とらいあんぐるハートSS

「IF」第五話

 

 

 

 問:香港警防隊とは?

 答:対テロ用に組織され、特化した部隊。言うなれば、悪を討つ側。もっとも、元犯罪者や某国の亡命者などが混ざっており、モラルの点では疑問がある。しかし、白兵戦能力は世界最強と言える。最近、全世界に猛威を奮ったテロリスト集団『龍』の殲滅に成功したと公式発表した。

 

 あの男から1つだけ得ることのできた情報、香港警防隊。

 恭也はその単語を産まれて初めて聞いた。故に香港警防隊に関する情報など持ち合わせていなかった。妹の美由希も同上。記憶喪失のアリサに至っては言わずもがな。インターネットなどで「香港警防隊」というキーワードを入れて調べても得れた情報は上記の2行だけの文章。

 結果、情報を得たにも拘らず、何ら状況は変わっていなかった。むしろ、ややこしくなった感さえある。

 アリサは自分の正体について果てしない疑問を感じたが、考えてもどうにもならないことを悟ると、それについて考えるのをやめてしまった。恭也と美由希はそんなんでいいのか、とは思ったが本人が本気で何も感じてなさそうなのでまぁ、なんとかなるだろうと楽観して悩むをのやめた。一応、アリサがどこか出掛けるときには出来るだけ1人で出かけないようにという通達はなされたが。

 というわけで今日、アリサが病院に通院する際に恭也が付いていくことになったのだ。美由希は図書館に新刊が入ったとかで朝から出掛けていた。

 

「特に変化なし、と…」

「はぁ」

 アリサは目の前のちっこい医者―フィリスに答えた。いつも通りの定期健診。諸々な機器を使った検査。あと問診。

 結果、変化なし。

 ちなみにアリサは香港警防隊と名乗った(正確には聞きだした)男のことをフィリスに言っていない。ドラマや小説じゃあるまいし、そのようなことを言っても信じてもらえない。そう思ったのだ。

 だって、記憶喪失で正体不明の組織に追われるなんて、三文小説でも使わなくなった安っぽい陳腐なシナリオじゃないか。

 とりあえず、診察は終了。形ばかりの礼を述べ、診察室を出る。辺りを見回して恭也を探す。すぐに見付かった。しかし―

「……恭也、何やってるの?」

「見たら判るだろう。子供達と遊んでいるんだ」

「いや、まぁ、そりゃ見たらわかるけど」

 恭也は子供にまとわりつかれていた。子供達の様相は皆パジャマだった。この病院に入院している子供たちなのだろう。しかし、恭也はまったく嫌な表情を浮かべることもなく、微笑を浮かべて子供たちと遊んでいた。アリサはじっとそれを眺めていた。

 それからもしばらく、恭也は子供たちと遊んでいたが、年かさの看護士さんが現れ、それを見た途端子供たちは逃げ散ってしまった。だが、子供たちは、逃げながら後ろを振り向き、そして恭也に手を振った。

 恭也も大きく手を振り、応えた。

 

「……アリサ、さっきから何だ」

 病院からの帰り道、アリサの興味の視線に耐えかねた恭也が口を開いた。

「んー、いや、恭也って見掛けによらず、子供好きなんだなぁー、と思って」

「ああ、そのことか」ふむ、と呟き、恭也は言った「別に子供が好きというわけじゃないんだがな」

「別に好きじゃない?」

 あれだけ楽しそうに子供と遊んでおいて?

「俺はただ――あー、いや、やはり言わないでおこう」

「何よ、気になる区切り方するわね…。あ、もしかしてロリ○ンとか?」

「待て、どこをどう発想したらその領域に辿り着く…」

「今日本ではそうゆうご時世らしいから」

「そうじゃなくてだな……」

 恭也はあー、と困惑した声をだし、やがて何かを決意したような表情を作った。

「笑わないと約束するのなら、話さんでもない」

「うんうん、笑わない笑わない。だからどうぞ」

「………………」 

「そんな疑惑に満ちた視線を向けないでよ。ちゃんと笑わないわよ」

 恭也ははぁ、とため息をついて、話を始めた。

「俺は笑っていている人が好きなんだ」

 恭也は遠いどこかを見詰めてるような目で、遥か昔に自分が小さい頃に味わった何かを噛み締めるように話した。

「笑っているということは少なくともその瞬間は幸せということだ。だから俺は――」

 彼の記憶にあるのは手に入れるはずだった、または手にいれたはずだったものの全てを永遠に無くしてしまったまだ夢に見るあの日のことだった。

 彼の記憶にあるのはまた彼とは異なる時期に異なる形で全てを失い、打ちひしがれ悲しみに暮れる自分の妹の姿だった。

「ただ、笑っていて欲しいんだ……」

 まるで宣言するかのような口調でそれを語るような恭也を見て、アリサは目の前の人物が何かは判らないが、自分の判明していない過去と同様かもしくは完全にそれ以上と言えるほどに辛く酷い体験をしているであろうことを理解した。

「そう…でも、それは好きと言うよりはどちらかというと、いつか現実になって欲しいと思う何か――夢みたいね」

「夢、か。うん、夢か。そうなのかもしれない。俺は全ての人が笑っていて欲しいと思う夢を持っているんだろうと思う」

 アリサは恭也がそう言ったことを聞いて、嘲笑の感じではない、もしも幸運にもそれを見ることができた者がいたのならば、確実に見惚れるであろう笑みを見せた。

「やっぱり笑った…」

 笑ったアリサを見て、恭也は咎めるような口調で言う。

「いやー、恭也がその見かけに反してあまりにも純粋な夢を持っているなぁ、と思ったらつい、ね」

 そう言いながらもアリサは笑みを崩そうとしない。

「まぁ、私も恭也と同じように人が聞いたら、笑うかもしれない夢があるわよ」

 恭也は少し驚きの表情を作って言った「記憶が少し戻ったのか?」

「ううん。夢と聞いて何故か自然に出てきた」

「そうか…、どんな夢なんだ?」

「平凡な人生を過ごしたい」

「平凡な人生?」

「そう。平凡な人生。何年か後に、恋人を作って結婚できたらいいとおもう。子供を二人ほど産んで、その成長の過程を微笑ましく見守って、写真を撮ったりして子供が大人になった時にそのことを語ってあげれたらいいとおもう。夕食のメニューに悩んで「お母さん、今日もまたカレー?」などと言われたらいいとおもう。自分や夫の誕生日には内緒で花束とプレゼントを用意して祝ったりできたらいいとおもう。お金持ちではないけれど、生活費と子供の教育費と玩具に困らないほどのお金はあり、2ヶ月に1回程度は贅沢ができるくらいの平凡な人生。何年か後にそのような人生を過ごすことができたらいいと心からおもう」

 それは呆れるくらいに普通で平凡で、切実な夢だった。

 アリサは自分の夢を語りながら思った。もしかしたら、私は記憶を失う遥か以前から本当にこの夢が現実になってくれるように心から祈っていたのかもしれない――

 そうでなければ、自然に出てくる説明が付かない。

「そうか」

 恭也は笑みを見せた。もちろんさっきのアリサと同じで嘲笑などという意味ではなく、微笑ましさを感じた笑みで。

「俺も極力手伝うさ」

「そう、ありがとう。ところで恭也、子供は何人欲しい?」

「……は?」

「だから、子供は何人欲しい?って」

「さっきの会話からどこをどうしたらそうなるんだ…」

「え、だって私の夢を手伝うということは私と結婚して実現に手を貸すという意味じゃ…」

「馬鹿。違う。手助けするだけで誰がそこまでするか」

「なーんだ。つまんないなー」

「そうゆうことを普通に言わないように」

「はいはい」

 

 

 

 

 

 


あとがき

えー、更新遅いです(大汗)生きててすいません。

とゆうわけでIFD話目です。1月に初めてまだ5話です…産まれてすいませんすいません。

次は極力早く続きを作ろうと思っていますので、なんとかお待ちを…(明確な月日を指定しないのはなんとも卑怯に感じますが)

ではまた次のお話で。




ほのぼの〜。
美姫 「いや、そこでぼー、とされても邪魔だから」
はいはい。さて、アリサの語った夢。
果たして、実現させる事ができるのか。
美姫 「その前に、記憶は戻るのかしら」
そして、そして、次回はどうなるの!
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
それでは。



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