『HOLY CRUSADERS』





       第十幕『現神と古神』






忍の家は完全に瓦礫の山と化してしまったため、とりあえず警察に連絡して恭也の家に一時的に連れてきた。

恭也たちは警察から派遣されたリスティの事情聴取を受けている。

シルフィはロゼットと共に二階の自室にイレインを運んでそれを起動させようとしていた。

「さっきも聞いたけど本当に大丈夫?」

 ロゼットは窓枠に腰をかけて心配そうにシルフィに聞いたがシルフィはうんと返すだけでまともには取り合わなかった。

「よしっと・・・。」

 シルフィがそういってイレインから離れると、イレインがゆっくりと眼を開けた。

「プログラム起動。現状認識開始。・・・・・。現状認識終了。両名、シルフィ・H・ヒースクリフ、ロゼット・クリストファを親と認識。

プログラム初期設定終了。現状に必要な知識のインストール完了。イレイン・エーベンブルク起動します。」

 機械的な音声が途切れると共に、イレインの目に光が宿る。と、不意に立ち上がってシルフィに抱きついた。

「おとーさん!!」

 ロゼットは窓枠から外に転げ落ちた。いや、落ちかけたが、イレインのアームに腕をとられ落下寸前でその体を支えられてしまった。

「おかーさん、驚きすぎだよ。」

 イレインはいたって普通に言うがどう考えても異常としか考えられない現状である。ロゼットはイレインの姿をまじまじと見た。

その外見は全く変わらないが、幾ばくか背が高くなっているシルフィに比べて少し低い程度だから190センチは優にある。

おまけに背中からは六本のアームが出ている。とはいえ、これは出し入れ可能なのだろう。

「えっと、シルフィ。説明してくれるとありがたいんだけど。」

 いくら考えてもさっぱりな状態でロゼットはシルフィに現状の、イレインの説明を求めた。

シルフィはイレインを離して椅子に座らせると説明を始めた。

「イレインはね、完全自立型でエーディリヒ型の最終形態なんだ。

とはいえ、作りはノエルのように完全人工じゃなくてイレインの場合はかなりの部分が生態ユニットを使ってる。

つまりはサイボーグに近いんだよ。それでね、まあ、完全自立型を作るうえで最大の難所は思考回路にあったんだ。

人間の脳っていうのはそん所そこらのスパコン以上でね。ハードディスクに換算すればテラをはるかに凌ぐほどの容量があるんだよ。

結局脳を機械で再現できなかったからブレインキャプチャーを使って脳そのものをチップにしたんだ。

まあ、そこまではいいんだけど、あくまで完全自立型、人間と比べて遜色ないほどにするのが目的だったから、

脳と心臓以外の中身は全部本物なんだ。当然食事も取れるし、その気になれば子供も産めるんじゃないかな?

まあ、イレインのコンセプトが限りなく人間に近く・・・いや、人間の手で作る人間を超える人間だったからね。

それでも、腕や骨格は人工物、当時最高の技術で作られたいわばロストテクノロジーの髄を極めたものでできてる。

その強度はおそらく、デイジーカッターぐらいじゃびくともしないんじゃないかな?おまけにナノマシン登載だから病気にもならない。

ある意味本当に人を超える人だね。まあ、それでも人間なら血縁者がいるよから、だから起動者を肉親と認識するようにしてるんだ。

ま、このくらいかな。イレインについては。」

 と一通り説明を終えるとロゼットはまた質問をしてきた。

「ちょっと待ってよ。さっきまでイレイン起動してたじゃない。肉親はほかにいるんじゃない?」

 とその質問にシルフィがすぐに答える。

「簡単な話だよ。起動してなかったんだ。起動する前に悪魔に憑かれたからね。

さっきまでのイレインはイレインじゃなくて悪魔のほうだったから、起動者は俺たちなんだよ。」

 ロゼットはそれでも釈然としないような表情である。

「まあ、それはいいとして、イレイン、どうするの?」

 ロゼットの当然の意見である。ここに置くしかないのはわかっているが、それでも、いろいろとまずいのははっきりしている。

第一、いきなり皆の前でおかーさんといわれてしまうと言い訳が利かない。

「ここに置くしかないね。イレインにとっては俺たちが親なんだし。ついでだから学校にも通わせようか。同年代でも通じるだろうし。」

 さらりと答えるシルフィにロゼットは頭を抱えた。シルフィのこういう面はなれていないようだ。

と、イレインがロゼットに抱きついてきた。その身長差たるや、約20センチ。

抱きつくと言うよりも抱きつかれるといったほうがいい表現だ。しかし、ロゼットはそれを拒むことはなかった。

理由はわからないが、イレインから何かを感じ取ったのだろう。

「ん。おかーさんだ。」

 イレインはそういうとロゼットから離れて背伸びをする。そしてお腹をさすると、

「お腹減ったかも。」

 と言って二人に夕食をねだった。シルフィは椅子から立ち上がるとロゼットに手を貸して立たせて、

「そういえば、夕飯食べてなかったっけ。そろそろ事情聴取も終わってるだろうから下に行ってみようか。

あれについても、もう隠せるような雰囲気じゃないしね。」

 シルフィはそのままロゼットの手を引いて部屋を出た。イレインもそれについて部屋を出る。

ロゼットも女性としては背が高いほうだが、ならんでみるとシルフィとイレインの身長は190以上あるわけだから

ロゼットのほうが子供に見えてしまう。シルフィたちは居間に入るとそこに集まった高町家の面々と忍、

ノエルにイレインのことを説明した。一応の説明がつくとシルフィは桃子たちに席をはずしてもらうように言った。

シルフィのいままでにない真剣な表情に桃子、フィアッセ、晶、レン、なのはは席をはずした。

「ここまできて全てを隠すわけにはいかなくなったから、全部話すよ。俺たちがここに来た理由、敵の正体。あと・・・・俺の秘密。」

 シルフィのその言葉の後一時の沈黙が訪れたが、シルフィは言葉を紡ぎ始めた。

「まずはじめに。これから話すことは全部真実だと言うことを理解してもらいたい。それじゃはじめるよ。俺たちがここに来た理由。

それは今回戦った悪魔の存在が関係してくる。連中はパンデモニウムっていう存在が産み落としたいわば化物なんだ。

でも、そのパンデモニウムは80年近く前に俺たちが倒した。だから本来、こうやって現れるわけがないんだ。

でも、みんなはこれでもかって言うほど、疑いようのないほどそれを見てる。そう。

パンデモニウムを復活させようって連中が存在するんだ。俺たちはそれを止めるために日本に来た。

代行者と呼ばれる特別な人物、日下部秋姫を守るために。それが俺たちがここに来た理由。ちなみに秋姫ちゃんはこのことを知ってる。

最悪、あれに復活されれば人類は確実に絶滅するからね。だから、それを止めなきゃならない。・・・・それじゃあ、次。

敵の正体について。さっき忍ちゃんの家で会った奴は古神四大神って言ってた。おそらくあれが敵だと思ってもらっていいと思う。

あいつらはかつてこの地球上に栄えた古代文明が信奉した神なんだ。悪魔以上に信じられないことだろうけど、古代文明は存在するんだ。

と言っても証拠は残ってない。何せ栄えたのはかるか太古、約10億年以上前なんだから。でも、神って言うのは信奉されて何ぼのもの。

信じる人がいなくなれば神も消滅する。でも、何らかのことがあって連中は復活した。

しかも、現神の部類に入るパンデモニウムを復活させようとしてる。ここの関係は良く見えてこないんだけど、

なんらかの関係があると思ってくれてもいい。次は古神四大神について。こいつらは古神の中でも結構荒れた連中なんだ。

バリバリの武闘派で右翼のようなものなんだよ。ここで現神との差を指摘しておくと、

現神って言うのは今信仰されている神様のことで古神って言うのはその反対でかつて信仰されていた神様のこと。

ただそれだけなんだ。話を戻して、四大神って言うんだから四人いる。

黒炎のフランマ、蒼水のアクア、風牙のウェントゥス、極星のステラ。この四人だ。

とにかく人間の敵う相手じゃない。あいつらの前じゃ、中途半端な力はないと同じ。とにかく強い。そんな奴が敵なんだ。

最後に。俺たちの秘密について。俺とロゼットは実年齢80才を超えてる。でも、俺たちは20歳の時点で体の時間が止まってるんだ。

だからこのままでいられる。証拠を見せろと言われても困るが、それが俺たちの秘密。

・・・これから先はロゼットも知らない俺だけの秘密。さっきのフランマが言ってけど、俺はステラの息子なんだ。

古神と人間の子それが俺。シルフィ・H・ヒースクリフなんだよ。そして世界で唯一神を殺せる『神の討ち手(パニッシャー)』

と言われる存在。つまり、古神四大神を殺せるのは俺だけなんだ。これが俺の秘密。そして、これが細かいところを除けばすべてだ。」

 シルフィの話を聞いていたみんなの表情にそれを疑うものはいなかった。いや、疑う要素など、どこにもなかった。

これほどのこと、嘘で言い通せるわけがない。それぞれの思いを胸に思考をめぐらせているようだった。

「事情は飲み込めた。俺たちにも力になれることは言ってくれ。大切なものを守るためにこの御神の剣はある。」

 恭也はシルフィに自分の想いを伝えた。

「私も・・・恭ちゃんほどは強くないけど、力になります。」

 美由希も同じ想いをシルフィに伝える。

「私、高町君みたいな力はないけど、最大限の協力をするよ。」

「事はすでにあなたたちだけの問題ではありません。全力で協力させてもらいます。」

 忍とノエルも同じ想いであることを伝える。

「おとーさん、私も全力で加勢するよ。十分な戦力になる自信あるし。」

 イレインも、

「シルフィがそんな秘密持ってて話してくれなかったことにはちょっと腹が立つけどさ、やろうよ。皆で。」

 ロゼットも同じ想いであることははっきりしていた。

「ありがとう。みんな。でも、これだけは約束してくれ。これから先の戦いは本当に命のやり取りだ。

だから、絶対に死ぬな。何があっても死ぬな。全てが終わってもう一度集まって、そのときに笑いあえるように、絶対に生き残ってくれ。」

 その想いにシルフィは答え、一つの誓いを立てた。みんなが同じ想い。誰も死なない。死なせない。

この戦いが終わったときに、みんなが笑いあえるように。この世界を守るために。この日常を守るために。

今、このとき。新たな絆がそこに結ばれた。

 









「よくやったね。フランマ。これで後残すところは日下部秋姫と光の歌姫の消去だけだ。」

 郊外の廃屋。そこにステラたちの姿があった。ステラはフランマから懐中時計を受け取るとそれを自らの首にかけた。

「はん。で?それも私が行くのか?」

 フランマはぶっきらぼうに聞いたがステラは首を振って、

「ウェントゥス、アクア、やれるわね?」

 その言葉に二人の女性が姿を表す。ウェントゥスはブレスレット、ネックレスを大量につけてホットパンツに長袖のセーター

という全く合わない服の組み合わせだ。一方、アクアはどこにでもいそうな一般女性の服装をしている。

「あたりまえよ。ちゃちゃっと済ませてあげるわ。」

 アクアがそう答える。

「そうですね。このぐらいのこと、朝飯前です。」

 ウェントゥスも楽勝ムードで構えている。しかし、ステラは私の息子をバカにしてたら命を落とすわよと一言言って窓の外を見る。

「失敗だけは許されないからね。あれをよみがえらせればまた私たちの時代が来るって言うことを忘れないで。」

 ステラのその言葉にそこにいた三人がそれを肯定する。





本格的に始まった神との戦い。





それを制すのは神か人間か。





次なる戦いは今まさに始まろうとしていた。










   あとがき

前回はひどい目にあったな・・・。

(フィーネ)何言ってるのよ。フィーリアのことは認めてあげることにしたんだから文句は言わない!!

俺はあの後、書かれてはいないがお前に八つ裂きにされるわ、火あぶりにされるわで散々な目にあったんだが。

(フィーラ)その程度で済んでよかったんじゃない?最悪、再生できないぐらいにばらばらにされてもおかしくなかったと思うけど。

妹思いなのはわかるが、事情も把握できていない相手にそこまでするか?

(フィーリア)それが姉さんのいいとこでもあり、悪いとこでもあるんだよ。

とはいえ、もう二度とごめんだからな。地獄を見るのはこれきりで十分だ。

(フィーネ)浮気したら命はないと思いなさい。

わかってます。って、俺たち付き合ってることになってるの!?

(フィーラ)ところで、今回の話について。今回はついに明かされた敵の正体とシルフィたちのこと。これからどうなるの?

ちょっとまて!!話を変えるな!!

(フィーリア)うんうん。気になる気になる。

完全に無視ですか・・・。

(フィーネ)さっさと質問に答えなさい!!

次回から新章開始だな。光の歌姫編だ。

(フィーラ)と、言うことはあの人の話かな?

そうなるな。

(フィーリア)何で狙われるの?

それを言ったらネタばれだろ。ま、じっくりと考えて書くよ。

(フィーネ)じゃあ、さっさと書こうね。

はーい。

(フィーラ)それじゃあ、第十幕『歌声(ソング)』でお会いしましょ。

(フィーネ&フィーラ&フィーリア)じゃあね〜〜〜〜〜♪♪♪




ほほ〜、なるほど。
神と人の対決。果たして、その結末や如何に!?
美姫 「それは兎も角、無事だったみたいね」
無事、だったのか?
美姫 「大丈夫よ。今、ピンピンしてるのならね」
酷い奴だ。
美姫 「クスクス。次回はあの人が出るみたいだし…」
次回も楽しみに待ってます。
美姫 「じゃ〜ね〜」



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