカにしているかのような返答にシグナムの額に筋が浮かぶ。

「私をバカにしてるのか」

パフ、パフ。

笑顔のぬいぐるみはラッパを二回押した。その変わらぬ笑顔にシグナムは怒りを覚えた。自分がバカにされたように思えたのだ。シグナムは返答がないたぬきのぬいぐるみを着ている正体を知るために頭の被り物を取ろうと手を伸ばす。

だが、ぬいぐるみはその手を弾き返した。そして、シグナムに向けてクイクイ、と親指以外の四本の指を何度も曲げ、戻した。

その挑発的な態度にシグナムはかちんときた。

何とか剥いでやろうと頭を狙う。

それを予測していたかのようにぬいぐるみは華麗なステップで避けた。おまけにラッパを一回鳴らす。

パフ。

「き、貴様……!」

シグナムは頭に血が昇り、躍起になって頭を剥ぎ取ろうとする。だが、怒りすぎて周りが見えておらず、頭しか狙っていないと知ったぬいぐるみは動きにくそうな衣装で避け続ける。まるで、端から見ていると音楽に乗って二人が踊っているかのように見えた。

「この……!」

パフ。

避けられる。

「いい加減に……!」

パフ、パフ。

また避けられる。

「しろ……!」

パフ、パフ、パフ。

かすりはするものの掴むところまでいかないシグナム。その苛立ちから自分の愛剣・レバンティンを取り出し、魔力行使しようと思った時、隙が生まれる。

ぬいぐるみの目が光り、その隙を逃さなかった。

ぬいぐるみにしては長い足を使ってシグナムの足を引っ掛けたのだ。

「なっ……!」

レバンティンを取り出そうとしたシグナムは体勢を保つ事ができず、後ろへと倒れてしまった。シグナムを含んだ皆が唖然となり、時間が止まった。

パフ、パフ。

だが、この雰囲気に不釣合いのラッパの音が鳴る。

「き、貴様ああぁぁ……!」

だが、そんな静かな時間も束の間、可愛らしいたぬきのぬいぐるみに翻弄され、倒されてしまったシグナムはその恥ずかしさと怒りから顔を真っ赤にし、レバンティンを取り出した。さすがのぬいぐるみも予想外だったのか笑顔の中にも焦りが見て分かる。

そのシグナムのただならぬ雰囲気に皆が慌て始めた時。

「こら、シグナムやめい。できたばかりの隊舎を壊す気なん?」

突如、ぬいぐるみの登場に唖然としていたはやてであったが、冷静さを取り戻し、制止させた。

「で、ですが……主」

主の命令に正気を取り戻すシグナム。だが、怒りが収まらないのかわずかな抵抗を試みる。

「ですがもヘチマもあらへんよ。それとそこのたぬきのぬいぐるみさん、一体何しにきたんですか?」

ぬいぐるみは嬉しいのかジャンプをし、手にあったクス玉をはやてに差し出した。

「これをうちに……?」

ぬいぐるみは何回も頷いた。何となく、ぬいぐるみの正体を分かっていたはやては受け取るかどうか悩む。もし、正体が当たっていたらロクなことにならないと経験から知っていた。

だが、このクス玉の正体が何なのか周りは気にしており、受け取らざるえない雰囲気となっている。はやては内心ため息をつきながらしぶしぶ受け取り、自分が演説していた場所へと設置する。

そして、クス玉に伸びていた紐を引っ張った。

クス玉は真っ二つに割れた。

そこから長細い白い紙と紙でできた桜吹雪が落ちてきた。白い紙にはこう書かれていた。

“はやて、部隊長おめでとう!”

着ぐるみの顔からクラッカーが鳴ったようなBGMが流れる。しかも拍手音付きだ。
ぬいぐるみが拍手をし、皆に促すようにする。
皆もそれに釣られて拍手をした。

まったくもってこのぬいぐるみは何をしたいのか?

最初は唖然として思考を停止していた人達にそう疑問が浮かんだ。祝いたいのであれば着ぐるみである必要はないのではないのか?

と、様々な疑問が浮かんだ瞬間、目の前に大きなスクリーンが浮かんだ。そこには上空から取った機動六課の映像が映し出されていた。

すると、エフェクトでタイトルが浮かび上がる。

タイトルにはこう表示されていた。


“魔法少女リリカルはやて! 〜機動六課ができるまでの軌跡〜”


「な、なんやこれ〜!」

一目散にはやてが反応する。映像は切り替わり、幼少時代のはやての姿が現れた。どうやら、局員になりたての頃の映像のようだ。顔は幼く、何処か緊張した面持ちだった。

“全てはここから始まりました……”

何処かで聞き覚えのあるナレーションが入る。

「始まらんでええ! てか、映像止めて!」

恥ずかしさから顔が真っ赤になったはやては錯乱しており、皆に背中を見せた状態でスクリーンの前で両手を左右に振り、見せないようにする。その間、グリフィスらが映像を消そうとするが、何処から映し出させているのかが分からなかった。

その間にもはやての映像は流れる。

真剣に仕事に励んでいるはやて。

問題があったらしく悩んでいるはやて。

笑顔を浮かべているはやて。

どれも本人が撮られていると知らないようなアングルから撮られていた。

そんな地上部隊の切り札とも言われた偉大な人物の知られざる姿を見て、急いで消そうとしている指揮官の人以外は再度唖然させられる。フィオナだけがかわいいと思い、うきうきとした気持ちで釘付けとなっていたが。

「はよ、消してええぇぇ!」

「なのはさん、多分、出力装置はあのクス玉の中です!」

グリフィスの回答になのはは頷き、クス玉に攻撃した。クス玉は急落下し、床に叩きつけられる。そこには出力装置であろう壊れた機械の姿があった。

映像も消え、はやては床に座り込む。

またしても静寂な時間がやって来た。

パフ、パフ。

そして、またしても場違いなラッパの音がぬいぐるみから聞こえてきた。

その音を聞き、はやての身体がぴくっと反応した。

そして、振り向く。

そこには鬼がいた。

目から涙を浮かべているが目は釣りあがっており、怒りの形相だった。皆が身を一歩退いた。付き合いが長かったなのはやフェイト、ヴォルケンリッターですら見たことがなかった。

「しぃぐぅなぁむぅ」

「な、何でしょうか……ぶ、部隊長」

はやてに気押されたシグナムはこれ以上、鬼を進行させまいと言葉を選ぶ。

「そこにおる、バカを捕まえてくれるか?」

「喜んで!」

言うの早く、シグナムは今までないほどの素早さでぬいぐるみの後ろを取り、捕獲した。ぬいぐるみもシグナムの変わりように反応できず、拘束された。
鬼がゆっくりと立ち上がる。

「何か、言う事はあるかぁ?」

鬼が笑う。その笑顔は恐怖を増長させた。誰もはやてを止める者はいない。
はやてがぬいぐるみの前に立つ。

「なぁんか、言いたぁいことあるかぁ?」

「…………」

パフ。

ラッパで返事をしたぬいぐるみ。その直後、床に何かが落ちる音がした。

いつの間にかぬいぐるみが持っていたラッパがはやてによってはたき落とされていた。まさに、音速を超えた攻撃だ。

だが、そんなことで怒りが収まるはやてではなかった。

右手にできた拳にはオーラがまとっていた。それを見たぬいぐるみが避けようと抵抗する。

シグナムも必死に拘束が解けないように力をいれる。

「歯ぁ、くいしばり!」

はやての鉄拳が火を吹いた。顔面に来ると思っていたぬいぐるみだったがはやてはその上を行く。着ぐるみの所で薄かったお腹部分に拳を連打した。

オーラをまとった拳がぬいぐるみのお腹へと吸い込まれていく。鈍い音が遠く離れたフォワード陣まで聞こえてくる。そして、ぬいぐるみの内部から悲鳴にも近い声が聞こえてきた。

着任式は当初とは姿を変え、これからやっていけるか不安に感じた隊員達であった。



「はやてめ、こんなに痛めつけて……痛くて今日は何も食べられないじゃないか」

制服姿のカイルがお腹に手を押さえ前かがみになって歩いていた。

腕には着任式をめちゃくちゃにしたたぬきの着ぐるみがぶら下がっていた。そう、先ほどまでカイルはその着ぐるみを着ていたのだ。

あの後、はやての怒りが収まるまで、ぬいぐるみもといカイルはお腹を殴られ続けた。途中で失神していたのだが、シグナムが無理やり立たせ、的にし続けていたのだ。

そして、攻撃は数分続いた。殴られた時の反動か頭の被り物は床に転がっており、そこには気絶していたカイルは放り出され、着任式は終了した。

各人、気まずくなってしまったはやての指示に従い職場に就いたのだった。

カイルは完璧に放置。

なのはとフェイトは行方不明となっていた友人の再会に驚いたが相変らずの行動に感動を通り越して呆れてしまった。なのははこれからフォワード陣の訓練があったため、フェイトが残ってカイルが目覚めるまで看病していたのだった。

「あれは、カイルがいけないんだよ」

カイルの隣でフェイトが心配そうに言う。

目が覚めたカイル事務所の場所が分からないということでフェイトが案内を買って出たのだ。

「けど、俺は皆にはやてのことを知ってもらおうとだな……」

「半分はからかう意味であんなことやったんでしょ」

「まあ、ね」

「もう、どうしてはやてにはあんなことをするの?」

「だって、面白いじゃないか」

カイルの言葉にフェイトは眉が険しくなる。

「もう、はやても、もうただの捜査官じゃなくて部隊長なんだよ。少しでも問題を起こしたら責任を取らされる場所に立っているんだからからかうのはやめてほしい。

もし、はやてに今日みたいなことをするんなら……私、カイルと絶交するよ」

いくらなんでもあれはやり過ぎである。昔からはやてに対してはからかっていたカイルだったが今日は度が過ぎていた。もし、今後そういう風に友人であるはやてに接するのなら然るべき処置をしようとまでフェイトは考えていた。

カイルが立ち止まる。

それにつられフェイトも立ち止まる。

「……本当は、さ」

カイルから発せられた声の重さが変わった。

「……うん」

フェイトは真剣に受け止め、頷く。

「はやてはそんなにすごいやつじゃないと知らせたかったんだ」

「すごいやつ……?」

「ああ。はやては他では地上部隊の切り札とか、レアスキル持ちとかって思われているみたいなんだ」

それはフェイトの耳にも入っている。はやてはただ、目の前の任務を一生懸命やっていただけなのだが周りは崇高な印象を持ってしまっていたのだ。それは時には役に立つ時もあるが、ほとんどははやてにとって邪魔でしかなかった。

それは、その名誉によって初めて会う人達が心を開かないということ。

中には開いてくれる人がいるが少人数。名誉という看板がはやてを別次元の存在へと変えているのだ。

「だから、俺なりの方法ではやてはただの19歳の少女だということを教えようと思ってやったんだ」

「……他にもやりようがあるんだと思ったんだけど」

「けど、前のイメージは完璧に破壊できただろ?」

「確かにそうだけど……やりすぎだよ」

カイルの真意を聞き、納得したフェイトであったが、先ほどの行動を許すわけにはいかない。そんなフェイトの心情を知ったカイルは急いでフォローする。

「だが、今日みたいなことはしない。
あれはちょいとした荒治療さ。後は少しずつやっていけば自然とはやても他の隊員と馴染めると思う」

「逆に馴染めないような気がするけど……」

「うっ」

「けど、カイルがもうあんなことをしないなら、協力するよ。私もなのはも思ってたことだったし」

フェイトもはやての事が心配でどうしようかはなのはと相談はしていたが、カイルの奇抜な行動のおかげで大半の事は達成したと判断する。

後は、少しずつフォローをしていけばいい。最初は気まずいと思うだろうが、時間がそれを溶かしてくれると信じて。

「ああ、できれば頼むよ。じゃ、再び案内を頼むよ」

カイルは歩くのを再開させるが、フェイトが一向に動こうとはしない。不思議に思ったカイルはフェイトの隣で止まる。

フェイトは身体をカイルの方へ真正面に向けた。

「……どうしたんだ、フェイト」

「もう一つ、聞きたいことがあるの」

真剣な眼差しのフェイトを見て、再度身構えるカイル。立ち向かうため、身体をフェイトに向ける。少しの間、見つめ合い続けた。

「……何だ?」

「どうして、いなくなる前に私に相談しなかったの?」

カイルとフェイトは執務官になる前に知り合った。

正確に言えば、執務官試験の時に二人は知り合ったのだ。

それはフェイトが三回目の執務官試験を受けた時のこと。当時、フェイトは二回も執務官試験に落ちており、精神的にも辛かった時期であった。新しくできた家族にこれ以上、負担になりたくないとフェイトは思っていた。

母親であるリンディは気にしなくてよい、と言ってくれたが受からなければ自分には居場所がないとさえフェイトは考えていたのだ。

執務官試験への対策をしてくれたクロノのためにも。

それを見守ってきたリンディやエイミィのためにも。

そして、自分の怪我のせいで万全な状態で受けれず、落ちてしまったと思っているなのはのためにも。この三回目で合格しなくてはいけないとフェイトは奮起する。
そんな中、迎えた三回目の執務試験。

受ける受験者の中で顔見知りの人がいた。

それがカイル・アイマールという人物。

一回目と二回目、そして今回の三回目で会ったということは自分と同じく落ち続けているのだとフェイトは自分と同じ境遇に親近感を湧いていた。

そんな時にカイルからフェイトに話しかけてきたのだ。

カイルもフェイトが落ち続けていることに気付いており、試験までの時間をお互い励まし合った。そして、執務試験の開始。

全ての試験を終えたフェイトを先に終えたカイルが待っており、食事に誘ってきた。当時、付き合っていたカイルの恋人であるエリと一緒に。

最初は悪いと思い断ったのだがエリがぜひとの事で、フェイトはリンディに事情を話し、食事に同行した。その時間はとても楽しかったようでずっと笑顔が絶えなく、様々な話をしていった。

お互いの執務官試験での苦労話。

カイルとエリの知り合ったきっかけ。

フェイト自身のこと。

その時間だけでフェイトとエリは仲良くなり、恋愛についての話までになった。それに関しては経験もなく考えた事もなかったので困り顔であったフェイトであったがこんなカップルになれたらいいなという風に感じた。

楽しさが時間を忘れ、あっという間に過ぎ去っていった。

お互い、連絡先を交換しフェイトとカイル達は別れた。

そして、数日後、フェイトに執務官試験が合格したとの通知が来る。すかさずエリに連絡した。カイルの方も合格したと聞き、リンディがお祝いを兼ねて二人を誘った。

当然、フェイトも自分の友人であるなのは達を誘い、楽しいパーティが始まった。その時からカイルははやての事をからかうようになり、ヴォルケンリッターに殺されかけるようになる。

そして、執務官になった後は一緒に任務をこなし、協力を要請し合うようになり、フェイトの中ではカイルはなのはたちと同じ親友の部類になった。

それは、カイルも同じだ。

そして、一年前。

カイルはフェイトに何も知らせずに消えた。

フェイトはカイルからレリック事件のことに協力を要請され、フェイトもエリのためにも執務官としても受け入れた。しかし、密かに調べていたことがばれ、カイルが捜査官になった時からカイルが距離をとり始めたのだ。何度もフェイトは会いに行き、どうなっているのか聞くがカイルは口が封じられたかのように何も言わず、語らず。

その態度におしとやかなフェイトが怒り、最後には喧嘩まで発展した。
喧嘩といっても一方的にフェイトがしゃべるだけでカイルは終始、黙ったままだった。

最終的にはフェイトが涙を流し、その場から去り、終焉を迎えた。

それ以来、フェイトは気まずさからカイルと連絡を取らずにいると、はやてからカイルが局員をやめ、何処か行ってしまったと聞く。

はやては同じ執務官であるフェイトなら所在を知っていると思って来たらしいがフェイトはその事実に愕然とし、目の前が真っ暗になった。

それから一年。

フェイトの隣にいるカイルは以前と何処も変わっていなかった。まるで、一年前に何もなかったかのように。

それを確認するために、フェイトはカイルと二人っきりなるために看病を買って出たのだった。

「……いいじゃないか、一年前の事なんて」

待ちに待ったカイルの回答にフェイトはかちん、と来た。

「私の中じゃ、過去のことじゃないんだよ!」

フェイトは今まで溜まっていたものを吐き出す。フェイトもはやてと同様に、カイルが行方不明になったことに今まで苦しんできた。

何故、私達の前から消えたのか。

どうして、何も語ってくれなかったのか。

そして、自分が怒ったせいで局員をやめてしまったのではないかまで考えていた。

その答えを過去のものとし、なかったことにしようとしている目の前の人物にフェイトは苛立った。

カイルはフェイトの予想外の反応に驚く。次に悲しみの眼差しを浮かべた。

「……そっか、はやてだけじゃなくてフェイトまでこんなに迷惑をかけていたんだな。
すまん」

カイルが上半身を倒し謝罪した。

「か、カイル……別にそこまでしなくていいよ、ちょっと私もいきなりすぎたよね」

「いや、お前の反応は当然だ。それを気付かないでいた俺がいけなかった」

「……カイル、やっぱり変わったね」

昔のカイルならそんな事を言わなかっただろう。いつも周りに迷惑をかけて、人の気持ちなど考えていなかった。よく、エリもこんな自分勝手の人を好きになったものだと思った時期もあったフェイトであったが、かといって彼を嫌いにはなれなかった。

「そうだな……変わらざるえなかったからな。
あの事件を引き起こしたレリックを誰が送り、誰に送ろうとしてたのかを知るためにはな」

「もしかして、わかったの!?」

「いや、送り主は結局分からずじまいだったが……送り先は誰だか検討はついた」

フェイトは驚く。

管理局でもこの頃レリックを追跡する自動兵器・ガジェットの行動が活発化されてきており、無視できるほどのレベルを超えてきていた。重役も昔の事件を考え、重い腰を上げた。

優先的にレリックを回収・調査するように伝達したのだ。

それ知ったはやてはそれを中心的に行う部隊として機動六課の設立案を提出したのだ。

そして、六課が設立するまで執務にレリックとガジェットについて調査を命じられた。

だが、今現在になってもその背後の人物は誰なのか掴めないでいる。それをフリーであるカイルが目星をつけたと言っているのだ。

驚かないほうがおかしい。

「カイル……どうやって調べたの?」

普通の方法では手に入るはずがない。そう考えたフェイトの脳裏に嫌な予感が鐘を鳴らす。

カイルの目に鋭さが入り混じる。

「蛇を知るには蛇の道を……それだけだ」

カイルはそう言ってはぐらかした。

フェイトはその態度だけで尋常な手段で手に入れたと確信する。

「もしかして、カイル……犯罪を?」

「……さあ?」

「カイル!」

「……さ、こんな所で道草くってないで案内してくれ、フェイト」

カイルはフェイトから視線を外し、先に進む。

その後姿をフェイトは睨みつける。

心の中ではまたしても怒りがマグマのように燃えたぎようとしていた。それと同時に悲しみもにじみ出る。

いくらエリのためとはいえ、カイルが犯罪に手を染めるような事をした。

そんな事をしてもエリは喜ぶはずがないではないか。

あの他人に対して優しいエリが。

フェイトは思い出す。

エリと知り合って少し経った後、エリの部屋でエリがフェイトの苗字について質問をしてきたことがあった。フェイトはエリに知ってもらいたいと思い、自分自身の事を語った。

エリは真剣な顔でフェイトの話を聞き、話し終えるまで口を開かなかった。

そして、話終えるとフェイトはエリの顔色を伺った。

昔、自分はこの手で犯罪を犯し、他人に迷惑をかけたことを。

いくら知らなかったとはいえ、償わなくてはいけないと。

そして、そんな私を大事にしてくれている人にその現実を隠したくなかった。

エリは表情を変えずにフェイトへ近寄り、抱きしめた。

辛かったね、ごめんね、とエリは謝った。

フェイトが勝手に語ったことなのにエリはまるで自分が聞きだしたような受け答えをした。

弁解をしようと思ったフェイトだったが、身体を離したエリは笑顔を浮かべフェイトの頭を撫でる。

その笑顔が記憶の中にある自分の姉、アリシアと重なった。この瞬間、フェイトとエリはかけがえのない親友になった。そして、エリには幸せになってほしいとフェイトは心の中で思った。

優しくて、お人よしで、他人の気持ちを理解した上で笑顔を向けることができる少女。

そんな少女の恋人が自分のために犯罪を犯していると知ったらどう思うだろうか。
そんなことは分かっている。

悲しんでいるに違いない。

エリはカイルの幸せを願っているはずだから。フェイトははやての言葉を思い返す。

彼はあの事件の鎖に縛られているかもしれないと言っていた。

はやての言うとおりである。

だから、その鎖を断ち切らなくてはいけない。じゃないと彼に幸せはやって来ない。
エリも悲しんだまま。

では、どうすればいいか。

事件の早期解決、そしてこれからカイルに犯罪をさせないこと。

この二つだ。

そして、それが終わった後に償っていけばいい。

自分と同じように。

幸いにも彼の周りには私を含め、支えてくれる人達がたくさんいるのだから。

「おーい、フェイト。立ち止まってないで案内してくれ」

陽気に戻ったカイルがフェイトに向かって手招きをする。

フェイトは新たな決心の元、彼に近づく。

こうして、一年ぶりの再会での会話は終了した。





いやはや、何とも凄い着任式になってしまったな。
美姫 「まあ色んな名目もあるけれど、どうもお祭り体質かもね」
フェイトとも再会という形になって、いよいよ六課の始動かな。
美姫 「次回は何が待っているのかしらね」
それでは、また次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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